5月27日に通算3016勝を挙げ、地方競馬通算勝利数の日本記録を達成した、高知の雑賀正光調教師。1985年の調教師デビューから32年。常にトップとして走り続けて来た競馬人生を振り返っていただきました。
まずは通算勝利数の日本記録更新、おめでとうございます。
ありがとうございます。自分としてはあんまり意識していなかったんですけど、記録に近づいて来た頃から、3014勝くらいからかな、うちの乗り役たちがそわそわしだして、いつも以上に力が入っていましたね。
弟子の永森大智騎手で見事達成しましたね。
そうですね。記録よりも、弟子が一生懸命がんばってくれたことが嬉しかったです。
ズバリ、何でこんなに勝てるんですか? 地方競馬の年間の最多勝利記録(2012年・290勝)も持っているじゃないですか。
あの時は何が何だかわからなかったですけど(笑)。とにかくいい馬を預けてもらっているということです。それが一番ですよ。オーナーの皆さんには本当に感謝しています。それに、弟子たちも一生懸命がんばってくれますし、スタッフのみんなも真面目にやってくれますから。そのお陰でこうしてたくさん勝たせてもらっているんです。わたしよりすごい先生がまだまだたくさんおられますし、自分は普通のことをしているだけだと思います。
普通のこと、と言われますが、その中で大切にしていることは何ですか?
馬の調子のいい時を持続させる、くらいかな。それは結局やれることをやるだけなんです。例えば、追い切りの後、レースの後に馬の脚の確認を慎重にすることですね。走った後の確認、レースが終わったら次の競馬のための確認、1頭1頭丁寧に確認することが大事です。
管理する40頭を全部先生が確認するんですか?
疲れますけど(笑)。そこは大事にしています。もちろんスタッフも真面目にがんばってくれてますけど、最終的な判断はわたしがしています。
雑賀先生は勝ち星もすごいですが、ジョッキーも育てていますよね。現在所属は4人です。
なんでかわからないですけど、4人いますね(笑)。最初は永森大智で。中学生の時に見学に来て、何かの縁でうちに入ることになったんです。今はトップになりましたけど、あいつは這い上がって来たんですよ。本橋(孝太)や御神本(訓史)なんかもそうですけど、腕が立つ奴は気性が激しいのが多いし、腕がない奴は大人しいのが多くて、よそから来る子には細かいことも教えるんですけど。でも自分のところの騎手にはあんまり教えないんですよ。自分で考えて、ある程度のところまで育ってこないと。勝つっていう意識を強く持てとは言うんですけど、それ以外は言わないです。
3年前に、「今年は永森と心中するから」って仰ってましたね。
そうそう。それまではいい馬には他の乗り役を乗せていたんですよ。でも、ポートジェネラルという馬に乗せたら、勝ってきたんです。乗り役が少なかったんでたまたま乗せたんですけど、「お、だいぶ乗れるようになったな」と。そこから少し手を差し伸べたら、リーディングになってくれました。
2016年12月31日、高知県知事賞(リワードレブロン)。一番弟子の永森大智騎手とのコンビで高知県知事賞4勝を挙げた(写真:高知県競馬組合)
永森騎手は、「雑賀先生に褒められるとすごく嬉しい」と仰っていましたし、師匠と弟子のいい関係ですね。
まぁ今の時代は環境的に育てるというのは難しいですけどね。わたしは這い上がってきたら手を差し伸べますけど、そこまではほっときますから。這い上がってきた奴をそこから育てるんです。なかなかリーディングを育てるっていうのは、一生に一度あるかないかじゃないですか。それに、自分の厩舎でリーディングを育てるっていうのは今はないでしょう。他のリーディングの人たちを見ると、自厩舎だけじゃなくていろいろな厩舎に乗せてもらってという形じゃないですか。
永森騎手はトップに育ちました。下の3人(岡村卓弥騎手、松木大地騎手、塚本雄大騎手)はどうしましょう?
みんなで一緒にご飯を食べる時があるんですけど、「永森がもし乗れない時には、次は岡村、お前だぞ」って。「いつでも永森の替わりになれるよう努力しとけ」って言ってます。岡村が乗れない時には次は松木、塚本、と、うちは順番が決まっているんですよ。ただ、さっきも言いましたけど、自分で這い上がってこない限りは手を差し伸べるつもりはありません。
松木騎手、塚本騎手も金沢で期間限定騎乗をしましたが、先生の方針ですか?
そうです。永森も岡村も福山行ったり金沢行ったり、あっちこっち勉強に行かせたんです。他の競馬場を見てくることもすごく大事ですし、他に行くことで高知の良さも感じることができますから。2人とも、その経験を活かしてすごく成長しましたから、下の2人にもがんばって欲しいですね。
高知は今かなり売り上げが上がっていますね。
有難いことに、ファンの方に注目していただいて、こちらも張り合いがありますよ。全体的に出走頭数も増えましたし、賞金諸手当も増えました。どこの厩舎でも馬がたくさん入るようになりましたし、雰囲気はすごくいいですよ。いいスパイラルになっていると思います。でも、ここからですよ。お陰様でいい形になったので、これからもっとがんばって恩返ししていかないと。
32年間、第一線で競馬を引っ張ってきていますが、秘訣はなんですか?
秘訣なんてないですよ。わたしは親父が調教師だったので、親の引いた線路を歩いてきただけです。実をいうと、もともとは競馬が好きじゃなかったくらいですから。他の人は、競馬が好き、馬が好きってこの世界に入って来るけれども、たまたま生まれたところに馬がいて。若い頃はそれが嫌で嫌で仕方なかったんですけどね(笑)。でも気が付いたらこうなってました(笑)。血ですね。今はやりがいのある道に進ませてもらって、親にも感謝してます。
では、オッズパーク会員の皆さんにメッセージをお願いします。
皆さまのお陰で、高知はなんとか盛り返すことができました。インターネットを通して買ってくれるお客様一人一人に、とても感謝しています。これからも結果を出して、皆さまの馬券に貢献できるようがんばりますので、どうぞよろしくお願い致します。
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※インタビュー / 赤見千尋
今回は番外編! ジョッキーインタビューではなくトレーナーインタビューです。
昨年から始まった、オッズパーク地方競馬応援プロジェクト(オッズパークとグリーンファーム愛馬会が共同で行っている、地方競馬向け競走馬ファンド)。その第一弾としてデビューした佐賀のローカルロマンは、新馬戦こそ3着に負けたものの、その後3連勝で見事JRA認定競走を制覇しました! 管理する東眞市調教師に、ローカルロマンについてたっぷりとお聞きしました。
まずは、3連勝でのJRA認定競走制覇(8月30日佐賀8レース)おめでとうございます! 1番人気に支持されての見事な勝利でした。
ありがとうございます。認定を勝つことを最初の目標にしていたので、勝ててホッとしました。ファンの方に人気にしてもらっていたので、期待に応えられて嬉しいです。初めて控える競馬をして、前の馬を差し切る競馬ができたので、勝ち方にも満足しています。今後が余計に楽しみになりました。
具体的にレースを振り返っていただきたいんですけれども、スタートはあまりダッシュが付かずに離れた3番手からとなりました。
最後にゲートに入れる順番だったので、山口騎手とも『ちょっと嫌だな』って話していたんです。というのも、デビュー戦の時に最後入れで全然ダッシュが付かなかった経験があったので。一番最後に入れるとすぐにゲートが開くので、そのタイミングだとまだボーっとしてしまうみたいなんです。2戦目3戦目は速かったけど、今回はちょっと怪しいぞと思って山口騎手も気合を入れて出していました。それでもやっぱりダッシュがイマイチでしたね。
2番人気のラヴインアクションと、同じ東眞市厩舎のガンバルスマート(3番人気)の2頭がハイペースで引っ張る展開になりました。
ガンバルスマートの方も勝ちに行く競馬で積極的に乗ってくれました。前半は少し速いペースでしたが、ローカルロマンにとってはいい展開になりましたね。エンジンが掛かってからは長くいい脚を使ってくれたし、山口騎手は『抜け出してから遊んでいた』と言っていましたから、まだまだのびしろがあると思います。
ローカルロマンはJRA認定競走(8月30日)で5馬身差圧勝。
レース後の様子はいかがですか?
さすがに食が細くなりました。牝馬特有のテンションの上がり方をしていて、なかなかご飯を食べないんです。まぁ、今回は絶対に勝ちたいということで調教でもけっこう攻めましたし、追い切りも好タイムで動いていたので、ある程度の反動は仕方ないと考えています。今後は馬の様子を見ながらゆっくりのペースで乗り始めて、次のレースを決めるつもりです。
具体的な予定というのは?
オーナーサイドと相談になりますが、直近の大目標は10月の九州ジュニアチャンピオンです。そこが1750mなので、その前に一度距離を経験させたいなという気持ちもありますね。馬の回復次第では、1開催休ませて9月の後半の開催でもう一度認定を使うかもしれません。
JRA認定競走を勝ったということで、先々にはJRAへの遠征も視野に入りますね。
意外と芝が合いそうな走りをしていますし、父スペシャルウィークで血統的にも合いそうですよね。デビュー前から認定競走を勝って芝で使ってみたいという気持ちはありました。なので、最初はフェニックス賞(8月15日小倉)を目指したいと思っていたんです。牧場さんやオーナーサイドと相談してかなり早めに入厩させていただいたんですけど、最初の新馬戦が頭数不足で成立しなかったのが痛かったです。認定競走は新馬戦を4レース消化しないと組めないので、今年は8月の終わりになってしまって...。例年通りだったら間に合っていたんですけどね。
となると、今後遠征に行くのは難しいですか?
権利はあるので、あとは時期と場所だけですね。阪神まで行くのはこの馬には厳しいと思うんです。輸送が長くなりますし、食の細い馬ですから。そうなると選択肢は2月の小倉になりますが、その頃は地元の牝馬重賞も始まってくるので。芝に挑戦してみたい気持ちと、牝馬重賞を獲りたい気持ちと...。嬉しい悩みですけど、どちらのローテーションを選ぶのかは難しい選択です。
今後の課題というのはありますか?
今回のレースで控える競馬で勝てたことはすごく大きいです。逃げても番手でもレースができるというのは大きな強みになりました。ただ、予想よりも時計が遅かったので、肉体的にも精神的にも、もう一段階パワーアップして欲しいです。とにかく一番は、ご飯を食べてくれることですね。厩務員さんが工夫して一生懸命食べさせてくれているので、少しずつ体ができてきましたが、将来的には450キロ台(前走434キロ)になって欲しいです。性格もまだ子どもで、他の馬を怖がって怯んだり、かといって誰もいなくなると遊んでしまったり...。まだ真剣に走ったことがないので、本当にこれからの馬だと思っています。
では、ファンの方にメッセージをお願いします。
オッズパークさんの地方競馬応援プロジェクトが始まって、第一弾の馬を預けていただけると聞いた時には、本当にうちでいいのかと恐縮しました。新馬からいい馬を預けてもらえるというのはとても有難いですし、本当にやりがいを感じています。ローカルロマンは入厩当初から高い能力を感じていましたから、ここまで無事に来て、結果を出すことができてホッとしています。ファンの方の期待に応えられるよう、スタッフ一同精一杯頑張りますので、これからもローカルロマンと佐賀競馬をよろしくお願い致します。
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※インタビュー / 赤見千尋 (写真:佐賀県競馬組合)