
最近若手騎手の活躍がみられるばんえい競馬の中でも、今年度重賞初制覇と通算100勝を達成。その先陣を切るのが2009年デビューの菊池一樹騎手です。今シーズン39勝を挙げてリーディング15位(1月6日現在)。デビュー5年目の心境をお聞きしました。
斎藤:乗り方で変化したと思うところはありますか。
菊池:差し馬でも、落ち着いた騎乗ができるようになりました。今は、逃げ馬と差し馬では、差す方が好きです。逃げ馬は、逃げる競馬をしなければならないぶん、2着や3着になりやすいですが、差す馬だと勝つか負けるかだから、その分勝ちやすい。
2年目に転厩した田上厩舎の馬も、動かせるようになったと感じるのは今年の春くらいからです。イーグルという馬は、障害で息を入れるタイミングが少しでもずれると上がらないんです。そのような性格だから今年13歳でも元気なんでしょう(笑)。息が入るペースがわかってきたので、後ろからでも行ける自信はつきましたね。
斎藤:昨年4月、サカノテツワンで100勝を達成しました。それから年度内10勝して減量がなくなりましたが、その後苦労した感じは受けませんでした。
菊池:減量なくなったから(騎乗が減って)乗れないべな、と思っていたけれど、乗せてもらえたからです。それから成績が上がりました。
斎藤:同期には日本プロスポーツ大賞新人賞を受賞した長澤幸太騎手がいますが、意識はしていますか。
菊池:1年目からあきらめました(笑)。同期だからと気にはしていないです。
斎藤:初重賞制覇は、10月ナナカマド賞(2歳)のショウチシマシタで、1位入線馬の降着による制覇でした。
菊池:ショウチシマシタは真面目な馬です。ゴール後は、先輩方も集まって話をしているし、これで(重賞を)獲っちゃうのか、インタビューでどのような質問をされるのかな、という気持ちはありました。でも、獲ったら獲ったでいいかなと。
斎藤:笑顔のインタビューだったので、ファンも見ていて気持ちよかったですよ。また、12月30日の2歳重賞、ヤングチャンピオンシップは2着(アグリナデシコ、7番人気)で惜しかったですね。
菊池:勝った馬が強かったです。アグリナデシコと姉のアグリローズは似ていて、2頭ともものすごく真面目。ハミをぐっと、持っていってくれるんです。牝馬は真面目な馬が多いですね。ただ、ナデシコは変なクセがあって。障害を降りたらおしっこをするんです。牝馬では、気合いを入れるとびっくりして、おしっこをする馬がたまにいるんですが、ヤングチャンピオンシップの時もびしゃびしゃでした。
斎藤:ばんえいの騎手は、ほぼ真下にいるようなものですから大変ですね。この時もですが、穴をあける騎手という印象があります。
菊池:人気がないのは乗りやすいです。印がついていたら、ある程度前に行って競馬をしなくてはいけないですが、じっくり構えられる。ばんえいは5重勝や、最近7重勝もスタート(オッズパークLOTO)しましたから、人気薄で勝てるといいですね。
斎藤:もともと、平地競馬のファンだったんですよね。
菊池:はい、テイエムオペラオーが勝った有馬記念(2000年)を見た中学生の時にのめり込みました。出身は岩手ですが、馬の仕事をしたいと高校時代、求人で見つけてばんえいの世界に入ったんです。騎手という点では、平地では難しいのでばんえいでよかったと思いますね。いろいろと経験させてもらっています。
今でもJRAは見ますよ。オルフェーヴルのダービーや阪神大賞典はおもしろかったですね。ゴールドシップは強いです。JRAジョッキーデーで、JRAの騎手に会うこともありますが、藤田(伸二)さんは男らしくてかっこいいですね。いろいろとお世話になっています。
斎藤:今後の目標を聞かせてください。
菊池:(繰り上がりでなく)1位入線で重賞を獲りたいです。
斎藤:そうですよね。期待している馬はいますか。明け3歳馬はいろいろな馬に騎乗していますね。
菊池:自厩舎のマツリダワッショイで大きいレースに出られればいいなと思います。多分、今3歳で一番大きい(1月4日現在1065キロ)んですよ。力はあるから、重いレースで有利だと思います。古馬では、メンコイワタシの調子がいいですね。重賞は、ゴールドシップの小林オーナーが寄付していただいた、特別報奨金の出るレースを獲りたいです。(報奨金は)ものすごく励みになっています。
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※インタビュー・写真 / 斎藤友香
今年1月、ばんえい競馬でデビューした舘澤直央(たてさわなおひさ)騎手。9月24日現在9勝だが、一つ一つの乗り鞍を大事にし、連対率は2割3分で人気よりも高い着順に持ってくることも多い。好青年ぶりが関係者からの信頼を集めている。
斎藤:盛岡市出身で、子どもの頃から馬とふれあっていたそうですね。
舘澤:近くにポニーやアラブがいて、小学校低学年の頃からよく遊びに行ってました。馬の世話をしていたおじいちゃんやおばあちゃんが、世話を手伝うと馬に乗せてくれるんです。地元の資料館は曲がり家だし、周りにも馬つながりの人が多く、馬力大会につれていってくれた人が金田調教師の親戚だったことから、ばんえい競馬のことを知りました。
中学卒業後はすぐに競馬場に行きたかったのですが、親に高校は出ろと言われたので水沢農業高校に行って乗馬部に入りました。
大井の千田洋騎手は同級生です。千田はうまかったですが、自分はたいしたことなくて。馬場も部室も、水沢競馬場にあるんです。
斎藤:サラブレッドの騎手になることは考えなかったのですか。背は高いですが。
舘澤:大きな馬やポニーの方が身近なので。身長は今183センチあります。高校2年の時に、ばんえいの存廃の話が出ました。金田調教師から資格を取っておいたほうがいいと言われたことと、農業や畜産に興味もあったので、卒業後は農業大学校に行って、人工授精の資格を取りました。
それから金田厩舎に入りました。騎手になりたいという気持ちもありましたが、それよりまず厩務員としての仕事を覚えたかった。先生が受けさせてくれたので次の年に受験したら、1回目で通って。自分でいいのかな、と思いましたが、やりながら覚えていこうと。先生は、他の厩舎のレースも見ていてくれるんです。
斎藤:研究熱心だそうで、ある騎手のところに1人でお酒を持って訪れ、サシで飲んだと聞きました。
舘澤:はい、先輩たちは優しく教えてくれるので、感謝しています。騎手全員が憧れです。ハミの当て方、体の使い方、すごいです。はじめはレースのたびに毎回緊張していました。以前より緊張はしなくなりましたが、まだまだです。
斎藤:勝負服の由来を教えてください。
舘澤:地元にいた時に、いつも世話をしていたトモエリージェント(1991年根岸Sなど)の、現役時代の勝負服を参考にしました。オーナーには今でもお世話になっていて、厩舎にはワンダーボーイを入れてくれているんです。
斎藤:ワンダーボーイでは最近上位入着と、結果を出していますね。
舘澤:調教師や周りの人たちのお陰です。僕は乗せてもらっているだけ。荷物に慣れてきたし、最近、担当馬になりました。それから折り合いがつくようになった気がします。今はワンターボーイを含めて担当馬は5頭。馬の世話をする時間が多いですね。
斎藤:初勝利は2月13日1Rのマサムネワールドでした。
舘澤:勝てる馬に乗せてもらったからです。中島調教師は、新人の自分に声をかけてくれたんです。ありがたいです。それと前日、それまで騎乗していた蔵人さん(船山騎手)がビデオを見ながらいろいろと教えてくれました。蔵人さんは、同じく背が高いので普段から声をかけてくれるんです。よく双子とか兄弟って言われます。背が高いと、バランスを取りづらいんです。松田さんや浅田さんも背が高いので、重心を低くできるよう参考にしています。浅田さんは厩舎の先輩なので、いろいろと教えてもらっています。
斎藤:最後に一言、お願いします。
舘澤:騎手になれたのも、調教師や周りの人たちに協力してもらったから。自分1人では受からなかった。応援してくれた人に、感謝の気持ちです。まずは最低限の基本をしっかり固めたいです。ばんえい競馬は人馬一体になって坂を登る迫力がすごいですよね。多くの人にこの競馬を見てほしいです。
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※インタビュー / 斎藤友香
2011年1月8日の初騎乗初勝利後、29日には減量特典のない特別戦でも勝利。10月には重賞初騎乗初勝利のほか1日5勝(1日最多勝利タイ)など、ばんえいの新人騎手記録を次々と塗り替えている島津新(あらた)騎手(21)。いずれもばんえいからは4人目となる、2011年度日本プロスポーツ大賞新人賞、NARグランプリ2011の優秀新人騎手賞を受賞。デビュー年にばんえい新人史上最多の86勝、3月5日現在通算95勝を挙げており、100勝目前だ。
斎藤:2つの新人賞受賞、おめでとうございます。引っ張りだこですね。
島津:あちこち行って、正直ちょっと疲れましたね。白鵬は大きかった! 内藤大助選手は、同じ北海道出身だからか、世間話をずっとしゃべっていました(笑)。東京でご飯も食べましたが、混んでるし、帯広の方が美味しいかもしれません。
斎藤:新人賞はデビュー時からの目標でしたね。いつ頃獲れると思いましたか。
島津:重賞獲ったとき(10月16日クインカップ、重賞初騎乗で4番人気のキタノサクラヒメで勝利)。重賞に乗りたいなぁとはずっと思っていました。勝ててほっとした。キタノサクラヒメは、ここを勝ってクラスが上がり、重量も増えて苦戦しています。
斎藤:新人賞受賞のインタビューでは「勝利数には満足しているけど、内容に満足していない」とコメントしていましたね。満足できない点を具体的に教えてください。
島津:レース運びですね。勝てるレースで勝てなかった。今、悩みどころです。キタノサクラヒメのように、今まで勝ってきた乗り馬たちが、クラスが上がって勝てなくなっています。なんとか勝てない馬を勝たせたい。負けても、馬に山を上げる自信をつけさせるような、次につながるレースをしたい。最初からそうしたいとは思っていましたが、最近は実際に考えられる余裕が出てきました。
斎藤:50勝して、減量特典がなくなったあとも苦労したようには見えませんでした。その余裕はどこから来るのでしょうか。
島津:そんなことないですよ。星(減量)が取れた後は苦労して、藤野さんにアドバイスを聞いたりしました。がむしゃらにやっていたら、秋ころには余裕が出てきた感じです。
斎藤:えんじ色の勝負服は、同じく道南出身の藤野俊一騎手を参考にしたそうですね。
島津:父が持っていたシマヅショウリキ(99、00年ばんえい記念など重賞9勝)に乗るなど仲がよかったので、昔から知っていました。今でも尊敬しています。酔っ払って電話かかってきたりしますが(笑)。
斎藤:さて、騎手になったきっかけを教えてください。競馬場に来て1年半、一発合格でしたね。
島津:祖父、父が馬主でした。北斗市は草ばん馬も盛んなので、子どもの頃からポニー引っ張っていました。騎手になろうと思ったのは保育園くらいの時かな。ばんえいの存続が危なくなった時にどうしようか悩んだこともありますが、父のつながりで岩本利春調教師にお世話になりました。
斎藤:1年たって変わったと思うことはありますか? ファンレターとか来るでしょう。
島津:ふけたなぁって...(笑)。写真撮られるのは慣れました。インタビューはまだちょっと...(笑)。ファンレターは来ないですよ。バレンタインのチョコもこなかったです...。(好きな)タイプはおとなしい子です。
斎藤:3月13・20日に放映されるNHKドラマ『大地のファンファーレ』には、主役のライバルとしてエリート新人騎手が出てきますが、モデルは島津騎手じゃないですか?
島津:いや...どうかな(笑)。ドラマには一瞬出ています。ちょっと笑ってますが(笑)
斎藤:普段はどうやって過ごしていますか。また、仲がいい騎手はいますか?
島津:厩務員作業があって遊ぶ時間がないから...釣りは好きです。夏は1人で海に行きました。普段は1人で行動しますが、謙(西謙一騎手)や幸太(長澤騎手)とよく話します。
斎藤:「ケン」や「コウタ」って...先輩ですが、そのように呼ぶんですね。厩舎で、みんなでご飯を一緒に食べたりはしないんですか?
島津:自炊しています。料理はそんなにしないけど...米は炊きます。カップラーメンは食べないです。体によくないから。170センチ60キロです。食べても太らないんです。寝たら元に戻る。弁当箱(騎手重量を合わせる重り)は、佐藤希世子元騎手にもらったものを使っています。
斎藤:よく特別で騎乗しているのはアグリミズキですね。
島津:かわいいですよ、まじめで。おでぶちゃん。1100キロくらいあります。めんこいです。今担当しているのは、父が持っているハヤテショウリキ、アウルメンバー、キュートエンジェル。キュートエンジェルかわいいですよ。でぶだけど。あとは、春にテスト受ける2歳馬。ニシキウンカイの下です。動物は全般好きで、イヌ飼ってます。名前はナナ。(レースでは)逃げるのは楽ですが、追い込みが好きです。
斎藤:乗ってみたい馬、レースはありますか?
島津:ニシキダイジンかな。本当のオープン馬というのがどのような馬か、乗ってみたい。レースでは、大臣賞(ばんえい記念)もですが、イレネー記念も勝ちたいですね。2歳の(最高峰)、っていうのはかっこいい。
斎藤:ばんえいの見どころを教えてください。
島津:馬の迫力や大きさはもちろんですが、そりの上で踊るような、騎手の動きを見てほしいです。僕は藤野さんの左パンチを真似します!
斎藤:扶助として、そりの上で体を揺らすんですよね。左パンチは右手に持った手綱で馬の左側のお尻をたたく時。
島津:はい、邪魔にならない程度に。藤野さんは独特のリズムがあって、きれいなんです。
斎藤:今後の目標を教えてください。
島津:馬を育てられる騎手になりたいです。左パンチ見てください(笑)。馬券、特に島津新の馬券を買って!
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※インタビュー・写真 / 斎藤友香
ばんえい競馬で現役最多勝の3205勝(1月9日現在)をあげ、"ミスターばんえい"金山明彦元騎手(現調教師)の3299勝に迫りつつある藤本匠騎手(49)。
昨年は日本プロスポーツ大賞の功労賞も受賞した。騎手会長としてもばんえいを盛り上げ、今年度はリーディング3位につけている。
斎藤:騎手になったきっかけを教えてください。
藤本:叔父さんが馬主で、15歳の時に勧められて競馬場に来たんだ。はじめは騎手になるつもりはなかったけど、所属した本沢政一厩舎にいた金山さんに試験受けてみれ、っていわれて。それでも厩務員長かったんだよ。6年やった。
金山さんがいるから本沢厩舎には馬が入るし、金山さんには騎乗依頼がいっぱい来るから、それで乗れない馬にも乗せてもらっていた。初勝利のキタノウルフも特別戦だったし、新人の時から一般・特別関係なくたくさんの馬に乗せてもらっていた。この頃は、金山さんのほかにも久田(守)さんや工藤(正男)さんなどの名騎手がいて、目の前で学ぶことができたし、周りの人に恵まれていたよね。
斎藤:金山調教師に教わったことで、印象深かったことは。
藤本:新馬慣らすときの調教の仕方だね。今も大切だと思ってるよ。ハミのかけ方に対しては厳しかったよ。暴れても、若馬だからしつけていかないと。怒らないといけないし、逆にほめてもやらないといけない。ズリ引きでも、俺はだらだら歩かせるのはいやだから、きちっとハミをかける。その積み重ねが大切で、勝ちにつながると思っている。重要な部分だ。馬も人も、努力しなければ上に立つわけないんだ。
俺は、自分でしないと気がすまない方だから、全部自分で納得いくまでやる。ちゃんとやらないと、騎乗停止になるようなレースになるし。どんな馬でもどこかで花開くこともあるから、若馬は大事に乗ってやらないとだめ。馬が自分で自信もってくるといいレースするから、そこを人が見極めることも大事だ。
斎藤:思い出の馬はサカノタイソン(19連勝、ばんえい記念など重賞6勝)でしょうか。
藤本:サカノタイソンは毎回1番人気だから、その中で勝つことの度胸をつけさせてもらったよね。ばんえい記念を初勝利したテンショウリも、勝つとは思わなかったから思い出に残っている。
斎藤:繁殖生活を送っていたアンローズ(岩見沢記念3連覇など重賞10勝)も昨年亡くなってしまいましたね。
藤本:岩見沢は強かったね。ひと腰で上がるタイプだから、傾斜のきつい帯広は合わないのさ。調教でだいぶよくなったけど。ばんえい記念が岩見沢や北見だったら獲ってたんじゃないの? おとなしい馬で、調教やレースで苦労したことはなかった。忘れ形見のキタノキセキ(牡3、初年度産駒)も走ってるよね。9歳まで走って、あれくらいの仔を出すんだからたいしたもんだ。
斎藤:1月3日の天馬賞(ファーストスター)をはじめ、乗り替わりの勝利が多い気がします。私が驚いたのは、2009年の旭川記念で、追い込み馬のフクイズミを先行させて勝ったレースでした。
藤本:乗り替わりっていうのは馬が動くものなんだ。そりゃ乗り方が違うんだから馬は驚いて動く。癖のある馬ほどそうだ。もちろんレースは見ているからどんな馬なのかはわかるけど、先入観で決め付けるよりは、その時のレースの流れが一番大事。型にはめちゃうのもよしあしなんだよな。
斎藤:どうやって流れをつかむのでしょう。
藤本:いいポジションにいるのが大事だけど、それより、レース前の調教で馬の足りないところを補ったり、体力つけたりしているから。やってないと、どこまで無理していいかわからないけど、これだけやってるんだから、って自信があるからレースを組み立てられる。逆にいつも同じ馬だと、馬も慣れてくるから、メリハリをつけて調教している。途中まで厩務員さんにやってもらってから、厳しい乗り方をすることもあるよ。
斎藤:調教は何時頃からつけているのでしょうか。
藤本:レースがある日は、5時~7時半の間に障害で12~13頭の調教をつけている。レースがない日は8時くらいまでズリ引きすることもあるよ。
斎藤:これから期待している馬はいますか。
藤本:マゴコロ(牝3)はセンスが良くなってるね。身が入ってきた。ブラックパール(牝4)もこれからもっと良くなっていく。ホクショウダイヤ(牡9)かい? 720~30kgくらいまでならこなせるんだけど、(負担重量を多く)積むと、障害の動きがまだ固いんだよな。それ以上でもうまく(末脚が)切れるようになればいいね。
斎藤:藤本騎手は札幌出身ですが、今は帯広に家がありますよね。
藤本:俺はたまたま(運が)よかったよね。他の騎手は他の3市(06年度まで開催を行っていた旭川、岩見沢、北見)に家を建てた人が多いから。4人いる子どものうち、3人は独立したから今は嫁と娘1人しかいないんだ。帯広は本当に寒いけど、雪は少ないし、夏はからっとして住みやすい。食べ物、特にスイーツおいしいからね。豚丼もあるし、温泉もあるし。
斎藤:さて、金山元騎手の最多勝(3299勝)まであと100勝を切りました。来年度には達成できそうですね。
藤本:ケガなく、病気せずにコンスタントにしてれば......。でも、金山さんのころは今より開催日数が少なかったから、たまたま数が並んだっていっても、越えたことにはならない。今の日数なら、金山さんは5000勝くらいしていたと思うよ。1日の最大騎乗数も今(7鞍)より少なかった(6鞍)しね。
これからだと、(鈴木)恵介が匹敵するくらい。あいつは脂が乗ってるよな。俺もだけど、30~40歳の頃が最高だった。45を過ぎるとちょっときついなぁ......(笑)。たまに恵介に追い負けすることあるもん。
斎藤:藤本さんは、あまり病気した話を聞きませんよね。
藤本:20年くらい前に手にひび入って1カ月乗らなかったくらいかな。まぁ、熱あってもあばら骨にひび入っても乗るし。丈夫だから。
斎藤:では最後に、ファンに一言お願いします。
藤本:雪が降りながらも一年通してやってるんで、足を運んで、生でばん馬の吐く白い息を見てください。
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※インタビュー・写真 / 斎藤友香
3月27日のばんえい記念で、前哨戦のチャンピオンカップ(2月27日)を圧勝したカネサブラックに騎乗する松田道明騎手にお話を伺いました。
2月28日現在、通算1341勝。今シーズンは115勝でばんえいリーディング3位です。
緻密な計算で200メートルのコースを研究しつくし、周りをあっと言わせてレースを盛り上げるばんえい界のヒールジョッキーでもあります。
斎藤:まずは、騎手になったきっかけを教えてください。夕張市出身ですね。
松田:家はメロン農家。家に馬がいて、馬好きなので騎手目指して競馬場に来ました。
斎藤:勝負服は吉田勝己さんと同じですね。
松田:家(夕張)の近くに社台ファームがあるからね。同じくらい活躍したいと思って。
斎藤:思い出に残るレースはありますか?
松田:ないなぁ...。あまり覚えていないんだよね。相当悪い癖とかは覚えてるけど。
馬のことは体で覚えるから。どのレース、と言われても出てこない。後ろはあまり見ないんだ。
斎藤:騎手として大事なことはなんでしょうか。
松田:いい馬を選んで乗る。そうじゃないと騎手はやっていけないから。調教で乗ってみて、ハミのさわり具合や反動をみる。トータルして、バランスがいい馬や癖の少ない馬を選ぶ。騎手っていうのはそういうものだと思うよ。
斎藤:では、期待の若馬を教えてください。昨年のばんえいダービーを勝った、ミスタートカチはいかがでしょう。
松田:派手さはないけれど、この馬も登坂力がある。早いタイムが向かない馬だから、古馬になって時計かかるレースが増えたら、もっと結果を出すんじゃないかな。
4歳なら、シルクタローはね......去勢手術の影響がまだ残ってるんじゃないかな。馬体がしっかりしたら力つけてくる。楽しみはこれからだよ。なんとかいい方向に持っていきたい。
斎藤:3歳馬だとフナノコーネルでしょうか。
松田:コーネルトップの仔は若い時きままな性格を出すから、乗りこなすの難しいんだ。登坂力がある馬だね。今年の3歳には1頭強い馬(オイドン)がいるけど...。
斎藤:コーネルトップといえば、マルミシュンキですね。先日亡くなってしまいましたが...。
松田:ああ......。自分がいろんな馬に乗れるきっかけになった馬だわ。コーネルトップらしく気ままだけど、強かった。
当歳から何度か見てたんだ。大きな馬体のわりにバランスが良くて、知り合いのオーナーに「欲しい」って言ったんだけど、他の人に買われちゃって。それでも、オーナーの宮本さんに話したら「乗ってみるかい」って言ってくれて、馴らし(馴致)からやった。瞬発力があった馬だったわ。
この馬のお陰で、度胸はついたね。わがままを許しながら乗ることを覚えたし、スピードに慣れることもできた。
サラブレッドもそうだけど、ばん馬も生まれた時の姿が競走馬の体型になるんだよ。
斎藤:カネサブラックについて教えてください。ばんえい記念が近づいてきましたね。
松田:小さいけれど、バネが良くて柔軟性がある。あまりに柔らかい筋肉の馬、そうはいない。性格は繊細なんだよ。馬に対してもおとなしい。ちょっとでもハミが悪く当たると、こずむ(体を固くする)。だから、呼吸を合わせて、できるだけロスを少なくすることを心がけている。
本当はこの馬にとっては、軽い馬場の方がいいんだよ。3分以内のレースがベスト。だから、本番に向けてはいろいろと考えてるよ。違った乗り方とかね。作戦だから言えないけど(笑)。なんとか獲りたいね。
斎藤:ばんえいに来るファンに一言お願いします。
松田:ファンに見てほしいのは、第2障害の手前の、馬と人間の呼吸。止まる動作と、そこで馬と話しながら、タイミングを狙って勢いをつけて前に出る。その瞬間。それは騎手の考えや能力によって違うから、いろんな動きがある。人馬一体の気迫を見てもらいたい。
ゴール前のシーソーゲームもいいけどね。それまでに、どこで止めて馬を休ませるかが大事だから。今年は馬場が重いし、障害も(1月22日から)10センチ高くなったから面白いと思うよ。
馬も辛いけど、人馬が気持ちを盛り上げながら、前に進もうとしているから。
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※インタビュー / 斎藤友香