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地方競馬通算4128勝。2024年11月19日、村上忍騎手が到達したのはこれまで菅原勲騎手(現調教師)が保持していた4127勝という『岩手競馬所属騎手の地方競馬通算最多勝』を超える記録だ。2011シーズン一杯で引退した菅原勲騎手のその数字は当時は前人未踏というだけでなく空前絶後とも感じたが、13年ほどを経てついに塗り替えられることになった。
また村上忍騎手は12月2日に行われた『オッズパーク杯ゴールデンジョッキーズシリーズ』で2度目の総合優勝も果たした。今回はそれらを合わせて話をうかがった。
最初はオッズパーク杯ゴールデンジョッキーズSの総合優勝の話からです。2回目の総合優勝でした。おめでとうございました。こういう機会に優勝するのは騎手としても良い事、誇らしい事になるのでしょうか。
そうですね。騎乗馬が抽選で、どんな馬が当たるかも分からないから、良い結果を残せるのは良い事ですね。1年に1回の楽しみというか、毎回狙ってはいるんですけども、運もありますし。
今年は凄く勢いがある時期にシリーズがあって、良い感じの勢いのままに総合優勝したという印象がありました。
まあ今年は運が良かったですよ。いろいろな部分でね。欲を言えばどちらかひとつ勝ちたかったですけどもね。
シリーズが終わった時にも言われていましたものね。ただこういうのは騎手対抗戦の"あるある"みたいなところもあって。
僕自身は"1着なしに総合優勝"というのは今まで経験した事がなかったけど、やはりいかにポイントを稼げるか?ですからね。
その辺もやっぱり、持ち上げますけども(笑)、ベテランの技ですよね、ちゃんと2着、2着っていうのは。2戦目の接戦が3着だったら総合優勝では無かったわけですし。
運が良かったんですよ(笑)。
さて、お題を変えてですね、4128勝の新記録達成ですが、これも凄い記録ですね。
これはあとで教えて貰ったんですが、ここまで20年以上、毎年100勝以上しているそうで(2000年以降25シーズン連続で100勝以上)、そういう毎年の積み重ねがこういう数字になったのかな、とは思っています。
そう、だから村上忍騎手は"長くやっていればいずれ"みたいな事を言われていましたけども、デビューして7年目からもうずっとシーズン100勝以上していますし、デビューからの年数で単純に割っても毎年130勝以上している計算ですし。
その辺は、やっぱり毎年それぐらい勝たせてもらえてる、勝てる馬に巡り合えてるってことですよね。
それもあるでしょうし、あとこういう話をすると必ず"今は開催日数も多いし、乗れる数も多いし"って話にもなりますけど、忍さんって菅原勲騎手や小林俊彦騎手の全盛期に立ち向かってそれで毎年100勝以上じゃないですか。そう思えば、それはやっぱり凄いなと。
僕がデビューした頃は騎手も多かったし。騎乗するチャンスすらなかなか無いような、特に新人の頃はね。そういう状況だった中で、大先輩たちがいて、その中でこういう数字を挙げてくることができたっていうのは、うん、自分なりの自信にはなりますよね。
村上忍騎手的にここまで長い間やってこれた"モチベーション"の元にはどんなものがあるんですか?。
うーん。なんなんでしょうね?
なんかさっきから自分は"凄い"しか言ってないですけども、忍さんの、なんて言うか、いい意味で"空気を読まなさ"って言うんでしょうか、最近調子悪いな~とか言われながらも立ち直ってくるじゃないですか。結局終わってみれば厩舎の人たちも一緒になって"ムラシノやっぱり凄いよね"みたいな話になってる。そうやって立ち直ってこれるモチベーションって、凄いなと。また凄いって言っちゃいましたけど。
なんなんだろうね。自分でもあまり分からないな、そこは。まあ自分も若くないから、1年間やってれば浮き沈みは当然出てくるかなとは思う。
今年の前半戦なんかも、なんかちょっと今年は調子悪いのかな?みたいな感じで見てたんですけども。
そうですね、なかなか思うように結果出せなかったですね。
それが後半戦になったらむしろなんかもう"これくらい普通ですよ?"みたいな感じで勝ち星を積み始めるし。本当、なんなんですかね(笑)。
若い頃は、もう必死に攻め馬して、もうとにかく働いて乗り馬を確保してきたんですけど、最近はあんまりそういう元気がなくなってきて(笑)。悪いなら悪いなりに......みたいな、ある意味開き直りじゃないけど、その辺の気持ちの変化はやっぱり若い頃とはちょっと違う部分かな。
良い感じで力が抜けてきた、みたいな。
うん、そうかもしれない、もしかしたら。でもやっぱり馬との出会いですよね、1番のモチベーションは、きっと。
そうか。以前にも言われてましたものね。"そろそろ"とも思ったけど、いい馬に出会えたから、もうちょっとやろうか......みたいな。
そう。良い馬との巡り合いが自分を頑張らせてくれる部分って、やっぱり多い。
最近だと、フジユージーンとか。
若い馬が頑張ってくれるとね、自分ももうちょっと頑張って続けたいなって思わせてくれますからね。中でもやはり岩手でデビューした馬が頑張ってくれるのが一番感じるものがありますね。エンパイアペガサスで船橋の重賞(2017年報知グランプリカップ)を勝った時も、その時は移籍扱い(浦和所属)だったけども岩手の馬で他地区で重賞を勝てるのはなかなかチャンスが多くないから印象に残ってます。
他地区に遠征して重賞勝ちたい、勝ったというのはそれほど記憶に残るものなのですか?。
残りますね。ベンテンコゾウもそうですしね。地元ではなく敢えて北海道に行って二冠。三冠目はちょっと獲れなかったけど、そういうチャンスはなかなか無いから。
あと、ダービーグランプリはどうですか。2007年のハルサンヒコ。村上忍騎手が珍しく大きなガッツポーズをした時。土砂降りの雨の中でガッツポーズしてて。どうしたんですか?って聞いたら"家族がいたから"とかなんとか。
あの年は確か子供が生まれた年で......。何月でしたっけ?
ハルサンヒコで制したダービーグランプリではガッツポーズ
9月ですね。9月17日。
じゃあその日。その日に生まれたから。レースの時には生まれていたんだと思う。
へえ~!"生まれてきた子供に贈るガッツポーズ"!
ロッソコルサで勝った年(2012年)は娘が生まれたし、子供が生まれる年にダービーグランプリを勝っているっていう印象が自分にはありますね。
昔の話をしていると尽きないので話を変えて......、この記録を達成して、更新して想う事とかありますか?。
菅原勲先生の記録だったのですが、想う事は、昔と今では騎手の人数も違うし騎乗チャンスも違うし、一概に比較ってできないとは思う。やっぱり菅原勲先生の記録は僕の中では偉大で、数字的には追いついたかもしれないけど、まだまだだなっていう自分なりに思う部分があるので。なんと言うか、自分の中で追いつけたかなって思えるように頑張りたい。
その辺は、どういうところまで行ければ"追いつけた"になるんでしょうね。
どうなんだろう。そこはちょっと分からない。そうは言ってもね、その数字までやってこれたっていうのは自分の中で誇りでもあるし、少し胸を張っていいのかなとは思っています。
村上忍騎手自身は前人未踏の数字に入っていきますが、後続もやってきている。
もちろんね。どこまでできるかはわからないけど、できる限りは頑張りたい。やれる限りはひとつでも記録を伸ばしていきたいし、それが応援してくれる皆さんに応える形なんだと思います。
最後にフジユージーンの話を少し。改めてですがどういう所を評価されていますか。
デビュー当時から完成度が高かったですが、それでも一戦一戦の成長は感じとれる。成長であったり、課題であったりもですね。明けて4歳、まだまだこれから成長が期待できるんじゃないかなと感じます。
フジユージーンで楠賞(園田)を勝利
さしあたりの目標はシアンモア記念だということです。
多分これからは走るレースを、ここの次はここ、と照らし合わせながら使って目標を定めていく形になるんだろうと思いますが、やっぱり南部杯で走ってみたい。マイルくらいの距離で強い相手と走って力を試してみたい。そもそもまだ古馬と戦ってないですしね。順調に、力をつけていってくれれば。
では本当に最後に、オッズパークの会員さん向けに一言を。
この話をしているのがもう年末だから岩手競馬も冬休みに入るのですが、またすぐ3月から競馬が始まります。春からもしっかり競馬を盛り上げて行ければと思うので、ぜひ馬券も買って、岩手競馬を応援してください。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
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