昨年は228勝を挙げ、全国リーディング3位となった、兵庫の田中学騎手。全国の中でも激戦区と言われる園田・姫路競馬場で、川原正一騎手、木村健騎手と共に、トップ争いを繰り広げています。新しい年を迎え、今年の抱負を伺いました。
赤見:まず昨年一年間は、どんな年でしたか?
田中:昨年は...それなりに勝ち星を積み重ねられたっていうのはあるんですけど、自分の中では歯がゆかったというか、悔しいレースが多かったんです。騎手をしてると、いい波の時とそうではない波の時がありますけど、昨年は波に乗り切れなかった時期が多かったですね。
赤見:具体的に、波とはどんな感じなんですか?
田中:馬との呼吸ですよね、やっぱり。自分がどうにかしようともがいて、上手く合わせられなかったというか。そういう時は、乗ってても楽しくないですし、一生懸命やってもなんかイヤな空気だったり。言葉にするのは難しいですけど、ファンや関係者に迷惑かけたなと反省する毎日でした。
赤見:田中さんくらい成績を挙げていても、そんな風に考えるんですね。
田中:考えますよ。だって、先生(父である田中道夫調教師)にちょくちょく注意されますから。『レースに対して焦ってる』とか、色々言われます。勝っても『下手くそ』って言われますから(苦笑)。周りの人たちは、『勝ったのに何で怒られてんの?』って不思議そうな顔してますけど、自分では言われて納得というか、言い返せないですね。
赤見:やはりお父さんは、大きな存在なんですね。
田中:大きいです。最近は周りの方々が『父親を超えた』と言ってくれるんですけど、自分では全然そうは思いません。僕が現役を続けている間は、抜くことはないと思います。だってね、ここ何年かで僕も何回かリーディング獲らせてもらいましたけど、それを十何年続けた人ですから。1年だけでも大変なのに、並大抵の精神力ではないと思いますよ。昔から尊敬はしてましたけど、自分がリーディング争いを出来るようになって、余計に思うようになりましたね。
赤見:田中さんの勝負服は、その偉大なお父さんの勝負服を受け継いだものですよね。
田中:重いですねぇ。今でも重いですよ。勝負服を継ぐ時には、親父から『継ぐか』って言ってもらったんで、素直に嬉しかったんですけど。実際にその勝負服を継いだら、『お前には重すぎる』『バカ息子にはもったいない』って、散々周りから言われましたから。実際に継いでみて、その重みがわかったんです。親子の間だけで簡単に継いでいいもんじゃないって思い知らされました。
赤見:でも、今では田中学騎手といえば、その緑と赤の勝負服ですよ。お似合いです。
田中:ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいですね。ただ、さっきも言ったように、数字とかだけではなく、父を超えることはないと思うので。僕にとっては、本当に重みのある大事な勝負服なんです。だからこそ、その勝負服に恥じない騎手でありたいという気持ちは強いですね。
赤見:それにしても...、『バカ息子』って言われていた時代があったんですね(笑)。今はイメージないですけど。
田中:昔はね、違う方向に神経が行ってましたから(笑)。僕を変えてくれたというか、育ててくれたのは、関係者の方々はもちろんですけど、サンバコールという馬に出会ったことが大きいです。よくこの馬の話はしてるんですけど、本当に色々な経験をさせてもらいました。重賞の本命馬に乗せてもらったのも初めてだったし、その時は勝ちたくて勝ちたくて仕方なかったけど、勝てなくて...。いつものようにサンバコールの調教に乗ろうと思って待っていたら、目の前で先輩が乗って行ったんですよ。調教から乗り替わりですから、もちろんレースにも乗れません。あれは悔しかったなぁ~。それまでは『父親の七光りや』って言われてましたけど、その口惜しさをバネに変わりました。その先輩にだけは絶対に負けたくないって思ったし、そこから他の人たちの乗り方を意識するようになりましたね。
赤見:騎乗に対して、大事にしていることは何ですか?
田中:レースに関しては、返し馬から丁寧にするっていうことです。返し馬で馬と呼吸を合わせられた時には、レースでも折り合いが付くし、自ずと上手く行くんです。返し馬で掛かっているようでは、レースで絶対に思い通りにはなりません。その馬その馬に合った返し馬を丁寧にしてあげること、それを大事にしてますね。
的場文男さんなんか、本当に丁寧じゃないですか。園田に来た時でも、ものすごく長く返し馬しますからね。あれはなかなか出来ることじゃないですよ。若い子らにやってみろって言っても、今はパーッとキャンターで流す子が多いですから。
赤見:昨年は川原正一騎手が全国リーディングを獲り、田中騎手は3位、木村健騎手は4位と、3人揃って全国リーディングの上位に名を連ねました。現在の兵庫は、このトップ3のぶつかり合いが見ていて楽しいです。
田中:3人ともそれぞれスタイルが違いますからね。特にタケ(木村健騎手)とは子供の頃から一緒に遊んだ仲ですから。昔っから元気よくて、色んなことして遊びましたね。(小牧)太さんや(岩田)康誠が抜けて、『園田もしょぼくなったな』って言われたらイヤじゃないですか。だから、ここ何年かはタケと一緒になんとか競馬場を盛り上げて行きたいなって話してます。
よく、『静の田中、動の木村』って言ってもらうんですけど。アイツみたいに、ガンガン追っていくような乗り方は僕には出来ないし、いいレース見せられれば『やっぱりお前すげーな』って正直に言いますね。アイツも僕のことを認めてくれてるんでね、だからこそ負けたくないっていう気持ちはあります。幼馴染みで、いいライバルですね。
赤見:それでは、2014年の抱負をお願いします!
田中:今はシーズンじゃないですけど、ナイターも定着して来て新たなお客さんが増えてるのかなと思います。ナイターの時はいつも以上にお客さんが来てくれるんで、モチベーションも上がりますね。
最近はネット投票もだいぶ普及して来て、売り上げも伸びているので、とても感謝しています。いつもネットで買ってくれる方々が、『目の前で競馬を見たい!』って思えるような、迫力のあるレースをしたいと思います!
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※インタビュー / 赤見千尋