小西重征調教師は今年77歳。調教師として開業されたのが1979年と既に40年以上経っているのだが、それ以前は20年近くトップジョッキーとして活躍されており、今では岩手競馬を最も古くから知る"生き字引"的存在でもある。その小西重征調教師が先の7月、岩手競馬の平地通算勝利記録を更新された。多くの名馬を育て、また勝利数でも記録を打ち立てられた小西調教師にうかがった。
まずは7月13日に達成された地方競馬通算1,844勝、『岩手競馬平地通算勝利記録』更新のお話からうかがいます。小西調教師は記録にあまりこだわっていない......とは思いますが、改めて振り返ってみていかがでしょうか
そうですね、今になって数えてみればああ届いていたのか......と。そうだな、届いたとか超えるとかでもなくて、そんなに勝っていたのか、という感じですね。
7月13日、岩手競馬平地通算勝利記録1,844勝達成の口取り
とはいえ40年間も調教師を続けて来たというだけだけでなく毎年ある程度以上は勝ち続けないとこんな数字にならないのですから、やっぱり凄いのではないでしょうか
凄いかどうかは分からないけどね。まあ、凄いというよりは長いこと調教師をやってきたその積み重ねなのでしょう。
その40年の調教師生活で小西調教師が一番記憶に残っている馬は......やはりトウケイニセイでしょうか?
そうですね、やっぱりトウケイニセイだろうね。自分もまだ若くて張り切っていた頃だから、最初の頃は勝って良かった嬉しかったと喜んでいたけれど、最後の頃になるとプレッシャーの方が大きかった。良い事も多かったが一番苦労もした馬だからね、トウケイニセイは。
最近のファンの方はトウケイニセイを知らない世代が多いと思うので改めてうかがいますが、トウケイニセイはどんな馬だったのでしょうか?
まず賢い馬だった。そして我慢強い。ちょっと故障がちな所があったがレースでは我慢して走ってくる。しかし調教中なんか、何かちょっとまずいところがあったら極端に歩様を乱してみたりするのさ。そうやって痛いとかどこかおかしいとかいうのを我々に対して教えるんだね。それで治療をするんだが、その間はピクリとも動かないで辛抱している。つまり"ここが痛いぞ"というのを見せつけて治してもらおうとするわけ。そんな馬だった。
2009年1月、水沢競馬場に里帰りしたトウケイニセイと小西調教師(右から3人め)
トウケイニセイのキャリア終盤の頃は、調教もレースも非常に慎重に、気を遣いながら戦っていました
ちょっと脚元にまずいところがあったからね。でもレースに出たら我慢して走ってくるから。その頃はもう、勝つとか負けるとかより無事に帰ってきてくれたらいいとだけ思っていた。
引退レースとなった1995年の桐花賞の時も、決して万全ではない脚元の状態で出走して、それでも強い走りで勝って。非常に印象深かったです
あの時は馬自身が"これが最後のレースかも"と感じて、そんな気持ちで走っていたんじゃないのかなと思いますね。トウケイニセイはカメラを向けるとカメラなのかカメラマンなのかを意識してポーズを取るような馬だったのに、その桐花賞で最後の口取り写真を撮った時は人に頬ずりするように甘えたりして、これまでとは違う雰囲気だったのを覚えている。馬自身も何か感じていたんだろうね。
引退して1年位経った頃に北海道に会いに行ったが、その時もまだ跛行していたからね、最後の頃はよっぽど我慢して走っていたんだと思う。
2011年、盛岡競馬場でのトウケイニセイ
考えてみれば、トウケイニセイは小西調教師が開業して10年ちょっとの頃に出会った馬ですよね。自分は"大ベテランの調教師が育てた馬"という感じに思っていました
トウケイニセイには色々な事を教えてもらった。騎乗していた菅原勲君(現調教師)もまだ若かったから、同じだったんじゃないかな。自分はあれを超える馬には会った事がないですね。
まあ、あの頃の走る馬はどこかしら悪い所がある、故障している馬が多くて、グレートホープもそうだったが、当時はそういう馬を治し治しやっていくのが競馬だと思っていた。手のかかる子供を育てていくというかね。何かしら悪い所があったりする馬を手をかけて面倒をみて、活躍するようになっていくのを見ているのが競馬の楽しい所だと今でも思っています。
では、調教師としてだけでなく騎手時代も含めれば岩手競馬を最も昔から見てきた小西調教師は、今の岩手競馬についてどう思われたり感じられたりしていますか?
やっぱり、そうですね、スターが出てこないと盛り上がらないんじゃないかなと思いますね。馬だけでなく人もね。スターホースとスタージョッキー。
例えば武豊騎手が来るか来ないかであれだけ盛り上がりが違う。皆が接戦で頑張っているのも良いが、抜けて強い馬、抜けて強い騎手もやっぱり必要なのではないかと思う。
そしてライバル。トウケイニセイの頃はライバルもたくさんいた。強い馬がいてライバルがいて、次はどっちが勝つか?と切磋琢磨していくとライバルも一緒に強くなっていく。馬も人もね。
齋藤雄一騎手(現調教師)が数年間使用した「胴桃・袖緑」の勝負服は小西調教師が騎手時代に使用していた服色を引き継いだもの
小西調教師はあと150勝で2,000勝に届きます。小西調教師がぜひまたそういう馬や人を育てていただけたら......。
それはちょっと無理じゃないかな(笑)。もうちょっと岩手競馬に置いてもらおうかなとは思っているが、それは若い先生方に任せる。馬とジョッキーを育ててもらって、岩手競馬をまた盛り上げてくれたら良いと思います。自分ももうちょっと頑張るかな。そうだね、もう少し頑張りたいと思います。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
7月13日第12レースでアオノゴッドに騎乗して優勝し、通算1,500勝を達成した西謙一騎手。昨シーズンはばんえいリーディング3位と毎年上位に名を連ね、騎乗数はトップ。馬主など関係者の信頼を集めています。騎手会長としても3年目を迎えました。
おめでとうございます。1,000勝のときに9年9カ月で達成は年間100勝以上の計算という話をしましたが、14年目で1,500勝です。以前より乗り方が変わったと思うことはありますか。
以前よりは考えて乗れるようになったかな。馬に負担をかけないように、障害に行くまで、どれだけ馬にとって楽ができるかを考える。
最近の騎乗馬について教えて下さい。まずは古馬から。今年のヒロインズカップを勝ったアフロディーテはいかがでしょう。同期にはミスタカシマという強敵がおり、2着が続く中、先着も増えてきました。
2歳から乗ってきて、ヒロインズを狙って獲れたから、これは思い出に残るレースだったね。軽ハンディもあったし、1月頃から調子が良かった。昨年は夏は暑くて苦労したが、今年は順調だね。線の細い馬なので調教も無理できないから、少しずつ成長している。性格? おとなしくはないね。ミスタカシマという強い馬がいるのは仕方がないことだから。
ヒロインズカップ(2020年2月9日)を制したアフロディーテ
古馬戦線で活躍中のメジロゴーリキ(2019年チャンピオンカップなど)は。しばらく結果が出ていませんでしたが、ばんえいグランプリでは3着と好走しました。
重い荷物のレースがずっと続いてきたから、壁にぶつかっていた。調教師と相談して、軽い荷物で走路開放を使うなど気持ちが前向きになるよう考えている。
メジロゴーリキ
今年のばんえい記念はカブトゴールドで出走しました。善戦しましたね。
東北の草ばん馬に出ていて、重い荷物には慣れている。ばん馬では障害で止まることもあるから、ばんえい記念で止まっても心配ない。
今年ポプラ賞を制した3歳のアオノブラックも、メムロボブサップというライバルがいる中で健闘しています。
相手がいると、レースはしやすい。器用ではない馬だから。真剣に走ると強いよ(笑)。まだ遊んでしまう。
ポプラ賞(2020年3月15日)を制したアオノブラック
それでもポプラ賞の勝利インタビューでは、前向きになってきたと話していましたね。古馬ともいいレースをしています。
スピードがあるから、同世代より古馬とのほうがいいレースができるかなと。夏は調子がよくないから、涼しくなったほうがいい。今年は(4歳一冠目・柏林賞を勝ったメムロボブサップの)三冠を阻止したいね。
2歳はいかがですか。
まだ混沌としている。デビューから3連勝したリアンドノールになるのかな。荒いけれど、平ら(平坦コース)はいい。課題は障害だけだね。
リアンドノール
あらためて1,500勝について。思い出に残る馬は以前初重賞制覇(2009年銀河賞)アカダケキングや、ばんえい記念馬ニシキダイジンと挙げていただきましたが。
そうだね、「ニシキ」の冠の仙頭富萬オーナーは、新人の頃から乗せてくれていた。ダイジンもだし、ニシキタカラも。重賞でも乗せてくれたよね。アカダケキングは2歳から自分で運動していた馬。周りの人にお世話になった。
無観客競馬が長く続き、7月11日からは観客が入場しています。
無観客の時は静かだった。馬にとってはよかったかな。観客を入れたあとは、たくさんの客が見に来ている。パドックでは、2歳は人を見てびっくりしてはいたけど、それが本当のレースだから。
一日のスケジュール教えてください。
調教は午前4時前から、10、11時までかな。馬はいるけれど人がいないから。
ええっ! そんなに長くやっているんですか。休みはとれていますか。
休んでも今はどこにも行けないからね。厩舎は、インド人1人と帯広畜大の学生バイトがいて助かっている。インド人は気さくな人が多いし、言葉は通じないけれどなんとなく会話している(笑)。人は少ないけれど、若い人は増えている。騎手になりたいって厩務員になっている人もいるよ。騎手は減った(19人)から。増えたほうが楽しいね。厩務員も騎手も、レースで勝ったら楽しいよ。
ではオッズパーク会員の方に一言お願いいたします。
リーディングは気にしない。それよりも、周りから信頼されることが大事だと思っています。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
高松亮騎手は岩手競馬の7月終了時点で80勝を挙げ騎手リーディング1位(3月20日以降の岩手競馬のみの成績)。昨シーズンは103勝で4位、一昨年は96勝で3位だったが、シーズンの折り返し点を前にしての80勝は自身の過去最高勝利(2015年の135勝)をも大きく上回るペースだ。そんな活躍ぶりを見せる高松亮騎手の"変化"を探ってみた。
現時点でリーディングトップ。"騎手リーディングを獲る"という強い意志を感じます
今シーズンは"騎手リーディングを獲る"ことを目標に掲げて、全てにおいてそのために行動する。そういうスタンスでやってきました。
例えばこの冬に短期で行っていた高知からも、こっちの調教開始に間に合うように早く帰ってきて調教もしっかり積んだ。それもあって最初から良い馬にも乗せていただけた。もちろん自厩舎のバックアップ、お世話になっている馬主さんのバックアップもあります。シーズン開始前から準備をしてきた甲斐があって開幕からいい流れを作れたと思っています。
東北優駿をフレッチャビアンカで制し、自身二度目の"ダービーウイナー"に
ではシーズンもだいたい半分が過ぎようとしている今ですが、自分で目指してきた通りの結果になっている?
全然納得してないですね。もっと勝たないといけないと思っています。あと2開催くらいで今シーズンも半分ですか。折り返し地点に近づいてますけど、もっとしっかりしなきゃいけないなって。こうやって応援してくださっている人たち、自厩舎の調教師さんや厩務員さん、他の厩舎もそうですし、馬主さんにもですね、勝って結果を出すことが一番だと思っていますから。
それはレースの、というか勝ち方の質?量も?
どっちもですよね。こういうと語弊があるかもしれませんが何が何でも勝てばいいレースもあるし、どんなに質が良くても勝てないレースもありますし。自分の中でよく思ってるのは"勝てばいいって訳ではないんだけども勝たなければいけない"矛盾なんですけどね。
今季のここまでの結果は"気持ちで頑張る"みたいな単純な話じゃなくて準備の仕方からしっかり作って挑んできている結果、ということですか。
去年までの自分がやってきたことって、とにかく"自分を高めること"を目標にやってきたんですよね。JRAの堀厩舎に純粋に勉強したくて行ってみる、とか、南関東に2年連続で短期で行ったりとかも、自分を高めるためにそういう厳しい状況に身をおきたいから......ってやってきた。
そうしてきたことを今年は、"競馬で勝つためにはどうしたらいいか?"っていう考え方だったり準備の仕方に変えた......という感じですね。どうしたら勝ち星を増やせるか、増やすことができるかを以前よりもより一層考えるようになった。考え方としてはそうですね。
ファイト溢れる高松亮騎手の騎乗ぶりはファンも多い
そろそろ迎えるシーズン後半戦に向けての抱負を挙げてもらうとすると?
こればかりは相手もいますからね。自分は良い馬の騎乗依頼も頂いていますから、それにしっかり応えていく。一つ一つ、目の前のことに自分の全てを注ぐって感じですね。
前半後半に区切りはないんですけどね、今までやってきたことは変わらないですから、まず目の前のことに全力で頑張りたい。相手がどうこうでなくあくまでも自分との戦いだと思うので、しっかり目標を見据えて、自分を見失わないように......って感じですね。
じゃあ、相手との勝ち星の差とかではなく自分のやるべきことをしっかりやっていきたいと。そのやって行った先に結果はある、という考え方?
そこはやはりリーディングを獲るための数字っていうのはあるでしょうから、それに向かって。だとしても変に力むものでもないでしょうからね。自分が設定している目標の数字、それは一日一日だったり、一週間の三日間であったり、目の前のひとクラだったり。まずはそれをしっかりやっていこうと。
あとは、バックアップしてくれている厩舎だったり厩務員さんだったり馬主さんだったり、そういう皆さんに恩返ししたいっていう気持ちが強いので。やっぱり勝つのが一番恩返しだと思うんですよね。そういう気持ちで乗って行きたい。自分のやるべきことをしっかりやったその先にリーディングというものがあるんじゃないでしょうか。
高松騎手を見ていると、ここ何年かの、他地区の重賞でのスポット騎乗や期間限定騎乗であちこちに遠征したことが影響して、何か変わってきていると感じます。
自分で期間限定騎乗で行く時はそうですしスポットで呼んで頂く時もそうですけど、やっぱり"岩手の高松"という目で見られるでしょうから、岩手競馬の名に恥じない責任感......と言うと大げさかもしれないけど、少しでも岩手のアピールができればいいなと思っています。
他地区に行ってそこの、各地のトップジョッキーと戦うっていうのは良い影響があるよね。
そうですね、いろいろなジョッキーの話、その場所のトップジョッキーの話を、考え方であったり騎乗の感覚であったりを聞けたり肌で感じたりすることができるので、そこは自分としては大事にしていますね。今年の冬だったら高知競馬で赤岡さんや西川さん、倉兼さんたちを始めいろんな人にいろんな話を聞いて。今年は久しぶりに西の方に行ったから余計にね、良い経験ができたと感じました。
今年1月から2月には高知競馬で期間限定騎乗
今年はコロナの影響で無観客の競馬が続きました。騎手としてはどんな感じでしたか?
これは皆さんも言われているのですが、こういう状況でも競馬ができているという点に感謝しています。自分達もしっかりやらなきゃなって改めて思いながら競馬に臨んでいました。無観客の競馬は寂しい気持ちもありましたけど、それよりはまず競馬ができるっていうことに感謝しないといけないですからね。
岩手競馬もお客さんに来ていただけるようになって、やっぱり久しぶりにお客さんの前でレースに乗れたのは嬉しかったですね。"これが競馬だよな"って。
まだ手放しでは喜べない状況ですけども、お客さんもこのコロナ禍の中、競馬場に来て少しでも暗い気持ちを解消してくれたら、楽しい気持ちになってくれれば、僕たちもやっている甲斐があります。
改めてなんですが、騎手の仕事、厩舎の仕事の中での感染防止策はどんな事に気をつけてますか?
もちろん毎日・毎朝検温していますし、手洗い等もこまめにして。ほとんど屋外でやる仕事ではありますがソーシャルディスタンスはなるべく気をつけて。調整ルームの中でも密にならないように気をつけています。やっぱり神経は使いますね。
スポット騎乗なども声をかけていただけるようになってきたのですが、今はお断りしていたりするので......。ちょうどお盆の時期にいくつか重賞の騎乗の声をかけて頂いたんですけど、どうしても混む時期なので、調教師さんともいろいろ相談した結果、お断わりして。本当に残念です。でもやはり感染を未然に防ぐのが一番でしょうからね。
では最後にオッズパーク会員の皆さんに一言。
おかげさまで今年は本当にネットでの売り上げが好調ですからね。ネットの中でお客さんにレースを見てもらってる、だから自分達も良いレースを見せたいと思って一鞍一鞍乗っていきたいと思っているのでね、厳しくも優しい目で見ていただきたいですね。
高松亮騎手本人は"頑張る"っていう気持ちだけでリーディングが穫れるとか、そんな簡単な話じゃないですよ。という。そう言える所が今年の変化を表しているのではないだろうか。デビューから17シーズン目、変革期に入ったのか? それともベテランとしての円熟期を迎えつつあるのか。今年このあとの高松亮騎手の戦いぶりから目がが離せない。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
デビュー3年目の落合玄太騎手は、6月に行われたダートグレードの北海道スプリントカップJpnIIIをメイショウアイアンとのコンビで勝利。地元北海道勢に、同競走では00年オースミダイナー以来20年ぶりとなる栄冠をもたらしました。
今シーズンはここまで門別では23勝を挙げてリーディング7位(7月9日終了時点)ですが、ご自身の戦いぶりを振り返っていかがでしょうか。
ここまでいい馬に乗せていただき、恵まれた環境にもいさせてもらっているなかで、本来ならばもっと上にいなければならないと思っています。個人的には、今の順位には満足していないですね。
オフシーズンは南関東で期間限定騎乗を行い、10勝を挙げました。何か得るものはありましたか?
競馬場が4場それぞれでコースが違いますし、普段一緒に騎乗しないジョッキーたちとレースに乗ったので、一人ひとりの乗り方の特徴が分からないなか、一からレースを組み立てなければならなかったのが勉強になりました。川崎とか浦和のような小回りの競馬場は普段乗ってこなかったので、特に難しかったですね。浦和は気がついたら位置取りが後ろになることが多く苦労しました。
10歳のメイショウアイアン(右)で北海道スプリントカップを勝利
6月の北海道スプリントカップではメイショウアイアンとのコンビでダートグレード初制覇。昨年(2着)のリベンジを果たしました。
去年も馬が本当によくがんばってくれたおかげで2着に来てくれたんですけど、あとひとつ着順が上だったら......と考えたら悔しかったんですよね。コーナーでもかなり外を回されてしまって、1着の馬(ヤマニンアンプリメ)からは離されてしまったのは確かですが、2着となるとやっぱり欲がちょっと出てしまったというか。これが3着だったら違ったかもしれないんですけどね。
今年は牧場から帰ってきた当初は状態面も正直なところひと息だったんですけれども、トライアル(5月5日キンシャサノキセキ・プレミアム=3着)を叩いてから調教での動きや体の使い方がどんどん変わってきて、抜群と言っていい状態でレースを迎えることができました。
今年のレースではどのようなことを意識されていたのでしょうか。
いつも通りにはなるんですけど、とりあえず出していって、あとはあまり外々を回って、ポジションを下げないようにすることは意識しました。去年と同じで、砂を被らずにすむ外枠が引けたのはよかったですね。マテラスカイがテンから飛ばす展開になって、ある程度前がバラける展開になって、コーナーであまり外々を回らずに済んだのも、この馬にとっては好都合でした。仕掛けたときの反応や、直線の手応えなんかも、変わらず良かったです。
ゴールの瞬間は、正直勝ったのかどうか自分では分かりませんでした。でもコースから引き上げるとき、マテラスカイに乗っていた武(豊)さんから「おめでとう」と声をかけていただいたので、そこで「ああ、勝ったのかなあ」と。厩務員さんも笑顔で出迎えてくれて、厩舎のみんなでひたすら喜んで、ようやく勝ったことを実感することができました。自分自身、まだ3年目で特に力があるわけでもないのに、こんな大きなレースでこれほどの馬に乗せていただけるなんで滅多にないと思うんです。オーナーさんや先生や、関係者の皆さんには本当に感謝しかないですね。
それにしても、10歳にしてこの走りというのは驚くべきものがあります。あらためて、メイショウアイアンの良さを教えてください。
オンとオフの切り替えがはっきりとしているところですね。厩舎にいるときや普段の運動では牛みたいにボーっとしていて、誰でも乗れる乗馬みたいな感じなんですけど、追い切りやレースになると、ガチッとハミを取って走ってくれるんです。無駄な力を使わないのは、競走馬としてすごく大事な資質なんじゃないかと思います。
グランシャリオ門別スプリント(7月2日)は2着でした。
去年も不良馬場でレコードタイム(58秒6)で勝っていましたし、状態も前走くらいの高いレベルをキープしていたので、期待はしていたのですが、勝ったアザワクは軽量(51kg)でしたし、スピードも一枚上でした。去年と同じくらいの上がりの脚(上がり3ハロン34秒6)を使ってくれて、この馬もよく差してはいるんですけれど、ポジションの差も出てしまいましたね。ただ、やっぱりこの馬にとってのベストは1,200mなので、負けたのはもちろん悔しいですが、結果に関してはそんなに悲観しなくてもいいのかなとも感じています。
次はクラスターカップ(8月10日、盛岡競馬場)ということになると思います。また強いメンバーを相手にしなければなりませんが、いつも一生懸命走ってくれる馬ですし、相手が強くなった方がこの馬の持ち味が生きるんじゃないかと期待しています。
今年は所属の田中淳司厩舎の勢いが凄いですね。騎乗している2歳馬のなかで、特に期待している馬を教えてください。
短いところで言えばトンデコパですね。栄冠賞では11着に負けてしまいましたが、抜群のスタートセンスとスピードを見せてくれました。レースを使っていくうちに少し気持ちが入ってきたかなとも思いますが、それでも乗り手がコントロールできない範囲ではないですね。次の牝馬重賞(8月12日、フルールカップ)は1,000mなので、この馬にとってはベストな条件だと思います。
長い距離の馬で言えば、シビックドライヴですね。能検の走りから「長いところの馬だな」とは思っていましたが、2戦目の1,700m戦で変わり身を見せてくれました。しまいの脚もしっかりしていますし、相手が強くなってもがんばってくれるんじゃないかと思います。牝馬だったら、5月28日のフレッシュチャレンジ(1,500m)を勝ったケープホーンも、競馬が上手な馬ですね。
厩舎の2歳馬には、乗り慣らしを含めてもひととおり乗っていますが、今は自分が乗ってレースに行く馬はできる限り自分で調教をつけているという感じです。今年はJBC2歳優駿もありますが、まずは1頭1頭が目の前のレースを勝てるように、先生とも相談しながら調教を進めているところです。
4月23日のフレッシュチャレンジを制したトンデコパ
今シーズンもいよいよ中盤に入ろうとしています。今後の目標を教えてください。
まずは勝ち星を重ねて、去年(北海道で63勝)以上の勝ち星を挙げたいですね。まだ2歳重賞を勝ったことがないんですが、今年はチャンスのある馬に乗せていただいているので、結果を出せるようにがんばっていきたいです。もちろん、メイショウアイアンもそうですし、古馬も楽しみな馬がいるので、そういった馬たちでも大きいところを狙っていきたいと思います。
リーディング5位以内に入れば、また南関東への期間限定騎乗という道も見えてくると思います。
リーディングの順位は、ジョッキーみんなが意識しているところだと思います。5位以内とは言わず、ひとつでも上を目指さなければいけませんし、そのためにはレースの大小にかかわらず、ひとつひとつ勝ち星を積み重ねていかなければなりません。
今シーズンのホッカイドウ競馬は開幕からずっと無観客競馬が続いていますが、馬券の売り上げは極めて好調です。応援してくれるファンの皆さんへメッセージをお願いします。
こういった大変な状況のなかでも、馬券を買って楽しんでくださり、とても感謝しています。これからもファンの皆さんに楽しんでいただけるような競馬をしていこうと思います。
無観客競馬というのは、レースそのものには直接的な影響はないと思いますが、やっぱり盛り上がりに欠けますよね。パドックでもコースから引き上げるときでも、お客さんがいてくれた方がいいですね。ファンの方も早く生で競馬を観たいでしょうし、僕も早くたくさんの方に競馬場に来ていただけるようになってほしいです。
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※インタビュー・写真 / 山下広貴
今年4月に川崎競馬場でデビューした池谷匠翔(たくと)騎手は、6月6日から佐賀競馬場で期間限定騎乗をスタート。初勝利の喜びや、今後の目標を語っていただきました。
初勝利おめでとうございます。1番人気馬(6月13日佐賀11レース、エーティーキンセイに騎乗)での初勝利でしたが、プレッシャーも大きかったんじゃないですか?
ありがとうございます。かなり緊張しましたね。実は自分が初勝利する前日に、同期の古岡(勇樹騎手)が川崎で初勝利したんです。そのレースを見ていて、「これは自分も勝たないとまずいな」と。しかもエーティーキンセイは強い馬で、周りの方々からも「ここで初勝利だな」とう感じで言われていたので、相当緊張しました。特にパドックとゲート裏、ゲートの中に入った時までめちゃくちゃ緊張したんですけど、ゲートを切ったらレースに集中することが出来ました。
直線では追いながらビジョンを見ていましたよね? 初勝利のわりにすごく冷静だなと思いました。
いえいえ、あれは後ろから他の馬の脚音が聞こえなくて、ちょっと不安になってしまって......。それでチラッとビジョンを見たんです。そうしたら後ろとはかなり離れていたので、これはもう初勝利出来たなと。ただ先頭でゴールをした瞬間はあんまり現実感がなくて、検量前に戻って来て1着の枠場に入った時に「勝ったんだな」って。乗せてくれた関係者の皆さんと、頑張ってくれた馬に感謝しています。
エーティーキンセイに騎乗して初勝利(2020年6月13日)
周りの方々の反応はいかがでしたか?
皆さんから「おめでとう」って言っていただいて、すごく嬉しかったです。レース前に真島(元徳)先生から「スタートを出たらすぐにステッキ打って前につけて、あとは3コーナー辺りから何も考えず全力で追ってこい」と言われていて、その通りに乗れたことも嬉しかったですね。
さらに、すぐ次の日には8番人気の馬で勝利(6月14日佐賀11レース、ヒューズラインに騎乗)。初勝利までは少し時間が掛かりましたが、そこからは早々に2勝目を挙げましたね。
この時は向正面くらいから手ごたえが良くて、もしかしたらいけるんじゃないかと思いました。真島先生からは「あまりゲートが速くないから、出たなりの判断で」と言われていて、思っていたよりもゲートが速かったので、積極的に行って番手につけました。先生からも「自分で考えて乗ったな」と言っていただけて嬉しかったですし、今のところ一番会心のレースですね。
8番人気ヒューズラインで2勝目をマーク(2020年6月14日)
前日の初勝利が自信になったのでは?
そうですね。もし前日勝ってなかったら、2勝目はなかったかもしれません。初勝利するまでは焦って追い出しが早くなったり、馬にも僕の緊張感が伝わってしまったり......。なかなか上手く行かなかったんですけど、ひとつ勝ったことはすごく大きくて、少しは落ち着いて乗れるようになったかなと思いますね。今もまだまだですが、川崎でデビューしたての頃は、レースの流れに乗るだけで精一杯で、周りにいる先輩方に迷惑ばかり掛けてしまいました。技術的な面はもちろん、気持ちの面でもかなり落ち込むことが多くて。
どんな時に落ち込んだんですか?
一番は初めて1番人気の馬に乗せてもらった時(4月22日浦和5レース、ゴールドサミットに騎乗して10着)です。せっかくいい馬に乗せていただいたのに全然結果が出せなくて、すごく落ち込みました。その日はとことん落ち込んで、次の日に馬に乗ったら自然と前向きになれたんですけど、やっぱり勝てない時期が続くとキツイですよね。実際にデビューしてみて、想像していたことと全然違ったというか、もちろん厳しい世界だとはわかっていましたが、ひとつ勝つことの難しさを痛感しました。だからこそ、改めて先輩方のすごさを感じています。もともとすごいとは思っていましたけど、森泰斗騎手とかあんなに勝っているところを見ると、デビュー前よりもよりすごさを感じるようになりました。
デビューしてから約2か月で所属の川崎を離れて、佐賀で期間限定騎乗することに迷いはなかったですか?
それはまったくなかったです。大井の真島大輔さんから、「たくさんレースに乗せてもらえるから、佐賀で修行してみないか?」って言われて、すぐに「ぜひお願いします!」と答えました。所属の内田勝義先生も快く送り出してくれたので、佐賀にいる間にたくさん吸収したいです。
実際に佐賀で騎乗していみて、戸惑いなどは感じましたか?
最初はありました。そもそも右回りの経験が教養センター以来で、競馬では初めてでしたし、さらに内側を大きく開けるというのも難しかったです。今は毎朝1時過ぎくらいから17~18頭の調教をしていますし、レースもたくさん乗せていただいて、とてもいい経験をさせていただいています。
佐賀に来て約1か月で5勝(2020年7月6日現在)を挙げました。今回の期間限定騎乗は9月30日までの予定です。この間の目標は?
佐賀では20勝するのが目標です。ここで経験出来るだけのことをして、今後に繋げていきたいです。たくさん乗せていただいて、少しだけ下半身の筋肉がついたかなと思いますし、レース中ちょっと気持ちに余裕が出来て、少しは周りが見えるようになったかなと。
ここ数年、佐賀で期間限定騎乗する若手騎手が増えました。佐賀はどんな雰囲気ですか?
皆さんが「育てよう」という感じで、どのジョッキーというわけではなくて、先輩ジョッキーの皆さんがアドバイスしてくれます。毎回レースが終わった後に「ここもうちょっと行った方が良かったんじゃないか」とか、細かく教えてくれるのがありがたいですね。所属の真島先生は厳しいですが、たくさんレースに乗せてくれて、上手くなるようアドバイスもしてくれますし、周りの方々には本当に感謝しています。
初勝利の記念撮影
池谷騎手のお父さんは元体操選手でタレントの池谷直樹さんということで、デビュー前から注目度が高かったですが、ご自身では感じますか?
そうですね。そういう空気は子供の頃からちょっと感じていました。でも前からなのであんまり気にならないですね。父にはかなり熱く応援してもらっていて(笑)、初勝利した時には連絡をくれました。「せっかくこういういい機会を与えてもらっているので、少しでも成長して帰って来なさい」と言われているので、今はとにかく少しでも上手くなれるよう頑張ります。
では、オッズパーク会員の皆さんにメッセージをお願いします。
初勝利までは落ち込むことも多かったのですが、今は馬に乗ることがとても楽しいです。新人らしく一鞍一鞍大切に乗ってくるので、応援よろしくお願いします!
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:佐賀県競馬組合)