一昨年、昨年に続き、兵庫ダービー3連覇を果たした木村健騎手。7月1日には、兵庫デビュー騎手では地方競馬での勝利数がトップの小牧太騎手に並ぶ勝ち星を挙げています(インタビューは6月下旬)。
今年で兵庫ダービー通算5勝目。2011年に初めてダービーを勝ってから、6年で5勝となりました。それにしても今年はきわどい勝利でした。
いやあ、持ってますねえ(笑)。ゴール地点では勝ったかどうかぜんぜんわからなくて、内にいた吉村騎手に「どっちや?」と聞いたら「わからないです!」って答えられたんです。雨も降っていましたからね。でも終わってみれば、クビ差もあったんですね。
ノブタイザンで兵庫ダービー制覇(写真:兵庫県競馬組合)
それにしても、6番人気馬での勝利とはびっくりしました。
レース前は勝てると思っていなかったですよ。ダービーの前のレースで初めて乗ったんですけれど、冬毛がけっこう残っていたんですよね。でもダービーのときは毛ヅヤが一気によくなっていました。ただ、その前走がね......。5頭立てで5着でしょ。レース内容も後方のままでバタバタでしたから。
それなのに大一番で変わり身を見せるとは、本人も驚いたのではないですか?
ダービーのときも、そんなに前半の行き脚はよくなかったですよ。2コーナーで馬に気合を入れようと腰を入れたらあまり反応がなくて、2周目の向正面で牝馬のナツに馬なりでまくられてしまったくらいですから。3コーナーでもそれほどギュンとは来なかったんですが、差を詰めるには外を回らざるをえなくなって、そうしたら内にササりながらも伸びましたからね。今までの競馬人生で経験したなかでは、いちばんというくらいの変身でした。
これで兵庫ダービーは3連覇となりました。
なんなんでしょうかね。オオエライジンの前はあんなに勝てなかったのに。なんかよくわからないですけど、うまいこと行っているという感じがしますよね。今年は展開がハマったおかげですけれど。
(ここで川原正一騎手から「勝つときはそんなもん」とツッコミが......)
そうですね。確かにそういうところはありますね。一昨年のインディウムは勝つ馬でしたけれど、今年のノブタイザンは何もかもがうまくいったというような。
(写真:兵庫県競馬組合)
2011年のダービー初勝利のときは、検量室に戻ってきたときに目が真っ赤になっていました。
あのときは、ホクセツサンデー(2着)のほうが強いと思っていたんですよ。オオエライジンはデビューから負けなしで来ていましたけれど、3カ月の休み明け。ホクセツサンデーは僕が乗った兵庫チャンピオンシップで2着に入っていたという、それが頭のなかにありましたから。いま考えても、あの世代は強い馬が多かったと思います。
続く2012年は、メイレディで逃げ切り勝ち。ダービー連覇となりました。
あれは我ながらミラクルだったなあと思いますね。ロケットスタートを決めて、スローペースになって押し切って。
その翌年はユメノアトサキが逃げ切って、木村騎手のモズオーロラは2着。そして2014年はトーコーガイアで圧勝しました。
あの勝利はインパクトがありましたね。2歳のときから走ると思っていた馬でしたし。そして、その翌年のインディウムも強かった。もううれしくて、メチャメチャ大きくガッツポーズをしてしまいましたからね。それにくらべると、今年は本当に運がよかったんだと思います。4コーナー手前では、5着ぐらいはあるかなという感じだったんですが、直線で手前を替えたらいきなりギュンと伸びましたから。
それも、木村騎手の馬を動かす技術があるがゆえだと思います。今年は下原騎手の勢いがすごいですが、勝率と連対率は木村騎手がトップなんですよ(6月末日時点)。
そうなんですか。でも僕は、ひとつひとつのレースを全力で乗っているだけですよ。いつも言っていることですけれど(笑)。これからも1頭1頭、がんばって乗っていきます。
しかしながら、ファンとしてはどうしても体の状態が心配になります。頼りになる木村騎手だけに......。
もう、そこは覚悟していますよ。いつ、腰がダメになってしまうかなんて、わからないですからね。すでに椎間板が減ってしまっている状態ですから。前回の休養のときはペイン治療をやりました。手術前は怖かったし、ものすごく痛かったですよ。でも、だからといって、レースに出るからには、僕らしくない騎乗は絶対にしたくないですからね。痛み止めを飲んで騎乗することもありますが、これからもずっと全力で乗り続けていきます。
木村健騎手は、このインタビューの翌週、7月6日に椎間板ヘルニアを発症して休養することになってしまいました。騎手は体が資本だけに、良い治療法と巡り会って、快方に向かうことを祈りたいもの。時間はかかっても、木村騎手が再びその豪快な騎乗を見せてくれるときを待っていたいと思います。
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※インタビュー / 浅野靖典
タガノジンガロで4月29日のかきつばた記念を制した木村健騎手。兵庫所属馬としては佐賀記念を制したチャンストウライ以来のダートグレード競走勝利を実現。自身としても初めてのダートグレード競走の優勝となりました。(5月17日にインタビュー)
かきつばた記念のゴール前は接戦でした。
最後は余裕がなかったですね。タガノジンガロは外に張るクセがあるんですが、3コーナーでそれが出て、修正するのに必死でした。道中はダノンカモンの後ろで『いい位置が取れたな』と思っていたら、勝負どころで外に張ってしまって。ノーザンリバーの邪魔をしたかと思ってヒヤッとしました。
それにしても最後はきわどいところでした。
いやあ、本当にギリギリ。それでも勝ちは勝ちやね(笑)。チューリップ賞(2010年3月6日JRA阪神競馬場、ショウリュウムーンに騎乗)を勝ったときもうれしかったですが、今回の勝利は格別です。
かきつばた記念(写真:愛知県競馬組合)
タガノジンガロの転入初戦のレース(3月27日)は圧勝でした。
あれ、楽勝という感じに見えたでしょう。でも馬に馬場の真ん中くらいまで持っていかれているんですよ。かきつばた記念のときはハミを替えてもらって、多少はマシになったので最後まで追うことができたんですが。あの外に張るクセさえ直れば、乗りやすい馬だと思いますよ。ただ、そのクセがなければ、兵庫には来ていないんでしょうけど......。
でも、だからこそ、かきつばた記念の結果につながったということも言えますよね。タガノジンガロは、JRAでは中距離で好成績を挙げていました。
でも、牧場からは「短い距離のほうが走る」と聞いていたんですよ。かきつばた記念のときも、成績的に一発があるかもとは思っていました。それにしても園田に戻ってきたら、たくさんのファンが単勝馬券を持っていてくれたのはうれしかったですね。それにサインさせてもらいましたが、ありがたいなと思いました。
そして地元では、今年も田中学騎手、川原正一騎手と、ハイレベルなリーディング争いをしています。
いい刺激になっていますね。順位がどうなるかは、最終日までのお楽しみってことで。でも自分としては、1頭1頭しっかり乗って、ファンの期待に応えるだけだと思っていますよ。腰がいつダメになるか、わからないですし。
それでも木村騎手といえば、全身で馬を追う姿が代名詞です。
あのアクションが僕なんで。あれができなくなったら僕じゃなくなりますからね。本当に1戦1戦、がんばっていくだけです。
タガノジンガロ、さきたま杯の1周目
タガノジンガロは、かきつばた記念のあと浦和のさきたま杯に出走しましたが、7着という結果。木村騎手はレース後、「内にササって追えなかった......」とコメントしていました。
インタビューのとき、さきたま杯については、「(新冠の)タガノさんの牧場は坂路が左回りなんですが、どうもそこでは内にササるらしいんですよ。そこが心配ですね。でも馬の力を信じて臨みたいです」と話していた、その不安が的中する形となってしまいました。とはいえ、実力があることは証明済み。今後は「少し早い夏休み」(新子雅司調教師)に入るそうです。
しかしさきたま杯の1週間後、木村騎手は兵庫ダービーを制して、改めてその存在感を示してくれました。タガノジンガロとのコンビもまた、引き続き期待できることでしょう。
6月5日、トーコーガイアで兵庫ダービーを制覇
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※インタビュー / 浅野靖典
園田競馬ファンの期待を一身に背負って、JBCスプリントに参戦したオオエライジン。願いは届かず、結果は6着。それでも地方馬最先着は果たしたのだから、メンツは保てたんだろうけど、やっぱり残念...。騎乗した木村健騎手に、話を伺って振り返ることにします。
竹之上:調子は凄く良いって陣営から聞いていたけど、調教から乗っていてどんな感じだった?
木村:調子は絶好調でした。馬が沸いてましたもん。
「沸く」という表現を、他の地区ではどうかは分かりませんが。兵庫県競馬関係者は、よく口にします。絶好調のときに、力が漲っているように思える状態のとことです。細胞のひとつひとつが小躍りでもしているのでしょうか。
木村:これまで園田では元気でも、輸送をするとシュンとしてしまうところがあったんです。それが今回は川崎についてからも元気で、やっぱり輸送に慣れてきたんやなぁと思いましたね。
竹之上:うん、それは陣営もすごく気にしていたことやったけど、その元気さを見て、ひとつ課題はクリアできたと思ったわ。それで、本場馬入場のときに、サーッと馬場を流すのではなく、ゆっくり誘導場についていったよね。
木村:あれはね、ライジンに馬場をしっかり見せたかったんです。前走の大井では、ゲート地点で物見して、そこから動いてくれなかったから、結局走るところを下見させることができなかったんですね。だから今回はそのあたり不安を取るためにしたんですけど、しっかりできましたね。
竹之上:不安と言えば、左回りの不安ってのもあったよね。
木村:調教では園田の内馬場を使って練習していたんですが、1回目は外に張って行きましてね、やっぱり無理なんかなと思ってたんです。でも2回目からはすんなり行って、やっぱり賢い馬やなと思いました。レースのときも返し馬で回ってみたんですが、何の問題もなく回れたので、おっ!これやったら行けるっ!と思いましたよ。
しかし、トップスピードでコーナーに入る実戦では、稽古とは大きな違いがあったようです。スタートは少し躓くようになりましたが、それでもスッと前に取り付き、4番手で1コーナーを迎えます。
木村:元気すぎで、以前によく出していた悪い癖の出遅れがないか心配してたんですが、それほど悪くなかったですし、前のグループについて行けましたね。ええ感じや!と思ってコーナーに入ったら、そこで外に張って行ったんです。やっぱりレースでは違いました...。
1、2コーナーで早くもムチを使って外に張るのを防ぐ木村騎手。
木村:外に張って行くので、肩ムチを入れてなんとか矯正しました。飛んで行ってしまいそうで、他の馬にも迷惑をかけるわけにいかないし...。
竹之上:向正面では内を突いて上がっていったよね。あのときの手応えは良く見えたんやけどね。期待は高まったよ。
木村:ぼくも向正面では、一瞬思いましたけど、最初にムチを入れてたんで、馬が行く気になっていましたからね。それで3コーナーに入ったらまた外に張って...。そこでまたムチを入れるわけですから、結局息が入らないんですよね。悔いが残ります。
さすがに息が入れられず向いた直線では、JRA勢の瞬発力に敵うはずもなく6着に沈んでしまいます。ただ、"悔いが残る"という木村騎手の言葉に、決して失望していない明るいものを感じとることができます。
木村:確実に成長を感じるんです。だからもっとスムーズにレースをさせられたら、いいレースができたんじゃないかってね。帝王賞(10着)のときは初めて内で包まれる競馬をして、頭を上げて馬がヤル気をなくしてしまってたんです。でも、東京盃(7着)のときは包まれても嫌気を出さずにレースができたんです。今回も輸送が一番良くて、レースでも怯むところはなかったですしね。
竹之上:落鉄もあったって聞いたけど。
木村:どこでやったかわわからないんですが落鉄していました。爪がめくれ上がって、人間でいえば深爪みたいになって、かわいそうでした。何度もコーナーでぎこちない走りをさせてしまったからですかね...。
竹之上:でも、悔しい思いがあるってことは、巻き返す自信もあるってことやね。
木村:左回りでも何度もやれば慣れては来るでしょうけど、使えるところがあまりないですし、やぱっり難しいでしょうね。でも、右回りやったら、慣れた園田の馬場やったら、巻き返せるという思いはあります。
竹之上:年末(12月26日)の『兵庫ゴールドトロフィー』やね!
木村:その前に『園田金盃』(1870m)を使います。今年からファン投票のレースになったので、選ばれればファンの期待に応えたいですし。でも、短いところを使って思ったのですが、やっぱり適性は短距離だと思います。だから、1400mの『兵庫ゴールドトロフィー』で迎え撃つつもりです。地元では負けられないって気持ちです。
最後は力強く締めくくってくれた木村騎手。昨年3着に敗れてしまった舞台。1年を経て心身ともに成長を遂げたオオエライジンなら、きっと好結果をもたらすものと信じています。ファンの熱気に包まれながら行われる年末の大一番。歓喜に"沸いている"園田競馬場の光景が目に浮かぶ。
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※インタビュー / 竹之上次男
9月8日園田競馬場第4レースで、木村健騎手(きむらたけし・35歳)が通算2000勝を達成。
デビューから14741戦目のことでした。
竹之上:達成したあとのインタビューでは、開口一番「ホッとした」って言ってたけど、本当のところはどうだったの?
木村:それが正直な気持ちですよ。自分が思うよりも周りから2000勝のことを言われていましたので、今年中にしますわ!っていつも言ってたんです。
竹:嬉しさはどう?
木:もちろん、嬉しいですけど、2000勝だけが目標じゃなかったですからね。でも、あとから考えてみると、2000勝ってすごいなぁって思えてきて、ホンマに2000勝なん?もう一回確かめてよ!って感じになりましたね(笑)。
デビューから17年目、いまや押しも押されもせぬ兵庫のトップジョッキーとなった木村騎手。今春には結婚をし、順風満帆に記録達成へのカウントダウンが始まった矢先、椎間板ヘルニアを患い戦線離脱を余儀なくされます。
木:あのときは全く動けなくなって、このまま馬に乗れなくなってしまうと本気で思いました。
いくつかの病院で治療を受けるも、一向に良化の兆しが見えない中、お世話になっている馬主さんの勧めで、レーザー治療による手術を受けることになります。
木:手術が終わったら、嘘みたいに動けるようになって、これで馬に乗れる!って嬉しくてしょうがなかったです。
闘病中、新婚である木村騎手は、奥様の献身的な支えで苦難を乗り越えていったと言います。
木:本当にありがたかったです。何をするにもずっと一緒にいてくれて、結婚して良かったなぁとつくづく感じました。
竹:でも、それからが大変やったそうやね。
木:そうなんです。実は、休んでいる間にかなり太ってしまって...。食べるものが美味しくてしょうがないんです。ぼくは普段お米は食べないんですが、お米の味をいまさらながら覚えてしまいました。美味しいですね。
竹:ノロ気ますなぁ(笑)。で、どれぐらい太ったの?
木:60キロぐらいまで...。人生初の大台に乗ってしまって...。
いや、大台はそんな低いところじゃないよ。桁が変わるところがあるのよ。とは、そこに限りなく近づいたことがある筆者は言えず、自分を棚に上げた発言をしてしまいます。
竹:それはヤバいでしょ!
木:横っ腹に肉が乗ってるんですよ、あんなの初めてですわ。だから必死で運動をして、落ちた筋肉も回復させたんです。でもそうなると、筋肉量が増えて、今度はなかなか体重が落ちなくて...。
竹:それで復帰後は斤量を55キロ以上に制限したんやね。
木:いまはようやく54キロまで乗れるようになりましたけど、あと1キロがなかなか大変なんです。でも頑張って落として見せます。
竹:2000勝したということは、来年2月(予定)の『ゴールデンジョッキーカップ』(全国の2000勝以上のジョッキーが集う園田の名物レース)に参戦することになるね。
木:すごく楽しみです。これまでは観る側にいたんですが、みんな隙がなくて厳しいレースをしているんです。だから、そこに加えてもらえるのはとても光栄です。
竹:名手が揃うと言えば、園田には以前、国際レースの『インターナショナルジョッキーカップ』があったけど、参戦したときはどんな感じだった?
木:あのときも凄かったです。内に閉じ込められたら、もうジッとしていないとしょうがないんです。抜け出す隙間を作ってくれないんですよ。
竹:じゃあ、そんな経験がいまに活きてる?
木:そう思います。そのお陰で成長できたと思っています。
ではここで、川原騎手にも聞いた質問を、木村騎手にも投げかけてみましょう。
竹:木村騎手にとって、一流ジョッキーの条件は?
木:(やや間があって)...挨拶です。
竹:へっ?礼儀ってこと?
木:そうです。どこの一流ジョッキーを見てもそうでしょ。人間的にすごい人ばかりです。人柄が良くなかったら、馬を集めることってできないと思うんです。騎手は乗ってなんぼ。そのために基本の挨拶ができなかったら、絶対だめです。
竹:深いなぁ。では、技術面ではどう?
木:ムダなく、ロスなく乗ることができることですね。でも、ぼくの場合、見てもらいたいのはダイナミックな追い方ですけどね。
そう、木村騎手の一番の魅力は、誰にも負けないあのパワフルでダイナミックなフォーム。ただ、そこに至るまでは、ムダやロスのない繊細さが必要なんですね。
竹:パワフルな姿勢は、誰にも負けたくない?
木:もちろんです!誰にも負けたくないです。とくに、馬に負けたくないんです!
うわぁ、馬と勝負してたんですかぁ。だからあの迫力、そら誰も敵いませんわ。
ド派手なオレンジの勝負服に、ダイナミックなフォーム。ファンの皆さんが馬券を握りしめていたら、これほど頼りになる男はいませんよ。
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※インタビュー / 竹之上次男
一昨年、兵庫のリーディングジョッキーとなった木村健騎手。
昨年はその座を田中学騎手に譲ったが、今年は再びその地位を奪回するべく、目下
リーディング1位を守っている。
■昨年は1カ月くらい、アメリカ(ケンタッキー州キーンランド)に行っていたんですよ。現地では、
厩舎所属騎手として受け入れていただきました。しかしさすがアメリカですね。厩舎も大きくて、
中で運動ができるくらいなのにはビックリしました。レースもこちらとは大違いで、何よりジョッキー
の迫力が違います。
直線400メートルのレースなんか、ずっと追いっぱなしですし。ただ、レースには1度しか乗れません
でした。騎手ライセンスの発給に手間取っている間に、所属厩舎の馬がほとんど出走してしまったんです。
その唯一のレースでは、流れに乗るということを考えていたのですが、"うわ! もう行くのか!"という
感じで、まったく想定外の場所からレースが動き始めたんです。むこうでは強い馬が向正面からでも
仕掛けていくので、ペースが落ちつかないんですよ。しかもバテない。刺激になりましたね。
実戦経験こそ1レースだけだったが、多くを学んだ木村騎手。その成果は現れているのだろうか。
■いちばんの成果は、冷静に乗れるようになったことですね。それまでは、少し出遅れるとあわてて
追い上げて、最後に脚が止まってしまうということがよくありました。お客さんには"見せ場をつくった"
みたいに映るかもしれませんが、検量に戻ってきたら先生には怒られて......。
それが向こうで"強い馬は強い"というレースを体感できたことで、どっしりと構えられるようになったと
感じています。
兵庫県競馬は、岩田康誠、小牧太、赤木高太郎と、JRAで活躍する騎手を生んだ場所。
その3人が抜けた今、次代を担う木村騎手への期待は大きい。
■いやいや、リーディングを取るのはむずかしいですよ。兵庫は騎手のレベルが高いですし。
それより自分としては、目の前のひとつひとつを大切にという気持ちです。でも、名騎手の姿を
見られたことは、自分自身の栄養になっていますね。とにかく流れに乗るのが上手でしたし、
見ているだけで本当に勉強になりました。
そう実感しているという木村騎手は、今年8月13日に通算1500勝(中央含む)を達成した。
■1500勝ですか。うれしいですね。でもひとつの通過点。区切りといえるのは2000勝でしょう。
ゴールデンジョッキーにも出られますし。でもそんな先のことなんて考えられない、そういう仕事を
しているという思いで乗っていますよ。
でも、少し先のことを展望してもらおう。今年、園田競馬場ではJBCが開催される。木村騎手は
JBCクラシックにアルドラゴンで出走する予定となっている。
■アルドラゴンはすごく掛かる馬なので、なかなか操縦が難しいんです。追い切りでも掛かるくらい
ですから。だから、レースでは折り合いをつけるのが大変。それだけに、2400メートルの六甲盃は
快心の勝利でした。あのときは馬場入場のときから馬に勢いがついていて、"これじゃあ2400メートル
なんてもたないよ"と思いましたから。それがレースになったら、前半にハミが抜けて折り合いがついて、
最後にビシッと伸びる、そんな理想的な競馬ができました。
あの勝利は自分の自信にもつながりましたね。帝王賞のときは(同じ兵庫所属の)チャンストウライに
負けましたが、こちらは重めでしたから度外視。放牧からいい体になって帰ってくると思いますし
、ぼく自身もすごく期待しているんです。
ひとつひとつのレースを大切にして、勝ち星を積み重ねる木村騎手。何か心がけていることは
あるのだろうか。
■レースでは基本的に内を回るようにしています。今は馬場の内外の差もあまりないですし。
JRAで勝ったときも、内をずっと回ったことが最後の伸びにつながったのかなと思います。
やっぱり内を回って距離をロスしないのは重要ですよ。競馬が終わってからは、VTRを何回も
見ています。どの馬の騎乗依頼があってもいいようにという意味もありますが(笑)。でもVTRを見て、
初めてわかることも多いんですよね。もちろん、反省できることも。今はレースに乗ることが楽しいですよ。
この生活はやめられないですね!
元気さと勢いが魅力の木村騎手だが、以前は体調管理に苦しんだそうだ。
■昔はしょっちゅう風邪をひいていて、1年に3回くらいは開催を欠場していました。熱も40度くらいまで
上がって......。このままじゃどうしようもないと思ったので、扁桃腺を切る手術をして、それからは熱が
上がらなくなりました。ただ、30代になってからは、体が少し硬くなったかな? でも、昔みたいに
ガンガン競ったりしなくなったのは年のおかげかも(笑)
しかしその姿は年齢を感じさせず、若手のリーダーという表現がピッタリ。その流れもあってか、
木村騎手は兵庫所属の若手騎手で作るユニット、ADONOS7のメンバーに加わっている。
■いやいや、ファンとの交流がまだまだ少ないですよ。兵庫の競馬を盛り上げるためにも、もっといろいろ
なところに出たいと思っていますし、顔も売りたい。
ぼくらはヤル気マンマンなのに、いまだに全員そろってのサイン会もやっていないんですよ。
ホント、何か企画してもらえます?(笑)
木村騎手の父も兵庫で活躍した騎手。ある日、『メインレースを勝つから賞品を取りにこい』と
レース前に言われ、予告どおりに勝った父をみて「かっこいいなあ」と強烈なあこがれを抱いた
という。その背中を追って騎手になった少年は、今や兵庫県競馬を背負って立つまでになった。
そして今年の大一番はJBCクラシック。木村騎手に自信をつけさせたというアルドラゴンとの
コンビで挑む舞台が待っている。
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木村健(きむらたけし)
1975年8月16日生 獅子座 A型
和歌山県出身 西川精治厩舎
初騎乗/1993年10月20日
地方通算成績/12,670戦1,509勝
重賞勝ち鞍/兵庫大賞典、六甲盃(2回)、
園田金盃、新春賞、のじぎく賞、園田ジュニ
アカップ、姫路プリンセスカップ、楠賞全日
本アラブ優駿など10勝
服色/橙、白山形一本輪
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※成績は2008年8月24日現在
(オッズパーククラブ Vol.11 (2008年10月~10月)より転載)