若杉朝飛騎手は今年4月14日に門別競馬場でデビュー。地方競馬教養センター時代のケガなど、さまざまな苦労を乗り越え、ホッカイドウ競馬では2シーズンぶりの新人騎手となりました。7月28日門別9レースではラテルネラに騎乗し、待望の初勝利を挙げています。
出身が長野県とのことですが、競馬に興味を持つきっかけについて教えてください。
もともと体を動かすのが好きで、小1から小6までは野球をやっていて、中学ではソフトテニス部に所属していました。それで漠然と「スポーツを仕事にしたいな」と考えていたときに知ったのが、騎手という職業だったんです。中学3年生で「騎手になろう」と考えてから、父と祖父に連れられて中京競馬場へ行き、競走馬に乗って走っている騎手の姿がかっこいいと思ったのがきっかけです。
その後すぐに騎手を目指したのでしょうか。
ちょうど進路を決める時期だったので、すぐ行動に移すことになりました。中央も1回だけ受けたのですが、1回目の受検で教養センターに合格できたので、そちらでお世話になることになりました。
所属先をホッカイドウ競馬に選択された理由は何だったのでしょう。
配属を決める際、実際に門別競馬場へ連れていってもらったのですが、2歳の馬が多いことや坂路コースがあることが珍しく、とても良い環境だと思ったからです。
教養センター時代に大変だったことはありますか。
入学が決まった後、実家近くの乗馬クラブに少しだけ通っていたのですが、いざ入ってみると、周囲が乗れる子ばかりだったので、最初のうちはついていくのにとても苦労しました。あと、もともと競馬に詳しいほうではなかったので、法規などを一から覚えるのも大変でしたね。
肩を骨折してしまったり、折れた箇所を修復するときに、骨が筋肉を挟んでしまったらしく、その治療をしなければならない影響があって留年をしていまいました。センターに戻るときに復学試験のようなものを受けなければならず、試験までに体を馬に乗れる態勢まで戻さなければなりませんでしたし、休んでいた期間に他の子たちにどんどん技術で置いていかれたので、その遅れを取り戻すことも大変でしたね。卒業試験をパスできたときは「すごく長かったな」と感じましたし、無事試験を乗り越えられた安堵の気持ちが大きかったです。
実際に騎手になってみて感じたこと、デビュー前に想像していたこととのギャップはありましたか。
想像していた以上に、実際のレースはシビアだと思いました。センターでの訓練とは違い12頭立てのレースもあり、しっかりと周りを見なければ事故につながりますので、レース中も注意深く周りを意識していかなければならないと感じました。
7月28日、初騎乗から87戦目での初勝利
そんななか、デビューからおよそ4カ月半、7月28日の門別9レースで初勝利を挙げました。ラテルネラに騎乗しての白星でしたが、レースについてあらためて振り返ってください。
それまでの3戦が、先輩のジョッキーが騎乗して上位に入る結果が続いていたので、ある意味ではプレッシャーを感じながらレースに臨んでいました。レース前、佐久間(雅貴)先生から「出遅れるのは仕方ない」と言われていたので、出たなりでも、とにかくコースロスがないように乗ることだけを心がけました。
直線では鋭い末脚で差し切りましたね。
直線ではとにかく「着を拾わなければ」と必死に追っていたので、まず入着できたことへの安心感が大きく、ゴールした瞬間はあまり勝った実感がわかなかったんですよね。検量棟に戻ってから、いろんな方に「おめでとう!」とか「長かったな」と声をかけられて、ようやく「勝てたんだなあ」というふうに思えたという感じです。
初勝利の記念撮影
初勝利を挙げたラテルネラはどんな馬ですか。
デビューして間もない頃から乗せていただいていた馬で、レースが決まってから、調教にも乗せてもらいました。普段はうるさいときはうるさいですけど、元気がよくてかわいい仔ですね。直線は追えば追っただけ反応してくれるので、勝ったレースもこの馬も良いところが前面に出てくれたのだと思います。
この馬みたいに、先生から「レースに乗せるから調教来いよ」と依頼してくださるパターンもあれば、調教に乗せてもらって「じゃあレースに乗ってみれば?」と言ってくださるパターンもあって、どちらかと言えば後者の方が多いですね。調教は多い日で12~3頭くらいに騎乗していますが、自厩舎(櫻井拓章厩舎)以外の馬にもなるべく乗せてもらうようにしています。ホッカイドウ競馬は2歳の若馬が多く、坂路コースでの調教が中心ですが、まずは馬に変な癖をつけないよう心がけています。
先輩ジョッキーや、所属先の櫻井拓章調教師からは、普段どのようなアドバイスを受けていますか。
ゲートを出たあとにしっかりと勢いをつけること、コーナーリングで膨れてロスをしないことの2点です。まだアドバイスされた内容をできたりできなかったり......という感じで、デビュー当初と比べて成長しているかどうかは、自分のなかでは何とも言えないところの方が大きいですが、日ごろ言われていることを少しでも取り入れて、試行錯誤しているつもりです。
8月18日にはヤングジョッキーズシリーズのトライアルラウンドが、地元の門別競馬場で行われました。東日本はホームでの開幕となりましたが、いかがだったでしょうか。
普段から騎乗している競馬場だったので、気分的にはだいぶ楽な気持ちでレースに臨むことができました。ただ、1戦目(5着)も2戦目(11着)も、それまでの課題が出てしまい、上位着を取ることができなかったので、もっと欠点を改善していかなければならないとあらためて感じさせられました。
卒業以来、センターの同期とはバラバラになってしまっていたのですが、一緒にレースに乗って「上手になっているな」と感じました。YJSは1戦目と2戦目の間に1レースあいていたんですが、自分はレースに騎乗していたのでバタバタしてしまい、あまり話ができなかったのは残念でしたね。
船橋(10月26日)、浦和(11月24日=1レースのみ騎乗予定)と、まだトライアルラウンドを控えています。抱負を教えてください。
これまで他の競馬場で騎乗する機会がなかったので、今まで経験したことを生かし、少しでも上の着順を取れるようにしたいです。左回りのレースに参加するのは初めてだと思うので、コーナーリングを意識しながら、注意して乗っていかなければなりませんね。
若杉騎手自身の、今後の目標についてはいかがでしょう。
現状、まだ他のジョッキーの方に迷惑をかけてしまうことも少なくないので、まずは周囲の方に「まあ大丈夫だな」と思ってもらえるよう、技術を磨いていくことです。1勝できてひとまずホッとしていますが、11月の閉幕まで開催も残っているので、もう少し勝ちたいという気持ちもあります。ありがたいことに、上の着順を狙えそうな馬も少しずつ任せていただけるようになってきたので、そういったチャンスをモノできるようがんばりたいですね。
目標としているのは、岩橋勇二騎手です。競馬場実習の頃からいろいろと声をかけてくださり、今もレースの合間に、コーナーリングの際の手綱の長さや、直線で追うときの姿勢など、わかりやすく教えてくださっています。
では最後に、オッズパーク会員の皆さまにメッセージをお願いします。
まだまだ未熟者ですが、応援よろしくお願いします。
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※インタビュー・写真 / 山下広貴