
現役通算3373勝を挙げたトップジョッキーで、昨年調教師試験に合格。今年度の開業を待つ大河原和雄調教師(57)に話を聞きました。
2017年11月27日第9レース、最終騎乗を終えて
騎手生活お疲れさまでした。調教師試験の合格は西弘美調教師以来8年ぶりで、久々となります。
ありがとうございます。調教師試験を受けたのは今回が初めて。馬学の本や医学書を読んで勉強しました。
今まで調教師の免許は1月1日交付だったから、試験に受かっても12月まで乗るつもりでいた。今年から12月1日交付に変更になっていてショックだったな。試験に受かってから手続きが忙しかったよ。引退セレモニーでは、家族や親戚が集まって、親孝行ができたと思う。
騎手の引退はいつ頃から考えていたのですか。
キタノタイショウが引退したタイミング(2017年3月)だね。ただ、調教師には2000勝した時点(2006年)からやりたいと言っていた。もともと育てながら乗るタイプだったから。調教師は、スタッフにしても馬にしても、自分で全て責任を持ってやらないといけない。騎手の方が、調教してレースにも乗れるから贅沢だけどね(笑)。
育成に定評がある大河原さんならではですね。それでも、いままで騎手を続けていたのはなぜですか。
一番はキタノタイショウがいたこと。長澤幸太騎手が競馬場に来た。鈴木恵介騎手も(自分と同じ)服部厩舎所属になったから。
長く乗りすぎた(笑)。体力的にも辛くなってくる。ケガ(2014年にアキレス腱断裂)もしたしね。
ばんえい記念(2015年3月22日)を制したキタノタイショウ
騎手生活で、心に残っている馬を教えてください。
やはりばんえい記念(2015年)を勝ったキタノタイショウだね。2歳から引退までずっと関わることができた。それは騎手として最高の幸せだ。
昨年命を落としてしまったが、種牡馬としては人気で60頭くらいに種付けしたと聞いている。最近のばん馬にしてはかなり多い。
道東の浜中町にいたけど、十勝や上川からも種付けする牝馬が来た(注:ばん馬の繁殖牝馬はその地域の種牡馬をつける事が多い)。
牧場でも、水たまりをおっかながったり、納得するまで動かなかったり、競馬場と同じ性格だったって。
最初の子は3月末くらいに弟子屈町で生まれる予定。一度はタイショウの子をやってみたいな。
リキミドリには競馬の仕方を教えてもらった。特にレースでの"待ち方"。自分の引退式の日に、自分が勝った重賞レースのDVDをもらったからリキミドリのレースを懐かしく見ていたよ。俺がしくじって乗っていても、勝っていたんだよね。馬がカバーしていた。馬を育てながら乗ることも、リキミドリから教えてもらった。
1985年に初騎乗初勝利したカツハルのことは覚えていますか。
覚えていますね。「やっと仕事が始まったかな」と思った。自分で調教してレースに乗った馬で、自信満々で乗ったんだ。「このメンバーなら勝てる」と、ワクワクした。印はなかったけどね。トラックマンに「山さえ上がれば勝てるわ」って言ったんだ。
すごい新人ですね。
厩務員4年やっていたからね。
引退セレモニー(2017年11月26日)。服部義幸調教師と
それにしても(笑)。今はどのような生活ですか。
忙しいよ。競馬場では、服部厩舎やほかの厩舎の若い馬の調教を手伝っています。
まだ馬房数が決まっていないので新馬登録はまだだけど、スタンバイしている馬が牧場にいます。看板も出来ている(笑)。
開催日はだいたい競馬場だけど、それ以外は馬主のところに行ったり、スタッフを集めたり、馬主に連れて行ってもらって馬を見に行くなど道内を訪れています。前、キタサンブラック見てきたよ。
門別競馬場で話を聞いたりね。スタリオンでも乗馬にしても、いろんなところにいって話聞けば、かなり刺激もらえるからね。いいと思ってこだわる人はやはり違う。もう一歩先、一歩先を目指している。
スタッフ集め、ですか。
サラブレッドの牧場にいた人が来るよ。珍しがって来るんだ(笑)。サラブレッドというより馬を知っている人。馬のことで、聞きたいことが山ほどある。今の競馬場は頭が固いから。
スタッフには「かわさん」と呼ばせている。「先生」って呼んだら罰金だ(笑)。
4月の開業に向けて豊富を聞かせてください。
調教師になったからには、たくさんのファンに愛される馬を作りたい。そしてばんえい記念に出せる馬を牧場で探し、作り上げたい。1年目は極力無理せず、やれることを確実にやろうと思います。試したいことは山ほどある。馬も、スタッフも。
幸太(長澤騎手)も「どうやって乗ったらいいかな」って聞くけど、「好きなように乗ってこい」と言う。アドバイスは小さいことだけするよ。騎手には乗った後に話を聞くね。俺はそっちの方を大事にしている。ハミはどうだった、とか。感じ方はそれぞれ違うから、言葉一つ一つが楽しい。騎手の能力を知りたいんだ。
自分に余裕ができたら、ファンに対しても自分でできることを協力できればと思う。使命だしね。騎手は騎手、調教師は調教師の指命がある。
今は、ファンへの発信が少ないよね。はじめてばんえいを見る人とキャッチボールができたらいい。スタッフもファンも含めて、投げた球を返してくれるかどうかなんだ。
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※インタビュー / 小久保友香(写真:小久保友香、小久保巌義)
藤本匠騎手が、8月26日ばんえい第7レースをドントコイで勝利し、デビュー35年目で、ばんえい競馬では前人未踏の4000勝を達成しました。2012年に「ミスターばんえい」こと金山明彦元騎手(現調教師)が持っていた最多勝利記録3299勝を塗りかえてから、自身の持つばんえい最多勝記録を更新し続けています。
4000勝おめでとうございます。その後変化はありましたか?
会う人会う人におめでとう、って言われました。4000も勝つくらい、騎手やっていると思わなかった。よく乗っていたな、って。
達成した日は3998勝で迎え、5レースをジーワンキングで勝利。8レースもコウシュハアレッポで連勝し1日3勝でした。この日は人気馬が多かったので意識していましたか?
後半開催だったから人気馬に乗ることはわかっていたけど、それより前半にいい馬が集まっていたのに2着ばかりで歯がゆかった。2着ばかりで、と思ったけれど勝つ時ってこういうものなんだよね。焦ってもどうにもならない。その馬のいい乗り方をするだけ。ただ、周りが「もう少しだね」と言ってくるから、早くすませたかった(笑)。
ジーワンキングは強い馬がいたがよく勝ってくれた。ドントコイは、前でためて障害を切り、末脚にかける馬。それがうまくいっていいレースだった。ほっとした、馬に感謝です。
8月26日第7レースで通算4000勝を達成
7月29日8レースのレインボーライデンでの勝利がちょうど3万回騎乗でもありました。
怪我なく乗れたのが一番だと思う。4000勝できたのも感謝だが、3万回乗せてもらえたのが騎手としてありがたい。勝てる可能性のある騎手を乗せる、という世界だから。
勝てる馬に乗せてもらうのが大変な世界。昔は、金山(明彦)さん、久田(守)さん(いずれも現調教師)など、個性的な騎手がいっぱいいた。特にハミの扱いがうまい。レースの後ビデオを見たりして、どんどん吸収できた。そこから技術を盗んだりして、引き出しを調教師や馬主に信頼してもらい、乗せてもらった。金山さんの現役時代は、12月で開催が終わっていた。1日の最大騎乗数も6回(今は7回)だし、今の時代なら、金山さんはとっくに4000勝してたんじゃない。
今まで、大きな怪我がないですよね。
特に何もしていないんだけど......。食べ物の好き嫌いはないな。釣りにゴルフ、気持ちを切り替えているかな。温泉も行く。ここ2、3年は調教の前にストレッチはするけどね。怪我するのが嫌だから。
厩舎にいると規則正しくなるよ。ナイターだと9時に終わって風呂入ったら、10時半には眠くなる。次の日、朝5時には調教。休みの日も同じような生活になるよ。
JRAジョッキーデーで、JRAの勝浦正樹騎手をミサキセンショーで勝利に導いた時も普段のレースのように追っていました。イベントでも本気の追いっぷりが気持ちいいです。
勝浦が勝ったことないっていうから(笑)。勝浦騎手も、自分で追っていたよ。一人でも乗れると思う。
期待の馬について教えてください。
ハマノダイマオー(牡2)はハナ走るし、障害がいい。父のハマナカキングはスピードタイプで、血統的に降りてからの脚がいい。
センショウニシキ(牡3)は体ができれば面白いと思う。
コウシュハウンカイ(牡7)は、いつも(1シーズンに)重賞を1つしか勝てないんだよな。獲れそうで穫れないんだ。ばんえい記念は、もうひとパワーつけば楽しみだね。
マルミゴウカイ(牡4)は、古馬と戦うことになる来年、今のオープン馬相手にどこまでやれるかだね。成長していけば楽しみじゃない。
ばんえい十勝オッズパーク杯をコウシュハウンカイで制覇
今後の目標は。
もう55歳だし、1年1年事故なく、病気なく毎日乗れるようにしたい。「もう少し!」「負けて悔しい!」という思いをしているうちは、騎手をやりたい。
騎手も世代交代をしていかなくてはならないから、今後のことも考えるようになってきた。4、5年前の賞金なら調教師になることは考えられなかったが、売り上げが良くなってきたから、この世界にずっといるのなら調教師になることも考えなくてはいけない。ただ、騎手をやりたいという若者がいないからね。今の賞金なら、騎手になってもやっていけると思うんだけど。
騎手の魅力はなんでしょうか。
3日間競馬場に缶詰めだし、厳しい規則もある。それでもやるのはなぜかというと、収入もあるけど、馬が好きではないとやっていけない。好きな仕事ができて、稼げて、というのができる人はなかなかいない。ありがたい。勝てない時は辛いが、好きでやっている世界だから、辛いと思ったことはない。馬も好きだけど、騎手って仕事も好きだよ。負けたらどうやって次勝つか、調教や乗り方を考え、それがうまくいくと楽しい。
最後に、オッズパークの会員の方に一言お願いします。
インターネットで購入している方というのは帯広から遠い人が多いのかもしれない。でも、迫力があるからぜひ生でばんえいを見てほしいです。
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※インタビュー / 小久保友香(写真:小久保友香・小久保巌義)
2005年の調教師デビュー以来、7月8日に通算1000勝を達成。騎手としてもスーパーペガサスなどで通算2085勝を挙げた岩本利春調教師(59)に話を伺いました。
1000勝おめでとうございます。
偉そうに1000勝っていっても、一つ一つの勝ち星は縁の下の力持ちである厩務員のおかげ。一癖ある厩務員ばかりだけど、それが逆にいい(笑)。
管理はどのようなことに気をつけていますか。
飼い付け、体重だね。これから涼しくなってくるけど、体重が増えない馬や、脚や爪を痛める馬が増えてくる。
今年は7月が特に暑かった。みんな状況は同じだが、36度とかが1週間続くと、馬はがくっと弱る。調教の時間を早めたり、荷物を軽めにしたりしてやってきた。
ばん馬の場合は古馬になれば、サラブレッドほど手をかけることはない。それでも、2歳馬やデビュー前の馬が環境に慣れるまでは気を遣うね。慣れるまで時間がかかる。
先生は道内各地の草ばん馬でも姿をお見かけします。
会場に馬主さんがいることもあるけれど、各地方のばん馬が盛り上がってほしいと思って、現役馬も連れていきます。これからは牧場で調教中の1歳もいるからね。
2017年7月8日第7レース、センショウニシキで通算1000勝達成
この世界に入るきっかけは。
出身は札幌の北側にある当別町で、父が牧場で繁殖牝馬や種馬を持っていました。子供の頃から周りに馬がいて、世話もやらされた。その影響で、中学卒業後に競馬場に入りました。
騎手時代の先生といえば、スーパーペガサスの印象があります。
そうだ。携わることができて最高だった。ばんえい記念はなかなか乗れるものではないし、勝ちたいと思って勝てるものではない。
ミドリゴゼンなど、松田昇さん(松田道明騎手の父)の馬にもお世話になった。ペガサスに限らず、馬にはいろいろと教わった。
厩舎でやることは単調だけど、体調や食欲は厩務員の方がわかっている。だから厩務員の性格を理解して、レース内容によっては担当馬を変えたりもする。せっかちもいればマイペースもいるからね。今は厩務員4人、騎手2人(藤本匠、島津新)で、午前2時半ころから調教をつけている。俺は逆に馬に調教つけられているよ(笑)。
騎手や厩務員に指導することはありますか。
初めての人には言うけど、厩務員は(経験が)長い人ばかりだし、匠にはもう言うことはない。見た通り、一生懸命でまじめ。真っすぐだから。常に1着を取りたがるところが4000勝に結びつくんじゃないか。
新もあえて言うことはないが、まだ若いからしくじることはあるな。もうちょっと考えて乗れば、と思うことがある。普段馬触っているわりに軽率だものな。
なかなか厳しいですね。
誰もが最初からトップジョッキーだったわけじゃない。新人の頃、周りには喜来光雄さんや水上勲さん、木村卓司さんなど、腕の立つ人が多かった。まねをしたり、見る角度を変えたりしてやってきた。兄弟子の金山明彦さん(現調教師)に教えてもらったりして、競馬場で培ってきたものがある。腹時計、みたいなものがね。
こういうのはセンスだから。どこかで気づいたり、攻め馬で、触って見抜く力というのがある。それぞれの個性や感覚があるから、自分のポイントを振り返って、常に平常心で馬に携わっていないと。
2011年(2010年度)のイレネー記念をニュータカラコマで勝利
調教師生活で思い出に残る馬はいますか。
今は転厩したけれど、2011年のイレネー記念を勝ったニュータカラコマ(2017年ばんえいグランプリなど重賞8勝)だね。能力はあるが、障害が気ままだったりと癖があった。手をかけた馬だったね。今はそんなところはないけれど。
フウジンライデンは、2、3歳の時に重賞を取ったから昨年は重量に苦戦していたけれど、今年は対応してきている。
ホンベツイチバン(牡10)は、大きな病気もなく、まじめな馬。こういうのも名馬といえるな。種畜検査も通ったので、来年から種馬になる予定。爪もきれいだし、健康なのは内臓がいいってことだね。
イレネー記念やナナカマド賞など、若馬での重賞勝ちが目立ちます。今後の期待馬はいますか。
それは、担当厩務員が手塩にかけたから。そのたまものだな。1000勝を達成したセンショウニシキ(牡3)は涼しくなれば楽しみ。2歳では、センショウブルーやブラックエースは馬格がある。ツガルノボブは障害がいい。
入厩する馬は、草ばん馬を経験して春から馬ができている馬が多いけれど、今から秋にかけては未経験馬の伸びしろがある。体も増えてくる。どんな馬でも、馬主からの指示はあるけれど、それぞれ作戦を考えているよ。
2016年のイレネー記念を制したフウジンライデン
馬主さんの相手、大変そうですが......。
ゴール入らないうちから怒りの電話が来る(笑)。早いから。仲間で話が盛り上がって、俺のところに「まだまだあんなもんじゃない」って電話してくる(笑)。
普段の生活は。
じーちゃん(笑)。タブレットで、孫とLINEだよ。3歳になって、しゃべるようになったから面白いよ。
釣りは普段はしないけど、これからシーズンのアキアジ釣りはするんだ。
今後の目標は。
目標はいろいろあるけれど、若馬がうまく成長してくれること。あせって仕上げてもだめだし。自然体でうまく仕上げていきたい。
馬は、人の手を借りないとえさをもらえない。レースは辛いかもしれないが、1日でも長く競馬場にいた方が幸せだと思う。
ばんえいは、最近売り上げもいいし、ファン層も若くなっている。もっと競馬場に足を運んでもらって、ばん馬をなくさないようにしたい。帯広は寒いけど、生活しやすい。学校も近いから帯広でよかったよ。
少しでも出走手当が上がってくれればいいけれど、一時より良くなっている。ぜいたく言えないよ。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
7月1日第9レースで通算1000勝を達成した、ばんえい競馬の阿部武臣(たけとみ)騎手(44)。1998年にデビューして20年、今までの思い出や苦労を伺いました。
達成おめでとうございます。1000勝はいつから意識していましたか。
残り10くらいからかな。小5と中1の息子が「今日1着獲った?」って言ってきたから、気にしていたのかな。下の子なんて3年くらい前、2着が続いたら「お父さんアヒル飼ってるの?」って。2がアヒルってことだよね(笑)。
デビューして20年、(1000勝まで)時間がかかったなー。1000勝するとは思っていなかった。10年目までは、騎乗依頼が少ない辛い時代だった。当時は賞金が高いし乗るのもランキング上位の騎手ばかり。騎手の数も今の倍で40人くらいはいたからね。1開催で6~8頭乗ったら多い方。今の若い人より揉まれている。俺らの世代は騎手が多かったけどみんなやめた。俺もやめようと思ったことはある。
それでも踏みとどまった理由はなんでしょうか。
ここの世界しか知らないから、やるしかないのかな、と。少しずつ乗り馬増えてきた時だったし、レースで1着獲ったりすると、やっぱり...ね。負け込むと嫌になるけど、自分が調教をした馬が頭(1着)獲るとうれしいし、次の糧になる。
義理の父である、坂本東一さん(現調教師)には怒られて、怒られて...(笑)。坂本さんは早い時間から調教する人だったから、自分も午前2時とか3時から調教していたよ。それでも11年前は、手当も下がってきたのに我慢していたら『廃止になるかも』だもんね。やめておいた方がよかったのかな、って思ったよ。今はだいぶ売り上げが上がって手当も上がってきたけど、なんだかんだいって馬が好きなんですよね。
一から馴らして、能検やって育てて、オープン馬、というのを育てたいな。馬は子どもと同じで勝手に育っていかないから、一つ一つ教えて作っていく。
7月9日に行われた1000勝達成セレモニー(写真:ばんえい十勝)
レースや調教で心がけていることは。
馬は『前に行きたい気持ち』があってそれで競走している。障害でいかに嫌な思いをさせないで上らせるか。その馬の気持ちと能力を把握して、流れをみながら嫌な思いをさせないようにする。
調教は、馬に適した方法や、力も一頭一頭違うので考えながら行う。
馬との出会いについて教えてください。
宮城県大崎市(旧古川市)で、祖父が山から馬を使って材木出しをしていました。俺らは「馬車追い」って言ってた。
馬でやると山が痛まないんだ。トラクターは、通るために道を作らないといけないから。馬はその必要がない。
俺も中学、高校の時は手伝っていたよ。草ばん馬にも乗っていたから、本場の乗り方や馬の手入れなどを覚えるのに行ってみよう、と高校卒業後にばんえいに来ました。
思い出に残る馬や、今注目している馬を教えてください。
ホッカイヒカルは特殊な馬だったよね。ゲートは出ないしスタートも走らない。手間がかかった。その分思い出深い。来年産駒がデビューするから、うちの厩舎に来たら乗りたいな。シベチャタイガーやイケダガッツのような、ひとくせある馬に乗ることが多いかもね。その時、焦らないことを覚えたかもしれない。
1000勝を達成したミノルシャープはこれから良くなるね。今は休み休み使っているけど、秋になってスピードを生かす競馬ができれば。昔は細かったけれど体が出来てきたし、将来的にオープンになれる馬。障害を降りたら速いし、障害が良く瞬発力がある。
キサラキクは、男馬の中に入るとちょっと辛いけど、軽いといいレースをする。この馬なりに頑張っている。春はあまり調子がよくない方だけど、今年は動きがいいよね。
バウンティハンターは昔は腰が悪く、(障害で)寝てばっかりだったが、それが解消されてきた。
2016年ドリームエイジカップをキサラキクで制した
今のばんえいについて思うことはありますか。
売り上げは伸びているけど、大事なのは人材育成だよね。馬の触り方を覚えないと。騎手になっても、馬の調子を見極められないといけない。それには5、6年はかかるかな。
若い人が少ないよね。生き物相手だから休みがない。馬優先だからね。それを理解して、我慢ができないとだめ。馬主さんの財産を預かっているわけだから。
若い騎手は、昔よりは騎乗できるようになっているけど、自分でレースを考えられるかが重要。
今後の目標を教えてください。
一つ一つ大事に乗って、その馬にとって一番いいレースができるよう心がけたい。それが自然と勝ち星につながっていく。
イレネー記念もばんえいダービーも(ともに2014年ホクショウマサル)獲ったし、今後一番勝ちたいのはばんえい記念だね。あそこまでたどりつく馬がなかなかいない。駆け引きが重要で、乗ってておもしろいから毎年乗りたいレース。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
3月になり、ばんえい競馬はビッグレースが続きます。20日は大一番のばんえい記念。9年連続のリーディングジョッキーに向け、独走を続ける鈴木恵介騎手に話を伺いました。
ばんえい記念の初騎乗は2006年、ミサイルテンリュウ(4着)でした。当時29歳、20代でばんえい記念に乗るのは珍しいと話題になりました。
騎手になってばんえい記念に乗るのが夢だった。緊張しなかったけど、パドックから客の数が違うし、レースに乗れたのが嬉しかった。
ミサイルにはたくさんのことを勉強させてもらった。レースだけではなく、1トンに耐えられる調教、というのも経験できた。
ミサイルテンリュウでばんえい記念初騎乗(2006年)
2009年まで4回騎乗し、2着1回、3着2回、4着1回と惜しかったですね。2010年はナリタボブサップでした(3着)。
やっぱり(2障害を)ひと腰で上がったこと。「うわ、上がった!」と思った。俺も初めてだし、ばんえい記念史上でも初めてだったんじゃないか。ゴール前で弱いところはあったけれど、一瞬の爆発力はすごかった。
そして2012年にニシキダイジンで初制覇です。
この年はインフルエンザでカネサブラックなどの有力馬が出られなかった。馬場も軽いし、チャンスだと思って臨んだ。障害を降りてから止まらないで、と思った。やっぱり嬉しかったよ。馬主の仙頭さんが癌で、その年に亡くなった。最後に獲れてよかった。
毎年騎乗して、今まで掲示板を外していないのは素晴らしいです。ばんえい記念で騎乗するにあたり、気をつけていることはなんでしょうか。
まずは障害。一発目で、いいところまで上げないと。だいたい、馬が坂の8分まで進めたらいい方。それより手前で止まると力を消耗する。
そして、降りてからもほぼ止まるから、相手がいればそこからの駆け引きもある。どこで刻むかが問題。いっぱいいっぱいになる手前で止めてやらないと、次の脚の出方が大きく変わるから。
出るのも10人だし、それに出て勝つのも大変。どのレースもそうだけど、特にばんえい記念に対応した能力がないと勝てない。
今年はいよいよ、オレノココロで初挑戦です。
2月26日のチャンピオンカップは、ハンデもあったけど久々ということで、気持ちが前に行き過ぎた。馬もちょっと入れ込んでいた。膝を付くことが多い馬だから、折らないよう障害を上げることを心がけたい。
帯広記念(1月2日)を制したオレノココロ
昨年、初挑戦のホクショウユウキは8番人気で5着でした。ばんえい記念初挑戦の馬は、1トンの辛さを知らない分一発があると聞いたことがあります。
それはない! ばんえい記念に限ってそれはないわ。2歳ならあるよ。今まで軽い荷物だったけど、重賞でいいレースをすることはある。
さて、鈴木騎手は多くの名馬に騎乗しています。3歳のイレネー記念はホクショウムゲンで制し、センゴクエースは今年の春から古馬との対戦になります。
ホクショウムゲンは馬格もあり、最近は大人になってレースを覚えてきた。これから楽しみ。
センゴクエースはオープンでもいいレースをしているし、もう古馬に対応はできる。ばんえい十勝オッズパーク杯から出る予定。
4歳のホクショウディープもすごく調子がいいね。
ばんえい記念とは対極の、軽量戦スピードスター賞でナナノチカラは有終の美を飾りました。
軽量戦は、(2障害)直行なので先に山を上げることしかない。障害がないようなものだから、差し脚のいい馬が向いている。馬なりだと、道中遅くなる馬もいるから気合を入れることがあるけど、ナナはだまっていても速い馬だった。障害手前から追うくらい。スピードが違った。
ナナは繁殖に上がって、初年度はカネサブラックを付ける予定です。オーナーが自分で繁殖として持ちたいということで、以前から義父の鈴木勝堤さん(元騎手)の牧場に預ける話になっていた。牧場は和牛が中心だけど、馬もいます。昨年勝堤さんが亡くなってからは義母を中心に、馬に詳しいスタッフとともに経営しています。ナナノチカラの仔には、また重賞を穫れるような仔を出して、自分が乗れればなお嬉しい。楽しみです。
ナナノチカラ、引退レースとなったスピードスター賞を勝利
昨年、名騎手で義父の鈴木勝堤さんが亡くなりましたが...。
今、レースに関してのほとんどの技術が勝堤さんから教えてもらったこと。時にうるさく言われていたのはハミ加減で、毎日怒られていた。騎手によって力や握力が違うから、最後のハミざわりは自分で覚えないとだめだと言われました。
ばんえい記念には多くのファンが帯広に集まります。見どころを教えてください。
2障害とゴール前の駆け引きですね。それと、最後までゴールする馬を見ていってほしい。
俺らが見ていても、ファンが最後まで応援してくれるあの光景は嬉しい。騎手みんなで最後まで見てるよ(笑)。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香