
今冬、兵庫で初めて期間限定騎乗を行った青柳正義騎手。地元に帰ると、3月25日に開幕した金沢でリーディング2位につける好調ぶり(4月25日時点)。兵庫での期間限定騎乗でどんな変化があったのだろうか。
金沢競馬がオフシーズンになる冬はこれまで福山や笠松などで期間限定騎乗をされていましたが、今年、兵庫に行ったきっかけは何だったんですか?
昔、福山競馬に遠征した時に面識ができた高本友芳調教師(当時、福山)が今は兵庫で調教師をされていて、声を掛けていただいたのがきっかけです。園田に所属できたら高本先生のところでお世話になる予定でしたが、西脇所属でということになったので橋本忠明厩舎所属になりました。
兵庫で初めて期間限定騎乗をしましたが、金沢との違いは感じましたか?
初めは違いしか感じなかったです。金沢のコースは1周1200メートルでゆったりとしていますが、園田は1周1051メートルでコーナーが急です。1400メートル戦でテンに仕掛けていくのは一緒でも、園田は金沢ほど長いこと仕掛けずに1コーナーで息を入れることを考えます。みんな折り合いに専念して、ペースを落とすことを考えていましたね。馬場も金沢だとインが有利ですが、園田では内外の傾向が変わるので難しかったです。
レース中、騎手同士の駆け引きなども違いましたか?
金沢は騎手が20人もいないので、レース中にどういう動きをするかは10年以上乗っていればだいたい分かってきます。でも園田は騎手も多いし、1レースの馬の頭数も多いので、なかなか難しかったですね。でも、僕と同世代が多くてよかったです。プライベートでは西脇所属で同年代の中田(貴士)騎手や鴨宮(祥行)騎手、大柿(一真)騎手に良くしてもらいました。金沢ではちょうど僕の世代が空いちゃってるんですよ。
2日目に初勝利を挙げ、約1カ月半の騎乗で3勝でした。
初勝利の時はいい馬に乗せてもらっていたので、結果を出せてよかったです。初めての所なので最初は焦りや不安がありましたね。最終日に勝たせてもらったアローフロストはズブさのある馬と聞いていたので、あまり気を抜かせないように注意して乗りました。レース前に新聞を見ると、2着馬と僕の馬の2頭の時計が抜けていたので、相手は1頭かなと思っていました。レースは最後まで2着馬とビッチリ併せる形。あれを負けていたら、金沢に帰れないところでした (笑)。
金沢に帰って、今シーズンは絶好調です。開幕から1カ月で21勝。このペースを維持できれば、キャリアハイの2016年113勝(笠松での14勝を含む)を上回りそうです。園田の経験で生かせていることはありますか?
僕は逃げ・先行が多いんですが、同じ戦法でも去年より道中で息を入れることを意識して乗れています。金沢はある程度スピードを持ったまま道中流しても、ダラダラっと流れ込める競馬場なんですが、そうではなくてちゃんと息を入れて、直線でも伸びれるように、と考えています。今の成績がそれを生かせての結果だといいんですけどね。いい馬に乗せてもらっているので、なんとか...という感じです。
2016年は金沢リーディング2位であと一歩でしたから、その先も期待してしまいます。
あの年はヤマミダンスが2歳で、たくさん勝たせていただきました。プレッシャーもかかっていましたし、それによって色んな方向でいい流れになりました。あの馬に引っ張ってもらったんですよね。そんなんじゃまだまだダメで、コンスタントに勝たないといけないんですけど。逆に去年はヤマミダンスの調子が落ちた時に、僕自身もうまく持ち直せませんでした。去年は悔しい思いもしましたし、色々悩む1年でした。
金沢シンデレラカップを制したヤマミダンス(2016年10月18日)
それを乗り越えての今シーズンの好調ですね。目標を教えてください。
800勝が当面の目標です。いま677勝なんですが、兵庫で橋本先生に「早く800勝しろ」ってハッパをかけられたんですよ。800勝を挙げれば、南関東での期間限定騎乗の基準をクリアできます。そういういいプレッシャーもあって、今シーズンの好調かもしれません。
あと、いい加減リーディングも獲りたいです。毎年それなりの位置にいるんですが、抜け切れていないので。
期待している馬を教えてください。
ジュウワンローズ(牡3、中川雅之厩舎)です。まだキャリア4戦で、幼くて競馬に集中しきれない面はありますが、2連勝したように力があります。スンナリしたレースだと乗りやすいし、折り合いがつくので距離も融通が利きそうです。このインタビューが掲載される頃には重賞・北日本新聞杯の結果も出ていると思いますが、まだ胸を借りる立場。これからの成長に期待ですね。
オッズパーク会員のみなさんへメッセージをお願いします。
幸いなことに、今年開幕していい馬に乗せていただき、それなりに結果もついてきています。リーディングを獲って、来年は地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップにぜひ出場したいので、応援していただけたら嬉しいです。
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※インタビュー / 大恵陽子
金沢が熱い。昨秋のJBCの話ではない。今の話だ。金沢が誇る最強馬ナムラダイキチが11カ月の長い休養から復帰すると、6月15日には伝統の百万石賞を連覇し、秋の中央勢撃破へ名乗りをあげた。6月4日の東京ダービーではハッピースプリントで金沢のプリンス吉原寛人騎手が南関二冠目を制し、ジャパンダートダービーで三冠目を狙う。そして、忘れてはいけないのが、6月6日の東海ダービーで初めて金沢にタイトルを持ち帰った青柳正義騎手とケージーキンカメのコンビだ。地方では後続をすべて秒単位で突き放す"新怪物"の強さの理由や、ジャパンダートダービーへの意気込み、自身の今後の目標を青柳騎手に直撃した。
東海ダービー制覇おめでとうございます。レース前、自信はありましたか?
ありがとうございます。名古屋の強豪リーダーズボードが回避したので、一本被り(単勝1.4倍)で正直、緊張しました。輸送競馬は中央時代にも結果は出てませんし、金沢に来てからも初めてだったので、走ってみないと分からないと思ってました。
しかし、走ってみれば、金沢と同じような圧倒ぶりでした。
名古屋の馬はテンが速いと聞いていたので、位置取りが悪くなるかもと心配してました。でも、負けないくらいのダッシュができて、2番手につけられたので安心しました。道中も手応えがいいので、これなら大丈夫と思いました。3コーナー手前から先頭に立ちましたが、そこからも伸びましたし、輸送も関係なかったですね。
ケージーキンカメで東海ダービー制覇(写真:愛知県競馬組合)
リーダーズボードとの対戦が見たかったというファンの声が多く上がりました。
レース前は、不安もあって半信半疑でしたが、レースが終わった今なら、勝ち負けは分かりませんが、いい勝負にはなると思います。僕自身もすごく興味はありますし、あの馬と走ってみたいですね。
ケージーキンカメは中央では1秒1、3秒1、2秒5、4秒4、2秒3と5戦大差負けが続き金沢へ。でも金沢では1秒1、2秒4、1秒5、1秒0、2秒2、1秒3と6戦すべて圧勝と激変しました。
2月に金沢に来た時は先生(鈴木正也調教師)が攻め馬に乗ってましたが、テンションは高いし、乗り手の扶助には逆らうし、気性が難しかったです。3月から僕が乗り始めて、少しずつ走りに集中してきたのと、レースを覚えて素直になったのが大きいです。レースでも少々ハイペースで逃げてもバテないし、しまいもしっかり伸びる。とにかく心臓が強い。気性難が解消されて、強い心臓をフルに生かせるようになったのが、一変した理由です。乗り始めた頃は走らない馬とは思わなかったが、ここまで走るとは思わなかったので、びっくりです。本当に化けましたね。
普段はどんな馬ですか?
来た頃の気難しさがなくなって、今は基本的におとなしいですね。ただ、馬場に出るとテンションが高くなるところは今でもあります。
これまでの6戦の中で一番印象に残っているレースは?
やはり、東海ダービーです。会心のレースだったのもありますが、自分にとっては去年の北日本新聞杯に続く2度目の重賞制覇ですし、遠征での重賞制覇は初めてですから。
青柳騎手にとって遠征での初めての重賞制覇(写真:愛知県競馬組合)
次走はジャパンダートダービーと聞いてます。
前走後も何ともないし、輸送も大丈夫だったのは収穫。相手が強くなるので、胸を借りるつもりで挑戦しますが、僕の馬も、まだ底を見せていないので、どこまでやれるか、楽しみはあります。
金沢にはナムラダイキチという中央勢とも互角に戦える馬がいます。
いずれ対戦する日が来ると思いますが、名古屋での勝利でダイキチに挑戦する資格はできたと思ってます。ただ、時計だけを見たら差はないので、これからの成長も見込んで、いい勝負ができればいいですね(ケージーキンカメの5月13日の稍重1700mの勝ち時計が1分50秒0に対し、5日後18日の良馬場同距離でのナムラダイキチは1分50秒3。一杯に追われたキンカメと気合いをつけられた程度のダイキチとでは手応えが違い、単純比較はできないが、タイムはキンカメの方が速い)。
青柳騎手の勝負服はケージーキンカメの父キングカメハメハの金子オーナーと同じです。キングカメハメハ産駒にはよく似合う勝負服です。
ありがとうございます。教養センターにいる時、金子オーナーのクロフネが活躍していて印象的だったのと、僕の好きな青色が入っていたので、これを勝負服にしました。これからもキングカメハメハだけでなくクロフネやディープインパクト産駒の強い馬にも乗りたいですね(笑)。
今後の目標について教えて下さい。
昨年、ワイルドカード2位で出場したスーパージョッキーズトライアルに今年も出てみたいです。よその地区の上手な騎手と一緒に乗るのは、直線での追い方、コーナリング、仕掛けどころとか、勉強になったし、すごく刺激を受けました。今のところ、出場できるか微妙ですが(6月20日時点の金沢リーディングで2位とは4勝差の4位)まだ8月まで時間はあるので、2位までに入ってワイルドカードからでも出場したいです。あとは重賞の勝ち鞍を増やしたいです。今年はケージーキンカメがいるので、あと1つでも2つでも上乗せできればいいですね。
最後にファンの方へのメッセージを。
昨年には金沢ではJBCも行われましたし、ナムラダイキチも復活して、ケージーキンカメという未来のスター候補も出てきています。僕もケージーキンカメをもっと強くするように頑張りますし、馬も成長すると思いますので、これからも成長する姿を見に、競馬場に来てもらいたいですし、ネットでも見てもらいたいですね。
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※インタビュー / 松浦渉
7月末現在、青柳正義騎手は金沢競馬のリーディング争いでトップを維持。8月に入ってリーディングの常連、吉原寛人騎手にその座をゆずってしまったが、その地位を取り返すべく、奮闘を続けている。
浅野:今年の金沢競馬場での勝ち星が、すでに昨年(53勝)を超えました。躍進の秘密はどこにあるのでしょう?
青柳:やっぱり福山競馬場に行ったことが勉強になりましたね。金沢とはコースの形が違いますし、なにより馬群が金沢より詰まりますし。金沢は最後の直線になればある程度バラけるんですが、福山だとそうはいかないんですよ。だから、少しでもロスを減らそうと考えました。具体的には、位置取りとコーナーの回り方ですね。
浅野:福山での成績は、88戦11勝でした。
青柳:金沢競馬場は強い馬が勝ちやすいコースだと思うんですよ。でも福山はそうではなくて、力が上でもひとつミスしたら勝つのが難しくなる感じがありました。あのきついカーブでインコースをピッタリとは、なかなか回れませんよ。でも渡辺(博文)さんとか、みんなうまく回ってくるんですよね。
浅野:そこでの経験が大きな糧になって、今年の快進撃につながっているのでしょうね。
青柳:金沢での乗り方も昨年までとは違っていると思います。自分でも3~4コーナーをキッチリ回ってくるようになったと感じています。あと、福山ではロスをなくすために、誰がどこにいるのかとか、周りをよく見るように心がけたんです。それを金沢でも実践していることも、去年とは違うところです。それから、例年は金沢競馬の開幕日が久々の実戦となるんですが、今年は冬の間も競馬をしていましたから『いつもより体が動くなあ』という感覚がありました(笑)。
浅野:それ以前の冬はどういう過ごし方をしていたのですか?
青柳:岡山県の栄進牧場久世育成センターに何年かお世話になりました。そこでは2歳馬の育成が主な仕事になるんですけれど、金沢ではなかなか乗れないようなすばらしい馬がたくさんいますから、それはそれで勉強になりました。岡山ではエーシンクールディにも乗ったことがありますよ。
浅野:でもやはり、育成の現場と競馬場とでは得るものが違ったということですか。
青柳:そうですね。福山に行ったのは、金沢の調教師さんに、福山に冬の間は馬と一緒に遠征に出るから手伝ってくれないかと言われたことがきっかけでした。でも、行ったことがないところだし、福山には(教養センターでの)同期もいないし、不安がありましたね。行ってみたら、まったく問題なかったんですが。
浅野:そして、金沢での快進撃。周りの評価などはどうですか?
青柳:リーディングになっているのはたった3カ月とか4カ月程度なんですけれど、馬主さんや調教師さんにいろいろと声をかけていただきますし、明らかに昨年とは違う感じがありますね。でも個人的には、まだまだだと思っていますよ。デビューしてからしばらくは成績もよくありませんでしたし、先輩騎手などからは騎乗についてアドバイスを受けたことがありますが、"コイツはライバルにはならないな"と思われていたからこそ、教えてもらえたんだと思いますし。
浅野:確かにリーディング10位以内に入ったのは、昨年が初めてです。
青柳:デビュー当初に現役だった渡辺壮さんは、僕なんかがマネなんてできるわけがない、というレベルでした。どうやったらあんなに楽に乗れるのかと......。それでも平瀬(城久)さんとか吉原(寛人)さんとか、参考にしてきましたね。ただ、自分が吉原さんの乗り方を真似しても、しょうがないと思うんですよ。体型も違いますし。自分としては、柔らかく乗れて、いい位置につけて差す競馬ができるという点をアピールしたいですね。現在の金沢競馬場は昔と違って、内をさばいても勝てる馬場になってきましたし。
浅野:ただ、吉原騎手が成績を伸ばしてきました(取材日の7月29日時点では青柳騎手が2勝差でリード)。
青柳:なんとか、スーパージョッキーズトライアルの出場権を獲得したいと思っているんですけれど......。
浅野:第1ステージは青柳騎手の出身地(千葉県印西市)近くの船橋競馬場です。
青柳:船橋競馬場は車の窓から眺めた記憶はあるんですが、行ったことはないかも。子供のころ、父によく連れて行ってもらっていたのは中山競馬場です。その中山競馬場で叔父が馬場を作る仕事をしていて、その人に騎手という仕事を勧められました。当時は体がすごく小さかったんですよね。で、その気になって、小学4年のときに「将来は騎手になる」とクラスメートに話していたくらいです。初めて馬に乗ったのは、教養センターでの試験のときなんですけれど(笑)。
浅野:となると、地元に凱旋しての騎乗、実現させたいですね。
青柳:そうですね。それに、この仕事をしている限りは、やっぱり一番になりたいですから。
浅野:ところで、青柳さんからいい香りが漂ってくるんですが。
青柳:一応、(調整ルームの)外に出るので、香水をつけておこうかなと思って。自分の部屋にもありますし、ルームの部屋にも置いてあります。僕らは慣れているから感じないんですが、競馬場以外の人からは馬の匂いがするとか言われることが多いので。
浅野:ということは、独身?
青柳:ハイ。前は合コンとかにも行っていましたが、最近はあまり......(苦笑)。
でも今は本業を一所懸命にするべき時なのでしょう。8月18日現在の成績は第2位ということでワイルドカード(9月10日・門別競馬場)からのスタートとなりましたが、そこを乗り越えてスーパージョッキーズトライアルの舞台に立つことができるのか、注目です。
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※インタビュー / 浅野靖典