3月31日に地方通算500勝を達成した岡村卓弥騎手(高知)。所属は高知を代表する雑賀正光厩舎で、兄弟子にはリーディング上位の永森大智騎手がいる中、奮闘しています。「いまがチャンス」と気合いの入るその理由とは。
地方通算500勝、おめでとうございます。意識はされていましたか?
あまり気にしていなかったんですけど、モーニング展望で橋口アナウンサーから「あと十何勝」と聞いてから、「あ、そのくらいか」と思いはじめました。橋口さんは「3月中に達成できたらいいね」って言っていたんですけど、できるとは思っていなくて、なんとか年度内に決められてよかったです。
500勝目となったのはJRAから移籍初戦のユピテルルークスでした。
調教からずっと乗せてもらっていました。レースは約10カ月ぶりで、能検からでした。ダートはこれまで走ったことがなくて、トビも芝馬だったので、「ダートが合うのかな?」と思っていたんですけど、結構走りますね。直線も手応えはまだまだ余力がありました。
2021年3月31日、高知第4レースで地方通算500勝達成(写真:高知県競馬組合)
大台の1000勝へ向けて、折り返し地点となる500勝というのはいかがですか?
11年かかりましたからね(苦笑)。まだまだです。通算勝利数はあまり意識していなくて、いい馬に乗せていただいた時にしっかり結果を出せたら、と思っています。
雑賀厩舎を所属騎手の一人として支えているわけですが、所属の経緯というのは?
兄弟子の永森さんも僕も所属の経緯は同じで、中学生の時の職場体験がきっかけです。実家が高知競馬場のすぐ近くで、同級生のお父さんが馬主をしていて、小学生の頃に浜(海岸)で馬に乗せてもらったことがありました。その時に「小さいから騎手になったらどうや?」と言われて、中学校の職場体験で競馬場に行った先がたまたまうちの厩舎だったという流れです。
偶然にも兄弟子と同じ経緯での所属だったんですね。その永森騎手は調教中に落馬して骨盤骨折のため療養中とあって、調教が忙しくなったり騎乗馬が回ってきたりしているのではないですか?
仕事はたしかに今はむちゃくちゃ忙しいですね。今がチャンスだと思っているんですけど、なかなか。こないだの競馬なんかでも「はぁ......」とため息が出るレースばかりで。やっぱり永森さんはすごいなと感じました。永森さんが乗っていた馬に、今は僕が乗せてもらうことも結構あって、余計にそう感じます。
所属の雑賀調教師は「ある程度までは自分で這い上がってほしい」というタイプの方ですね。
うちの厩舎で続けていたら、たぶん勝手にそこまでいくと思います。いい馬もいっぱいいますし、調教も自分で考えてやるようになります。調教メニューがキャンターを2周乗るんだったら、1周目と2周目のペースを考えろって先生からも言われます。
高知はいま、売り上げが急増していて、全国のファンから注目を集めます。
また4月から賞金が上がったんですよね。だから、なかなか重賞を勝てないですけどね。
賞金が上がると、レベルの高い馬の入厩も増えるでしょうし、競争もより熾烈になりますね。昨年12月には金の鞍賞をブラックマンバで差し切り勝ちを決めました。
重賞を勝つのが久々でしたし、あれは嬉しかったです。道中、楽に行けた時はいい脚を使う馬なんですけど、人間が早く動いちゃったりして、馬を信じきれていないところがあるというか。そういう面では倉兼(育康)さんはすごいですよね。後ろからじーっと行って、最後にシュッときますから。僕、倉兼さんの追い込みを見て、「うわー、カッコいいな」と思って、騎手になろうと思ったんですよ。
ブラックマンバで金の鞍賞制覇(2020年12月26日、写真:高知県競馬組合)
追い込みで勝つ方が好きなんですね。後ろから行く馬といえば、真っ白な馬体のチャオとのコンビも印象的でした。
引退しちゃいましたけど、ファンの多かった馬ですね。2~3着が多くて、実は勝ったのは(自身の騎乗で)2回しかないんですけど、いまは誘導馬を目指しているらしいですよ。高知に移籍してきた頃は調教でも暴走しちゃっていたので、気性的になかなか難しいかもしれませんが、牧場に行ってから最近は落ち着いたみたいです。牧場で訓練をしているのかな?高知競馬場で誘導馬になれたらいいですね。一緒になって走っていっちゃうかもしれないですけど(笑)。
これからの目標はなんですか?
やっぱり兄弟子の永森さんに早く追いつきたいです。永森さんは調教からもキッチリしていて手を抜かないので、僕もちゃんとやれているんだと思います。すごい方なのでなかなか難しいでしょうけど、追いついて追い越せたらいいですね。
最後に、オッズパーク会員のみなさんにメッセージをお願いします。
高知はすごく売り上げもよくて、いい馬が入ってきているので、今まで以上にもっともっと迫力のあるレースになっていくと思います。その中で、僕は1つでも多く勝てるよう頑張るだけです。僕は競艇が大好きで結構するんですけど、ファンの気持ちはよく分かります(笑)。だから、馬券を買ってくれているファンのみなさんに納得いってもらえるよう、一生懸命がんばっている姿勢を見せたいです。
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※インタビュー / 大恵陽子
2021年春シーズンが開幕した岩手競馬。昨シーズンまで5年連続で岩手リーディングを獲り続けている山本聡哉騎手にお話を伺いました。
まず昨シーズンのことからお聞きしたいのですが、5年連続リーディング獲得おめでとうございます。
ありがとうございます。昨年もリーディングが獲れたというのはすごく嬉しかったですね。昨年は3月31日まで南関東で期間限定騎乗をしていて、その時も新型コロナウィルスが流行していましたから、岩手に戻ってから2週間騎乗を自粛しました。4月の半ばくらいまで乗れなかったので、追いかける立場でスタートしたんです。乗れない時期があったのは残念でしたが、新鮮な気持ちで挑めましたし、結果的にはとてもいい1年を過ごすことが出来ました。
重賞もたくさん勝ちましたね。
周りの方々のお陰です。流れも出来過ぎかなと感じるくらい、特別な1年になりました。いい馬たちに乗せていただいて、たくさん重賞も勝たせていただいて。どのレースも想い入れが強いですけど、特にアクアリーブルで桜花賞を勝たせていただいたのは大きかったです。
ユングフラウ賞では7番人気2着といい脚を見せてくれて、続く桜花賞は3番人気で勝利しました。
アクアリーブルのオーナーである新生ファームさんとは、ピアノマンに乗せて勝たせていただいて、そこで繋がりが出来ました。さらに管理していたのが(佐藤)賢二先生だったので乗せていただくことになりました。ユングフラウ賞の前から調教にも乗せていただいて、すごくいい脚で2着に来て、重賞でもやれるという手ごたえを感じました。そこからですね。「次は桜花賞を勝つ!」と勝手に自分でプレッシャーを感じながら調教に乗っていました。その緊張感というのはとても心地いいというか、すごく楽しい時間でした。
アクアリーブルで浦和・桜花賞(2020年3月25日)を制し、佐藤賢二調教師と握手
桜花賞は好位から強いレースでしたね。
枠も良かったですし、馬の調子もグンと良くなって、とてもいいレースが出来ました。プレッシャーを感じつつ調教にも乗せていただいて、そこで勝てたというのは自分の騎手人生の中でもすごく大きな出来事になりました。(佐藤)賢二先生が急逝されたことはとても驚きましたし、残念で仕方ありません。弟(山本聡紀騎手)もお世話になっていましたし、僕が期間限定騎乗で南関東へ乗りに行くと、いつも1勝目は賢二先生の厩舎の馬で勝たせてもらっていたんです。いつか僕も、賢二先生のようなカッコいいホースマンになりたいと思っています。
地元岩手でも重賞をたくさん勝ちました。3歳牝馬ゴールデンヒーラーは今後の活躍が楽しみですね。
スピードもあって、レースセンスも高い馬です。2歳の時期は北海道の馬がとにかく強い中で、知床賞とプリンセスカップを連勝できたというのは大きいですね。地元馬同士ではある程度力関係や展開が読めますけど、他地区勢を迎え撃っての勝利でしたから。春になって久しぶりに乗ったら、馬体に幅が出て成長を感じました。調教では少しうるさくて神経質なところもありますが、競馬にいっての集中力がある馬で、気持ちの面もレースではいい方に出ていますね。今後距離がどれくらいもつのか、という問題になりますが、折り合いに苦労するタイプではないのでこなしてくれるんじゃないかと期待しています。
プリンセスカップ(2020年11月30日)を制したゴールデンヒーラー(写真:岩手県競馬組合)
年末や年明けの開催は雪の影響で中止が続きました。
僕にとっても初めてと感じるくらいの大雪で、水沢に昔から住んでいる厩務員さんたちも「こんなに降るのは初めてだ」と言っていました。近所のカーポートがいくつも潰れたりしていて、災害級の大雪でした。もう毎日毎日とにかく雪かきでしたね。僕らも本当はやりたい気持ちもありましたけど、さすがに環境的に難しくて。中止が続いてしまって、不完全燃焼な感じで終わってしまいました。
今年は3月12日からの開幕と、例年より早いスタートとなりました。今シーズンの意気込みを含め、オッズパーク会員の皆さまにメッセージをお願いします。
いつも岩手競馬を応援していただきありがとうございます!昨シーズンは大雪の影響で中止が続き、なんだか拍子抜けという感じになってしまいましたが、今年もリーディング目指して頑張りますので、応援していただけたら嬉しいです。岩手競馬にはゴールデンヒーラーはじめ今年活躍しそうな若馬がたくさんいるので、ぜひ注目してください。10歳になったラブバレットも頑張っています。今後コロナが落ち着いて、また皆さんと一緒に競馬を楽しめる日が待ち遠しいです。
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※インタビュー / 赤見千尋
例年以上に熾烈を極めた2020年の調教師全国リーディング争い。大晦日までもつれた結果、1勝差で角田輝也調教師(名古屋)がトップに立ち、3年ぶり4回目のNARグランプリ最優秀勝利回数調教師賞に輝きました。8月には雑賀正光調教師(高知)が更新し続けていた地方競馬における調教師の通算勝利記録を上回り、現在その記録を更新し続けています。
2020年の全国リーディング獲得おめでとうございます。2位だった打越勇児調教師(高知)とは1勝差で、高知は大晦日まで開催がありました。心中はいかがだったのでしょうか?
まずはたくさんのいい馬たちを預けて下さったオーナーに感謝しています。そして、一生懸命頑張ってくれた馬たち、スタッフにも感謝しています。僕一人では決して成し遂げられることではないですから、周りの方々のお陰です。本当にありがとうございます。その上で、リーディングということに関しては、以前にもお話したと思いますが、特にこだわっていないんですよ。自分たちの仕事を精一杯やって、自分の厩舎の仕事が終わったところでその年は終わりですから、周りのことは気にしていなかったです。
リーディング1位と決まった時はどんなお気持ちでしたか?
馬主さんから連絡をいただいて、リーディングになったんだなと知りました。先ほども言いましたが、特に意識はしていないというか、意識しても仕方ないことかなと思っていますので。うちのスタッフもリーディングを獲って喜ぶというよりは、1年間の反省点を考えて、来年はどうしようかという話し合いをしているくらいで、リーディングを獲ったということで特別なことはなかったですね。
周りの方の反応はいかがですか?
いろいろな方から「おめでとう」と言っていただくのは嬉しいです。ただどうしてもリーディングにこだわるのであれば、名古屋だけではなく笠松にももっと使いに行ってということも出来たわけです。スタッフが一生懸命頑張っている中で、1年を通しての結果がリーディングという形になったのかなと。
昨年は176勝を挙げ、3年ぶり4度目の全国リーディング獲得。8月には雑賀調教師の記録も抜いて、地方競馬最多勝利記録を塗り替え続けています。こちらの記録についてはいかがですか?
そこもまったく意識していないですね。やっぱり僕一人の力では出来ないことをオーナーの皆さまやスタッフに支えられ、僕はマネージメントをしているというだけに過ぎないですから。自分一人で成し遂げられたことではないので、ここまで勝たせていただいたことには心から感謝していますが、まだまだ僕の競馬人生は続いていますから、勝ち鞍というところには着眼点は置いていないです。
名古屋記念(2021年1月4日)をアドマイヤムテキで勝利
では、なぜこんなに勝てるんでしょうか?
う~ん......。というか、まだこれだけしか勝てないのか、というところに問題点を置いています。預けていただいた馬をいかにいい状態に仕上げてレースに臨めるか、そこからいかにいい結果に結びつけるか、ということを重視していますから、もっといい成績を挙げられたのではないかと反省点をいろいろと考えています。他の先生たちもそうだと思いますよ。
オッズパーク地方競馬応援プロジェクトのサムライドライブが長年お世話になりました。昨年末に引退して、今後は繁殖になるということですが、近くで見ていてどんな馬でしたか?
たくさんの重賞を勝たせていただいて、その中で喜びも辛さも感じさせてくれました。とても繊細な馬で難しいところもありましたから、色々なことを勉強させてくれましたね。レースを見ていてお気づきかと思いますが、自分の形になるとすごく強いけれど、そうじゃないと脆いところがあって。気が弱くてすごく繊細なので、ちょっとしたことで集中し切れなくなってしまうんです。でも普段はじゃじゃ馬で、自分の形になると本当に強いんですよね。
勝てない時期が続いて、もう一線級では勝てないのかもしれないと考えた時もありましたが、そこから盛り返して昨年マイル争覇を勝った時には感動しました。
古馬と戦うようになってから、なかなか自分の形にならない時期がありました。結果を出せず申し訳なかったですが、オッズパークさんの方からは現場サイドの話を取り入れてやらせていただいて、とても感謝しています。マイル争覇を勝った時には僕もものすごく嬉しかったですね。本当に長い間よく頑張ってくれました。
サムライドライブにとって最後の重賞制覇となったマイル争覇(2020年1月16日)
では、今年の目標を教えてください。
管理馬が怪我もなく、いい結果が取れて、オーナーの喜ぶ顔が見たい、という気持ちが一番強いです。今はコロナの影響で直接は見られないですけど。
オッズパーク会員の皆さまにメッセージをお願い致します。
いつも名古屋競馬を応援していただき、ありがとうございます。無観客での開催がある中で、これだけ馬券が売れているというのは、ネットで馬券を買ってくれるファンの皆さまのお陰です。今後もスタッフ一同、一生懸命頑張って馬たちを仕上げますので、うちの厩舎の馬を応援していただけたら嬉しいです。どんなレースでも1番人気というのは嬉しいですし、僕らのモチベーションも上がります。すべての馬が1番人気で、その期待に応えて勝てるよう、精一杯頑張ります。今年も名古屋競馬、角田厩舎を宜しくお願い致します。
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:愛知県競馬組合)
昨年12月にデビューしたばんえい競馬の新人、金田利貴騎手(23)。金田勇調教師の長男として厩舎で育った元甲子園球児は、騎乗数も着実に増やし、2月28日現在29勝。すでに関係者やファンの信頼を集め始めています。
デビューから2カ月半が経ちました。12月12日のデビュー翌日には初勝利を挙げ、1月3日はコマサンエースで重賞の天馬賞に騎乗(4着)。印象に残ったレースはありますか。
どれも経験になっていますが、強いてあげるなら初めて特別戦(2月1日ダイヤモンドダスト賞)を勝ったコマサンエースでしょうか。それまでも乗っていましたが、障害が得意なはずなのに、島津騎手や藤野騎手のように障害を上がらなかった。島津さんがゲートから2障害までの進め方や登坂時のハミ使いなどを教えてくれて、実践したら簡単に上がりました。
先輩と仲が良さそうに見えますか? 失敗をからかわれたりしています。先輩の様子を伺いながら、聞けそうなときは質問しています。
コマサンエースで4着と健闘した天馬賞
新人騎手の減量特典(10キロ減)を生かした積極策が気持ちいいですね。特典が取れる50勝も目の前ではないでしょうか。
先行は意識していますが、行き過ぎないよう心がけています。50勝まであと半分。減量特典がなくなった後が大変なので、それまでにレベルアップしていきたいです。
キタミライのレース(2月15日4レース)では10キロの差を感じました。ひと腰で上げることを考えて後ろから行き、末脚を生かして勝ちました。障害を超えた時は先頭とは距離があり、10キロ差がなかったら届いていなかったのではと思います。
堂々とした騎乗に見えます。扶助となる声が大きくて、さすが元野球部ですね。
百戦錬磨の騎手に混ざってレースをするのは、怖くなります。他の騎手は本当に上手です。声を出して馬を前に出しながら、自分自身の緊張をほぐしています。うるさいと思われるくらいに、とやっています。声が大きいのはキャッチャーだったからでしょうか。
白樺高校時代は、野球部に所属し2015年夏の甲子園に控え捕手として出場しました。
今年千葉ロッテに入団した河村説人投手ら同級生でLINEグループを作り、励まし合っています。甲子園は控えで連れて行ってもらった立場ですが、辛いこともあった中、成功体験ではありました。
同級生も(競馬を見に)来ているという話は聞きます。デビュー戦では聞き慣れた声が聞こえ、ありがたかったです。それまでばんえいに興味のなかった友達が、自分が騎手になったことで競馬場に来てくれるようになったことが嬉しいですね。
野球からばんえいの世界へ転向したきっかけは。
甲子園が終わってから、厩舎の馬糞出しなどを手伝っていました。野球をできたのも、父や馬のおかげと、卒業する頃ばんえいへの思いが強くなったんです。高校時代に活躍した馬にインフィニティー(2014年ばんえい記念)がいました。
入学した札幌大経営学部では、恩返しの意味もこめてばんえいの研究をしました。北海学園大の古林英一教授に話を聞いたこともあります。そのうち、ばん馬の生産が減っていることを知り、生産に興味を持ちましたが、父は「馬に触ってみないとだめだ、厩務員になれ」、ゼミで会った経営者には「生産者の生産者にならないと、分母が大きくならない」と言われ、思い切って退学し競馬場に入りました。
最初は騎手になるつもりはなかったのですが、もともと勝負の世界が好き。周りの誘いもあり、2度目の受験で合格しました。勝負服は、袖は青に白一本輪の父に似せて(金田騎手は二本輪)、重厚感があって好きな黒色を胴に入れました。インフィニティーに騎乗していた浅田元騎手も黒が入っていましたよね。
ダイヤモンドダスト賞 コマサンエース
ファンへのお披露目式で、2006年の存続運動に触れたコメントが印象的でした。「ばんえいを守ろうと尽力してくれた人に騎乗で恩返ししたい」と話していましたね。
存続の危機を迎えた2006年は野球を始めた年。家では父母が暗い表情をしていました。野球の少年団の人たちに存続の署名を集めていましたが、多分そんなことはしたくなかっただろうな、と子どもながらに思っていました。近くのスーパーの署名活動にもついていきました。
さて、今はデビュー前の馬が入厩し、レースを教える馴致をするシーズンです。危険が伴いますね。
自分が厩務員になって最初に馴らした2歳は、ゴールドハンターやコマサンブラック、アバシリルビーといった、(気性の激しい)そうそうたる面々で、危険というものを教えてもらった。でも、その後重賞を勝つようになった馬たちです。それに比べると、今年はまだおとなしい馬ばかりかな。
最後に、オッズパーク会員の方に一言お願いいたします。
いろいろとばんえいの良さや見てほしいところはありますが......。普通に歩いているように見えますが、馬はまっすぐに歩かせるだけでも大変なんです。難しいことを簡単にやってのける騎手ばかり。そのようなところも見て楽しんでほしいです。
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※インタビュー / 小久保友香
2020年12月19日第2レースで、通算2,500勝を達成した服部義幸調教師(74)。開業36年目の偉業達成で、ばんえい競馬調教師の最多勝記録を更新中です。名伯楽は場内にある『ふれあい動物園』の園長など、ばんえい競馬の発展のために尽くしています。
2,500勝、おめでとうございます。インタビューでは、奥様と厩務員への感謝を述べられていました。
......嫁はともかく(笑)、厩務員がいないと競馬は成り立たない。馬がいても厩務員がいないとだめ。逆もしかりだけど。馬と厩務員の存在は、厩舎経営についてまわるから。お陰さまで今は9人の厩務員がいる。馬主もだし人には恵まれて、競馬させてもらっている。
出身は道東の弟子屈町ですね。
父が家畜商でした。会社員でしたが27歳でばんえいの世界に入り、9年騎手を経験した後39歳で調教師になりました。
それから36年。インタビューでは「大変なことばかりだった」とおっしゃられていました。
若いうちは、いい馬は来ないし、良くなってきても転厩してしまい、癖馬ばかりが回ってくる。そんなことが何年も続いた。そこで一大決心をした。自分で馬主さんを見つけ、何万キロも走って自分で馬を見つける。そして育てる。そうしたら、馬主さんの馬が1頭から2頭、と増えてきた。
馬主さんとは「長い付き合いをしよう」と決めたこともあって、今では「馬をやめるまでは先生のところに預ける」と言ってくれる人もいる。コロナ禍で馬を見に来ることのできない馬主さんは「あんたがいいっていうならいいでしょう」と。馬主さんに、赤字を出さないことが一番大事だと思っています。
家族にも大変な思いをさせた。調教師になって4、5年経って「一番になるぞ!」って嫁に誓ったことがある。一生大変な思いをさせないぞ、って。振り返れば「ようし、やってやる」って気持ちがあれば、できるな、って思う。
大変なことというのは、2006年度の廃止の危機のことなのかと思いました。当時は調騎会会長として奔走されましたね。
あのときのことは、口に表せなかった。大変な思いをした。当時の砂川敏文帯広市長の言葉に、車を止めて泣いたこともある。日本中の人が応援してくれて、その気持ちを裏切ってはいけないと思った。
14年経って、馬券の売り上げがいいのは嬉しい。しかし危惧しているのは、馬券の売上がいつ落ちるのか。全国のファンなど、世話になった人たちのおかげでばんえいが続いていることを忘れてはいけないね。
服部先生だからこそ存続できたのだと思います。ふれあい動物園やエキサイティングゾーンも先生のアイディアですね。
ふれあい動物園は、子どもが来てくれる場所で十分。欲でやるところではないんだ。
ふれあい動物園といえば、先日PR馬のキングが11歳という若さで亡くなりました。
少しでも元気な姿でいてほしかったけれど、病(蹄葉炎)には勝てなかったな。言うことをよく聞く、めんこい馬だった。牧場で休養させることも考えたのだが、この場所で親しまれていたのだから。本州からもたくさん手紙や花をいただいた。俺らよりも、ファンのキングに対する思いはもっとすごいな。
(今のPR馬)フクスケにその分頑張ってほしい。静かな性格だし、ふれあい動物園向き。体も大きくないから、長生きしてくれると思う。キングは大きかったからね。
キングの馬ソリを引く服部調教師
十勝管内の牧場で余生を送る、初代PR馬のリッキーは元気ですか。
元気だよ。たまに会っている。少しでも長生きしてくれれば。
インタビューでは、馬に教えられた、という話をしていました。
こんな気性の馬はこう、緩慢な馬はこう、と、何百頭もやっているうちに教えられた。馬の付き合い方を一頭一頭合わせて向き合えるようにしている。馬には感謝しないと。
思い出の馬、というとやはり2015年にばんえい記念を制したキタノタイショウでしょうか。
勝った馬だから、というわけではないのだけど。キタノタイショウに初めて出会ったときのことは忘れられない。1歳の春、朝に豊頃町の牧場で見て「大きくないけれどいい馬だな」と思った。それから陸別まで馬を見て回って(帯広-陸別は100キロ弱)、それでもこの馬のことが気になって、その日のうちに牧場に戻ってもう一度馬に会った。
ばんえい記念をはじめ重賞12勝を挙げたキタノタイショウ
どのようなタイプの馬が好きですか。ばん馬のほか、ふれあい動物園の馬も含めて教えてください。
一生懸命引っ張っている馬。体重は大きくなくても、体に幅があり、脚は長くなく胸囲がある。
動物園は、人に優しい馬がいい。(競馬場で生まれた)ロックは乗馬調教を終えて、そろそろ乗っていい、ってお墨付きかな(乗馬体験は休止中)。
引退後のばん馬を馬車用にほしいという話もよく聞きます。馬車がうんと増えたら、引退した馬も新しい余生を送れる。
調教など、馬と接する中で大事にしていることはありますか。
「これ以上無理だな」という限界以上にやらせない。おかしな方に行くから。馬が「うれしいよ、楽しいよ」と引っ張っている方がいい。「やだよ、やだよ」という時にやると、取り返しがつかないことになる。
先生、今でもケーキがお好きですか?
甘いものはなんでも好き。ケーキは1ホール食べちゃうし、夜中でも起きて食べちゃう(笑)。その代わり、酒は飲めないんだ。
オッズパーク会員に一言お願いします。
いつも応援ありがとうございます。競馬場が楽しいと思ってもらえるよう頑張ります。コロナも早く落ち着いて、ふれあい動物園に人が来られるようになったら、入場者も増えてくるかな。
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※インタビュー / 小久保友香(写真:小久保友香・小久保巌義)