佐賀競馬において燻し銀の存在感を放つ長田進仁騎手が、この秋の重賞戦線では、ロータスクラウン賞をキリノトップランで制するなど大活躍しています。地方通算1600勝を目前にした今の心境をうかがいました。
上妻:まずは長田さんが騎手になったきっかけを教えてください。また、福岡県ご出身とのことですが、当時は佐賀競馬のことはご存知でしたか。
長田:小さいときに家の近所にポニーがいて、それに乗っていたんで、こういう職業もあるということで、その道を目指しました。生まれは久留米ですが、小学校高学年のころに親の転勤で福岡市に引っ越したので、佐賀で競馬をやってることは知りませんでした。佐賀に所属することになったのは教養センターからの紹介です。
上妻:ロータスクラウン賞(9月22日)をキリノトップランで優勝されましたが、スタートから振り返っていかがでしたか。
長田:そうですね、スタートはあまりよくなかったんで、とにかく道中折り合いを付けることだけ考えていました。1コーナーでいきなりペースが落ちたんで、無理せずさっと流して上がっていい位置がとれました。(直線でムラサキコマチが来ていたが)馬がまだ少し伸びていたので、ゴールしたときはなんとか残ったかなという感じでした。
キリノトップランでロータスクラウン賞制覇
上妻:九州ジュニアチャンピオン(10月25日)ではケンシスピリットで勝ち馬から半馬身差と惜しい2着でした。
長田:三小田調教師から、前付けできたらという話だったので、スタートはよかったんですが、逃げるつもりまではありませんでした。休養明けだったので、ゲート練習を1週間前に乗って追い切りを掛けたんですけど、馬がまだプラス11キロと重かったですね。デビュー戦も内にササって、内から捲って勝ったんですが、今回も4コーナーでササってしまって、あそこでなんとか外に持ち出し切っていたら勝ってましたね。
上妻:これまで騎乗された馬のなかで、思い出の馬を1頭挙げるとしたらどの馬でしょうか。
長田:マイサクセスが一番ですね。デビューから5戦5勝でダービー(2001年・栄城賞)まで勝ちましたからね。先行馬だったんで、あとは信じて乗るしかなかったんで、プレッシャーはありませんでした。ダービーではその後もなかなかいいところまでいきましたが、30年乗って、まだ2本(ほかに、2011年コスモノーズアート)しか勝ってませんから。マイサクセスは翌年に大怪我してしまって1年近く休養に出ていました。その時に馬主さんが厩舎を移動してしまったんで、その後は乗っていないんですが、怪我がなければもっと大きいところを走っていたでしょうね。
2011年の栄城賞をコスモノーズアートで制覇
上妻:長田さんのダイナミックなフォームから、実況の中島アナウンサーが「踊る長田」と形容されてファンも多いのですが、そのあたりはどうでしょうか。
長田:実況の方がそう言われているのは知っていましたが、それは特に意識してないですね。どれぐらいファンがいるのかはわかりませんが、ありがたいことですね。
上妻:先行して勝つのと、追い込んで勝つのではどちらがお好みでしょうか。
長田:あーー、それはケツから一捲りが一番気分がいいですね。
上妻:やはり押して押してで。
長田:そうですね。
上妻:パドックでの長田さんは黒のゴーグルを付けてらっしゃいますが、それが白とピンクの勝負服とのコントラストで非常にカッコいいと思ってるのですが。
長田:そうですか(笑)。黒を使っているのは特に理由はなく、雨の日は黄色とか透明とか見やすい方を付けているんですけどもね。まぁ若いときからずっとゴーグルは下見所から付けっぱなしですね。
上妻:現在1600勝を目前(11月18日現在1596勝)とされていますが、今後の目標として2000勝とかは意識されてますでしょうか。
長田:ぼちぼち乗っていければいいですね。僕らのデビューしたころは、佐賀では最初の3、4年はほとんど乗せてもらえない時代だったんですよね。それで全然勝ち鞍がないですもんね。まだもうちょっと乗れるみたいんなんで、2000勝目指して頑張ってみようかなと思ってます。
上妻:佐賀競馬では今年からS2重賞を多数創設していて、長田さんはS2を既に3勝していますが、従来からのS1重賞と比べてどうでしょうか。
長田:そうなんですか? やはり前からあった重賞(S1)のほうが「勝った」という実感はありますね。
上妻:最後に、今後の期待馬がいたら教えてください。
長田:うーん、やっぱりこないだのケンシスピリットですかね。まだ3走目であれぐらい走ったんで、今後はもっとよくなると思いますけどね。来年も期待しています。
上妻:来年の栄城賞はこの馬で、ということですね。そこではマツノスピリットら東眞市厩舎の有力馬相手との再戦となりますね。
長田:一泡ふかせたいですね。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 上妻輝行
10月17日に園田競馬場で行われたスーパージョッキーズトライアル第2ステージ。川原正一騎手は、そこで5着2回と着順をまとめ、第1ステージでの首位を最後まで守り、11月30日、12月1日にJRA阪神競馬場で行われるワールドスーパージョッキーズシリーズ(WSJS)への出場権を手にしました。今年の川原騎手は、地方競馬全国リーディングを独走中(10月29日現在)。54歳にして、なお進化を続けています。
浅野:スーパージョッキーズトライアルの優勝、おめでとうございます。
川原:ありがとうございます。全部、それなりの成績がある馬に乗せてもらえていましたし、ポイントを取りにいくレースをしました。船橋での第1戦は吉原くん(1番人気馬に騎乗して3着)が勝ちにいって、ぼくはポイントを取りにいった、その差が着順(川原騎手は2着)に出たのかなと思います。
普段のレースでもそうなんですけれど、自分自身が勝とうと思ってしまうと、馬に余計な負担がかかってしまうんですよね。だからいつも馬のリズムが優先。レース中のポジションとかは気にしないことにしています。それがぼくの基本ですね。
浅野:でも、2位の桑村真明騎手(北海道)とは1ポイント差。ギリギリの優勝でした。
川原:得点状況は気になりましたよね。トップで折り返したし、第2ステージは地元だし。最後は運がよかったんだと思います。個人的な心がけとして、自分は運がいいんだと思い込んでいるんです。周りにもそういうことを言っています。
浅野:しかしながら、1997年以来、16年ぶりのWSJS出場ですね。97年は3、3、1、1着という成績で優勝しました。
川原:あのときはNARから指名されて出場したんですよね。確か、笠松でのリーディング2年目で、勝率がよかったから選ばれたのかな。当時はJRAでのキャリアが今ほどなかったから、うまく乗れるか心配でした。でも行ってみたら、意外にちゃんと乗れましたね。最後のレース(第4戦・ゴールデンホイップトロフィー)ではステイゴールドを負かしましたし。いやしかし、世界の騎手と渡り合って優勝ですよ。今でも信じられないですね。表彰式のときもうれしかったですけれど、終わってから日に日に「すごいことをしたんだな」と感じてきたのを覚えています。本当に、競馬の神様がぼくに降りてきていたんだろうなあ。
浅野:そして今年は全国リーディングでもあります(10月29日現在)。好調の要因はどのあたりなのでしょうか。
川原:笠松の頃はトップを守ろうなんて思っていたんですけれど、今はあまり気にしません。与えられたひとつひとつを大事にやっているだけですよ。大きいのは、柏原誠路厩舎(10月29日現在、兵庫リーディングトレーナー)の主戦騎手にしてもらっていることかな。今日(10月24日)勝った馬も柏原厩舎。先生とはよくコミュニケーションを取っていて、この馬は先生に相談して、1700mの予定から1400mに変えてもらったんです。柏原先生は勝ちにこだわる人ですし、ぜひリーディングを取ってもらいたいですね。
浅野:笠松でトップジョッキーだった30代のときと50代である現在で、変わったところがあるとすればどのあたりでしょうか。
川原:技術的な部分や考え方、それから馬に対する考え方は、あの頃より上でしょうね。今はとにかくいいレースができればという、それしか頭にないですよ。勝っても負けても反省。馬のいいところを伸ばして、弱点が表に出ないようなレースをしてあげたいなと思っています。競馬は馬が主役。馬がいちばんしんどい思いをしているわけで、騎手なんてちっとも偉くないんです。30代の頃はそんなことあまり考えていませんでした。ただ、いくら自然体で乗ろうと思っていても、予想紙で本命印が並んでいると気持ちが前に行っちゃうんですよね(笑)。だからこそ、常に馬のリズムに合わせようと念じています。
浅野:今日も後半戦の全レースに騎乗していました。キャリアで補えるところはあると思いますが、でも若い頃とは違う部分はどうしても出てきてしまうような気がするのですが。
川原:やっぱり疲れ方は30代のころとは違いますね。今日も7鞍、明日は8鞍でも肉体的にはそんなに問題ないんですが、思い描いたような競馬ができないと疲れます。精神的な疲れが肉体に響いてくる感じ(笑)。競馬にはいいときも悪いときもあるんですけれど、いい競馬ができたときは疲れなんて全然感じません。
浅野:また、40代になってから兵庫に移籍されました。その点でもいろいろとご自身に変わってきたところがあるかと思います。
川原:兵庫に来た当初はどうしようか迷いましたよ。流れが笠松と違うから。最初のうちはこっちの流れに合わせようかと考えたんですけれど、やっぱり自分のやり方で貫こうと決めました。
それから競馬に対する考え方ですね。競走馬は馬主さんから厩舎スタッフがバトンを受けて、そしてぼくが最後にバトンを受ける。だからぼくは、みんなの信頼に応えられるようにしなければならないんです。だから私生活から正すようにと考えているんですよ。神様はいつも見ていますからね。そういう思いは兵庫に来てから強くなりました。
浅野:そして今年は結果も含めて充実していて、さらにスーパージョッキーズトライアルを優勝しました。WSJSへの抱負をお願いします。
川原:競馬は馬が主役だとは思いますが、WSJSはお祭りなので、そこに参加できるのはうれしいですね。前回のときに騎手人生の運を全部使ったと思っていたのに、また出場させてもらえるわけですし。だから今回は、37年間積み上げてきた思いや考え方、技術を出して、その上で楽しく競馬ができればと思っています。それで世の中の50代のみなさんにパワーをあげられればうれしいですね。自分は50代という自覚なんて、まるでないんですけれど(笑)。
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 浅野靖典
金沢のトップジョッキー吉原寛人騎手は今年も各地へ積極的に遠征を続け、地元はもちろん全国区で存在感を示しています。そして今年、JBCが行われる金沢競馬の広告塔として様々な場所で宣伝活動も行ってきました。JBC開催目前の心境を伺いました。
秋田:今年は他地区に遠征をしながら金沢リーディングにも立ち、SJTへの出場も果たしましたね。
吉原:去年は半年ほど南関東にいましたから、金沢リーディングが獲れなかったことは悔しかったですが、自分のしたいことをした1年だったので実りある年でした。今年はその経験をもとに、遠征しつつも地元金沢でリーディングに立ってSJTに出場できました。自分の立てた目標通りに結果が出ているのは良いですね。
秋田:青柳騎手がトップの時期もありましたが、意識はしていましたか?
吉原:していましたよ! 青柳君も一生懸命でしたし、今まで立ったことないリーディングだったので『吉原さんの気持ちがすごく分かります。追われる立場って大変ですね』と話していましたよ。他の人は経験したことのない感覚だと思うので、それを青柳君と共有できることは刺激になります。
秋田:全国の競馬場に積極的に遠征している吉原騎手。そのモチベーションはどこから湧いてくるのですか?
吉原:デビュー1年目の中央遠征で初騎乗初勝利して、その後オーストラリアやドバイにも行って......。新人ではあり得ない経験ですよね。ほとんどの騎手は地元の競馬場で育って成長していくと思うのですが、初めから中央や世界を見てきた自分にとって、競馬はもっと広いんだよという感覚があるんですよ。だから若い時から、どこでも乗れるジョッキーという意識が生まれていたんでしょうね。自分のやってきた経験が今の自分をそうさせているのだと思います。
アメイジアで念願の南関東重賞初制覇(4月17日、川崎・クラウンC)
秋田:でも、正直なところ遠征が続くと疲れませんか?
吉原:移動が本当に辛くて......(笑)。慣れが一番大切ですよね。慣れていれば、移動でどのくらいの体力を使ってこのレースに臨めるなとか計算ができるんですけど、初めての場所だと移動での疲労の度合いが分からないので本当に大変です。でもいろんな場所で経験してきたので、もう分かるようになりました。日々の体調管理もすごく大事に思っていて、新人の頃よりサプリメントを飲むようになったし、ジムで体を作るようになりましたね。そういう部分ではプロ意識は高くなったかなと思います。
秋田:今年は、金沢競馬の広告塔としてJBCのピーアールもたくさん行ってきましたよね。JBC開催がすぐそこまで迫っています!
吉原:ここにきて、こういう取材が急激に増えたんですよ! だから、本当にJBCが近いんだなって(笑)。JBCにはこれまで何回か乗せてもらいましたが、すごい歓声なんですよね。僕がデビューしてから、金沢にそんなにお客さんが入った記憶がないんです。だからそれを経験できるのかなと思うとすごく楽しみです。
秋田:金沢競馬場の魅力は?
吉原:とにかく、食べ物が美味しい! 魚が美味しい! あと、良い感じの田舎なので、金沢に来たことのない人は泊まりがけで遊びにきてほしいですね。
秋田:では、JBCが行われる金沢競馬のコースについて教えてください。まず、JBCクラシックが行われる2100mは?
吉原:バックストレッチの奥からのスタートなので、直線が長いんです。だから力があればどの馬も良い位置が取りやすい。まぎれがあまりなくて力は出やすいコースですね。
馬の脚質的には、好位差しが一番良いと思います。金沢は逃げ馬がペースを握れるコースではないんですよ。どこでもマクレる広い向正面もあって、逆に逃げ馬がしんどくなるので、それをマークして競馬ができるのが理想ですね。
秋田:JBCスプリントが行われる1400mは?
吉原:オープンクラスだと、意外と(最初の)直線が短く、すぐコーナーだと思います。だから枠順も影響しますね。内に先行馬が多ければ、外から行ききれない可能性が高いです。外を回されると厳しい位置になってしまいます。だから、1400mの場合は枠順から勝負が始まりますよ。
秋田:そうすると1500mのほうが競馬はしやすそうですね?
吉原:そうですね。(4コーナー)奥からのスタートで直線が長いからまだ挽回はきくかなと。でも、1500mでも逃げ切れてしまうコースだと思うので、意外と面白くなるのではないでしょうか。
サミットストーン(7月28日、金沢スプリントC)
秋田:地元金沢からは、吉原騎手が騎乗するサミットストーンが注目です。
吉原:金沢に移籍してから具合も良いですね。ゲートに課題がある馬ですが、スタートで尾持ちするようになってなんとか形にはなったと思います。なかなか他地区の馬との力関係がわからなかったんですが、イヌワシ賞で高知のグランシュヴァリエなどに勝つことができたのは良かったですね。
白山大賞典では金沢の大将格ということで掲示板を確保できたけれど、今回の着差が中央勢との力差なのかなと。調教師ともスプリントのほうがいいかなぁとは話していますが相談ですね。ただJBCに出るならしっかり作戦を練って見せ場を作りたいと思います!
秋田:では、最後にJBCに向けてメッセージをお願いします!
吉原:金沢競馬でJBCができるなんて思っていませんでしたが、やるからには関係者一同、盛り上げたいという熱い想いがあります! 当日は、競馬の魅力を感じて欲しいですし、観光も兼ねて金沢の良い場所を巡ってもらいたいですね。そして、ファンのみなさんと一緒に盛り上がりたいです!!
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 秋田奈津子
毎年コンスタントに100勝以上をマークし、今年もその数字をすでにクリア。兵庫リーディングでは4位、重賞もここまで4勝と好調の下原理騎手に話をうかがいました。
斎藤:今年も9月ですでに100勝を超えて、重賞4勝。振り返ってみていかがですか。
下原:(100勝は)思ったより早かったというのと、重賞4勝は、どれももともとぼくが乗っていた馬ではないので、正直、ラッキーだったかなというのはあります。ありがたいことに声がかかって、そのときに重賞を勝てたのがうれしかったです。
斎藤:2006年から急に勝ち星が伸びて、2010年にはこれまで最高の161勝がありました。
下原:2006年は、ちょうど岩田(康誠)さんが中央に移籍した時期だったと思います。その少し前にチャンストウライがデビューして、ベストタイザンでもいい感じで勝たせてもらって、兵庫の中でも、外でも、名前を知ってもらえました。2010年は、木村(健)さんが休んでる年だったと思います。
斎藤:その2006年からずっと年間100勝を超えていますが、去年は89勝でした。
下原:去年は怪我をして3カ月ほど乗ってないんです。そのわりには最後に追い上げることができて、いい感じで終われたかなと思います。年間100勝は毎年の目標にしているんですが、それを続けるというのは、やっぱり難しいことです。
斎藤:今年重賞4勝のうち、2勝がエリモアラルマです。
下原:後方からの馬なんで、展開に左右されやすいところはあります。六甲盃は2400メートルが初めてだったんですけど、見てる感じと乗った感じとがぜんぜん違って、園田の2400メートルの流れにばっちり合う馬だと思いました。
斎藤:兵庫大賞典のほうも直線の追い込みがすごかったですよね。
下原:あのときは内枠で、できるだけ経済コースを通れたらなと思っていて、それがドンピシャとハマったという。4コーナーではまだわからなかったですけど、ゴール半ばでは勝ったと思いました。
斎藤:園田FCスプリントを勝ったエプソムアーロンもすごい追い込みでした。前が競り合うところを落ち着いて乗っているように見えましたが、自信があったんですか。
下原:前の4頭があれだけ競り合えば、止まってくれるかなとは思いました。スタートがそれほど良くなかったんで、その後ろから運べたのはラッキーでした。最後は乗ってる自分がびっくりするぐらいの脚でした。3コーナーあたりで溜めて息を入れる余裕があって、ただこの馬場では届かんかなあと思ったんですけど、ビューンと最後の2ハロン、すごい脚を使ってくれました。ああ、勝ってしまったって(笑)
高知から遠征のエプソムアーロンで園田FCスプリントを勝利
斎藤:兵庫サマークイーン賞では、マンボビーンで人気のアスカリーブルを負かしました。
下原:あれは一発勝負みたいなレースをしてしまって、ハマったというか......。アスカリーブルも気にはしていましたけど、ペースが思った以上に落ち着いたんで、自分から動いたんです。逃げる形になるとしぶといので、2コーナーから狙ったというか、まくってひと息入れて休憩しといたんですよ。アスカリーブルが来ているのはわからなくて、音が近づいてきたときがゴールでしたね。
斎藤:今、ほかに期待している馬はいますか。
下原:オオエライジンが帰ってきて、うちの厩舎にいるんですよ。追い切りを1本行ったんですけど、動きますね。ただ鼻出血を経験してるんで、それが再発しないかどうかですね。話に聞いたところでは、以前の一番いい頃はもっとしゃんとしていて、当時に比べるとまだまだ5割くらいじゃないですかね。
斎藤:デビューから18年、今までに思い出に残っている馬は。
下原:やっぱり一番はチャンストウライですね。そしてベストタイザン。あとは自厩舎のカラテチョップとか。
斎藤:チャンストウライはどういう馬でしたか?
下原:レースに行くと、ペースが速いと押してもなかなか進まなくて、で、ちょっと遅くなると、いくぶん行きたがる感じで、馬がペースを教えてくれる感じはありました。それでも仕掛けどころでちょっと気合を入れると、一気に行ってくれるような......。普段はやんちゃですけど、乗りやすいという一言ですね。距離も問わない馬でした。芝は走らなかったですけど。帝王賞は4着で、アンタレスステークスでも5着に来たときはびっくりしました。この馬はそのうち交流重賞勝つなと思っていたら、佐賀記念を勝ってくれました。
斎藤:ひとつ大きいところを勝つのと勝たないのとでは、違いますよね。
下原:そうですね。交流重賞を勝たせてもらった、そういう馬と出会えたというのは幸せです。誰もが経験できることではないですからね。今の兵庫だと、川原(正一)さんとぼくぐらいじゃないですか(ほかに北野真弘騎手が高知時代に黒船賞を勝利)、交流重賞を勝ってるのは。
斎藤:よく言われることですけど、活躍馬に出会うと騎手として変わるものですか。
下原:変わりますね。まだアラブの競馬のころに、ユウターヒロボーイという馬でうちの先生がチャンスをくれて(デビュー5年目)、それで勝ってなかったら、たぶん今、こんなに勝ってないと思うんです。ぼくの騎手人生で初めての重賞勝ちでした。今のぼくがあるのは、ユウターヒロボーイがあって、チャンストウライがあって、ベストタイザンがあって、という感じです。
人間に自信がつくというか、馬を勝たせるということよりも、うまく走らせてあげたいっていう気持ちに変わります。若い頃は勝ちたい勝ちたいってドキドキするじゃないですか。それが、しっかり乗って、負けたら負けたで仕方ないっていう気持ちで臨めるようにはなりましたね。その余裕があると、最後の直線でパッと脚を使ってくれたりとか、ちょっとしたことで変わってくるとぼくは思います。どうしようって思った時に、いかに落ち着けるかですね。
斎藤:そのだ金曜ナイターが始まって2年目。兵庫の関係者にとっては念願のナイター開催だったと思います。実際に始まってみていかがですか。
下原:客層がすごく変わってきていて、乗っていても気持ちいいですね。特に最初のときと、お盆のときもすごかったですね。直線で1、2着を争う接戦になって、『うわー』っていう歓声が上がると、うしろからもう1頭来たなっていうのがわかります(笑)。馬の脚音より先にファンの歓声で。ただ、もうちょっと(馬券が)売れてくれたらと思います。場外発売が限られていますからね。
斎藤:今年はすでに100勝を達成していますが、近いところでの目標と、将来的な目標をお聞かせください。
下原:近い目標としては、1500勝を早めにできたらいいなと。あと50勝ちょっと......今年は無理ですかね、来年ですね。怪我をしないようにがんばります。
斎藤:さらにその先、調教師は考えてないですか。
下原:それが難しいところなんですよ。まだ乗りたいという気持ちもあるし、調教師っていう感じもぼくにはないし。(調教師の)試験を受けるとかはまだ考えたことないです。デビューしたときの目標は、1000勝くらいかなと思っていたんですけど、やっているうちに1500勝にいけそうなんで、もうちょっと乗れそうやから、無事に2000勝できたらいいかなって思います。で、また走る馬に出会えたらいいなと思います。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 斎藤修
今春、福山競馬からホッカイドウ競馬に移籍し、32勝でリーディング9位(9月26日現在)の松井伸也騎手(28)。移籍半年が経った現在の心境をお聞きしました。
斎藤:ホッカイドウ競馬に移籍することになったいきさつを教えてください。騎手以外の道を考えることもあったのでしょうか。
松井:騎手は、福山競馬が廃止になった後も続けたいと思っていました。ほかの競馬場の話もあったのですが、北海道にはずっと興味を持っていたんです。馬産地だし、2歳が多くレベルが高い。育成にも興味があるし、もちろん中央に遠征して乗ってみたいというのもありました。北海道で実況をしていた西田茂弘アナウンサーに齊藤先生を紹介してもらい、所属することになりました。
斎藤:実際来てみていかがですか。
松井:思った通りでした。レベルが高くて、どの馬に乗っても走りそう。全体のレベルが高いですね。馬、騎手......厩務員さんも上手な人が多いです。福山にもうまい騎手はいましたが、それぞれの競馬場にあったうまさがあるんです。
斎藤:門別競馬の印象は。
松井:広くて乗りやすいです。最初は仕掛けどころに悩みました。ナイターは好きですね。高知の時も好きでした。雰囲気が好きで、気持ちが盛り上がります。
斎藤:門別は、騎手の腕というよりは馬の実力通りに決まる印象があります。
松井:でも、それがそうでもないんです。
斎藤:初めてのJRA函館遠征はいかがでしたか。来年は札幌の遠征もあるかもしれませんね。
松井:芝に感動しました。気持ちいい! 札幌は、ダートコースをトレーニングセールで走ったんです。広いとかいう競馬場の印象よりは、2歳のレベルの高さに驚きました。育成は知らない世界だったので、いろいろな所に行って勉強したいです。
冬は、他地区に遠征に行きたい気持ちもあるのですが、先生には「今年は(1歳の)乗り慣らしをやってほしい」と言われています。馴致はやったことがないので勉強になる。不安もありますが......。
斎藤:北海道には知り合いはいたのですか?
松井:同期の笹木美典(元騎手)くらいですね。北海道の牧場にも、福山から同時に行った人はいないんです。でも、厩舎は雰囲気もいいし、若い厩務員が多いので助けられました。齊藤先生にはレースの後に話したり、アドバイスをもらったりしています。遠征にも積極的なので、いろいろと経験させていただいています。
斎藤:福山の人たちとは連絡を取っていますか?
松井:結構みんなと連絡を取っていますよ。仲がよかったのは池田敏樹、周藤直樹です。みんなの活躍は刺激になります。騎手免許の更新は福山で行ったので、その時に久しぶりに会いました。実はその次の日が函館遠征で、かなりバタバタしていたんですが、忙しいのはうれしいですね。
斎藤:初日は3戦目で初勝利でした。北海道では福山時代よりも勝率が高く、活躍も目立ちます。いろいろな厩舎から騎乗を頼まれていますね。
松井:いい馬に乗せてもらっているからです。初日は、早く1勝を、と思っていたのでほっとしました。緊張はしなかったですよ、楽しみでした。
最初はいろいろな厩舎に挨拶に行きました。今では、調教に乗っていない厩舎からも騎乗を頼まれるので、ありがたいです。
斎藤:北海道に来て、思い出に残る馬は。
松井:グランドラッチですね。北海道スプリントカップ(5着)は初の交流重賞。錚々たるメンバーで、独特な雰囲気があり、楽しんで乗れました。9月5日(オープンのステイゴールドプレミアムを勝利)はしびれました。クラスターカップ(8月14日・盛岡)が刺激になったようで、馬が変わりました。道営スプリントも楽しみです。
初勝利のサクラテイオーもですし、初めてフレッシュチャレンジを勝ったモリデンボスやシンワシュシュも思い出に残っています。
斎藤:普段の生活を教えてください。
松井:こっちにきてから、美味いものを食べ歩くようになりました。美味い食べ物がありすぎて......。減量は苦にはなりませんが、ちょっと太っちゃったかな(笑)。
函館に行った時に、JRAの荻野琢真騎手が寿司屋に連れていってくれて、そこで食べた寿司に感動しました。小樽に行った時も、鮭児(幻と呼ばれる鮭)の寿司を食べたんです。昔からの夢が叶いました。
肉も以前より食べるようになりましたね。むかわ町の「とんちゃん」はなんでもおいしい。
斎藤:とんちゃんには、ホッカイドウ競馬の騎手のサインがたくさん飾られていますよね。
松井:サインと写真もちゃんとあります。甘い物も大好きで、「ルタオ」が大好き。小樽で試食した「ナイアガラ」という生チョコレートは、一緒に行った美典、(伊藤)千尋、(石川)倭、全員ハマりました。「メルクーヘン」も美味しいですよ。あとは夕張メロンにピュアホワイト(とうもろこし)......もう、話していたらきりがないです(笑)
斎藤:半年経ちましたが、北海道の生活を振り返ってみていかがですか。
松井:自分でも、まさかここまで、と思うくらい充実しています。勝ち星とかいうより、遠征に行かせてもらったり、1年目からこんなに経験させてもらえるとは......。濃い半年でした。北海道に来てよかったです。
斎藤:うれしい言葉ですね。今後の目標を聞かせてください。
松井:2歳馬をもっと乗りこなせるようになりたいです。どんな動きをするかわからないし、ゲートも自分から出してあげないといけない。能検やゲート練習とレースは全然違いますね。福山にいた頃は、ゲート試験は年に2、3頭くらいだったかな......。今はだいぶわかってきたとはいえ、難しいです。冬に馴致や育成をすることによって、わかってくることもあるかと思います。馬に最初から手をかけられるのは楽しみです。
桑村君は2歳の乗りこなしがうまいですね。上手だと思うのは五十嵐さん、宮崎さん、阿部龍。福山の時は、岡田さん(現JRA)の騎乗が勉強になりました。
斎藤:ファンに一言お願いします。
松井:自分のセールスポイントである、追い込みと思いきった騎乗を見てもらいたい。福山で培ったこの部分は負けたくないです。福山魂をファンにみてほしい。
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 斎藤友香 (写真:斎藤友香、小久保巌義)