多くの名手を擁する名古屋競馬でリーディング上位をキープしているのが丸野勝虎騎手。
今年5月1日に通算1000勝を達成し、さらに勝ち星を積み重ねている気鋭のジョッキーだ。
丸野騎手は岡部誠騎手に続いて、この秋からマカオ競馬に遠征することになった。
■10年くらい前に、シンガポールに騎手の交換留学生として行けるという話が出ていたのですが、
直前にそれがダメになってしまったんですよ。それ以来、ずっと海外に行きたい思いはあったの
ですが、ちょっと難しいかなという気もしていました。
でも成績が上がってきたらそのうち......という気持ちはあって、岡部誠騎手のマカオ遠征時に現地を
見学しに行ったときに、僕も乗りたいと希望したら、話がうまく進んで騎乗できることが決まったんです。
先日も見学に行きましたが、向こうの騎手は荒いというか、厳しいレースをしますね。そういう点を含めて、
今回の遠征は技術の向上よりも、精神的な部分を磨くための遠征にしたいと思っています。
その思いの根底には、丸野騎手ならではのプロ意識がある。
■ずっと同じところで同じメンバーで乗っているせいか、今の名古屋の騎手はちょっと甘い部分が
あるように思えるんですよ。競馬場はいわば戦場ですから、騎手同士の仲がいいというのにも
違和感があります。それに名古屋は乗替りもあまり多くないですし、最近は若手でもレースで騎乗
するのに苦労しません。ぼくが新人だった頃は、騎手だけで60人くらいいたんですよ。その時代を
知っているだけに、もっと競馬で結果を出すことに貪欲さを出してもいいんじゃないかと感じているんです。
そう語る丸野騎手は、鹿児島県曽於市(宮崎県との県境付近)の出身。
故郷から遠く離れた名古屋競馬の騎手になるまでを教えてもらった。
■中学のころにテレビで競馬中継を見たのが騎手という職業を知ったきっかけです。その後、
地元出身の原口次夫騎手(現調教師)を紹介してもらって、その流れで那須の教養センターに
入学しました。なので、馬に初めてさわったのは、那須に行ってからなんですよ。
原口騎手の紹介ということで、卒業後は愛知所属に。その原口騎手が競馬エースの伊藤さん
に「彼は素質が違う」と話したことがあるそうだ。
■でも、最初の頃は全然レースに出られませんでした。厩舎には兄弟子がいて、攻め馬とか手入れ
とか、競馬へ行く準備はぼくがして、実戦は兄弟子というのが普通でしたから。それでも初勝利は
4戦目で挙げられて、初年度は10勝できました。でもその後も騎乗数は全然変わらなくて......。
その状況が続いたせいで、一度グレたことがあるんですよ(苦笑)。もう何もかもがいやになって、
酒に走ってしまいました。当然、朝は起きないし調教もやらない......。
その頃、所属していた磯村林三調教師が亡くなって、それを機に騎手をやめようとまで考えていたんです。
でも、そんなぼくを本名信行調教師が拾ってくれて。そこからですね。成績が伸びてきたのは。
苦しい修業時代を経て成績を上げてきた、その要因は何なのだろうか。
■最近の名古屋競馬は、後半600メートルでペースが上がるという競馬が多くて、わりと外を回る馬が
多い傾向がありますが、ぼくは基本的に「内をまわる」ことを心がけています。スローペースで後方に
いるときはさすがに別ですが、平均ペースのときは必ずそうしているんです。
名古屋は外差しが決まるように見えますが、馬に長く脚を使わせればそれが決まるときもあるけれど、
ダメージも大きくなる。それよりはインを通って直線までガマンするほうが、ロスも少ないし確実性も
ありますから。
ひとりの「プロ」として「騎手道」を追求する丸野騎手は、JRAでも重賞を制している。
■ゴールドプルーフの東海ステークスですね。あれが中央での初勝利。1位入線馬が降着になって
の繰り上がりでしたが、あれ、ゴールドプルーフも挟まって、かなり影響を受けたんですよ。
ハッキリ言って、加害馬がまっすぐ走っていれば、ぼくの馬が普通に勝っていたレースだったんです。
それなのに「儲けものだったな」とか冷やかされて。だんだん腹が立ってきたという思い出がありますね。
あとダートグレードではタカラアジュディ(名古屋優駿GIII)。あの馬は中央に繰り返し遠征に行っていた
ことで、速いペースに慣れていたことが勝因のひとつでしょう。もちろん地力があって、対応できる力が
あったからこそですが。中央での騎乗は、ぼく自身もフレッシュな気持ちになりますから、もっと乗り数
を増やしたいと思っています。
騎手としての熱い想いがある丸野騎手だが、目標や理想などはあるのだろうか。
■いえ、特に目標の騎手もいませんし、理想の騎乗スタイルも特にありません。何がよくて何が悪い
のかなんて、きっと永久にわからないものだと思うんです。ただ、人それぞれにいいなと思うところは
ありますよ。でも、それを自分のものにできるかというと、難しい話ですよね。いま感じているのは、
みんなそうだと思いますが、やっぱり体が硬くなってきているんですよ。年とともに(笑)。
昔のビデオを見ると、ヘタなんだけど体は柔らかくて感心しますからね。そのあたりをカバーすることも
含め、いろんな刺激を受けて技術を磨いていければと考えています。
リーディング上位の常連となったことでの達成感などはまったくないと語る丸野騎手。
「だからこそ海外に」というその意欲が向上心を表している。そしてそこにはもうひとつの
意味も。「若い世代の騎手に対して、乗り役としての厳しさ、そしてプロとしての厳しさを
体で示していかなければ、伝えていかなければと思っているんです」
丸野騎手の騎手道追求の旅は、これからも続いていくことだろう。
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丸野勝虎(まるのかつと)
1974年8月13日生 獅子座 A型
鹿児島県出身 本名信行厩舎
初騎乗/1992年4月20日
通算成績/8,869戦1,032勝
重賞勝ち鞍/名古屋優駿GⅡ、東海桜花賞、
名古屋記念、名古屋杯3回、梅見月杯、ゴー
ルド争覇、くろゆり賞(笠松)など27勝
(ほかにJRAでは東海ステークス制覇)
服色/胴緑黒縦じま、そで黒・緑一本輪
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※成績は2007年8月27日現在
(オッズパーククラブ Vol.7 (2007年10月~12月)より転載)