今年、念願の兵庫ダービーを制覇した杉浦健太騎手(兵庫)。新型コロナウイルス感染拡大の影響により無観客開催中で、「ウイニングランをしたかった」と残念そうでしたが、それでもダービージョッキーになった実感は得られたといいます。園田競馬場では9月30日からファンの入場が再開。兵庫ダービー初制覇と、「力になる」というファンの存在についてうかがいました。
兵庫ダービーをディアタイザンで制覇、おめでとうございます!西日本ダービーは2016年にマイタイザンで制しましたが、地元のダービー制覇はこれが初めてでした。
ダービーはその競馬場の中でも特別で、園田の一番を決めるレースということで、勝ちたいと思っていました。みんなから「あれ、初めてやったっけ?マイタイザンで勝ってなかった?」って言われたのがグサグサ刺さっていました(苦笑)。マイタイザンの時は周りからも「勝てる」って言われていましたけど、全然ダメで(7着)、勝ちたい気持ちが強くなりました。ディアタイザンは、ずっとお世話になっている平野ご夫妻の所有馬で、デビューの時からずっと乗せてもらっている碇清次郎先生の管理馬だったのでダブルで嬉しかったです。ほんのちょっとですけど、恩返しはできたかなと。
ディアタイザンで兵庫ダービー制覇(写真:兵庫県競馬組合)
兵庫ダービーからチークピーシズを着用したんですよね?
何走か前から4コーナーでふわっとする面があって、前走後から調教でいろんな馬具を試しました。その中で一番雰囲気が良くなったのがチークピーシズだったんです。ステラモナークや他の逃げ・先行馬よりも絶対に内枠がほしくて、綺麗にその枠順になって「これなら!」っていう感覚はありました。スタートが決まって逃げられて、一番力を発揮できる形になりましたし、チークピーシズの効果も出て、集中力も切らさずに運べて、何もかもが上手くいっての勝利でした。
無観客開催で、ウイニングランをできなかったのが残念ですね。
無観客が一番寂しかったですね。お客さんがいたら、僕、絶対にウイニングランをしていたと思います。あの雰囲気を味わいたかったです。
兵庫ダービーを勝った実感はいつ湧きましたか?
勝って1週間くらいが一番周りから「おめでとう」とか「よかったね」って言われて実感しました。いまはそんなに「ダービージョッキー」って感覚はないですけど、1カ月くらい前にディアタイザンが休養から帰ってきて、調教でダービーのことを思い出しながら乗っていました。「あ、ダービー馬に乗っている!」って。
10月7日のB1戦は休養明けながらきっちり勝ちました。
休養明け初戦からドーンと走るというより、使いつつ良くなっていく気性なんです。レース前の能検の動きがもう一つで、上がりもバタバタだったので、そこから追い切りを2本ほどいって、だいぶガラッと変わりました。それでも状態としては7分くらいじゃないですかね。勝てたのはポテンシャルだと思います。本番は楠賞なので、いい状態にもってこられると思います。逃げられたらいいですけど、遠征馬もいてメンバーも強くなるんで、逃げにこだわらず、どんな競馬ができるか楽しみな面もあります。あ、ちなみに楠賞が行われる11月4日は僕の誕生日なんです。がんばります!
休養明け復帰戦を制したディアタイザン
園田競馬場では3月3日から始まった無観客開催ですが、ついに9月30日からはファンの入場が再開されました。初日のメインレースをユウキラフェールで勝ちましたね。
無観客開催が始まった頃は違和感というか、なんだか寂しかったですし、活気がなくなった感じがしました。それが、ユウキラフェールで勝った時は歓声も聞こえましたし、入場再開の初日だったので嬉しかったですし、乗っていても楽しかったです。あとは表彰式があればもっと良かったですね。今はお客さんに見られて競馬ができることが楽しいです。ジョッキーって、基本的に目立ちたがり屋が多いんで、見られている方がやる気も出るし、「よっしゃ!」と気合も入ると思います。
ユウキラフェールは園田オータムトロフィーでは2着でしたけど、今後の活躍が楽しみです。
素直で、レースの操縦性もすごく高くて、反応もいいし、本当にいい馬になりました。入厩当初は細くて非力な馬やなって印象やったんですけど、どんどん体重が増えてガシッとしたいい体になって、成長を感じます。「あー、この馬成長していっているな」っていう感覚度合いではベスト5に入ります。
ディアタイザンと同じ碇厩舎の馬ですね。
担当しているのも同じ大山文吉厩務員なんです。崇拝していて、ディアタイザンが兵庫ダービーを制覇した記念に制作したキャップのツバの裏側には「文」って刺繍を入れたんです。遊び心で、文吉さんの「文」って。
10月15日には兵庫若駒賞をツムタイザンで勝って、ウイニングランもできましたね。
レースに乗っていても声援があると力になりますね。ツムタイザンは折り合いも問題ないので、距離が伸びてもしっかり走ってくれると思います。まだまだ奥がありそうで、来年の兵庫ダービーを目標に頑張っていきたいです。
兵庫若駒賞を制したツムタイザンでウイニングラン
杉浦騎手ご自身は昨年85勝を挙げてキャリアハイを更新しました。
一応、クリアはしましたけど、目標は100勝なので、満足はできていません。もう4~5年、ずっと「100勝したい」と言っているのでね。いま68勝(10月7日時点)なので、頑張ってゾーンに入れて100勝目指したいですね。
プライベートでは外出できない時期も長かったと思いますが、どんな風に過ごしていましたか?
子供と公園で遊ぶくらいでした。いま2歳で、足で蹴って漕ぐ自転車に乗る練習をずっと公園でしていました。あとは最近、園田のジョッキーはゴルフにハマっていて、僕も始めました。練習が嫌いなんで、コース一本でがんばってます。そんな奴は上手くならないですけど(笑)。スコアは100ちょっとなので、レースは100勝以上を目指して、ゴルフは100切りを目指します。
最後に、オッズパーク会員のみなさんにメッセージをお願いします。
いつもありがとうございます。無観客開催の間でも売り上げが良かったのはみなさんのおかげで、本当に感謝しかないです。途切れさせることなく、ずっとレースをすることもできました。競馬場にも入れるようになったので、ネット観戦もいいですけど、ぜひ現地でも楽しんでください。これからも園田競馬をお願いします。
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※インタビュー・写真 / 大恵陽子
今年も断トツの兵庫リーディングを快走中の吉村智洋騎手。8月12日には園田競馬で、3度目の1日6勝(兵庫競馬1日最多勝タイ記録)を達成しました。
3度目の1日6勝、おめでとうございます。この記録は意識していますか?
騎乗するからには全部勝つつもりでいますが、なかなかそうもいかないので、6勝という数字は意識はしていますね。
兵庫競馬のルールでは、1日の騎乗制限は何鞍ですか?
基本的には8鞍まで、連続騎乗も8鞍までになっています。あと当日の急な乗り替わりはプラス1まで認められています。なので、全部勝つとなると基本的には8勝までいけるなと。これまで園田で1日6勝を挙げた先輩方はすごい方ばかりですし、その記録に並べたことは嬉しいですが、6まで来たら7までいきたいし、そこまで行ったら8までいきたいです。
今回は3R、4Rと勝って、8Rから4連勝で6勝を挙げました。どのあたりでいけると思いましたか?
すごくいい馬たちに乗せていただいていたので、上手いこと行けば何個かは勝てるかなと思っていましたが、気づいたらこれも勝っていたという感じで。馬も頑張ってくれましたし、展開も上手いこと向いたのが大きいです。
もともといつも勝っていますが、6勝する日は何か違うんですか?
多分ですけど、人間が勢いづいていると思いますね。勢いづいて、気持ちが上がる。他の騎手の方もそうだと思いますが、馬に乗っていて「あれ?今日は鞍はまりが良くないな」という日もあったりするんですよ。乗った感じが何かフワフワしちゃっているなという時もあって。体調とかそういうことだけではなくて、メンタルの部分もあると思うんです。それが、「今日はバチっとハマるな」という時に勢いづくと、ポンポンといける感じですね。
その勢いづいた時を見極めたいのですが、前2回がナイター、今回は薄暮での達成ということで、そこは関係ありますか?
いや、多分関係ないかな(笑)。たまたまその日にチャンスある馬ばっかりが集まって、自分のリズムも良かったんだと思います。一つ言えるとしたら、その日自分が騎乗する最初のレースで勝つと、リズムが良くなりますね。最初のレースを勝つのと負けるのとでは、気持ち的にも違うと思います。初めに勢いづいちゃうと余裕が生まれて、展開も見えるようになるというか。
確かに振り返ってみると、1日6勝を挙げた3回とも、一番最初に騎乗したレースで勝っています。
そうでしょ。おそらく僕だけじゃなくて、たくさん勝っている騎手も人間なんでね、メンタルは大きいと思いますよ。
今回は11Rで6勝目を挙げて、最終の12Rでは初の7勝目が懸かっていました。かなり意識されましたか?
意識しないといったらウソになりますね。周りからも「7勝目だな」とすごく言われましたから(苦笑)。ただ、僕がバタバタしたところでいい結果には繋がらないですから、いつも通りの平常心で挑んだつもりです。負けて悔しいですけど、7勝目を意識してのレースを経験出来たことも大きいと思っています。なかなか6勝までもいかないですから。
今後、7勝達成を期待しております!馬の話題も伺いますが、園田チャレンジカップをナリタミニスターで勝利、吉村騎手と組んで5連勝ですね。
強いですよね。大人しくておっとりした性格で、体も440~450キロくらいとそれほど大きな馬じゃないんですけど、4コーナーで間を抜けて来ましたから、根性ありますね。以前は砂を被ってしまうと進まないと聞いていて、僕が乗ったそれまでの4連勝は砂を被っていないんです。でも園田チャレンジカップの時は行く馬が揃っていたので砂を被るのを覚悟していたんですけど、思っていたよりも砂を被っても進んでくれました。
園田チャレンジカップを制したナリタミニスター(写真:兵庫県競馬組合)
この馬の武器は何でしょうか?
一番は根性があることだと思います。金沢スプリントカップの時でも、ずっと3番手外で、自分から前を追いかけて行くというタフな競馬だったんです。直線を向いて2着の馬が追い込んで来て、交わされるかなと思ったところから粘ってくれる。今までたくさんいい馬に乗せていただきましたが、その中で短距離馬で3本の指に入るくらい、高い能力を感じています。
今後の距離の可能性はいかがですか?
僕はまだ1,400mしか乗ったことないんですよ。園田は1,230mがあるけど、ちょっと忙しいかなという印象です。僕は1,400m以上、1,700mや1,800mも行けるんじゃないかと思っていますが、今は1,400mで連勝しているので、しばらくこの距離に専念していくと思います。
もう1頭、イチライジンについても伺いたいのですが、西日本ダービーはアタマ差2着と惜しいレースでしたね。
あと1完歩で変わっていましたから、あそこまで行ったらなんとか出来たじゃないかって、反省の方が大きいです。外枠はちょっと痛かったかなと思いますし、あの位置からよく2着に来てくれたなと。この馬はけっこう粗削りなところがあって、新馬の頃は内側に馬がいると外に外に逃げたりしていました。最近はだいぶ成長しましたけど、出来れば内枠の方がレースしやすいんです。でも重賞になると必ず外枠ばっかりで......。こればっかりは与えられた枠なので仕方ないですけど。
2歳時には園田ジュニアカップを制したイチライジン(写真:兵庫県競馬組合)
内枠を引いた時はチャンスが大きいですね!
乗っている方としては、競馬がしやすいですね。力のある馬なので、また重賞を獲らせてあげたいです。
では、オッズパーク会員の皆さまにメッセージをお願いします。
いつもオッズパークで馬券を買っていただき、ありがとうございます。今コロナで日本中が大変な中、僕らいつもと変わらず競馬をさせていただいていること、とても感謝しています。無観客開催が続いて、声援もヤジもないので淋しいです。また状況が許せば現地に来ていただいて、オッズパークで馬券を買って応援していただけたら嬉しいです。
(※園田競馬場では9月30日からお客様の入場を再開しました)
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※インタビュー / 赤見千尋
7年半ぶりに再開された姫路競馬場。1月15日から4週にわたる開催中、1月30日には重賞・白鷺賞が15年ぶりに行われました。勝ったのは昨年、兵庫県競馬の年度代表馬にも選ばれたタガノゴールド。「脚の使いどころが難しい」という姫路の馬場と合わせて、手綱を取った下原理騎手にお話を伺いました。
15年ぶりに実施された白鷺賞を制したのはタガノゴールド(写真:兵庫県競馬組合)
白鷺賞、優勝おめでとうございます!
ありがとうございます。僕の重賞初制覇もこのレース(1999年ユウターヒロボーイ)だったので嬉しいです。
タガノゴールドは末脚が鋭いイメージがありますが、人気を分け合ったエイシンニシパより前の2番手でレースを運びました。ちょうど枠が隣でしたが、意識していましたか?
それはもう、ライバルなんで。レース前はニシパの後ろからの競馬だろうなと思っていたんですけど、想像以上にスタートが決まったので思い切って行きました。できるだけ好位につけたいなとは思っていましたけど、まさかの先行でした。
3~4コーナーで内からエイシンニシパが進出してくると、それに応えるようにタガノゴールドも仕掛け、直線半ばで叩き合いを制して勝利しました。
溜めると弾ける馬なので、溜められるだけ溜めようと思っていました。瞬発力があるので、ニシパが行くまで辛抱しました。
白鷺賞を制して重賞7勝目としたタガノゴールド(写真:兵庫県競馬組合)
タガノゴールドは約1年半前に兵庫に移籍し、これで重賞7勝目。新子雅司調教師からは「広いコースで走らせたい」というお話も出ました。
JRAで5勝している馬ですから、どのコースでも走りそうですね。広いコースとなると、ポジションをあまり取りに行ったらいけないでしょうから、あとは相手とペースじゃないでしょうか。自分のペースに合わなかったら、ちょっとダラッとしてしまうので、そこだけ僕が気をつけて乗らないといけないなと思います。
7年半ぶりに再開した姫路競馬場の馬場は以前と比べていかがですか?
以前はそんなことなかったのですが、内ラチから2頭分までが深くて、そこは伸びないですね。開幕して1週目は逃げ馬が残りませんでしたが、3週目になってだいぶ逃げ馬も残ってきました。少し馬場が軽くなってきているんだと思いますよ。今週(1月28~30日)はあんまり後ろからだと厳しそうだったので、タガノゴールドも最低でも中団にはいないといいけないなと考えていました。
姫路競馬場での理想のレースは?と聞かれると、どんな展開ですか?
「自分のペースをつくること」でしょうね。何番手でもいいので、自分のペースを崩さずに乗れると、この馬場ではひと脚を使えます。ただ、そのひと脚をどこで使うか、なんですよ。スタートでポンッと出たからといって追っつけて行くと最後に脚がなくなってしまいます。今日、僕も逃げ切り勝ちが1つありますけど、馬なりで行ってのもの。後ろからでも早仕掛けしたら止まります。道中は楽に運んで、最後に貯蓄を残すレースをしないと、ゴール前でポッと差されてしまいます。
最後に、オッズパークの会員にメッセージをお願いします。
これを読まれている頃にはもう姫路開催が終わっているかもしれませんが、引き続き園田開催もよろしくお願いします。
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※インタビュー / 大恵陽子
数々の名実況を生んできた園田・姫路競馬の吉田勝彦アナウンサー。独特の語り口調は "吉田節"と親しまれ、2014年には『レーストラックアナウンサーとしてのキャリアーの長さ世界最長』としてギネス世界記録®にも認定されました。しかし、2020年1月9日をもってレース実況から引退されます。この道64年。「レースを喋るのではなく、語りたい」という吉田アナウンサーの思いとは。
実況歴64年の吉田アナウンサーですが、キャリアのスタートはどういったきっかけだったのですか?
僕はラジオドラマの声優になりたかったんです。局アナになろうと思ったら大学を出ていなかったらダメ。僕は大学に行っていないし、家が貧乏やったから高校3年間でさえ必死になって親に行かせてもらった。卒業して夜間の放送研究所に行って、当時はまだテレビの時代じゃなかったから、ラジオドラマやったらこんな声やけど役によっては使ってもらえるかもしれへんという気持ちがありました。昼間は空いているから、競馬の実況のアナウンサー募集があったから行きました。最初は長居競馬。園田と姫路があるように、大阪には長居競馬と春木競馬があったの。長居で10カ月いて、僕の喋りを聞いてくれた人が「あの男を兵庫県に呼べ。あの男は兵庫県の人間やから」と指名をしてくれてここへ来ました。
当時は競馬用語の解説書のようなものもなく、毎日早朝から競馬場に行って調教師や騎手の会話から競馬用語を覚えられたと伺いました。そうして厩舎関係者との絆も深めていかれたんですね。田中学騎手は「サンクリントの楠賞兵庫アラブ優駿の実況が一番印象に残っている」とおっしゃっていました。
あのレースの前にね、「学くん、今日は楽勝やなぁ」と言うたんや。そしたら「楽勝とまではいかんけども、勝てるやろうと思う。もし今日このレースで負けたら、それは神様のイタズラですよ」と僕に言うわけ。そのことを、向正面で2番手につけて、そろそろ前の馬を捕まえようかなというような状況の中で言いました。「もしこのレースで負けるようなことがあれば、それは神様のイタズラでしょう。そう言い残してこの馬に騎乗している田中学騎手、3コーナーで先頭に並んでいよいよ」っていう感じの喋りをしたんです。彼自身は何編も(何回も)家で聞き直したと言っていたね。そうやって喜んでくれたら嬉しいよね。
他にも多くの名実況がありますが、吉田さんご自身で印象に残っているレースはどれですか?
ビクトリートウザイ(※注)という馬がいました。あのビクトリートウザイが7回も重賞レースを勝って、そして最後のレースは64キロを背負って、他の馬たちと8キロ、9キロ差がありました。それまでだいたい3~4番手くらい、好位につけて差すっていうのがビクトリートウザイの戦法でした。あれを乗っていたのはいま調教師になっている保利良次騎手。64キロを背負った時、思い切った逃げに出たんよ。「ビクトリートウザイ、今日は先行策を」と言うたら、お客さんが「わ~!」と沸きました。向正面を過ぎて3コーナーに向かうところで後続馬がずーっと寄せてきて、「ビクトリートウザイ、果たしてこのまま押し切ることができるのか」と言うた時に悲鳴が上がったけど、3コーナーのカーブを曲がった所ではまだ余裕十分やったんや。4コーナーのカーブ手前のところで「ビクトリートウザイには十分余裕がありそうです。『来るなら来い!』そんな余裕を持ってビクトリートウザイ、直線に入ってきました」って言いました。そうしたら歓声が「わぁ~」って上がるんやね。悲鳴を上げさせて、歓声に変えて。その一言ひとことをお客さんは聞いてくれている。自分がレースを喋っていて、お客さんのそういう反応っていうのが大きいわね。
(※注)ビクトリートウザイ
1982年3月14日生まれ 静内産 アングロアラブ
父キタノトウザイ 母トーニチクイン
2~4歳時、通算24戦17勝(うち重賞7勝)
64キロを背負ったのは86年6月10日、ニュータウン特別(OP、園田1800m)
ファンと吉田さんの掛け合いだったんですね。
観客はその時、だいたい2万人くらい入っていました。今はもうその10分の1くらいになってしまっているから、僕ら実況を喋っていて物足りないです。やっぱりお客さんの歓声とか悲鳴を耳にしながら、目で見ながらやって喋りがいがあるけど、いまお客さんが少ないとカラオケで歌っているみたいな感じがして、なんかこう力が入らないって言うのかなぁ。それも逃げ口上かもしれないけど。
これだけ長い間、ずっと実況を続けてこられた秘訣はなんですか?
競馬のレースの実況というのは、いかに難しいか......難しいからここまで続けられたんやと思うねん、僕はね。「先頭がどれで、2番手どれで...」くらいのことやったら、喋りに心得のある者ならば、三月か半年でできる仕事です。64年間もやってきて「まだやり足りない」という気持ちがあるということは、いかに結論が出せないほど競馬の実況は難しいかということ。同じレースは2つとしてないんやからね。
何年か前に僕と同い年の北島三郎さんと話をした時に「北島さん、レースの実況、本当にもう辞めようと思う」というようなことを言いました。北島さんはそれまではニコニコ笑いながら世間話なんかをいっぱいしていたわけ。けどね、その時だけはクッと睨んで「吉田ちゃん、何言ってるの!俺だって足りねぇんだよ。だから歌ってんだよ」と、足りないっていう言葉を言われたねぇ。ホントにどんな世界であっても、「完璧にできました」という人なんかいないんだということを色んな人の話を聞いて思いましたね。僕らは住む世界が違うし、もちろんレベルも違う。けど、いま辞めるこの段階において、結局なんにもできないまんま終わってしまう無念、こういうのは本当に死にたいような気持ちやね。
いよいよ1月9日の引退の日が近づいてきました。
「あと何日経ったら、実況はできないんやなぁ」と思うのはやっぱり寂しいなという気持ちもあるけど、もう十分という感じやね。気持ちとしては、語りたいんやね、僕は。喋るんじゃなくて語りたい。子供の頃に親父と芝居を見に行って、親父は大変な吃音やったけど、義理人情を描いた芝居で掛け声をかけるのが上手かった。僕は競馬のレースの実況は芝居でいえば掛け声であったりすると思います。だけど、もうそういうことを言うチャンスもなくなるね。
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※インタビュー・写真 / 大恵陽子
地方通算3944勝(9月17日時点)を挙げ、年内には4000勝のメモリアル勝利も見えてきた田中学騎手。デビューした頃には2000勝すら想像のつかない数字だったと言いますが、「1つでも上の着順を」と試行錯誤してきたことやこだわりの返し馬など、26年間積み重ねてきたものがありました。
7月17日に地方通算3900勝を達成して、いよいよ4000勝へのカウントダウンとなりました。
ありがとうございます。
今年は菊水賞など重賞2勝を挙げるジンギやMRO金賞を制覇したテツなど楽しみな3歳馬が多いですね。
3歳馬もですし、古馬でも遠征であちこちに行かせてもらって、ありがたいですよね。遠征が続くと「大変でしょう?」って言われるんですが、僕けっこう遠征に行くのも好きなんですよ。遠征先で美味しいものを食べるとか観光を特にするわけじゃないんですが、ひとりでただボーっと過ごす時間も楽しいなぁって。
移動時は体に負担がかかりそうです。2015年下半期は原因不明の腰痛が続いて半年ほど休養されたこともありましたが、いま体のコンディションはいかがですか?
あの時は病院をいろいろ回ったけど、なかなか原因が分からなかったんですよね。今もたまに痛みが出る時もありますが、なんとか持ち堪えています。最近は調教にはあまり乗っていないですが、それでもレースで乗せてくださる関係者には感謝しています。
菊水賞(4月11日)を制したジンギ(写真:兵庫県競馬組合)
先日は高知競馬場へ西日本ダービーでテツと遠征されました。残念ながら4着でしたが、馬の状態などはいかがでしたか?
返し馬で砂がちょっと深いかな!?と感じました。4コーナーで前の2頭を交わす時に一緒に合わせて走ろうとするなど、まだ幼い面がありました。でも、逃げてしか勝ったことがなかったのが、今回は1つポジションを下げても向正面で手応えが良かったです。長い距離でもいけそうですし、思ったより力をつけています。
テツやジンギ、エイシンニシパなど橋本忠明厩舎とは名コンビですね。
橋本調教師も僕と同じく2世(父・橋本忠男さんは元調教師)。調教師になった当初から「全部マナブくんに乗ってもらうくらいのつもり」って声をかけてくれて、本当に嬉しかったです。エイシンニシパは去年の園田金盃で乗り馬が重なってしまって手放したんですが、責任だけはちゃんと果たしたいなと思って、今も調教には乗っています。すごく乗りやすい馬で、僕はただ跨っているだけです。
田中騎手の父・道夫調教師は騎手出身ですが、「人とは違うことをしないと何千勝もできない」とおっしゃっていました。
たしかに、同じ馬を同じように乗っていたって結果が出ることはないです。僕らでも新人の頃は1~2頭、同じ馬ばかりに乗っていました。その中で、別の馬が回ってきたら1つでも上の結果を残したいので、「(上手い人と)何が違うのかな?」って考えていました。
MRO金賞(7月30日・金沢)を制したテツ(写真:石川県競馬事業局)
そういうことの積み重ねが勝利につながっていくんですね。田中騎手は返し馬をじっくり丁寧にされる印象がありますが、そこに込められたポリシーは?
テン乗りだと返し馬を大事に、長めにしています。後ろから行く馬の場合は、ちょっと気を入れるようにしっかりとやりますね。そうしたらゲート離れ(スタート)からちょっと違うような気もして。馬体重が増えている時は「返し馬を強めにやりたいな」と思うこともあります。
的場(文男)騎手も返し馬を長めに乗りますよね!?的場さんなりの考えがあるんでしょう。いいものは取り入れたいと思います。
8月23日にはオッズパークプレミアムパーティーに出席されました。どんな雰囲気でしたか?
すごく豪華なホテルで、会員さんが80~90人くらい来ていたのかな。グッズ抽選会では当たった瞬間、「よっしゃぁー!」って声が会場に響き渡ったりしていました。そんなに喜んでくれたら嬉しいですよね。僕は勝負服とステッキ(鞭)とポロシャツをプレゼントしました。パーティーに呼んでいただくこと自体もですが、会員の方から「腰、大丈夫?」など声もかけてもらってありがたかったですね。
他競技の選手も出席されていましたが、どんなお話をされましたか?
競輪のトップレベルの選手やオート、ガールズケイリンの選手も来ていて、いろんな話を聞けました。オートは全然分からないので、仕組みを聞いたり、競馬で言う調整ルームが競輪ではどうなっているのかを聞きました。僕らは個室なんですが、競輪は4人部屋とかのようで、「いいねー」って言われました。
さて、いよいよ通算4000勝が見えてきました。
デビューした頃は2000勝って夢のまた夢っていうか、そんなこと自体、考えたことがなかったです。そんな中での4000という数字。上には上がいますが、4000勝は自分自身が良くやってくれたかなって思います。周りの人たちから助けていただいてばかりなんですけど、自分自身も褒めてあげたいなって。そういう気持ちが出てきてもいい数字かなって感じています。
4000勝を超えて5000勝となると、それはまた1つ上のランクかなと思います。川原(正一)さんもそうですが、すごいですよね。5000勝はいかに長く続けているかと、いかに早くから成績を残してきているかってことだと思います。騎乗できる期間(年数)は絶対的に限られていますから。的場さんなんて「すごい」って言う以前の問題で、「ものすごい」って言葉じゃ片付けられないですよね。
最後にオッズパーク会員のみなさんへメッセージをお願いします。
たくさん馬券を買ってください! それが僕らへの応援になります。迫力のあるいいレースを届けたいっていうのは当たり前のこと。公営ギャンブルが潰れるか潰れないかは売り上げにかかっています。売り上げが上がれば賞金や手当て、待遇が変わって、そうするとモチベーションも上がって魅力のある騎手も増えます。いま、地方競馬の騎手がまた少なくなってきて、園田も30人を切っています。好循環になって、たくさんの人が競馬を楽しんで、馬券を買ってくれる人口が増えればと思います。
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※インタビュー / 大恵陽子