今年3月に廃止された福山競馬から、ここ名古屋競馬へ移籍してきた山田祥雄騎手。4月1日の移籍初日、第1レースでいきなり初勝利を挙げ、名古屋のファンを驚かせました。その後も順調に勝ち星を挙げている山田騎手に直撃しました。
坂本:名古屋競馬の印象は?
山田:ゲートの種類が違うなと思いました。笠松も同じなんですけど、開くタイミングがわからない。ゲートに入った時の景色が違うんですよ、福山と。福山のゲートは、騎手の目線のところまで柵があったんで、開く瞬間がわかるんですけど、名古屋や笠松はゲートの柵が騎手の目線より低い。だから、ゲートが開いて『あ、開いた』ってなります。
坂本:乗った感じはどうですか?
山田:どちらかといえば乗りやすいですね。コースの幅は、福山と比べて全然広い。
坂本:初日の初騎乗初勝利についてですが、先生からの指示はあったんですか?
山田:先生からは特にはなかったんですけど、あまり行き過ぎると、終いがあまくなるよとは言われました。なので、その点だけは意識して乗りました。
坂本:ゴールした瞬間はどんな感じでした?
山田:意外にあぶなかったなと思いました。負けそうだったんで。
坂本:では、勝ったと思ったのはゴール過ぎてから?
山田:そうですね。
坂本:上がってきて、先生からは何か言われました?
山田:特になかったですね。僕からは『ありがとうございました』と。
坂本:福山から名古屋に変わり、環境の変化もありましたが?
山田:あまり対応できてないですね。
坂本:休日は何をしてますか?
山田:ゴロゴロしてます。遊びには誘われれば行きます。同期の柿原がいるんで。
坂本:福山からは、隣りの笠松競馬にも池田騎手が移籍しましたが、お話はされました?
山田:そうですね。あと、他にも移籍していった仲間のことも気にはなりますね。
坂本:先日、笠松競馬にも騎乗しに行きましたが、名古屋と笠松とではどちらが乗りやすいですか?
山田:どっちかっていうと、笠松のほうがなんとなく乗りやすいですね。福山と同じ小回りなので慣れてるからだと思います。
坂本:今後の目標は?
山田:目標ですか......そうですね、ただがむしゃらに乗りたいだけです。
坂本:では、最後にファンの方々へ一言。
山田:応援よろしくお願いします。
名古屋にきて半月、名古屋競馬ファンの間にも『山田祥雄』の名が浸透してきました。
となれば、大きいところでの活躍も待たれます。がむしゃらな山田騎手の騎乗をぜひ、ここ名古屋競馬場で観戦・応援よろしくお願いします。
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※インタビュー・写真 / 坂本千鶴子
昨年は初重賞制覇、今年1月には通算100勝を達成した6年目の黒澤愛斗(まなと)騎手。身長135センチと日本で一番身長が低い騎手は、ここ最近急激に勝ち鞍を伸ばしており今年も注目です。
斎藤:昨年は2歳牝馬の重賞リリーカップをハニーパイで勝ち、初重賞制覇を達成しましたね。
黒澤:宮崎騎手が怪我して、乗り換わりの騎乗でした。ゴール前は外から2頭追い込んできていましたが、我慢して勝つことができました。嬉しかったです。こんな形(乗替り)で重賞を勝てるとは...。次の目標は200勝ですね。
斎藤:100勝は名古屋でしたね。門別で待っていたのに(笑)。
黒澤:門別で...とは思っていたんですが。名古屋では、同期の2人(友森翔太郎騎手、阪野学騎手)がプラカードを持ってくれました。
斎藤:騎手になったきっかけを教えてください。
黒澤:出身は茨城県です。家は全く競馬とは縁がないのですが、高校時代の先生に騎手になることを勧められてから、競馬を見るようになりました。中高と野球部で、体を動かすのが好きだったんです。監督が競馬が大好きだったのと、友達にも勧められて。高校を卒業してから1年間、千葉の乗馬クラブで乗馬を学んでから騎手試験を受けました。乗馬クラブでは、JRAの小野寺祐太騎手も一緒だったんです。親は好きにやらせてくれました。すぐやめるんじゃないかと思ったみたいです(笑)。
乗馬クラブではじめて馬を見て、「でかい!」って。乗ってみたら高くてびっくりしました。最初はやってけねーな、と思いましたが根が負けず嫌いなんです。それから教養センターでもみっちりとやりました。19歳で入ったので同期では自分が一番年上でしたが、敬語もなく、みんな仲が良かったですよ。
斎藤:2008年、デビューは札幌競馬場でした。初日から4鞍に騎乗していましたね。
黒澤:デビュー戦はレース前に急に緊張してきて、ゴーグルはしていましたが、板メガネを忘れたんです。レース中に「痛い!」と思って、馬降りてから「してねーじゃん」って(笑)
初勝利は1カ月後の旭川でした。同期がみんな勝っていたので、プレッシャーがありました。レースは小国さんと競り合って、ハナ差だったので勝ったか負けたかわからなかったんです。戻ってきてから、(恵多谷)先生に勝ったと教えてもらいました。うれしかったですね。
斎藤:同期はレベルが高いですものね。次の年明けには、高知の全日本新人王争覇戦で優勝しました。
黒澤:1月のこの時期は攻め馬もしていないし、普段は鐙も長くして乗っていたんです。レースはゲートで遅れたんですが、ペースが速くて前が止まっていたのがわかったんです。ゴール前びゅん、と差して「あっ、勝った」って。高知では1鞍しか乗っていないのに、次の日筋肉痛になりました(笑)。
同期では、川島(正太郎・船橋)とセンターの部屋が一緒でした。仲がいいのは名古屋の2人、友森と阪野です。大柿(一真・兵庫)は、(重賞勝ちの後、競馬場での)プロポーズの前に僕が乗っていたことのある馬について電話してきたのに、結婚の話はしなかったんですよ(笑)。
斎藤:今シーズンの冬は名古屋に2カ月間遠征しましたね。
黒澤:あちこちで乗りたいと思っているんです。いろいろな騎手がいるから、どういう競馬をするかを見たい。名古屋の2人からも、レベルが高いと聞いていたので、勉強になると思って行きました。位置取りが厳しく、黙っていたらいい位置を取られます。仕掛けどころも最初はわかりませんでした。小回りコースのいい勉強になりました。
斎藤:茨城出身ですが、北海道を選んだのは、冬の間の馴致をしたいからと聞いたと事があります。冬期間休みに入るホッカイドウ競馬では、その間今年デビューの2歳馬を育てていますが、忙しいし怪我も多く、大変だと聞きます。
黒澤:馬を一から(育てるところから)やりたかったんです。野生馬を馴致するようなものですから、2歳は大変です。2年目からだいぶ慣れてきました。今年は名古屋から戻ってきたら馴致は終わっていて、今は馬場での調教が始まっています。
斎藤:さて、一昨年33勝、昨年29勝と、ここ最近勝ち鞍が急激に増えましたね。
黒澤:乗鞍が増えたからですね。恵多谷先生が「ほかの厩舎手伝いに行け」と行ってくれるんです。やさしい先生です。
骨折もないですね。運がいいのかも。
また、2年前に結婚したことで、「稼がないと」って(笑)。頑張らないといけない、という気持ちが強くなりました。
斎藤:では、今は休みの日は家族サービスでしょうか。趣味は何でしょうか。
黒澤:家族で出かけたりもしますが、ゲームが好きです。特に「モンスターハンター」で、(阿部)龍も好きで、一緒にやりますよ。
斎藤:体が小さいということで、有利になることはありますか?
黒澤:ないですね。腕も短いし、不利なことが多いですが、それを埋めるために、レースでは馬を気持ちよく走らせることを大事にしています。
センターでは木馬に乗ったり器具を使ったり、ひたすら筋トレをしました。体が小さいから、誰より筋力をつけたいと思っています。背筋は160キロくらいありますが、騎手は馬に乗っていると背筋がつくんですよ。大事なのはバランスよく筋肉をつけることです。これからはもっと下半身に筋肉をつけて体重を増やしたいです。
今の体重は38キロ。食べても太らないんです。鉛は、特注のゼッケンにつけているんです。鉛だけで17~18キロになりますね。札幌は検量所から装鞍所までがとても遠かったので、手押し車に乗せて歩いていました。門別も、装鞍までは階段を登っていくから結構大変なんです。名古屋はすぐ後ろだったんですが。
斎藤:黒澤さんの筋肉はすごそうですね。パドックで軽々と飛び乗りしているのもすごい。
黒澤:センターでは1人で飛び乗りができないといけないんで。でも、意外と最初からすぐできたんです。
斎藤:先行と追い込みではどちらが好きですか。
黒澤:はじめは逃げ、先行が好きでしたが、最近は差しが好きになりました。オンワードリーベという馬に乗ってからです。門別は広いし直線が長く、差しが決まるからおもしろい。
いつも、スタンドから見ると、ナイター競馬はとてもきれいなんじゃないかと思っているんです。一度客として見てみたいですね。乗っていてもスタンドはきれいに見えますよ。コースは、旭川は暗かったですが、門別はとても明るいんです。
JRAでは一昨年初めて乗りました。芝は、クッションがきいていて、じゅうたんの上を走っているような、不思議な感じでした。中央で活躍している人が隣にいて、新鮮でしたね。
斎藤:目標の騎手を教えてください。
黒澤:五十嵐騎手ですね。リーディングを獲るだけではなく、ずっとそれを保つというのはすごいことです。
山口さんには、オレンジ帽の時から優しく教えてくれました。馬乗りもうまいし。
斎藤:黒澤さんを見ていつも思うのは、ハンディをハンディと思わないところが素晴らしいです。
黒澤:負けず嫌いなんですね。特に、ハンディがあるとは思っていないです。そこは、自分で補っていけたらと。小さい体で頑張っていますので、門別に来てください。
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※インタビュー / 斎藤友香
ばんえい競馬は平地競馬に比べて騎手の技量が結果につながる割合が高いという面がある。となると、頼りになるのは経験豊かなベテランジョッキー。そのひとりである安部憲二騎手は、騎手会副会長としてばんえい競馬を盛り上げる役割も担っている。
安部騎手は2012 年12 月2日にフジテレビ/関西テレビ系列で放映された『ほこ×たて』で、ばんえい競馬の威信をかけて「絶対に滑らない最強のゴムシート」と戦った。
対戦の話があって、出す馬はテンマデトドケ(服部義幸厩舎)に決まったんですが、その主戦騎手の長澤(幸太)くんが「テレビだと緊張してしまう」と言い出して、それで関係者全体で話し合った結果、僕が手綱を取ることになったんです。全国放送ですから、なんとしてもアピールしなきゃと思ったので、どんなパフォーマンスができるかという問い合わせには、いろいろ提案しましたよ。そのひとつが綱引き。相撲部やら柔道部やらアメフト部の人が来て対戦しました。放送上ではテンマデトドケが圧勝していますが、じつは1回負けているんです。馬って、体が前に進むようにできているから、ふっと力を抜いたときに後ろに引っ張られると対応できないんです。
そういった経緯がありつつも収録は進み、本番の勝負では快勝となった。
ソリが軽すぎるとゴムシートに乗せたその前部が浮き上がってしまうので、荷物と合わせた総重量は800kgに設定しました。それでもまあ勝てるかな、とは思っていましたけどね(笑)。ばん馬のすごさを宣伝することができてよかったです。
テレビ収録が初のコンビながら好結果。ばんえい競馬では平地以上に人と馬とが呼吸を合わせることが重要だ。
いちばんの基本はまっすぐ進ませること。次の基本は負荷をかけるメリハリですね。叩く、すかす、しゃくる。第2障害を降りてからの5m、10 mの間に、その3つのうち、その日のその馬はどれがいちばん反応がいいのか判断するんです。「すかす」は手綱をゆるめる動作。「しゃくる」は、荷物を曳いているとだんだん頭が下がってきますから、その頭を起こす動作ですね。馬は気持ちで頑張りますから、それを感じてやらないと。あとはハミ。ハンドルにもアクセルにもブレーキにもなりますから、正しいハミ遣いができるかどうかで、100の能力が20にも120にもなるんです。
北見記念ではギンガリュウセイを連覇に導いた
写真●ばんえい十勝
ばんえい競馬において、そういった技術を習得するには、たくさんの経験が必要だ。
ばんえい競馬は親類関係などの絆がとても深いんですが、僕はそれを持っていませんでした。それもあって、減量がなくなってから2年くらいは、厩務員として担当している馬でレースに出るのが大半。だから何かきっかけを作ろうと考えましたよ。それで行き着いたのが、人前に多く出るということ。用もないのに調教コースに行って、いろいろな人と話しました。そういったなかで、だんだん結果が出てきたように思います。あと、ばんえい競馬はその馬のことを知っていないと、というところがあります。だから絶えずレースVTRを見て、現役馬を全て覚えました。今でも調教中に見える馬とか、その名前などがわかりますよ。
手綱を取る役目がいつ来てもいいように準備する。それが「テン乗りの安部」という異名につながっているのかもしれない。
勘はよく当たるほうかな、とは思っていますけれどね。でもそれも必要なことで、第2障害を越えさせるための技術は、瞬間芸のようなものだと思っているんです。能力的に抜けているわけではない馬を、ロスなく上げさせるためにはどうすればいいのか。第2障害に挑むとき、馬は前傾姿勢になりますから、ヒザをつく可能性が高くなるんですよね。そうなる手前のギリギリのところで手綱を一気に引っ張って体を起こすんです。そのタイミングの見極めが、瞬間芸という意味ですね。自分としては、第2障害に自信を持っているんですよ。
宮城県北部出身の安部騎手が北海道に来てから30 年が経った。そのなかで、調教方法も少しずつ変わってきているらしい。
馬の背中に乗って運動させることが減りましたね。以前は朝にソリを曳いて、夕方は乗り運動でした。競馬場の平地コースで競走したこともありますよ。でも乗り運動は、馬を御す上で重要なことだと思うんですよ。要は人間も馬も慣れなんですが、人が乗らない、だから馬も慣れないという流れになってしまっている気がしますね。
何しろ相手は強大なパワーの持ち主。信頼関係を築かないと人間が危ない。
去年(2012年)の夏、馬に蹴られてしまいました。そのときは馬場入場時にトラブルがあって、それでもスタート地点に着けたことで気が緩んだんでしょうね。いつも通り、ソリの横でレース前の準備をしていたその場所が、普段よりすごく前。そうしたらいきなり後ろ脚が飛んできたんです。瞬間的に防御の構えをとりましたが、左手の指が裂傷、右手の甲の軟骨が変形してしまいました。
人と馬が寝食をともにしてきたばんえい競馬。そこで安部騎手が重ねてきた勝利は1100を超えた。2012 年はギンガリュウセイとのコンビで重賞を2つ勝利している。
帯広記念(2013 年1月2日)は2着でしたが(優勝馬カネサブラック)、あれは悔いが残りました。直前に出走を回避するかもという話を聞いていたので、第2障害で馬に無理をさせていいのか葛藤があったんです。でも馬の様子を確認すると大丈夫そう。それで仕掛けたら、ふた腰で越えてくれました。でも、僕のその気持ちのロスがなかったら、勝てたかもしれないんですよね。だからこんどは大きいレースで、強い馬を負かしたいと思っているんです。
「考える時間は長いけれど、判断は一瞬。そして少しのロスの積み重ねが大きな差になってしまう」という難しさがばんえい競馬にはある。馬は大柄でダイナミックだが、サラブレッドと同様に繊細で敏感なのも特徴だそうだ。だから騎手にもそういった感性が求められるとのこと。力任せに進めばいい、というわけではないのは平地競馬と同じ。スタートからゴールまでの間に機微が詰まっている、世界で唯一の奥深い競馬である。
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取材・文●浅野靖典
安部憲二 (ばんえい)
あべ けんじ
1967年5月3日生まれ おうし座 B型
宮城県出身 岩本利春厩舎
初騎乗/1993年4月17日
通算成績/11,791戦1,125勝
重賞勝ち鞍/北見記念(2回)、旭王冠賞、ばん
えいグランプリ、ばんえいダービー、ばんえい
オークス、ばんえい菊花賞、ばんえい大賞典、
イレネー記念、チャンピオンカップなど22勝
服色/胴白・緑一本輪、そで白緑縦じま
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※2013年2月28日現在
(オッズパーククラブ Vol.29 (2013年4月~6月)より転載)
昨年52勝を挙げ、日本プロスポーツ大賞新人賞とNARグランプリ優秀新人騎手賞を受賞したホッカイドウ競馬のスーパールーキー、阿部龍騎手。周りからも「あいつのセンスはずば抜けている」という声を聞きます。
斎藤:NARグランプリで東京に行きましたね。サイン攻めだったんじゃないですか。
阿部:場違いでした...。ほとんどサインは求められなかったですよ。戸崎さんには、壇上でおめでとう、と言われました。馬主さんに「タキシード着たら」と言われていたのですが、冗談だと思ってスーツで行ったんですが、本気だったみたいで。(52勝できたのは)乗せてもらえたからです。(角川)先生も、乗せないと勉強にならないから、と馬主さんにも言ってくれるんです。
斎藤:騎手になったきっかけを教えてください。出身は、宮城県南三陸町ですね。
阿部:背が小さかったからか、子どものころから父親に「騎手になれ」ってよく言われていましたが、冗談だと思っていたんです。小学校の時に、文集に将来の夢を「騎手」って書いてたそうなんですが、それも全く覚えていないんです。
斎藤:今は背は高いですよね? 何かスポーツはしていましたか。
阿部:中1で138、中2で142、中3で160になったんです。今は169センチで止まっています。減量は大丈夫。普通に食べています。
小学校の時に野球をしていたんですが、大腿骨を折る怪我をしてリハビリを続けていました。それから野球はやめたんです。運動というか、外で遊ぶのは好きでしたね。進路を考える時期になって騎手をすすめられましたが、JRAの試験は終わっていたので、地方もあると聞いて受けました。それまで馬には乗ったことがなかったんです。試験の前に馬に乗りに行ってみたのですが、高くて落ちそうになりました。こんなんでいいのか?と思いましたが、同期の騎手は乗馬の未経験者が多いんです。入学当時は経験者と未経験者は半々くらいでしたが。センターでは先生が、体形の似た外国人騎手の映像を見せてくれました。同じく背が高い、園田に行った鴨宮(祥行騎手)と一緒に見ていました。
斎藤:2010年に教養センターに入り、2011年3月に東日本大震災がありました。
阿部:センターのある場所が原発の影響で避難指示が出て、みんな実家に帰ったのですが、僕は実家と5日間連絡がとれなくて。家族が無事であることは、同期の家族がインターネットで調べていてくれてわかったのですが...。自宅は、家は残っているんですが、津波が浸水してもう住めない状態なんです。家族は秋田に避難しています。正月に帰りましたが、何も変わっていない。家もやっと取り壊しがはじまるそうです。2年も過ぎたのに、なんでかな、と思います。
センターの先生と相談して行き先を北海道に決め、前年の12月には角川厩舎に行くことが決まっていたので、震災後は門別競馬場に行くことにしました。馬場で乗るには許可証がいるんですが、もう調教師が用意していてくれたんです。ちょうど2歳が能検を前に乗り込んでいる時期。競馬場のおとなしい馬ばかりに乗っていたのに、はじめて若馬に乗りました。厩舎作業なども、厩務員さんに教えてもらいながらすすめて、やっと1週間すぎから要領がわかってきた。2週間でしたが勉強になりました。戻って学校で乗ったらすごく楽。その年の8月に再度実習でしたが、流れがわかっていたのでスムーズでした。道営は、騎手がみんなフレンドリーですね。
同期も、一旦実家に戻った後に所属競馬場に行ったんです。それまでは全体的にまとまりがなかったり、怒られてばかりでしたが、良くなりましたね。教官にも「変わったな」と言われました。
斎藤:そして昨年4月25日の開幕日にデビュー、次の日に初勝利でした。
阿部:初騎乗は、次のレースの準備が忙しいこともあって緊張はしなかったんですが、あっという間に終わりました。初勝利は、田中淳司先生に「気楽に乗ってこい」と言われたのがよかったです。ただ、オッズを見たら単勝1.5倍なんです(最終オッズは2.1倍)。(その時は)マジかー、って(笑)
斎藤:8月のリリーCで重賞初騎乗。エーデルワイス賞では2着、JRAでも騎乗しました。
阿部:重賞に乗ることは、前日に前夜版(出走表)を見て知ったんです。装鞍行って、ゼッケン見ると色が違うじゃないですか。名前入ってるし。テンションあがって、ブーツきれいにしてみたり(笑)。緊張はしないですね、むしろ楽しいです。
エーデルワイス賞は、この時は(馬場の)内が重かったので、ゴール前は真ん中に馬が集中していたんです。でも、それまで乗ってみて、内はそこまで重くないと思ったので、開いた内を行きました。
(JRAの)札幌競馬場は、人いっぺーいるわ...って。別世界です。ごつごつして、草原の中走っているみたいでしたね。楽しかった。映像で見ていた場所だし。
斎藤:騎乗で大事にしていることはありますか。
阿部:前の着順よりは上位に、ということは考えていました。大事にしているのは、馬に合わせること。初めて乗る馬は、もちろん今まで乗った人に話を聞いたりはしますが、返し馬で乗ってみないと実際わからない。その感覚と、聞いた話を照らし合わせます。周りには、「考えて乗れ」とよく言われています。
斎藤:勝負服はどのようにして決めましたか。
阿部:厩舎カラーの青とピンクを入れて、兄弟子(桑村騎手)から星をもらって、と、調教師がほとんど決めてくれました。
斎藤:桑村騎手とフォームが似ているように見えますね。桑村騎手は、体形が似ているからだと話していました。
阿部:初めて競馬場に行った時に、(桑村騎手の)真似をしました。実習の時もですね。それから吉田稔さんが門別に来て、かっこいいな、と思ったので真似しました。背格好は違うけれど、きれいな乗り方なので。また、自分のとレースを見比べて、稔さんとここが違うな、とチェックしたり、稔さんならどうの乗るかな、とイメージしたりするんです。形から入るタイプなんです。かっこいいな、と思った人や、レースによって、その場でいいな、と思ったら真似しますね。五十嵐さんや服部さんは逃げがうまいから、この逃げ方がいいな、と思ったら真似するし。
違う競馬場のレースが流れているときは見ますよ。御神本さんは背中がまっすぐだし、乗り方もきれい。戸崎さんが、「自分は人より追えないから馬に気持ちよく走らせる。無駄な力を使わない」と言っていたのを何かで読んで、それも参考にしています。
角川先生はうまいですね。先生が乗ったあとの馬は、乗りやすいんです。一緒に乗って、毎日見ているけど、先生はなかなか真似できないんです。
斎藤:今は2歳の馴致の時期ですね。大変ではないですか。
阿部:2歳は、自分のいいようにカスタマイズできる。大変ではないですよ。おとなしい馬が多いし。暴れる馬は、理由があるからやっているんです。ふざけているなら怒らないといけないし、かんしゃくなら理由を取り除いてやる。今年の角川厩舎の2歳も、期待馬が多いですよ。
斎藤:普段はどのようなことをしていますか? 趣味はなんでしょう。
阿部:ゲームが好きですが、今はまず、車の免許ですね。食べ物は、子どものころからビーフジャーキーが好きなんです。子どもの頃からイカソーメンとか食べてて。
斎藤:渋い!(笑)。では、今年の目標を教えてください。
阿部:怪我をしないこと、感謝の気持ちを忘れないこと、ひとつひとつ全力で乗ること、の3つですね。馬に乗ってからは怪我はしていませんが、子どものころ大けがをしてリハビリの大変さはわかっているんで、まずは怪我に気をつけたいです。
斎藤:具体的な数字とかはないのですね? 重賞制覇とか。
阿部:数字は、後々ついてくると思っています。
斎藤:最後に、ファンに一言お願いします。
阿部:何か面白いこと言った方いいですか。
斎藤:(笑)ノリいいんですね。
阿部:園田の鴨宮と仲がいいので、関西のノリが移ったんです。あいつは「やぁっ!」って切るまねをすると、ちゃんと倒れてくれます(笑)
そうですね...。自分は楽しいのが一番だと思っています。だから、ファンの方にも、競馬場に来て楽しんでほしいです。
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※インタビュー / 斎藤友香 (写真:斎藤友香、小久保巌義)
昨年の名古屋競馬リーディングは4位。今年に入って3月23日現在3位、元日の重賞・尾張名古屋杯も制し、さらなる飛躍を目指す大畑騎手にお話をうかがいました。
坂本:まずは元日の尾張名古屋杯についてですが、どんな感じで乗られたんですか?
大畑:新年早々、重賞に乗れることもそうですし、しょっぱなですから勝ちたいっていうのはありました。勝てば波がよくなるかなとも思いました。
元日の尾張名古屋杯をネオンオーカンで制覇
坂本:昨年の名古屋リーディングは4位。3位の柿原騎手とは2勝差でしたが?
大畑:最後は交わせるかなと思ったんですけど。それまでだいぶ離された時期があったんで。後半は勝ち鞍ものびてきたんで、これなら交わせると思ってたんでくやしいですね。たった2つですからね、2つミスなく乗れば達成できる数字ですから。
坂本:今年は今のところ3位です。
大畑:納得はしてないです。(トップの)岡部さんの次くらいにはきたいですよね。
坂本:実は、現在2位が柿原騎手。ライバルとして意識するところはありますか?
大畑:そうですね、最近は競い合ってますね。翔とは同世代というか、翔のほうが年は1つ下なんですけど、以前はあまり意識することはなかったんですけど、最近はちょいちょいくるもんで意識はするようになりましたね。
あと今井も。身近なところにそういう存在がいるというのは、自分にとってもプラスですよね。
坂本:そして、今年は厩舎に後輩(木之前葵さん)が入ってきます。先輩になるわけですが、どうですか?
大畑:自信ないです(笑)。レースとか乗れるのかなって心配になりますね。
坂本:アドバイスとかすることも出てくるんじゃないですか?
大畑:そうですね、普通に乗ってみてってことかな。たくさん勝てということはない。普通に乗ってさえいれば、勝ち鞍も増えていくし、そういうことの積み重ねだと思ってますから。
坂本:今後は後輩の面倒もみながらということになると思いますが、今年の目標を聞かせてください。
大畑:そうですねぇ、今でも自分のことで精いっぱいなので面倒みてあげれるか心配なんですけど、とりあえず今年は去年以上を目指したいなと思います。それと、年内に1000勝が達成できたらいいなと思ってますし、それに向かって120~130は勝ちたいと思ってます。
坂本:去年が127勝でした。
大畑:なので、今年は120......130......欲を言えば150(笑)。ま、自分としては100勝を毎年の目標にしてるんですけど。
坂本:ネオンオーカンにミヤジメーテル、重賞やオープンで活躍するお手馬がいます。
大畑:まぁ、恵まれすぎですよね。たまたま......です。
坂本:この馬たちで大きいところを狙いたいという思いは?
大畑:狙いたいですよ。ミヤジメーテルでグランダム・ジャパン......全国めぐりしたいですよね。またこういう馬と全国に行けるというのは楽しみですし、仕事としても、そういう馬に毎日またげるというのもね。調教で乗ってても仕上げないかんなぁとも思うし、レースに行ってもしっかり乗らないかんなぁと思うし。
坂本:全国どこでも乗りに行けるといったら、何処に乗りに行きたいですか?
大畑:南関もそうですし、盛岡とか大きい競馬場で乗ってみたいですね。
坂本:右回りと左回りではどっちが乗りやすい?
大畑:名古屋・笠松が右回りなんで右回りが乗りやすいのはもちろんなんですけど、左回りでも小回りじゃなくて盛岡のようにゆったり乗れるとこなら気にならないですね。
坂本:大きい競馬場で重賞に乗るというと、もちろん他地区からの遠征もあります。他地区で仲のいい騎手は誰ですか?
大畑:金沢の畑中と大井の真島は同期ですし、あとは北海道の岩橋とかはちょいちょい連絡はとりますね。
ほとんど仕事の話しかしないですけど。ま、ヤツらも結構上のほうにいたりするんで、そういうところでも刺激になります。
坂本:では、今後の目標をお願いします。
大畑:リーディングを取りたいですね(笑)。ま、岡部さんがいるので、その次くらいかな?
岡部さんの乗り方はとても勉強になるし、自分が乗ってないときは必ずレースを見るようにして、少しでも近づけるように、またいつかは追い越せるようにと思ってます。
インタビュー中も笑顔が絶えることがなかった大畑騎手。自厩舎で同世代の厩務員が退職した際には、最後の優勝写真をプレゼントするなど優しい一面も持ち合わせる好青年が、今年の名古屋の台風の目になるかもしれません。
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※インタビュー・写真 / 坂本千鶴子