ばんえい記念を制したニシキダイジンやインフィニティーをはじめ、数多くの名馬を輩出した金田勇(かねた・いさみ)調教師が、10月6日に通算1000勝を達成しました。
1000勝達成セレモニー(10月14日)
1000勝おめでとうございます。ばんえいの世界に入ることになったきっかけを教えてください。青森県八戸市出身ですね。
当時は青森県のあちこちで草ばん馬が行われていたんだ。馬が好きで中学を出てすぐに競馬場に来た。当時は、若い厩務員は皆騎手試験を受ける流れで、俺も1993年、20歳で騎手になりました。当時は金山騎手などすごい騎手ばかりで、なかなか乗れなかった。腐ってきた時に乗せてくれて、「調教師になれば」と言ってくれたのがクインフェスタやトレジャーハンター、古くはエビステンショウの馬主だった高橋一二さん。亡くなって3年経つかな。
1000勝の表彰式でも、高橋オーナーの話を涙ながらにされていましたね。2003年、厩舎開業は30歳という若さでした。騎手への未練はありましたか。
ないよ! 技術の違いを感じていたから。なんとなく、育った環境といった越えられないものがあると思っていた。
調教師になってからはずーっと大変だったよ。2006年で存廃問題が起きた。とはいえ、ばんえいがいい時代の時も自分はずっと苦労してきたから、大変なのは今に始まったことじゃない。騎手の時は乗り馬がいなくて見ているだけのこともあったけれど、調教師は預かった馬を出走させられて、常に仕事がある。楽ではなかったが、楽しかったですね。
開業5年、ニシキエースで初重賞制覇(2008年黒ユリ賞)です。牝馬三冠も達成しました。その後着実に活躍馬を送り出しています。
ニシキエースは、気性が激しくて馴致で苦労していたんだ。オーナーに「危険もあるけど、まだ若いしやってみないか」と頼まれた。ストレスを与えないよう、のびのびと育てたら、集中力がついて体ができてきた。いい馬に巡り会ったな。それも、高橋さんが「こいつを男にしてやってくれ」と俺のために頭を下げてくれたおかげだ。いろんな人とつながりを作ってくれたね。
気を付けていることは。
健康だね。結果を焦らないこと。優しく育てることはトレーニングが甘いと思われがちだが、強く調教して能力引き出す技術はないから。愛情持ってやれば、恩返ししてくれると思う。
インタビューでもいつも馬への優しさを感じます。馬が応えてくれているんだと思います。馬の思い出を聞かせてください。
ニシキダイジンがばんえい記念を勝った時(2010年)は夢を見ているみたいだった。まさか参加できるなんて。でも、この時のダイジンは調子が良かったから、自信持って出せた。騎手時代は縁がなかったレースだから、送り出すのはすんげーうれしかったな。何回出しても特別なレースです。
インフィニティーは、最初は仲の良かった岩瀬和幸調教師が管理していたんだ。「勇のところに馬が入るなら、安心してやめられる」って言われてね。仔馬の時から見ている馬だったが、ばんえい記念まで取れるようになるとは。一緒に成長できた馬。若い頃、4、5歳の頃、古馬と、年齢によってこのように成長させていくんだな、と定年までの管理の仕方を教わった。物差しができたな。たまに会いに行くが、まだまだ若いよ。
トレジャーハンターはあれだけ頑張ってくれたからね。将来的にはゆっくり余生を過ごさせてあげたいと思っている。
2014年ばんえい記念 インフィニティー
クインフェスタやコマクイン、キサラキクなど、人気の牝馬も多く在籍していました。
みんな、厩舎の広告塔になってくれたね。
キサラキクは、女馬だと思ったことなかったな(笑)。いつも大きいレースに1頭だけ牝馬で出走していた。途中からは、俺の馬じゃなくて、ばんえいファンの馬。みんなから大事な宝物を預かっているようだった。
コマクインは最初に障害を降りるでしょ。あいつ見たら、「重い時、寒い時も一生懸命。少しくらい能力なくても、俺も頑張ろう」って思えるんだ。息子たち(3歳のコマサンブラック、2歳のコマサンダイヤ)は抜群の登坂力が似ているね。
そのほか、思い出の馬はいますか。
6歳で種馬になった、高橋さんが持っていたケンジュオーという馬。草ばん馬で、オープン馬とも引けを取らずに頑張っていた。知る人ぞ知る馬の子が活躍している、というのはうれしいんだよね。田舎魂っていうかね。親ができなかったことを子がやっている。高橋さんが亡くなった2日後にケンジュオーも亡くなったんだ。
2015年・北斗市の草ばん馬でケンジュオーと
産駒にはオープン・A級で活躍中のバウンティハンター(牡7)や、1000勝達成馬のアオノブラック(3歳、2018年ヤングチャンピオンシップ)がいます。
子どもたちが父さんの跡を継いで頑張りたいと言っていて、長男が厩務員で騎手を目指していて、三男が高校に通いながら厩舎を手伝っています。アオノブラックはみんなで管理している。教科書になる馬じゃないかな。家族で一緒に馬の話ばかり。いいよね。
ばんえい菊花賞2着 アオノブラック
いつも、お子さんたちが先生を慕っているのが感じられていいな、と思います。先生は草ばん馬も好きですよね。草ばん馬、馬の魅力とは。
草ばん馬は、そこにいる人が好き。自分の仕事を終えてから、馬のことも集中してやっている。俺以上に馬に狂っている人たちを見ていると、これでいいんだな、って思えるよ(笑)。
馬の魅力?なんなんだろうな。これに全てかけているからね。馬に惚れちゃってるから、しょうがないよね。自分が活かせるもの、これしかない。勝負はタイミングだよな。いい馬が寄ってくる、波がある気がする。
引退してしまったけれど、九州産馬もいたんだ。でも、競走成績のある馬が血統の2代、3代目にいないと競走馬としては難しい。北海道の人たちが試行錯誤して70~80年かけて育ててきた馬にはまだかなわない。血の改善が必要だけど、時間をかけて挑戦してみたい。九州産を走らせるのが夢なんだ。
オッズパークの会員の方々に一言お願いいたします。
俺は、ばん馬の足音が好きなんだよね。パカパカじゃない。本馬場入場の時とか、そばで力強い足音を感じてほしい。ニシキダイジンやインフィニティーは、独特の強い足音で、歩いているのが音だけでわかったんだよ。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
8月11日に行われたばんえい競馬の夏の大一番『ばんえいグランプリ』は、コウシュハウンカイ(牡9)が初制覇。騎乗した4000勝ジョッキー、藤本匠騎手に話を伺いました。
先行して2障害を最初にゆっくりと越え、逃げ切りの勝利でした。
やっとだったけどね。勝った時はほっとしました。最近は年齢からか、1障害を降りてからの「ギュン!」と進む力が弱くなった。でもうまく1障害を越えて、他の馬は2回止めるところを1回にして、若いメジロゴーリキ(2着)と一緒に前へ付けた。ひと腰で2障害を上げないと降りて歩けなくなるから、障害はなんとか止めないようにした。自分のパターンに持ち込めた。
最後の直線は、「頑張れ!頑張れ!」と声をかけていましたね。
祈りながら歩いていた。2年前の力ならゴール前にタイムを縮めて楽勝だったと思う。年齢とともに我慢が少なくなっている。それでも、いつも真面目で同じレースをする。ずるいところがなく、競走馬の鑑のような馬だよ。
母馬のタカラドーベルも騎乗はしたことはないが、真面目な馬だった。
レース前日に雨が降って、1.8%の馬場水分でした。数日前から涼しくなりましたが、今年の帯広は暑く、体調をキープできない馬も多くいました。
暑かったな。松井浩文調教師が、あまり馬に負荷をかけずに調教してきたから。もともと夏は弱いイメージがある馬だが、調子よく迎えられた。とても調教が難しい馬なんだ。
昨年10月の北見記念以来の重賞勝利となります。久々でしたね。
どちらかというとパワーよりスピード勝負の馬だが、昨シーズンの冬はあまり雪が降らなかった。あれが堪えたのかな。だからばんえい記念もパワー勝負だとつらい。スピードレースになれば。
今年のばんえいグランプリは、"生産者の祭典"として行われました。生産者の六車實子さんの牧場は今は閉場されていますが、思い出はありますか。
当歳の時にコウシュハウンカイは牧場で見ているんだ。絵に描いたような体形で、見た瞬間「すごいいい馬だな」と思った。オレノココロも一緒にいたんだけどね。
前哨戦となる9月8日のマロニエ賞も勝ち、3連勝です。次の重賞岩見沢記念を勝てば四市重賞制覇となります。次走に向けて、オッズパーク会員の方に一言お願いします。
マロニエ賞は障害も楽に上がっていき、レース後も息づかいが良かった。調子はいいね。皆さんの期待に応えられるレースをしたいと思います。
コウシュハウンカイについては、これからも無事に走って将来的に種馬になってくれれば。俺ももう少し乗ろうと思っているよ。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
2017、18年とばんえい調教師リーディングに輝いたのが坂本東一調教師(65)。騎手としてばんえい歴代5位の2681勝を挙げ、2007年には日本プロスポーツ大賞功労賞を受賞。調教師として12年目を迎えます。
ばんえいアワード2018特別賞の表彰式。白いスーツが似合っていて、騎手時代からのオーラは健在
リーディング、おめでとうございます。2018年度の勝利数は歴代最多の135勝でした。通算勝利数も7月22日現在915勝で、今年度中の1000勝も期待できますね。
調教師は陰の存在でいいんだ。表に出るのは騎手。周りは(リーディングだって)騒ぐけれど、騎手時代から数にはこだわってなかった。マイペース! 自分のレベルを超えたら失敗する。絶対壁にぶつかるから。
勝利数はもちろん、出走回数も1011とずばぬけている(2位は西弘美調教師の903)のはすばらしいですね。馬主からの信頼と、無事に馬を出走させていることが数字に表れています。
あまり営業することはないが、入れてくれ、と言われるから。気を付けているのは馬の健康管理。しぐさで判断する。今は通年走るから、勝てる場面が必ず来る。勝つ意志を持って出走させながら、そのチャンスを作っておく。人でさえ絶好調は何度もない。風邪、寝不足。それを管理するのが私の仕事。よそには作れない馬の作り方はあるよ。オリンピックに出る選手の筋トレが難しいのと同じだよね。
坂本調教師は騎手時代から、誰よりも早い時間に起きて調教していたそうですね。
今も午前2時くらいには起きて馬を見ている。昔は50人も騎手がいて、1頭乗るのも大変な時代だった。1勝するのはさらに大変。「果報は寝て待て」だよ。騎手になる前は、建設、船、トンネルを掘るなど、いろんな仕事をしてきた。船に乗っている時に疲れてカッパを着たまま寝てしまうんだ。「寝て」というのは、まさにそれだと思う。続けていけば、そのうち上の仕事を任されるようになる。
馬とはずっと話をしていたよ。「自分はこうしたいんだけど」というと「それ以上の力出せない」と馬が言うのがわかるから。厩務員と騎手では教えるポイントも違う。馬のことだけは人に指導されたくなかったから、オーナーにも「それはだめです」って屈しなかった。それで乗り替ったこともあるよ。
坂本先生は、ばんえい記念にも積極的に馬を出走させ、ともすれば頭数が少なくなりそうなレースを盛り上げてくれます。今年は重賞の常連シンザンボーイのほかに、ドルフィンとカンシャノココロを出走させました。出走馬の見極めについて教えてください。
頼むよ、と言われるからなぁ。あきらめないで、這うような馬を選んで、馬主さんに頼む。もう表舞台には立たないけれど、裏で協力できるならやる。
ドルフィンは、(馬場の重い)草ばん馬で使っていた。青森の草ばん馬はそりに乗らず、口元を持つために障害でよれることがあるので、真っすぐにさせるのがポイント。松田道明騎手には「俺ならゴールまで持ってこれる。絶対あきらめるな」と話した。「よくやった」と言ったよ。カンシャノココロも、耐えることができる馬だから出したんだ。
2007年、トモエパワーでばんえい記念制覇
ばんえい記念といえば、トモエパワーですね(2007~09年に3連覇、坂本騎手は07年に騎乗)。
ばんえい記念は1回しか勝ったことないんだよ。ただ、勝ち馬には一番調教を付けたかな。一番強かったのはフクイチ(1995、97、98年ばんえい記念)。力が違う! 700、800キロならおもちゃ。馬の反発心があるから、厩務員がやっても動かないんだ。その次に強かったのがトモエパワーかな。牝馬のキヨヒメ(1979、81、82年ばんえい記念)も強かった。若い時には何人も怪我をさせた。それでも、調教をこなしたら馬も観念して「この人に逆らったらだめだ」ってわかる。
ばんえい記念も以前は4市で行っていたけど、帯広は楽。一番大変なのは、道中重い旭川。北見は晴れると重く、さらさらした馬場になる。水分でかなり違う競馬場なんだ。
騎手時代に大事にしていたことはありますか。
第1障害からの乗る位置。中央の騎手と同じで、まずゲートを出す。平地競馬は位置取りが大変なので、その点ばん馬は(セパレートなので)楽。200mには1頭1頭のドラマがある。
俺は鈴木恵介騎手と意見がぴったり合うんだ。どん底見てきてるからな。あいつ(娘婿の阿部武臣騎手)はだめ! 2着が多い。最近は(俺の考えに)気づいてきているみたいだが。
リーディング2位の騎手に厳しいですね(笑)。引退してからは一度、2014年の『マスターズカップ』に参加して久しぶりの『東一ジャンプ』(そりの上で飛びながら追う)を見ました。
やめたらもう絶対乗らない、って決めていた。草ばん馬でも乗らなかったのに、あの時は馬主に頼まれて断れなくってな。ジャンプはサービスだよ。
今の騎手はプロ意識が薄れてきているな。50代はじめの頃は、スタート直後に蹴られて腕を骨折して、手綱で腕を巻きながら騎乗したよ。レースでは必死でしゃくる(手綱を引く)から、手が真っ青で夜は湿布をしていた。今もこんなに曲がっているよ。
すごいですね...。さて、今はホクショウマサルが25連勝中の記録更新中です。
もともとパワーはあったからね。800キロまでは調教が間に合うが、これから重くなると(手術した喉に)無理がかかる。ここがぎりぎりかな、と思うと休んでいる。出るからには負けたくないしね。負ける時が肝心。悔いのない負け方をしたい。調教を増やせば負担がかかるが、時間をかけて、おいおいはばんえい記念の出走を考えている。
連勝中のホクショウマサルと
オープン馬のシンザンボーイも活躍中ですが、マサルと同じ牧場出身の幼なじみなんですよね。
シンザンボーイは真面目。体が小さく、まとまっているからね。柔道みたいに階級があればトップなんだけど。その壁をクリアする方法を考えている。若い頃はマサルの方が比較にならないほど抜けていたが、シンザンボーイは階段をゆっくり上っていったね。
メムロボブサップは絶好調だから、正直古馬とは戦わせたくない。マサルの若い時のようだけど、つぶれたら終わりだから、気を付けている。
2歳のトワトラナノココロは、むちゃしない限り、将来活躍できると思っている。いい意味で気性が激しい。馬は階段、エスカレーター、エレベーター、と成長する馬がいるが、できるだけ階段を上るように調教していきたい。2歳ではカイセドクターもパワーがある。ひそかに狙っているよ。
かわいくて人気のタナボタチャンかい? 特に性格がきついんだ。反発心が強く、波があるから調整が難しい。調教も機嫌が悪かったら馬房から出てこないよ。普段はおとなしいんだけどな。
2019年3月3日、イレネー記念を制したメムロボブサップ(写真:小久保巌義)
中学生のお孫さん(阿部騎手の長男)も厩舎を手伝っているそうですね。
「俺が教えてやる」と言っているんだ。部屋にいると「ジジ大丈夫か」って、毎日俺の様子を見に来るんだ。ババ(妻の美香子さん)が4年前に亡くなってからいつも来る。妻が亡くなった時は、俺が「(競馬)やめるかな」と言ったら「俺がやるから、もうちょっと頑張ってくれ」と言ったんだ。
素質あると思うよ。100キロの重りを1人で持つほど力があるが「今から無理すんな」っていうんだ。
「来たかったら友達を連れておいで」と言ってる。今の時代は危ないとかいうけど、痛い思いをして物を覚えることも大事。俺が教えられるのはそれしかないから。
楽しみですね。では、オッズパークの会員に、ばんえいの見どころを教えてください。
いろいろな騎手の駆け引きがあることを知って欲しい。ドラマがあることを考えてみれば面白い。いつも来る人はわかっているよね。考えれば考えるほど深くなる。そして、根強いファンが増えてくる。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
デビュー9年目を迎え、3年連続で年間100勝越え。2月には3歳牝馬重賞・黒ユリ賞をジェイカトレアで制するなど、伸び盛りの西将太騎手を紹介します。
騎乗について、大事にしていることを教えてください。
周りの馬は見ずに、自分の馬が余裕あるところまで行かせる。馬が止まりたかったら止めて、馬のペースにまかせます。
馬が行きたがらないこともありますよね。
それは気合入れます。「しゃきっとすれ!」って。だらだらしないようにする。前向きな緊張感を与えます。
どのようにして、馬の意志を受け取るのでしょう。
耳の動きを見るのと、ちょっとしたハミ受けの感度ですね。自分は声を出す方なので、俺の声聞いてるのかな、って耳を見ます。
静内農業高時代、馬術部だったことがハミ使いにも生きているのでしょうか。
自分では気づいていないけど、そうだと思う。そう思いたいな。時間がなくて乗馬はしていません。パドックで乗っているだけ(笑)。パドックでは、馬をリラックスさせています。ゲートに入るまで、緊張感を持たせないように。だらーんと頭を下げて、落ち着いて静かに歩いてくれたら、と考えています。
最近、追うときのアクションが大きくなったように思います。
自分ではわからない。周りの見る目が変わったんじゃないかな。
馬を追う時に、無意識に体が動いているのでしょうかね。
騎乗が、レースが楽しい。「こんなに(道中)止めてんのに(障害)上がれないのかー!」と思ったら、思わず笑ってしまうこともある。レースに乗るのが好きなんだと思う。
でも、他の人なら山(障害)を上げられるのに上がらない時は、どうしたらいいか、と思う。その時笑いはないよ。自分が乗って上がらないような時は、いつも藤野さん(俊一騎手)に聞く。新人の時から、ずっと騎乗を見ている。自分が持っていないものをいっぱい持っている。技術を少しでももらって、自分のものにできれば、と思っています。
まずは、(年間)100勝を自分の目標として頑張っている。それからは、前の年を抜くことを目標にしています。
西騎手は馬好きという印象がありますが、レースも好きなのですね。レースについてお聞きします。ジェイカトレアで勝った黒ユリ賞については。
調教を頑張った甲斐があった。2週前のレースの時に障害で止まったんです。黒ユリ賞は重量が重いし、道中も障害も、楽に行けるよう頑張ろう、と、そのためには基礎の調教(ズリ引き)を頑張ろう、と。体があるのにもったいないよな、と思っていた。調教はレースと違って、スパルタです(笑)。
黒ユリ賞を制したジェイカトレア(2019年2月10日)
2017年には、ナカゼンガキタでばんえいオークスを勝利しました。
うれしかった。厩舎(所属する父の西康幸厩舎)初だったしね。真面目な馬。一生懸命引っ張ってくれる。普段もおとなしくて、お嬢様タイプ。ついてくる系。
ナカゼンガキタでばんえいオークスを勝利(2017年12月3日)
セイコークインは。
最後のレース(2月で引退)まで面倒見よう(一緒に乗ろう)と思った馬でした。正直で素直。馬場が重いと行かない。軽いとどんどん行っちゃう。かわいかったね。
ばんえい菊花賞(2013年、ゴール前で止まって3着)は悔しかった。何センチだろう、って。どうにかならなかったかな、って思う。
スピードスター賞(軽量の特別戦・2018年2月12日)の優勝はうれしかったね。軽量戦は最高に気持ちいい。楽しい!何も考えなくていいから自分にぴったり。スタートから道中、さーっと走らせて、第2障害手前から直行!
タカラシップの天馬賞(思い切って先行し3着)も、最高のレースだったけどなんとかならなかったかな、と思う。
今は2歳馬の馴致が始まっていますね。
けがしないよう、楽しくやっています。レースと、馬を馴らしている時が一番楽しい。何するかわからない。飛び跳ねたら「馬らしいことしてるな」って思う。「よく笑いながらやってるな」と言われるけど、楽しくて。厩務員も減っているが、俺と仕事したら楽しいと思うんだけどな(笑)。
西騎手を中心に若手騎手は、クリスマスには厩舎内の子どものところにサンタの格好をして行くと聞きます。
節分やクリスマスにやっている。自分が楽しいし、周りも楽しんでくれればいいな、と。ファンも見られるかもしれない。見れたらラッキーと思って。
では、オッズパーク会員の方に一言お願いします。
ばんえいはいつも、自分が楽しんでいる。それを見て、一緒に楽しんでほしい。「将太頑張れよ」って、ファンの声援も聞こえています。馬券買ってるのかな、って思っている(笑)。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
今年のばんえい菊花賞をミスタカシマで、クインカップをメヂカラで制した工藤篤騎手(48)。12月28日現在1,481勝は現役5位。1500勝を目前に、お話を伺いました。
メヂカラ(2018年11月11日、クインカップ)
レースで心がけていることを教えてください。
まずは、まっすぐ走らせること。そして馬の雰囲気を見る。スタートしてから「いつもより重く感じてそうだな」といった感覚を掴むことだね。レースの流れも、瞬時に判断する。
そのつど臨機応変に対応しているということですね。その感覚はどのようにして磨いてきたのでしょうか。最近の馬場水分を判断するのも難しいと思います。
感覚は、経験で磨いてきた。馬場のタイムも2年前くらいから変わっている。2%でも、前ならスピード競馬だったけれど今ではそうでもない。変化も、ファンにとっては逆におもしろいんじゃないかな。
夜になると馬場がしまって軽くなると聞きます。
日が暮れて気温が下がったら、多少は早くなるかな? でも時間的にクラスが上の馬が走っているというのもあるからね。今は予想紙も少ないから、ファンも予想は難しいよね。
さて、工藤さんといえば馬を大事にしている印象があります。
それは大事にしているね。背中に乗った時の雰囲気で、今日は元気だな、とか。それでもゲート開いたら「あれっ?」ということもあるけどね。パドックで見て、元気いいな、と思う馬はたいていレースでも元気だよ。
では、騎乗馬について教えてください。ミスタカシマはどのような馬でしょうか。牝馬限定戦とばんえいダービーは調教をつけている鈴木恵介騎手に乗り替わりとなりましたが...。
先行できて、障害が上手。馬のペースで行けるという先行馬の強みもある。センスはあるし、いつも全力で走ってくれる真面目な馬だね。
強いから、誰でも乗りたい馬。そりゃもちろん乗りたい。ファンの立場からみると、ずっと同じ人が乗るよりも違う騎手が乗っても面白いんじゃない。
ミスタカシマ(2018年11月4日、ばんえい菊花賞1着)
センゴクエースはいかがですか。
どうしても重量を積むと、障害に難があるからね。でも常に上位には来ている。馬格があって、能力も高い馬です。
クインカップを制したメヂカラは。
体力的に弱いところがあったけれど、夏くらいから、あれ、成長しているな、と感じていた。クインカップは、前哨戦の紅バラ賞も手応えがあったので、末脚を信じていました。これからも楽しみです。
「牝馬の工藤」とも言われていますが...。
特に牡馬だから、牝馬だからとは考えていないですね。
個々の性格、ということでしょうか。末脚勝負の馬が多いですね。
そうだね。ナナノチカラとか、いい馬ばかり乗せてもらえたから。ナナノチカラは体が小さいけれど、根性は男勝りだった。差し馬、嫌いじゃないな(笑)。スーーッ、とする!
好きな脚質は、好位差しが多い。一歩間違うと障害で苦労する。先行するイメージはないでしょ。
アサヒリュウセイも楽しみですね。
一生懸命走っているけど、今はスピードのある若馬と一緒に走るからおじさん(9歳)は辛いな。人間と一緒(笑)。調子は悪くないし、落ち着いたペースだと走れる。
期待している2歳はいますか。
サカノハマナカはね、調教ではタフなんだけど、砂の中に入る(レースに出走する)とまだ......。気持ちも若いから、これから期待している。
センゴクエース(2018年8月12日、ばんえいグランプリ2着)
騎手の数も減って19人ですが...。
今の騎手は、その分乗れるチャンスが多いからうらやましい。俺らが若手のころは40人近くいて、指をくわえて騎乗をみていた。その分技術的に思うところもあるけれど、みんな頑張っているからね。昔は騎手を目指して厩務員になった人がほとんどだった。頭(1着)を獲って、厩務員の喜んでいる顔を見たらこっちも嬉しいね。なんともいえない顔をするんだよな。声出す人もいれば、ニヤッとする人もいる。騎手の魅力は、頑張った分がそのまま賞金というような結果に表れるところだね。
これからばんえい競馬は大きなレースが続きます。帯広に来るオッズパーク会員の方に一言お願いします。
帯広は地方都市にしては活気がある街。いろいろな店があるから食事なども楽しめるよね。これからも一歩一歩頑張っていきますので、ばんえいともども、よろしくお願いいたします。
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※インタビュー / 小久保友香(写真:小久保友香、小久保巌義)