JBCクラシックを地方馬として初めて制覇したミューチャリー(船橋)。その鞍上は、今年JBCの舞台となった金沢を代表する吉原寛人騎手でした。地元で成し遂げた快挙について振り返っていただきました。
>JBCクラシックをミューチャリーで制覇、おめでとうございます!周囲からの反響などもすごかったんじゃないですか?
ありがとうございます。お祝いのLINEやメールをたくさんいただいて、当日の夜は返信するのに3時間くらいかかりましたが、嬉しかったですね。その夜はよく眠れなくて、深夜2時くらいまで目が覚めていて、起きたのが明け方4~5時。だんだん訳が分からなくなってきて「これは夢だったんじゃないかな?」と不思議な感じでした(笑)。レース後1週間は、これまで記憶にないくらい余韻に浸ってボーッとしていて、それだけすごいレースを勝たせてもらったんだな、と思います。
創設から20年間、幾多の地方馬が挑んでは跳ね返されてきたレースを勝ったわけですもんね。
初めて勝てたということと、地元の金沢で決められたというのがすごく大きかったです。
ミューチャリーには前走の白山大賞典から手綱をとりました。騎乗の経緯を教えていただけますか?
今年の冬に期間限定騎乗で南関東に行っていた時だったと思うんですけど、矢野義幸先生から「もしかしたら白山大賞典にミューチャリーが行くかもしれないから、その時は頼むわ」と言っていただきました。あのミューチャリーですからね、すごい依頼をいただいたな、とプレッシャーでした。いくら地元の金沢だからと言っても、御神本訓史さんが競馬を教え込みながら大事に育てていた馬なので、すぐに御神本さんに連絡して「よろしくお願いします」とお伝えしました。
白山大賞典では先行集団にいて、ミューチャリーにしては少し前目のポジションのように感じました。
そうなんですよ、もっと進んでいかないのかなと想像していました。レコードを1秒以上更新する速い馬場だったので、ミューチャリーには忙しかったですけど、それでもあの位置から上がり3ハロン最速の脚を使ってくれました。休み明けの分もあって、「もうちょっと反応がほしいな」とは感じましたが、しっかり2着を確保して、いい感触は掴めました。
そして、JBCクラシックでも3番手外という前の位置を取りに行きました。
矢野先生からは「壁1枚くらいでついて行ければ」と言われましたが、GI馬が揃っていましたし、僕は「速い流れに中途半端について行ったら、せっかくの末脚がなくなるかもしれないので、ミューチャリーのペースで行きたいです」と伝えました。当初のプランでは、あんなに前に行くはずじゃなかったんです。
中団~後方からのプランだったはずが、どこでその作戦を変えたんですか?
返し馬で感触も反応もすごく良くなっていたので、「多少無理をしてついて行っても大丈夫じゃないか」と感じました。ゲートを出ると、マークしようと思っていたテーオーケインズが出遅れて、カジノフォンテンが楽に先行してペースを落としそうだったので、「ちょっと攻めてみよう」と、外に切り替えてテーオーエナジーをさばきました。
そうして、外3番手で折り合ったんですね。そんな前の位置からミューチャリーが末脚を使えたら、もうホント強いですよね。
"こういう展開になったら、ミューチャリーが勝てる"という、絵に描いたようなレースになりました。人気馬は内で包まれていてペースを上げられず、僕が主導権を握れました。スタンド前ではめちゃくちゃペースが遅くて、「誰も後ろから動いてこないで」とドキドキしていました。向正面でマクられるのは絶対に嫌だったので、2コーナーからは、じわ~っとギアを入れていくように乗りました。焦って追うと、内の人気馬が抜け出せる進路ができそうだったので、4コーナーまで引きつけました。
向正面はライバルを封じ込めつつ、絶妙なペースアップだったんですね。直線を向けば、どれだけキレる脚を持つ馬でも、そのスピードには限界がありますからね。
ラスト3ハロンを35秒前半で来る馬がいたらめちゃくちゃ強いな、と思っていたら、それがオメガパフュームでした。それでも、ミューチャリーは4コーナーでのハミの取り方が前走とは全然違って、3ハロン36秒0で本当に頑張ってくれました。最後は位置取りの差で決まったかなと思います。
オメガパフュームを半馬身差でしりぞけJBCクラシック制覇(写真:石川県競馬事業局)
改めてJBCクラシックの勝利を振り返っていかがですか?
本当にミューチャリーに感謝しています。ここまで陣営が「ミューチャリーは絶対にジーワンを獲れるんだ」と信じ続けて、全23戦中これが11回目のジーワン挑戦でした。信じ続ける熱い思いがあってこその勝利で、挑戦しないと獲れませんからね。ミューチャリーもずっとジーワンを使われて強くなりました。「前の位置につけたから勝てた」とも言われますけど、それは金沢だからできただけであって、大井や他のコースではそうはいきません。
実はその部分、聞きたいなと思っていました。吉原騎手は2019年マイルチャンピオンシップ南部杯をサンライズノヴァで勝った時に「馬に気づかせないように前の位置を取りに行った」と話していて、今回も積極的なポジショニングがすごいなぁと感じました。
たしかにあの時のような感じで、みんなのペースが遅いところを、馬を力ませず、普通に走っている状態で位置を上げていきました。
ただ、本質的な部分では御神本さんが競馬を教え込んできたことが生きたレースだったと思います。これまでジーワンで強いメンバー相手でも、ミューチャリーのペースを優先させて最後にしっかり脚を使わせることで、馬も気分良く走っていたと思います。だから途中で変なやめ方をせず、乗りやすかったです。ジーワンにチャレンジし続けて、掲示板にも載りながらしっかり戦ってきたことがここで生きたのだと思います。
(写真:石川県競馬事業局)
さて、吉原騎手はこれからの目標はどうしましょうか?
コロナの影響で遠征に行きづらくなったのがちょっと寂しいですけど、その鬱憤をJBCクラシックで晴らせたのは大きかったです。少しずつでも解除してくれて、またミューチャリーに乗って大きいレースを勝ちたいですし、他にも乗りたい馬はいます。
この冬は、これまでとは違う競馬場へ期間限定騎乗に行きたいなとも思っています。こちらは正式決定したらリリースなどの形でみなさんにお伝えできるかなと思っています。
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※インタビュー・写真 / 大恵陽子