
コウシュハウンカイ(牡8)やカネサブラック(2011、13年ばんえい記念)、トモエパワー(2007~09年ばんえい記念)などの名馬を管理し、2017年5月には通算1000勝を達成。2016年ばんえいアワードでは勝率1位でベストトレーナーに選出され、今年もリーディングトレーナー争いを続ける松井浩文調教師(53)に話をうかがいました。
左のポスターに写っているカネサブラック、トモエパワー、フクイズミは全て管理馬
父が元調教師の松井浩(こう)さんで、1989年に騎手デビュー。2004年に引退するまで1104勝をあげ、三冠馬で名種牡馬であるウンカイに騎乗していました。残念ながら10月に24歳で息を引き取ったウンカイの思い出を聞かせてください。
ウンカイは、地味だけどじわじわと歩くタイプ。3歳三冠を獲ったけれど、イレネー記念はゴール前で止まったんだよな。4歳のシーズンが終わってから、盲腸便秘で腹を切ったんだ。それであそこまで活躍するとは。おとなしい馬だった。障害は、止まったら意外と下手だったんだ。だからばんえい記念も苦戦した。アンローズ(2004~06岩見沢記念)と同じように、旭川や岩見沢はよかったけど、帯広が苦手だったんだ。
産駒は体ができていて、平均的に力がある。コウシュハウンカイはタイプが違って、どちらかといえばオレノココロの方がウンカイらしさが出ているかも。ばん馬で20歳以上生きるのはすごいよ。
似ている産駒はいますか。
ジェイエース(牡2)がタイプ的に似ているな。速い馬場が苦手で、降りてからは平均歩ける。2分以上かかるようなレースが増えるような、年齢が行けば活躍できるかな。
ほかに騎手時代の思い出の馬を教えてください。
牝馬でダイヤコトブキって馬がいた。騎手になって2年目だった1990年のイレネー記念を獲った馬だが、その後のオフシーズンに心不全で亡くなったんだ。あの馬なら、ばんえい記念を獲れたと思う。
それから調教師に転身しました。
一番の理由は、父が定年(65歳)を迎えたからです。減量もきつくなってきたしね。2005年に調教師になって、2年目で存続の危機が訪れた。厩舎を開業した時の設備投資のすぐあとで、お金がかかったあとに手当も下がって大変だった。他にできることないから、これで頑張るしかない。赤字だらけで大変だったが、存続してよかった。
2017年5月、1000勝セレモニーで父・松井浩さんから花束を渡される
思い出の管理馬を教えてください。まずはトモエパワーでしょうか。
4歳までは騎手として乗っていました。速い脚はなかったが、2歳から強かった。この馬はオープン行くと思っていたよ。最初のばんえい記念は、障害で止まって膝を折ったのに、それでも勝ったからね。ばんえい記念向き、という思いはあったが力が違った。
トモエパワーのほかにも、乗っていた馬が厩舎に入ってきた。そのうちの1頭、フクイズミ(2009、10帯広記念)は偉い牝馬だった。降りてからの末脚がすごかったね。厩舎に来た時は4歳で体もできていたが、障害で上がらないと、そのまま止まってしまうところがあった。どうやったらいいのか、いろいろと試した思い出がある。
カネサブラックは、力はないが瞬発力がすごかった。根性もあった。重い荷物を引かせて調教するとだめだから、大変だったよ。この時も考えた。
所属していた全部の馬が、いろいろなことを教えてくれた。調教すればいい馬もいれば、だめな馬もいて、一頭一頭違う。それがわかるまでが大変だよね。
連対率は3割を越えるなど今年も好成績を残しています。調教や管理において、こだわっていることを教えてください。
俺は馬に触る(自分で調教する)。触ってみなきゃだめ。レースを見たあとに、なんでこんなに障害が下手なのか?と思ったら、自分でやってみる。触るの好きだからね。
厩務員は4人いるよ。厩務員と仲良くなかったらうまくいかない。大切にしなくてはいけないところだ。でも、人集めが大変。ばん馬が盛り上がって賞金も上がって、馬はいるんだけど人がいない。一時期は人がいても、馬がいなかったのに。募集しているのになぁ。
馬が1着を獲った時の気持ちに勝る物はないよ。
調教師として思い出のレースを教えてください。
いろいろあるけど......(考えて)、カネサブラック最後のばんえい記念かな。その前の年は(コロナウイルスに罹って)出られなかったから。定年最後の年(11歳)を勝って、重賞21勝という記録を作って引退だからね。
ばんえい記念を2度制して引退したカネサブラック
カネサブラックの子もカネサダイマオー(牡3、イレネー記念)などで重賞勝ちを出しています。産駒についてはいかがですか。
体は小さいけど、走る子が出できたね。もっと強い馬が出てきてほしい。
現在の所属馬について教えてください。
コウシュハウンカイは、今年は前半活躍しすぎたから、ハンデを背負うことになるのがつらい。体調はいいよ。降りて一回止まったら弱いところあるな。岩見沢記念は、レースの前々日につなぎ場の棒を蹴ったことによる打撲。すぐ治ったから調教も再開できて、北見記念を勝つことができた。調教では、オレノココロやフジダイビクトリー、センゴクエースを見かけると怒るんだ。いつも同じレースに出ているからわかるんだろうね。気性は昔と変わらないね。
コウシュハウンカイの運動
マツカゼウンカイ(牡4)は、じわりじわりと進む馬。体があるし、古馬オープンでも入着しているから、ペースに慣れてくればそこそこいくんじゃない。
ギンノダイマオー(牡2)は、ナナカマド賞は1着馬(メムロボブサップ)が強すぎた。それでも、障害がうまいから楽しみ。インビクタ(牡2)は障害を降りてからが課題だね。カネサダイマオーは、イレネー記念を勝った後は調子悪いんだわ。堪えたかな。
期待しているのは、ハイトップフーガ(牝2)。重くなれば楽しみです。
では、オッズパーク会員の方に一言お願いします。
馬券買う人は買って、馬が好きな人は馬を見て、いろいろな形でばんえいを応援してください。ファンは一人一人違うからね。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
オッズパーク地方競馬応援プロジェクトの4世代目カサマツアトリアを管理する、笠松の尾島徹調教師。トップジョッキーから、若くして調教師に転身して4年目。すでに多くの結果を出しています。
京都競馬場に出走した(2017年5月20日)カサマツブライトと尾島徹調教師(右)
まずは、カサマツアトリアの初勝利(10月4日・笠松第2R)おめでとうございます!
ありがとうございます。本当は新馬戦で勝ちたかったんですけど、勝ち切れず申し訳ありませんでした。体の大きな馬(デビュー戦は547kg)で、スピードに乗るのに時間が掛かってしまい、800mではちょっと厳しかったですね。でも2戦目では動きがガラッと良くなって、2番手から押し切る競馬を見せてくれました。
アトリアを最初に見た時の印象はいかがでしたか?
1歳の時にサマーセールで見たんですけど、まず最初に「大きいな」って。当時から脚も太かったですし、すでにかなり大きかったんですけど、腰高の体つきだったので、「まだまだ大きくなるな」と思いました。その後、BTCへも何度も見に行きましたし、跨った時には力強いトビをしていて、「ダート合うな」と。入厩するのが楽しみでした。
今年の夏は暑さがキツかった分、夏負けがひどかったそうですね。
そうなんです。一番涼しい時間に調教するよう調整していたんですけど、それでもかなり夏負けしてしまいました。調教ではずっと佐藤友則騎手に乗ってもらっていたんですけど、なかなか前向きな言葉が出てこなかったんです。佐藤くんが(期間限定騎乗で)南関東に行く前に最後の追い切りに乗ってくれた時はだいぶ良くなってきていて、ただスピードに乗るまでに時間がかかるので、800mは厳しいなという感じでした。そこから直前の追い切りで時計もそれなりに出て、動きもさらに良くなって、新馬戦でもいいところあるんじゃないかと期待できるようになりました。
カサマツアトリアのデビュー戦(2018年9月19日、2着)
待望の新馬戦は渋太い脚を使って2着を確保しました。
やっぱり800mは忙しかったですね。勝った馬に6馬身も離されてしまい、悔しかったです。でも一度使って動きはすごく良くなりましたし、追い切りの時計も速くなって。(2戦目も)新馬戦と同じく岡部(誠)騎手に乗ってもらったんですけど、1コーナーでちょっと掛かり気味になってしまって。岡部さんも、「1戦目の感じから、あんなに行くとは思わなかった」って、いい意味でびっくりしていました。
初戦とは道中の行きっぷりが全然違いましたもんね。
前半勢いよく行っちゃった分、最後は少し甘くなってしまったけど、勝てて本当に良かったです。初の1400mでしたが、岡部さんも「すごく良かった」と褒めてくれました。使った効果もあるし、涼しくなってきてだいぶ馬が良くなっていますが、まだまだ良くなる余地があるので、今後が楽しみですね。
この馬の良さというのはどのあたりに感じていますか?
体が大きいのでパワーがあります。トビもすごく大きいですから。入厩したての頃は、まだ体が上手に使えなくて、ドタバタしたような走り方だったけれど、今は後ろ脚がだいぶしっかりして、走り方も良くなりました。大きな体ですが、小回りの笠松のコーナーも上手に走れるようになりました。
とにかく体が大きいという印象ですが、性格はいかがですか?
これが、めちゃくちゃ大人しいんです。厩舎でも調教でも、悪いことは全然しないので、そういう部分は手が掛からなくて良かったですね。やっぱりあれだけの体なので、もし反抗的だったりうるさかったりしたら、扱うのが大変だったと思いますから。体は大きいですが、人懐こくて可愛いですよ。
今後の目標を教えてください。
JRA認定競走を勝って、重賞路線に乗せたいです。力強い走りでバテない強みがあるので、あとはもう少しスピードというか、瞬発力がついてくれたらさらに強くなると思います。
カサマツアトリア
続いては、調教師としてのお話をお聞きしていきます。騎手から転身して3年目、すでに256勝(2018年10月21日現在)を挙げて順調ですね。
本当に周りの方々のお陰です。騎手の頃もそうでしたけど、今は余計にそう思いますね。たくさんの方にオーナーさんを紹介していただいて、いい馬たちを預けていただいて。信頼しているスタッフが一生懸命頑張ってくれていますし、本当に僕は運がいいんです。
騎手時代とは仕事の内容が違うと思いますが、葛藤などはありますか?
確かにいろいろなことが全然違いますね。今思うと、騎手の時には調教とかもちょっと楽をしていたなと反省しています。実際、今の方が調教にも乗ってますから。すごく忙しいので、思い悩む暇がないくらいです。ただ、レースを見ているというのはしんどいものですね。パドックで送りだしたら、もう何もできないですから。レースに乗っていた時の方が、気持ち的には楽でした。
MRO金賞で、待望の重賞初制覇でした。騎手時代はかなりの数の重賞を勝っていましたが、調教師として重賞を勝った感想は?
やばかったです。もう、泣きそうになってしまって、こらえるのが大変でした(笑)。本当に時間がかかってしまいました。重賞を勝つって難しいですね。いい馬をたくさん預けていただいたし、開業してすぐに重賞でも2着3着来れたので、ここまで時間がかかるとは思っていなくて。時間がかかってしまったけれど、勝てて物凄く嬉しかったです。
ドリームスイーブルで金沢・MRO金賞を勝利(2018年8月9日、写真:石川県競馬事業局)
しかも鞍上は佐藤友則騎手!
佐藤くんは騎手時代から仲が良かったんですけど、今はすごく頼りにしている存在です。MRO金賞も上手く乗ってくれて。正直、ラスト100mくらいまでは勝つと思わなくて、「あぁ、2着か...」と思いながらけっこう冷静に見ていたんです。まさかあそこから差してくれるとは。検量に上がって来て、馬から下りた時には何も言わずに抱きしめました。
佐藤騎手にとっても、とても嬉しい勝利だったと仰っていました。尾島調教師が騎手を辞める時に、「友くんを10年連続笠松のリーディングにする」って言われて、ものすごく励みになったと。
そうですね。ちょっとくらいはリーディングになるお手伝いができたかなと思うんですけど、でも佐藤くんは有言実行でリーディングになったのに、うちの厩舎はまだなっていないので、早く佐藤くんと同じ立場になれるように頑張ります。
では、オッズパーク会員の皆さんへメッセージをお願いします。
騎手の頃からたくさんの方々に応援していただき、とても感謝しています。調教師になってからは、カサマツブライトで9勝させていただきましたし、今はカサマツアトリアでまた勉強させていただき、本当にありがとうございます。調教師としてはまだまだ新米ですが、笠松からスターホースを出せるように頑張ります。応援よろしくお願いします。
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※インタビュー / 赤見千尋
菅原勲調教師。騎手時代には通算4100勝あまりを挙げた名ジョッキーは、調教師に転身してからも、ここまで地方通算331勝(10月28日現在)を挙げる活躍を見せている。また、ラブバレットやベンテンコゾウで、岩手にとどまらず全国に舞台を求める戦いを続けてきた。今回は、JBCスプリントに出走予定のラブバレットの近況などを中心に話を聞いてみた。
まずラブバレットについてお伺いします。まもなくJBCですが、最近の状態面などはいかがでしょうか?
前走の門別(道営スプリント・1着)の前よりも状態は良くなっています。もともと安定している馬で、調子がそんなに大きく変動するという事もないですからね。変わりなく順調と言っていいでしょう。
今回は初めての京都、右回りで道中半ばに坂があるコースですが。
コースを選ばない馬ですから特に問題はないと思っています。それに馬場的にもね、地方の深い馬場よりはJRAの軽めの馬場の方が走りやすいのではないかな。
今年のラブバレットを見ていて、年初からずっと良いレースを続けてきていますよね。良い状態を保っているし、タフな馬だなと感心させられます。
根岸ステークスを走った頃が凄く状態が良くて、今年はずっとその流れで来れました。夏の暑さでちょっと落ちたんだけど、ここに来てまた立ち直ったという感じですね。ずっとオープン級でもう4年、活躍し続けているのだから、丈夫ですよね。
JRA東京・根岸ステークス出走時(2018年1月28日)のラブバレット
良い状態・良い内容を保てる秘訣のようなものがあるんですか? 何か特別な調整法とか体調管理法があるとか。
元々そんなに体調を悪くしたり、変動する馬ではないんです。コンスタントに状態を保てるのが強みで、特に何かをしているという事はないですね。その意味で調整に手がかからない馬。夏にちょっと調子を落としたのも今年が初めてくらいですから。
故障らしい故障もないですよね。
故障というと、3歳の時に骨折したくらい(3歳の7月に軽度の骨折、翌春まで休養した)。これだけ頑張っていて脚元の不安もないです。
だから7歳の今年、より凄さが感じられるというか。7歳になったらさすがに少しは......と思っていたらむしろ前よりも良いくらいの走りで。
7歳だから今年はちょっと力が落ちるかなと思っていたら、これまでと同じ感じだからね。本当に丈夫でしっかりした馬です。
少し気が早い話ですが、JBCの後は笠松グランプリに向かうのでしょうか。
ただそこは、間隔がちょっと詰まっているので、最終的にどうするかはJBCの後に状態を見てですね。笠松グランプリの4連覇というのは狙ってみたい。4連覇はさすがになかなかないことですからね。その後は兵庫ゴールドトロフィーを考えています。
ラブバレットは昨年、笠松グランプリ3連覇を達成
そろそろ気になってきているファンも多いと思うのですが、ラブバレットは来シーズンは?
来シーズンも現役を続行する予定でいます。ただ来年は8歳ですからこれまでのようにあちこち遠征に行くわけにもいかなくなるかもしれないし、どういう形で過ごしていくかは馬の状態次第でしょうか。
例えばですね、菅原勲調教師が騎手時代に乗ってきた数々の名馬とラブバレットを比べてみたとして、どれくらいの強さだと思われますか?
それは、比較のしようがないですね。自分はラブバレットに乗ってレースをしていないからね。それは比べることができないな。
さて、ラブバレットの他に楽しみな馬・注目の馬を挙げていただくと?
今のところは特にないな(笑)。
えー!? でもですね、例えばマツリダレーベンなんかはいかがでしょうか(10月27日のJRA認定競走を勝利)。
マツリダレーベンね。この馬は芝の方が良いというか"芝でこそ"という馬ですね。芝だと走りが変わるタイプ。今回も良いレースをしてくれたし、来年3歳になってからの芝路線を楽しみにして良いんじゃないでしょうか。
芝のJRA認定競走で初勝利を挙げたマツリダレーベン
菅原勲調教師は今でもご自分で調教を付けたりされますか。
乗っていますよ。10頭くらいかな。特にこだわりを持って乗っているというつもりはなくて、自分で乗るのが好きだからという理由でしょうかね。もちろん馬の状態や雰囲気を自分で確かめることができるのも重要です。
そろそろ今シーズンも終盤です。今年の振り返りと来シーズンの目標などはありますか?
今年は、そうですね、馬の入替がちょっとうまくいかなかった。来年はもう少し上手く入れ替えて、もっと成績を良くしないとなと考えています。
大きいレースを勝てる馬を送り出したいし、2歳の若駒を走るように、良い結果を出せるようにもしたいと思っているのですが、調教師は勝ち星の数で評価される部分もありますからね。そこの部分で、馬の入替を上手にやって成績を上げていかないとね。
4歳の今年、重賞2勝を挙げているベンテンコゾウ
最後にラブバレットに戻りますが、JBCが行われる京都への輸送はかなりの長時間になりますね。
陸路でだいたい12時間くらいでしょうか。前々日の輸送で行く予定です。まあ笠松とか園田とかと同じだからね。門別だってトータルでそれくらいかかる。門別だと船に乗らないといけないから馬への負担はもっと大きくなる。それに比べたら陸路の12時間ならね。長距離輸送には慣れているし動じない馬だからその辺は問題ないでしょう。
では最後に、オッズパークの会員の方々へひと言。
これからも岩手競馬をネット等で楽しんでいただけたらと思います。よろしくお願いします。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
板垣吉則調教師は2015年度にシーズン127勝という大記録を打ち立ててから3年連続で調教師リーディングを獲得。今シーズンもここまで1位を守り続けている。オッズパーク地方競馬応援プロジェクトのマリーグレイスでは8月の若鮎賞を勝利。昨年はキングジャガーが3歳重賞を4勝するなど重賞戦線でも存在感を示し続ける。その秘訣はどこにあるのかを改めてうかがってみた。
まずマリーグレイスについてうかがいます。若鮎賞では8番人気ながら1着と見事な走りを見せてくれました。
厩舎に来た当初は小柄ですが気が良い馬だという印象で、仕上げにはそんなに手間取らないだろうなと思っていました。実際能力検査もすぐ合格してくれましたね。
デビュー戦のマリーグレイス
結果的にはデビューから3着→2着→1着で重賞制覇ということになりましたね。
デビュー戦の時は期待していたんですけど、ちょっと外に膨らむようなレースになってね。その時は3着という残念な結果でしたが、2戦目には好スタートを切って先頭を進んだらよく粘ってくれた。現時点ではそういう形のレースが理想なのかなと、その時から感じていました。若鮎賞は、1600メートルという距離がどうなのかなと思って挑んだのですが、頑張ってくれました。
普段のマリーグレイスはどんな馬なんですか?
調教なんかでもちょっとピリピリした所がありますね。競馬場に来る前からそういう面があったそうなんですが、牝馬らしい気が勝った感じというかね。でも悪さはしないですよ。素直です。
若鮎賞を制したマリーグレイス。8番人気での勝利
では話題を変えて。今年もここまで調教師リーディングの1位を守ってきています。今年も、馬の回転とかいろいろうまくいっているように見えます。
自分としてはもっと上手くやれた部分があるような気もするのですが、欲を出してもキリがないですし。今一番上にいるというのは、良くやって来たということにしていいかな。
過去との比較ですが、2015年のペースにはさすがに届きませんが2016年よりは良くて、去年と比べるとちょっと遅れてきたという感じです(夏の水沢開催終了時点で比較すると、2015年は79勝、2016年は49勝。2017年が61勝で、今年は53勝)。
相手があることですし生き物を扱っているわけだし、良い時悪い時の波があるのは仕方がないですよね。毎週コンスタントに勝てるというものでもない、そういうものだという覚悟はしながらやっています。
今年ここまでの手応えとしては? 手駒の揃い具合とかは。
だいたいシーズンの半分が終わった所になりますが、そうですね、例年は2歳馬の成績がもうひとつなのですが、今年はわりと良く走ってくれる馬が揃っていますし、古馬も勝つべき所は勝ってくれている。あと、自分の所は3歳馬が多いから、このあとは有利な戦いができるのではないかな。
今年は古馬の強い手駒がちょっと少なくて、古馬の重賞なんかはなかなか手が届かないなとは感じているんですけど、その代わり2歳や3歳の若馬に良い馬が多いのでね。そこは楽しみにしています。
毎年感じるのですが、板垣厩舎は馬の入替が早いというか柔軟というか、どんどん入れ替わっていく印象があるんですけど、そこは調教師の意向や指示なんですか?
いや、その辺は全て馬主さんの意向ですね。馬主さんが諦めようかという馬を、力があると思うからもう少し頑張ってみましょうと提言することはもちろんあるけど、基本的には馬主さんの考え通りかな。そこは"馬主ファースト"ですね。
板垣厩舎というとですね、厩務員さん達がずっと同じ顔ぶれですよね。良い厩務員さんが長く勤めているのも良い成績が安定している要因なのではと思いながら見ています。
うちの厩舎は、例えばどういう飼い葉にしようとかどういうケアをしようとかいう部分はほとんどをそれぞれの厩務員に任せています。もちろん自分が指示を出すこともあるんですが、ほとんどの場合は厩務員自身の判断でやってもらっています。自分は気になる馬を自分で調教で乗って確認したりするくらい。
厩務員さんの自主性に任せるわけですね。
やっぱり自分の考えでやってみないと腕が上がらないし、上から"今日はこれだけ食べさせろ、これだけ調教しろ"と指示されてやっても楽しくないと思うんですよね。自分の考えで馬を仕上げてそれで良い結果が出ればやりがいにもなるでしょうし。自分はそういうスタンスでやっていますね。
あともうひとつ聞きたいのがですね、以前、所属する厩務員さん全員が、担当馬が重賞を勝ったということがありました。そういう馬の分配のようなのは調教師が決めるんですか?
それはほとんどの場合は"手が空いている順"です。ごく稀に、例えばこの馬の性格ならこの厩務員が合いそうだなと思って任せることはあるし、馬主さんの希望で担当者を決めることもありますが、ほとんどは馬が来たその時に馬房が空いている厩務員が担当するようにしています。
じゃあ本当に運というか公平というか。厩務員さんもやる気になりますよね。
任せてみてどうしても合わない、どうしても結果が出ないという時は担当を変えることもありますけど。でも"良い馬は全部この厩務員に"ということはないです。
さて、これから楽しみな馬とか注目の馬とかを挙げていただくとすると?
マリーグレイスは、そうですね、小柄な馬なので芝とかの方が良いのかもしれませんが、粘り強いレースをしてくれるので楽しみにしています。それからミラクルジャガー。まだ馬体に緩さが残っていて成長途上なのですが、良いものは持っていると思う。良くなるのが2歳のうちなのか3歳になってからなのかはまだ分からないですけどね。兄(キングジャガー)もそういう所があったので、いずれ変わってくると思っていますよ。
2017年、3歳重賞で4勝を挙げたキングジャガー
30代のうちに騎手を引退し調教師に転身した板垣吉則調教師は今年がまだ9年目のシーズンなのだが、すでに通算605勝(9月27日現在)を挙げしっかりとした足場を築いているように見える。何よりも衝撃的だったのは2015年に叩き出したシーズン127勝という岩手競馬の調教師歴代最高となる勝利数で、そう簡単には破れないと思われていた旧記録(113勝)を大きく超えた所に調教師としての手腕の凄みを感じさせられたものだった。9シーズン目ながらもまだ40代の若い板垣調教師だけに、その覇権の時代はまだしばらく続くのではないだろうか。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
現在、調教師部門で全国リーディングを走る打越勇児調教師(高知)。開業7年目、45歳の若きトレーナーは自身初のタイトルに向け日々、奮闘しています。30代の頃は「厩務員のままでいいや」と思っていましたが、調教師だった父が亡くなり、自身も厩舎を構えることを決意しました。父の教えや、同じ高知競馬で全国リーディング常連の雑賀正光調教師を見て感じること、そして所属する宮川実騎手との夢とは。
厩舎の看板馬ティアップリバティと
8月17日時点で125勝を挙げ、全国リーディングに立っていらっしゃいます。「おめでとうございます」と言うにはまだ早いかもしれませんが、高知競馬には全国リーディングの常連・雑賀正光調教師がいらっしゃる中、開業7年目でこの成績はすごいですね。
ありがとうございます。嬉しいですが、まだ8月だからね。雑賀先生とか角田(輝也)先生(名古屋)なんかはやっぱりすごいですから、いつどこでひっくり返されるか分からないです。今までは追いかける立場で夢中でしたが、初めて自分がこの位置に立って「今が12月だったらな」って毎日思っています。
2012年4月に開業されましたが、調教師になったきっかけは何ですか?
調教師だった父(初男調教師)の厩舎で厩務員をしていました。父に1度、「調教師になったらどうか」と言われたことがありましたが、当時は高知競馬もあまりいい時ではなくて、5年か10年くらい先、いつか父が引退する時に考えようかな、というくらいにしか考えていませんでした。ジョッキー経験者じゃないから、馬を集められないんじゃないかという思いもあって、「厩務員でいいや」という気持ちがどこかにありました。ところが、父が亡くなってしまって...。それで私も調教師になりました。
お父様は高知初の2000勝ジョッキーで、調教師になられてからも重賞22勝などご活躍されたと聞きます。どんな存在でしたか?
子供の頃からよく怒られていましたが、憧れや尊敬の気持ちも持っていました。父の厩舎で厩務員をしていた頃は「馬を優先しろ」とよく注意されました。当時は人間側の都合で段取りを優先してしまっていたんです。いま責任ある立場になって、父の言っていた意味が分かるようになりました。真面目で、馬の扱いがすごいなぁと尊敬していました。
ご自身も開業1年目に船橋・クイーン賞(JpnIII)でアドマイヤインディが3着に入りました。大健闘と言ってもいいんじゃないでしょうか。
すごくビックリしました! レースを見ていて「なにか来たな...ん?俺んとこか!?」って。クイーン賞の後、TCK女王盃(JpnIII)も4着で「クイーン賞はまぐれじゃなかった」ということを証明できて嬉しかったです。アドマイヤインディのおかげで南関東や全国の人に私の名前を知っていただけましたし、とても思い入れの深い馬です。でもTCK女王盃の後、私の勉強不足でうまく調整ができませんでした。今ならローテーションを工夫するなどもう少し成績を残せていたかもしれないです。当時は経験が少なすぎたし、気負っていた部分もありました。
大井・TCK女王盃に出走したアドマイヤインディ(2013年1月23日・4着)
開業から6年が経ちましたが、現在はどういったことを大切に管理馬と向き合っていますか?
騎手や厩務員たちの意見を聞いて、個々の馬に少しでも合った調教をすることでしょうか。うーん、でも難しいですね。雑賀厩舎やいろんな厩舎を見て「いいな」と感じる点はマネをしています。何カ月か試して、うちの厩舎に合った形に変えて取り入れます。高知競馬は上位クラスの馬を除いて短いスパンでレースに使うことがほとんどなので、その難しさもあります。でも、その中でもなるべくチャンスのある時に勝てるように状態を持っていこうと考えています。また、スタッフも大切にして、1頭1頭にしっかり手をかけられるようにと思っています。
厩舎看板馬の1頭のティアップリバティは今年、重賞2勝。そのうち福永洋一記念は所属する宮川実騎手とのコンビでした。宮川騎手も現在、高知リーディング1位で、厩舎・騎手ともに好調な印象です。
ティアップリバティはJRAで期待されていた馬です。脚元のことなどがあって順調にレースに使えなかったりもしますが、他厩舎にもどんどんいい馬が入ってきていますから、負けないようにうまく調整していきたいですね。今は休養中ですが、秋以降がんばります。
(宮川)実も昔の落馬事故の影響で片目が見えないハンデがあるのに、素晴らしい結果だと思います。でも、自分が望んでここに帰ってきているから、それを言い訳にはできないですよね。レースでは優しすぎるところもある騎手ですが、2人で一緒にリーディングを獲れれば理想的です。
福永洋一記念(2018年5月3日)を制したティアップリバティ(写真:高知県競馬組合)
打越師も宮川騎手もリーディングを獲るのは初めてになりますから、期待しています。さて、今の目標は何ですか?
高知には全国リーディング常連の雑賀先生がいらっしゃいます。まずは、雑賀先生より勝ち星を挙げて高知リーディングを獲ることです。それに付随といっては失礼ですが、全国リーディングがついてくればすごく嬉しいですね。年末に1回くらい喜んでみたいなぁ。でも、勝利数では私が勝ったとしても、全国には尊敬する先生方がたくさんいらっしゃいます。中でも田中淳司先生(北海道)はJRAや地方各地に遠征して大きいレースを勝たれていますし、同い年なので「近づけるように頑張ろう」と励みになります。今は最多勝に目標がありますが、先々は遠征をして大きなレースを勝ちたいですね。
最後にオッズパーク会員のみなさんにメッセージをお願いします。
オッズパーク会員のみなさんを含め全国の人が馬券を買ってくださったおかげで売り上げが伸び、昔に比べて賞金が増えました。「高知のレースは面白い」と思ってくれていたら嬉しいです。私たちもいい競馬を提供できるように頑張りますので、応援よろしくお願いします。
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※インタビュー / 大恵陽子