3月27日のばんえい記念で、前哨戦のチャンピオンカップ(2月27日)を圧勝したカネサブラックに騎乗する松田道明騎手にお話を伺いました。
2月28日現在、通算1341勝。今シーズンは115勝でばんえいリーディング3位です。
緻密な計算で200メートルのコースを研究しつくし、周りをあっと言わせてレースを盛り上げるばんえい界のヒールジョッキーでもあります。
斎藤:まずは、騎手になったきっかけを教えてください。夕張市出身ですね。
松田:家はメロン農家。家に馬がいて、馬好きなので騎手目指して競馬場に来ました。
斎藤:勝負服は吉田勝己さんと同じですね。
松田:家(夕張)の近くに社台ファームがあるからね。同じくらい活躍したいと思って。
斎藤:思い出に残るレースはありますか?
松田:ないなぁ...。あまり覚えていないんだよね。相当悪い癖とかは覚えてるけど。
馬のことは体で覚えるから。どのレース、と言われても出てこない。後ろはあまり見ないんだ。
斎藤:騎手として大事なことはなんでしょうか。
松田:いい馬を選んで乗る。そうじゃないと騎手はやっていけないから。調教で乗ってみて、ハミのさわり具合や反動をみる。トータルして、バランスがいい馬や癖の少ない馬を選ぶ。騎手っていうのはそういうものだと思うよ。
斎藤:では、期待の若馬を教えてください。昨年のばんえいダービーを勝った、ミスタートカチはいかがでしょう。
松田:派手さはないけれど、この馬も登坂力がある。早いタイムが向かない馬だから、古馬になって時計かかるレースが増えたら、もっと結果を出すんじゃないかな。
4歳なら、シルクタローはね......去勢手術の影響がまだ残ってるんじゃないかな。馬体がしっかりしたら力つけてくる。楽しみはこれからだよ。なんとかいい方向に持っていきたい。
斎藤:3歳馬だとフナノコーネルでしょうか。
松田:コーネルトップの仔は若い時きままな性格を出すから、乗りこなすの難しいんだ。登坂力がある馬だね。今年の3歳には1頭強い馬(オイドン)がいるけど...。
斎藤:コーネルトップといえば、マルミシュンキですね。先日亡くなってしまいましたが...。
松田:ああ......。自分がいろんな馬に乗れるきっかけになった馬だわ。コーネルトップらしく気ままだけど、強かった。
当歳から何度か見てたんだ。大きな馬体のわりにバランスが良くて、知り合いのオーナーに「欲しい」って言ったんだけど、他の人に買われちゃって。それでも、オーナーの宮本さんに話したら「乗ってみるかい」って言ってくれて、馴らし(馴致)からやった。瞬発力があった馬だったわ。
この馬のお陰で、度胸はついたね。わがままを許しながら乗ることを覚えたし、スピードに慣れることもできた。
サラブレッドもそうだけど、ばん馬も生まれた時の姿が競走馬の体型になるんだよ。
斎藤:カネサブラックについて教えてください。ばんえい記念が近づいてきましたね。
松田:小さいけれど、バネが良くて柔軟性がある。あまりに柔らかい筋肉の馬、そうはいない。性格は繊細なんだよ。馬に対してもおとなしい。ちょっとでもハミが悪く当たると、こずむ(体を固くする)。だから、呼吸を合わせて、できるだけロスを少なくすることを心がけている。
本当はこの馬にとっては、軽い馬場の方がいいんだよ。3分以内のレースがベスト。だから、本番に向けてはいろいろと考えてるよ。違った乗り方とかね。作戦だから言えないけど(笑)。なんとか獲りたいね。
斎藤:ばんえいに来るファンに一言お願いします。
松田:ファンに見てほしいのは、第2障害の手前の、馬と人間の呼吸。止まる動作と、そこで馬と話しながら、タイミングを狙って勢いをつけて前に出る。その瞬間。それは騎手の考えや能力によって違うから、いろんな動きがある。人馬一体の気迫を見てもらいたい。
ゴール前のシーソーゲームもいいけどね。それまでに、どこで止めて馬を休ませるかが大事だから。今年は馬場が重いし、障害も(1月22日から)10センチ高くなったから面白いと思うよ。
馬も辛いけど、人馬が気持ちを盛り上げながら、前に進もうとしているから。
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※インタビュー / 斎藤友香
11月1日に通算1000 勝を達成したのが鈴木恵介騎手。ここ数年で急ピッチに勝ち星を量産し、今年度もばんえいリーディングトップの座を守る大活躍。ファンからも絶大なる信頼を集めている。
昨年度(09 年4月〜10 年3月)は前人未到の年間200 勝を達成した。
200という数字を意識したのは11月頃ですね。その前の年度が173 勝で終わって、それまでの年間最多勝記録に1つだけ届かなかったんですよ。だから昨年のシーズン当初174 勝が最初の目標でした。それがある程度見えてきたとき、次の目標を200 勝にしたんです。ただ、その数字が近づいてからは冷静さを欠いたというか、ムダに力が入ったレースがいくつかありましたね。
それでも着実に勝ち星を積み重ね、シーズン終了まであと2日に迫った3月28日に大記録達成となった。
いやあ、本当にホッとしましたね。肩の荷が降りたな、そんな感じがありました。改めて振り返ると200 勝って本当に大変ですよ。周囲はまた今年も、という目で見ているようですが、競馬は自分だけの努力で結果が決まるわけではないですし、継続するのは難しいことだと思います。
その年間200 勝を達成したあとに臨んだばんえい記念では、惜しくも3 着という結果。勢いに乗っての初制覇とはならなかった。
あのばんえい記念は、まさに夢を見ましたね。1トンを引っ張っているのにナリタボブサップが第2 障害をひと腰で登りきったときには、乗っている自分がビックリしました。そのあとはなんとかゴールまでもってくれと思いながら追ったんですが、やはり1トンですからね。1回止まってしまったら、もういい脚は使えません。それにあのときは1、2着馬がとなり同士で競り合う形。ボブサップは少し離れたコースでしたから、その分もあったと思います。それにしてもばんえい記念を勝つのは難しい。少しずつ近くには来ているんですが......。
しかし、あのときのレースぶりは観客に強烈な印象を残した。今年こそと期待するファンは多いはずだ。
その通りだと思います。でも今シーズンは砂も入れ替わりましたし、障害の高さも変わりました。だからまた一から挑戦という気持ちで臨むつもりですよ。
鈴木恵介騎手は今年でデビュー13年目だが、ここ5 年間で700 勝以上。一気に急上昇という感がある。
新人のときは、そこそこ乗れたしそこそこ勝てたんですよね。でも減量期間が終わってからは、どちらもサッパリ。それが3 〜4年続きました。イライラしましたし、実は騎手に向いていないんじゃないか、とも思いましたね。でもそんな時期にふと『自分の気持ちが新人のままだな』と思い当たったんです。デビューの頃はいろんな人が気にかけてくれることで、ある程度は回っていきます。そのことに気づいたとき、他力本願の気持ちを忘れて調教や作業を一所懸命することに決めたんです。そうしたら少しずつ騎乗依頼が増えてくれました。でもそこで心がけたのは、すぐに結果を出そうと考えないこと。短気な性格を出さず、普段から冷静に。そして馬を怒らないように。その思いは今も続いています。
ばんえい競馬で多くのファンが注目するのは第2 障害以降だが、本当の勝負どころはその前にあるのかもしれない。
まずパドックで馬に乗るときが最初の勝負。直接またがりますから、そのときの自分の気持ちが馬に簡単に伝わってしまいます。だから馬場入場で人馬の呼吸をチェックするのは重要だと思います。
そして200メートルをどう組み立てるのか、というのが次の勝負。ぼく自身が念頭に置いているのは、第2 障害の下に着くまでに、どれだけ馬に負担をかけずに勝てる位置をキープできるかということ。つまりペース判断ですね。そのためには他馬の能力の把握が重要です。その正確さが結果に結びつく大きな要素なのかもしれません。
わずか200メートルの競馬だが、奥深いのがばんえい競馬の面白さ。新人騎手がいきなり活躍する例が少ないのも、経験がモノを言う競技の特性なのだろう。
それは大いにありますね。ばんえいのレースは馬に息を入れさせることが重要ですが、人も息を入れる必要があります。それが体でなんとなく理解できてきたかな、と思えたのは最近ですよ。本当にどこまでいっても勉強です。結果は良くてもレース内容に納得いかないこともありますし。
しかし競馬ファンのなかで、馬ソリに乗ったことがある人はほとんどいないはず。その ため、観客には競技の奥深さが、なかなか伝わりにくい面がある。
レース中も「叩け!」とか「早く仕掛けろ!」というお客さんの声がよく聞こえるんですよ。何で止まるんだと(笑)。でも、そういうのに惑わされてはダメですね。
ぼくはレースの前に自分の乗る馬を調教するとき、馬が自分の声を聞き分けてくれるようにと思いながらやっています。もしかしたら、馬を動かすには叩くよりも声のほうが重要かも。声をかけたら動いてくれることって、けっこうあるんですよ。
考えることや実行することの多さが、ばんえい競馬の難しさなのかも。となると、普段 から平地競馬以上の努力が必要だ。
ナイターの時期も昼間開催の時期も朝のスタートは同じ2 時。だからナイター期間は寝るのも30 分とか、本当に仮眠です。それだけにシーズンが終わったときは、3月までよく頑張ったなあという達成感でスカッとした気持ちになります。でもその前にばんえい記念があるんですけどね。本当にそれは1年を締めくくる大きな目標です。
最近はパドックで「無理するな!」というような声がかかることがあるらしい。
「ぼくが来たら配当が安いかららしいです。でもそんなことを言われたら、『よおし、勝ってやる』と逆に火がつきますよ」
短気で負けず嫌いというのは、ばんえい競馬においてはマイナス要素。しかし鈴木恵介騎手はそれを制御する術を知っている。となると、彼の天下はしばらく続いていくことになるのかもしれない。
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鈴木恵介(ばんえい)
すずきけいすけ
1976年10月7日生まれ てんびん座 AB型
北海道出身 服部義幸厩舎
初騎乗/ 1998年1月10日
地方通算成績/ 7,995勝1,017勝
重賞勝ち鞍/帯広記念、ホクレン賞、黒ユリ賞、 ポプラ賞、ばんえいダービー、ばんえいグランプ リ、北斗賞2 回、天馬賞、ばんえい菊花賞、クイ ンカップ2回、ヒロインズカップなど18勝
服色/胴白・紫蛇の目ちらし、そで白・桃3本輪
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※成績は2010 年11月18日現在 (オッズパーククラブ Vol.20 (2011年1月~3月)より転載)
今年3月のばんえい記念をニシキダイジンで制し、6月には通算2000勝を達成。信頼度も抜群でファンも多く、今シーズンばんえいリーディング2位の藤野騎手にお話を伺いました。
斎藤:ばんえい競馬に来たきっかけを教えてください。
藤野:出身は道南の森町。うちには牛と馬がいたんだ。小学校の時は近所のばん馬大会に出たり、馬で畑起こしたこともあるよ。
高校中退してからは、札幌のガソリンスタンドで働いていたのさ。やめて実家に帰った時に、近所の馬主さんに「遊んでるんなら競馬場入れ」ってすすめられたの。それが20歳の時。
斎藤:厩務員から、騎手を目指したのはなぜでしょうか。
藤野:すんげーかっこいいべや。だって、その当時活躍していたのは、木村卓司(元調教師)、久田守、金山明彦、岩本利春(3人とも現調教師)......。俺は7年目で受かったな。
受かったら、3月に那須の教養センターで研修があるのさ。新人騎手と制裁多い騎手が受けるの。5泊6日くらいあったかな。最後の日に初めて隣の部屋に行って、制裁を受けて来ていたどこかの騎手のところに行ったら、酒飲んで見つかってな。制裁受けて、1開催乗れなくてデビュー遅れたんだ。
研修から帰るときに家に電話したら、うちの長男が生まれてよ。忘れもしない日だ(笑)。 デビューの日は、朝の調教が終わってから一度寝たら、寝過ごして、検量に遅れて戒告よ。また怒られた。
斎藤:大物ですね(笑)。
藤野:最初の頃は、1日に1、2頭しかレースに乗れなかったな。若手騎手の減量特典も、今みたいに年数はなくて、30勝未満だけだったし。
デビューから10年くらい経った頃かな......、当時所属していた宮崎正徳厩舎にフジリキって馬がいたの。すんごい好きだったの。キレイな栗毛でな。レースぶりが好きなのさ。2障害手前に着くまでが早いんだけど、全然障害登らないの。障害から降りたら、ゴールまですんごい早いの。
違う騎手が乗ってたから「俺にやらしてくれ」って言ったんだ。調教でハミ変えたりして、障害登らせて。それからたくさん勝ったよ。数乗るようになったのはこのあたりからだな。
斎藤:シマヅショウリキ(ばんえい記念連覇など重賞9勝)について教えてください。
藤野:友達の親父が持っていた馬だから、能検からずっと乗せてもらっていたんだ。体は小さいし、腰のあたりが生まれつき不自由だから、頂点(ばんえい記念)まで取るとは思わなかった。フクイチが、初の3連覇なるか、って盛り上がっているときに、それ阻止してな(笑)。登坂力がすばらしかった。
斎藤:スーパーペガサス(ばんえい記念4連覇、重賞20勝)はいかがですか。
藤野:途中から乗ったからな。乗りたいとは思っていたけど、まさか俺に回ってくるとは思わなかった。オイドン(現2歳最強馬)に似てるよ。走るのが好きで、前に行くことしか考えていない。いい意味で、バカなんだわ。普段はおとなしいのに、レースになると自分で前に行くタイプだから。オイドンも、ペガサスみたいになるぞ。
ペガサスは、顔がかっこよかったよな。死ぬ1カ月前に一度会いにいったんだ。でも近づけなくて、遠くから見てた。寝たきりだったもの。それでも首から上は動くからこっちを見るんだ。その顔はかっこよかった。それは変わらなかった。
斎藤:ニシキダイジンについて教えてください。ばんえい記念は、前日に話を聞いたとき「勝つのは難しい」とおっしゃっていましたよね......。
藤野:荷物(負担重量)を考えれば、得意だからチャンスはあると思ったよ。ダイジンの厩務員の佐々木一夫さんは、俺が山本幸一厩舎にいた時に一緒だった人なんだ。レース後「カズさん、やったな。」っていったら「やったー」ってな。今も調子はいいし、1月2日の帯広記念を焦点に仕上げてるよ。
斎藤:レースで大事にしていることはなんでしょうか。
藤野:うーん......10頭いる中で、目標となる馬の様子を見ることかな。俺、無理なレースすることあるから制裁も多いんだよ。
障害上がらない馬が好きなんだ。自分がやって、上がったら面白いでないか。ここで上げたら勝てるかな、この位置で届くかなって、レースの楽しみあるべや。
そう言ったら、癖馬を頼まれるんだ。それをまた、俺は喜んで受けるんだ(笑)。その時? ハミ変えたり、攻め馬を工夫するんだ。平地競馬の騎手みたいに背中に乗るんなら、ハミと人間が近いしょ。それでもよれることがあるのに、ばんえいは伝える方法がハミしかなく、しかも遠い。だから馬との戦いだ。グリーンのホースの間を走らせるのが仕事だもん。
斎藤:騎手生活24年の結晶ですね。
藤野:先輩から教えられたからな。騎手に大事なのは、考え方に柔軟性があるかどうかだと思う。それと、研究熱心なこと。調整ルームの娯楽室に、レースのビデオがあるんだ。若いやつには「何回も見ればいいしょ」って言うんだ。他の人が、自分が乗っていた馬をどう乗って勝ったか。今の若い騎手は、あまり見ないものな。時代も違うけれど、おとなしいもの。
斎藤:では最後に、ファンに一言お願いいたします。
藤野:大きな馬の走る雄大な姿を見に来てください。
帯広記念でのニシキダイジン? 前の方にいます(笑)。
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※インタビュー / 斎藤友香
世の中に「競走」はいろいろあるが、その途中で「止まる」という動作が必要なのは、バイアスロン
とばんえい競馬くらいのものだろう。初めて観戦した人のほとんどは、そこで『?』となるらしい。
しかし、それを含めた駆け引きが魅力のひとつでもあるのだ。
世界で唯一のばんえい競馬で、平成17年度にリーディングジョッキーとなった鈴木勝堤騎手に、
まずは「止まる」話から伺った。
■スタートからゴールまで休まずに行くことは無理なんですよ。止まって息を整えないと障害を越える
ことはできません。『せーの』という感じで一気に行かないとダメなんです。こちらがいくら「行け!」と
合図を送っても、馬は苦しくなると止まってしまいます。
呼吸を整えて、いかに最後まで楽に行かせられるかが最大のテーマだからこそ、途中で止まらな
ければいけないんです。そこがばんえいの勝負ポイントでもあり、おもしろさだと思います。
だから、荷物が重いレースになればなるほど、力の差がハッキリする感じがありますね。
さっきのレースも、馬がゴール付近で止まりそうだなと思っていたら、やっぱり止まって。
ソリの上からゴール板を見たら10cmくらい過ぎていて、いやー、助かりました。
1枠だったからわかったけれど、真ん中だったらわからないものね。そういうときはドキドキしますよ。
この前も先頭だったのに、ゴールラインの上でピタっと止まって2着になってしまいましたし。
直線200mの競馬だが、逃げ、差し、追込、乗り方はさまざま。戦略というものが大きなポイントを
占める競技なのかもしれない。
■人気を背負って、勝つレースをしようというときには、前半は早めに第2障害の下まで行かせて、そこで
息を整える時間を長く取れるようにしています。そして一気に駆け登る、という感じですね。
ぼくはほとんどの騎乗予定馬をレース前日の調教時にチェックしています。そのときの動きが悪かったら
カツを入れたりして。そしてすべてのレースで他馬の弱点などを頭に入れて、どんな展開にしたらいいか
を考えて乗るんです。たとえばぼくの馬がノド鳴りを抱えている場合だったら、遅い展開を作って息を入れ
られるようになどと。
ひとまず廃止のピンチを乗り越えたばんえい競馬。コースから見る客席はどう映っているのだ
ろうか。
■最近はお客さんが増えてきたのがわかりますね。若い人も増えてきました。エキサイティングゾーン
からの応援の声もよく聞こえますよ。でも、その応援の声に惑わされないことも必要で、第2障害の
前で止まってじっくり脚をためていると「何やってんだ! 早く行け!」ってどなられることがあるんですよ。
10コースだとよけいにピンポイントで狙われて、本当はもう少しタメたいんだけれど「勝堤、行けえ!」って
どなられて、ついついGOサインを馬に出したら障害をぜんぜん越えられなくて「ああ、やっぱりなあ……」
ということも。他の騎手も同じことをよくボヤいていますよ。馬券を買ってくれている人の気持ちもわかるの
ですが、第2障害の前では静かに見守っていてほしいですね(笑)。
2007年度は帯広競馬場での単独開催。そのコースの特徴を教えてもらった。
■ここはばんえい4場のなかでいちばん難しいですね。帯広は障害が得意な馬が強いコースなんです。
障害をいかに楽に越えられるかが最大のポイントで、そして結果を出すためにはキッチリ乗らないと
ダメなコースでもあります。ですから前半も重要で、第2障害の下に着くまでに、少しでもよけいな負担を
かけると、勝つのは厳しいように感じます。
来シーズンは、夏も帯広開催となります。おそらく馬場は重くなるでしょうから、切れ味のある馬が台頭
してきそう。でもそうなると障害を登りきれるパワーがあるかどうかが微妙になりますから、むずかしい
ところですね。
トップジョッキーでいられる理由を、自己分析していただいた。
■ぼくの父は馬車使いだったんですが、手綱で馬を御していなかったんです。「チョイ」でゆっくり進んで
「ハイ」で駆け足、「オイ」と言ったら止まる。その記憶を思い出して、ばん馬の気持ちを考えるようになって
から、成績が上がってきたように思います。いまは年間でだいたい150くらい勝っていますが、勝てると
思っていなくて結果として勝ったレースって、そのうち50か60くらいはあるんですよ。
力は下でもその馬にとって合っている乗り方をすると、結果につながることが多い気がしますね。
逆に強い馬で勝ちに行こうとして負けることもあります。ぼくが思うに、ばんえい競馬は、勝ちを意識
せず、いかにいいレースをできるかが重要なんだと思います。
再出発となるばんえい競馬の魅力についても語ってもらった。
■これは本当におもしろいと思うんですよね。ぜひたくさんの人に見てもらいたいです。残さなければ
いけない競馬だと思いますし、すごく奥が深いんですから。ばんえい競馬には、よそから転入してくる
馬がいませんし、各馬の成長をずっと追っていけるところもおもしろい点だと思います。
馬というのは人間が愛情をもって接すれば接するほどに、人に応えてくれるもの。その魅力を多くの人
に知ってもらいたいですね。
「現役を続けられることになったから、まだまだ頑張りますよ」騎手会長でもある鈴木勝堤騎手は
力強く結んだ。しかしそのあと……「でもばんえいって、本当にむずかしいんだよなあ」ポツリと
岩手なまりで苦笑い。まさに心の底からにじみ出た言葉だった。帯広競馬場にて、はじめて1年を
通して行われるばんえい競馬。トップジョッキーの地位を確立したとはいえども、理想追求の騎乗は
これからも続いていくのだろう。
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鈴木勝堤(すずきしょうてい)
1959年1月1日生 やぎ座 A型
岩手県出身 鈴木邦哉厩舎
初騎乗/1981年4月26日
通算成績/15,279戦2,036勝
重賞勝ち鞍/ばんえいグランプリ2回、北見
記念4回、帯広記念3回、イレネー記念、ば
んえいダービー2回、岩見沢記念、チャンピ
オンカップ3回など34勝
服色/胴白・水色一文字3本、そで桃
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※成績は2007年2月22日現在
(オッズパーククラブ Vol.5 (2007年4月~6月)より転載)