12月8日第8レース、キタノオーロラで通算1000勝を達成した工藤篤騎手(44)です。
1000勝達成おめでとうございます。11月30日の999勝から、待ち遠しかったですよ。
自分は冷静だったけど、周りが「(お祝いの)花が枯れる」って冷やかすんだよね(笑)。キタノオーロラは、馬場も合うし、うまくいったら穫れるかな、と思っていました。1000勝といっても、年数かかっているからね。(デビューから)22年、尾ヶ瀬さん(馨騎手)と同期なんだ。最初は1000勝できると思っていなかった。これからは1勝1勝大事に勝つことだね。地道に、です。
出身は弘前ですね。
家に草ばん馬用の馬がいて、父と祖父が世話していました。騎手になりたいと思ったのは小学校の高学年のころかな。ばんえい競馬のビデオや本を見て、こういう仕事があるんだ、馬が好きだから、なれたらいいな、と思っていた。
親は違う仕事をしてほしかったみたいで高校にも行ったけれど、頭の片隅にはずっと騎手になりたい、というのがあったんだよね。なぜか、ずっと頭から離れなかった。
たまたま、ばんえいの開催がない冬に湯治で近くに来ていた橋本豊調教師に会って、そのうち「来ないか?」って言われて。若いときしかできないし、挑戦してだめなら、また考えよう、と競馬場に行きました。縁なのかな。
橋本厩舎に入ってからのことを教えてください。
3年目で騎手試験に合格しました。橋本厩舎の兄弟子は大河原騎手。厳しかったよ。でも、そのおかげで早く騎手になれた。「追える騎手になれ」って言われたな。
初勝利はコーネルトップ(97年ばんえいグランプリなど重賞8勝)です。市場で破格の1000万がついて、うちの厩舎で育成、テストと関わった。怪物だったね。同世代にはダイヤキャップ(98年帯広記念など重賞5勝)やヨウテイクイン(95、96年ばんえいグランプリなど重賞10勝)と、強い馬が多かったけど、それでも同じ年の馬とは頭一つ大きさが違う。並んでいたら親子みたいだもの。デビューして1カ月、なかなか勝てない時に乗せてもらった。乗ってたら知らんうち1着になってた(笑)。
帯広競馬場にある「ばんえいギャラリー」に昔のポスターが貼られていますが、よく登場していますね。
なんでポスターに使われたかわかんないんだわ(笑)。当時はパーマかけてたんだよ(笑)。2年後に橋本先生が定年になって、三浦孝幸厩舎に移籍しました。三浦先生(2013年に急逝)は面倒見のいい先生だった。若手を大事に育ててくれた。先生のおかげで、馬主さんとか、いろんな人と知り合えた。
コーネルトップのほかに思い出の馬はいますか?
コーネルトップの子で重賞を2つ取った、カネサリュウ(2007年ホクレン賞、イレネー記念)だね。重賞これしかないんだよ。子どもだからって特に意識したことはないけれど、似ているところはあるかな? 言われてみれば、おっとりしているところが似ているかな。
これからの期待馬は。
ニシキエーカンは、先行力があって障害も上手。いいところまで行くんだけど、なかなか勝てないね。岩見沢記念(3着)は悔しかったな。ちょっとゴール前焦ってしまったかな。気ムラなところがある。本気出したら力があるのに。でも、年々良くなってるよ。(管理する)村上慎一調教師は橋本厩舎で1年下の弟弟子になるんだ。同じ釜の飯食べてね。
ここ最近期待しているのは、サカノテツワン。パワーアップしているよ。地味だけど派手に勝つ! 末脚がしっかりしている。上のクラスに行ってもいいレースするしね。
北央産駒特別を勝ったサカノメイホウは末脚が光りましたね。30日のヤングチャンピオンシップが楽しみです。
オープンは初めてだったけれど、降りてからしっかり歩いて、思ったより頑張ったね。出られるのが名誉なレースだから楽しみだね。
好きな脚質はありますか。また、心がけていることは。
レースとしては好位差しが理想。抜け出すのが好き。
心がけていることは、馬優先。馬の調子には波がある。絶好調は続かないから、仕草を見ることを心がけています。生き物だからね、しゃべらないだけで。いい時には目が輝いている。目がとろーんとして、腐った魚のようになっていたらだめ。パドックで背中に乗ったとき「あれ?」ってわかるよ。いい時の感覚は体で覚えているからね。馬は一頭一頭違うから、それぞれの特徴を頭に入れている。馬も減っているから、できるだけ大事にしてあげたい。
最近若手が伸びてきていますが。
若い騎手は、もうちょっと派手さがあってもいいかなと思う。久田守、金山明彦(元騎手、現調教師)は豪快な騎乗だった。今は個性的な騎手が少ない。松田さんのアクションすごいしょ。西将太はぼえてる(追えてる)な。
ファンに一言お願いします。
売り上げが伸びているし、競馬場に来るファンも増えてきた。ピークには戻らないかもしれないけど、いいことだね。ファンに見て欲しいのはゴール前の接戦かな。止まったり、入れ替わったり。1人でも多くの人に、熱い、いいレースを楽しんでほしい。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 斎藤友香
若手騎手の活躍が目立つばんえい競馬で、その中心騎手の一人である西将太騎手(25)。9月14日には2歳牝馬の特別・いちい賞をタキニシサンデーで制し、200勝を達成しました。
通算200勝達成おめでとうございます。タキニシサンデーは、お父さまの西康幸厩舎の馬ですね。
数は気にしていないのですが、197勝くらいで人から教えられた時は、こんなに勝っているんだと思いました。
タキニシサンデーは、一生懸命な馬。超まじめ! ゲートが開いたら、真っすぐ進んで横にぶれない。こんな馬、初めてです。乗りやすい。春の時点では、こんなに活躍するとは思わなかったんです。それが白菊賞といちい賞で2歳牝馬の特別を2勝しました。気持ちで引っ張っている感じなのでおっかないですね。一生懸命すぎて、けがしないか...そこに気をつけます。
ニンジンが大好きで、隠し持っていたら追っかけてくるんです(笑)。襲われかけました。エサを載せる一輪車に脚を乗せてアピールする(笑)。
父も、2歳牝馬の看板馬が出たので喜んでいると思います。
元騎手のお父様に、騎乗方法を聞いたりするのですか? 競馬場育ちですよね。
小6まで青森で、中学からは旭川。夏休みと冬休みは競馬場に行ってました。中学卒業後、すぐにでも競馬場で働きたかったけれど、高校には行けというので、馬のいる静内農業高校に行きました。馬術部でしたが、最近は乗馬もしていませんね。
レースについてはいろいろな人に聞きますが、父には聞かないです(笑)。教えるのがうまくないから。
昔を知るファンは、弘美さん(西弘美調教師、康幸調教師の兄)より父の方が、山(障害)が巧かったというんです。父の勝ったレースを見て勉強しています。
レースビデオはよく見ます。自分がどのように乗ったかはもちろんですが、自分が乗っていた馬をほかの騎手がどのように乗るのか。藤野さん(俊一騎手)や大河原さん(和雄騎手)など、常に上位でいられる人がどうやって乗るのか盗みたい。まだ、自分のフォームは汚い。以前よりは見やすくなったけれど、全然。スムーズに、きれいに乗りたいです。
期待している馬はいますか。
こいつどうにかできないかな、と思っているのがアサヒメイゲツ(牝3)です。障害を降りてからの脚がいい。障害さえうまくいけばチャンスがあると思うんです。
10月5日に、3歳オープンの(オッズパーク杯)秋桜賞を勝ちました。好メンバーが揃う中、ためてひと腰、素晴らしい脚でしたね。自信を持った乗り方に見えました。
そうでしたか? 障害では止まりかけたけれど、ほぼひと腰でした。頑張ったなー。馬に頭が上がらないです。大きくて丈夫な馬ですね。勝ったことで、馬にとっての自信になる。オークスが目標ですが、荷物に耐えられるかどうか。課題はやはり障害です。アサヒメイゲツにとって、敵は自分自身かもな。
最近牝馬の当たりがいい。牝馬は乗りやすいかな。嫌なことをされても、牡馬なら腹立つけど、牝馬なら「女の子だもんなー、優しくしないとだめだなー」と思うんです。
レディーファーストなんですね。お子さんも娘さんですよね。
騎手になってから生まれた2歳の双子の娘を含めて、女の子4人です。うるさいですよ(笑)。部屋には入れずに、外に連れて行きます。アウトドア! 今、騎手の中で釣りがブームなんです。今時期はアキアジ。自分が3本釣った時の写真を見た騎手が、こぞってやり始めました。みんな竿買いだして。キク(菊池一樹騎手)と一緒に行くことが多いかな。ケン(西謙一騎手、弘美調教師の息子)も行きますよ。楽しくてしょうがない! 暗くなるまで海から帰ってきません(笑)。
グルメなんですよね。
今は大盛り、特盛りメニューに凝っています。健仁(赤塚騎手)、心路(渡来騎手)と、回転寿司を安い順から食べていって1人で30皿とかやりました。
減量は大丈夫ですか?
レース前には食べる量を減らしています。釣りもリールを巻いたりして体力使うんですよ。いい運動になっています。
若手騎手は仲がいいんですね。レースへの刺激にはなっていますか?
坊主頭も心路に切ってもらいました(笑)。でも、レースとプライベートは別ですね。騎手それぞれの乗り方があるから、特に意識はしていない。
ケン(10月20日現在リーディング3位)も、いとこだからって特に気にはしないです。全て、人ではなくて馬を意識しています。その馬の持ち味が生かせればいい。山をうまくあがることを意識しています。
キクが重賞を勝った(8月のばんえい大賞典、カイシンゲキ)ことも、うらやましいけど、それはキクがいつもいいレースをしているからまわってくるということで。
昨年の菊花賞(セイコークインで接戦3着)は、「もったいね~」と思いました。どうやったら(1着に)入ったか考えたけれど、考えてもキリがない。でも、忘れたくても忘れられないし...。
勝ち鞍は、今のところ去年(2013年度・64勝)と同じくらいのペースでしょうか。今年の目標は。
勝ち鞍が同じでも、中身が濃いレースであるようにしたい。勝つところで、自分の考えで勝つ。いつも、勝つことばかり考えています。
あ、そういえば、健仁には負けたくない!(笑)。勝ち鞍が似ているんですよね。離したと思ったら追いついてくる(笑)。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 斎藤友香
8月24日、3歳三冠の一冠目『ばんえい大賞典』をカイシンゲキで勝利し、重賞2勝目を挙げた菊池一樹騎手(27)。初めての1位入線による重賞勝利でした。
おめでとうございます。2012年のナナカマド賞をショウチシマシタで勝った時は、1位入線馬の降着による繰り上がりでしたものね。
やっと周りに「タナボタだ」と言われなくなるのでほっとしました。それまで、あだ名が「タナボタジョッキー」ですよ(笑)。 レースの1週間前くらいから、どう乗ればいいのか考えていました。緊張していたんでしょうね。(カイシンゲキの)槻舘調教師に、「なるようになる」と言われて楽になりました。(2着のハクタイホウ騎乗の)赤塚健仁騎手は勝てば重賞初勝利。それに比べたら、重賞を1つ勝っているので気持ち的には楽だったと思います。
その名の通り、カイシンゲキの快進撃ぶりはすごいですね。ここまで急成長する馬は珍しいと思います。
カイシンゲキは、デビュー前の馴らしからやっていた馬です。この時から引っ張る力はそれなりにあったのですが、悪い癖があったからか、レースでは案外でした。2障害の下に着いたら、左に逃げるんです。(トップ騎手の鈴木)恵介さんが乗っても、逃げたままぐるっと1周してしまうくらい。さぼろうとするのかなぁ。 これからオープンや重賞に出ることになるし、他の馬に迷惑をかけたら危ないので、昨年の秋くらいから強いハミに変えて、しかりつけながら矯正しました。今年度初めのレースでやわらかいハミに戻したら、やる気まんまんになったんです。障害の下につけても抑えないといけないくらいがらっと変わって、行く気になりました。大外枠に入った時、左に寄れたら落ちるのではと心配していたのですが、よれずにレースができました
ばんえい大賞典ではハクタイホウに勝ちました。ゴール前、接戦でしたね。
5月の『とかち皐月賞』(特別)はハクタイホウの2着でしたが、ゴール後おしっこをしていたのは、かなりきつかったからだと思います。この時、ハクタイホウにはかなわないかな、と思いました。でも、やっとライバルと言えるようになりました。カイシンゲキの良さは、切れ味と粘り。 ばんえい大賞典は、先行したハクタイホウを見ながら障害をかけて、先に降りられたので楽でした。ゴール前、しっかりぼえ(追え)ば勝てるかな、と思いました。
3・4歳の重賞はまなす賞(2着)も惜しかったですね。
ゴール前、後ろから(勝った)コウシュハウンカイが来ているのが見えたから、どこまでもつか、と思いながらレースをしていました。もう手応えはなかったのですが、予想以上に頑張ってくれました。 カイシンゲキの性格はマイペース。急に引っかかるところがあるけど、普段はゆっくりゆっくりで、カメみたい。これからは重量が増えますね。まだ(馬体重は)1000キロないので少しずつでしょう。まだ成長の余地があります。
菊池騎手は、馬を追う時に膝を大きく上下させているフォームが印象的です。
そうですか? 無意識のうちに、そのように動いているのですね。いろいろな人の追い方を真似して試してきたら、今のフォームになりました。目標の騎手は鈴木恵介さんです。ぼったら一番。馬の反応を見て、タイミングを読むのがうまい。身長が同じくらいなので参考になります。
プライベートでは、釣り好きですよね。
先日、大津でアキアジ2本釣りました。自分でさばいて、料理しますよ。大友調教師と行くことが多いですが、最近若手騎手の中で釣りがブームなんです。西将太や島津新もやっています。
所属厩舎の田上(忠夫)調教師はどのような先生ですか。
優しいです。とても馬を大事にする。馬を叩くことを嫌がります。厩舎に入りたてのころ、調教で馬を叩いたら、その痕を見てすごく怒られました。
次の目標は、通算200勝でしょうか。(9月15日現在192勝)
特に数にはこだわっていません。騎乗している馬が勝てるところで勝ちたい。 目標のレースですか? BGIII(ばんえい大賞典)を勝ったので、BGII、BGIかな。
菊花賞、ダービーで達成できますね。では、ファンに一言お願いします。
競馬場の来場者が増えて、ありがたいです。『銀の匙』効果なのか、若い人が増えましたね。これから帯広では、収穫の秋にちなんだ食べ物のイベントが多くあります。それに合わせて本場にばんえい競馬を見に来てほしいです。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 斎藤友香
今年度から、帯広競馬場内には騎手のリーディング表が数カ所に貼られるようになりました。現在のリーディングは西謙一騎手(28)。5年連続リーディングの鈴木恵介騎手を抜き、名騎手だった父・西弘美調教師とともにトップに立っています。20日には通算700勝を達成しました。
ついにリーディングジョッキーですね。
いい馬に乗っているから。自厩舎(西弘美厩舎)の調子もいい。3歳、4歳の若い馬が多く、この年齡は伸び盛りなら1年で10勝くらいするからね。障害のいい馬も多くて、乗りやすい。無理はさせずに間をあけて使っているのが、いい方向に出ているんだと思う。
厩舎には、青森の馬主さんの馬が多いですね。
出身は青森だけど、いたのは小学校までだから特に思い入れはないよ(笑)。青森は、最近馬を買う人が多いね。地元の草ばん馬に使っている馬が多くて、夏は草ばん馬に出て、シーズンが終わったら厩舎に戻ってくる。
さて、フジダイビクトリーで旭川記念を勝ちました。意外なことに重賞は2勝目なんですね。
3月から馬の厩舎が変わって乗ることになりました。思ったほどのスピード馬ではなかったけれど、やはり障害は上手。以前は障害を降りてから差されるパターンが多かったけれど、今は降りても歩くようになった。昔は行きたがっていたけれど、我慢できるようになったし。
旭川記念より馬場の重かった北斗賞(2着)でも思ったより歩けたから、重馬場でもOKだと思う。次の目標はばんえいグランプリ。夏だから暑さで弱らないように気をつけたい。体がある(大きな)馬でもないから、無理はさせない。体ができてからの馬だし、寒い時の方がいいかもしれない。ばんえい記念は、荷物に慣れてくれば楽しみだよ。
フジダイビクトリー。北斗賞は2着
ばんえい記念といえば、今年はフクドリで2着でした。
差せるかと思った(笑)。ばんえい記念は初挑戦の馬が結果を残しているから、インフィニティーは気にしていた。フクドリは、若い時はスピード馬だったけど、最近は(パワータイプに)変わってきたね。夏は弱いからここ最近はちょっと......。
最初のばんえい記念(2010年トモエパワー5着)の思い出はありますか。
1障害で止まるとは聞いていたんだけど、本当に止まった時はどうしようかと思った。ちょっとピークは過ぎていたからね。
ほかに、思い出の馬を教えて下さい。
初重賞(2009年銀河賞)を勝ったアカダケキング。2歳のテスト(能力検査)の時から手がけて、世話もしていた。真面目でおとなしかった。最後は喉鳴りがひどくてね、今年種馬になれてよかったわ。子どもも厩舎に入ってくるんじゃないかな。似るとしたら、スピード馬で、雨降り用(笑)。2歳の時は気性が荒かったから、そこが似ると大変だな。
ほかは、「ニシキ」の冠の馬。亡くなった仙頭オーナーによく乗せてもらった。ニシキダイジンは強かったね。特に、砂の中(砂の深いところ)が強い。
今後、期待している若馬はいますか。
2歳のコムギ。障害がうまいし、降りてからしっかりしている。2歳は牡馬で1頭抜けてるのがいるけど(センゴクエース)、牝馬の中に入ればいいんじゃないかな。
コムギと
フジダイビクトリーと同じ本別の本寺牧場生産の馬ですね。話は変わって、若手騎手が最近頑張っています。
もう自分は若手じゃないけど(笑)、みんな仲が良くて、楽しいよ。西将太、赤塚健仁あたりが中心になって、みんなでよくつるんでいる。遊びながらも、お互い負けないようにしている。
目標にする騎手はいますか。
鈴木恵介さんは駆け引きがうまい。後ろにいるな、と思っていたら前にいる。藤野(俊一)さんは息の入れ方と、障害がうまい。癖のある馬も上手。大河原(和雄)さんは2歳が上手。大河原さんがならしている服部厩舎の馬はみんな乗りやすいよ。レースを見て、参考にしている。
父親の西弘美調教師には何か言われますか。
最近は言われない。昔は、もっと手綱を短くしろ、とか、大きく見せないとだめだ、と言われた。手綱で叩くとき、客に背中が見えるくらいに、と。
西騎手の大きなアクションはかっこいいです。それは馬に見せるということですか。
いや、見栄え(笑)。客に見えるように、ってこと。
最近は来場者も多いですね。
人が多いね。人はいた方がいい。やる気になるし。家族連れも増えたし、本場で売れればもっとうれしいね。
今年の目標は、リーディングでしょうか。
2位も4位、5位も全部同じ。リーディングを意識したら、逆に焦って勝てなくなる。それで負けたら困るもの。こつこつやっていれば山になる。いっぺんにやっても無理だ。毎年の目標にしているのは100勝。目の前にあることを一つ一つ、だね。まず、BG1の勝利かな。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 斎藤友香
ばんえい競馬は、いよいよ3月23日に大一番のばんえい記念を迎えます。1月に通算3500勝を達成し、ばんえい競馬の最多勝記録を更新し続ける藤本匠騎手(52)に話を伺いました。
1月末のヒロインズカップでは、ダイリンビューティで重賞50勝となりました。
50勝だったかい。ダイリンビューティは、この日120%、完璧のレースをしたね。最高の流れだった。運を引き寄せる物を持っている馬だと思う。オリンピックだってそうだよね。実力があっても結果を出せない人もいる。馬の性格は真面目だよ。悪い癖がなく、レース運びがしやすい。それでいて障害もいい。これは競走馬にとって大事。デビュー前の能検にも乗っていて、真面目でいいものがあるから体ができれば3、4歳で開花すると思っていた。5点満点なら4点で、残りの1点は体ができてない、ってところのみ。
「いいもの」というのは? また、成長しそう、というのはどこでわかるのですか。
触る(乗る)とセンスがわかるんだけど、長年の勘なんだよな。ベンツに乗ったことのない人は、その良さってわからないと思うんだ。サカノタイソンもすごいって言われるけど、乗ったことがある人にしか、本当のすごさはわからない。デビュー前の能検の結果がいい馬もいるけど、初めて競馬場で走るからびっくりしていいタイムが出たり、たまたまいい時計を出す馬もいる。騎手は、体に「いい馬のイメージ」が蓄積していくんだ。それが財産。乗れば乗るほど、財産は増えていくよ。トップジョッキーはみんなそうだと思う。
サカノタイソンの本当のすごさとは。
あんな強い馬、今まで巡り会ったことない。次元が違う。パワーがけた外れだし、ハナに行けて、障害もうまいし、障害を降りてからも歩ける。3拍子そろっている。 そういえぱ、ヒロインズCの前に死んでしまったブラックパールね......、(ヒロインズCに)出ていたら20キロハンデがあってもいいレースをしたと思う。体が大きくて、無理もきく。アンローズも大きかったけれど、そのくらいの馬格があった。
これから期待する馬はいますか?
コウシュハウンカイは、若馬の時からオープンで走れるかな、と思っていた。重い荷物に対応するから、(高重量戦の多くなる)今後の希望を抱かせるね。コウシュハゴールドは、素質があるから体できればおもしろいかな。
いい馬の見方というのはありますか?
長腹短背とか、見た目のバランスがいい馬っているけれど、バランスいいから能力があるというわけでもないんだ。そりをかけてみないとわからない。こればかりは、持って生まれた能力だから。見た目悪くても走る馬っている。ただ、形いい馬で引っ張った方がレースを見ていても飽きないよね。頭小さくて、目ぱっちりしてる馬とか、かっこいいじゃない。
さて、1月1日に3500勝を達成しました。勢いは止まりません。
正月に決めたなぁ、と(笑)。この時点でシーズン100勝も超えられていたことはよかった。大きな怪我をせずにここまで来られたからね。手にひびが入った時に1カ月休んだくらい。我慢強い方だから、ちょっとした痛みなら乗っていた。
健康の秘訣は何でしょう。何か、体を鍛えていたのでしょうか?
開催が12月までだった20~30代の頃は、開催がないときに帯広のアイスホッケーチームに加わってたんだよ。釧路にいた小学生の時に友達に誘われてから、ずっと好きでね。汗かいて、運動になった。アイスホッケーの靴って、リンクでなかなか立ってられないんだよ。
バランス感覚も鍛えられたのでしょうね。プレーを見てみたいです! 最近若手騎手の活躍がみられますが、いかがですか。
みんな頑張っているよね。所属する岩本利春厩舎の島津新も、運を持ってる。いつも攻め馬(調教)を頑張っているし、心配ないよ。ただ、若い騎手はもっと個性を出していいのかな、と思う。昔の騎手は、自分の「型」を持っていた。勝つためなら、人が何と言おうとね。木村卓司さん(元騎手・調教師)、金山明彦さん(現調教師)、最近ならそりの上でジャンプしていた坂本東一さん(現調教師)とかね。最終的には人に真似させるような、ぼい(追い)方になっていく。 今の若手も、中には質問してくるのもいるけど、自分は気になったらすぐに聞いていた。自分はできないのに、どうして金山さんならできるんだろう?と。
今後の目標は? やはり4000勝とリーディングでしょうか。
それよりは、あと何年乗れるか。騎手できるまでやりたいし、やれると思う限りは続けたい。1年1年体と相談しながら、人に迷惑かけないようにね。まだ長老いるからね! 山本正彦騎手(56)より先にやめるわけいかないから(笑)。レジェンド山本だよ? ばんえいの歴史の中でも最長老なんじゃないかな?
レジェンド山本、いいですね(笑)。さて、いよいよ今月末はばんえい記念です。
今年はまだ乗る馬は決まっていないけれど、乗りたいし、1回勝つとまた勝ちたいんだ。2回勝ったけれど、騎手なら何度でも勝ちたい。中央競馬でいえばダービーみたいなもの。ばんえい記念で有利なのは、障害を先に降りられる馬。だから、障害を真っすぐ進む(真面目な)性格の馬が向いている。返事遅い馬なら話にならない。キンタローやトモエパワーみたいな、ばんえい記念で差せる馬っていうのはなかなかいないんだわ。 障害を、何度も何度もチャレンジするところがこのレースの醍醐味。膝折ったりしながらも越えていく。その姿をぜひ、見に来てください。
昨年のばんえい記念はシベチャタイガーで8着
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 斎藤友香