若手騎手の期間限定騎乗、多数の遠征馬の登場、そして夜さ恋ナイターの開始。高知競馬の数々の特徴からは、厳しい時代に負けぬようにという、そんな気持ちが伝わってくる。その高知競馬場で騎手会長を務めている西川敏弘騎手に、高知競馬への思いのたけを話していただいた。
2009年、西川騎手はスパイナルコードでJBC(クラシック)初参戦となった。
■ああいうレースに出ること自体がすごいことですからね。普段は全然緊張しませんが、あのときはさすがにアガりました。ただ、このメンバー相手では全然ついていけないんじゃないかと心配していたんですよ。でも結果は10着でしたが、自分が思っていたよりは頑張ってくれたと思います。
そのスパイナルコード。夜さ恋ナイターが始まってからの快進撃(6連勝)には、目をみはるものがあった。
■もともと夏には強くて、気温が上がると動きも変わるんですよ。それにしても58kgで勝ったときにはビックリしました。スパイナルコード自身、ナイターのリズムがハマったところがあるかもしれません。
西川騎手自身も、夜さ恋ナイター開幕2連勝を飾っている。
■いや、普段は夜8時くらいには寝ているんですよ。だからナイターが始まる前は大丈夫かなあと思っていました。でも慣れたらかえって楽ですね。朝の調教が終わってからレースまでゆっくり休めますから。開催日が連続するときの生活は、夜11時くらいに寝て、朝2時半に起きて馬場入り。調教が全部終わってから昼寝して競馬、という感じです。
上々の滑り出しをみせている夜さ恋ナイター。実際に騎乗してみての感想はどうなのだろうか。
■開始前には"暗い"とか"危ない"とかいろいろ言われていましたが、乗ってみると案外大丈夫ですよ。昔からのファンからは『なんで夜に競馬をするんだ』などという声も聞かれますが、ぼくらも売りたい一心でやっているわけなので。主催者の方々も一所懸命に仕事しているのがわかりますし、ぼくらもガマンできるところはガマンして、協力できることは協力しなければ、と思いますから。
西川騎手はキャリア23年目。いい時代も悪い時代も知っている人だ。
■確かに昔のことを思ったら今の状況はナンですけれど、切羽詰ったら何でもできますよ。やっていることは昔と変わりませんし、競馬に対する気持ちも変わりません。むしろ昔より強くなったと思うくらいです。ただね......、いちばんさみしいのは馬が減っていくこと。だからローテーションもきつくなりがちですし。ナイターをきっかけに、もうすこし馬が増えてくれるといいなと思っています。
騎手目線から見る高知競馬の魅力とは、どのあたりだろうか。
■馬券的にはけっこう当たりやすい競馬場だと思いますよね。配当は安いかもしれませんが、当たるからけっこう遊べると思います。それで最終レースは一発逆転。これが魅力だと思いますよ。乗っているぼくらも全然わからないですから。
その"一発逆転ファイナルレース"。難解さが人気を呼び、ときにはメインレースより発売金額が大きいこともあるらしい。
■そのレースに出られると決まるのは、だいたい2週間前。選ばれたら調教師さんは、そこを狙ってビッシリ仕上げていきます。騎手のぼくらも気合が入りますよ。普段なら全然ダメだと思ってしまうような馬でも、ひょっとしたら......と思いますもの。
こういうレースがあると、騎手もやりがいがありますね。馬券を買っている人も、そういうレースが1日にひとつかふたつ、あったほうが面白いのではないですか?
逆転の発想で興味ある競走番組を創り出している高知競馬。そういった日々の競馬から、フサイチバルドルを筆頭に復活や変身を遂げる馬が数多く出現している。
■ぼくも毎日20頭近くに調教をつけていますが、高知競馬の騎手は調教師みたいな部分があります。お決まりのメニューではなくて、乗った感覚で調整できるというか。そのさじ加減をうまくして、レースで目一杯に走れるようにと調整していけるんです。
復活や再生の理由? うーん、何なんでしょうねえ。人間がおおらかだからですかね?
確かに競馬のときは土佐の人間の本性が出るのか(笑)荒くなることもありますが、普段は全然ギスギスしていないんです。そのあたりが馬の精神的な安定につながっているのかもしれないですね。それと、高知の馬場はメチャメチャ重いんですよ。だから普通に走っているだけで、JRAの坂路くらいの負荷があると思うんです。そんな場所で日ごろ走っている馬が遠征すると、行った先での動きが軽くなりますよ。そういう競馬場だから、これからも復活する馬が出ると思います。今後は他地区でカベに当たっているような馬がもっと転入してきてほしいですね。JRAのオープン馬が高知に来たら、ダートグレードレースにも出やすくなりますよ!
経営が厳しいといわれるなかでアップしている在厩馬のレベル。それは騎手も同様だ。
■他地区から若手が修業に来ますが、上達していくのが目に見えてわかりますね。やっぱり騎手は乗ってナンボでしょう。ぼくも他地区に遠征することが刺激になっています。今年(2009年)、園田のゴールデンジョッキーカップに初めて参加しましたが、面白かったですね。さすが全国のトップジョッキー、乗り方がもうキツキツ。優勝は内田(利雄)さんにさらわれましたが(西川騎手は内田騎手と同点も、規定により2位)、本当に勉強になりました。次もまた出たいですよ。それから各地のトップジョッキーの皆さんには、もし余裕があったら、少しの間でも高知に来てほしいと思います。すばらしい若手の手本になりますから。
高知競馬騎手会長としての立場もあるが、西川騎手から感じられるのは、高知競馬への愛。「まだまだ乗っていたいので、ナイターが開幕する前にタバコをやめました」と、今後への意欲も十分だ。「今は無理ですが、いつかは短期免許で他の競馬場にも行ってみたい」という想いはあるとのこと。しかし今は高知競馬の復活を目指して、入魂の騎乗を続けていく覚悟である。
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西川 敏弘(高知)
1970年1月27日生まれ みずがめ座 A型
高知県出身 大関吉明厩舎
初騎乗/1987年4月4日
地方通算成績/13,814戦2,147勝
重賞勝ち鞍/全日本アラブグランプリ、高知県知事賞5回、建依別賞5回、二十四万石賞3回、高知優駿(黒潮ダービー)3回、珊瑚冠賞3回、金の鞍賞3回、南国桜花賞8回など54勝
服色/胴桃・右白たすき、袖白
※成績は2009年11月18日現在
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(オッズパーククラブ Vol.16 (2010年1月~3月)より転載)