オッズパーク地方競馬応援プロジェクトの4世代目カサマツアトリアを管理する、笠松の尾島徹調教師。トップジョッキーから、若くして調教師に転身して4年目。すでに多くの結果を出しています。
京都競馬場に出走した(2017年5月20日)カサマツブライトと尾島徹調教師(右)
まずは、カサマツアトリアの初勝利(10月4日・笠松第2R)おめでとうございます!
ありがとうございます。本当は新馬戦で勝ちたかったんですけど、勝ち切れず申し訳ありませんでした。体の大きな馬(デビュー戦は547kg)で、スピードに乗るのに時間が掛かってしまい、800mではちょっと厳しかったですね。でも2戦目では動きがガラッと良くなって、2番手から押し切る競馬を見せてくれました。
アトリアを最初に見た時の印象はいかがでしたか?
1歳の時にサマーセールで見たんですけど、まず最初に「大きいな」って。当時から脚も太かったですし、すでにかなり大きかったんですけど、腰高の体つきだったので、「まだまだ大きくなるな」と思いました。その後、BTCへも何度も見に行きましたし、跨った時には力強いトビをしていて、「ダート合うな」と。入厩するのが楽しみでした。
今年の夏は暑さがキツかった分、夏負けがひどかったそうですね。
そうなんです。一番涼しい時間に調教するよう調整していたんですけど、それでもかなり夏負けしてしまいました。調教ではずっと佐藤友則騎手に乗ってもらっていたんですけど、なかなか前向きな言葉が出てこなかったんです。佐藤くんが(期間限定騎乗で)南関東に行く前に最後の追い切りに乗ってくれた時はだいぶ良くなってきていて、ただスピードに乗るまでに時間がかかるので、800mは厳しいなという感じでした。そこから直前の追い切りで時計もそれなりに出て、動きもさらに良くなって、新馬戦でもいいところあるんじゃないかと期待できるようになりました。
カサマツアトリアのデビュー戦(2018年9月19日、2着)
待望の新馬戦は渋太い脚を使って2着を確保しました。
やっぱり800mは忙しかったですね。勝った馬に6馬身も離されてしまい、悔しかったです。でも一度使って動きはすごく良くなりましたし、追い切りの時計も速くなって。(2戦目も)新馬戦と同じく岡部(誠)騎手に乗ってもらったんですけど、1コーナーでちょっと掛かり気味になってしまって。岡部さんも、「1戦目の感じから、あんなに行くとは思わなかった」って、いい意味でびっくりしていました。
初戦とは道中の行きっぷりが全然違いましたもんね。
前半勢いよく行っちゃった分、最後は少し甘くなってしまったけど、勝てて本当に良かったです。初の1400mでしたが、岡部さんも「すごく良かった」と褒めてくれました。使った効果もあるし、涼しくなってきてだいぶ馬が良くなっていますが、まだまだ良くなる余地があるので、今後が楽しみですね。
この馬の良さというのはどのあたりに感じていますか?
体が大きいのでパワーがあります。トビもすごく大きいですから。入厩したての頃は、まだ体が上手に使えなくて、ドタバタしたような走り方だったけれど、今は後ろ脚がだいぶしっかりして、走り方も良くなりました。大きな体ですが、小回りの笠松のコーナーも上手に走れるようになりました。
とにかく体が大きいという印象ですが、性格はいかがですか?
これが、めちゃくちゃ大人しいんです。厩舎でも調教でも、悪いことは全然しないので、そういう部分は手が掛からなくて良かったですね。やっぱりあれだけの体なので、もし反抗的だったりうるさかったりしたら、扱うのが大変だったと思いますから。体は大きいですが、人懐こくて可愛いですよ。
今後の目標を教えてください。
JRA認定競走を勝って、重賞路線に乗せたいです。力強い走りでバテない強みがあるので、あとはもう少しスピードというか、瞬発力がついてくれたらさらに強くなると思います。
カサマツアトリア
続いては、調教師としてのお話をお聞きしていきます。騎手から転身して3年目、すでに256勝(2018年10月21日現在)を挙げて順調ですね。
本当に周りの方々のお陰です。騎手の頃もそうでしたけど、今は余計にそう思いますね。たくさんの方にオーナーさんを紹介していただいて、いい馬たちを預けていただいて。信頼しているスタッフが一生懸命頑張ってくれていますし、本当に僕は運がいいんです。
騎手時代とは仕事の内容が違うと思いますが、葛藤などはありますか?
確かにいろいろなことが全然違いますね。今思うと、騎手の時には調教とかもちょっと楽をしていたなと反省しています。実際、今の方が調教にも乗ってますから。すごく忙しいので、思い悩む暇がないくらいです。ただ、レースを見ているというのはしんどいものですね。パドックで送りだしたら、もう何もできないですから。レースに乗っていた時の方が、気持ち的には楽でした。
MRO金賞で、待望の重賞初制覇でした。騎手時代はかなりの数の重賞を勝っていましたが、調教師として重賞を勝った感想は?
やばかったです。もう、泣きそうになってしまって、こらえるのが大変でした(笑)。本当に時間がかかってしまいました。重賞を勝つって難しいですね。いい馬をたくさん預けていただいたし、開業してすぐに重賞でも2着3着来れたので、ここまで時間がかかるとは思っていなくて。時間がかかってしまったけれど、勝てて物凄く嬉しかったです。
ドリームスイーブルで金沢・MRO金賞を勝利(2018年8月9日、写真:石川県競馬事業局)
しかも鞍上は佐藤友則騎手!
佐藤くんは騎手時代から仲が良かったんですけど、今はすごく頼りにしている存在です。MRO金賞も上手く乗ってくれて。正直、ラスト100mくらいまでは勝つと思わなくて、「あぁ、2着か...」と思いながらけっこう冷静に見ていたんです。まさかあそこから差してくれるとは。検量に上がって来て、馬から下りた時には何も言わずに抱きしめました。
佐藤騎手にとっても、とても嬉しい勝利だったと仰っていました。尾島調教師が騎手を辞める時に、「友くんを10年連続笠松のリーディングにする」って言われて、ものすごく励みになったと。
そうですね。ちょっとくらいはリーディングになるお手伝いができたかなと思うんですけど、でも佐藤くんは有言実行でリーディングになったのに、うちの厩舎はまだなっていないので、早く佐藤くんと同じ立場になれるように頑張ります。
では、オッズパーク会員の皆さんへメッセージをお願いします。
騎手の頃からたくさんの方々に応援していただき、とても感謝しています。調教師になってからは、カサマツブライトで9勝させていただきましたし、今はカサマツアトリアでまた勉強させていただき、本当にありがとうございます。調教師としてはまだまだ新米ですが、笠松からスターホースを出せるように頑張ります。応援よろしくお願いします。
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※インタビュー / 赤見千尋
菅原勲調教師。騎手時代には通算4100勝あまりを挙げた名ジョッキーは、調教師に転身してからも、ここまで地方通算331勝(10月28日現在)を挙げる活躍を見せている。また、ラブバレットやベンテンコゾウで、岩手にとどまらず全国に舞台を求める戦いを続けてきた。今回は、JBCスプリントに出走予定のラブバレットの近況などを中心に話を聞いてみた。
まずラブバレットについてお伺いします。まもなくJBCですが、最近の状態面などはいかがでしょうか?
前走の門別(道営スプリント・1着)の前よりも状態は良くなっています。もともと安定している馬で、調子がそんなに大きく変動するという事もないですからね。変わりなく順調と言っていいでしょう。
今回は初めての京都、右回りで道中半ばに坂があるコースですが。
コースを選ばない馬ですから特に問題はないと思っています。それに馬場的にもね、地方の深い馬場よりはJRAの軽めの馬場の方が走りやすいのではないかな。
今年のラブバレットを見ていて、年初からずっと良いレースを続けてきていますよね。良い状態を保っているし、タフな馬だなと感心させられます。
根岸ステークスを走った頃が凄く状態が良くて、今年はずっとその流れで来れました。夏の暑さでちょっと落ちたんだけど、ここに来てまた立ち直ったという感じですね。ずっとオープン級でもう4年、活躍し続けているのだから、丈夫ですよね。
JRA東京・根岸ステークス出走時(2018年1月28日)のラブバレット
良い状態・良い内容を保てる秘訣のようなものがあるんですか? 何か特別な調整法とか体調管理法があるとか。
元々そんなに体調を悪くしたり、変動する馬ではないんです。コンスタントに状態を保てるのが強みで、特に何かをしているという事はないですね。その意味で調整に手がかからない馬。夏にちょっと調子を落としたのも今年が初めてくらいですから。
故障らしい故障もないですよね。
故障というと、3歳の時に骨折したくらい(3歳の7月に軽度の骨折、翌春まで休養した)。これだけ頑張っていて脚元の不安もないです。
だから7歳の今年、より凄さが感じられるというか。7歳になったらさすがに少しは......と思っていたらむしろ前よりも良いくらいの走りで。
7歳だから今年はちょっと力が落ちるかなと思っていたら、これまでと同じ感じだからね。本当に丈夫でしっかりした馬です。
少し気が早い話ですが、JBCの後は笠松グランプリに向かうのでしょうか。
ただそこは、間隔がちょっと詰まっているので、最終的にどうするかはJBCの後に状態を見てですね。笠松グランプリの4連覇というのは狙ってみたい。4連覇はさすがになかなかないことですからね。その後は兵庫ゴールドトロフィーを考えています。
ラブバレットは昨年、笠松グランプリ3連覇を達成
そろそろ気になってきているファンも多いと思うのですが、ラブバレットは来シーズンは?
来シーズンも現役を続行する予定でいます。ただ来年は8歳ですからこれまでのようにあちこち遠征に行くわけにもいかなくなるかもしれないし、どういう形で過ごしていくかは馬の状態次第でしょうか。
例えばですね、菅原勲調教師が騎手時代に乗ってきた数々の名馬とラブバレットを比べてみたとして、どれくらいの強さだと思われますか?
それは、比較のしようがないですね。自分はラブバレットに乗ってレースをしていないからね。それは比べることができないな。
さて、ラブバレットの他に楽しみな馬・注目の馬を挙げていただくと?
今のところは特にないな(笑)。
えー!? でもですね、例えばマツリダレーベンなんかはいかがでしょうか(10月27日のJRA認定競走を勝利)。
マツリダレーベンね。この馬は芝の方が良いというか"芝でこそ"という馬ですね。芝だと走りが変わるタイプ。今回も良いレースをしてくれたし、来年3歳になってからの芝路線を楽しみにして良いんじゃないでしょうか。
芝のJRA認定競走で初勝利を挙げたマツリダレーベン
菅原勲調教師は今でもご自分で調教を付けたりされますか。
乗っていますよ。10頭くらいかな。特にこだわりを持って乗っているというつもりはなくて、自分で乗るのが好きだからという理由でしょうかね。もちろん馬の状態や雰囲気を自分で確かめることができるのも重要です。
そろそろ今シーズンも終盤です。今年の振り返りと来シーズンの目標などはありますか?
今年は、そうですね、馬の入替がちょっとうまくいかなかった。来年はもう少し上手く入れ替えて、もっと成績を良くしないとなと考えています。
大きいレースを勝てる馬を送り出したいし、2歳の若駒を走るように、良い結果を出せるようにもしたいと思っているのですが、調教師は勝ち星の数で評価される部分もありますからね。そこの部分で、馬の入替を上手にやって成績を上げていかないとね。
4歳の今年、重賞2勝を挙げているベンテンコゾウ
最後にラブバレットに戻りますが、JBCが行われる京都への輸送はかなりの長時間になりますね。
陸路でだいたい12時間くらいでしょうか。前々日の輸送で行く予定です。まあ笠松とか園田とかと同じだからね。門別だってトータルでそれくらいかかる。門別だと船に乗らないといけないから馬への負担はもっと大きくなる。それに比べたら陸路の12時間ならね。長距離輸送には慣れているし動じない馬だからその辺は問題ないでしょう。
では最後に、オッズパークの会員の方々へひと言。
これからも岩手競馬をネット等で楽しんでいただけたらと思います。よろしくお願いします。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
10月10日に地方通算300勝を達成した木之前葵騎手。今年度のレディスヴィクトリーラウンド(LVR)では10月7日の開幕戦・佐賀ラウンド第1戦で勝利を挙げました。昨年度はLVRで未勝利だった木之前騎手。しかし、1年の間に騎乗について「これでいいんだ!」という発見から「追えるし、動けるようになった」と言います。さらに「前よりは競馬が絶対に上手くなっている」と話す理由とは。LVRの目標も含めて語っていただきました。
地方通算300勝、おめでとうございます!
ありがとうございます。あと2勝の状況でLVR佐賀だったので、そこで2連勝をすれば決められる!と思ったのですが、甘くなかったですね(笑)。それでも佐賀で1勝を挙げて、名古屋に帰って開催2日目で達成できたのでよかったです。自厩舎(の馬)で300勝を達成できたことも嬉しいですね。
いま話題にも出たLVRについてお伺いしたいのですが、まずは開幕に先立って行われたばんえいエキシビション(2位)の感想を教えてください。
超たのしかったです!まゆゆ(鈴木麻優元騎手)と接戦だったので、「行けーいけーっ!」って追っていて、1人で盛り上がっていました。騒がしかったと思います(笑)。ばんえいはまだ慣れていませんが、初めてだった昨年よりは動けました。私だけスタートから立っていって、途中からは鞭も入れました。ばん馬はハミに敏感で、真っすぐに走らせるのが大変でした。馬にもよりますが、もしかしたらサラブレッドより口が柔らかいのかもって思うくらいでした。
木之前葵騎手(4)と鈴木麻優元騎手(3)(写真:ばんえい十勝)
昨年のLVRは残念ながら未勝利でしたが、今年は開幕戦の佐賀でいきなり勝ちました。幸先のいいスタートを切れましたね。
昨年は全然歯が立たなかったですね。1年目のLVRは盛岡ラウンド(2016年11月7日)で勝つことができたので楽しかったです。やっぱり勝てないとつまらないから、今回久しぶりにLVRで勝つことができて嬉しかったです。レースはスタートを決めたんですが、周りが速かったので控えて、終い重視のレースをしました。必死に追っていたので、最後はゴール板がどこかわかりませんでした。LVRを行う佐賀競馬場と高知競馬場は内を空けて走るので、慣れなくて乗りにくいですね。いつもなら「ここを取っちゃえば内からはこないだろう」っていうのがあるのに、インから来られると「うわ~来ちゃった」ってなります。佐賀で勝った時は、4コーナーで地元の岡村健司騎手が内を通っていたので「ここは走って大丈夫だろう」とインを選びました。
昨年、LVR開幕前に「馬に乗る場所(重心)の感覚が0になる時がある」と悩んでいました。それは解消されましたか?
克服しました!鐙を1つ伸ばしていたんですが、それを戻したら「なんだ、これがいけなかったのか。私、ここでハマれるんだ!」って思いました。追い方もバラバラになっちゃっていましたが、それからはいい感じに追えるし、動けます。
モヤモヤ悩んでいたのが解消されて何よりです。でも、鐙を短くして乗るのは体力を使いそうですね。
そうですね、脛(すね)にきます。日々の調教がトレーニングになりますね。調教では1日の半分の体力を使っちゃうんじゃないかってくらいで、いまは平均して23頭、自厩舎をメインに乗っています。笠松開催中は攻め馬が多くて、調教が終われば急いでレースに乗りに行くので体力不足を感じます。でも、いい波に乗れている時は体の使い方が違うのか疲れないんですよね。気持ち的にも何でもできそうな気がします。その代わり、波に乗れていない時はダメなので、波を平均にしていきたいですね。
数字の面では2016年70勝をピークに2017年58勝、今年はここまで46勝と減っているようには見えますが、経験を重ねるごとにその内容も変わっているのではないかと思います。
3年目くらいまでは乗っていれば勝てるようないい馬が自厩舎にたくさんいて、そのおかげでたくさん勝たせていただいていました。今は本命がつかないような馬でどうやって勝つかっていうことを考えています。だから、前よりは絶対競馬は上手くなっていると思います。力が五分の馬で、いかにソツなく回って勝つかですよね。位置取りが全てだと思っています。ハナに行ければやっぱり楽だし、逃げ馬の後ろもめっちゃいいですよね。4コーナーで進路が空くと思うので、焦らないで待つようにしています。
そうなると、スタートもポイントになりそうですね。
私、スタートが下手なんですよ。いい時はピシッとなって馬が私の乗っているところで動けなくなるんですが、ダメな時は馬がゲートの中で動いちゃってタイミングがズレるんです。先輩方はいつもできているのに、なんで私はできないんだろう?って思います。まだまだ上達への道のりは長いですね。
それではLVRでの抱負と、これからの目標を教えてください。
LVRは佐賀ラウンドで1勝を挙げられたのですが、逆転される可能性があるので、この後の高知・名古屋でも勝てるようにがんばりたいです。これからの目標は、上手くなりたいっていうのはあるけど、そろそろ重賞も勝ちたいって思います。2017年1月に園田クイーンセレクション(カツゲキマドンナ)を勝って以来、重賞制覇がないのでがんばります。
最後に、オッズパーク会員のみなさんへメッセージをお願いします。
いつも名古屋競馬を観戦していただいてありがとうございます。年間100勝を目指してがんばるので、応援してください!
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※インタビュー・写真 / 大恵陽子
板垣吉則調教師は2015年度にシーズン127勝という大記録を打ち立ててから3年連続で調教師リーディングを獲得。今シーズンもここまで1位を守り続けている。オッズパーク地方競馬応援プロジェクトのマリーグレイスでは8月の若鮎賞を勝利。昨年はキングジャガーが3歳重賞を4勝するなど重賞戦線でも存在感を示し続ける。その秘訣はどこにあるのかを改めてうかがってみた。
まずマリーグレイスについてうかがいます。若鮎賞では8番人気ながら1着と見事な走りを見せてくれました。
厩舎に来た当初は小柄ですが気が良い馬だという印象で、仕上げにはそんなに手間取らないだろうなと思っていました。実際能力検査もすぐ合格してくれましたね。
デビュー戦のマリーグレイス
結果的にはデビューから3着→2着→1着で重賞制覇ということになりましたね。
デビュー戦の時は期待していたんですけど、ちょっと外に膨らむようなレースになってね。その時は3着という残念な結果でしたが、2戦目には好スタートを切って先頭を進んだらよく粘ってくれた。現時点ではそういう形のレースが理想なのかなと、その時から感じていました。若鮎賞は、1600メートルという距離がどうなのかなと思って挑んだのですが、頑張ってくれました。
普段のマリーグレイスはどんな馬なんですか?
調教なんかでもちょっとピリピリした所がありますね。競馬場に来る前からそういう面があったそうなんですが、牝馬らしい気が勝った感じというかね。でも悪さはしないですよ。素直です。
若鮎賞を制したマリーグレイス。8番人気での勝利
では話題を変えて。今年もここまで調教師リーディングの1位を守ってきています。今年も、馬の回転とかいろいろうまくいっているように見えます。
自分としてはもっと上手くやれた部分があるような気もするのですが、欲を出してもキリがないですし。今一番上にいるというのは、良くやって来たということにしていいかな。
過去との比較ですが、2015年のペースにはさすがに届きませんが2016年よりは良くて、去年と比べるとちょっと遅れてきたという感じです(夏の水沢開催終了時点で比較すると、2015年は79勝、2016年は49勝。2017年が61勝で、今年は53勝)。
相手があることですし生き物を扱っているわけだし、良い時悪い時の波があるのは仕方がないですよね。毎週コンスタントに勝てるというものでもない、そういうものだという覚悟はしながらやっています。
今年ここまでの手応えとしては? 手駒の揃い具合とかは。
だいたいシーズンの半分が終わった所になりますが、そうですね、例年は2歳馬の成績がもうひとつなのですが、今年はわりと良く走ってくれる馬が揃っていますし、古馬も勝つべき所は勝ってくれている。あと、自分の所は3歳馬が多いから、このあとは有利な戦いができるのではないかな。
今年は古馬の強い手駒がちょっと少なくて、古馬の重賞なんかはなかなか手が届かないなとは感じているんですけど、その代わり2歳や3歳の若馬に良い馬が多いのでね。そこは楽しみにしています。
毎年感じるのですが、板垣厩舎は馬の入替が早いというか柔軟というか、どんどん入れ替わっていく印象があるんですけど、そこは調教師の意向や指示なんですか?
いや、その辺は全て馬主さんの意向ですね。馬主さんが諦めようかという馬を、力があると思うからもう少し頑張ってみましょうと提言することはもちろんあるけど、基本的には馬主さんの考え通りかな。そこは"馬主ファースト"ですね。
板垣厩舎というとですね、厩務員さん達がずっと同じ顔ぶれですよね。良い厩務員さんが長く勤めているのも良い成績が安定している要因なのではと思いながら見ています。
うちの厩舎は、例えばどういう飼い葉にしようとかどういうケアをしようとかいう部分はほとんどをそれぞれの厩務員に任せています。もちろん自分が指示を出すこともあるんですが、ほとんどの場合は厩務員自身の判断でやってもらっています。自分は気になる馬を自分で調教で乗って確認したりするくらい。
厩務員さんの自主性に任せるわけですね。
やっぱり自分の考えでやってみないと腕が上がらないし、上から"今日はこれだけ食べさせろ、これだけ調教しろ"と指示されてやっても楽しくないと思うんですよね。自分の考えで馬を仕上げてそれで良い結果が出ればやりがいにもなるでしょうし。自分はそういうスタンスでやっていますね。
あともうひとつ聞きたいのがですね、以前、所属する厩務員さん全員が、担当馬が重賞を勝ったということがありました。そういう馬の分配のようなのは調教師が決めるんですか?
それはほとんどの場合は"手が空いている順"です。ごく稀に、例えばこの馬の性格ならこの厩務員が合いそうだなと思って任せることはあるし、馬主さんの希望で担当者を決めることもありますが、ほとんどは馬が来たその時に馬房が空いている厩務員が担当するようにしています。
じゃあ本当に運というか公平というか。厩務員さんもやる気になりますよね。
任せてみてどうしても合わない、どうしても結果が出ないという時は担当を変えることもありますけど。でも"良い馬は全部この厩務員に"ということはないです。
さて、これから楽しみな馬とか注目の馬とかを挙げていただくとすると?
マリーグレイスは、そうですね、小柄な馬なので芝とかの方が良いのかもしれませんが、粘り強いレースをしてくれるので楽しみにしています。それからミラクルジャガー。まだ馬体に緩さが残っていて成長途上なのですが、良いものは持っていると思う。良くなるのが2歳のうちなのか3歳になってからなのかはまだ分からないですけどね。兄(キングジャガー)もそういう所があったので、いずれ変わってくると思っていますよ。
2017年、3歳重賞で4勝を挙げたキングジャガー
30代のうちに騎手を引退し調教師に転身した板垣吉則調教師は今年がまだ9年目のシーズンなのだが、すでに通算605勝(9月27日現在)を挙げしっかりとした足場を築いているように見える。何よりも衝撃的だったのは2015年に叩き出したシーズン127勝という岩手競馬の調教師歴代最高となる勝利数で、そう簡単には破れないと思われていた旧記録(113勝)を大きく超えた所に調教師としての手腕の凄みを感じさせられたものだった。9シーズン目ながらもまだ40代の若い板垣調教師だけに、その覇権の時代はまだしばらく続くのではないだろうか。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
宮川実騎手は、高知競馬でリーディング上位を常にキープ。キャリア20年目の今年は、初めての高知リーディングが視野に入っています。
今年は所属する打越勇児厩舎が全国リーディングを狙える勢い。宮川騎手も順調に勝ち星を積み重ねていますね。
厩舎に良い馬がいて、その馬に乗せていただけて、本当にありがたいと思います。厩務員さんがしっかりと馬をつくってくれていますし、厩舎全体がひとつになっている感じがしますね。それはもちろん、以前から変わりないことなんですが、今年はその積み重ねが実を結んでいるように思います。
それにしても、打越厩舎はかなりの好成績です。
高知のローテーションだと連戦になりがちですが、調教で僕が乗って気になるところがあるとか、厩務員さんが馬の体調に不安があるとか、感じたことを先生に伝えると、馬を休ませてくれることが多いんです。馬は本当に調子が悪くなると、立て直すのはとても難しいこと。でも、そうならないうちに休ませてもらえるんです。たとえば次の週に開催がないときなどは"もう1回だけ"と出走させるケースが多いんですが、それをガマンできているというか。1開催休んだだけでもけっこう違うものなんですよ。
そういう厩舎の好成績に、宮川騎手も乗っているところがあるのでしょうね。ただ、高知での勝ち星は永森大智騎手と競っている状況です。
年末までは時間がありますから、まだそれほどの意識はないですけれど、リーディングを取れるくらいの馬にたくさん乗せてもらっていると思います。でもまだまだミスが多いとも感じます。それを減らしていくのが第一。そういったなかでも、自分が納得できるレースができればと思っています。
ゆくゆくは赤岡修次騎手のように、高知以外でも活躍できればいいですよね。
いやいや、そこまでの余裕は今のところないですよ。でも修次さんとか、巧い人の乗りかたを間近で見るのは勉強になります。見習いたいのは精神的な勝負どころや、瞬間の判断力などですね。道中の仕掛けがほんの少し遅れるだけでも結果はすごく変わりますし、自分がちょっと気負うだけでも悪いほうに違ってきます。僕が常に考えているのは、馬のリズムを壊さないようにすること。馬を気持ちよく走らせることがいちばんだと思っています。
それは現役でいる間はずっと課題になりますね。
負けたとき、『あの場所で馬が行きたいと言っていたのに、それに対応してあげられなかったな』とか感じることがありますね。結果が伴わないことが続くといろいろと考えてしまいますので、いつも自分に対して「レースを楽しめ」と言い聞かせているんですけれど。修次さんは控室では笑っていますが、レースになるとすごく集中している顔つきになるんですよ。そういうところも見習っていきたいです。
それでも大ケガがありながら、今年でキャリア20年になりました。
年とともに、だんだんと体が張ってくる、その間隔が早まっている気がしますね。以前からマッサージや整体にはよく行っていたんですが、その回数が増えました。若いころは腰がけっこうキツくて、でもしばらくしたらあまり気にならなくなったんですが、最近また張りが出てくるようになってきて......。それがあると体のバランスが悪くなってしまうんですよね。
となると、普段の生活も変わってきましたか。
そうですね。遊びに行く回数は減ったかなと思います。とくにサーフィン。無理してケガしてもしょうがないですし(笑)。
最近の高知競馬といえば、売り上げの上昇と賞金の上昇が目につきます。
2歳の新馬戦も始まりましたし、以前よりもいい馬が来るケースが増えたことは実感しています。デビュー前の馬の調教は危険が多いんですが、昔に比べればかなりマシですよ。厩舎にもデビュー戦から連勝したグローサンドリヨンとか、期待できる2歳馬がいます。高知の馬場で鍛えられて上のクラスまで行けた馬は、県外でも通用しますからね。騎手も増えてきましたし、以前よりも活気があるのは間違いないです。
一方で、騎手が増えるということはライバルも増えるということですよね。
自分としては、前の年よりも多く勝ちたいと思っています。ただ、この世界は上を見るとキリがないですからね。それでもこの春には福永洋一記念(ティアップリバティ)を勝たせてもらいましたし、今年は厩舎の勢いをジャマしないようにできればいいかな。
そしてこの9月には別府真衣騎手との入籍が発表されました。それもプラスになっているのではないですか?
生活のリズムが同じですし、僕の多趣味に付き合ってくれているうちに自然と......という感じです。一緒にいて気持ち的に楽ですし、この夏に行ったキャンプにもついてきてくれました。普段の生活が楽しければ仕事にもつながっていきますし、いい影響が出ていると思います。でもレースではライバル。お互いに高め合っていければと思っています。
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※インタビュー・写真 / 浅野靖典