昨年12月26日に地方通算5,000勝を達成した鮫島克也騎手(佐賀)。翌日には中島記念も制覇し、2020年をいい形で締めくくりました。
中島記念をアンバラージュで逃げ切り勝ち、おめでとうございます!
ありがとうございます。アンバラージュは以前のイメージと違って、最近はスタートが速いですね。中島記念が行われる1800mは最初のコーナーまでが短いので、ダッシュ力のある馬の方が位置取りは良くなって有利です。
ということは、アンバラージュではある程度前に行こうと決めていたんですか?
はい、スタートが良ければそう考えていました。ただ、折り合いに課題があるので、無理してまでは行くつもりはありませんでした。
アンバラージュで中島記念制覇
道中の折り合いはどうでしたか?
前走と変わらないくらいで行っていたので、大丈夫かなと思っていました。3コーナーでキングプライドの手応えを見たら余裕で並んできて、あの馬は反応がいいのでちょっと焦ったところはありました。少し前に出られましたもんね。自分はキングプライドもグレイトパールにも乗ったことがあって2頭とも力があるのは分かっていたので、「どうかな?」という思いはありました。アンバラージュは追ってスッと動く馬じゃないので、そこは気を付けて乗っていました。
見事、キングプライドや2着ゲットワイルドの追撃を振り切って勝利。鮫島騎手が中島記念2勝目というのは意外でした。
中島記念だけはあんまり縁がなかったですよね。1年の最後を締めくくる重賞なので、できれば勝ちたいレースです。今年は人気していたので、勝ってホッとしたのが一番です。
12月26日第8レースで地方通算5,000勝達成
そして前日の佐賀8レースでは地方通算5,000勝を達成。おめでとうございます!
ありがとうございます。あと5勝からちょっと時間がかかってしまいました。こちらも勝ってホッとしたっていう感じでした。
口取りにはたくさんの後輩騎手も集まって、鮫島騎手の勝負服がデザインされたTシャツを着ていましたね。
あれは嬉しかったですね。みんな後輩には本当に感謝しています。Tシャツは競馬場に用意してもらっていたみたいです。
鮫島騎手が所属する真島元徳厩舎には期間限定騎乗で多くの若手騎手も来ますね。
結構刺激にはなりますね。いまは池谷匠翔と石川倭がいます。池谷はまだまだこれからたくさん勉強せんといかんでしょうけど、来た頃よりかはだいぶ乗れてきたと思います。
佐賀デビューの新人騎手たちもヤングジョッキーズシリーズファイナルラウンドに出場するなど奮闘していますね。
最近だと昨年10月にデビューした飛田(愛斗)が結構がんばっていますね。レースも仕事も一生懸命やっていて、実習の時から毎日ランニングをしたり、伸びそうですね。
トレーニングといえば、長男・良太騎手が数年前に「父はトレーニングを欠かしていなくて衰えを感じません」と話していました。現在もトレーニングを続けてらっしゃるんですか?
筋トレはそんなにしないですけど、体重がちょっと重たいのでランニングはします。サウナも入るんですけど、やっぱり走って落とした方が体にとってはいいのかなって思います。
次男の克駿騎手も昨年は重賞初制覇を果たすなど活躍しました。
うーん、まだまだですよね。一昨年の夏、アイビスサマーダッシュでライオンボスに騎乗予定だった前日に小倉で落馬して、その時は病院に見舞いには行きましたけど、そういう悔しいことはジョッキーには結構ありますからね。私もケガとか騎乗停止で悔しいことはありましたよ。
息子さんたちは「佐賀は馬場読みが難しい」と話します。父親としては「佐賀では負けないぞ」って思いもあるのではないですか?
いまは内を空けて走っていますからね。それでも日によって内が軽かったり重かったり違います。天気はだいぶ関係があって、雨もどのくらい降るかにもよります。あとはやっぱり早いレースを見て、どこを走った方が有利かなっていうのは見ています。
5,000勝を超えたいま、今年の目標や今後についてはどうお考えですか?
1年を通してケガや病気をしないで、普通に乗れるのが一番かなって思います。
最後にオッズパーク会員のみなさまへメッセージをお願いします。
これからも体力が続く限り、まだまだ今年もがんばって乗っていきたいと思うので、応援をよろしくお願いします。
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※インタビュー / 大恵陽子(写真:佐賀県競馬組合)
デビュー11年目の石川慎将騎手(佐賀)は、今年93勝(10月28日現在)を挙げ、キャリアハイだった昨年の95勝を上回る勢いです。佐賀リーディング第2位まで上がって来た心境を伺いました。
今年は初のリーディング2位に付けています。勝利数も93勝と、キャリアハイだった昨年を超えそうですね。
たくさん勝たせていただいていることはありがたいですし、周りの方々に感謝しています。ただリーディング順位に関しては、佐賀には絶対王者の(山口)勲さんがいますから、ぶっちぎって2位にいないとあんまり意味はないかなと。勲さんとの差が開き過ぎているので、自分の中では2位も3位も4位も変わらないです。
勝ち星に関しては意識されていますか?
目標は年間100勝と思ってやって来て、去年はあと少しのところで達成出来なかったので、今年こそはという想いはあります。その目標に順位がついてきたという感じですかね。
2010年のデビューから、今年11年目です。すっかり佐賀を代表するジョッキーの一人になりました。
いやいやいやいや、まだ全然ですよ。わからないことだらけですし、自分ではまだ新人だと思っています。これまで、「完璧に乗れた!」というレースがあんまりないんですよね。勝った時よりも、「よくこの馬を2着に持ってきたな」とか、負けたけど内容が良かったというレースはありますけど。でもその前には、必ず山口勲がいますから。
"ミスターほとんどパーフェクト"と呼ばれる山口勲騎手は、どんな存在ですか?
佐賀で乗っているジョッキーにとっては、みんな目標にする騎手ですし、あの人のようにならなければと思いながらレースをしていると思います。一緒に乗っていて、ペース配分、展開の読み方、位置取り、最初から最後まで上手いなと思うことが多いですね。なので、基本的には勲さんの近くにいれば、人気がない馬でも着に入ったり、勲さんの後ろにいれば道が開いていくので、そういうセコイ乗り方をする時もあります(笑)。
かなり大きな存在ですね。
勲さんと競って勝つ1勝は、自分の中では2勝の価値だと思っています。今僕は11年目になって、やっと勲さんを意識してレースが出来るようになったので、そこは成長したのかなと。もちろんまだまだ雲の上の存在ですけど、少しは近づいている感覚です。これを勲さんに聞かれたら「100年早い」と言われるかもしれませんけど(笑)。
昨年からはミスカゴシマとのコンビで重賞戦線を沸かせて来ました。この馬との出会いも大きかったんじゃないでしょうか?
大きかったですね。これが騎手としての分岐点になったなという馬で、本当にいろいろなことを教えてもらいました。
ミスカゴシマで佐賀皐月賞制覇(2020年5月3日)
デビュー2戦目からコンビを組んでいますが、どのあたりで走るなと感じましたか?
もともとはデビュー戦から乗る予定だったんですけど、自厩舎の馬がいたので2戦目からになりました。能力検査を受ける前、ゲート練習の段階でいいスピードがあったので、デビュー戦は勝てるだろうなと思っていましたが、正直最初はここまで走るとは思っていなかったです。
相当走ると確信したのはいつ頃ですか?
小倉に遠征に行った時(8月10日フェニックス賞)くらいには、同世代の佐賀では一番強いだろうなと思っていました。金沢シンデレラカップでもいいレースをしてくれて、自分の仕掛けがちょっと早かったので2着に負けてしまいましたが、佐賀からの遠征馬で舐められていたところもあったと思うので、いいところを見せられたのは良かったです。
常に人気を背負った中でのレースというのは、プレッシャーも大きかったですか?
プレッシャーはそんなになかったですね。ミスカゴシマが一番強いという意識で乗っていたので、あとは自分がしっかり乗りさえすれば勝てると思っていました。
以前は逃げ馬でしたから、佐賀3歳三冠に差し掛かった頃には、かなりマークがキツかったですよね。
相当キツかったですね。でも僕としては、それが嬉しくて。そういう風に重賞でマークされる馬になかなか巡り合えないですから。マークされる存在になったんだって、緊張よりも面白さの方が大きかったです。とてもいい経験をさせてもらいました。
九州ダービー栄城賞では1番人気3着でした。
2000メートルは少し長いという意識もあって、みんなが目標にして来るのなら、前に行きたい馬は行かせようと。自分の中で、相手は前に行く馬たちではなく、後ろだと思っていたので、腹を括って逃げない競馬を選択しました。逃げていたらどうだったかというのは見たかったお客さんもいたと思いますが、自分自身で考えてやったことなので、悔しいですけど仕方ないなと。ダービーが終わってからいろいろ考えて、ずっと前に行く競馬だけでは勝てないですから、控える競馬も試していこうと、初めての古馬オープンだった大分川特別で控える競馬をしました。今まで砂を被ったことがほとんどなかったので最初の1~2コーナーはけっこう嫌がっていたんですけど、その後はしっかりハミを取っていたので、慣れればオープンでも通用するなと思いました。まさか(古馬オープン)2戦目の吉野ヶ里記念で勝てるとは思ってなかったですけど、改めて強いなと感じましたね。
ミスカゴシマは古馬相手に吉野ヶ里記念も制覇(2020年7月19日)
西日本ダービーでは山口勲騎手が騎乗して8着でした。レースをご覧になっていかがでしたか?
勲さんが乗るミスカゴシマを見られたというのは、また一ついい経験になりました。勲さんはこういうレースをするんだとか、自分に戻って来たらこういう乗り方をしたいなとかいろいろ考えましたし、たとえ戻って来なくても、他の人がどう乗るかというのはすごく気になりますね。僕は基本的に緊張しないんですけど、自分が乗った時より見ている方が緊張しました。ミスカゴシマはいろいろなことを教えてくれて、いろいろな想いを感じさせてくれて、騎手として大きな財産だと思っています。
佐賀は10月3日からほとめきナイターが始まりました。ナイターでの騎乗はどうですか?
薄暮開催で暗くなってからのレースもやっていましたし、門別でもナイターに乗せてもらっていたので、特に違和感はないですね。お客さんも入り出して、競馬場が華やかになった気はしています。
今年の夏時期に3年ぶりに走路の砂を全面入れ替えしたそうですが、現在の馬場状態はいかがですか?
良馬場だと若干時計は掛かっているかなと思いますが、雨が降ると一瞬で速くなるので、本当に判断が難しいですね。これは今の佐賀の面白さの一つでもあると思うんですけど、ジョッキーでもその日の馬場傾向がわからないという。
我々馬券を買う側は、どう判断したらいいでしょうか?
僕らも乗ってみないとわからないので、最初の2レースか3レースくらいでみんな試行錯誤しています。基本的には先行有利、内を開ける、という2つのポイントは変わらないですけど、日によってどのくらい内を開るかというのは悩みどころですね。あと30センチ内に行ったら重いかなとか、もう少し外がいいかなとか、人によって全然違うので、乗っていても「この人ずいぶん内行くな」とか、「そんなに外行くの?」とか。前半の傾向を掴んで後半に活かすので、ファンの皆さんもぜひ前半の傾向を見ていただけたらと思います。
では、オッズパーク会員の皆さんにメッセージをお願いします。
佐賀もナイターが始まって、遅くまで楽しめるようになりました。最近は若手の騎手もすごく頑張っていて、みんな「打倒!山口勲」を目標に戦っています。レースでもそういう部分が見えると面白いですから、絶対的な存在の織田信長を倒しに行くような感じで頑張ります!
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:佐賀県競馬組合)
8月10日の佐賀第7レースで、地方競馬通算1,000勝を達成した佐賀の手島勝利調教師。1996年の初出走から25年目。これまでを振り返っていただきました。
1,000勝達成おめでとうございます!
ありがとうございます。まずはホッとしましたね。直前にちょっと足踏みしてしまって、もう少し簡単にトントンと行けるかと思ったんですけど。
この数字は意識していましたか?
専門紙にあと何勝と書かれていたので、早く達成したいなとは思っていました。
1996年4月の初出走から25年、ここまで長かったですか? それともあっという間でしたか?
長いといえば長かったなとも思いますが、最初の頃からいい馬に巡り合えたので、ずっといい流れで来られたと思います。頑張ってくれた馬たち、預けてくれたオーナーや、厩務員、ジョッキーのお陰です。
思い出の馬はたくさんいると思いますが、その中で1頭あげるとしたらどの馬ですか?
自分にとっては全馬大事な馬たちですけど、1頭あげるとしたら、グレードレースを勝たせてくれたエスワンスペクターですね。乗り心地も良かったですし、レースに行ってのスピードが全然違いました。ちょっとガンコなところもありましたけど、扱いやすい馬でしたね。
デビュー2連勝から、門別のエーデルワイス賞(2003年)を勝った馬ですね。
今考えると、よく2戦2勝の馬を北海道まで連れて行ったなと。今なら行かないですよね。あの時はJRAの馬たちもいましたし、2戦2勝とはいえ佐賀からの遠征でしたから、まったく人気もなかったんです。でもスタートして2番手につけると、いい手ごたえで進んでいましたから、4コーナーから直線にかけてずっと叫んでいました。勝った時は本当に嬉しかったです。引退後には繁殖になれましたし、子供のエスワンプリンスでも夢を見させてもらって。今でも北海道に行った時には毎回顔を見に行っています。
先生のことを覚えていますか?
最初の頃はイヤがっていました(苦笑)。競馬場にいた時は、お世話をしてくれる厩務員さんにはなついていましたけど、自分は攻め馬をしていましたから、威嚇してきたりして。でもお母さんになって何年かしてからは、じっとして顔を撫でさせてくれるようになりましたね。今はもうすっかりお母さんの顔になりました。
子供のエスワンプリンスは、九州ダービー栄城賞(2012年)を勝ち、佐賀で数々の重賞を勝ちましたし、笠松グランプリ(2013年)や園田FCスプリント(2014年)を制すなど、全国的に活躍しましたね。
スペクターの子供をやらせてもらえるということがありがたかったですし、その上すごく走ってくれて。この親子には本当に感謝しています。僕にとって特別な存在ですね。それに、佐賀デビューで最後まで佐賀で走らせてくれたオーナーにもとても感謝しています。こういうクラスの馬は南関東やJRAに行ってもおかしくないですし、当時はあまり賞金がいい時代じゃなかったですから。
2015年吉野ヶ里記念を制したエスワンプリンス
エスワンプリンスといえば、馬体重が計れないという印象が強かったのですが、気性的に難しかったですか?
ちょっと難しい面もありましたが、ファンの方が思われているほど悪くはないんですよ。ただ佐賀の体重計には絶対に乗らなくて。初戦は乗ったんですけど、2戦目からはものすごく嫌がるようになりました。あまり興奮させてもレースに影響がありますから、計らないで済ませたら、それを覚えてしまって。でも遠征に行くと見慣れない場所で、他の遠征馬と一緒に装鞍所に行くでしょう? それで前の馬にくっついて歩いていると、いつの間にか体重計に乗っているという感じで、遠征の時だけは計れたんです。ファンの方からは「なんで佐賀の時だけ計れないんだ」という声もいただき、大変申し訳ないと思っていましたが、「佐賀では体重計に乗らなくていい」と覚えてしまったもので......本当に頭のいい馬でしたね。
現在の活躍馬といえば、昨年の中島記念を勝ったウノピアットブリオの印象が強いです。
一気に化けたというか、とんとん拍子に出世して、まさかグレイトパールを負かして中島記念を勝ってしまうとは......。もちろんレース前から勝ちたい気持ちは強かったですけど、さすがにグレイトパールは強いよなと思っていましたから、正直びっくりしました。
2019年の中島記念を制したウノピアットブリオ
ウノピアットブリオは2018年の春に転厩して来ましたが、当時は裂蹄に悩まされたそうですね。
そうなんです。4肢あるうちの3肢が裂蹄でしたから、思い切って長期休養しました。それが功を奏して、復帰してからは蹄に問題はありません。
今年の春には山口勲騎手が怪我をした時期があり、その時2戦は岩永千明騎手がコンビを組みました。2戦ともに重賞ではありませんでしたが、大きな注目を集めましたね。
オーナーとは以前から、(山口)勲が乗れない時には千明ちゃんに乗ってもらおうという話をしていました。というのも、千明ちゃんが大怪我をしたのはうちの厩舎の馬で、ウノピアットブリオと同じオーナーの馬だったんです。あれだけの怪我をして休んでいましたから、僕としてもとても責任を感じていました。だから千明ちゃんが復帰してくれて、本当に嬉しかったです。
コンビ初戦となった高千穂峰特別では、かなりの後方から一気に差し切りました。これまでとはまた違ったレースぶりでしたね。
「気楽に乗って来て」と言いましたが、メンバー的には絶対に負けないだろうと思っていました。でも勝負所でも相当後ろだったので、これはさすがに負けたな......と思ったんですが、そこからの脚がすごかったですよね。勲が乗る時には前々から抜け出すという競馬でしたが、後ろから差すという新しい面を引き出してくれました。
岩永千明騎手で高千穂峰特別(2020年5月10日)を制したウノピアットブリオ
ウノピアットブリオは7月5日の佐賀王冠賞以来休養していますが、今後の予定は決まっていますか?
去年の夏から連戦連勝で来て、中島記念で強い競馬をしてくれて、その後体調が下降線だったので、今は牧場で休んでいます。もう少し涼しくなったら帰ってくる予定でいます。中島記念を目指しますが、馬の状態が第一なので年明けになるかもしれません。
10月3日から、いよいよ『ほとめきナイター』が始まります!オッズパーク会員の皆さまにメッセージをお願いします。
いつも応援していただき、ありがとうございます。今も薄暮で後半の1、2レースは暗い時間にやっていますが、いよいよナイターが始まるということで、もっとファンの方が楽しみやすい時間になればと思います。一日の締め括りの楽しみとして、佐賀競馬も楽しんでいただければ嬉しいです。
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:佐賀県競馬組合)
今年4月に川崎競馬場でデビューした池谷匠翔(たくと)騎手は、6月6日から佐賀競馬場で期間限定騎乗をスタート。初勝利の喜びや、今後の目標を語っていただきました。
初勝利おめでとうございます。1番人気馬(6月13日佐賀11レース、エーティーキンセイに騎乗)での初勝利でしたが、プレッシャーも大きかったんじゃないですか?
ありがとうございます。かなり緊張しましたね。実は自分が初勝利する前日に、同期の古岡(勇樹騎手)が川崎で初勝利したんです。そのレースを見ていて、「これは自分も勝たないとまずいな」と。しかもエーティーキンセイは強い馬で、周りの方々からも「ここで初勝利だな」とう感じで言われていたので、相当緊張しました。特にパドックとゲート裏、ゲートの中に入った時までめちゃくちゃ緊張したんですけど、ゲートを切ったらレースに集中することが出来ました。
直線では追いながらビジョンを見ていましたよね? 初勝利のわりにすごく冷静だなと思いました。
いえいえ、あれは後ろから他の馬の脚音が聞こえなくて、ちょっと不安になってしまって......。それでチラッとビジョンを見たんです。そうしたら後ろとはかなり離れていたので、これはもう初勝利出来たなと。ただ先頭でゴールをした瞬間はあんまり現実感がなくて、検量前に戻って来て1着の枠場に入った時に「勝ったんだな」って。乗せてくれた関係者の皆さんと、頑張ってくれた馬に感謝しています。
エーティーキンセイに騎乗して初勝利(2020年6月13日)
周りの方々の反応はいかがでしたか?
皆さんから「おめでとう」って言っていただいて、すごく嬉しかったです。レース前に真島(元徳)先生から「スタートを出たらすぐにステッキ打って前につけて、あとは3コーナー辺りから何も考えず全力で追ってこい」と言われていて、その通りに乗れたことも嬉しかったですね。
さらに、すぐ次の日には8番人気の馬で勝利(6月14日佐賀11レース、ヒューズラインに騎乗)。初勝利までは少し時間が掛かりましたが、そこからは早々に2勝目を挙げましたね。
この時は向正面くらいから手ごたえが良くて、もしかしたらいけるんじゃないかと思いました。真島先生からは「あまりゲートが速くないから、出たなりの判断で」と言われていて、思っていたよりもゲートが速かったので、積極的に行って番手につけました。先生からも「自分で考えて乗ったな」と言っていただけて嬉しかったですし、今のところ一番会心のレースですね。
8番人気ヒューズラインで2勝目をマーク(2020年6月14日)
前日の初勝利が自信になったのでは?
そうですね。もし前日勝ってなかったら、2勝目はなかったかもしれません。初勝利するまでは焦って追い出しが早くなったり、馬にも僕の緊張感が伝わってしまったり......。なかなか上手く行かなかったんですけど、ひとつ勝ったことはすごく大きくて、少しは落ち着いて乗れるようになったかなと思いますね。今もまだまだですが、川崎でデビューしたての頃は、レースの流れに乗るだけで精一杯で、周りにいる先輩方に迷惑ばかり掛けてしまいました。技術的な面はもちろん、気持ちの面でもかなり落ち込むことが多くて。
どんな時に落ち込んだんですか?
一番は初めて1番人気の馬に乗せてもらった時(4月22日浦和5レース、ゴールドサミットに騎乗して10着)です。せっかくいい馬に乗せていただいたのに全然結果が出せなくて、すごく落ち込みました。その日はとことん落ち込んで、次の日に馬に乗ったら自然と前向きになれたんですけど、やっぱり勝てない時期が続くとキツイですよね。実際にデビューしてみて、想像していたことと全然違ったというか、もちろん厳しい世界だとはわかっていましたが、ひとつ勝つことの難しさを痛感しました。だからこそ、改めて先輩方のすごさを感じています。もともとすごいとは思っていましたけど、森泰斗騎手とかあんなに勝っているところを見ると、デビュー前よりもよりすごさを感じるようになりました。
デビューしてから約2か月で所属の川崎を離れて、佐賀で期間限定騎乗することに迷いはなかったですか?
それはまったくなかったです。大井の真島大輔さんから、「たくさんレースに乗せてもらえるから、佐賀で修行してみないか?」って言われて、すぐに「ぜひお願いします!」と答えました。所属の内田勝義先生も快く送り出してくれたので、佐賀にいる間にたくさん吸収したいです。
実際に佐賀で騎乗していみて、戸惑いなどは感じましたか?
最初はありました。そもそも右回りの経験が教養センター以来で、競馬では初めてでしたし、さらに内側を大きく開けるというのも難しかったです。今は毎朝1時過ぎくらいから17~18頭の調教をしていますし、レースもたくさん乗せていただいて、とてもいい経験をさせていただいています。
佐賀に来て約1か月で5勝(2020年7月6日現在)を挙げました。今回の期間限定騎乗は9月30日までの予定です。この間の目標は?
佐賀では20勝するのが目標です。ここで経験出来るだけのことをして、今後に繋げていきたいです。たくさん乗せていただいて、少しだけ下半身の筋肉がついたかなと思いますし、レース中ちょっと気持ちに余裕が出来て、少しは周りが見えるようになったかなと。
ここ数年、佐賀で期間限定騎乗する若手騎手が増えました。佐賀はどんな雰囲気ですか?
皆さんが「育てよう」という感じで、どのジョッキーというわけではなくて、先輩ジョッキーの皆さんがアドバイスしてくれます。毎回レースが終わった後に「ここもうちょっと行った方が良かったんじゃないか」とか、細かく教えてくれるのがありがたいですね。所属の真島先生は厳しいですが、たくさんレースに乗せてくれて、上手くなるようアドバイスもしてくれますし、周りの方々には本当に感謝しています。
初勝利の記念撮影
池谷騎手のお父さんは元体操選手でタレントの池谷直樹さんということで、デビュー前から注目度が高かったですが、ご自身では感じますか?
そうですね。そういう空気は子供の頃からちょっと感じていました。でも前からなのであんまり気にならないですね。父にはかなり熱く応援してもらっていて(笑)、初勝利した時には連絡をくれました。「せっかくこういういい機会を与えてもらっているので、少しでも成長して帰って来なさい」と言われているので、今はとにかく少しでも上手くなれるよう頑張ります。
では、オッズパーク会員の皆さんにメッセージをお願いします。
初勝利までは落ち込むことも多かったのですが、今は馬に乗ることがとても楽しいです。新人らしく一鞍一鞍大切に乗ってくるので、応援よろしくお願いします!
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:佐賀県競馬組合)
レディスヴィクトリーラウンド(LVR)2020で総合優勝を果たした岩永千明騎手。昨年6月、3年3カ月に及ぶ療養から復帰しましたが、「LVRは私が『復帰したい』と思うきっかけをくれたレース」だったといいます。人生の転機にもなったLVRに初参戦での総合優勝は、このシリーズに懸ける気持ちの強さを見せました。しかし、開幕戦の高知ラウンドでは「以前のように乗れない......」と悔しさを味わっていたとか。改めてLVR2020を振り返っていただきました。
3月12日に幕を閉じたLVR2020での総合優勝おめでとうございます!優勝から少し時間が経ちましたが、改めて今のお気持ちを聞かせてください。
「まさか!」という思いです。復帰する時は「レディスに出たい」っていうのが目標でしたが、参加できるかどうかも分からなかったのに参加できて、それで優勝だなんて、「こんなことあっていいんだろうか」って思いました。
総合優勝を決めた後、佐賀への帰路はどんなふうに過ごされたんですか?
調教師の先生に優勝の報告をしたり、親からも「おめでとう」と連絡を受けました。親は復帰することに反対していたので、そうして喜んでくれたことが一番嬉しかったです。復帰後はいつもレースを見て応援してくれています。でも、電話するといつも最後に「怪我しないようにね」って言われるので、申し訳ないなって気持ちはどうしてもあります。
LVRでは開幕に先立って帯広競馬場でばんえいエキシビションがありました。初めてのばんえいはいかがでしたか?
ばん馬は可愛かったです。でも、この大きな馬が暴れたら厩務員さんはどう扱っているのかな?って興味がありました。ばんえいは初めてのことで、同じ手綱なんでしょうけど、どうしていいやら。他の騎手は慣れたように操作されていたんですけど、私はレースの時は跨っているだけでした。いい経験でした。
翌月に開幕した高知ラウンドでは5着、6着。「思うように乗れず、悔しい」と話していましたね。
強い馬に乗せてもらったんですけど、うーん......上手く乗れなかったっていう反省がすごくありました。「復帰したけど、やっぱりダメだなぁ」って高知では感じました。
LVRに対する思いが強いだけに、悔しさも大きかったんでしょうね。しかし、続く佐賀ラウンドでは1戦目で見事、勝利を挙げました。
そういった思いがあったから、泣いちゃいました。今回のLVRはすべてにおいて感動して、ホント涙のシリーズでした。ここまで回復できてよかったっていうのもあったし、女性騎手とこうやってレースができているっていう嬉しさや、高知も名古屋も行ったことがある競馬場だったので、「また来られた」っていう感動もありました。
地元佐賀の第1戦で勝利(写真:佐賀県競馬組合)
最終ラウンドとなった名古屋では1戦目2着、2戦目を4着でまとめて総合優勝を決めました。2戦目は4コーナーを内ラチぴったりに回ってきたので、ポイントを意識して少しでも上位を狙っているのかなと感じました。
それまでに乗っていた名古屋の騎手から聞いた馬の特徴や、調教師の指示に従ってこの馬に合ったレースをしようと思っていて、ポイントは全然考えていませんでした。とにかく失敗しないようにという気持ちの方が大きくて、優勝したのかどうかも分からない状態でした。優勝はできましたけど、シリーズ6戦で1勝。悔しいレースばかりで、自分でもですし、お客さんにも納得してもらえるレースがしたいなって思いました。
今回は初めて、デビュー1年目の濱尚美騎手(高知)、関本玲花騎手(岩手)、中島良美騎手(浦和)と一緒にレースに乗りました。
これまで参加していたレディースとはちょっと雰囲気が違うなって感じました。荒尾のレディースの時(2004~06年、全日本レディース招待)は先輩たちばかりで、どう接していいのか分からないっていう不安がありましたけど、今回は新人の子もすごく元気な子ばかりで圧倒されちゃいました(笑)。高知ではみんなとご飯やカラオケに行って仲良くなりました。
フランスから短期免許を取得し来日中だったミカエル・ミシェル騎手(川崎)の参戦も話題を集めましたね。
フレンドリーで接しやすかったです。でも負けず嫌いで、勝負に対しては強いところがあるなって感じました。まだ若いのに外国でこうして活躍しているだけあって、精神的に強いんだろなって思います。追い方にも力強さがあって、私もちょっと見習わなくちゃと感じました。
ところで、佐賀ラウンドでの紹介式や表彰式ではファンから岩永騎手に温かい声援が飛んでいて、アットホームな雰囲気だなと感じました。
私はファンからの声援に支えられています。復帰したのも、ファンの人にまた会いたいっていう気持ちもありました。力をもらっているので、今こうしてお客さんがいないところでのレースは本当に寂しいです。ついついお客さんが普段いる方を見て、「あ、いない」と思っちゃいます。
新型コロナウイルスはなかなか収束のメドが見えず辛い状況ですが、岩永騎手はLVRを終えた後も地元でコンスタントに勝ち星を挙げていますね。
1鞍1鞍を楽しんで乗ろうというのを一番に思っています。そうしたら結果がついてくるだろうと信じています。以前は「勝たなきゃいけない」っていうプレッシャーで馬に対する余裕がなかったんですけど、今は「この馬を勝たせてあげたい」って気持ちで乗っています。競走馬に生まれたからには1勝させてあげたいなと思うんです。馬主さんも、私みたいな上手じゃない騎手を乗せてくださっているので、1つでも上の成績を、という気持ちです。
最後にオッズパーク会員のみなさんへメッセージをお願いします。
復帰できたことにホントに幸せを感じています。みなさんの応援に力をもらって、これからも頑張りますので、応援お願いします。
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※インタビュー・写真 / 大恵陽子