
陶文峰調教師は騎手として昨年まで25年間で地方通算913勝の成績を残し、調教師に転身した。最後の重賞騎乗となった北上川大賞典で勝利するなど引退直前まで活躍し、強烈な印象を残した。そして調教師としても初出走翌日に初勝利を挙げ、順調なスタートを切っている。
いつ頃から調教師を目指そうと思いましたか?というあたりからお話を始めることにしましょう。
騎手としては2000年のデビューだったので、20年続けた2020年からちょっと考え始めていました。その前からも考えてはいたんですけど、20年という節目にきて、そろそろいいかなと思って。それから調教師試験に向けた勉強を始めましたね。
ということは、ちょうど40歳になったあたりで考えたということですね。それ以前からも将来は調教師にと考えていたんですか?
いや、騎手の時は毎年毎年怪我なく乗り越えられればいいかなと思っていて、特に目標はなかったんですけど、だんだん年齢を重ねてきて、そろそろ違う事をと色々考え始めた時に、その20年目というのがひとつの節目になたのかなと。
今は無事調教師になったわけですけど、調教師免許を交付されて厩舎開業までの苦労というか、忙しさというか、どんな感じでしたか?
自分は乗る方がメインでしたから、馬房周りの作業、飼料だとか、馬主さんとの契約関係だとか分からない部分が多すぎて。幸いなことに木村暁先輩がいたし、調教師試験に向けて一緒に勉強した同期もいたし、そういう人たちに教えてもらって進めていました。
盛岡で開業して、新しい厩舎でゼロからのスタートでしたしね。
自分は馬に乗る方はできると思うのですけど、それ以外の部分が、どこからそこに持っていくかが分からなくて。大変というわけではないですけどやらないと分からない、覚えられないところがあると思うから、周りの人にいろいろ聞きながらやっています。そうやって教えてくれる先生も一杯いるから、自分は恵まれていると思いますよ。
陶調教師は騎手時代に盛岡所属だったこともあるから、盛岡で調教するのが初めてではないけれど、厩舎開業となったら水沢と勝手が違うところもあったのではと思いますが、その辺は大丈夫でしたか。
そこは大丈夫でした。調教の流れとかもある程度わかっていたから大丈夫だったんですけど、スタッフを見つけるのがちょっと大変でしたね。水沢から一緒に来てくれる人がなかなかいなくて。今回2人が一緒に働いてくれている事をすごく感謝しています。
新規開業にあわせて、厩務員さんも2人、新人さんでスタートしましたね。
一人は以前競馬場でゲート係をやっていて、厩務員になりたいと言っているという話を聞いたものですから、スカウトしました。すぐに厩舎のリーダーみたいな、お姉さん的な感じでやってもらっているんで助かっています。もう一人は自分を凄く応援してくれる方の親戚で、北海道の育成牧場の経験もあって。馬の仕事をしたいというので、自分も調教師になるからその時は......みたいな話をしたことがあったんですが、自分が合格して改めて聞いてみたら"やりたい"と。それで来てもらいました。
その新人の勤務員さん2人の働きぶりはどうですか?
よく頑張ってくれていると思いますよ。SNSもこまめにやってくれて盛り上げてくれていて、凄く助かっているし、ありがたい。競馬以外の所も頑張ってくれているんでね、良いスタッフに恵まれたと思います。
厩舎初勝利を挙げたスピードスターを出迎える陶調教師
そして初出走から2戦目で見事初勝利を挙げました。
オーナーさんからは1月にお話をいただいていて、厩舎を開いて1週間ほどした頃に入厩したんですけど、これはちょっと面白い馬だなと感じました。雪が積もったりして調整しづらい事もあったんですが、馬に能力がありますからね。上手く応えてくれて、全てが噛み合ったような勝利でした。ちょうどオーナーさんが来ていた時で、厩務員さんも、担当者だけでなくもう一人の方もお手伝いという事で来てもらっていたから、全員揃っていたところで勝てたのもタイミングが良かったです。
厩舎初勝利の口取り(2025年3月10日水沢1レース)
前に聞いた時に、馬をちゃんと作って無事に出してあげたいと言っていた陶調教師でしたが、最初のレースは勝てなくてもいい競馬だったし、2戦目で勝って、うまくいってると言ってもいいのかなと。
そうですね、最初勝てなかったのはいい薬になったし、思っていたより早く勝てたのは嬉しかったですね。次に繋がるレースをどういうふうにやろうかというところで、皆がちょっともがいているような段階なんですけど、みんな前向きにやっている。勝てないとがっかりする......というのも少しあると思うんですけど、そこは自分の感じた手応えとかを説明しつつね。本当に今みんなで勉強中という感じでやってます。
最初の1カ月を終えて、まずは順調なスタートだったと言っていいですか。
そうだと思います。勝てたのは嬉しいですけれど毎回毎回勝てるかというと、なかなか難しい事ですからね。"馬を無事に送り出して、無事に帰ってきてくれる"という僕が思っていることは厩務員の二人も分かってもらっているし、厩舎としてもこれからやるべき事、これからどういうふうに改善していくかというところを見つけて、話し合いをしながら進めていきたい。自分も納得の結果。僕が納得するということでもないんでしょうけど、良かったと思います。
いやあ、もっと喜んでいいスタートだったと思いますが(笑)。
最初良すぎて後でガクっときちゃうのも嫌ですしね。ここからどうやって走ってもらうか、どうやったら勝ってもらえるか、ということを試行錯誤しながらやるのはいい勉強だとも思うし。どんどん勝てればそれもいいですけど、どうやればいいのかという正解はいろいろあると思うんですけど、その過程も大事じゃないかと。
では、ちょっと格好良く言ったら"勝った事で満足しないで、そこからまた勉強していけばいい"みたいな?
そうですね。そうやって悩むくらいの程度がちょうどいいかなと思いますね。
自身が騎手として騎乗していたローガンマウンテンと
では、最後にオッズパークで馬券を購入してくださっているファンの皆さんにひと言と、この先の目標などを改めて聞かせていただければ。
人馬とも無事で、というところを目指してるので、まずそこから。そのうえでオーナーさんなり、ファンの方々にも喜んでもらえるようなレースをして、ちゃんと結果を出せるように送り出していきたいと思います。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
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3月16日、ばんえい競馬の大一番、第57回ばんえい記念が行われ、1番人気のメムロボブサップが優勝。前日に主戦の阿部武臣騎手が怪我のため、ばんえい記念初騎乗となる渡来心路騎手に乗替り。メムロボブサップは、ばんえい競馬史上8頭目の賞金1億円獲得となりました。
おめでとうございます。今の気持ちを聞かせてください。渡来騎手は珍しくガッツポーズでした。
渡来:すごくほっとしているし、うれしいです。ばんえい記念なので(ガッツポーズしました)。すごく嬉しかったですし、本当に武さん(阿部騎手)と坂本調教師と馬主さんと、そして応援してくださるファンに、すごく感謝しています。
坂本:ありがとうございます。(感動で)言葉がでないくらいです。帯広記念以降は、これにレースを絞ってきました。前走のチャンピオンカップ(トップハンデで勝利)は、『ちょっと無理しすぎたな』という気持ちはあったのですが、後遺症も残らず、今日のレースでも前へ進んでくれた。阿部騎手が、馬の筋肉が痛まないようにトレーニングを重ねてやってくれた。すごく感謝しています。
(通算収得賞金)1億円については、気にしてはいなかったです。放送などで言われて厩舎では話題になったのですが『いや、そこを考えるな』と。一歩ずつ進んで前に行く、という気持ちを常に考えていました。
昨年の借りを返したというよりは、敗戦がすごく良い経験になりました。馬が冷静になっていた。レースを馬が心得ているんです。すごい馬です。
最高のレースで、騎手時代にはなかったくらい緊張しました。見る方が疲れます。
直前で、阿部騎手の怪我がありました。
坂本:突然で、ちょっとパニックになりました。渡来騎手も冷静に馬を持ってくるタイプなので、一番いい乗り方ができるかな、と思い、その通り冷静に乗ってきました。
いつもとはちょっとゲートの出が違ったんです。過去のビデオを見たらわかると思いますが、メムロボブサップは、出る瞬間を馬が決めているんです。渡来騎手は、手綱に力が入って下げ気味にしていたのが、阿部騎手と違うところでした。馬も阿部騎手との違いを感じ取ったと思います。
私はハナを引っ張るつもりで見ていたのですが、(いつもとスタートが)「あ、違う」と。渡来騎手もそこで気がついて冷静でした。それは重賞を乗りこなしている騎手の勘。素晴らしいものがあったと思います。
渡来騎手は、騎乗が急遽決まりました。
渡来:本当に俺でいいのかな、と。心臓バクバクで、プレッシャーでどうしようかな、って感じでした。プレッシャーを感じすぎて、一周回ってやるしかないな、という気持ちになりました。自分に声がかかるとは思っていなかったです。(これまで乗ったことのない)ばんえい記念ですし。
(阿部騎手が怪我をしたとき)救急車が来ていたのは聞こえたのですが、乗替りも発表で知り「どうしようかな」って、プレッシャーがすごくて。
坂本:そう言いますが、(渡来騎手は)わりに図太いですよ。
渡来:緊張はしなかったのですが、プレッシャーで。でも、前日の夜は思ったよりぐっすり寝れました。
レースについて教えてください。
渡来:雪が降りましたが、荷物が1トンなので焦ることなく慎重に、しっかり溜めていこうと思っていました。
強い馬で、武さん(阿部騎手)がしっかり仕上げてくれていました。スタート出た瞬間に「完璧な馬だな」というのがわかったので、馬に任せ、呼吸を見ながら乗りました。初めての1トンで、どのように乗ったらいいのか全くわからなかったですが、もうボブサップが走りたいように全部任せました。この馬が一番レースをわかっているから。
完璧な馬、とは具体的には。
渡来:スタートの良さ、1トン引っ張っても道中しっかりハミを取って騎手の言うことを聞いてくれるところ。前に行きたがる闘争心もあるし、障害力もあるし、降りてからの脚、全てがそろっている馬だと思います。
第2障害を一腰で上げたいと思い、障害の下でしっかり息を入れることを意識していました。障害は先に他の馬が越えましたが、馬が完璧だったので焦ることはなかったです。降りた時の勢いがあったので勝てるな、と。ゴール前もまだ余裕がありそうだったので、このまま止まらずに行ってくれるな、と思っていました。1トンですし、追い詰めてもつらいかなって思って(無理に追わなかった)。
初めてのばんえい記念はいかがでしたか。
渡来:急遽決まったので初めてというより、プレッシャーの方が大きくて。観客の多さなどは気にしなかったです。
直前の乗り代わりでしたが、短い間に準備したことはありますか。
渡来:何もしていません。坂本調教師が当日の朝仕上げてくれて、それまでも武さんが仕上げてくれていた馬です。
坂本:渡来騎手は一回も触らず、レースで初めて乗せたんです。これまでほとんど阿部騎手が調教を付けていて、私は健康管理に回っています。私が調教をつけたのは過去4、5回くらいかな。当日の朝は、渡来騎手も『攻め馬をする』と待っていましたが、私がやりました。馬は完璧ですから、あとはレースでの乗り方次第だと。
合図は人間が馬に伝えるのではなく、馬が出すもの。渡来騎手の乗り方もわかっていますし、馬の仕上げも私の中で考えているものがある。いちいち説明するようなレベルの騎手ではないですし、どうやって乗りこなすかを見ていました。
阿部騎手に伝えたい思いはありますか。
坂本:伝えなくてもわかっていると思います。
渡来騎手は、2020年にメムロボブサップに騎乗しています(阿部騎手がホクショウマサルに騎乗したためで、この時が過去唯一阿部騎手以外の騎乗)。
渡来:その時から強いなとは思っていたんですけど、やっぱり強いです。そのときよりは力は断然付いていますし、レースを覚えているというか、馬が自分でしっかりレースをわかっている感じですね。
坂本:それに気づいたということは、すごいジョッキーになってきたってことだ。
渡来:そんなことないですよ(笑)。
坂本:渡来騎手は追う回数は多くないけど、ああ見えて汗をかいているんです。ものすごい緊張感で、こんなに寒い日でもスタート前は寒くないんです。私も経験がありますから。
渡来:そうですね。(レースが終わって)表彰式の時は寒かったです(笑)。
成長を感じるところはありますか。
坂本:私と違って(笑)、成長が著しい。昔はやんちゃなところがあって、厩務員に危ない、と言われるくらいでした。今では、自分が歩くのを待っていてくれる。馬房に行ったら振り向いてくれるんです。私に対して優しい馬だと思っています。
まだ現役は続きますので、このまま健康を保っていきたいです。来年度は、目標を(まだ勝てていない)帯広記念に絞りたいと思います。今日のボブサップに感謝しています。皆さんの応援があったので、ボブも応えてくれたと思います。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
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2024年7月4日、笠松第8レースをヒナアラレで勝利し、地方競馬通算1000勝を達成した後藤正義調教師(笠松)。29歳という若い時期に開業し、45歳で1000勝に到達。ここまでの想いを伺いました。
地方競馬通算1000勝達成、おめでとうございます。
ありがとうございます。ここまで思い返すと感慨深いものがありますし、周りの方からも「おめでとう」とお声がけいただきました。頑張ってくれた馬たちや、関わってくれた方々に感謝の気持ちでいっぱいです。あまり数字にはこだわっていないので、目の前の1頭1頭を丁寧にという想いでやってきました。その積み重ねで今回こういう大きな区切りを迎えることができたんだと思います。
29歳で開業と、かなりお若い年齢で調教師になられたのですね。
祖父、父と調教師をしていまして、自分も競馬の道に進みたいと考えていました。ただ体が大きく騎手にはなれなかったので、厩務員としてこの世界に入って、やるからには調教師になりたいと思っていました。調教師試験を受けられる年齢になってすぐに試験を受けたので、20代で開業することになりましたが、当時を振り返ると親に甘えていたというか、すべて親父のおかげでスタートすることができたなと。人も馬も、今でもそのつながりがあるからやっていけるので、とても感謝しています。
調教師として大事にしていることはどんなことですか?
先ほども触れましたが、1頭1頭丁寧に接することです。競馬の世界は上手くいかないことの方が多いです。思い通りにいかないことが多いから面白いという部分と、だからストレスが溜まるという部分と。馬を育てるのもなかなか思い通りにはいかないですし、人を育てることに関しても思い通りにはいかないですね。
スタッフの方々に対しては、どういうスタンスで接していますか?
うちはベテラン厩務員が多く、経験豊富で任せられますから、あまり深く干渉しないようにしています。ただずっとベテランの方々に頼っているだけではダメなので、若手も育てていますが、なかなか難しいですね。1カ月前から24歳の子が入って来て、今頑張っていろいろなことを吸収しています。馬に接するのが初めてという子なので、本人も大変だとは思いますが、せっかくやる気を持って入ってきてくれたので、大事に育てていきたいです。
今後の目標というのはいかがでしょうか?
特に数字にはこだわらないので、具体的な目標というのは思いつかないですが、体調がベストな状態でレースに出す、ということを大事にしていきたいです。以前の賞金諸手当が安い頃は、どうしてもレースを使ってカバーするという状況がありましたが、今はおかげさまで賞金諸手当が上がって、馬のためにしてあげられることが増えています。とてもいいサイクルなので、馬のためにできることを最大限やっていきたいです。
最近の活躍馬に昨年の中京ぺガスターカップを勝ったスタンレーがいますが、どんな特徴の馬ですか?
性格はまあまあやんちゃです(苦笑)。だいぶ最近は落ち着いてきて、大人になってきましたね。これからという時に骨折してしまって、順調に行かなかった時期もありました。今も脚元に不安を抱えているので調整が難しいのですが、能力の高い馬なので、しっかりしてくればまた重賞を勝つ力はあると思います。
2023年3月14日、名古屋・中京ぺガスターカップを制したスタンレー(写真:愛知県競馬組合)
では、オッズパーク会員の皆様にメッセージをお願いします。
開催自粛期間があったにも関わらず、今また馬券を買っていただけること、とても感謝しています。競馬を続けられることが本当に幸せです。みんなで頑張ってやっていきますので、これからも笠松競馬をよろしくお願いいたします。
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:岐阜県地方競馬組合)
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アジュディミツオー(船橋)以来19年ぶりの地方馬によるドバイ遠征となったイグナイター(兵庫)。西日本の地方競馬から初の海外遠征は、ドバイゴールデンシャヒーンGI・5着と、世界への道を切り開く結果となりました。自ら輸出検疫中やドバイでの調教にも跨り続けた新子雅司調教師は、海外遠征を振り返り、どう感じているのでしょうか。
イグナイターのドバイ遠征、お疲れ様でした。ドバイゴールデンシャヒーンはJRA馬を含め日本馬が未だ勝ったことのないGI。そうした中、直線で一度は3番手に躍り出て、見せ場ある5着でした。
昨年勝ったJBCスプリントくらいのデキにはあると感じていました。スタートだけですね。1番枠で最初にゲートに入って、中で待つ時間が長くて馬が落ち着きすぎました。一歩目が遅れているわけじゃないですけど、隣のタズが速すぎて、半馬身くらいそこで相手が抜けて前に入ってきた分の差かなと思います。
パドックから本馬場へ向かうイグナイター
レース2日前、チーム・イグナイターの会食の場でも「ゲートが隣のタズはどれだけ速いんだろうか」とみんなで気にしていました。
本当にそこだけでした。結果的にドンフランキーが逃げることができていたので、フェブラリーSの位置取りから考えると、ゲートを五分に出ていればタズのポジションは取れたのではないかなと思います。
序盤で後手に回りながらも、直線は3番手に躍り出る場面もあって、興奮しました。
あのまま直線は内ラチ沿いを走っていればもうちょっと上の着順もあったかも、と思いますけど、笹川(翼騎手)もちょっと焦ったのかな、と。他の馬にも迷惑をかけてしまいました。でも、あのレースで笹川自身のスキルは上がった気がします。
直線、3番手に抜け出したイグナイター(右)
ほろ苦さや悔しさも残る結果とはなりましたが、力は見せてくれました。
全てが上手くいかないと勝てないレースだと思いました。色々あっての5着ですけど、世界の5番目。世界に通用する仕上げはできたかなと思いますし、もっと強い馬を連れてきて、どうしても勝ちたくなりました。その時のために英会話も習おうと思います。
レース後は後肢に外傷が見られました。怪我の具合はどうですか?
レース直後に診てもらい、思ったよりも傷は浅く、血はすぐに止まって塗り薬だけで済みました。いまは輸入検疫が終わり、宇治田原優駿ステーブルにいます。5月はじめに血液検査をして問題なければ、園田に入厩させてさきたま杯を目指す予定です。
レース直前、ラチ沿いから見守るイグナイター関係者(新子調教師は右から2人目)
そこでは昨年のJRA最優秀ダートホース・レモンポップとマイルチャンピオンシップ南部杯以来の再戦となりそうですね。
一緒に走れることはもうないと思っていました。JpnIに格上げされたさきたま杯に来るということで、いまのダート界で一番強い馬だと思いますが、ビビッていても仕方ないですからね。
さて、今回は海外遠征にあたってJRA栗東トレーニングセンターを借りて、JRA馬と一緒に輸出検疫を受けました。新子調教師も毎日調教に跨っていましたが、栗東での日々はどうでしたか?
前回、栗東に来たのは厩舎開業前の研修で2011年12月の約1カ月。それ以来で、施設も分からないので、研修を受けた角居勝彦厩舎(解散)で当時一緒だった前川和也調教助手(現在は友道康夫厩舎でドバイターフに出走したドウデュースを担当)に事前に連絡をして「分からないので、ついて行かせてください」とお願いしました。それで、毎日ドウデュースの後をついて角馬場や坂路に行きました。
栗東トレセンには坂路や、脚元に負担がかかりにくいウッドチップコースやポリトラックコース、また起伏の激しい逍遥馬道など様々な施設があります。イグナイターに変化はありましたか?
逍遥馬道を歩くことは本当にいいトレーニングになると改めて感じました。イグナイターはデビューから2戦目までは栗東所属だったので、ここを歩くのも初めてではないでしょうけど、ドッシリ歩ける馬じゃないと海外遠征もできないだろうなと思いました。久しぶりの栗東で最初の頃はそわそわしていましたけど、時間と共に順応してくれました。慣れない環境で気疲れする人間とは対照的に、馬はケロッとしていました。だけど、運動時間は園田にいる時よりも長いですし、場所もいつもと違うので、ちょっとしんどそうにはしていました。輸出検疫は約1週間でしたけど、もう1週滞在することができれば、馬はもっと良くなるだろうなと感じました。
そういえば、新子調教師は自厩舎のほとんどの馬の調教に跨ります。栗東で騎乗した後、急いで帰れば園田の調教にも乗れるかも、と事前に話していましたが、実際にはどうでしたか?
車で約1時間の距離ですけど、検疫中の馬が馬場を使える時間が決まっていて、そこから園田に戻るともう調教が終わる時間なので、ハシゴはしませんでした。できるとしたら、調教時間が前倒しされる土日ですけど、土曜日は園田が全休日だったので結局戻らず、期間中の厩舎の攻め馬は所属騎手の笹田に託しました。
今回のドバイ遠征で新子調教師が得られたものは?
競馬場に隣接するメイダンホテルに滞在していたんですけど、部屋から調教を見ることができました。エイダン・オブライエン厩舎は集団でしっかり溜めながら乗っていて、理に適っていると感じました。馬の後ろで我慢することも覚えますし、しっかり負荷もかけられます。一方で、スピード重視で調教する厩舎もあって、馬によって変えることも大切だと思います。そういったのを直接見ることができて、もっと調教内容について考えて乗らないといけないなと思うようになりました。
最後に、オッズパーク会員のみなさんにメッセージをお願いします。
今回のドバイ遠征でイグナイター自身も厩舎も得たことがあり、これを糧にもう一段階上げていければと思います。秋はJBCスプリント連覇を目指すことになると思います。応援よろしくお願いします。
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※インタビュー・写真 / 大恵陽子
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フジユージーン。2歳時は5戦5勝、3歳となった初戦のスプリングカップも圧勝して6戦6勝。地元ファンのみならず全国からも注目される存在になったこの馬の近況と今後を、管理する瀬戸幸一調教師にうかがった。
まず前走のスプリングカップのお話からいきたいと思います。こちらが勝手にいろいろ期待を膨らませて見ていたんですけど(笑)、まずは良い結果だったと思いました。
そうですね、思った通りの、それ以上の走りをしてくれたので良かったなと思っています。
いったん時間を戻してですね、昨年の南部駒賞からスプリングカップまでの中間の状況や調整などを改めてお聞かせください。
去年の南部駒賞の後、ちょっと爪の方が心配で、少し早く切り上げる形にはなったんですけど、次のレースのためにと思って富士ファームさんの方に戻りました。最初は京浜盃に間に合えば......とも思っていたんですけどもね。1月の中旬から一カ月ほど那須の教養センターにもいたのですが、なかなか思うようにいかなくて。時期も時期でしたし、競馬場に戻して、馬をよく知っている厩務員さんや装蹄師さんで見ていこうと。
遠征馬との初対決になった南部駒賞も難なく通過した(2023年11月12日)
それが2月の中旬ですね。
そこからは順調に調整が進んでくれました。普段はおっとりしているんだけど馬場に入ると気持ちも入る馬ですので、そこからの調整は苦労しなかったですね。スプリングカップまでも順調に進める事ができました。
ここでもうちょっと話を戻すんですが、フジユージーンはオータムセールで補助馬として購買された馬で、瀬戸幸一調教師も馬を選んで決められたんですよね。セリの時はどんなところが決め手になったんでしょうか?
決め手はですね、脚先のさばきが凄く軽かったんですよ。セリの当時から大型馬で、体高なんか今とそんなに変わらなかったんじゃないかな。大きい馬は脚先が重い感じがある。のそのそっとしたね。この馬はそうじゃなかったんです。
こういうとなんですけど、父(ゴールデンバローズ)はその時点では活躍馬がいなかったですし母は岩手で未勝利馬。それでもこの馬が......というのはなぜだったのか?は思ったりします。
確かに血統的にはそうですけど若馬はどこでどう変わるか、どう走るか分からないですし、オーナーが乗馬クラブをやられているから、これだけ馬格がある馬なら丈夫であればどんな道にもいけるから、と。それくらいの気持ちでいたのがたまたま当たったのかな。
母デザイナーも岩手デビュー馬だった(2015年8月16日、盛岡新馬戦のパドック)
しかし、デビューする頃には「この馬走るよ」という話になったじゃないですか。
調教の動きを見ていて、やっぱり違っていましたね。競馬場に来る前にも富士ファームさんで動きを見たんですけど、しっかり動かせば軽い動きが出ていたから、「もしかしたらもしかするのかな」と思っていました。
そうするとデビュー後の走りは、その感触通り?
そうですね。でも私は新馬戦は正直あまり期待していなかったんですよ。
「850m向きではないかも」と言われていたのを覚えています。
距離が距離ですし、ビュッと行く馬にはかなわないのかな......とか思っていたらうちの馬が速かった。そんな感じでした。
水沢ダート850mの新馬戦を大差で圧勝(2023年6月4日)
その後は順調に勝ってきましたが、今にして思えばいろいろ苦労もあってと想像するのですが、3歳になってそんなところも解消されてきたと思っていいのでしょうか。
そうですね、レースであればスタート。他の馬と五分に出る事ができるようになったかなとか、身体がひとまわり大きくなって、付くべき所に筋肉が付いてきたとかですね。この馬の場合まだ余裕があるのでもうちょっと筋肉が付いてくるのかなって感じはします。2歳の時と今とはフットワークも違いますしね。一段と大きくなって。期待通りに仕上がってきているなと見ています。
2歳の時もレースで速いなと思っていましたが、スプリングカップの瞬発力はもう一段変わったなと感じましたものね。
普段の調教から迫力が増しました。2歳の時もフットワークがきれいだ、柔らかみがあって良いなと思っていましたけど、今の方が数段上だなという感じがします。
3歳初戦のスプリングカップは3度目の大差勝ちで順調な発進(2024年4月7日)
さて、ここまで割と"べた褒め"なので、この先に向けて課題というかもっと良くなってほしい点を無理矢理にでも挙げていただければ......。
今思っているのはもうちょっと腰の方に筋肉が付いてくれれば。それが一つ。そして大型馬ですから脚元の負担はね、小さくないと思っています。まだ成長段階ですし、そこは常に気を遣っています。
ダイヤモンドカップ直前というタイミングですのでそこに向けたお話も。
距離やコースは全く心配していないです。そこまで順調に行ってくれれば。
さらに先の話は、まだダメでしょうか?。
そこはまだですね(笑)。まずはダイヤモンドカップ次第。そこを順調に乗り越えてから考えます。
6戦6勝というだけでなく大差勝ちが3回。そんな走りを見せつけられては期待しない方がおかしいというもの。全国の舞台で力を試してほしいと思うのだが、それはあくまでも外野の期待であって、今はフジユージーンの着実な成長を見守りつつ楽しみにしているべきだろう。まずはダイヤモンドカップ。自身初の1800mでどんな走りを見せてくれるか?でこの後の路線も定まってくるはずだ。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
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