
昨年、女性騎手として初めて年間100勝超えの勝ち鞍をマークした宮下瞳騎手。10月14日には地方通算900勝も達成し、いよいよ大台の1,000勝が見えてきました。ママさんジョッキーとして2016年に39歳で復帰後、パワーアップしていく秘訣は何なのでしょうか。
女性騎手初の年間100勝達成、おめでとうございます!
ありがとうございます。私にとって夢のような数字で、達成できたのはみなさまのおかげだと感謝しています。昨年は本当に順調でした。リーディング上位の騎手たちがケガをして抜けることも多かったので、その恩恵もあったのかなと思います。
名古屋リーディングも昨年は4位。毎日たくさんのレースに騎乗されていますね。
たくさん乗せていただいた分だけ嬉しいですし、乗せていただいている以上は結果をきちんと出さないといけないので、できる限り前の人が乗っていた着順よりは前に来られるように心がけています。
年間100勝目は逃げ切り勝ちでした。3番人気ではありましたが、近2走は2桁着順の馬だったんですね。
勝てるとは思っていなかったです。元々、気が悪い子で、気分よく行けた時は走るんですけど、気分を損ねると最下位とかになっちゃうんです。なので、気持ちよく走らせることだけを考えて、「今日はスタートを出たから、気持ちよく行かせてあげようかな~」と逃げました。道中は「どこで気分を悪くして止まるかなぁ...」と思って乗っていたので、「わ!勝っちゃった」ってビックリしました。
2020年12月7日、名古屋第6レースで年間100勝達成(写真:愛知県競馬組合)
その2カ月前には地方通算900勝も達成。その時に「女性騎手の2kg減を上手く生かせられるようになった」と話していましたね。
正直、今まで結果につながっていなかったと思いますが、昨年は生かせたのかなと思います。スタートもそうなんですけど、私、先頭に立って後ろから馬が来ないのに、3コーナーからタッタタッタ自分で行っちゃうレースが多かったんです。そこをグーッとひと我慢させると、2kg減のおかげなのかは分からないですけど、最後にひと伸びしてくれる感じがありました。
通算900勝達成は2020年10月14日
宮下騎手といえば、インの立ち回りが上手な印象も強いです。
そうなんですかね?(笑)。たぶん名古屋競馬場のコースがそういう印象で、ハナに行けなかったらその後ろのインを取ってじっと我慢するのがすごく好きなんです。
名古屋競馬場は令和4年4月に弥富トレーニングセンターに移転する予定。今の競馬場でレースができるのもあと1年ちょっとになりましたね。
早いですよね。建物自体はあまりまだできていないですが、弥富トレセンの馬場のうち半周は改修工事が終わったようです。いまの競馬場の古い感じも好きだったので寂しいです。検量や下見所でお手伝いをしてくれているオバちゃんたちは近所の方たちなので「移転したら行けないからねぇ」と言っていてすごく寂しいです。昔からいる方たちばかりで、お母さんのような存在です。
一方で、家や厩舎から競馬場がグンと近くなるメリットもあります。
休める時間がちょっと増えるので、それは助かりますね。馬にとっても、輸送がダメな子とかもいるので、いいかなと思います。
プライベートでは、2人のお子さんたちもだいぶ大きくなられたのではないですか?
次男がこの春に小学校に入学します。自分たちで結構何でもやってくれて助かります。長男は弟の面倒も見てくれますし、私に「何が食べたい?」と事前に聞いてきて、「オムライスが食べたいな」って答えると、目の前のお店でそこのおばちゃんと一緒に作ってくれるんですよ。以前は「騎手になりたい」と言っていたのが、私が顔をケガしてからは言わなくなっちゃったのは寂しいですけど(苦笑)。
息子さんのその変化は少し寂しいですが、女性騎手は今年4月に川崎と兵庫で2名がデビュー予定と、どんどん増えていきますね。
後輩たちがいっぱい増えますね。今年もレディスヴィクトリーラウンドがあるからいいなって思っていたら、コロナの影響で中止になって残念です。(別府)真衣ちゃんとまた乗れる!って楽しみにしていたんですけどね。
今後の目標を教えてください。
まずは1,000勝を目指します。それから先は、のちのちは調教師になれたらいいなとは思っているんですけど、せっかく復帰して取った免許なので、1,000勝したらすぐに調教師っていう気分になるのかな?と、自分でもタイミングが分かっていません。子供達には1日でも長くカッコいいママの姿を見せられたらいいなとは思っています。
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※インタビュー・写真 / 大恵陽子
昨年、9年ぶり9回目のNARグランプリ優秀女性騎手賞を受賞した宮下瞳騎手。2011年に一度引退しながらも2016年8月、2児のママになって騎手復帰し、初の通年参戦となった昨年は重賞制覇を含む61勝を挙げた。
NARグランプリ優秀女性騎手賞の受賞、おめでとうございます!
ありがとうございます。復帰した2016年は特別賞をいただきましたが、優秀女性騎手賞は(木之前)葵ちゃんが受賞していて、ちょっと複雑というか悔しかったんです。密かに「来年こそは...!」とは思っていました。でも、まさか本当に受賞できるとは思っていなかったので、素直に嬉しかったです。
2017年は61勝で、引退前と遜色ない成績を残されています。昨年後半には「レースの勘が戻ってきた」というお話もされていましたね。
本当にいい馬に巡り会ったのと、関係者のみなさんにすごく良くしていただいたおかげです。復帰したばかりの頃に比べると、落ち着いて乗れているかなと思います。怒られることもいっぱいありますけどね。
以前と比べて気持ちの変化などはありますか?
昔は「勝たなきゃ!」ってプレッシャーと戦いながら乗っていました。「勝ちたい!勝ちたい!」ばっかりで、馬のその時の体調を考えてあげられなかったり、「なんで走らないの?」って馬のせいにしてしまったこともあったと思います。でも、復帰前に厩務員を経験させてもらって、レースに出るまでにどれだけの時間がかかって、手をかけられているかというのを実感して、馬や厩務員さんへの感謝を感じながら乗れるようになったかなと思います。今でもプレッシャーが全くないわけではないですが、厩務員をしたからこそプレッシャーも半分、楽しみながら乗れています。
梅見月杯(2018年2月16日)で重賞2勝目となったポルタディソーニ
写真:愛知県競馬組合
ポルタディソーニでは昨年9月に秋の鞍、今年2月に梅見月杯で重賞制覇を遂げられましたね。
復帰してレースに乗れただけでも幸せなのに、まさかまさかの重賞を2勝もさせていただいて感謝です。スタートと二の脚が速い馬なので、いいポジションが取りやすいですね。賢くて、小っちゃいのに根性があります。ピリピリとした元気のいい子で、先生は遠征とかはあまり考えていないみたいですが、オンオフの切り替えが早いです。今日、ちょうど厩務員さんとも「すごいね」って話していたんですけど、レースが近づくとエサの調節とかで感じるものがあるみたいなんですよ。自分で気持ちをレースに合わせていっているようで、全然違う馬になります。
レディスヴィクトリーラウンド(LVR)では最終戦まで別府真衣騎手と熱戦を演じ、惜しくも総合2位でした。
佐賀での最終戦を前に(別府)真衣ちゃんとポイントが並んでいたようなんですけど、知らなかったんですよね。知っていたら、結果が変わったかもしれないですね(笑)。最後に決められて悔しかったですが、もう一押し足りないっていう点が今の自分の課題だと思います。でも、LVRは色んな競馬場を回れるし、お客さんがたくさん来てくれるので、同じことになっちゃいますが楽しみながら乗れますね。女性騎手同士で乗るので負けたくないって気持ちが強いですし、真衣ちゃんがいると「後ろについて行って、最後に交わしてやろう」とか考えますね。
家庭との両立も大変かと思いますが、原動力は何ですか?
やっぱり子供たちですね。帰宅すると息子が「どうだった?」と聞いてくれて、「勝ったよ」って言うとすごく喜んでくれるんです。勝てなかった日でも「また明日がんばればいいじゃん」って励まされたり。嬉しいですね。長男はこの春から小学校に入学して、毎日元気に学校に行っています。小学校がすごく楽しいみたいで、安心しています。
復帰にあたり見守ってくださった師匠の竹口勝利調教師とはどんな会話を交わされていますか?
毎日、厩舎などで顔を合わせますが、「あんまり頑張りすぎるなよ」っていつも言ってくれます。先生は陰ながら応援してくれていますね。私もお父さんだと思っているし、先生も自分の娘のように可愛がってくれます。毎年父の日と、私の息子たちのおじいちゃんという意味で敬老の日にプレゼントを贈っています。
今の目標は何ですか?
数字的なものはないんですけど、ポルタディソーニといういい馬に乗せていただいてるので、また重賞で活躍できたらいいなって思います。重賞2勝もさせていただいて図々しいんですけどね。
最後にオッズパーク会員の皆様へメッセージをお願いします。
いつも応援ありがとうございます! みなさんの応援や声援がすごく力になっています。これからもがんばりますので、応援よろしくお願いします。
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※インタビュー / 大恵陽子
2011年以来、5年ぶりに勝負服姿となった宮下瞳騎手。現在は2人のお子さんの母という立場に変わりましたが、復帰後の騎乗数はとても多く、勝ち星を順調に積み重ねています。
8月17日に再デビューを果たして2か月くらい経ちました。騎手としての感覚は戻りましたか?
うーん、そう言われると微妙......かなあ。追い出してからの動きとか最後のひと押しとか、まだまだだなあと感じるところがありますね。それを埋めるという意味も含めて、ほかのジョッキーさんに乗る馬のことについていろいろと聞きますし、自分の騎乗ぶりがどうだったかとかも聞いています。気持ちとしては新人と同じですね。初心に戻ってという感じで。
調教と実戦では使う筋肉が違うと聞いたことがあります。
そうなんですよ。最近はジムで体幹トレーニングをしているんですが、そこの先生には脚力が弱いと言われました。ジムではバランスボールも使っていますし、ストレッチポールという柔らかい棒を使ったトレーニングもしていますけれど、なかなか......。復帰する前はプールでよく泳いていたんですが、最近は時間的な関係で行けていないですね。
それだけ忙しいということですよね。
鹿児島から来てくれている父のサポートがなかったら復帰できていないですよ。本当に助かっています。今は開催がないときは2時から8時くらいまで調教に乗って、そこからは主婦の時間。洗濯して買い物に行って、4時頃に保育園にお迎えに行って、ちょっと時間が取れればトレーニングですね。夜は9時には寝て、1時半に起床です。ご飯は業者さんを利用しようという話をパパ(小山信行騎手)としていたんですけれど、私がそれではちょっとダメかなと思ったので、自分で作るようにしています。自分がまた騎手になると決めた以上はしっかりやらないと。父に頼りすぎてもいけないので、自分でできることは自分でするようにしています。
騎手の姿を見た息子さんの反応はどうですか?
上の子は「勝った?」とか聞いてくれますね。勝ったよと答えると「じゃあおもちゃ買ってくれる?」とか言って(笑)。「ママ、カッコいい」とも言ってくれます。パパと接戦になって負けたときは「パパすごいね。ママはダメだったね」って言われました。下の子は2歳なんですけれど、服の色でママだとわかってくれているみたいです。
復帰するためにはいろいろと課題があったとは思いますが、条件が揃ったような感じがありますね。
本当にそうですね。ウチの子が待機児童にならなかったことがなにより。名古屋はけっこう多いんですよ。それに保育園も自宅から近くて、運がよかったなあと思いますね。今は本当に毎日が楽しいです。負ければそれは悔しいですけれど、それを含めても楽しい日々を過ごさせてもらっています。復帰してよかったなあと思いますね。
引退は韓国(釜山慶南競馬場)で短期免許の期間が終わったというきっかけがありましたが、騎手に復帰したとなると次に引退するきっかけは何になるんでしょうかね?
うーん、そこはぜんぜん想像できないですね。この仕事はケガがつきものですからそういう可能性もありますけれど、今の思いとしては1日でも長く乗っていたいなというところですね。改めて、馬に乗っていて楽しいと思えるので本当に充実しています。ただ、名古屋の開催中は子供たちと遊んであげられないので、そこは申し訳ないなあと思いますが。
そして、日本の最多勝利女性騎手としての立場もあります。
みんなが目標にしてくれているわけですけれど、今は逆にみんなの背中を見ている立場ですよ。木之前さんの勢いはすごいし、別府さんにはそろそろ追いつかれそうな感じですけれど、これからもひとつひとつ勝利を積み重ねていければいいなと思っています。
ところで、騎手免許はどんな感じで取ったんですか?
もう大変でしたよ。学科試験が普通にありましたから! 前は再免許の場合だと、免許失効から再受験までの期間が短ければ学科試験がなかったのに、私のときは制度が変わっていたらしくて......。あれがいちばんの難関でした。試験を受ける前は厩務員をして馬にも乗って、子育てをしてそれから勉強。そのころは夜中の12時半に起きていました。あのがんばった日々は、私をひと回り大きくしてくれましたね(笑)。そういうつらい思いをして取った騎手免許ですから大切にしないと。もう絶対にあんなことできませんから!
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※インタビュー・写真 / 浅野靖典