JBCクラシックを地方馬として初めて制覇したミューチャリー(船橋)。その鞍上は、今年JBCの舞台となった金沢を代表する吉原寛人騎手でした。地元で成し遂げた快挙について振り返っていただきました。
>JBCクラシックをミューチャリーで制覇、おめでとうございます!周囲からの反響などもすごかったんじゃないですか?
ありがとうございます。お祝いのLINEやメールをたくさんいただいて、当日の夜は返信するのに3時間くらいかかりましたが、嬉しかったですね。その夜はよく眠れなくて、深夜2時くらいまで目が覚めていて、起きたのが明け方4~5時。だんだん訳が分からなくなってきて「これは夢だったんじゃないかな?」と不思議な感じでした(笑)。レース後1週間は、これまで記憶にないくらい余韻に浸ってボーッとしていて、それだけすごいレースを勝たせてもらったんだな、と思います。
創設から20年間、幾多の地方馬が挑んでは跳ね返されてきたレースを勝ったわけですもんね。
初めて勝てたということと、地元の金沢で決められたというのがすごく大きかったです。
ミューチャリーには前走の白山大賞典から手綱をとりました。騎乗の経緯を教えていただけますか?
今年の冬に期間限定騎乗で南関東に行っていた時だったと思うんですけど、矢野義幸先生から「もしかしたら白山大賞典にミューチャリーが行くかもしれないから、その時は頼むわ」と言っていただきました。あのミューチャリーですからね、すごい依頼をいただいたな、とプレッシャーでした。いくら地元の金沢だからと言っても、御神本訓史さんが競馬を教え込みながら大事に育てていた馬なので、すぐに御神本さんに連絡して「よろしくお願いします」とお伝えしました。
白山大賞典では先行集団にいて、ミューチャリーにしては少し前目のポジションのように感じました。
そうなんですよ、もっと進んでいかないのかなと想像していました。レコードを1秒以上更新する速い馬場だったので、ミューチャリーには忙しかったですけど、それでもあの位置から上がり3ハロン最速の脚を使ってくれました。休み明けの分もあって、「もうちょっと反応がほしいな」とは感じましたが、しっかり2着を確保して、いい感触は掴めました。
そして、JBCクラシックでも3番手外という前の位置を取りに行きました。
矢野先生からは「壁1枚くらいでついて行ければ」と言われましたが、GI馬が揃っていましたし、僕は「速い流れに中途半端について行ったら、せっかくの末脚がなくなるかもしれないので、ミューチャリーのペースで行きたいです」と伝えました。当初のプランでは、あんなに前に行くはずじゃなかったんです。
中団~後方からのプランだったはずが、どこでその作戦を変えたんですか?
返し馬で感触も反応もすごく良くなっていたので、「多少無理をしてついて行っても大丈夫じゃないか」と感じました。ゲートを出ると、マークしようと思っていたテーオーケインズが出遅れて、カジノフォンテンが楽に先行してペースを落としそうだったので、「ちょっと攻めてみよう」と、外に切り替えてテーオーエナジーをさばきました。
そうして、外3番手で折り合ったんですね。そんな前の位置からミューチャリーが末脚を使えたら、もうホント強いですよね。
"こういう展開になったら、ミューチャリーが勝てる"という、絵に描いたようなレースになりました。人気馬は内で包まれていてペースを上げられず、僕が主導権を握れました。スタンド前ではめちゃくちゃペースが遅くて、「誰も後ろから動いてこないで」とドキドキしていました。向正面でマクられるのは絶対に嫌だったので、2コーナーからは、じわ~っとギアを入れていくように乗りました。焦って追うと、内の人気馬が抜け出せる進路ができそうだったので、4コーナーまで引きつけました。
向正面はライバルを封じ込めつつ、絶妙なペースアップだったんですね。直線を向けば、どれだけキレる脚を持つ馬でも、そのスピードには限界がありますからね。
ラスト3ハロンを35秒前半で来る馬がいたらめちゃくちゃ強いな、と思っていたら、それがオメガパフュームでした。それでも、ミューチャリーは4コーナーでのハミの取り方が前走とは全然違って、3ハロン36秒0で本当に頑張ってくれました。最後は位置取りの差で決まったかなと思います。
オメガパフュームを半馬身差でしりぞけJBCクラシック制覇(写真:石川県競馬事業局)
改めてJBCクラシックの勝利を振り返っていかがですか?
本当にミューチャリーに感謝しています。ここまで陣営が「ミューチャリーは絶対にジーワンを獲れるんだ」と信じ続けて、全23戦中これが11回目のジーワン挑戦でした。信じ続ける熱い思いがあってこその勝利で、挑戦しないと獲れませんからね。ミューチャリーもずっとジーワンを使われて強くなりました。「前の位置につけたから勝てた」とも言われますけど、それは金沢だからできただけであって、大井や他のコースではそうはいきません。
実はその部分、聞きたいなと思っていました。吉原騎手は2019年マイルチャンピオンシップ南部杯をサンライズノヴァで勝った時に「馬に気づかせないように前の位置を取りに行った」と話していて、今回も積極的なポジショニングがすごいなぁと感じました。
たしかにあの時のような感じで、みんなのペースが遅いところを、馬を力ませず、普通に走っている状態で位置を上げていきました。
ただ、本質的な部分では御神本さんが競馬を教え込んできたことが生きたレースだったと思います。これまでジーワンで強いメンバー相手でも、ミューチャリーのペースを優先させて最後にしっかり脚を使わせることで、馬も気分良く走っていたと思います。だから途中で変なやめ方をせず、乗りやすかったです。ジーワンにチャレンジし続けて、掲示板にも載りながらしっかり戦ってきたことがここで生きたのだと思います。
(写真:石川県競馬事業局)
さて、吉原騎手はこれからの目標はどうしましょうか?
コロナの影響で遠征に行きづらくなったのがちょっと寂しいですけど、その鬱憤をJBCクラシックで晴らせたのは大きかったです。少しずつでも解除してくれて、またミューチャリーに乗って大きいレースを勝ちたいですし、他にも乗りたい馬はいます。
この冬は、これまでとは違う競馬場へ期間限定騎乗に行きたいなとも思っています。こちらは正式決定したらリリースなどの形でみなさんにお伝えできるかなと思っています。
-------------------------------------------------------
※インタビュー・写真 / 大恵陽子
マイルチャンピオンシップ南部杯でJRAのサンライズノヴァに騎乗し、悲願だったJpnI制覇を果たした吉原寛人騎手(金沢)。現在の想いをうかがいました。
まずは南部杯制覇おめでとうございます!
ありがとうございます。ずっとGI(JpnI)を勝つことを目標にして来たので、すごく嬉しかったですね。頑張ってくれたサンライズノヴァ、乗せてくれた関係者の皆さん、応援してくれたファンの皆さんに感謝しています。
サンライズノヴァとは初コンビでしたが、どんな印象でしたか?
パドックで初めて跨って、体も立派だし、『こんなすごい馬がいるのか』と。これまでのレースで、この馬の末脚がすごいことは見ていましたし、この日の馬場で外を回すのはキツイなと思っていました。スタートも出てくれたし、いい形で運ぶことが出来て、この手ごたえならば負けないだろうと思いましたね。
サンライズノヴァで南部杯制覇(写真:岩手県競馬組合)
念願のGI(JpnI)制覇はいかがでしたか?
やっぱり大きいですね。僕は遠征ばっかり行かせていただいてますけど、結果が出なくて苦しい時期もありましたから、続けて来て良かったなって思います。これまでにもチャンスはいただいていて、ハッピースプリント、サトノタイガー、ノボバカラでは2着の経験があって。なかなか1着に届かなかったんですけど、そういうことが全部繋がって、今回勝つことができたんだなって思っています。
毎年活躍していますけど、今年の活躍は輪をかけてすごいですね。
本当に周りの方々のお陰です。いい馬に乗せていただいているし、馬たちも頑張ってくれるので。正直、今年はもっと苦しむかなと思っていたんです。でも南関東での期間限定騎乗でも、僕自身の歴代2位くらいの勝ち星を挙げさせてもらいましたし、重賞でも結果を出すことができて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
今年はタイセイラナキラ(しらさぎ賞)、スターキャデラック(北日本新聞杯)、クレイジーアクセル(ノースクイーンカップ、ビューチフルドリーマーカップ)、ストライクイーグル(東京記念)、スティローザ(園田プリンセスカップ)、ヴァケーション(平和賞)と、かなりの数の重賞を勝っていますね。
クレイジーアクセルはグランダム・ジャパン古馬シーズンで優勝できましたし、ストライクイーグルはJBCクラシックでも見どころのある走りをしてくれました。ちょっと寄られてしまったんですけど初めての浦和でも頑張ってくれましたし、大井の外回りならばもっとやれると思います。
ストライクイーグルで東京記念を勝利
ストライクイーグルは長距離での強さが光りますね。
今後がすごく楽しみですね。以前ユーロビートに乗せていただいていて、初めて交流重賞(マーキュリーカップ)も勝たせていただいたんですけど、長距離で強いという馬はなかなか出てこないんです。ユーロビートの引退後は淋しかったんですけど、また素晴らしい馬に巡り合えて嬉しいですね。ただ、乗せていただけるのが当たり前ではないので。地元の方が乗れないという時にチャンスをいただいたりもするので、そういう時にしっかり結果を出さないといけないなと思っています。
全国で勝ちまくっている印象なのですが、勝っていない競馬場ってありますか?
姫路、佐賀、高知で勝てていないんです。佐賀は今年佐賀ヴィーナスカップでチャンスをいただいたんですけど(ステップオブダンスで)ハナ差2着に負けてしまって......。
高知で勝っていないというのは意外ですね。
これまで行く機会があまりなくて、おそらく3、4回しか乗ったことがないんですよ。でも今度チャンスをいただいたので、しっかり結果に繋げたいです!(インタビューのあと11月17日、土佐秋月賞をモズヘラクレスで勝利)
全国で騎乗するのはもちろんですが、移動自体も大変じゃないですか? 南部杯の時には台風の影響で北陸新幹線が止まっていましたし、次の日は金沢、その次の日は大井と騎乗していました。
あの時はさすがに盛岡に間に合わないのではないかと焦りましたけど、米原から新幹線を乗り継いでなんとか間に合いました。移動はもう慣れですね。ずっとこういう環境でやらせていただいているので。
全部のレースを見ているんですか?
行く競馬場は全部チェックします。それこそ移動中とかに見ることが多いですね。家にほとんど帰れないので、ゆっくり見るということはできないんですけど。でもあんまり先入観がない方がいい時もあるので、おおまかに把握する、要点を見るという感じです。
それが南部杯でもいい方に出た印象です。
そうですね。ゲートが開いたらどうなるかわからないので。その時に判断できる引き出しを持っておきたいというくらいの感覚です。あんまり考え過ぎちゃうと動けなくなっちゃうし、馬が走るんだって思って乗ってます。
数年前、期間限定騎乗や遠征で地元を空けて、リーディングを諦めるという選択をした時は相当な葛藤があったと仰っていましたが、今のご自身はいかがですか?
大きな決断でしたけど、南関東へ行った時に恵まれて勝たせてもらって、重賞でもポンポンと勝たせてもらって。そこからハッピースプリントに出会えたことが大きかったですね。その後ソルテに繋がって、目標がGI(JpnI)を勝ちたいとなっていきました。
大きな目標を達成しました。次の目標は?
GI(JpnI)を地方馬で勝ちたいという気持ちは強いです。御神本さんのように勝ちたいですね。そういう馬に乗せていただく機会も増えましたし、勝って恩返ししていきたいです。それから、地元でもうちょっと頑張って活躍したいですね。今は開催中でも重賞で他地区に行くことが多いですし、普段の調教もしていないので他の人の馬を取るということもできないですから。その葛藤は大きいです。今はどっちもということができなくて、自分の技量不足だなと。まだまだ成長したいですし、周りの方々に恩返ししていきたいです。
全国を飛び回っていますが、得意なコースを挙げるとしたら?
やっぱり盛岡でしょう。ユーロビートで初めて交流重賞を勝たせてもらいましたし、南部杯も勝たせてもらって。想い入れは強いですね。
JRAで勝ってない競馬場はありますか?
勝ってないというか、乗ってない競馬場の方が多いんですよ。行く機会がなかなかないですし。でも京都競馬場は大好きです!ネロで勝たせてもらいましたし(2017年11月26日・京阪杯)。
では、オッズパーク会員の皆さんにメッセージをお願いします。
いつも応援していただき、ありがとうございます。皆さんの期待に応えられるよう、これからも頑張ります!
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 赤見千尋
今年2月に地方通算2000勝を達成した吉原寛人騎手。依頼があれば全国どこへでも乗りに行き、有力馬を任せられる、今や地方を代表するトップジョッキーです。今の心境を聞きました。
2月21日に地方通算2000勝を達成されました。率直なお気持ちは?
素直に嬉しかったですね。2000勝手前で意識してしまって足踏みしていた部分もあったので、達成した時はホッとしました。
デビューから16年でのこの数というのは、ご自身でどう評価しますか?
所属が冬場に開催のない金沢ということを考えると、こんなに勝たせてもらって有り難い数字ですね。
その中で思い出深い1勝をあげるとすると?
うーん、難しいですね。地方通算勝利数には含まれませんが騎手人生で要になったのは、1年目でJRAに遠征してトゥインチアズ(金沢)で勝ったレースですね。そこでJRAの森秀行調教師に目をかけてもらって、ドバイに連れていってもらったりするなど色々な経験に繋がりましたから。
その中央遠征がきっかけで、とても視野が広がったんでしょうね。
その通りです。その後、オーストラリアに修行に行ったりもして、小さな枠に捉われないという考えを若い時に学ぶことができました。ドバイに行った時から、先輩騎手にも負けないぞという気持ちを持つことができて、そこからしっかりリーディングを獲れました。
吉原騎手といえば、全国どこにでも乗りに行く騎手のパイオニアですが、今は他の騎手にとっても普通になってきていますよね。この状況はどうですか?
どうしても馬には連続で乗りたいですよね。ですから他地区の騎手でもその馬に乗り続け、夢を見られるように規定が変わってくれたことが本当に嬉しいです。僕自身も、全国の上手い騎手にお手馬をとられる可能性があるので怖い部分もありますが、そういうプレッシャーの中で、しっかり仕事ができたらなと思います。
2013年のインタビューの時は、ちょうど金沢から北海道や南関東へ行ったり来たりの状況でした。移動が大変で体調管理が難しいと仰っていましたが、今はいかがですか?
今はどれだけの体力で行って、どれだけ消耗するかというのが計算できるようになりました。いいサイクルになっていますよ。それに、新幹線ができて南関東への遠征がかなり楽になりました。僕にとっても北陸新幹線の開通は嬉しい出来事でしたね(笑)。
今年のNARグランプリ2016の表彰式には、年度代表馬の主戦騎手としてステージに立ちましたね。
優秀新人騎手賞でNARグランプリに行った時、年度代表馬の関係者の皆さんがすごく輝いて見えたんです。あぁ、すごいな...って。自分では手の届かない世界とだと思っていました。それが他地区の馬を任せられて、この表彰台に上れるなんて、ものすごく嬉しかったです。時代の流れもあると思いますが、有り難いことです。
ソルテでさきたま杯JpnIIを制し、NARグランプリ年度代表馬に
今年の目標を教えてください。
去年も目標にしていましたが、地方馬でジーワンを勝つことです。
これまで様々なことを成し遂げてきた吉原騎手ですが、これからの夢や野望はありますか?
逆に、それを教えてほしいです。どんな風になればよいのかを。今まで、手前の目標と、少し高い目標と、その先の目標と3つ持っていました。でも今は、こういうことをしたい!というイメージが沸かないんですよ。中央なのか、世界なのか...、でも地方での目標を達成していないからそれも違う気がする。自分でも、これからどんな方向に向かっていくのだろうという感じです。地方馬でジーワンを勝てた時に、それが明確になるのかもしれないですね。
では最後に、オッズパークの会員のみなさんにメッセージをお願いします。
オッズパークで馬券を買って、「吉原このやろー!」と温かい声援を送って頂けると有り難いです(笑)。これからもよろしくお願いします!
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 秋田奈津子
金沢のトップジョッキー吉原寛人騎手は今年も各地へ積極的に遠征を続け、地元はもちろん全国区で存在感を示しています。そして今年、JBCが行われる金沢競馬の広告塔として様々な場所で宣伝活動も行ってきました。JBC開催目前の心境を伺いました。
秋田:今年は他地区に遠征をしながら金沢リーディングにも立ち、SJTへの出場も果たしましたね。
吉原:去年は半年ほど南関東にいましたから、金沢リーディングが獲れなかったことは悔しかったですが、自分のしたいことをした1年だったので実りある年でした。今年はその経験をもとに、遠征しつつも地元金沢でリーディングに立ってSJTに出場できました。自分の立てた目標通りに結果が出ているのは良いですね。
秋田:青柳騎手がトップの時期もありましたが、意識はしていましたか?
吉原:していましたよ! 青柳君も一生懸命でしたし、今まで立ったことないリーディングだったので『吉原さんの気持ちがすごく分かります。追われる立場って大変ですね』と話していましたよ。他の人は経験したことのない感覚だと思うので、それを青柳君と共有できることは刺激になります。
秋田:全国の競馬場に積極的に遠征している吉原騎手。そのモチベーションはどこから湧いてくるのですか?
吉原:デビュー1年目の中央遠征で初騎乗初勝利して、その後オーストラリアやドバイにも行って......。新人ではあり得ない経験ですよね。ほとんどの騎手は地元の競馬場で育って成長していくと思うのですが、初めから中央や世界を見てきた自分にとって、競馬はもっと広いんだよという感覚があるんですよ。だから若い時から、どこでも乗れるジョッキーという意識が生まれていたんでしょうね。自分のやってきた経験が今の自分をそうさせているのだと思います。
アメイジアで念願の南関東重賞初制覇(4月17日、川崎・クラウンC)
秋田:でも、正直なところ遠征が続くと疲れませんか?
吉原:移動が本当に辛くて......(笑)。慣れが一番大切ですよね。慣れていれば、移動でどのくらいの体力を使ってこのレースに臨めるなとか計算ができるんですけど、初めての場所だと移動での疲労の度合いが分からないので本当に大変です。でもいろんな場所で経験してきたので、もう分かるようになりました。日々の体調管理もすごく大事に思っていて、新人の頃よりサプリメントを飲むようになったし、ジムで体を作るようになりましたね。そういう部分ではプロ意識は高くなったかなと思います。
秋田:今年は、金沢競馬の広告塔としてJBCのピーアールもたくさん行ってきましたよね。JBC開催がすぐそこまで迫っています!
吉原:ここにきて、こういう取材が急激に増えたんですよ! だから、本当にJBCが近いんだなって(笑)。JBCにはこれまで何回か乗せてもらいましたが、すごい歓声なんですよね。僕がデビューしてから、金沢にそんなにお客さんが入った記憶がないんです。だからそれを経験できるのかなと思うとすごく楽しみです。
秋田:金沢競馬場の魅力は?
吉原:とにかく、食べ物が美味しい! 魚が美味しい! あと、良い感じの田舎なので、金沢に来たことのない人は泊まりがけで遊びにきてほしいですね。
秋田:では、JBCが行われる金沢競馬のコースについて教えてください。まず、JBCクラシックが行われる2100mは?
吉原:バックストレッチの奥からのスタートなので、直線が長いんです。だから力があればどの馬も良い位置が取りやすい。まぎれがあまりなくて力は出やすいコースですね。
馬の脚質的には、好位差しが一番良いと思います。金沢は逃げ馬がペースを握れるコースではないんですよ。どこでもマクレる広い向正面もあって、逆に逃げ馬がしんどくなるので、それをマークして競馬ができるのが理想ですね。
秋田:JBCスプリントが行われる1400mは?
吉原:オープンクラスだと、意外と(最初の)直線が短く、すぐコーナーだと思います。だから枠順も影響しますね。内に先行馬が多ければ、外から行ききれない可能性が高いです。外を回されると厳しい位置になってしまいます。だから、1400mの場合は枠順から勝負が始まりますよ。
秋田:そうすると1500mのほうが競馬はしやすそうですね?
吉原:そうですね。(4コーナー)奥からのスタートで直線が長いからまだ挽回はきくかなと。でも、1500mでも逃げ切れてしまうコースだと思うので、意外と面白くなるのではないでしょうか。
サミットストーン(7月28日、金沢スプリントC)
秋田:地元金沢からは、吉原騎手が騎乗するサミットストーンが注目です。
吉原:金沢に移籍してから具合も良いですね。ゲートに課題がある馬ですが、スタートで尾持ちするようになってなんとか形にはなったと思います。なかなか他地区の馬との力関係がわからなかったんですが、イヌワシ賞で高知のグランシュヴァリエなどに勝つことができたのは良かったですね。
白山大賞典では金沢の大将格ということで掲示板を確保できたけれど、今回の着差が中央勢との力差なのかなと。調教師ともスプリントのほうがいいかなぁとは話していますが相談ですね。ただJBCに出るならしっかり作戦を練って見せ場を作りたいと思います!
秋田:では、最後にJBCに向けてメッセージをお願いします!
吉原:金沢競馬でJBCができるなんて思っていませんでしたが、やるからには関係者一同、盛り上げたいという熱い想いがあります! 当日は、競馬の魅力を感じて欲しいですし、観光も兼ねて金沢の良い場所を巡ってもらいたいですね。そして、ファンのみなさんと一緒に盛り上がりたいです!!
-------------------------------------------------------
※インタビュー / 秋田奈津子
2001年のデビュー年に、いきなり95勝を挙げて金沢リーディング3位に食い込んだのが吉原寛人騎手。2005年に初めてリーディングを獲得してからは、それが不動の位置。今年も2位以下に大差をつけて独走中だ。吉原騎手の今後には、大きな可能性が詰まっている。
吉原騎手は昨年の白山大賞典で、地元代表のジャングルスマイルを2着に導いた。
スタンドからの応援の声がすごかったですね。レース中でもよく聞こえました。ジャングルスマイルは3歳の秋に金沢に来た馬なんですが、最初は気が悪くて大変だったんですよ。
当初は馬場入りすらできないくらいだったんですが、担当の厩務員さんが一所懸命に調教して、なんとか馬場を回れるまでになったところで試しにレースに出してみたら、意外と走ったんです。そこから連勝が続いて4歳になりましたが、金沢の夏は湿度があって、馬にとっては厳しいんですよ。昨年はそのあたりを考慮しながら白山大賞典を狙っていったんです。でも正直なところ、自分としては半信半疑というところはありました。
夏は暑く、冬は寒い北陸地方。金沢競馬は年明けから春先まで休催期間がある。
ここは北海道と違って、騎手は冬の間、何もすることがないんですよ。そんな状況なんですが、僕は1年目の冬に名古屋に行かせてもらえて、2年目と3年目は笠松で騎乗しました。冬場を利用していろいろなところに行けるのは金沢の利点ですね。
そして4年目の冬からは、3年連続で海外遠征を敢行した。
このきっかけは、トゥインチアズで京都のもみじステークスを勝ったこと。そのおかげでJRAの森秀行調教師に目をかけていただいて、いろいろ話をしているうちにオーストラリアに行ってみるかということになったんです。いやあ本当に、一気に視野が広くなりましたね。行く競馬場は毎日違うし、馬場も相手関係もわからないし、まさに一発勝負の連続。レースもいい意味でアバウトに考えられるようになりました。また、海外での生活で、ハングリーさ、貪欲さが出てきたという気がします。
2006年3月25日には、ドバイゴールデンシャヒーンでアグネスジェダイに騎乗するという経験も得た。
金沢の騎手がドバイで乗ったんですからね。すごい経験ですよ。そんな経験が自信になって、それからはドンと構えて乗れるようになりました。海外に行っていちばん変わったのは、メンタル面が強くなったというところでしょうね。
2010年度から条件が緩和された南関東での期間限定騎乗制度にも手を挙げ、2011年1月から3月まで川崎所属で騎乗した。
行く前は、南関東ではほとんど騎乗できないのではと思っていたんですよ。北海道や岩手からもトップジョッキーがやってきて、激戦に輪をかけるみたいな感じでしたから。それでもいざ行ってみたら毎日が競馬漬けになって、夜ごはんを食べたらバタッと倒れるみたいな、そんな日々が続きました。夜、遊びに行ったのは1回だけかな......。でもその毎日がすごく楽しかったんですよ。どうすればもっとうまく乗れるのか、そればかり考えていましたね。惜しかったレースのあとに映像を何回も見直して「どうにかならなかったのか」と研究したりして。2カ月の限定期間が終わったときには、本当に名残惜しかったです。
しかしそうやって向上心が刺激されると、金沢では物足りなくなるかもしれない。
確かに舞台は大きいほうがいいですよね。ただ、こっちはこっちでいい馬に乗れますし、楽しみももちろんあります。今の金沢競馬場はとても難しくて、日によって馬場の傾向がすごく変わるんです。開催日にも調教に乗りますが、実際のレースになるとまた違うんですよね。カラカラに乾いていても前が止まらないとか。だから逆に、馬券を買う人も難しいんだろうなと思います。
騎手の立場で気がつく傾向といえば、外枠のほうが競馬をしやすいことですね。それと金沢で逃げ切るには、力量差がないと難しいということ。逃げ馬には厳しい競馬場だと思います。だから僕もなるべく好位を取る騎乗をしています。そして全体の流れを読んで、仕掛けどころを判断して。そういったことが体でわかってきたのは、ここ2~3年ですね。それまでは実のところ、何でこんなに勝てるのか、という感覚が心の中にありました。
金沢で5年連続リーディング。8月も大井競馬の重賞に騎乗するなど、開催期間中でも他地区からのラブコールは多い。
いろんな経験をさせてもらっていますが、もっと名前を売っていきたいですね。今年の大きな目標は白山大賞典。ジャングルスマイルは昨年よりさらに実が入りました。7月にはこの馬向きと思えない1400m戦でレコード勝ちしましたが、それも出るべくして出たという感じです。今まで乗った金沢の馬では、乗り味が別格。奥行きがすごくある馬なので、乗っていてときどき「これでいいのかな?」と判断に迷うことがあるくらいなんです。
となれば、2011年の白山大賞典はかなり楽しみ。そして吉原騎手自身も実りの秋にしたいところだ。
そうですよね。白山大賞典とスーパージョッキーズトライアル。ポイント制のレースって、どうもクジ運が悪いというか、なぜかイマイチなんですよね。でも今年はワールドスーパージョッキーズシリーズへの代表権を勝ち取って、そして本番でも勝ちたいと、強く思っているんです。大舞台を踏むことももちろんですが、その先にあるものがとても大きいと思いますから。
未来への希望、大舞台への夢は尽きないが、その一方で「現時点では、今できることに最善を尽くすことがベストと思っているんです。厩舎の皆さんもみんな一所懸命に仕事していますから、その人たちの頑張りにも応えないと」とも語る。その想いと行動は、きっと神様も見てくれているはず。吉原騎手が大きく飛翔するのは、遠い未来のことではないはずだ。
--------------------------------------------------------
吉原寛人(よしはらひろと)
1983年10月26日生まれ さそり座 O型
滋賀県出身 宗綱泰彦厩舎
初騎乗/ 2001年4月7日
地方通算成績/ 6,454戦1,294勝
重賞勝ち鞍/百万石賞2回、北日本新聞杯、
スプリングカップ2回、兼六園ジュニアカップ2回、
イヌワシ賞、オータムスプリントカップ、ゴール ド
争覇(名古屋)、オータムカップ(笠松)など 15勝
服色/胴赤・黒縦縞、そで青
※ 2011年8月17日現在
--------------------------------------------------------
(オッズパーククラブ Vol.23 (2011年10月~12月)より転載)