板垣吉則調教師は2015年度にシーズン127勝という大記録を打ち立ててから3年連続で調教師リーディングを獲得。今シーズンもここまで1位を守り続けている。オッズパーク地方競馬応援プロジェクトのマリーグレイスでは8月の若鮎賞を勝利。昨年はキングジャガーが3歳重賞を4勝するなど重賞戦線でも存在感を示し続ける。その秘訣はどこにあるのかを改めてうかがってみた。
まずマリーグレイスについてうかがいます。若鮎賞では8番人気ながら1着と見事な走りを見せてくれました。
厩舎に来た当初は小柄ですが気が良い馬だという印象で、仕上げにはそんなに手間取らないだろうなと思っていました。実際能力検査もすぐ合格してくれましたね。
デビュー戦のマリーグレイス
結果的にはデビューから3着→2着→1着で重賞制覇ということになりましたね。
デビュー戦の時は期待していたんですけど、ちょっと外に膨らむようなレースになってね。その時は3着という残念な結果でしたが、2戦目には好スタートを切って先頭を進んだらよく粘ってくれた。現時点ではそういう形のレースが理想なのかなと、その時から感じていました。若鮎賞は、1600メートルという距離がどうなのかなと思って挑んだのですが、頑張ってくれました。
普段のマリーグレイスはどんな馬なんですか?
調教なんかでもちょっとピリピリした所がありますね。競馬場に来る前からそういう面があったそうなんですが、牝馬らしい気が勝った感じというかね。でも悪さはしないですよ。素直です。
若鮎賞を制したマリーグレイス。8番人気での勝利
では話題を変えて。今年もここまで調教師リーディングの1位を守ってきています。今年も、馬の回転とかいろいろうまくいっているように見えます。
自分としてはもっと上手くやれた部分があるような気もするのですが、欲を出してもキリがないですし。今一番上にいるというのは、良くやって来たということにしていいかな。
過去との比較ですが、2015年のペースにはさすがに届きませんが2016年よりは良くて、去年と比べるとちょっと遅れてきたという感じです(夏の水沢開催終了時点で比較すると、2015年は79勝、2016年は49勝。2017年が61勝で、今年は53勝)。
相手があることですし生き物を扱っているわけだし、良い時悪い時の波があるのは仕方がないですよね。毎週コンスタントに勝てるというものでもない、そういうものだという覚悟はしながらやっています。
今年ここまでの手応えとしては? 手駒の揃い具合とかは。
だいたいシーズンの半分が終わった所になりますが、そうですね、例年は2歳馬の成績がもうひとつなのですが、今年はわりと良く走ってくれる馬が揃っていますし、古馬も勝つべき所は勝ってくれている。あと、自分の所は3歳馬が多いから、このあとは有利な戦いができるのではないかな。
今年は古馬の強い手駒がちょっと少なくて、古馬の重賞なんかはなかなか手が届かないなとは感じているんですけど、その代わり2歳や3歳の若馬に良い馬が多いのでね。そこは楽しみにしています。
毎年感じるのですが、板垣厩舎は馬の入替が早いというか柔軟というか、どんどん入れ替わっていく印象があるんですけど、そこは調教師の意向や指示なんですか?
いや、その辺は全て馬主さんの意向ですね。馬主さんが諦めようかという馬を、力があると思うからもう少し頑張ってみましょうと提言することはもちろんあるけど、基本的には馬主さんの考え通りかな。そこは"馬主ファースト"ですね。
板垣厩舎というとですね、厩務員さん達がずっと同じ顔ぶれですよね。良い厩務員さんが長く勤めているのも良い成績が安定している要因なのではと思いながら見ています。
うちの厩舎は、例えばどういう飼い葉にしようとかどういうケアをしようとかいう部分はほとんどをそれぞれの厩務員に任せています。もちろん自分が指示を出すこともあるんですが、ほとんどの場合は厩務員自身の判断でやってもらっています。自分は気になる馬を自分で調教で乗って確認したりするくらい。
厩務員さんの自主性に任せるわけですね。
やっぱり自分の考えでやってみないと腕が上がらないし、上から"今日はこれだけ食べさせろ、これだけ調教しろ"と指示されてやっても楽しくないと思うんですよね。自分の考えで馬を仕上げてそれで良い結果が出ればやりがいにもなるでしょうし。自分はそういうスタンスでやっていますね。
あともうひとつ聞きたいのがですね、以前、所属する厩務員さん全員が、担当馬が重賞を勝ったということがありました。そういう馬の分配のようなのは調教師が決めるんですか?
それはほとんどの場合は"手が空いている順"です。ごく稀に、例えばこの馬の性格ならこの厩務員が合いそうだなと思って任せることはあるし、馬主さんの希望で担当者を決めることもありますが、ほとんどは馬が来たその時に馬房が空いている厩務員が担当するようにしています。
じゃあ本当に運というか公平というか。厩務員さんもやる気になりますよね。
任せてみてどうしても合わない、どうしても結果が出ないという時は担当を変えることもありますけど。でも"良い馬は全部この厩務員に"ということはないです。
さて、これから楽しみな馬とか注目の馬とかを挙げていただくとすると?
マリーグレイスは、そうですね、小柄な馬なので芝とかの方が良いのかもしれませんが、粘り強いレースをしてくれるので楽しみにしています。それからミラクルジャガー。まだ馬体に緩さが残っていて成長途上なのですが、良いものは持っていると思う。良くなるのが2歳のうちなのか3歳になってからなのかはまだ分からないですけどね。兄(キングジャガー)もそういう所があったので、いずれ変わってくると思っていますよ。
2017年、3歳重賞で4勝を挙げたキングジャガー
30代のうちに騎手を引退し調教師に転身した板垣吉則調教師は今年がまだ9年目のシーズンなのだが、すでに通算605勝(9月27日現在)を挙げしっかりとした足場を築いているように見える。何よりも衝撃的だったのは2015年に叩き出したシーズン127勝という岩手競馬の調教師歴代最高となる勝利数で、そう簡単には破れないと思われていた旧記録(113勝)を大きく超えた所に調教師としての手腕の凄みを感じさせられたものだった。9シーズン目ながらもまだ40代の若い板垣調教師だけに、その覇権の時代はまだしばらく続くのではないだろうか。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 横川典視
現在、調教師部門で全国リーディングを走る打越勇児調教師(高知)。開業7年目、45歳の若きトレーナーは自身初のタイトルに向け日々、奮闘しています。30代の頃は「厩務員のままでいいや」と思っていましたが、調教師だった父が亡くなり、自身も厩舎を構えることを決意しました。父の教えや、同じ高知競馬で全国リーディング常連の雑賀正光調教師を見て感じること、そして所属する宮川実騎手との夢とは。
厩舎の看板馬ティアップリバティと
8月17日時点で125勝を挙げ、全国リーディングに立っていらっしゃいます。「おめでとうございます」と言うにはまだ早いかもしれませんが、高知競馬には全国リーディングの常連・雑賀正光調教師がいらっしゃる中、開業7年目でこの成績はすごいですね。
ありがとうございます。嬉しいですが、まだ8月だからね。雑賀先生とか角田(輝也)先生(名古屋)なんかはやっぱりすごいですから、いつどこでひっくり返されるか分からないです。今までは追いかける立場で夢中でしたが、初めて自分がこの位置に立って「今が12月だったらな」って毎日思っています。
2012年4月に開業されましたが、調教師になったきっかけは何ですか?
調教師だった父(初男調教師)の厩舎で厩務員をしていました。父に1度、「調教師になったらどうか」と言われたことがありましたが、当時は高知競馬もあまりいい時ではなくて、5年か10年くらい先、いつか父が引退する時に考えようかな、というくらいにしか考えていませんでした。ジョッキー経験者じゃないから、馬を集められないんじゃないかという思いもあって、「厩務員でいいや」という気持ちがどこかにありました。ところが、父が亡くなってしまって...。それで私も調教師になりました。
お父様は高知初の2000勝ジョッキーで、調教師になられてからも重賞22勝などご活躍されたと聞きます。どんな存在でしたか?
子供の頃からよく怒られていましたが、憧れや尊敬の気持ちも持っていました。父の厩舎で厩務員をしていた頃は「馬を優先しろ」とよく注意されました。当時は人間側の都合で段取りを優先してしまっていたんです。いま責任ある立場になって、父の言っていた意味が分かるようになりました。真面目で、馬の扱いがすごいなぁと尊敬していました。
ご自身も開業1年目に船橋・クイーン賞(JpnIII)でアドマイヤインディが3着に入りました。大健闘と言ってもいいんじゃないでしょうか。
すごくビックリしました! レースを見ていて「なにか来たな...ん?俺んとこか!?」って。クイーン賞の後、TCK女王盃(JpnIII)も4着で「クイーン賞はまぐれじゃなかった」ということを証明できて嬉しかったです。アドマイヤインディのおかげで南関東や全国の人に私の名前を知っていただけましたし、とても思い入れの深い馬です。でもTCK女王盃の後、私の勉強不足でうまく調整ができませんでした。今ならローテーションを工夫するなどもう少し成績を残せていたかもしれないです。当時は経験が少なすぎたし、気負っていた部分もありました。
大井・TCK女王盃に出走したアドマイヤインディ(2013年1月23日・4着)
開業から6年が経ちましたが、現在はどういったことを大切に管理馬と向き合っていますか?
騎手や厩務員たちの意見を聞いて、個々の馬に少しでも合った調教をすることでしょうか。うーん、でも難しいですね。雑賀厩舎やいろんな厩舎を見て「いいな」と感じる点はマネをしています。何カ月か試して、うちの厩舎に合った形に変えて取り入れます。高知競馬は上位クラスの馬を除いて短いスパンでレースに使うことがほとんどなので、その難しさもあります。でも、その中でもなるべくチャンスのある時に勝てるように状態を持っていこうと考えています。また、スタッフも大切にして、1頭1頭にしっかり手をかけられるようにと思っています。
厩舎看板馬の1頭のティアップリバティは今年、重賞2勝。そのうち福永洋一記念は所属する宮川実騎手とのコンビでした。宮川騎手も現在、高知リーディング1位で、厩舎・騎手ともに好調な印象です。
ティアップリバティはJRAで期待されていた馬です。脚元のことなどがあって順調にレースに使えなかったりもしますが、他厩舎にもどんどんいい馬が入ってきていますから、負けないようにうまく調整していきたいですね。今は休養中ですが、秋以降がんばります。
(宮川)実も昔の落馬事故の影響で片目が見えないハンデがあるのに、素晴らしい結果だと思います。でも、自分が望んでここに帰ってきているから、それを言い訳にはできないですよね。レースでは優しすぎるところもある騎手ですが、2人で一緒にリーディングを獲れれば理想的です。
福永洋一記念(2018年5月3日)を制したティアップリバティ(写真:高知県競馬組合)
打越師も宮川騎手もリーディングを獲るのは初めてになりますから、期待しています。さて、今の目標は何ですか?
高知には全国リーディング常連の雑賀先生がいらっしゃいます。まずは、雑賀先生より勝ち星を挙げて高知リーディングを獲ることです。それに付随といっては失礼ですが、全国リーディングがついてくればすごく嬉しいですね。年末に1回くらい喜んでみたいなぁ。でも、勝利数では私が勝ったとしても、全国には尊敬する先生方がたくさんいらっしゃいます。中でも田中淳司先生(北海道)はJRAや地方各地に遠征して大きいレースを勝たれていますし、同い年なので「近づけるように頑張ろう」と励みになります。今は最多勝に目標がありますが、先々は遠征をして大きなレースを勝ちたいですね。
最後にオッズパーク会員のみなさんにメッセージをお願いします。
オッズパーク会員のみなさんを含め全国の人が馬券を買ってくださったおかげで売り上げが伸び、昔に比べて賞金が増えました。「高知のレースは面白い」と思ってくれていたら嬉しいです。私たちもいい競馬を提供できるように頑張りますので、応援よろしくお願いします。
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 大恵陽子
今年2月にばんえい競馬で5人目となる通算1500勝を達成した鈴木邦哉調教師(64)。ばんえいイベントではPR馬のミルキーとともに各地を訪れ、広報役としても尽力されています。
通算1500勝達成表彰式(左から3人目)
ばんえいの世界に入ったきっかけを教えてください。
出身は、岩手県遠野市です。中学を出てから「馬車追い」という、馬で山を耕す仕事をしていました。2年くらい経ってから、北海道にはばんえい競馬というのがあると聞いて、馬の本場に行くことになったんです。
1978年に騎手デビューして、弟の勝堤と2人で騎手をやっていたけど、弟の方がうまかったからなぁ。俺は1987年、32歳で調教師になったんだ。ずっと兄弟で二人三脚だよ。
思い出に残る馬を教えてください。
たくさんいるよ! 強い弱いにかかわらず、携われるだけの思い出がある。大きくなかったが強かったスズカゲ(1996年北斗賞、北見記念)や、3歳になって強くなったダイフジオーカン(1996年ばんえいオークスなど)もいたし。
私にとってはミサキスーパー(2004、05年チャンピオンカップなど)の印象が強いです。
うん、しいて言えば、小さな体で頑張ってくれたミサキスーパーかな。市場で自分で見つけて、馬主に買ってもらって育ててきた馬。首の長さとか、顔の良さに惚れたんだな。ピンと来るものがあるんだよ。言葉で表せないけど、違うものがある。体重がないからデビューも遅かった。でも能力はあるから、上に行くと思った。
残念ながらばんえい記念は3年連続2着(2004~06年)でした。
スーパーペガサスって怪物がいたからな。レース終わってから勝堤と「ああしたら勝てた」なんて話したけど、全て結果論だから。馬体がなかったから、苦労して育てた。
種牡馬としては1世代しか残せませんでしたが、厩舎に所属していたテンカムソウが種牡馬入りしました。
今年初年度産駒が生まれた。結構いい馬を出していると聞くから、再来年が楽しみ。テンカムソウの子も、いつか自分でやってみたい。
そのほかの馬では。
クシロキンショウは、ウンカイに勝った1997年のイレネー記念の時は899キロ。小さな体だけど、大事に大事に使ってきた。
昨年引退したオイドンは良血で、エリートだったな。大きな夢を見させてもらった。ハンデもきつかったけど、ばんえい競馬が一番苦しい時を支えてくれた。お客さんに知られた馬だから、いいPRにもなったと思う。獲ってみたかったダービー(2011年)も獲らせてもらったし、よく働いてくれた。喘鳴症に長い間苦しんでいて、かわいそうだったな。
これからだと、2歳はトマランサジェットがいいかな。来年、再来年にも期待できそうな馬がいるよ。
ナナカマド賞を制したオイドン。右端が弟の故・鈴木勝堤騎手(2010年10月11日)
今年2月には、1500勝を達成しました。大事にしていることはなんでしょうか。
気を付けているのは馬の体調維持。生き物は十人十色。人に一癖、馬に一癖、ってな。そして、馬を長持ちさせて、定年まで育てたい。今の時代は難しいところもあるけれどな。
1500勝できたのは、2006年にばんえい競馬の存続が決まった時、周りの人たちの協力があったから。存続しなかったらない。寝ないで会議してくれた人など、いろいろな人が一生懸命になってくれたおかげで、開催にこぎつけた。この時の思いを忘れてはいけない。
一番はファンのおかげ。そして厩務員、騎手のおかげだと思っている。これらの努力に報いるため、全国をまわって広報活動させてもらっている。
その姿に頭が下がります。
できる間は、地方に行ってばんえいはこういうのだ、と知ってもらった方がいいと思うから。地方行ったら励みになる。いつ行ってもありがたい。忙しいと思ったことはないよ。
でっかい馬はここだけだから、世界で一つの変わった競馬をなくしたら困る。ばん馬がつぶれる、って言葉はまた聞きたくない。ファン1人1人を大事にしないと。
よく服部義幸調教師ともいうんだ。「10年かかったなオイ!」って。PRを続けてここまで来るのに、10年かかったということ。花は咲いたといかないけれど、根は張ったと思う。年々ファンが増えているのを肌で感じる。
ミルキーは今療養中ということでふれあい動物園におらず、心配です。
ばい菌が体に入って熱が出ていた。だいぶ良くなったよ。ゆっくり休養させます。
さて、趣味などプライベートについて教えてください。
趣味はゴルフ! 忙しくてなかなか行けないから、下手になるな(笑)。食べ物は肉とケーキ! とんかつなら帯広の我逢亭が好きだし、焼き肉のだいじゅ園(帯広・音更)はいい肉を出すよ。ケーキは、羽田空港で売っているのと、柳月(帯広)のフルーツロールが好きなんだ。帯広は食べ物に外れがないと思うよ!なんでもおいしい。
岩手県でチャグチャグ馬コにも参加(2018年6月9日)
これからの目標について教えてください。また、オッズパーク会員の方に一言お願いいたします。
もう一回、オープン馬を触ってみたいな。目の覚めるような馬に出会いたい。できればテンカムソウの子で。
ファンの方には、馬券を買って、応援してもらいたい。みんなのおかげで今がある。全国からだと遠くて大変だけど、足を運んでもらえたら。
魅力は、エキサイティングゾーンで馬と並んで歩けるところ。重量感ある馬の力強さを間近で見られるのはここしかない。川崎競馬場に行った時に、ファンに「ばんえいは配当がいいからおもしろい」って言われたな。
ファンに愛される競馬じゃないと。ファンの協力がないとできない競技なので、後押しを続けていただければと思う。今までの努力をなくすわけにいはいかないんだ。
------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 小久保友香
中西達也調教師は、フリビオンで2017年の高知優駿を騎手として制し、9月からはその馬を管理する側になりました。調教師に転身しておよそ10カ月、今の様子を中心に伺いました。
高知優駿から1年が経ちましたね。
この1年は本当に早かったですね。でも、騎手を辞めてからはずいぶんと時間が経ったような気がします。それだけ調教師になってから、濃密な日々を過ごしているということなんでしょうね。騎手時代は、馬は調教のときに乗ってレースでも乗って、という感じの接しかたでしたが、今は馬のそばにいる時間が長いですからね。現在(インタビューは6月中旬)は10馬房で、8月に15馬房に増える予定ですが、厩舎にいる10頭には全部乗っています。
調教師として初めての重賞となる珊瑚冠賞にフリビオンを送り出して勝利を挙げ、続く西日本ダービーも優勝しましたが、水沢のダービーグランプリでは2着でした。
西日本ダービーを勝ったらダービーグランプリに行きたいと思っていました。フリビオンは佐賀までの輸送でもわりとケロッとしていましたから、それより長い輸送距離でも大丈夫かなという手応えもありました。ただ、水沢は寒かったですね(苦笑)。そしてスーパーステションは強かったです。
調教師としてフリビオンで西日本ダービー制覇
騎手と調教師ではどういったところが違いますか?
まず、緊張感がまったく違います。騎手時代は午前の攻め馬が終わったら自宅に帰っていましたが、今は夕方まで厩舎にいます。馬の状態は常に把握しておかないといけないですし、小さな変化にも気づけるようにしないとダメですからね。馬には乗れても、馬を育てる引き出しみたいなものをまだ持ち合わせていないので、となりの厩舎にいる炭田先生にいろいろと教えていただきながら、そのうえで自分の色を出せていければと試行錯誤しているところです。
しかし中西厩舎の雰囲気は、高知競馬場のなかでは目立ちますね。
見ばえのよさ、そこは誰にも負けないようにしようと、調教師になる前から考えていました。壁のペンキ塗りも花壇作りも自分でやりましたよ。つい先日、テラス風に座れるところを作ったんですが、これもホームセンターで材木と屋根を買ってきて自分で作りました。やっぱり見た目、とくに入口、玄関は大切だと思うんですよ。調教師は個人商店、中西達也商店ですから、馬にも人にもいい環境を用意していかないと。そのためには普段の服装からきちんとしないと、とも思っています。
調教師として初めてとなる高知優駿には2頭を送り出すことになりました。
これはもう、馬主さんに感謝するしかないですね。今はまだ管理頭数が少ないですが、その少ないなかでも濃い内容を残していきたいと考えています。ただ、スタッフのなり手がいなくて......。人材不足ですよ。僕はなんというか、たとえば牧場に馬を見に行くとか、そういったいわゆる調教師らしい仕事をしたいと思っているんですけれどもなかなか......。
そこは課題として今後もついて回ることになるかもしれませんね。
生きものが相手ですから休みも少ないですし、福利厚生も整っているとは言えません。でも、そのあたりはこれから変えていかないと。
そういうところもこれから目指すところになりますね。ほかに調教師としての目標はありますか?
具体的な数字とか、そういう目標はとくにないですね。まずは経験を積んで、調教師としての引き出しを増やしていくことを目指したいです。また、これまでとは違って人を使う立場になったので、うまくチームワーク的な感じで進められればと思います。その上で、また県外のレースに行けるようになれればいいですね。これからも調教師として恥ずかしくないように、そして『中西厩舎っていいですね』と言ってもらえるように、頑張っていきたいです。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 浅野靖典
田中淳司調教師は2015~17年と、ホッカイドウ競馬で3年連続リーディングを獲得中。5月16日の門別8レースでは、地方・中央通算900勝を達成しました。今年はシーズンオフにハッピーグリンがセントポーリア賞を制して念願のJRA初勝利を達成。北海道所属のまま牡馬クラシック戦線に挑戦するなど、各地への遠征でも結果を残しています。
ここまで3年連続でリーディングを獲得中です。活躍の原動力を教えてください。
まずはスタッフが一生懸命やってくれたからというのが大きいですね。開業当初からずっと1番を目指して、みんなが同じ方向を向いて仕事をしてくれた結果だと思います。3年連続でリーディングを取らせていただき、自分自身に余裕が出てきたような気もします。勝てないからイライラするということもなくなりましたし、周囲を冷静に見渡せるようになったというか。
お父様(田中正二調教師)も早くから調教師として活躍されています。競馬の世界に入るのは自然なことだったのでしょうか。
もともと競馬が好きだったというか、とにかく馬に興味があったんですよね。最初は騎手になりたかったんですけど、体格の問題であきらめて。高校を卒業してすぐに親父の厩舎に入りました。厩務員時代は、厩舎にベテランの厩務員さんが多かったですし、親父も「調教師の息子」ということで気を使ったのか、あまりいい馬を担当させてもらえなかったですね。重賞では3着が最高だったと思います。でも、そういった馬でいかにいい結果を出すか、自分で調教しながら試行錯誤していったことが、いま思えばいい経験になっているんでしょうね。
調教師への転身を意識されたのはいつ頃だったのでしょうか。
それほど早く調教師になることは意識していなかったんですが、両親も「試験なんて一発で受かるわけないんだから、早いうちから受けておきなさい」と薦めたので受けてみたら、1次試験を1回目で合格したんです。ところが2次試験の1週間前に、親父と牧場へ馬を見に行ったときに、走ってきた馬に蹴られて腎臓を傷めてしまって。それから数日間は絶食で、傷口も痛かったんですけど、どんな試験なのか自分でも覚えたかったのでなんとか根性で受けたんですが、乗馬の試験もろくに受けられず落ちてしまいました。ちょうどサクちゃん(佐久間雅貴調教師)と一緒に教養センターまで行って、体が痛いなか行き帰りに荷物を持ってもらったりして、本当に助けてもらったことを覚えています。試験に合格したのは2回目ですね。
開業当初はどうだったのでしょうか。
初年度から「絶対にリーディングを取ってやる!」という意気込みでやっていました。最初のころは頭数も少なかったので、いま考えたら「バカだなあ」と自分でも思うんですけど(笑)。ただ、初勝利がその年最初のフレッシュチャレンジ(2007年4月19日門別5レース、アイファーダイオー)で、それが「前代未聞だ」と大きく取り上げていただいたおかげか、そこから馬もだんだん集まってきましたね。
ここまで重賞47勝という実績を挙げられています。なかでも思い出に残っている馬を教えてください。
やっぱりハッピースプリントですよね。「これは負けないだろう」というほどの手応えを初めて感じさせてくれて、馬もそれに応えてくれましたし。初めてリーディングを取らせてもらった年の道営記念(2015年)をグランプリブラッドで勝たせてもらえたのも思い出深いですね。連覇を目指した道営記念の最終追い切りで故障してしまい、かわいそうなことをしてしまったという意味でも印象に残っています。
今年はハッピーグリンがJRAに参戦したことでも話題になりました。
「屋内坂路などの施設に恵まれた門別競馬場から、冬場も中央に挑戦したい」という馬主さんのご理解があったおかげで、今回の挑戦に至りました。昨年の夏、札幌競馬場へ遠征に行ったとき(コスモス賞、すずらん賞)も、必ずしもいい状態とは言えないなかで、いずれも3着に来ましたからね。道中の行きっぷりなんかを見ても、やはり芝向きだろうと思っていました。
セントポーリア賞の末脚は鮮やかでしたね。
夏の遠征のあと、秋口からトモの状態がどんどんよくなってきて、北海道2歳優駿にしても全日本2歳優駿にしても、自信を持ってレースに臨んだにもかかわらず結果が出ず、「おかしいなあ」と思っていました。2走とも内枠が当たって内々を進む形になってしまい、道中で馬がストレスを溜めるような形になってしまったことが敗因だと判断したので、大野(拓弥)騎手には「どこかで外に出してほしい」とだけ指示したんですが、しっかりと結果を残してくれました。「中央で勝ちたい」と思ってきて、それまでに62回挑戦して、あと一歩のレースもあったなかで、本当に夢が叶った一戦でした。
その後スプリングステークス→プリンシパルステークスと、中央のクラシック競走のトライアルに挑みます。
トライアルで結果を出さなければ本番に進めない立場で、毎回納得のいく状態まで持っていくのは大変でした。レース後にケアをしながら、自分でもほとんど毎日調教に乗って感覚をつかみつつ、「大丈夫だ」と判断したら坂路を1日3本入れたりもしました。2歳のうちは自分たちのほうが早くから競馬に使っているというメリットがありますけれど、年を越えてくると、中央の血統馬相手に同じことをしてはダメだと思ったので。今年に入って3回輸送して、そのたびにめいっぱいまで馬を仕上げていって。それでプリンシパルステークス(4着)も初めての2000メートルで33秒台の上がりを使ってくれましたから、一生懸命走ってくれた馬をほめるしかないですよね。
今後のローテーションについても気になるところです。
いまは競馬場近くの育成場に短期放牧に出ています。次走は巴賞(7月1日、函館競馬場)の予定です。52キロで出られるのは好材料ですし、ここを勝てば向こう1年間はGIのステップ競走を使いに行けるようなので。
ハッピーグリン
遠征といえば、エグジビッツもグランダム・ジャパンで2歳女王になり、今年も3歳シーズンで上位争いを演じています。
のじぎく賞は残念な結果に終わってしまいましたが、今年初戦の若草賞(名古屋)のときはカイ食いも十分でなく、体も減ってしまっていたことを考えると、馬の状態自体はかなりよくなっていますよね。2歳の頃はダートグレード競走で戦うにはちょっと頼りないかなと思っていましたが、今の感じだったら、中央勢はともかく、地方馬のなかではそう遜色なくやれるのではと思っています。開業当初から「チャンスがあれば他地区のレースも勝ちたい」と思ってやってきましたが、地理的な制約もあるなかで、遠征で結果を出してホッカイドウ競馬の名前をアピールすることにはやりがいを感じます。
エグジビッツ
今年の2歳馬についても教えてください。
動きのいい馬からフレッシュチャレンジに使っていますが、おかげさまでこれまで3頭勝たせてもらっています。ラブミーリチャードはスピードがある馬で、初戦は自信を持って臨むことができました。今のところ、最初のウィナーズチャレンジ(6月7日)を目標にしています。オスピタリタは、乗ったときのトビがノットオーソリティ(全姉)に近いですよね。ハナに立つとソラを使うようなところも似ていますので、そのあたりが課題だと思いますけど。オーナーサイドも「函館2歳ステークス(7月22日)を目指してほしい」と期待されているので、まずは権利取りを目指していくことになりますね。ホワイトヘッドはまだ前半のエンジンのかかりがちょっと遅い気がするので、距離が伸びてからも楽しめそうですね。使っていくうちに、馬もさらによくなってきそうです。
田中淳司厩舎所属として重賞を制したノットオーソリティの全妹オスピタリタ
今年は所属の落合玄太騎手がデビューしました。先生ご自身にとっても、1からジョッキーを育てていくのは初めてだと思います。
本人にもご両親にも、「リーディングで上位に入るジョッキーは2~3年でそれなりの数字を残すものだから、そのつもりでがんばってほしい」と伝えていますが、真面目に馬乗りに取り組んでいると思います。落ち着いて乗れているのもいいですね。北海道には「調教を手伝ってくれた子は乗せる」という風習がありますから、いろいろな厩舎に行って調教に乗せてもらって、自分自身の土台を作ってほしいです。いまの一生懸命さを忘れず、細かな指示を出さなくても結果を出せるジョッキーになってほしいですね。
今後の目標について教えてください。
4年連続のリーディングももちろんですが、やはりグレードレースを勝ちたいですよね。ハッピーグリンも中央の重賞戦線で勝負するためには、もうワンランク上の段階に成長しなければなりません。
最後に、オッズパーク会員の皆様へメッセージをお願いします。
ホッカイドウ競馬でデビューする2歳馬は、南関東をはじめとする他地区での活躍ももちろんですけど、昨年のダブルシャープやハッピーグリンのように、中央でも活躍できる素質馬も少なくありません。今年もそういった未来のスターホースがわんさかいると思うので、ぜひとも注目して見てもらいたいですね。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 山下広貴