ばんえい競馬は、いよいよ3月23日に大一番のばんえい記念を迎えます。1月に通算3500勝を達成し、ばんえい競馬の最多勝記録を更新し続ける藤本匠騎手(52)に話を伺いました。
1月末のヒロインズカップでは、ダイリンビューティで重賞50勝となりました。
50勝だったかい。ダイリンビューティは、この日120%、完璧のレースをしたね。最高の流れだった。運を引き寄せる物を持っている馬だと思う。オリンピックだってそうだよね。実力があっても結果を出せない人もいる。馬の性格は真面目だよ。悪い癖がなく、レース運びがしやすい。それでいて障害もいい。これは競走馬にとって大事。デビュー前の能検にも乗っていて、真面目でいいものがあるから体ができれば3、4歳で開花すると思っていた。5点満点なら4点で、残りの1点は体ができてない、ってところのみ。
「いいもの」というのは? また、成長しそう、というのはどこでわかるのですか。
触る(乗る)とセンスがわかるんだけど、長年の勘なんだよな。ベンツに乗ったことのない人は、その良さってわからないと思うんだ。サカノタイソンもすごいって言われるけど、乗ったことがある人にしか、本当のすごさはわからない。デビュー前の能検の結果がいい馬もいるけど、初めて競馬場で走るからびっくりしていいタイムが出たり、たまたまいい時計を出す馬もいる。騎手は、体に「いい馬のイメージ」が蓄積していくんだ。それが財産。乗れば乗るほど、財産は増えていくよ。トップジョッキーはみんなそうだと思う。
サカノタイソンの本当のすごさとは。
あんな強い馬、今まで巡り会ったことない。次元が違う。パワーがけた外れだし、ハナに行けて、障害もうまいし、障害を降りてからも歩ける。3拍子そろっている。 そういえぱ、ヒロインズCの前に死んでしまったブラックパールね......、(ヒロインズCに)出ていたら20キロハンデがあってもいいレースをしたと思う。体が大きくて、無理もきく。アンローズも大きかったけれど、そのくらいの馬格があった。
これから期待する馬はいますか?
コウシュハウンカイは、若馬の時からオープンで走れるかな、と思っていた。重い荷物に対応するから、(高重量戦の多くなる)今後の希望を抱かせるね。コウシュハゴールドは、素質があるから体できればおもしろいかな。
いい馬の見方というのはありますか?
長腹短背とか、見た目のバランスがいい馬っているけれど、バランスいいから能力があるというわけでもないんだ。そりをかけてみないとわからない。こればかりは、持って生まれた能力だから。見た目悪くても走る馬っている。ただ、形いい馬で引っ張った方がレースを見ていても飽きないよね。頭小さくて、目ぱっちりしてる馬とか、かっこいいじゃない。
さて、1月1日に3500勝を達成しました。勢いは止まりません。
正月に決めたなぁ、と(笑)。この時点でシーズン100勝も超えられていたことはよかった。大きな怪我をせずにここまで来られたからね。手にひびが入った時に1カ月休んだくらい。我慢強い方だから、ちょっとした痛みなら乗っていた。
健康の秘訣は何でしょう。何か、体を鍛えていたのでしょうか?
開催が12月までだった20~30代の頃は、開催がないときに帯広のアイスホッケーチームに加わってたんだよ。釧路にいた小学生の時に友達に誘われてから、ずっと好きでね。汗かいて、運動になった。アイスホッケーの靴って、リンクでなかなか立ってられないんだよ。
バランス感覚も鍛えられたのでしょうね。プレーを見てみたいです! 最近若手騎手の活躍がみられますが、いかがですか。
みんな頑張っているよね。所属する岩本利春厩舎の島津新も、運を持ってる。いつも攻め馬(調教)を頑張っているし、心配ないよ。ただ、若い騎手はもっと個性を出していいのかな、と思う。昔の騎手は、自分の「型」を持っていた。勝つためなら、人が何と言おうとね。木村卓司さん(元騎手・調教師)、金山明彦さん(現調教師)、最近ならそりの上でジャンプしていた坂本東一さん(現調教師)とかね。最終的には人に真似させるような、ぼい(追い)方になっていく。 今の若手も、中には質問してくるのもいるけど、自分は気になったらすぐに聞いていた。自分はできないのに、どうして金山さんならできるんだろう?と。
今後の目標は? やはり4000勝とリーディングでしょうか。
それよりは、あと何年乗れるか。騎手できるまでやりたいし、やれると思う限りは続けたい。1年1年体と相談しながら、人に迷惑かけないようにね。まだ長老いるからね! 山本正彦騎手(56)より先にやめるわけいかないから(笑)。レジェンド山本だよ? ばんえいの歴史の中でも最長老なんじゃないかな?
レジェンド山本、いいですね(笑)。さて、いよいよ今月末はばんえい記念です。
今年はまだ乗る馬は決まっていないけれど、乗りたいし、1回勝つとまた勝ちたいんだ。2回勝ったけれど、騎手なら何度でも勝ちたい。中央競馬でいえばダービーみたいなもの。ばんえい記念で有利なのは、障害を先に降りられる馬。だから、障害を真っすぐ進む(真面目な)性格の馬が向いている。返事遅い馬なら話にならない。キンタローやトモエパワーみたいな、ばんえい記念で差せる馬っていうのはなかなかいないんだわ。 障害を、何度も何度もチャレンジするところがこのレースの醍醐味。膝折ったりしながらも越えていく。その姿をぜひ、見に来てください。
昨年のばんえい記念はシベチャタイガーで8着
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※インタビュー・写真 / 斎藤友香