デビュー4年目の杉浦健太騎手。20歳の元気な若手ジョッキーは、話してみるととても丁寧に質問に応えてくれる好青年でした。今年は順調に勝ち鞍を伸ばしていて流れがいいようです。
秋田:まずは騎手になるきっかけから教えてください。
杉浦:実家が園田競馬場と近くて、小さい時から親に連れて行ってもらったんです。それで、たくさんの人に注目される騎手になりたいと思って。小学校から中学までは野球を一生懸命やっていたんですが、小学5、6年の頃から騎手になりたいとずっと思っていました。
秋田:勝負服はどのように決めたのですか? 男性騎手でピンクを使うって珍しいですよね。
杉浦:目立ちたがり屋なので、あまり人とかぶらず、パッと見て分かりやすい色にしました。縦縞は、阪神ファンなので譲れませんでした(笑)
秋田:デビューした2010年は、21勝をあげました。新人ではなかなか勝てる数ではないですよね。
杉浦:1年目は、レースに乗っていても自分に余裕がなくて馬の力に助けられたと思います。減量があったので、前に前にという気持ちで乗っていました。21勝することはできましたが、とりこぼしもありましたから...。
秋田:今年はデビュー4年目、新人の時と今と比べると自分ではどこが成長したと思いますか?
杉浦:レース中に周りが見られるようになってきたのと、少しは馬を動かせるようになってきていると思います。でも、いざという時の反応が遅れたり、人気馬に乗ると少し焦ってし まう部分があるのでまだまだです。いつもレース前にいろんなシチュエーションを考えて、力を出し切れるようにと、全力で元気よく騎乗をするようにしています。
秋田:今までで、印象に残っているレースや馬を教えてください。
杉浦:やはり、初騎乗、初勝利させてもらったデビュー戦のホッカイパルニです。先生からは、逃げたらいいところがあるからと言われていて、ちゃんと逃げることができて勝てました。緊張しましたね。レースの後はみんな声をかけてくれましたし、嬉しかったです。いい馬に乗せてもらえてありがたかったです。
秋田:尊敬している騎手は?
杉浦:園田リーディングの木村健騎手は憧れます。迫力のある追い込みや、見ていて気持ちのいいレースができるところがすごいです。見せ場を作るというか、魅せるレースをしているんですよね。自分にはまだ難しい。一緒に乗って勉強させてもらっています。
秋田:今年は、すでに去年の勝ち鞍に並んでいますよね(7月25日現在19勝)。調子やリズムはどうですか?
杉浦:前に比べて、決めたいと思っているレースできちんと決められる数が増えてきたので良くなってきていると思います。
秋田:何か、きっかけみたいなことがあったんですか?
杉浦:1月の全日本新人王争覇戦(高知)に乗って、帰ってきてからリズムが良くなった気がするんですよね。
秋田:そうなんですか!? では、新人王争覇戦について伺います。どんな意気込みで臨みましたか?
杉浦:優勝したろ!って思って行きましたよ。もちろん、みんなも勝つつもりで来ていますが。
秋田:1戦目が7着で2戦目が2着、総合3位でした。実際のレースを振り返ってください。
杉浦:1戦目は、人気もあったしいい馬が当たったなぁと思って期待していたんですが...。2番手でレースはできましたが、最後は止まってずるずると下がってしまいました。
2戦目は、先生がじっくり行ったらいいと言っていたので、後ろからのレース。前がやり合ってくれて、自分にとっては良い流れになりましたね。最後はいい脚を使ってくれました。
秋田:終わってみての感想は?
杉浦:優勝するつもりで来たから悔しかったですけど、いつもと違う競馬場で乗っていろいろ勉強になりましたし、いい経験になりましたね。
秋田:(7月25日)現在、地方通算74勝、100勝も見えてきましたね。
杉浦:今年の目標は通算100勝なんです。あと半年弱で26勝ですよね。もう少しがんばれば届くかなとは思っているんですが。
秋田:現在20歳ですが、10年後、30歳の自分はどうなっていると思いますか?
杉浦:今よりもっと高いレベルで、上位で競えていたらいいと思います。欲を言えば、リーディングになっときたいです(笑)
秋田:今後の目標を教えてください。
杉浦:もっともっと勝ち星をあげて、園田競馬の中心でいられるようがんばりたいです。それで、騎手としてトップになって、なおかつ関係者からもファンのみなさんからも信頼してもらえる騎手になりたいですね。
秋田:では、最後にファンのみなさんにメッセージをお願いします。
杉浦:これからも、積極的にパワフルに、元気いっぱいに騎乗するので応援よろしくお願いします!
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※インタビュー / 秋田奈津子
ホッカイドウ競馬の新人、石川倭(やまと)騎手(18)。7月16日現在10勝を挙げ、井上幹太騎手とともに新人らしからぬ騎乗で門別競馬を盛り上げています。
斎藤:騎手になったきっかけを教えてください。出身は富山市ですね。
石川:親と祖父が競馬好きで、家ではいつも中央競馬を見ていました。子どもの頃からずっと騎手には憧れていて、小学5年の時、将来の夢を書く時に、初めて騎手になりたい、と意識しました。家族に伝えた時は、一時期金沢競馬の厩務員をしていた祖父には一度だけ、危ないから、と反対されました。今は応援してくれています。中学時代はハンドボール部でした。父もしていたし、地元は盛んで強いんです。スキーもするし、体を動かすことは好きです。
斎藤:騎手試験には一発合格でしたね。
石川:中学2年で乗馬を始めましたが、乗馬クラブの馬はそんなに指示出さなくても勝手に動いてくれるので......。教養センターでは、周りは経験者ばかりで、自分はついていくのでせいいっぱいでした。負けず嫌いなので、人の乗り方を見て、いいところを盗んでやってきました。
斎藤:北海道に決めたのはなぜでしょう。
石川:北海道と金沢で悩みましたが、2歳や若い馬が多いことや、乗りならしからはじめられるところで北海道を選びました。また、中央や他地区に挑戦できたらいいなと思っています。
斎藤:所属は、騎手としても1438勝を挙げた米川昇先生の厩舎ですね。勝負服も受け継いでいます。
石川:先生は、教えてもくれますが、基本的には「自分で考えて乗るように」という考えです。勝負服は、先生に「いただきたいので、いいですか?」と聞きました。すると「それでいいのか」と。偉大な騎手ですので、恥じないようにと思っています。先生が騎乗しているレースのビデオを探しているのですが、なかなか見つからないんです(笑)。
普段は、先生のほか、齊藤(正弘)調教師や、手伝いに来る川島雅人騎手、松井(伸也)騎手が教えてくれます。五十嵐(冬樹)さんは間近で乗っていると迫力があり、目標にしています。いろんな人のいいところを取り入れたいです。
斎藤:身長は167.5センチありますね。
石川:会うたびに「またでかくなったんじゃないか」と言う方もいますが、伸びずにすんでいます(笑)。手足が長いことを生かした追い方をするようにしています。道営には、齊藤調教師もですが、桑村(真明)さん、阿部(龍)さんとか、背が高くて上手な人がいっぱいいますから参考にしたいです。体重管理のために走るようにしています。厩舎が坂路に近いので、坂路も1本登るんです。
斎藤:初日(4月24日)のことを教えてください。第1レースから、同期の井上幹太騎手が勝ちましたね。
石川:「持ってるな」と思いました。自分は、初日は思ったより緊張しなかったのですが、次の日のパドックから緊張しはじめて。周りをみる余裕ができたのでしょうね。
斎藤:初騎乗(第4レース)は3着、2戦目(第5レース)は、井上幹太騎手の2着でした。
石川:あと200というところで、(井上騎手の馬を)交わせるかな、と思ったのですが、近づくにつれて向こうも伸びていった。ただ、負けたことが悔しくて。特に幹太だから、というのはなかったです。
普段は幹太のことは意識はします。どれだけ数乗っているか、どんな乗り方するか。普段は厩舎が遠いのであまり会えませんが、調整ルームなどでは仲がいいです。
(他場の)同期も、勝ったのを聞くとどんな競馬をしているか気になりますね。笹川(翼、大井)も勝ってるな、って。仲が良かったのは、船橋の木佐貫(泰祐)と、幹太です。
デビュー6戦目、自厩舎のアラマサアルデで初勝利
斎藤:初勝利は5月3日(第4レース)でした。
石川:人気(2番人気)だったのでほっとしました。逃げ馬で、スタートダッシュもよかったです。強い馬がいたので、その馬が来るまでじっとしていよう、と考えていました。人気馬に乗った時、どういう競馬をするかを考えさせられました。これからもチャンスに応えられるようにしたいです。
斎藤:5月22日には、フジノジャガーで特別レースを勝ちました。
石川:ナイターは気持ちか高ぶりますね。わくわくする。緊張して、いろいろと想定しすぎてしまいました。それでも思っていたように位置を取れたし、道中はタイミングを間違えないように、と考えていました。馬が強かったです。返し馬の時にキツネが出てきて、怖かったですけど。
斎藤:2歳馬の騎乗も多いですね。
石川:乗せていただいていますが、乗りこなすのは難しいです。悪いこともすぐ覚えるから、より集中が必要なんです。
斎藤:一番思い出に残るレースは。
石川:負けたレースなのですが、6月18日、フジノジャガーでシセイカイカの2着に負けたレースです。競馬の難しさを感じました。馬の力を全て出し切るのは難しい。状況によって、瞬時に判断できるようになりたいと思いました。レースが終わってからや、調整ルームでビデオを見ていると、騎手の先輩方がみんな「ここがこうだから」と教えてくれます。
斎藤:10勝なので、重賞にも乗れますね。
石川:まだ重賞に乗れるだけの技術には足りないので、自信もって乗れるように努力したいです。乗りたいのは道営記念です。道営馬だけのレースだし、去年見ていて、雰囲気にぐっと来るものがありました。
斎藤:普段の生活を教えてください。
石川:2時半までに起きて、3時から攻め馬、10時までです。一度休んで、午後は厩舎作業です。先生は「手伝いに行ってやれよ」というので、齊藤厩舎や佐久間厩舎、山中厩舎などの手伝いをしています。
斎藤:倭という名前は珍しいですね。パドックでも「ヤマト!」と声がかかっていますね。
石川:ヤマトタケルノミコトからです。小6の弟はたける(傑)で、騎手になりたいと言ってますが、身長がちょっと高いですね。
斎藤:目標と、ファンに一言お願いします。
石川:今年の目標は30勝です。将来的には、リーディングを目指していきたいです。そして、怪我をしないように。ファンの方には、穴を開けられるよう頑張ります。人気にも応えて、穴も開ける。チャンスをもらっているので、生かしたいです。
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インタビュー / 斎藤友香 (写真:斎藤友香、小久保巌義)
6月3日に行われた岩手ダービーダイヤモンドカップをヴイゼロワンで制し、念願のダービージョッキーとなったのは、デビューして今年が10年目となる高松亮騎手。そのダービー制覇の喜びや、今後のことについてうかがいました。
横川:まずは『岩手ダービーダイヤモンドカップ』を制した時の、感想から聞かせてください。
高松:ゴールの瞬間は本当に興奮しました。ヴイゼロワンの陣営からは“この馬はダービーを勝つために連れてきたんだ”と言われて。そういう馬に自分を信頼して乗せてくれて、そして勝つ事ができましたからね。
横川:少しレースを振り返りましょう。道中は先行策、ハカタドンタクらライバルと見なされた馬たちを後ろに置いての戦いになりました。
高松:自分の考えではライバルを前に見ながらがいいのかなと思っていたのですが、相手の行き脚がそれほどでなくて、一方自分の馬は抜群のスタート。だったらヴイゼロワンのリズムを崩さないようにしようと。
横川:その先行策から積極的に動いて直線は自ら先頭に。
高松:それもあくまで馬のリズムを守って、ですね。スムーズな流れを作って自然に加速させてやるのがヴイゼロワンには一番いいと思って乗っていましたから、あそこはそれまでの流れのまま動いていった形です。
横川:最後の直線ではハカタドンタクが迫ってきて、いったんは前に出られたりもしました。あのあたりはかなりヒリヒリしたんじゃないですか?
高松:そうですね。これで負けたら“お前の仕掛けが早かったから”と言われるかもしれない…そう思わないでもなかったですけど、でも自分の馬の手応えはずっと良かったし、そこまでも思った通りに進んできていた。相手はずっと脚を使い通しで上がってきていたのが分かっている。それでもし交わされ突き放されたりしたとしたら、それはあっちがバケモノなんだ…。腹は括っていましたね。
横川:これで重賞は3勝目ですが、“ダービージョッキー”はやはりちょっとこれまでとは喜びの質が違うんじゃないかと思うけど?
高松:なんというか、少し時間が経ってから“こんな大きな出来事だったのか”と感じましたね。
横川:それはどんな事で?
高松:たくさんの人にネットやメールとかでメッセージを貰ったんですよ。もちろんいままでもいただく事はありましたが、今回はその数が段違いだったんです。それもこれまでにもいただいていた人ばかりでなく、初めての方なんかからもたくさん。自分は、正直それほど手放しで喜んではいなかったんです。自分のキャリアからすれば満足しちゃいけないですから。でももの凄くたくさんの方から祝福されて、自分はこんなにたくさんの人に支えられていたんだ…と改めて実感しました。
横川:今年は騎手生活10年目。区切りらしい勝利になったのでは?
高松:10年という区切りは、自分ではあまり気にしてないです。いや気にした方がいいのかもしれないけど、騎手としてまだまだだなと感じているから“10年やって上手くなった”とか“騎手としてのポジションが固まった”とかは思ってないですね。毎年同じように挑んでいるつもりですよ。
横川:でも今年は既に重賞2勝。順調なスタートを切ったように見えるけども
高松:今年は、そうですね、ここ何年かの中では、なんというか腹が据わったというか競馬に向かう気持ちが違う…とは自分でも思っていますね。
横川:それはどういう点で?
高松:今年の1月1日にケガをしちゃって、自分的にはちょっとキツいケガだったんですね。前もケガでシーズン終盤を棒に振ったこともあったけど、気持ち的には今年の方が数段重かった。いろいろ悩んだんですが、そんな中で馬に乗れる、レースに出ることができるのが自分はやっぱり好きなんだ…と再確認できたように感じるんです。
横川:“騎手・高松亮”的には2年前もけっこうなピンチだったと思うけど(※2011年終盤、高松騎手はケガで戦列を離れていたが、治療休養中に所属厩舎が解散してしまった)、あの時よりもキツかった?
高松:あの時もピンチでしたね。鎖骨を折ったんですが、あれだけ大きなケガをしたのは初めてだったからショックもあった。でも今年は、気持ち的にはあの時以上だったかも。ケガをしてしまうとどうしてもゼロからの再スタートになるんですが、今年はゼロよりもさらに“どん底”で、そこからはい上がっていくしかないのか…という気分でしたから。ただ、さっきも話したようにそれで逆に吹っ切れたというか。いい意味で悩まなくなりました。変なことで悩んでる場合じゃないだろ、って。
横川:そんな今年の“騎手・高松亮”はどんな目標を立てている?
高松:通算500勝が間近。とりあえず手近な目標なのでこれはしれっと達成しておきますよ。あとは年間100勝。毎年言っている目標なんですけどね。
横川:100勝というのはリーディング上位を争うために…ということ? 最終的に1000勝とか2000勝とかまで辿り着きたいから、そのための最低ラインだ…とかそんなことなの?
高松:ん~。それもないことはないけど、ちょっと違うんです。この先、自分で考えていることがあって、100勝達成はそのために必要なことなんですよ。
横川:んん~。気になるなあ。それは100勝できたらその理由が明らかになるの?
高松:いや、明らかにしないですよ。話さないと思います(笑)。
横川:気になるけど、100勝達成した時の高松騎手を見たら理由が分かる…ということにしておこう。それから高松騎手は過去によく他地区で期間限定騎乗していましたが、またどこかに行かないのか?と楽しみにしているファンも多いと思いますが。
高松:ここ2年くらいはケガのせいもあって行けなかったし来年もまだちょっと時間が取れそうにないんですけど、行きたい気持ちはあります。それに行くとなったら腰を落ち着けてまとまった期間乗りたいですからね。また行きますよ。
横川:楽しみにしています。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
この春、デビュー3年目を迎えた高知の下村瑠衣騎手。ここまでの2年間は、門別から福山に移籍したり、福山競馬廃止を経験したりと、まさに激動の騎手人生でした。福山から高知に移籍して約3か月。現在の心境をお聞きしました。
赤見:高知にはもう慣れましたか?
下村:慣れました! コース自体は福山と比べて広いし、内を開けて乗るので乗りやすいです。砂がとにかく深いので、最初のうちは福山から一緒に来た馬たちはいい結果が出せなくて...。なかなか初勝利が挙げられなくて、『このまま高知では1勝もできないかもしれない...』なんて落ち込んだ時もあったんですけど。今は馬たちも慣れてきたみたいで、力を出せるようになりました。たくさん乗せてもらってるし、勝たせてもらっているし、本当に所属の那俄性哲也先生のおかげです。
赤見:那俄性先生とは、福山から一緒に来たんですよね。
下村:そうです。福山に行った時には最初は短期の期間限定騎乗で、会長の徳本慶一先生のところで所属にしてもらったんです。その後に完全移籍が決まって、福山の廃止も決定的になって...。それで、那俄性先生が『一緒に高知に行こう』って言ってくれて所属することになりました。
実は私、門別から短期で福山に来た時、この期間限定騎乗が終わったら騎手を辞めてもいいかなと思っていたんです。デビューしてからなかなか結果が出せなくて、『自分は騎手だ』と胸を張れるような仕事を全然していなかったので。今思うと、門別でももっと頑張れたのかもしれません。自分の努力が足りなかったし、考えが甘かったんです。
赤見:なぜ移籍先を福山にしたんですか?
下村:それはもうLJS(レディースジョッキーズシリーズ)のおかげです。新人だったとはいえ、盛岡ラウンドと荒尾ラウンドで全く成績が出せなくて...。このままじゃダメだと思って、ラストの福山ラウンドでは、徳本先生にお願いして朝の調教を手伝わせていただいたんです。レースでは強い馬に当たって、2レースとも勝たせてもらいました。その中の1頭が那俄性厩舎の馬だったので、そこからのご縁なんです。
期間限定騎乗で福山に行った時、徳本先生が空港まで迎えに来てくれたんですけど、その車の中で廃止決定の記事が載っている新聞を見せていただきました。もう本当に衝撃だったけど、とにかく福山で精一杯頑張ってみようと思いました。
赤見:実際の福山はどうでしたか?
下村:調教にもレースにもたくさん乗せていただいて、色々な経験をさせてもらいました。周りの方々も温かく迎えてくれて、日に日に『もっと乗りたい!もっと乗りたい!』って気持ちが大きくなって。地方競馬の中で、騎手の完全移籍というのはなかなかできないじゃないですか。でも周りの方々が親身になって相談に乗ってくれて、門別とも相談してくれて、期間限定じゃなく福山に移籍できることになったんです。
赤見:廃止が近かったですけど、不安はなかったですか?
下村:不安がなかったと言えば嘘になるけど、私本当に福山が大好きで、みんなと一緒に乗りたいっていう気持ちが強かったですね。廃止の日が近づいてくるのは本当にイヤでした。私は那俄性先生のおかげで高知に移籍できることになったけど、続けられるのに辞めざるを得ない人もいましたから。すごく複雑な気持ちでした。
廃止の日にはたくさんのファンの方が詰めかけてくれて、いっぱい声援もいただきました。応援していただいて、本当に嬉しいです。福山に来た時は、騎手を辞める覚悟をしていたけど、この何か月かの経験で人生観が変わって、少しでも長く騎手を続けたいって思うようになりました。たくさんの人たちのおかげで、こうやって騎手を続けていられるんだと思ってます。
赤見:その後高知に移籍したわけですが、高知の雰囲気はいかがですか?
下村:高知の人たちも本当に優しくて、和気あいあいの雰囲気ですね。私は中学生くらいの時から(別府)真衣ちゃんに憧れていたんですよ。レースを見ながら、カッコいいな~って。LJSで会った時から仲良くしてもらってましたけど、実際に同じ競馬場になってからはさらに優しくしてもらってます。騎手として色々教えてくれるし、一緒に乗っているだけでもすごく勉強になりますね。
赤見:休みの日は何をしてるんですか?
下村:何もしてないです(笑)。今は厩舎に住んでるんですけど、馬にご飯あげたり水を足したりする仕事があるし。ずっと馬と一緒の生活です。どこかに出かけたりもしないですね。実は、厩舎が山の上の方にあって電波が良くないので、テレビも映らないんですよ(笑)。自分の部屋では寝るだけです。でも、すごく仕事が充実しているので、毎日楽しいんですよ。食事は那俄性先生の奥さんが作ってくれて、厩舎で先生や厩務員さんとみんなで食べるんです。もう家族みたいな感じですね。
赤見:今後の目標を教えて下さい。
下村:今すごく意識しているのが、名古屋の木之前葵ちゃん。会ったことはないんですけど、同い年だし、ちょうど私が高知に来た頃にデビューして、バンバン勝っているので。いつも成績をチェックしてます。今までは先輩たちに憧れるだけだったけど、こうやって身近なライバルがいると燃えますね。自分の中で燃えるものというか、闘志というか、そういうのが強いんですよ。周りからは、あんまりそういう風に見えないって言われますけど。
幼稚園の頃からの夢が叶って騎手になれたけど、その後打ちのめされて、いっぱいもがいて...。デビューして丸2年で競馬場を転々としちゃいましたけど、やっと高知に落ち着くことができました。色んな経験をさせてもらったので、これから何があっても怖いものはないです。高知に移籍したタイミングで、勝負服のデザインも新しくしました。青と黒で、大人な感じにしたんです。20歳にもなったし、本当にここからがスタートという気持ちで頑張ります!
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※インタビュー / 赤見千尋 (写真:斎藤修)
ホッカイドウ競馬の新人井上幹太騎手(19)。今シーズン開幕日の第1レースから初騎乗初勝利。この日は4レースに乗って3勝をあげる大活躍。昨年の阿部龍騎手に続く大物新人の登場です。
斎藤:まずは、騎手になったきっかけを教えてください。出身は兵庫県ですね。
井上:中学3年の時に、競馬ファンだった父に連れられて阪神競馬場に行きました。桜花賞の前日だったと思います。その時、騎手を見て、これだ、と決めました。それまでは高校に行こうと思っていたから、親もびっくりしていました。最初は危ないと反対されましたが、そのうち、行け、と言ってくれました。
斎藤:それまで、馬には乗ったことがなかったのですよね。
井上:小学校では野球、中学ではバレーボールをしていました。中学卒業後、千葉県のアニマル・ベジテイション・カレッジで騎手になる勉強をしました。はじめは馬の上が高くて怖かったですが、すぐに慣れました。
その学校では、障害馬術が面白かったです。資格も1級を取りました。ハミ受けとか、基本的な動かし方が今でも役に立っています。3年間コースだったのですが、2年目で騎手試験に受かったので途中で教養センターに行きました。
斎藤:教養センターの同期はレベルが高いと聞きました。
井上:経験者が多かったからかな。みんな仲が良かったです。いつもおもしろおかしくやっていました。辛かったのは、規則正しい生活......早寝早起き(笑)。減量は苦労していないです。
大井の笹川(翼騎手)がいつも1番で、自分はだいたい2番でした。
斎藤:なぜ北海道を選んだのでしょうか。
井上:教養センターの先生に、園田か北海道を薦められました。2歳馬をやってみたかったのと、より中央で乗れるチャンスがあるからと、北海道にしました。
斎藤:昨年度リーディングの原孝明厩舎に決まりました。実習で来た時の感想は。
井上:1日10頭くらい乗せてもらい、馬の力の強さにびっくりしました。当時の(原厩舎の)所属で、(北海道で)9連勝したクロタカ(現JRA)は、かわいくて強い馬でしたね。
勝負服は調教師が決めてくれました。兄弟子の坂下(秀樹)さんも宮平(鷹志)さんも優しく教えてくれます。見ながら学ぶ感じ。道営の騎手はみんな優しいです。
斎藤:そして、いよいよデビューを迎えました。その日のことを教えてください。初騎乗初勝利は兄弟子の坂下騎手以来27年ぶりだそうですね。1レース、4レース、5レースと3勝しました。
井上:3日前、調教を付けていたら「これ(ハンミョウ)でデビュー戦乗るから!」と言われました。普段も、騎乗馬は前夜版(出馬表)を見て始めて知るんです。楽しみですね。怖いということはないです。いっぱい乗れるかなー、って。レース前も、特に緊張はしなかったです。
開幕初日に初騎乗初勝利をあげたハンミョウ
斎藤:前向きですね。ハンミョウは先に行く馬ですが、中団からのスタートでしたね。
井上:やべ!と思いました(笑)。砂かぶると癖を出すと聞いていたので、まずは砂をかぶらないようにと。焦りはしなかったですね。馬を信じて追ったら、差しちゃった。前が止まっているように見えました。この日は両親と祖父母が来ていました。
マキハタテフロンに乗った4レースは、展開が読めました。なので、一番このレースが印象に残っています。
5レースで勝ったキタノダイフクは、実習に来た時から乗っていた、好きな馬なんです。たてがみがきれいだし、手入れしていると、かじってくるんですがそれもめんこい。初めはリーディングジョッキー競走に使うはずだったんですが、先生に「乗りたい馬いるか」と聞かれた時にこの馬の名前を出したら、ここで使ってくれたんです。
斎藤:すごい活躍ですよね。これまで、11勝(6月13日現在)です。
井上:取りこぼしもあるので、3、4勝は損しています。最近は、自分の流れがつかめていない。もまれてきているのを感じます。まずは、トレーニングして壁を壊そうかなと。ビデオで勝つ馬を見て、どうやって勝ったか、自分とは何が違うかを研究しています。まだ、今は馬に調教されている感じ。ハミを取るところなど、特にオープン馬が教えてくれます。
斎藤:乗りたいレースはありますか。
井上:北海道スプリントカップですかね。中央との交流に乗りたいです。乗りたい馬は、うちの厩舎のアウヤンテプイですね。かしこいんです。ハミかけたら、ガーン、と行くんです。なんだこいつ、と思いました。13日の北海道スプリントカップ(4着)は、ゴール前でセレスハントと並んだ時は本気で応援しました。これからも頑張ってほしいです。
斎藤:では、普段の生活を教えてください。
井上:午前3時から10時まで調教をつけています。厩舎作業はなく、ひたすら乗っています。それから1時まで休んで、4時半くらいまで乗り運動。うちの先生はマシン使わないんです。乗らないとわからないから、乗って確かめる。
仲がいいのは、(新人の石川)倭と、宮平さんですね。倭とは、競馬の話はしないけど、プライベートで買い物に行ったりします。特に意識はしていないです。休みの日はトレーニング。馬場を走るんです。2周くらいしますね。
斎藤:馬場を走るんですか! それは体力がつきそうですね。尊敬している人はいますか。
井上:吉原さん(寛人騎手)です。金沢に所属していながら、どこの競馬場に行っても乗れる。北海道に来たら、原厩舎の馬に乗ることも多いので話すことがあります。追い込みの力強さと、体が柔らかいところを真似したいです。
斎藤:兵庫出身ということですが、関西弁が出ないですね。
井上:出身は県北部の香美町というところで、どちらかというと鳥取なんです。大雪も降りますよ。小学校からスノーボードをしていました。(佐々木)国明さんはスキーをするので、冬に行こうと言われました。
斎藤:佐々木騎手もスキーが上手だそうですよね。では、目標と、ファンに一言。
井上:これからももっと精進して、ひとつでも多く乗って結果を出したいです。中央に乗りに行ければいいな。ファンの方には、「追い込みを見てくれ!」......と言えるように頑張ります。
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※インタビュー / 斎藤友香 (写真:小久保巌義)