
2011年以来、5年ぶりに勝負服姿となった宮下瞳騎手。現在は2人のお子さんの母という立場に変わりましたが、復帰後の騎乗数はとても多く、勝ち星を順調に積み重ねています。
8月17日に再デビューを果たして2か月くらい経ちました。騎手としての感覚は戻りましたか?
うーん、そう言われると微妙......かなあ。追い出してからの動きとか最後のひと押しとか、まだまだだなあと感じるところがありますね。それを埋めるという意味も含めて、ほかのジョッキーさんに乗る馬のことについていろいろと聞きますし、自分の騎乗ぶりがどうだったかとかも聞いています。気持ちとしては新人と同じですね。初心に戻ってという感じで。
調教と実戦では使う筋肉が違うと聞いたことがあります。
そうなんですよ。最近はジムで体幹トレーニングをしているんですが、そこの先生には脚力が弱いと言われました。ジムではバランスボールも使っていますし、ストレッチポールという柔らかい棒を使ったトレーニングもしていますけれど、なかなか......。復帰する前はプールでよく泳いていたんですが、最近は時間的な関係で行けていないですね。
それだけ忙しいということですよね。
鹿児島から来てくれている父のサポートがなかったら復帰できていないですよ。本当に助かっています。今は開催がないときは2時から8時くらいまで調教に乗って、そこからは主婦の時間。洗濯して買い物に行って、4時頃に保育園にお迎えに行って、ちょっと時間が取れればトレーニングですね。夜は9時には寝て、1時半に起床です。ご飯は業者さんを利用しようという話をパパ(小山信行騎手)としていたんですけれど、私がそれではちょっとダメかなと思ったので、自分で作るようにしています。自分がまた騎手になると決めた以上はしっかりやらないと。父に頼りすぎてもいけないので、自分でできることは自分でするようにしています。
騎手の姿を見た息子さんの反応はどうですか?
上の子は「勝った?」とか聞いてくれますね。勝ったよと答えると「じゃあおもちゃ買ってくれる?」とか言って(笑)。「ママ、カッコいい」とも言ってくれます。パパと接戦になって負けたときは「パパすごいね。ママはダメだったね」って言われました。下の子は2歳なんですけれど、服の色でママだとわかってくれているみたいです。
復帰するためにはいろいろと課題があったとは思いますが、条件が揃ったような感じがありますね。
本当にそうですね。ウチの子が待機児童にならなかったことがなにより。名古屋はけっこう多いんですよ。それに保育園も自宅から近くて、運がよかったなあと思いますね。今は本当に毎日が楽しいです。負ければそれは悔しいですけれど、それを含めても楽しい日々を過ごさせてもらっています。復帰してよかったなあと思いますね。
引退は韓国(釜山慶南競馬場)で短期免許の期間が終わったというきっかけがありましたが、騎手に復帰したとなると次に引退するきっかけは何になるんでしょうかね?
うーん、そこはぜんぜん想像できないですね。この仕事はケガがつきものですからそういう可能性もありますけれど、今の思いとしては1日でも長く乗っていたいなというところですね。改めて、馬に乗っていて楽しいと思えるので本当に充実しています。ただ、名古屋の開催中は子供たちと遊んであげられないので、そこは申し訳ないなあと思いますが。
そして、日本の最多勝利女性騎手としての立場もあります。
みんなが目標にしてくれているわけですけれど、今は逆にみんなの背中を見ている立場ですよ。木之前さんの勢いはすごいし、別府さんにはそろそろ追いつかれそうな感じですけれど、これからもひとつひとつ勝利を積み重ねていければいいなと思っています。
ところで、騎手免許はどんな感じで取ったんですか?
もう大変でしたよ。学科試験が普通にありましたから! 前は再免許の場合だと、免許失効から再受験までの期間が短ければ学科試験がなかったのに、私のときは制度が変わっていたらしくて......。あれがいちばんの難関でした。試験を受ける前は厩務員をして馬にも乗って、子育てをしてそれから勉強。そのころは夜中の12時半に起きていました。あのがんばった日々は、私をひと回り大きくしてくれましたね(笑)。そういうつらい思いをして取った騎手免許ですから大切にしないと。もう絶対にあんなことできませんから!
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※インタビュー・写真 / 浅野靖典
今井貴大騎手は昨年、2012年以来の3ケタ勝利となる123勝を挙げて躍進。2016年も引き続き好成績を挙げており、昨年以上の勝ち星が視野に入っています。
今年は昨年よりも成績が上がっていますね。
そうですね。7月と8月はすこし勢いが弱まったかなという感じはありますが、それは乗せていただく馬との巡りあわせもありますからね。今年の名古屋での成績は2位をキープできていますので、その地位をなんとか守っていきたいです。もちろん、本当は1位がいいんですけれど(笑)。
騎乗回数も昨年に比べると伸びていますね。
本当にありがたいです。これからもその数字を上げていきたいし、JRAでも乗りたいですね。そのためにはそういう馬に出会うことが必要。だからこそ、まずは名古屋でしっかりと土台を固めないといけないと思っています。
でも、東海ダービーを2勝した騎手って、なかなかいませんよ?
あまりそこは自分で意識していないところなんですけどね。今年は春先の時点では、ダービーで乗るのは厳しいかなと思っていたんです。でもキタノシャーロットが3月から6連勝してくれたので、ダービーに進むことができました。ダービーでは人気をわりと集めていたようなのですが、やっぱりカツゲキキトキトは強かったなあ。あの馬も今年になっていきなり連勝が始まったわけですから、馬って本当にわからないものだと改めて思わされました。
昨年は東海ダービーをバズーカで勝利(写真:愛知県競馬組合)
今年は通算800勝を達成。1000勝も見えてきましたね。
そこは次の目標ですね。そして名古屋の騎手も世代交代をしていかなければと思っていますよ。でも、先日引退された安部さん(幸夫騎手。地方3055勝、JRA24勝)が現役のうちに、安部さんを超えられるような騎手になりたかったとは思います。個人的にこれから伸ばしていきたいと思う点は、技術的な部分はもちろんですが、内面的な部分。精神面、それからやっぱり経験値を増やすこと。まだ判断ミスをしてしまったと感じるときがありますし、まだまだ勉強です。ただ、ひとつひとつのレースについて、終わったあとに深く考えても仕方がないんですよね。そう考えられるようになったのは5年目ぐらいからかなあ。うまくいかないことが多い世界ですが、それをバネにしていかないと。
経験値を増やすためには、「名古屋以外」というのもキーワードのひとつになりますね。
僕がよく乗せていただいている厩舎は、笠松にはあまり行かないんですよ。確かに名古屋以外ではあまり乗っていなくて、行ったことがあるのは、大井と浦和と、園田、金沢、高知、盛岡......ぐらいかなあ。園田と金沢以外はそれぞれ1回とか2回とかですし。だからこそ今の順位を守って、来年のSJTに出場したいですね。絶対にすごく勉強になる舞台だと思います。
それを目指してという意味を含めて、何か変えてみたところなどはありますか?
上半身を強化したいなと思ったので、ジムに行くようになりました。ポイントは胸筋と背筋ですね。あと、なんか最近になってちょっと太ってきたような気がするので、それを解消させるという意味もあります(笑)。
名古屋は一時期よりも騎手が増えてきましたね。
そうですね。新人騎手と、そして復帰された先輩と。岡部さんも韓国から戻ってきました。でも、やっと10年目にして、たくさんのかたがたに声をかけていただけるようになったわけですから、その信頼を失ってしまわないように頑張っていきたいですね。これまで大きなケガがなかったのもラッキー。そこはこれからも気をつけていきたいと思っています。
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※インタビュー・写真 / 浅野靖典
丸野勝虎騎手は2016年3月28日に地方通算2000勝を達成。1992年4月のデビューから24年での達成ということになった。そして25年目のシーズンとなる2016年は年明けから好調。東海地区リーディングで2位以下を大きく引き離している。
通算2000勝を達成しての感想はいかがですか?
とりあえず目標にしていた数字ではありますから、達成できたことがうれしいです。1000勝まではケガもありましたし、それにデビュー当初は先輩騎手が多くて、勝つチャンス自体が少なかったですからね。1000勝を超えてからはまずまず順調という感じで来ていると思います。
そして昨年と一昨年は名古屋競馬場のリーディングジョッキーになりました。
ずっとリーディングは岡部騎手でしたけれど、常に彼を負かすつもりでやってきていましたからね。それでもリーディングを取れたことで(選定基準は2015年4月1日~2016年3月31日の勝利数)、スーパージョッキーズトライアル(SJT)に第1ステージから出られるわけですから、これは本当に大きいです。一昨年のSJTは第1ステージで1勝して、ポイント的にいい感じの位置で第2ステージを迎えることができたのに、地元の名古屋でグダグダでしたから......。また今年も第2ステージが名古屋ですから、今度こそという気持ちです。SJTは出られることを楽しみにしている舞台。上手な騎手が出てきて、きわどいレースをすることができますからね。2年ぶりの出場になりますが、楽しみですとしか言いようがないです。
来年以降もそれを楽しむためには、リーディングを取り続けないといけないですね。
そうなんですが、結局は相手どうこうではなくて、自分がどう乗って、どう結果を残していくかということですからね。さすがに体は若いころと同じようにはいかないですが、まだまだ上手くなる余地はありますし、もっと成績を上げることはできると思っています。
上手くなる余地があるというのは、どういうところでしょうか?
やっぱり経験値ですよね。展開を読む力が以前よりも備わっていると思います。もちろん、昔より心に余裕がありますし、周りもよく見えています。
ただ、名古屋は今井貴大騎手などの若手が伸びてきて、新人騎手そして再デビューの騎手なども多くいます。
昔は調教だけ自分で実戦は兄弟子というパターンが多かったんですが、今の名古屋は調教ありきという部分がありますからね。若手が伸びやすい競馬場だと思います。でも年寄りもがんばっていかないと。僕よりずっと年齢が上の、戸部(尚実騎手)さん、丹羽(克輝騎手)さんも、みんな元気いいですからね。
となると、まだまだ丸野騎手も負けてはいられませんね。次の目標は3000勝でしょうか?
毎年、年間100勝以上ということは目標として考えますけれど、それ以外はあまり深く考えることはないかなあ。というか、これから次のレースに乗りますけれど、まずそのレースを勝つ、ひたすらその積み重ねですね。確かに2000勝は目標にしていましたが、3000はどうですかねえ。実感できる数字かというと微妙かな(笑)
では、さしあたっての大きな目標は、SJTでの好結果ですね。
一昨年がちょっと残念な結果でしたからね。逆に言うと、SJTはどこにチャンスが転がっているか、わからないんですよね。以前、吉田稔さん(元騎手)がワールドスーパージョッキーズシリーズに出場したときに阪神競馬場まで見に行ったんですが、もう本当に『すごいなあ』という感想しかありませんでした。それ以来、あこがれの舞台なんです。なんとか札幌競馬場で乗れるように、いい結果を残したいです。
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※インタビュー・写真 / 浅野靖典
デビューから15年目、現在30歳の柿原翔騎手。東海リーディングトップ10の常連であり、将来の名古屋競馬を担う騎手の1人です。現状に悩みながらも、持ち前の明るさとマイペースな雰囲気がとても魅力的でした。
今年はデビューから15年目の年になります。ここまではいかがですか?
うーん、最近はなかなか勝てなくて悩んでいますね。
勝ち鞍だけ見ると、デビューから年々増えていて最近は安定しているように見えますが。
いや、良い馬に乗せてもらっているので、もっと勝てるはずです。
2012年は、年間120勝をあげました。この時は調子良かったのですか?
あの時も、もう少し勝ちたかったです。これまで満足した年は一度もありません。数字はあまり気にしない方ですが、1年の終わりには数字になって表れてしまうので、それを見るともっと勝てたなと。
昔と比べて、ここが変わったというところは?
良い意味で、がむしゃらさはなくなりました。
がむしゃらは良くないということですか?
そうですね。馬に伝わってしまいますから。自分の焦りだったり色々な気持ちが影響してしまいます。
普段、レースで心がけていることは?
安全第一です! 周りを良く見て乗るようにしています。
最近は、中央競馬での騎乗機会もありますよね。
まだ勝てていないので、早く勝ちたいですね。やっぱりレースの質も何もかもが違います。乗っていると楽しいです。
中央競馬に遠征した時、チェックしている騎手はいますか?
外国人のレースは見ますね。やっぱりきれいだと思いますよ。
今までで思い出に残っているレースや馬は?
初めて中央に行った時です。テキサスイーグルの京都大賞典(2008年)。前の方につけてどうかなと思いましたが、最後はバタバタ...(笑)。力が全然違いますから結果は仕方ないですが、馬も人も良い経験になりました。緊張というよりも、お祭りみたいな感覚でした。
話は変わって、休みの日は何をしていますか?
休みの前の日に遅くまで飲んで、次の日はずっと寝ています。
騎手だと誰と仲が良いのですか?
今井(貴大騎手)とか、友森(翔太郎騎手)なんかとよく遊んでいますね。ずっとだらだら飲んでいますよ(笑)。その時は、競馬の話はほとんどしません。
騎手から見て、名古屋競馬の良さはどんなところですか?
ファンとの交流が多いところだと思います。バーベキューや夏祭り、トレセンツアーなど、騎手みんなが協力しあって、積極的に参加しています。4月29日にサンクスホースデイズが開催されますが、そこでも騎手ブースを出します。木馬の体験コーナーなどがありますのでたくさんの方に来てほしいです。もっと活気ある名古屋競馬にしていきたいですね。
さて、今年は、現在18勝(3月17日時点)ですが、2016年の目標を教えてください。
今年、全然勝ててないですね。勝てるレースはたくさんあるんですが。でもリーディングを狙いたいと思います。通算1000勝までも近いですが、来年かなぁ。早いうちに決めたいですね。
これからの目標は?
中央で勝つこと。名古屋では年間150勝したいです。
夢はありますか?
凱旋門賞制覇!!!!(笑)
では最後にファンのみなさんにメッセージをお願いします!
東海の貴公士に会いに来てください!
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※インタビュー / 秋田奈津子
今年デビュー41年目を迎えた名古屋の超ベテラン丹羽克輝騎手。長く騎手を続ける秘訣、そして、熱く燃え続ける闘志の源はどこにあるのでしょうか。
昨年はデビュー40年目の区切りの年でしたが、過去10年の中で一番の勝ち星(68勝)を挙げる活躍でしたね。何か秘訣があるんでしょうか?
恵まれたというのが一番です。僕は若い頃から不器用で、頭を下げればいいところで下げられなかったり、おべんちゃらを使ってまで乗りたくないと思っていて......。騎手としては損をする性格だったんです。周りにそう言われていたけど、でも性格を変えることがなかなかできなくて。そんな中でも乗せてくれる人たちがいて、与えられた仕事を精一杯やって来たことで今に繋がっているんだと思います。それに、僕自身も少しは丸くなったのかな。
今の温和そうな丹羽騎手を見ていると、そんなに尖っていた時代があったとは想像ができません。
もうね、かなり尖がってましたよ(笑)。亥年なのでイノシシのように猪突猛進というか、突っ走ってしまうんですよね。闘争心剥き出しでガンガン行ってました。自分でも損をするってわかってはいたんですけど、なんせイノシシですからそのまま突っ走って来ました。
今年デビュー41年目になりますが、本当に長い間突っ走って来ましたね。
そうですね。若い頃はここまで長く乗れるとは思っていなかったですよ。性格的になかなか上手くいかないことも多かったし、減量もかなりキツイですからね。
長く騎手を続けている方は減量がない人が多いですが、丹羽騎手は(3月16日で)57歳になる今でも減量しているんですか?
してますしてます。今は毎開催3キロは取ってますね。若い頃はまだ楽に落とせたんですけど、50歳に近づいてからはかなり落としづらくなりました。ジーっとサウナで汗取りしている時は、『俺は何をやってるんだろう......』と思うことも多いです。この年になってまでまだ辛い減量をしているわけですから。今はタバコも止めたし、体のことを考えて生活しています。
辞めたいと思ったことはないですか?
それはありますよ。若い頃から体重が重かったですから、デビューしてかなり早い時期に減量が苦しくなって、『もうダメかな......』と思った時期がありました。その時辞めなかったのは意地ですね。親の反対を押し切って中学卒業と同時にこの世界に入ったので、途中で辞めるわけにはいかないと。絶対にやり切ってやろうと思っていました。
ご両親は騎手になることに反対していたんですね。
そうなんですよ。僕は小さい頃から野球が好きで、中日ドラゴンズの選手になるんだってずっと思っていたんです。でも体が小さかったから、プロは厳しいだろうなと思っていた時にたまたま競馬を見て。そしたらものすごくカッコ良くて、もうこれしかないって思いました。ここまで長く続けてこられたのはやっぱり好きだからです。馬に乗って勝負をするのがとにかく好きなんです。
41年の騎手人生、振り返ってみるといかがですか?
まぁ辛いことの方が多かったですね。人間関係も難しいし、騎手同士は仲間でありライバルですから。本当にいろいろなことがありました。その中でたくさんの馬に出会って、たくさんの関係者に乗せてもらって。それで今の自分があるんだと思っています。周りの方々には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
兵庫の川原正一騎手とは同期ということですが、意識しますか?
すごいなとは思いますけど、自分は自分なので特に意識はしないです。この前名古屋に乗りに来た時に話したんですけど、『お前もがんばれよ』って言い合ったりしていい関係ですね。
では、今後の目標をお願いします。
一番はケガをしないことです。一度しかない人生なので、ガンガン進んで行きたいです。今名古屋は若手がすごく頑張っていますけど、まだまだ負ける気はないですね。体が悲鳴を上げて乗れなくなるまでは、精一杯がんばります!
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:浅野靖典)