笠松で再デビューを果たしてから5年、一昨年には重賞勝ちも果たした吉井騎手に、2012年の暮れ、12月30日にお話しを伺いました。
坂本:2012年、どんな年でしたか?
吉井:大きなところは勝ててないんですけど、まあまあ勝ち鞍も伸びたし、今日明日でできるかどうかわからないですけど、あと2つ勝てれば一応年間100勝なんで、できれば大台に乗れればいいかなとは思ってるんですけどね、なんとか(苦笑)。
坂本:笠松で再デビューしてから、自分で『変わったな』と思うところはどこですか?
吉井:そうですね、岩手でやってるときはもう乗せてもらったら『やったー!』ていうくらいの気持ちだったんですけど、数を全然乗ってなかったので。再デビューしてからはハングリー精神が出てきましたね。やっぱ、乗れなかった時期があったからだと思うんですけど、競馬は勝ってなんぼなんで、『乗ってやったー』じゃなくて『勝ってやったー』に変わったっていうか。その分、厳しいことも増えましたけど。
坂本:『乗ること』から『勝つこと』に意識が変わった?
吉井:そうですね。
坂本:ではなぜ、岩手をデビューの地に選んだのですか?
吉井:ただただミーハーな感じなんですけど、芝のレースに乗りたかった、それだけです。盛岡だったら芝のレースもあるし。ほんとそれだけですね。
坂本:その後、騎手を一旦やめ、そして笠松から再デビューしました。笠松に来るきっかけはなんだったんですか?
吉井:尾島(徹騎手)が同期で、「とりあえず厩務員からやってみないか?」と連絡がきたのがそもそものきっかけですね。ま、騎手としてではなく厩務員としてですけど、また馬に乗れるんなら乗ってみたいしなと思って来たんですよね。
坂本:そこからまた騎手としてやってみようと思ったのは?
吉井:考えたのは森山厩舎に入ってからですね。笠松に来て最初にお世話になった先生がやめて、その時に森山先生に拾ってもらって、そこからですね。
坂本:厩務員として馬を世話するのと、騎手として馬に乗るのとでは、やはり違う?
吉井:厩務員やってたときも攻め馬とかで馬に乗ってましたけど、レースを見るとやっぱり乗りたいなって思いましたよ。騎手やめてすぐのときなんかは、もうわざと避けるように見なかったりしてましたね。乗りたくなりそうな気がしてくるのもわかってたし。
坂本:乗ってて『うれしい』と感じる瞬間は、どんな時?
吉井:1歳とか2歳とかで入って来て、自分である程度調教した馬を初めて走らせたときですね。勝ってくれるとなおうれしいです。そういう馬のほうが思い入れがあるのかもしれないです。
坂本:今までで一番印象に残ってる馬は?
吉井:印象に残っていいイメージなのはヤマニンピトレスクですね。自分が乗って4連勝する馬なんて初めてだったんで。この馬にはだいぶ成長させてもらったかなと思います。逆に、悪いイメージとして残ってるのは、岐阜金賞のコロニアルペガサス(笑)。もう、あれは完全に勝ってたんでね、僕のミスだけで負けてるんで。ずっとそれが残ってます。ま、その次の日にモエレトゥループで初めて重賞勝てたから、ちょっと吹っ切れてる部分もあるけど、そこで勝ってなかったらもっと悔しいですよね。
坂本:重賞はその1つだけ?
吉井:そうですね。SP1もまだ勝ってないですね。勝ったジュニアクラウンはSP2ですから。岐阜金賞がSP1で......。もうちょっとゆっくり動いてたらなぁ......。
坂本:やっぱり、重賞だと焦る?
吉井:今だったら大丈夫だと思うんですけど......もう1回、今の精神状態で乗りたい。あのときに戻りたいっていうのはすごくありますね。まあ、でもしょうがないんですけどね。そういうのを経験して、逆に覚えることもあるでしょうし、あれがなかったらまた違うとこでミスしてるでしょうし。何とも言えないですけど、今の状態でコロニアルに乗れたら自信持って乗ったでしょうし。
坂本:今なら落ち着いて乗れる?
吉井:でも、重賞とか認定とか新馬っていうのは気合が入りますよ。いい意味で緊張する分には、たぶんいいと思うんですけど、あの時は緊張しすぎた。特に、あの3コーナーあたりから意識が完全に『勝ち』になってしまったんで、その前にもっと勝ち方を覚えてるジョッキーだったらあんなミスはしないでしょうね。
坂本:今度、幼馴染みで後藤保厩舎の厩務員をやっていた山下(雅之)君が騎手として新たなスタートを切ります。ライバルが増えるという感じはありますか?
吉井:僕としては、中学校の頃に同じ乗馬クラブに通ってたんで、一緒に乗れるのはうれしいですね。ライバルだけどうれしいですね。でも、手は抜かない。ただ、はっきり言うと厳しいと思う、最初は。学校で模擬レース乗ってたわけでもないし。
山下雅之騎手(右)と
坂本:騎手の先輩として、教えることはありそう?
吉井:教えるといっても経験なんでね。僕らの仕事なんて。ま、僕が教えるっていうのにも限界があるし、僕だって何から何までわかってるわけでもないし、一流じゃないし。本人が、他人からどれだけ吸収するかじゃないですかね。見て盗むっていうのもあるし、まねしてみるのもいい。そういうことも必要じゃないですかね。
坂本:じゃあ、今後が楽しみですね。
吉井:そうですね、楽しみっちゃあ楽しみですけど、1年目から越されたらどうしようかなと思いますよ(苦笑)。
坂本:よき友達、よきライバルですね。
吉井:そうですね、早く一緒に乗ってみたいですね。
坂本:最後に2013年の抱負を。
吉井:もし、年間100勝できてなかったら今度こそっていうのもあるし、まあ数だけこだわってもしょうがないんで、やっぱり大きいところも勝ちたいですね、久しぶりに。今、リーディング3、4位くらいのところにいるんですけど、上の2人、尾島と東川さんは大きいところもバンバン勝ってくし、平場もバンバン勝ってく、そのへんで差があると思うんです。平場でしか勝てないっていうのも恥ずかしいんで、大きいところでも勝ちたいですね。ってここで言ってて、今日のマユノプーリンで勝ったらどうしようかね(笑)。ま、でも、こういう雰囲気をどんどん味わっていきたいですね。あと、自分とこの厩舎(森山厩舎)の勝ち鞍がなかなか増えないんで、そこも頑張って増やしていきたいです。
吉井騎手の2012年は、インタビュー当日の1勝が最後となり大台には星ひとつ届きませんでしたが、リーディングを狙える位置まで登ってきました。新たなライバルを迎え、今後さらなる飛躍が期待されます。
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※インタビュー・写真 / 坂本千鶴子