佐賀競馬場のリーディングジョッキーといえば、鮫島克也騎手の独壇場。しかし今年は様相が
ちがう。2位以下を大きく離してトップに立っているのは、山口勲騎手なのだ。初のリーディング
ジョッキーに向かってバク進する山口騎手に話を聞いた。
山口騎手は、佐賀市出身。騎手になるきっかけから伺った。
■ぼくが育った環境は、馬とまったく縁がありませんでした。中学の先生が北村欣也騎手の姉と
同級生だったようで、それで勧められただけなんです。競馬も知らなかったし、動物が好きな
わけでもなく、親も競馬好きというわけでもないのに、よくまあどこなのかもわからない栃木県(教養セン
ター)に行ったもんですね。
われながら不思議です。そんな状況だから、JRAと地方競馬が違うものだなんて、教養センターに
入ってから気がついたくらいなんですよ。
まったく肩に力が入らずに競馬の世界に足を踏み込んだ騎手も珍しい。それでも徐々に
プロの世界に染まっていく。
■デビューしたてのころは、師匠はとても厳しい人でしたし、勝負にならないような馬でも全然騎乗が
回ってきませんでした。それでもくさらずに一所懸命仕事をしていたら、少しずつ自厩舎の馬に
乗せてくれるようになったので、それが励みになりましたね。あの頃の大変さはいま考えると財産
なのかなと思います。
そうして徐々に勝ち星も増えてきた山口騎手だが、佐賀には大きな壁があった。
■もう何年間、リーディング2位なんでしょうかねえ。一度、10月までトップだったことがあるんですよ。
でも最後の2カ月で見事に差し切られました。馬主さんなどにも『また鮫島騎手に負けたのか』と突っ
込まれましたよ。毎年正月には、『今度こそお前がリーディングだ』なんて応援されていましたから、
なおさらですよ。
しかしながら、今年は11月20日現在、鮫島騎手との差は26。初のトップになる可能性は高い。
■いや、最後までわからないですよ(笑)。今年の数字がいいのは、自厩舎と自分の調子が両方とも
いいのがいちばんの要因だと思います。お手馬も多くなったし、歯車がうまく噛み合っているという感じです。
それと今年は特になんですが、常に勝ちに行くレースを心がけていることが好成績につながっている
かもしれないですね。勝利を意識できる馬に乗る機会も多いですし。
でも、9頃にゲート練習で落馬して、右の肋骨を4本折ってしまいました。土曜日は乗ったのですが、
日曜日はさすがにキツくなって、お客さんにも陣営にも迷惑がかかると思ったので休ませてもらいまし
た。笑うと痛いし踏ん張れないしで、肋骨は本当にキツイですね。
翌週からは痛み止めを飲んで乗ったそうだが、骨折などのケガは何度も経験しているらしい。
■でも大きいケガはないですからね。その点はよかったと思います。中学時代に器械体操をしていたので、
体が柔らかいこともあるのかもしれません。
ところで山口騎手は、佐賀所属の馬でダートグレードレースを制している。
■エスワンスペクターですね(03年門別・エーデルワイス賞GIII)。人馬とも超長距離輸送でしたが、
馬は佐賀にいるときと同じ雰囲気でしたよ。あの日は乗り鞍がけっこう多く、メインレースのことを
考える余裕があまりなくて。それがかえってよかったのかもしれません。そもそも勝てると
までは思ってなかったですし(笑)。あと、その日は北海道にしては暖かかったのも助かりました。
長い期間乗っている佐賀競馬場の特徴を、騎手目線で教えてもらった。
■砂は粒が粗いので、ハッキリ言って痛いですね。馬場は内側の砂が深くなっているので基本的には
内をあけて走らせますが、前よりは多少浅くなりました。それと、以前は前半がかなりスローだったのが、
最近は平均的になってきた感じがします。枠順は内が有利ですね。
いちばんの勝負どころは3コーナー。普段は外を回るのですが、後方待機の馬が一気に内を突くことが
あるんです。馬群は内ラチから離れていますからね。でも、そこで思い切り脚を使わないとダメ。
だって、同じことを先行馬に乗っているぼくがされたときには、内に寄ってその馬を砂の深いエリアに
押し込めますからね。だから、内を突くときはズバッといく必要があるんです。
佐賀の馬は、馬具をいろいろつけているのが多いですね。鼻を縛ったり、リップチェーンをつけたりと。
あれ、別に気性が悪いわけではなくて、扱いやすくなるからって厩務員さんがすぐ何かつけちゃう傾向が
あるんですよ。だから、たとえばゴムひもで鼻先を絞っている馬がいても、そのことで評価を下げる必要
はないと思います。
通算の勝ち星が1700を超える山口騎手。今後の目標といえば、何なのだろうか。
■まずはとにかくリーディングジョッキーになることに全力を尽くしたいですね。そして来年以降も
それをキープできるように頑張りたいです。それから他の競馬場でも乗ってみたいですね。
小倉競馬場にもときどき行きますが、1日1鞍ということも多いですから、なんとかもう少し乗れる
ようになればと思っています。
「最近の騎手は甘いですよね。騎乗技術の質問とか誰もしてこないもの。ぼくが若い頃は
鮫島騎手などに、乗替りで回ってきた馬のクセを聞きに行くことにかこつけていろいろ聞き
出したものですが」とも。
山口騎手をトップジョッキーの地位に押し上げたのは、そうしたあくなき向上心と職人魂なの
だろう。他の競馬場で乗りたいのはどこですか、と聞いてみると、「地方なら大井ですね」とのこと。
短期免許という道もありますね、と言ったら「3000勝でしょ? まだまだですよ」と。すかさず私が
2500勝以上ですよと教えたところ、彼の眼に鋭い光が走ったことを見逃すわけにはいかなかった。
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山口 勲(やまぐちいさお)
1970年3月28日生 おひつじ座 A型
佐賀県出身 山下清厩舎
初騎乗/1987年10月18日
地方通算成績/11,683戦1,719勝
重賞勝ち鞍/
中島記念2回、西日本地区招待アラブ大賞典、
エーデルワイス賞GⅢ、吉野ヶ里記念2回、
九州記念2回、荒尾ダービーなど22勝
服色/白、赤のこぎり歯形
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※成績は2006年11月20日現在
(オッズパーククラブ Vol.4 (2007年1月~3月)より転載)