昨年区切りの100勝を達成した、笠松の森島貴之騎手。デビュー年は1勝だったものの、その後努力を重ねて着実にステップアップして来ました。デビュー8年目を迎えた今年、さらなる飛躍を誓います。
2016年は節目の100勝を達成しましたし、過去最多の34勝を挙げました。いい流れですね。
そうですね。とにかく1年ケガなく無事に乗れたことが何よりでした。100勝というのはもちろん嬉しかったですけど、僕の同期は活躍している人が多くて、園田の杉浦(健太騎手)とか、高知の岡村(卓弥騎手)とかは、200勝、300勝しているし、重賞もバンバン勝ってて。そういう同期に比べたらすごくペースがゆっくりだなとは思うんですけど(苦笑)。でも、ちょっとずついろいろな厩舎に乗せてもらえるようになりましたし、本当に周りの方々に感謝しています。トップジョッキーではないのに、騎乗数は多い方なんですよ。そこは自慢です!
地道にコツコツがんばっているからこそだと思いますが、いい流れになった要因はなんだと思いますか?
今までは年間10勝台だったんですけど、一昨年31勝することができて、その勢いで去年も来られたのかなと思います。技術的にはまだまだですけど、それでもデビュー当時から比べたら多少冷静に乗れるようになったのかなと。前はこわごわ乗ってた感じだったのが、経験を重ねて少しは落ち着いて来たとは思います。本当にまだまだですけど。
森島騎手はケガでデビューが3か月遅れましたけれども、その後もケガが何度かあったそうですね。
そうなんです。2年目3年目と毎年のようにケガをしてしまって...。本当にケガが多かったんですけど、ここ2、3年していないんですよ。それも大きいと思いますね。ケガをして休むと体を戻すのも大変ですし、乗り馬を集め直すのも大変ですから。でもそのケガっていうのも馬のせいではなくて、全部自分が悪いんです。調教中の落馬だったり、レース中の落馬だったりなんですけど、入ってはいけない馬群に突っ込んで行って落ちてるんですよね。ケガして痛い目見て、こういう騎乗はダメなんだ、ここまで接近してはダメなんだって覚えました。
先ほど、騎乗数が多いのが自慢だと仰っていましたけれども、どうやって乗り馬を集めているんですか?
それはもうコツコツやるしかないですね。攻め馬でもレースでも営業をたくさんしています。例えば名古屋の開催中に笠松の全休日があるんですよ。たまの休みですから、やっぱり休みたいじゃないですか。そこに1頭だけ名古屋で騎乗ってなると休めなくなる。そういう時、「僕が乗りに行きます!」って積極的に言うようにしてます。あとは他の人たちが乗りたがらないような癖のある馬でも「乗せて下さい」って言いますし。とにかく1頭でも多く乗りたいので。
毎日の調教もかなりの頭数になるのでは?
朝は1時に起きて、1頭目の騎乗は1時半からですね。そこから休みなく乗って、多い時で24、5頭乗っています。笠松は攻め馬すればある程度レースにも乗せてもらえますし、がんばりがいがありますね。
毎日1時から...。そのモチベーションはどこから来るんですか?
騎手として上手くなりたいっていうのもありますし、家族のためっていうのも大きいですね。僕、子供が4人いるんですよ。みんなめちゃくちゃ可愛くて。だから子供たちのためにもがんばらないといけないし、とにかく毎日必死にやっています。
騎乗馬の中でも特に思い入れの強い馬はいますか?
どの馬も大事ですけど、その中でも今はナスノアオバに期待しています。JRAで2勝して重賞も走っている馬なんですけど、今までの僕らならとても乗せてもらえないような、本当にいい馬なんですよ。普段はすごく大人しくて乗りやすいし、体は柔らかくて乗り味も最高で。本当に大好きです! レースでも勝負所をわかっていて、自分からハミを取ってくれるんです。だから僕は余分なことをせずに、馬を信じて乗っています。今A級で走っているんですけど、近い将来オープン特別や重賞に挑戦する予定です。この馬と一緒に、大きいところを狙いたいです。
目標とする騎手はいますか?
上位の方はみんな上手ですけど、その中でも佐藤友則さんはすべてがお手本だと思っています。道中の折り合いも上手いし、掛かる馬に乗っても全然掛からないんですよね。ずぶい馬も動かせるし、ポジション取りも上手い。自分の騎乗馬だけじゃなくて、相手の馬の癖もよくわかってて、すべてを考えて乗っているんですよ。しかも、考えるだけじゃなくてそれを実行に移せる技術もある。本当にすごいと思いますね。
佐藤友則騎手は意外にも去年が初リーディングだったんですよね。
リーディングが獲れて、僕もめちゃくちゃ嬉しかったです。だって、ものすごくお世話になっているんですよ。調整ルームにいる時はいつも友則さんにご飯作ってもらってて。
お料理も相当な腕前なんだそうですね。
そうなんです! 普通の主婦では敵いませんよ(笑)。めちゃくちゃ美味しいんです。それに、大きいところを勝つとご飯に連れてってくれて。僕だけではなく、家族も一緒にご馳走していただいて...。騎手としても人としても尊敬しています。
では、今年の目標を教えて下さい。
今年は友則さんから「50勝しろ」と言われていて、自分でもそこを目標にしたいと思っています。僕は何をするにも他の人よりゆっくりのペースですが、着実に積み上げていきたいです。それと...、東川(公則)騎手がお子さん6人いらっしゃるので、その数も追い越せるようにがんばります(笑)。
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※インタビュー / 赤見千尋 (写真:岐阜県地方競馬組合)
2013年に29歳という異例の年齢で騎手デビューを果たした山下雅之騎手。4年目の昨年は通算100勝も達成しました。騎手になるまでにはどんな経緯があったのか、今に至るまでを聞きました。
騎手を目指すきっかけから教えてください。
お父さんが競馬ファンだったので家のテレビでよく見ていたんです。最初は興味がなかったんですが、競馬場に行ったりするうちに格好いいなと思うようになって。それで中学生の時に乗馬を習いだしました。この乗馬クラブでは吉井友彦騎手と一緒だったんですよ。
当時、騎手試験は受験したんですか?
しましたよ。最初にJRAを受験して不合格、地方も受けたのですが落ちてしまいました。ですので、厩務員として牧場に行ったり園田競馬で働いていました。20歳くらいの時にもう一度、騎手試験を受けたんです。今度は一発試験で。でもダメで、もうあかんと思いました。
それからの仕事はどうしたのですか?
地元の京都に帰って普通の仕事をしました。馬とは全く関係ない仕事です。建築関係だったり、営業だったり一般の会社員。でも、こちらの仕事も上手くいかなくて、笠松で騎手をやっている吉井騎手に連絡したんです。どこか厩舎を紹介してくれないかと。そして、後藤保厩舎で働かせてもらうことになりました。
そして再び、騎手へ挑戦することになったんですね。
はい。騎手が足りないということもあって、一発試験で受けてみようと。1回目は2次試験までいきましたが不合格でした。その時はゲートが全然できていなかったので、それから調教の時に練習させてもらい、2回目の受験で合格することができました。
ということは、騎手を養成する学校に入ってないんですよね? 騎乗技術はどのように学んだのですか?
調教で勉強する感じですね。学校と違って教官に教えてもらうわけではなく、こちらの先輩たちから学びました。もちろん模擬レースもしたことないですし、能力試験は騎手でないとできませんから、実際のレースがまさにぶっつけ本番でした。
騎手試験に合格してすぐにデビュー。初騎乗のレースは覚えていますか?
めちゃくちゃ怖かったです! なんせ初めてなので距離感も分からない。調教の時は並走するくらいですからね。馬群の中にいて、前の馬がすごく怖いんですよ。横を見てもすぐ近くに馬がいるし、「近い!近い!近い!」って思いながら必死でした。直線も追えていたかも覚えていないです。恥ずかしくてその映像は見られません(笑)。
でも、その日のデビュー2戦目で見事初勝利を決めましたね。
奇跡としか言いようがないです。自分は何もせずにそのままゴールでした。馬が運んでくれましたね。
これまでに思い出に残っている馬やレースはありますか?
やはり、初勝利の時のテイエムカルチェですね。デビューの日、親も来ていてこのレースを見て泣いていました。親孝行ができて馬には感謝しています。この馬で5勝させてもらいましたし、ずっと乗っていたいなと思わせてくれました。
騎手になってから3年が経ちます。昨年は通算100勝も達成しました。ここまでのご自身の評価はいかがですか?
勝たせてもらっていると思います。少しずつ成績も上がっていければなと。たくさん乗せてもらっていますし、歳をとっている分、若者よりがんばらないといけないですからね。
でも、違う世界で色んなことを経験してきた強味もあると思うのですが?
そうですね。若い子を見ていると、落ち着いていないなと思うことがあります。僕は年齢の分、周りが見えるのかなというのはありますね。緊張もあまりしませんし。
精神面が落ちついている分、緊張もしないのですか?!
いや、デビュー戦が衝撃的すぎて、それ以上のものはないのかなと(笑)。あの時の恐怖はなかなかのものでしたよ。
好きな騎手や目標とする騎手はいますか?
若い時は、岩田康誠騎手が好きでした。園田競馬で厩務員をやっている時期に、担当していた馬に乗ってもらったこともあるんです。
今は騎手目線になっているので、折り合わせるのが上手いのはこの騎手、姿勢がきれいなのはこの騎手、などと部分的に見るようになりましたね。
通算100勝セレモニー。吉井友彦騎手(右)と
ちなみに、吉井友彦騎手はどんな存在ですか?
この人には感謝しかないですね。もちろん、今でも良き相談相手。愚痴も聞いてくれるし、飲みに連れていってくれるし、プライベートの話もできますし(笑)。
今後の目標を教えてください。
笠松でリーディング5位になること。それと、いつか笠松の馬でJRAに行きたいです。遠征も任せてもらえるような騎手になりたいですね。
最後に、ファンのみなさんにメッセージをお願いします。
どんなに人気のない馬でも一生懸命乗っていますので、温かく見守って頂けると有り難いです。
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※インタビュー / 秋田奈津子 (写真:岐阜県地方競馬組合)
デビューから30年目を迎えたベテラン、笠松の東川公則騎手。今年8月にはくろゆり賞を制し、地方通算2500勝を達成しました。現在笠松リーディングでも第3位(9月25日現在)につけ、存在感を放っています。
2500勝達成おめでとうございます。
ありがとうございます。区切りの勝利なので嬉しいです。けど、3000勝を目標にしているのでまだまだですね。デビューから29年かけてここまで来たわけですが、振り返るとあっという間だった気がします。気が付いたらこんな年(47歳)になってました(笑)。
本当に長い年月だと思いますが、どんなことが思い浮かびますか?
一番は2009年にケガしたことです。それまで大きなケガはなかったんですけど、この時は胸椎圧迫骨折で4か月休みました。乗れないし収入もないし...。体もそうですけど、精神的に苦しかったです。本当に治るのか、また同じように乗れるのかすごく不安でした。ちょっと焦る気持ちもあって、まだ3か月くらいの頃に調教に乗り出したんですけど、やっぱり思うように動けなくて。そこからは腹を括ってきっちり治るまで休みました。僕は体重が増えやすいので、入院している間はほとんど食べなかったです。病院食は残して、自分でおにぎりを作って調整しました。嫁さんも毎日協力してくれて。あそこでまともに食べてたら復帰できなかったかもしれません。
馬乗りにとって、馬に乗れない時間というのは辛いですよね。
本当にそうですね。4か月休んで、明日から調教に乗れるとなった時、もう嬉しくて嬉しくて前日なかなか眠れなかったくらいです(笑)。久しぶりに乗った馬の背中は気持ち良かったですし、馬に乗れることの有難さも実感しました。
サルバドールハクイでくろゆり賞を制し、地方通算2500勝達成(写真(C)funfunH.Taniguchi)
騎乗に関してのポリシーは何ですか?
こだわっているのは、キレイに乗るということです。例に出していいのかわからないけど、御神本くんなんかは本当にキレイなフォームでしたよね。僕がデビューした頃はまだ今ほどアブミを短くして乗るという感じではなかったんですけど、デビューから4、5年目くらいの時に、後藤保先生にワールドレーシングっていう海外競馬のビデオを見せてもらったんです。ほとんどがヨーロッパのレースだったんですけど、最後の7~8分にアメリカのレース特集があって、それを見た時あまりのカッコ良さに「なんじゃこりゃー!!」って衝撃を受けました。アブミが短くて、道中ビシッと背中を低くしてて、ものすごくカッコ良かった。自分もこんな風に乗れたら...と思って実際に取り入れてみたんですけど、周りからは「そんなんで馬が動くわけがない」って言われたりして。ただその頃まだ笠松にいた安藤勝己さんは「これからはそういうのも大事だよな」って言ってくれました。あの時アメリカのレースを見てから、騎手という仕事に改めて情熱を持ったんです。自分はすごくカッコいい仕事をしているんだって実感したんですよね。
今年は4年ぶりに園田のゴールデンジョッキーカップに出場しました。印象はいかがでしたか?
やっぱりああいう騎手レースは楽しいですね。全国のトップジョッキーに会えて刺激を受けました。特に的場文男さんですよ。当日が60歳の誕生日だったんですけど、もう本当にお元気で。まだまだバリバリですよね。今自分は47歳なんですけど、60歳になってもあんなふうに乗れるなんて本当にすごいなと思いました。
レースはどうでしたか?
初戦はいい馬に当たったんですけど、気持ちが入りすぎてしまって...。今振り返ると、勝ちに行き過ぎたなと。乗り方次第でもう少しいい着順だったと思います。3戦目は接戦の2着だったんですけど、あそこまで行ったら勝ちたかったですね。反省点はありますが、刺激をいっぱい受けたので、また呼んでもらえるようにがんばります。
ゴールデンジョッキーカップの騎手紹介式
今年は重賞・くろゆり賞をサルバドールハクイで制しました。
久しぶりに重賞を勝ててうれしかったです。調教も素直で大人しい馬で、とても扱いやすいですね。最初は少し掛かるイメージがあって、わざと抑えて乗っていたんですけど、最近はいい位置から競馬するようになりました。それがあの馬には合っていたんだと思います。まだまだやれる馬なので、これからも楽しみですね。
今年はすでに83勝(9月25日現在)を挙げ、昨年の78勝を上回っていますね。
ここ何年か、南関東期間限定騎乗で年間2か月行かせてもらっていたので勝ち星が下がりました。今年はずっと地元で乗っているので、数字的には上がってますね。南関東への遠征は、結果的には満足いく数字は挙げられなかったけれど、すごくいい経験ができたと思っています。もっと若い頃に行けていたらな、という気持ちもありますね。
南関東期間限定騎乗に行くには、笠松の場合はオフシーズンがないですから、地元のリーディングを諦めないと行けないですよね。
そうなんです。そこが悩ましいところです。JRAや南関東と違って、地方の場合は攻め馬してなんぼですから乗り馬が確実に減ることになる。ただね、僕にもっと技術があればそんなこと関係ないと思うんですよ。何か月いなかろうと、いい馬への騎乗依頼は来るはずですから。それで成績が下がったというのは、自分はまだまだなんだな、努力が足りないなと思います。
では、今後の目標を教えて下さい。
今年は久しぶりに年間100勝が達成できるんじゃないかと思います。若い子たちもがんばっているけれど、リーディングも目指したいですね。それから、2番目の息子が中学を卒業して騎手を目指したいということで、笠松で下乗りを始めたんです。最初は心配したけど、なかなかがんばっているんでね、上手くいけば3年後に騎手デビューですから、その時に上位で活躍している自分でいたいです!
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※インタビュー / 赤見千尋
現在笠松リーディング第5位につけている藤原幹生騎手。デビュー16年目となる今年は、さらなる飛躍が期待されます。これまでのこと、そして現在の心境をお聞きしました。
今年はここまで49勝(2016年6月22日現在)を挙げ、デビュー以来最高のペースで勝ち星を重ねていますが、飛躍のきっかけというのは?
今年はいつも以上のペースで勝たせていただいて、本当に有難いです。ただ、自分では飛躍したという風には感じていないですし、1つ1つ目の前の馬たちに対してがんばっているだけです。特にきっかけとかはないですね。
昨年は3カ月間、門別競馬場で期間限定騎乗しました。その辺りの経験も大きかったのでは?
確かにそれはありますね。これまでとまったく違う環境でいろいろ勉強させていただいて、とても刺激になりました。コースも施設も違うし、馬産地北海道なので近くに牧場もたくさんあって。レースのことだけじゃなく、競馬に対する視野が広がったのかなと思います。
あのタイミングで期間限定騎乗した理由というのは?
去年デビュー15年だったんですけど、それまでも漠然とどこかで乗ってみたいなというふうには考えていました。ただ、笠松の現状では人手が足りないので、僕がどこかに行くとなると他の人たちに攻め馬を頼んで行かなければいけないんです。ただでさえみんな忙しいのに、「ちょっと行って来ます」という雰囲気ではなくて。だから、具体的には考えもしなかったですね。でも一昨年に大きなケガをして休まざるを得なくなってしまって。復帰してからも、しばらくして体の中に入れたプレートを除去する手術をしなくちゃいけなかったので、そんなに攻め馬を増やさなかったんです。その延長で期間限定騎乗に行かせてもらいました。
なるほど。調教する人が少ない分、競馬場を空けるというのも難しいですね。
そうなんです。朝は1時45分から1頭目に乗って、だいたい20数頭攻め馬しますね。大変ですけどみんなやっていることだし、攻め馬をしている馬は基本的にレースにも乗せてもらえるのでがんばり甲斐はあります。
2014年のケガは相当大きなものだったそうですが、復帰まで大変だったのでは?
腰椎を5か所やって他にもいろいろ......。しばらく歩けなかったので凹みましたけど、じたばたしても仕方ないのでゆっくり休みました。復帰した当時は前と同じ騎乗ができなくて精神的に堪えましたね。周りの人たちから見たらほんのささいなことなんですけど、自分の体は自分が一番感じるじゃないですか。このままじゃダメだと思ってトレーニングをしたりいろいろ考えて、今はケガする前を上回っていると思っています。
具体的にはどんな部分が上回ったんですか?
う~ん......言葉で説明するのは難しいんですけど。ケガをする前から目指していたフォームがあって、復帰した時はそこから離れたなと感じたんです。その後トレーニングして筋肉を増やして、バランスの取り方も変わって軌道修正できたかなと。やりたかったことに追いついて来た感じです。
乗り方について、目指しているジョッキーはいますか?
みんな上手いので、いいところはどんどん見て覚えようとは思っていますが、「この人みたいになりたい」というのはないです。勝負の世界だし、笠松や名古屋だけじゃなく、地方も中央も世界でも、騎手の中で負けたくないという気持ちは強いです。そのためには、自分なりのフォームを追求していくのが一番だと思っています。
騎乗フォームのお話が出ましたけれども、馬とのコミュニケーションはどうですか?
それは自分の中で納得がいっているんです。自分なりに会話できるようになったなって。でももちろんもっと研究していきたいし、上手くなりたいと思いますけど。
馬とのコミュニケーションが納得できているというのは、すごいことですね。
笠松の環境もあると思いますよ。レース単体で考えるわけじゃなくて、毎日の調教の中で少しずつコミュニケーションを取っていって、その馬がどういう馬なのか、何を考えているのか、今はどういう状態なのかっていうことを感じていくわけです。パッと乗ってわかる馬もいれば、なかなかわからない馬もいますけど、それでも毎日接していれば少しずつ理解できるようになりますよ。だから、朝の調教は大変ですけど、なくてはならない大事な時間だと思っています。
毎朝1時45分から調教しているということですが、それを何年も続けられるモチベーションというのは?
やっぱり、馬の気持ちを理解して思い通りに走らせられると嬉しいですし、それを周りが評価してくれたら嬉しいです。大人しくて素直に走る馬も大好きですけど、クセがあって乗り難しい馬といかに意思疎通するかっていうのも楽しくて。なんだかんだで、乗っている馬たちは期待に応えてくれるんですよね。それが一番の喜びです。
では、今後の目標を教えて下さい。
今まで通りというのが一番の目標です。おごらず、腐らず、今まで通り1頭1頭を大切に乗っていきたいです。
なんだか藤原騎手は悟っているというか、静かな闘志を感じます。昔からそういう考えは変わっていないですか?
いや、昔は腐ってましたよ。「何で評価してくれないんだ!」って思ってましたし。でも今思えば技術がなかったし、当然だったなと思います。30歳くらいまでにいろいろな経験をさせてもらったことで、少しずつ自分自身が見えるようになったのかもしれないですね。特に大きな何かがあったわけじゃないですけど、考え方が大きく変わりました。これからも笠松で一生懸命がんばりますので、ファンのみなさんに見ていていただけたら嬉しいです!
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:岐阜県地方競馬組合)
長年の活躍が認められ、日本プロスポーツ大賞功労賞を受賞した、笠松の向山牧騎手。笠松移籍後は低迷した時期もありましたが、現在は毎年リーディングを争う活躍を見せています。御年50歳。第一線で居続ける秘訣をお聞きしました。
日本プロスポーツ大賞功労賞受賞、おめでとうございます!
ありがとうございます。人生の中でこの賞をもらえるチャンスはなかなかないですから、本当に光栄だし嬉しかったです。騎手を長くやってて良かったなと思いましたね。授賞式は盛大に行われると聞いていたので、何を着ていったらいいのか迷いました。この年なので緊張はしませんでしたが、競馬以外のプロスポーツ選手の方々にお会いできて、すごく新鮮でした。
どなたが印象に残っていますか?
特別にこのスポーツが好きっていうのがないんですけど、去年はやっぱりラグビーが盛り上がりましたから、選手に会えるかなと思って楽しみにしていました。でも、授賞式には選手は一人も来てなくて、ちょっと残念でしたね。でも、普段テレビで見ている方々と一緒に表彰されて、これからもっとがんばろうと刺激を受けました。
以前インタビューした時に、「3000勝が目標」と仰っていましたが、一昨年見事達成されました。その時のお気持ちは?
やっぱり重みがありますよね。ずいぶん長いこと、いっぱい乗せてもらったんだなとしみじみしました。騎手は自分がどんなにがんばろうと、乗せてもらえなかったら仕方ないですから。新潟、笠松と所属してきて、本当にたくさんの方々に助けられたんだなと実感しました。
今年はデビュー34年目です。長く騎手を続ける秘訣は何でしょうか?
一番はケガをしないことです。もちろん、気を付けていてもこればっかりはどうにもならない時もありますし、生き物相手なので突然何が起こるかわからないというのが現実です。でもだからこそ、自分がケガをしないこと、人をケガさせないことを常に心がけています。騎手のケガというのは一生を左右することもありますし、馬の命を奪うこともあります。そこはこれからも気を付けていきたいです。
笠松といえば、去年トップジョッキーだった尾島徹氏が、若くして騎手から調教師に転身しました。向山騎手は調教師転身を考えたことはありますか?
まったくないと言ったら嘘になりますけど、あんまりないんですよ。自分が調教師になって仕事をしているところを想像すると......、向いてないなということをヒシヒシと感じて(笑)。前にも言いましたけど、僕は口下手で営業ができないし、馬主さんとの関係も上手く作れないと思うんですよね。騎手としても営業ができなくて騎乗馬が集まらなかった時期がありましたから、調教師になったらもっとそういう部分が大切でしょう。馬に乗ることが大好きだし、僕はこのまま生涯騎手でいきたいですね。尾島くんは騎手としても成功して、調教師としても一生懸命がんばっていてすごいと思います。笠松の看板ですしね。でも、人と比べても仕方ないので、僕は僕の道を行きますよ。
2013年に笠松で初リーディングとなり、その後も2年連続第2位。現在50歳ですけれども、年間100勝以上の好成績が続いていますね。
これはもう、自厩舎のお蔭ですよ。川嶋弘吉先生が主戦としてほぼ乗せてくれて、いい馬がたくさん入ってくる厩舎なので、チャンスもいっぱいもらっています。営業できない僕にとっては、結果で返していくしかないですから、これからも勝負にこだわっていきたいです。
騎乗面で大切にしていることはありますか?
いくつもありますけど、この年になると誰も何も言わないので、自分で考えて研究するということです。何も言われないからって今のままでいいっていうわけではないし、実力社会なので、乗れなくなったら必要ないですから。そうならないように、1頭1頭この馬にはどんなアプローチがいいのか真剣に考えています。若いうちはガミガミ言われて煩いなと思ったこともありましたけど、実際に年齢を重ねて何も言われなくなると、それはそれで怖いものですよ。自分で努力しなくなったら、もうそれで終わりですからね。
では、今年の目標を教えて下さい。
ここ何年か重賞を勝っていないので、そろそろ勝ちたいです。去年は東海ダービーで2着に負けて、本当に悔しい想いをしました。やっぱり騎手をしている以上、ダービーは目標のレースです。今年は何頭か重賞で勝負できそうな馬がいるので楽しみです。
具体的な馬名を教えていただけますか?
1頭はメモリーミリオンです。笠松デビュー馬でずっと乗せてもらっているんですけど、使いながらだんだんと成長して来てくれました。今はまだ前に行けないで後方からなんですけど、もう少し前に付けられるようになったら重賞でも十分勝ち負けできると思っています。なかなか、こういう若馬に出会えるチャンスは少ないですから、大切に育てていきたいです。
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※インタビュー / 赤見千尋