
今年4月18日にデビュー以来、騎手激戦区の園田で既に5勝を挙げ、奮闘しているのが18歳の永井孝典騎手だ(6月20日現在)。幼少時から騎手が夢で、2011年にはJRAが子供を対象に行っている「ジョッキーベイビーズ」に出場経験もある。デビューまでの経緯や7月に初登場となる佐賀で行われるヤングジョッキーズシリーズへの抱負を聞いた。
騎手になるきっかけは?
小さいころから馬が好きで、騎手にあこがれてました。愛知県出身ですので、小学校時代には親に中京競馬場によく連れて行ってもらいましたし、乗馬クラブにも通って、馬に乗っていました。
ジョッキーベイビーズにも出場経験があると聞いてます。
はい、中学1年の時(2011年)に、予選を勝って、長野地区代表(愛知県は長野地区に属する)で出場しました。GIが行われる東京競馬場の芝コースで、たくさんの観衆の前で乗れたのは、すごい経験になりました。
その後は、2年間、地方競馬教養センターに入った。
JRAの競馬学校も2度受験しましたが、合格できなかったので、地方競馬でのデビューを目指しました。教養センターでは減量が厳しかったのを思い出します。
愛知県出身ですが、園田でのデビューとなりました。
教養センターに入る前、滋賀県の信楽牧場にいましたが、その時に西脇トレセンの栗林徹治先生と知り合って、お世話になる方向で話が進んでいました。その後、栗林先生が先輩の鴨宮さんを預かることになったので、栗林先生から、田村彰啓先生を紹介していただいて、所属させてもらっています。
デビューして、実際のレースに騎乗しての感想は?
まだまだ流れに乗れていないですし、無駄な動きが多いと思います。もっと馬が速く、楽に走れるように導きたいです。
師匠の田村先生からは、どんな指導を受けてますか?
行きたがる馬に乗って、抑える時に、体が起きてしまうので、そこをよく注意されます。分かっていてもなかなか難しいですが...。
好きな戦法はありますか?
騎手は馬の脚質に応じて流れに乗って、レースをするもので、騎手の好きなように乗れるものではないので、好きな戦法はありません。逃げ馬でも、追い込み馬でもその馬の個性に合わせて、力を引き出せる自在性のある騎手になりたいです。
目標とする騎手は?
下原理さんです。レースの流れを読むのが上手で、位置取りや仕掛けるタイミングなどは、レースを見て、いつも参考にしていますし、勉強になります。
勝負服(胴黒・桃のこぎり歯形、袖黒桃一本輪)のデザインを決められた経緯は?
田村先生と話し合って決めました。僕はピンクを入れたかったのと、先生はのこぎり歯形と黒を入れたいとのことでしたので、2人の意見を合わせると、このデザインになりました。
今後の目標は?
1年目で20勝して、早く減量を卒業したいです。重賞レースにも乗りたいです。
7月には佐賀でのヤングジョッキーズシリーズに初出場します。
若手騎手の集まりでも、周りはほとんど先輩騎手になりますが、JRAの騎手にも他地区の騎手にも負けないように、上位を取れるように頑張りたいです。トライアルラウンドを勝ち上がったら、ファイナルラウンドはJRAですから、JRAの競馬場で乗りたいです。
最後にオッズパーク会員に向けてメッセージを。
オッズパークの会員さんが馬券を買われるのは、当然ネット投票が中心とは思いますが、まず、ネットでレースを見られて、興味を持っていただいたら、ぜひ園田競馬場まで足を運んで、一生懸命に走っている馬や僕たち騎手の姿をライブで見ていただきたいです。
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※インタビュー / 松浦渉
長年トップジョッキーとして活躍する兵庫の田中学騎手は、2014年全国リーディングに輝いた直後、原因不明の痛みにより長期休養を余儀なくされました。無事回復して復帰を果たした今、当時のこと、そしてこれからのことをお聞きしました。
去年は192勝を挙げて全国10位。どんな1年でしたか?
前の年がケガで長く乗れなくて、去年も途中2か月くらい乗れなかったんですけど、その割には、自分で言うのもなんですけどがんばった年だったかなって思います。ものすごく長く休んだのに、そういう人間に乗せてくれる周りの方々のお陰ですよね。本当に有り難かったです。
2015年の長期休養は、どんな状態だったんですか?
何年か前のケガとは違って、原因がわからなかったんです。100メートル歩くのもやっとで、100メートル歩いて休憩して、また歩いて休憩して、という状態で。もう乗れないかもしれないと思いました。10か所くらい病院に行ったり、ハリとか整体とか、いいと聞くと行ってみたんですけど、治療後すぐだったり、帰りの車で同じ痛みが出て、「またか...」と落ち込みました。常にネットでいろいろ調べたり、何度も病院に相談に行ったり。検査を受けても全然異常がないってなって、もうどうしたらいいかわからなかったです。
相当キツかったですよね。
すっごく病みましたね。心の支えとかもなくなった感じで、とことん凹みました。本当に長かったです。最終的には、検査をした病院の先生が連絡をくれて、「異常はないけど、手術してみるか?」って言ってくれたんです。治るのは五分五分って言われたんですけど、治る可能性があるなら手術してくださいって言いました。それが良かったのかどうかは先生もわからないって言ってましたけど、結果的に復帰できて本当に良かったです。
長い間のムリが祟ったということなんですかね?
そうですね。痛みが出て悪くなるまでの間、あちこちの競馬場に呼んでもらってた時期だったんです。自分なりには乗れるうちが華、呼んでもらえたら嬉しい、がんばりたいと思って乗ってたんですけど、まさかあそこまで悪くなるとは...。ムリしすぎるのはダメですね。改めて、自分の体は大事にしなきゃいけないなと痛感しました。
実際に復帰した時はどうでしたか?
復帰できる嬉しさと、不安もありました。年齢も40を超えて、長期休んで、またもとに戻れるのかなって。実際に乗ったら今まで通りだったのでホッとしました。病院の先生にも感謝しています。親身になって治療してもらいましたから。
そして去年の5月12日、お父様である田中道夫先生の騎手時代の記録、3164勝を超えました。
僕はあんまり数字的な目標って立てないんですけど、父の記録は目標にしてたので、なんとかそこまでは乗りたいっていう気持ちでした。無事に達成した時は嬉しかったです。父のことは何ひとつ超えることができなかったので、今でも超えたとは思っていないですけど、ただ数字だけは超えることができて嬉しいですね。父も嬉しかったと思うんです。父からは、リーディング獲った時と同じで「おめでとう」と言われたくらいでしたけど、ひとつくらい親孝行できたかなと思います。
今後の目標というのは?
年齢的にもそんなに長くは続けられないので、あと1年か2年くらいという気持ちで乗っています。もちろん、その時になってみないとわからないですけど、そうなっても悔いのないよう、目の前のひとつひとつを大切に乗っていきたいです。木村(健)くんも腰で休んだりしているでしょう。お互いに、お前おらんようになったら寂しくなるなって言い合っているんですよ。俺らポンコツだなって(笑)。
お2人のいない園田は考えられません!
今そうやって、競馬場の人でも10人いたら9人がそう言ってくれるので嬉しいことです。ただ、僕たちが抜けたら抜けたで、今は下原(理)も勢いいいし、また下の子が育って来ますから。僕らがそうだったみたいに、下が出てくるんですよ。僕が言うのもなんですけど、園田は層が厚いんでね、レースも厳しいし、園田の乗り役はレベル高いと思います。どこでも突っ込んでくるし(笑)。
ゆくゆくは調教師というお考えですか?
頭には入っています。ただ、今は目の前のレースに全力投球したいですね。今までは僕が僕がっていうのが強くて、とにかく勝ちたい気持ちが強かったんですけど、今は自分がミスしなければ、おのずとこの子は走ってくれると、余裕ではないですけど、冷静に考えられるようになりました。最近は穏やかな気持ちで、怒ることもなくなったかな(笑)。
では、オッズパーク会員の皆さんにメッセージをお願いします。
今、地方競馬が上がってきているじゃないですか。それは本当にネットで買ってくれている皆さんのお陰なので、とても感謝しています。それがなかったら今どうなってるんだろうって思いますよね。売り上げがあがるとモチベーションも上がるし、がんばり甲斐があります。
少しずつ、若い子らが上を目指せる環境になってきたと思うし、僕らはまだまだ若い子たちには負けないように、切磋琢磨しながらがんばります!
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※インタビュー / 赤見千尋
今年デビュー10年目を迎えた兵庫の大柿一真騎手。昨年は54勝を挙げ、自己最高の成績を残しました。若手から中堅の域に入った今、これまでの想いを語っていただきました。
去年は54勝を挙げ、久しぶりに50勝の大台を突破しましたね。
デビュー2年目以来ですから、7年ぶりですか。ケガがあったりしてずっと低迷していたんですけど、やっといいリズムに戻って来たのかなと。一昨年44勝させてもらって、そのいい流れで去年も過ごせたことが大きいと思います。1着だけじゃなく2着や3着も増えていて、勝負になる馬にたくさん乗せていただけるようになりました。関係者の方々に感謝の気持ちでいっぱいです。
若手という印象が強い大柿騎手も今年で10年目です。ここまでを振り返っていかがですか?
先ほども言いましたけど、2年目に50勝させてもらって、4年目にはアスカリーブルで重賞を勝たせてもらって。これで波が来るかな、と思ったけれど、この世界そんなに甘くないですよね。普段からお世話になっている方々は引き続き乗せてくれましたけど、乗り馬が増えるわけでもなく、他の厩舎から声がかかるわけでもなく、淡々と過ごしてました。なんていうか...、全然噛み合わない時期もあったんですよ。ガクッと成績が落ちてしまって、まだまだキャリアを積まないと上には行けないなと思いました。
そこで思い切って、期間限定騎乗で南関東にチャレンジしようと思ったんですね。
20勝くらいで低迷していましたし、若手の枠で条件をクリアしていたので、行くなら今しかないなと。ちょうど結婚したタイミングではあったんですけど、このままじゃダメだと思って、刺激を受けるために行きたいと思いました。でも船橋に行く直前にレース中落馬して足を骨折してしまって...。4か月かかって復帰したんですけど、船橋の方から時期を替えて乗りに来ていいよと言っていただいて。それでもう一度日程を決めて、今度こそという時に調教で落馬して腰を骨折したんです。
結局、期間限定騎乗には行けなかったんですね。
そうなんです。せっかくチャンスがあったのに、本当に残念でした。僕は自厩舎(山口浩幸厩舎)メインで調教をやっているので、1日20頭以上乗るんですけど、僕が抜けることで自厩舎にも迷惑をかけるわけじゃないですか。それでも山口先生は快く「行ってこい」って言ってくれたんです。結局違う場所(病院)に行くことになりましたけど(苦笑)。それに、2度目のケガはけっこうしんどかったですね。腰の状態が良くなくて、「手術してみないとわかりません」て言われたんです。
それは騎手を続けられるかってことですか?
そうです、そうです。手術の前日に説明を受けたんですけど、人よりも骨が細くて大人用のボルトが入らないって。だから手術してみないと、その後のことはわからないって言われて。この時はさすがに凹みました。結婚して子供が生まれたばかりでしたし、騎手を辞めたくないっていう気持ちと、家族に飯食わせていけるんかっていう不安でかなり落ち込みました。
そこからどう気持ちを切り替えたんですか?
まぁ基本的にはポジティブなので、「あとは先生に任せるしかないな」と。2か月半寝たきりで過ごして、7、8か月くらいリハビリしました。ジョッキーとして戻れなかったらと思うと怖かったですけど、ちょうど子供が生まれたばかりでしたから、そばで成長が見られたことは良かったかなと思います。
辞めたいとは思わなかったですか?
それは思わなかったですね。騎手という仕事が好きですし、騎手として戻れるならって気持ちでがんばりました。ただ、復帰してからケガしたところは大丈夫だったんですけど、前と同じように乗れなくて、周りから「腰の影響だ」って言われるのがすごく悔しかったです。自分が乗れないことを勝手に周りに言い訳つけられてて。そうじゃないって言葉で言っても意味ないですから。
そこからどういい流れに繋げたんですか?
結局騎手って、一人ではどうにもならないんですよね。もちろんトレーニングしたり自分自身の努力も大事なんですけど、周りの方に支えてもらえなかったら何もできないんです。そういう周りの有難みを実感しながら、毎日淡々と過ごしていました。周りの方々から、「お前は乗れる」「いつかは上に行けるから」と言ってもらえることが本当に支えになりました。今は勝ち鞍が少なくても、10年20年我慢したらいつか自分に流れが来るって信じて、自分の乗り馬はもちろん、他の馬たちのことも研究するようになりました。
兵庫は去年下原理騎手が大ブレイクして、リーディングの順位が大きく変わりましたね。
上の3人(木村健騎手、田中学騎手、川原正一騎手)の次は理さんだろうとは思ってましたけど、あれだけ勝ち星を挙げてリーディングを獲ったので、本当にすごいなって思います。
自分もいつかは...という気持ちはありますけど、僕くらいの技術のもんに「リーディング獲ります!」って言われたくないだろうなって...。もし僕がリーディングなら思いますから(苦笑)。今はその手前を目指します! 一昨年44勝、去年54勝なので、今年はそれ以上の勝ち星を挙げたいです。
改めて、2017年の豊富をお願いします。
ここで踏ん張らないと、また低迷してた時に逆戻りしてしまうので、今年は自分でも勝負の年だと思っています。一気にバーンと勝てるようにはならないですから、少しずつ、着実に上がっていきたいです。先輩たちの層は厚いですし、後輩でも元気のいいのがたくさんいますけど、自分は一度落ちているんでね、そこから這い上がって来たというのはゆくゆくプラスになると信じています。
では、ファンの皆さんにメッセージをお願いします。
1年半くらい前からツイッターを始めたんですけど、そこで園田に来る方以外のファンの方がたくさんいるということを実感しました。遠い場所でも僕のことを知ってくれていて、馬券を買ってくれる人がいる、その事実がすごく嬉しいです。だからこそもっともっと上にいって、名前を知ってもらいたいですね。人気の馬を持ってくるのは当然なので、人気薄でも結果を出せるようがんばります!
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※インタビュー / 赤見千尋
一昨年、昨年に続き、兵庫ダービー3連覇を果たした木村健騎手。7月1日には、兵庫デビュー騎手では地方競馬での勝利数がトップの小牧太騎手に並ぶ勝ち星を挙げています(インタビューは6月下旬)。
今年で兵庫ダービー通算5勝目。2011年に初めてダービーを勝ってから、6年で5勝となりました。それにしても今年はきわどい勝利でした。
いやあ、持ってますねえ(笑)。ゴール地点では勝ったかどうかぜんぜんわからなくて、内にいた吉村騎手に「どっちや?」と聞いたら「わからないです!」って答えられたんです。雨も降っていましたからね。でも終わってみれば、クビ差もあったんですね。
ノブタイザンで兵庫ダービー制覇(写真:兵庫県競馬組合)
それにしても、6番人気馬での勝利とはびっくりしました。
レース前は勝てると思っていなかったですよ。ダービーの前のレースで初めて乗ったんですけれど、冬毛がけっこう残っていたんですよね。でもダービーのときは毛ヅヤが一気によくなっていました。ただ、その前走がね......。5頭立てで5着でしょ。レース内容も後方のままでバタバタでしたから。
それなのに大一番で変わり身を見せるとは、本人も驚いたのではないですか?
ダービーのときも、そんなに前半の行き脚はよくなかったですよ。2コーナーで馬に気合を入れようと腰を入れたらあまり反応がなくて、2周目の向正面で牝馬のナツに馬なりでまくられてしまったくらいですから。3コーナーでもそれほどギュンとは来なかったんですが、差を詰めるには外を回らざるをえなくなって、そうしたら内にササりながらも伸びましたからね。今までの競馬人生で経験したなかでは、いちばんというくらいの変身でした。
これで兵庫ダービーは3連覇となりました。
なんなんでしょうかね。オオエライジンの前はあんなに勝てなかったのに。なんかよくわからないですけど、うまいこと行っているという感じがしますよね。今年は展開がハマったおかげですけれど。
(ここで川原正一騎手から「勝つときはそんなもん」とツッコミが......)
そうですね。確かにそういうところはありますね。一昨年のインディウムは勝つ馬でしたけれど、今年のノブタイザンは何もかもがうまくいったというような。
(写真:兵庫県競馬組合)
2011年のダービー初勝利のときは、検量室に戻ってきたときに目が真っ赤になっていました。
あのときは、ホクセツサンデー(2着)のほうが強いと思っていたんですよ。オオエライジンはデビューから負けなしで来ていましたけれど、3カ月の休み明け。ホクセツサンデーは僕が乗った兵庫チャンピオンシップで2着に入っていたという、それが頭のなかにありましたから。いま考えても、あの世代は強い馬が多かったと思います。
続く2012年は、メイレディで逃げ切り勝ち。ダービー連覇となりました。
あれは我ながらミラクルだったなあと思いますね。ロケットスタートを決めて、スローペースになって押し切って。
その翌年はユメノアトサキが逃げ切って、木村騎手のモズオーロラは2着。そして2014年はトーコーガイアで圧勝しました。
あの勝利はインパクトがありましたね。2歳のときから走ると思っていた馬でしたし。そして、その翌年のインディウムも強かった。もううれしくて、メチャメチャ大きくガッツポーズをしてしまいましたからね。それにくらべると、今年は本当に運がよかったんだと思います。4コーナー手前では、5着ぐらいはあるかなという感じだったんですが、直線で手前を替えたらいきなりギュンと伸びましたから。
それも、木村騎手の馬を動かす技術があるがゆえだと思います。今年は下原騎手の勢いがすごいですが、勝率と連対率は木村騎手がトップなんですよ(6月末日時点)。
そうなんですか。でも僕は、ひとつひとつのレースを全力で乗っているだけですよ。いつも言っていることですけれど(笑)。これからも1頭1頭、がんばって乗っていきます。
しかしながら、ファンとしてはどうしても体の状態が心配になります。頼りになる木村騎手だけに......。
もう、そこは覚悟していますよ。いつ、腰がダメになってしまうかなんて、わからないですからね。すでに椎間板が減ってしまっている状態ですから。前回の休養のときはペイン治療をやりました。手術前は怖かったし、ものすごく痛かったですよ。でも、だからといって、レースに出るからには、僕らしくない騎乗は絶対にしたくないですからね。痛み止めを飲んで騎乗することもありますが、これからもずっと全力で乗り続けていきます。
木村健騎手は、このインタビューの翌週、7月6日に椎間板ヘルニアを発症して休養することになってしまいました。騎手は体が資本だけに、良い治療法と巡り会って、快方に向かうことを祈りたいもの。時間はかかっても、木村騎手が再びその豪快な騎乗を見せてくれるときを待っていたいと思います。
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※インタビュー / 浅野靖典
昨年初の兵庫リーディング2位に躍進した、下原理騎手。川原正一騎手、木村健騎手、田中学騎手の3人が厚い壁を築いていた中で、岩田康誠騎手がまだ兵庫所属だった2005年以来10年ぶりにトップ3の牙城を崩しました。今年に入ってからもその勢いはとどまらず、リーディングトップを走ります(4月25日現在)。新たな兵庫の王者となるか、現在の心境をお聞きしました。
2015年は初の兵庫リーディング第2位、そして今年はここまで1位をキープしています。かなりいい流れで来ていますね。
そうですね。去年はいつも通りにやっていたんですけど、10月11月12月と今までにないすごいペースで勝つことができました。重賞も勝てたし、これまでに比べると取りこぼしも少なかったのかなと。たくさんのいい馬たちに乗せてもらって、本当にいい経験ができました。
この躍進のキッカケはなんでしょうか?
去年は木村(健)さんと(田中)学さんが休んでいる時期があって、たくさんチャンスをもらいました。その時に結果が出せなければそのチャンスが他の人のところに行ってしまうし、2人が戻って来たらまた同じになってしまう。だからなんとかアピールして、2人が帰って来たあとにも繋げられるようにと思っていました。ある程度結果を出せて、そこでアピールできたのかなと思います。ただ、自分ではまだまだ納得はしてないですけど。
騎乗面で変わったことはありますか?
それはですね、あるんですけど言いたくないです(笑)。僕は岩田(康誠)さんのことを『兄貴』って呼んで可愛がってもらってて、騎乗面のこととかもアドバイスをしてもらってたんですけど、なんていうか、岩田さんて感覚の人じゃないですか。だから言葉で言われてもよくわからないことがあったんです。でもここに来て、その感覚がわかるようになったんですよ。僕が20年掛かってやっと掴んだものを岩田さんは10年くらいでわかっていたんだなって実感しました。去年やっとわかっかというか、ある時フッと『上手い人の乗り方はこれだったのか』って気づいて。少しだけ近づけたかなと思います。やっと気づけた僕の財産なので、言いたくないんです(笑)。
エーシンサルサ(2015年11月5日、兵庫クイーンC/兵庫県競馬組合)
ここ最近で特に印象に残っているレースはありますか?
やっぱりエーシンサルサで兵庫クイーンカップを勝てたことは自信になりました。前に行って渋太い馬だし、トップスタートだったし、今までだったら多少オーバーペースでも下げられなかったと思うんです。下げて負けたら「なんでそんな乗り方したん?」てなるし、二度と乗せてもらえないということが頭をよぎってしまって。でもあの時は中団から差し切るといういつもとは違う競馬で勝つことができました。今は、流れの中で納得できる乗り方をすればいいという心境になりましたね。強い馬たちに乗せてもらって経験させてもらったことで、レース中冷静に乗れるようになったのかなと思います。
アクロマティックとのコンビでも、新春賞、梅見月杯と連勝しましたね。
あの馬はびっくりでした。去年の11月から重賞含めて4連勝したんですけど、厩務員さんが「状態がすごく良くなった」って言ってて、その通り結果を出してくれました。あの馬はかなり気難しい面があるんですけど、4連勝の最初のレースの時、道中で馬が嫌がったので腹を括ってハミをくれたんです。そうしたら、そのあと軽く押しただけでハミを取って進んで行くじゃないですか!「この馬は人間に急かされるのが嫌なんだな」ってことがわかりました。相当力はあるので今年も楽しみなんですけど、なんせ気まぐれなもんで。あの馬の気持ちは今でもよくわからないです(苦笑)。
アクロマティック(2016年1月3日、新春賞/兵庫県競馬組合)
下原騎手といえば、長年兵庫の第4位をキープしていましたが、トップ3の壁というのは大きかったですか?
それは大きいですよ。木村(健)さん、(田中)学さん、川原(正一)さんの3人は鉄板ですからね。今でも大きな壁ですし、抜いたとは思っていないです。3人ともすごく上手だし、こんなすごい人たちと1戦1戦真剣勝負ができることは本当に有難いです。
でも去年は2位で今年はリーディングを走ってますから、成績的には抜きましたよね。
そうなんですけど、僕はまだトップになったことがないので、あんまり意識はしてないですね。だって10勝20勝差なんて、あの人たちなら簡単に覆しますから。今は順位とかよりも、目の前のレースを丁寧に乗って結果を出して、そうすれば結果は付いて来ると思っています。色んなスポーツの方の本とか読むんですけど、どんなスポーツでもトップは孤独との戦いだと思うんですよね。去年新子(雅司)先生がリーディング獲ったんですけど、あれだけ勝ってても「秋口くらいから気になって来る」って言ってて。川原さんも全国リーディングが懸かってた年、「森泰斗騎手の勝ち星が気になる」って。あれだけの人たちでもそういうプレッシャーを感じてくるわけですから、僕もどういう風になるのかなと。後半も今の精神状態で乗れるようにしたいですね。
(写真:兵庫県競馬組合)
では、今後の目標を教えて下さい。
今はすごくいい流れで来ていて、たくさんのいい馬に乗せてもらって本当に感謝しています。それに、この前オッズパークさんのパーティーに出たんですけど、ファンの方と直接お話することができてすごく励みになりましたし、厳しいことも言ってもらって、いい刺激になりました。今年の目標は2000勝を達成すること(2016年4月25日現在1910勝)と、今の精神状態で後半も上位争いをすることです。兵庫の顔になれるよう、これからも頑張ります!
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※インタビュー / 赤見千尋