荒尾競馬廃止と共に、一度は騎手を引退した田中純騎手。昨年再び騎手免許を取得し、弟の田中直人騎手と同じ佐賀競馬場で、第2の騎手人生を歩み始めています。引退から復帰までの葛藤、そして現在の心境をお聞きしました。
赤見:まずは荒尾時代のお話からお聞きしたいんですけど、廃止が決まった時はどんなお気持ちだったんですか?
田中:廃止と聞いた時は......正直全然実感がなかったですね。毎日の生活というか、調教してレース乗ってっていう今までと変わらないことをしていたので、廃止って言われてもピンと来なくて。 何年も前からそういう話もあったし、どこかに移籍しようかなとは少し考えたんですけど。自分の中でちょっと冷めてたというか、どこの競馬場に行ってもまた廃止の話が出るんじゃないかっていうのが頭にあって、結局移籍に関しては真剣には考えなかったです。
赤見:荒尾廃止後は、北海道の牧場で働いたんですよね?
田中:そうです。今まで騎手の仕事しかしたことがなかったので、初めての経験ばかりでした。牧場の仕事をやらせてもらって、騎手をしている時に忘れていた、騎手としての喜びを想い出したというか......。やっぱり、レースで馬と一緒にゴールに入れるのは騎手だけじゃないですか。そういう楽しかった想い出ばっかりよみがえってきて、改めて騎手になりたいって思ったんです。
赤見:そこからどう行動を起こしたんですか?
田中:今所属している頼本盛行先生や、真島元徳先生に相談しました。佐賀で厩務員をしながら騎手を目指そうと、真島厩舎でお世話になることになったんです。と言っても、厩務員さんの仕事というよりは、調教に乗ることが仕事だったので、レースに乗らないだけで、仕事内容は騎手時代とあまり変わらなかったです。
赤見:改めて、騎手免許試験を受けた時はどうでした?
田中:騎手を辞めてそんなに時間が経っていたわけではないので、試験の内容自体はそんなに苦労はなかったです。ただ、周りの方々にすごく良くしていただいて、すごくお世話になっていたので、絶対に失敗できないと思いました。こんなに環境を整えてもらったのに、落ちるわけにはいかないですから。とにかく、早く乗りたくて乗りたくて仕方なかったですね。
赤見:見事合格したわけですが、再デビューは福山競馬場でしたよね?
田中:そうなんです。地区によって騎手免許試験の日程が違っていて、佐賀より福山の方が試験日が早かったんですよ。それで、福山の方から、ジョッキーも少ないし期間限定でいいから来てみないかと言っていただいて。3か月限定で、騎乗させてもらうことになりました。
赤見:実際に再デビューした時はどんな気持ちでした?
田中:約10か月ぶりだったんですけど、やっぱり嬉しかったですね。ただ、もともと乗っていた荒尾だったらまだしも、初めて乗る競馬場だし、人間関係も大切ですから、不安もありました。新人と同じと言っても、10年も乗ってるわけだし、許されるふり幅は少ないという気持ちでした。でも本当に温かく迎えてくれて......。すごく感謝しています。
赤見:田中騎手が福山で騎乗している間に、福山の廃止が決定してしまいましたね......。
田中:僕も1年前に同じ経験をしましたから、気持ちはすごくわかりました。荒尾の時と同じように、やっぱり毎日の調教やレースがあるので、みんなあまり実感がない様子でした。廃止は経験してみないとわからないし、実際に終わってからじゃないと実感は沸かないと思います。 でも僕の存在を見て、『騎手を辞めようかなとも思うけど、お前みたいに乗りたくなるかもしれないから、移籍しようかな』と言ってくれた人たちがいて、すごく嬉しかったです。福山に行って良かったなと思いました。騎手を辞めるのは簡単だけど、戻るのは大変ですから。
赤見:現在は佐賀所属となりましたが、どんな心境ですか?
田中:まだ2か月なんで、ボチボチという感じです(笑)。いろいろ難しい部分もありますけど、荒尾からも近くてたまに乗りに来ていたし、荒尾時代の仲間もいるし、佐賀でもすごく温かく迎えてもらいました。弟(直人騎手)がすごい勝ってるんでね、兄の威厳を保つためにも負けてられないです! 一度騎手を引退して、遠回りしたんですけど......。いろんな人に迷惑かけたりお世話になったりして、いろんなものを見せてもらって。今まで見えなかったものが見えるようになりました。周りの方々には、本当に感謝しています。僕にとっては、必要な時間だったのかもしれません。騎手を辞めたことは無駄じゃなかったと思ってます。今、すごく楽しいですから。
赤見:では、今後の目標を教えて下さい。
田中:今は1日でも長く騎手を続けたいですね。もう簡単には辞めないです(笑)。一生懸命頑張って、上の方の人たちを蹴落とすくらいの存在になって、競馬の楽しさを伝えていきたいです。佐賀だけじゃなくて、いろいろな競馬場で乗りたいとも思っています。それで、1人でも多くの人にレースを楽しんでもらえたら嬉しいです。
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 赤見千尋 (写真:佐賀県競馬組合)