昨シーズンまで3年連続で岩手の騎手リーディングに立ち続けている山本聡哉騎手。今年もここまで1位を守り続けており、4年連続リーディングへの期待も高まってきている。ラブバレットと共に各地に遠征したり、あるいは他地区の重賞にスポット参戦したりと、岩手以外でも存在感を増すシーズンになっている。
まずは地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップから。結果から言うと残念でしたね。6着、12着、4着、7着。
ちょっと乗り切れなかったですね。第1ステージも第2ステージも勢いがなかった。
何年か連続で"札幌行き目前"くらいまで行っていたこともあって、どうしても惜しいなと思ってしまいます。
最初の頃は良い馬に当たっていたことで成績も良かったのかもしれません。最近はちょっと運もないかも。でもそういう状況でも上の着順に持ってこないといけないレースなので、流れがあまり良くなくても上に来ないと...でしたね。
地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ盛岡第2戦(12着)
ジャパンジョッキーズカップ(7月16日、盛岡)の方は、もっと聞きづらい成績だった。
個人のポイントで最下位でしたからね(苦笑)。レースの方は地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップと違ってガツガツした感じがなくて、変なプレッシャーがない中で、皆きれいな騎乗をするから、他の騎手の良いところを観察しやすいですね。乗り方に無駄がないですよね。ロスがなくて綺麗。地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップなんかはやっぱり攻めていくから、危ないシーンもあったりするのですが、こっちはやはりトップジョッキー同士の暗黙のルールみたいなものがあって。安心して戦えます。
地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップなんかだとポイントを取るのに相手を出し抜いたり裏をかいたりするシーンもあるものね。
そういうレースに比べると、ですね。そしてJRAの騎手が入ってくるのも違いになると思います。地方競馬の騎手とJRAの騎手は乗り方が違って、進路の取り方とか、ポジション争いで出したり引いたりのタイミングとか強さとか、レースのまとめ方とか。わりと岩手の騎手に近い感じがして自分は違和感なく乗れる。
乗っている騎手としては地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップみたいな個人のポイント争いのレースとジャパンジョッキーズカップみたいなレースと、雰囲気の違いみたいなのはある?
乗っている感じは全然違いますね。
それはチーム戦と個人戦の違い?
それは特にないですよ。チームだからといって作戦をあれこれ決める事はないですし、レースを見てもらえれば分かるように変につついたりとかするようなこともないですし。そこは皆さんトップジョッキーですから、馬の癖とかをある程度言うだけであとはしっかりと乗ってきますし。パドックの整列前の仕草なんかわりと違いますよね。リラックスするタイプなのか気合いを入れるタイプなのかとか。それぞれ違うなと思いながら見ています。
ラブバレット(4月18日大井・東京スプリント)
ラブバレットの話しに行きましょう。ラブバレットの今年のレースを見てきて、ありきたりな言い方だけどがんばっているなと。去年よりもずっと良いレースをしてきているんじゃないかと思うんだけども。
自分もそう思いますね。今年は良いレースをしてくれていると思う。7歳ですから、成長しているとか力を付けているとかそういう部分はそれほど大きくはないのでしょうが、状態は本当に良いなって感じますね。あと、少しテンにゆっくり行かせるような競馬をし始めて、自分としてはそれがしっくりくるな、と。
それは末脚で勝負するような形の競馬?
終い勝負というよりは、いつもより、今までやっていた競馬よりは少し後ろの位置から勝負するような。ある程度前には行くんだけども行かせすぎないっていうか。それで最後に脚を使えるように。
特に前走なんかその狙い通り、ほぼ完璧なレースができたのに勝てなかった...というのが残念で仕方がないです。
JRAの馬たちの層は厚いですよね。克服しなければいけない課題って言うか壁は高いですけど、ラブバレットも凄くがんばってくれているので、何とか克服したいですね。
北海道スプリントカップ(6月7日門別)、ラブバレットは2着
さて今度は騎手リーディングの話へ。今年は、"今年も"か。好調ですね。
好調なんですか?去年と比べてどうなんでしょうか?
最近少しペースが落ちたけど去年並みでは来ているし、ちょっと前までは去年以上だった(※直近の5回盛岡開催終了時点では今年92勝、昨年は96勝)から決して悪くはないと。
週あたり3勝を目標にしているので、そのペースでがんばっていきたいですね。
最近のレースを見ていて思うのは、以前ほど岩手の勝ち星の数にこだわってないというかリーディングにこだわってないというか、そんなふうに見えるんだけど。
そんな事はないですよ。"リーディングを獲る・守る"というのは長い期間でも短い期間でもモチベーションになりますし、そういう目標を置いてないと、なんというか、だらだらと乗ってしまいそうで。敢えてガツガツする、敢えて勝ちにこだわるというのも大事だなと思っていますよ。そんなふうに見えますか?(笑)
やっぱりほら、"村上忍騎手に追いつく、追い越す!リーディング獲る!"って頑張っていた時期があったから、その頃に比べると...かな。
周りからもそういうふうに言われていましたからね。その頃に比べると、今はずっと自然に、自分の気持ちの通りに流れに乗れているんじゃないでしょうか。
6月7日門別、エムティアンでJRA認定ウィナーズチャレンジを勝利
山本聡哉騎手の騎手個人としての当面の目標はあと34勝(※7月30日終了時点)に迫る地方通算1500勝達成だが、師匠である佐藤浩一調教師の騎手としての通算1477勝を超えるのも一つの重要な通過点ではないだろうか。それを超えれば岩手競馬の騎手として歴代10位の勝利数ともなる大きな一里塚だ。もちろんラブバレットとのコンビでのグレードレース優勝にも期待し続けよう。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
デビュー2年目の昨年(2017年)、NARグランプリ・優秀新人騎手賞や、日本プロスポーツ大賞・新人賞を受賞した鈴木祐騎手。また昨年から始まったヤングジョッキーズシリーズではファイナルラウンドにも出場。その活躍を振り返るとともに、今後についても語ってもらった。
昨年の12月くらいからこの3月くらいまで、いろいろな事があって本当に忙しい数ヶ月だったと思います。そんな時期を改めて振り返ってみて、どうでしたか。
すごく忙しかったけれど充実した感じでした。いろいろな経験をさせていただいて良かったです。
"大変だった"のが先に立つかと思っていたけど、充実していたと言えるんだ?
名誉な賞をいただきましたしね。大変でもありましたけど、嬉しいとかありがたいとか、そういう気持ちの方が大きいですね。
ではその賞の話に行きましょう。NARグランプリの新人賞。前年がね、同期のライバル加藤聡一騎手(愛知)で、その彼に続いての受賞となりました。
正直言って"悔しい"と思いますね、同期に先に獲られたのは。むしろこれから先は負けずに頑張らないとっていう気持ちになりました。
NARグランプリ授賞式・共同インタビュー
こうやっていろいろな賞を貰って、たくさん取材を受けたりメディアに出たりという事も多かったわけですが、今の自分が注目されてきているなっていう意識はありますか?
んー、自分自身これまでそれほど注目されてきたと思っていなかったから、変化があったとはあまり感じないですね。ホントに自分はまだ何もできてないなと思う事の方が多くて。むしろ自分はまだまだと感じています。
そうか。自分でそう言うなら敢えて聞いてみるけど、こうやって露出が増えた分、周りのハードル、評価や比較の基準が上がっている面はあるよね。
やっぱり賞をもらうような人は素晴らしい技術を持っているだけでなく人間もできているんですよ。それに比べたら自分はまだまだだなって思いますし、頑張らなきゃなとも思います。
じゃあ賞を貰った事で、逆に自分ももっとレベルアップしていかないとと感じた、と。
そうですね。逆に今までの自分を見つめ直しました、自分がやってきた事とか今の自分のレベルとかを改めて考えましたね。
ここまでいくつも賞を貰ってきたわけですが、どれが一番嬉しい受賞だった?
どれも嬉しい賞なのですが、どれかひとつとするとプロスポーツ大賞(日本プロスポーツ大賞新人賞)かな。プロという枠でいろいろな競技の選手がいるじゃないですか。その中で"騎手代表"のような形で選ばれたのはやっぱりすごく嬉しいですよね。
日本プロスポーツ大賞表彰式
じゃあレースの方で。ヤングジョッキーズシリーズや高知の新人王と各地で騎乗する機会がありました。その中で一番印象に残っているものを挙げてもらうとすると?
一番となるとヤングジョッキー、中山競馬場で乗った事でしょうか。夢の競馬場っていうか、中山競馬場で競馬を見た事で騎手になろうと思った所ですからね。もう、その時の光景が頭に焼き付いて離れないです(笑)
小さい頃からの思い出の競馬場で乗れたのは、やっぱり感じるものがあった?
もういろいろ印象的でした。お客さんが多いなとかコースが広くてコーナーも広々してるなとか。緊張はしなかったですが驚く事がたくさんありました。
YJSファイナルラウンド中山第1戦(4着)
じゃあまた乗りに行きたい?
もちろんです。
次は勝ちたい?
もちろんです!
さて、そんな表彰ずくめの1年を終えて間もなく新しいシーズンがスタートします。これからの1年はどんな"鈴木祐"を目指しますか?。
今年の鈴木祐ですか......。そうですね、もっと上手くなりたいですね。今年は自分では勝負の年だと思っているので、もっともっとレベルアップしたいです。技術的にも人間的にも。
それは例えば具体的な数字で何勝とかじゃなくて、技術とかを向上させていきたい......っていう?
勝つ事はもちろん大事だと思うのですが、馬に乗る能力、技術というものが無いとこの先やっていけないでしょうから、そういう部分を身につけられる年にしたいなと。
では、今年ね、またヤングジョッキーのファイナルに行けたとしたら、どんなレースを見せたいですか。
それはもちろん勝ちたいです。勝つだけじゃなくて見ている人に"かっこいい!"と感じてもらえるようなレースを見せたいです。
もうひとつ。同期とか同世代の騎手たちと戦ってきて、新シーズン、そのライバルたちに挑戦状を叩きつけるとしたら。っていうか叩きつけて。
今年は恥ずかしい競馬をしない。ヤングの中で一番上手いんじゃないかって思わせる騎乗をしたいです。
最後にずいぶん大きく出たね!
もちろんです!夢は大きく!
YJSファイナルラウンド中山(左から4人目)
いつも通りというか、大きく話が膨らんで終わった鈴木祐騎手へのインタビューだったが、勝ちたい、若手の中で一番上手くなりたいと何度も口にしたのはやはり、各地を転戦した記憶がそう言わせたようだ。
「JRAの騎手はみんな綺麗に乗りますし、地方の騎手だって凄く上手くなっていました。このままじゃ置いていかれると感じました」とも言っていた鈴木祐騎手。同じ世代の騎手達と戦った事が自分を見つめ直すきっかけにもなったのだろう。来年の今頃はどんな結果を残しどんな事を言っているのか?期待しよう。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
今年(2017年)10月28日に地方競馬通算1000勝を達成した山本政聡騎手。弟の山本聡哉騎手がリーディングを守り続ける一方でやや目立たないように感じられるかもしれないが、山本政聡騎手も近年はシーズン100勝以上、リーディング上位をキープし続けている。今シーズンもリーディング3位をほぼ確実なものにしている山本政聡騎手にいろいろなお話を聞いた。
1000勝を達成して少し時間が経ったところでお話を聞いているのですが、どうでしょう、達成感のようなものははっきりしてきた?
それほど大それた感想はないですけれど、やはり節目になる事ですからできるだけ早く達成したかったし、盛岡開催のうちに達成できて良かったです。
2017年10月28日・盛岡第11レースで地方競馬通算1000勝を達成
2003年のデビューから500勝まで10年以上かかったのに、500勝から1000勝までは4年かからなかった。このペースアップぶりは見ていて凄いなと感じます。
良い馬に乗せてもらえているだけですよ(笑)
デビューから15シーズン目になりましたが、この間、自分自身が変わったとか成長したという部分はありますか。
変わったというか、考えないといけないことが増えたしうまくいかない事も増えた......でしょうか。昔よりもずっとたくさんレースに乗るようになったからそれだけ乗る馬のことや周りの馬のことも考えないといけない。乗る数が増えるということはそれだけ負けること、うまくいかないことも多くなるわけです。馬の能力をきちんと引き出してあげたいけれど必ずしも全部が全部うまくいくわけではなくて。だから自分はまだまだだなと、そう感じている時が多いです。
馬の力をきちんと引き出してあげる、というと?
よく"馬7・人3"と言うじゃないですか。その"3"の部分でどう乗るか。騎手としてはそこをできるだけ大きく使ってあげたい。"お前にはもっと力がある、もっと走れる"と馬に感じさせることができたらそれだけ力を出してくれる。
騎手が馬の力を決めつけてしまわない、みたいな?
自分も昔は"先行しなきゃダメ""良い位置獲らなきゃダメ""無理してでも前に行ってそれでバテたら仕方ない"とかそういうのにこだわっていたけど、もちろん時にはそういう乗り方も必要なんですが、今は、もっと馬の気持ちを考えてあげるとか、自分本位で競馬しないように、とか。
人間が人それぞれなように馬もそれぞれのペースの違いがあるから、そこを大事にして、余計な負荷をかけないようにして勝てるなら良いなと。
コウセン号に騎乗して盛岡芝1000mのレコードを実に21年ぶりに更新
これは山本聡哉騎手にも聞いてみたんだけど、最近、兄弟で乗り方っていうかレースの流れの掴み方が似てきたんじゃないかと思う。兄弟でワン・ツーというのも最近多いでしょう? 兄貴の方はどう感じますか?
んー。似ている感じは......しないかな。弟が良い馬に乗っている事が多いじゃないですか。だからおのずとレースの中で目標になる。だからそういう結果になる......という事はあるかもしれません。
兄から見た弟はどんな騎手ですか?
そうですね、いろいろな意味で"巧い"なとは思います。例えば馬群の中でこの位置に行きたい、あそこのポジションが欲しい、と思った時にもうそこにいる。先にいる。そういう点は巧いなと思って見ています。
絆カップ(11月5日・盛岡)ではタイセイファントムに騎乗し、ラブバレットを破って優勝。昨年の絆カップでもナムラタイタンを破って優勝しており"大物喰い"の山本政聡騎手だ
さて1000勝を達成して、さっきも言ったように最近のペースで行けるなら1500勝とか2000勝とかも決して遠い夢では無いと思うのですが、自身はこれから先はどう考えますか。
うーん。将来のことは、例えば何歳になったら騎手を辞めるとか、そういう事は考えていないです。身体の動きとかカンが鈍りはじめたら考えるのかなあ。今は、良い馬にたくさん乗せてもらっていますから、それを良い結果にできるようにしっかりやっていきたいしやっていこう......でしょうか。
あと、他所に乗りに行こうとか考えたりしない? 以前は冬場に荒尾に行ったりもしたけれど。1000勝したし、南関東で乗りたいって手を挙げれば行けないこともないと思うけども。
自分は牧場が好きなんです。牧場の仕事の流れが肌に合う感じがするし、馬を調教して仕上げていくのも好き。だから冬場は牧場に行きたいかな。
では最後にオッズパークの会員の皆さんにメッセージを。
これからも岩手競馬の応援をよろしくお願いします。
昨シーズンの『オッズパーク杯ゴールデンジョッキーズシリーズ』では総合優勝。今年も上位に付けている
同じ競馬場で戦っている以上、どうしても兄弟が対比・比較されてしまうのだが、騎手の戦いぶりとして"似ている所がありながらも違う部分は明らかに違う"というのは非常に興味深い。
大雑把な言い方かもしれないが、"理論派"の弟に対し"天才型"の兄と表現できるだろうか。ここに収まりきらなかった話の部分も含めての印象なのでうまく伝わらないかもしれないが、自分はそう受け取った。そして、遠くない将来、岩手のリーディングを争うのは山本政聡騎手と山本聡哉騎手の二人ではないか。そんな想いも強くなった。この先の兄弟の戦いはどうなっていくのかも楽しみだ。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
騎手の大記録が続く今年の岩手競馬。7月の関本淳騎手(地方通算2000勝)、9月の高松亮騎手(同1000勝)に続いて、10月1日に齋藤雄一騎手が地方通算1000勝を達成した。
その齋藤雄一騎手は今シーズン開幕直後の4月、調教中に負傷して3カ月も戦列を離れていた。そんなアクシデントを乗り越えての大記録達成でもあった。
1000勝達成おめでとうございました。さて、達成前も達成後も"1000勝は凄い記録だ"みたいな事を自らはあまり言わなかったんだけど、達成した今になってもそうですか?少し変わってきたりしていない?
特に変わっていないかな。1000勝を達成したからと言って自分が大きく変わったわけではないですし。そもそも自分が1000勝できるような騎手だとも思ってなかったですからね。達成する前も、達成した後も、今まで通り自分の仕事をするだけ、でしょうか。
そうなんだ。今までもね、厩舎の皆と一緒に仕事をして、それが良い結果につながればそれでいいんだ......と言っていたじゃない。1000勝を達成してもそれは変わりないんだ?
そうですね。ここまで来れたのは自分だけの力じゃないですからね。厩舎のためとか家族のためとかと力むのじゃなくて、みんなで力を合わせてやって来たのが良い結果につながれば"やって良かったな"って後から振り返れるし、そういうのが良いかなと。
10月1日、地方通算1000勝達成。ご家族だけでなく小西重征調教師夫妻や関本淳騎手とともに
今シーズンは開幕早々に大きな怪我をして3カ月ほど戦線離脱。1000勝を達成してその勢いで昨年以上の結果を......と期待していたシーズンだっただけに残念でした。
この春の怪我はね、そんな先の楽しみがあって仕事も楽しくできていた時の怪我でしたからちょっとね、気持ち的にガックリきたところはありましたね。でもそれ以上に、自分が怪我をして厩舎の成績が落ちたのが申し訳ない気持ちでした。
一昨年も怪我をしたことがあって1カ月ほど乗れなくて成績を落としてもしまって。もったいない感じが、どうしてもしてしまう。
でも怪我をしないと気が付かないこともいっぱいあるから。
というと?
毎日の仕事で疲れてくるとモチベーションが下がったりもするのですが、怪我をして3、4日入院しているだけで"早く仕事に戻りたい"って思うようになる。やっぱり自分は馬が好きなんだなって再確認できる時間になったりするんですよね。だから怪我する事はポジティヴに考えています。ただ今年の怪我はね、調教師や厩舎の皆に申し訳ないという気持ちが強いですね。
3カ月の戦線離脱後の復帰戦(7月8日・盛岡第2レース)を意地の勝利
改めて振り返ってみると、やはりここ何年かの、リーディング上位を常に争う成績を続けているのは立派だと思う。自身ももっと上を目指せる。自厩舎で調教師リーディングを獲るのも、昔から目標にしているけども、それもまだ諦めてほしくないと思うんだよね。
デビューしたての頃は乗せてもらえない時期が続いて投げやりになった事もありました。そんな中で結婚したり、廃止騒動があったり。自分より若い騎手がデビューしはじめたら今度は若手を引っ張る立場で、お手本になろう、周りから一目置かれるくらいの騎手にならないとと思って頑張ってきた。自分で言うのもなんだけどよくやって来たと思います。一方で勝ち星を稼ぐという事にこだわりすぎて周りに迷惑をかけていたんじゃないかなあと思う時期もあった。自分はそういう騎手じゃないなと今は思っているし、自分に力があるのなら厩舎の成績を上げる事に注ぎたいとも思うようになりました。
まだ老け込むには早いよ(笑)。では1000勝を達成した事を受けて、次の目標とすると?
今の時点では具体的な物は思い浮かびませんが、怪我をしないようにして、体のケアも気を付けて、1日でも長く乗れるように・・・でしょうか。最近は怪我が続いたし、ここまで身体を酷使してきたのは自分でも感じていますからね。先の事はもうちょっと時間をかけて考えてみます。
若駒賞(10月15日・盛岡)をニッポンダエモンで制し、今シーズン重賞初勝利
最後にオッズパーク会員の皆さんにメッセージを。
自分だけでなく若い騎手達も頑張っていますので、ぜひ競馬場にも来て応援してください。
「自分の若い頃は」「最近の若い騎手は」。インタビューの際、齋藤騎手は何度もそんな言葉を口に出す。今年まだ34歳なのに、とその度に「まだ若いでしょ。老け込むには早いよ」と口を挟むのだが、齋藤騎手に言わせると「若い騎手、新しくデビューする騎手ほど新しい技術とか自分たちの世代に無い考え方を持っている。だから若い騎手ほど伸びしろが大きいし、先々も長くやっていける可能性がある」。それゆえに自分たちは"年寄りの世代"なのだそうだ。
一方でそれは、齋藤騎手が20代の頃からリーダー格を目指し、やり抜いてきたという自負の現れとも感じる。佐藤雅彦騎手(現調教師)引退後、長く水沢所属騎手ばかり、水沢所属の調教師ばかりがリーディング上位を占めていた状況を、自身の騎手ランキング、所属する小西厩舎の調教師ランキング、共に上位に押し上げて打ち破ってきた彼だからこそ言える台詞なのかもしれない。
度重なる怪我の影響が徐々に蓄積されているんだから、とも口にする齋藤雄一騎手だが、何度も言うがまだ老け込むには早い。これからもベテラン騎手としての貫禄を見せ続けてほしい。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
7月23日、盛岡競馬第3レースにおいて関本淳騎手が地方競馬通算2000勝を達成した。昔からの競馬ファンなら関本淳騎手が元は上山競馬に所属していて、同競馬場の廃止に伴って岩手競馬に移籍してきたという事を覚えておられるだろう。2つの競馬場を股にかけた大記録達成だった。
2000勝達成(2017年7月23日盛岡第3レース)
実際に2000勝を達成してから2週間ほど経ってお話を聞いているわけですが、その2000勝が迫ってきたあたりではプレッシャーを感じたりはしました?
ないことはなかったですが変なプレッシャーではなかったですね。"2000勝に到達したらそれで終わり"ではないし、例えば重賞で1番人気の馬に乗った時のような"一発勝負"のそれとも違いますしね。近づいてくれば、普通にやればいずれ通過するわけだから。言ってみれば"良い刺激"、迫ってくるのは楽しかったですよ。
そうですよね。2000勝が迫ってきたあたりからむしろ勝つペースが上がったりしましたよね。
後輩達も早く決めろと急かすのではなくて良い感じに盛り上げてくれたりして。凄く嬉しかったです。
高松亮騎手の手作りだという"カウントダウン"。最後の一枚を剥がすと「祝2000勝」の文字が
関本淳騎手が気にされていたので調べてもらったのですが、やはり2000勝達成までに35年・36シーズンかかったという騎手はこれまでいないようです。佐賀の吉田順治騎手が31年かかっていて(1985年デビューで昨年達成)、いまのところ"最長"のようですね。
ぶっちぎりですね(笑)。こんなにかかる人はもう現れないんじゃないですか。
確かに騎手によっては14、5年で達成してしまう方もいるのですが、でも長くかかってもコツコツ積み上げてきた、そして2000勝まで届いた、というのは凄いなと思います。
そこはどうなんでしょうね。自分がデビューした時、その時から"コツコツ勝ってやろう、そしていつか2000勝達成しよう"と考えてやって来たわけではないですからね。
ああそうか。結果的にこうなった...ですものね。
他の2000勝ジョッキーのように若い頃からたくさん勝って早く達成できればそれに越したことはないわけで。あまり"コツコツ、コツコツ"と言われるのもピンとこないかな。
関本淳騎手は上山競馬から移籍してきた時点で908勝。当時"1000勝は達成したい"と言われていたのを覚えています。今になってみれば上山時代が21年で900勝、岩手では14年で1100勝ですからコツコツではなく良いペースですよね。
岩手に来てからも調教師さんや馬主さんに良くしてもらったおかげですね。そこは本当に恵まれていたと思います。
こうだったから、こんなことがあったから2000勝を達成できた、ここまで騎手を続けてこられた...そんな"何か"を挙げるとすればなんでしょう?
自分で言うのもおかしいかもしれないけど、精神力は強いと思う。少々のことでは挫けないと思うんですよね。だから、35年の間にはいろいろなことがあったけども一つ一つ乗り越えて来る事ができたんじゃないかな。
これは気が早い質問かもしれませんが節目に来たので改めて。関本淳騎手はこのあと何年、何歳くらいまで現役を続けようと考えていますか?
それは...まだちょっと見当がつかないですよ。この年になるとやっぱり1年1年、体力とかね、いろいろ変わってくるから。それを少しでも維持しようと努力はしています。"じゃああと10年"とか言われるとそれは何ともいえないですけど。騎手は腕で生きているわけだから依頼がある限りは乗っていきたいし、その依頼に応えられるように自分を維持していく、かな。
岩手には関本淳騎手のような大ベテラン騎手が少ないから、いつまでも重鎮として若手の目標であってほしいなとも思います。
今の若い騎手は何も言わなくてもきちんと乗れるから、自分が教えるようなことはないですよ。上の方で重しになるというよりは、自分を飛び越えていってくれればいいですよ。ファンの皆さんからは"その年齢でよく頑張ってるなあ!"と言われるくらいまでやっていければね。
では最後にオッズパークのファンの皆さんにひと言を。
そうですね。インターネットで購入されている皆さんは自分の顔とかあまり分からないかもしれないけれど、こんな風に頑張っていますので、これからも応援よろしくお願いします。
7月30日に行われたセレモニーには、板垣吉則調教師だけでなく秋元耕生騎手、江川伸幸騎手ら元上山所属騎手も参加
文中でも触れているが、現在までの地方競馬では30年目、31年目で2000勝達成という騎手はいたが35年目は初めて。関本淳騎手に言わせると「2000勝達成するような騎手は若い頃からリーディングを争うくらい勝ってて、20年そこそこで達成するでしょう?自分はあまり勝ってないってことだからさ」だそうなのだが、とはいえ35年もの間、毎年何十勝もできるテクニックであり体力でありを維持してきたからこそ達成できたわけで、それは立派なことだと思う。
過去の記録では"上山に在籍していた騎手"では冨士木秀四郎騎手が2,297勝、"上山デビューの騎手"なら小国博行騎手が2,093勝という記録を残している(いずれも引退)。これも関本淳騎手自身はあまり関心がないようだが、できればそれらの記録に迫るくらいまで、この先も長く戦い続けてほしい。
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※インタビュー・写真 / 横川典視