山本政聡騎手は言わずとしれた"山本三兄弟"騎手の長兄。2003年のデビューから19年目の今年10月3日、地方競馬通算1,500勝を達成した。いまやリーディング上位の常連として、また盛岡所属の騎手を牽引する存在ともなった山本政聡騎手にお話をうかがった。
弟の聡哉騎手(右)と
1,500勝達成おめでとうございます。区切りの勝利達成、感想はいかがでしょうか。
そうですね、周りにもっと勝っている騎手がたくさんいますから、それほど凄い数字という感覚はないのが正直な気持ちですね。自分としてはここから2,000勝を目指してまだまだ頑張らないと......と思います。
デビューから19年目年、もう大ベテランになった山本政聡騎手ですが、ここ何年かはさらに勝ち星を伸ばしている印象です。
年間100勝はしたいと思って目標にしています。良い馬にも乗せていただいていますから、そこは頑張らないといけないですからね。あとは怪我をしないようにも気をつけています。
10月3日盛岡第5レースで地方競馬通算1,500勝達成
最近気をつけている事とか、心がけている事とかはありますか?
やはり怪我をしない事ですね。自分が気をつける事で防げるものなら気をつけて、怪我に繋がらないようにしよう、とか。あとは、馬の気持ちを尊重してあげようという事。自分が感じ取れるところは感じ取ってあげよう。それは昔から変わっていないところかな。
馬の気持ちを考えてあげながら力を引き出す、という事は、山本政聡騎手は昔から言っているよね。
乗せてもらっている馬をひとつでもふたつでも多く勝たせられるように考えて乗っているつもりです。自分の考えにこだわりすぎて、それが馬に余計な負担になって、馬がレースに対して、走る事に対して嫌気がさしてしまうというのは良くないと思っているんです。
ただ、一方で例えば "この馬はこの距離では勝てないだろう" "良いレースが出来ないだろう" と決めつけるのも良くないと思う。実戦で乗りながら馬の能力を把握してあげて、その馬の力にふさわしい走りを引き出してあげる......ですかね。
でも山本政聡騎手って、レースで馬に甘いわけではない。むしろギリギリまで力を絞り出させようとする騎乗をすると思うし、それで成績が上がってきたのかなと思ったりもする。
そうですね、若い頃に比べると考え方が変わってきたかもしれませんね。一つ勝つのはやっぱり大変なんですよ。自分で調教もしながら "どうやってレースに対応させよう" "どうやって勝たせよう" といつも考えているんですが、簡単じゃない。やっぱり固定観念を持たない事が大事かな。
それは、たくさん勝つようになったからそう考えるようになった?あるいは自身が先の事も考えるようになったから、余計にそう感じるようになった?
30歳を過ぎてからかな、考え方が変わってきたのは。結局、勝てないで終わる馬もいるわけじゃないですか。勝てないというか勝たせてあげられなくて。じゃあ騎手の自分は馬のために何ができるかな?と。
馬が勝った時は"おめでとう"って祝福される。勝てなかった馬が勝った時にはより多めに愛撫してあげようとか自分は気を付けているんですけど、やっぱり"競走馬として生まれて、皆から褒めてもらう"というのが馬の、短い人生の中で幸せな時になるのかなと思ったりするんですよね。
どんな小さなレースでも、下のクラスのレースでも、勝つ事は大事だし偉い事だものね。
以前、船橋の矢野(義幸)調教師がこういうふうな話をしていたのを覚えているんです。"うちで預かった馬は必ず一つは勝たせてやりたいと思ってやってきました"と。それだ!と。
レースに勝つ事、あるいは勝てない事が、その馬の人生に大きな影響を与えるかもしれない。もちろん勝てない馬はかわいがってあげないというわけじゃないですよ。でもできれば勝って褒めてあげたい。それが騎手の仕事なんだなって。凄く共感できました。
今年から新コンビを組んだエンパイアペガサスではすでに重賞2勝
話を聞いていると、なんとなくだけど、そろそろこの先の道筋も考えるようになった感じ?
馬を育てることもしてみたい、調教してレースに送り出すという事もしてみたい......と考えるようにはなりましたね。ここで1,500勝を過ぎて、まずは2,000勝まで頑張ろう。そこまで行った時になって"まだ乗れる"って言うかもしれないですけどね。そこまでコンスタントに乗り続ける事ができればいいですよね。まだまだいろいろ考えたい。
さて少し話を変えて。兄・山本政聡騎手から、弟の山本聡哉騎手はどんな騎手に見えていますか?自分はね、二人の乗り方とか考え方とか、実はけっこう似ているんじゃないかと思って見ています。
やっぱり凄いと思いますよ。凄いと思うし負けられない相手だとも思っています。どんな乗り方をするか、どんな位置にいるか、そしてどういう進路の取り方をするか?とか意識して見ています。それを同じ騎手として見ていて、ミスが少ない。無駄がない。無駄がない分、戦っているこちらが焦らされる。だからレースぶりが安定しているんだと思いますね。
そういう山本聡哉騎手はよく"お兄ちゃんは凄い"って言うんだけどね。お世辞ではないと思うけど......。
いやいや、お世辞だと思いますよ(笑)
では今後の目標を聞かせてください。
やっぱり"怪我をしないように"ですね。それが一番大事かな。良い馬に乗せて貰うためには、日頃のレースを一個一個しっかり乗っていくのが大事でしょうから。重賞とか大きいレースの成績はその結果付いてくるもの......ですね。
最後にオッズパーク会員の皆さんへ一言。
いつも岩手競馬を、ネットで応援していただいてありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
兄弟で重賞の優勝を争うシーンも珍しくはなくなってきた
最後の方の話を少し補足すると、以前、山本聡哉騎手がこんな風に言っていたのを覚えている。「兄の方が断然"天才"型。自分には兄のような思い切ったレースはできない」と。
数年前の話だから今はちょっと変わっているかもしれないが、山本兄弟が互いの事をどう見ているかがうかがえるエピソードかなと思い敢えてここで持ち出してみた。
勝ち星を伸ばし始めたのは山本聡哉騎手の方が先になったが、山本政聡騎手も近年はリーディング上位の常連となって、兄弟でリーディングを争う日が来る事も想像だけの話ではなくなってきた。お互いの存在が互いを高め合う。そんな戦いが続く事を楽しみにしたい。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
今年(2017年)10月28日に地方競馬通算1000勝を達成した山本政聡騎手。弟の山本聡哉騎手がリーディングを守り続ける一方でやや目立たないように感じられるかもしれないが、山本政聡騎手も近年はシーズン100勝以上、リーディング上位をキープし続けている。今シーズンもリーディング3位をほぼ確実なものにしている山本政聡騎手にいろいろなお話を聞いた。
1000勝を達成して少し時間が経ったところでお話を聞いているのですが、どうでしょう、達成感のようなものははっきりしてきた?
それほど大それた感想はないですけれど、やはり節目になる事ですからできるだけ早く達成したかったし、盛岡開催のうちに達成できて良かったです。
2017年10月28日・盛岡第11レースで地方競馬通算1000勝を達成
2003年のデビューから500勝まで10年以上かかったのに、500勝から1000勝までは4年かからなかった。このペースアップぶりは見ていて凄いなと感じます。
良い馬に乗せてもらえているだけですよ(笑)
デビューから15シーズン目になりましたが、この間、自分自身が変わったとか成長したという部分はありますか。
変わったというか、考えないといけないことが増えたしうまくいかない事も増えた......でしょうか。昔よりもずっとたくさんレースに乗るようになったからそれだけ乗る馬のことや周りの馬のことも考えないといけない。乗る数が増えるということはそれだけ負けること、うまくいかないことも多くなるわけです。馬の能力をきちんと引き出してあげたいけれど必ずしも全部が全部うまくいくわけではなくて。だから自分はまだまだだなと、そう感じている時が多いです。
馬の力をきちんと引き出してあげる、というと?
よく"馬7・人3"と言うじゃないですか。その"3"の部分でどう乗るか。騎手としてはそこをできるだけ大きく使ってあげたい。"お前にはもっと力がある、もっと走れる"と馬に感じさせることができたらそれだけ力を出してくれる。
騎手が馬の力を決めつけてしまわない、みたいな?
自分も昔は"先行しなきゃダメ""良い位置獲らなきゃダメ""無理してでも前に行ってそれでバテたら仕方ない"とかそういうのにこだわっていたけど、もちろん時にはそういう乗り方も必要なんですが、今は、もっと馬の気持ちを考えてあげるとか、自分本位で競馬しないように、とか。
人間が人それぞれなように馬もそれぞれのペースの違いがあるから、そこを大事にして、余計な負荷をかけないようにして勝てるなら良いなと。
コウセン号に騎乗して盛岡芝1000mのレコードを実に21年ぶりに更新
これは山本聡哉騎手にも聞いてみたんだけど、最近、兄弟で乗り方っていうかレースの流れの掴み方が似てきたんじゃないかと思う。兄弟でワン・ツーというのも最近多いでしょう? 兄貴の方はどう感じますか?
んー。似ている感じは......しないかな。弟が良い馬に乗っている事が多いじゃないですか。だからおのずとレースの中で目標になる。だからそういう結果になる......という事はあるかもしれません。
兄から見た弟はどんな騎手ですか?
そうですね、いろいろな意味で"巧い"なとは思います。例えば馬群の中でこの位置に行きたい、あそこのポジションが欲しい、と思った時にもうそこにいる。先にいる。そういう点は巧いなと思って見ています。
絆カップ(11月5日・盛岡)ではタイセイファントムに騎乗し、ラブバレットを破って優勝。昨年の絆カップでもナムラタイタンを破って優勝しており"大物喰い"の山本政聡騎手だ
さて1000勝を達成して、さっきも言ったように最近のペースで行けるなら1500勝とか2000勝とかも決して遠い夢では無いと思うのですが、自身はこれから先はどう考えますか。
うーん。将来のことは、例えば何歳になったら騎手を辞めるとか、そういう事は考えていないです。身体の動きとかカンが鈍りはじめたら考えるのかなあ。今は、良い馬にたくさん乗せてもらっていますから、それを良い結果にできるようにしっかりやっていきたいしやっていこう......でしょうか。
あと、他所に乗りに行こうとか考えたりしない? 以前は冬場に荒尾に行ったりもしたけれど。1000勝したし、南関東で乗りたいって手を挙げれば行けないこともないと思うけども。
自分は牧場が好きなんです。牧場の仕事の流れが肌に合う感じがするし、馬を調教して仕上げていくのも好き。だから冬場は牧場に行きたいかな。
では最後にオッズパークの会員の皆さんにメッセージを。
これからも岩手競馬の応援をよろしくお願いします。
昨シーズンの『オッズパーク杯ゴールデンジョッキーズシリーズ』では総合優勝。今年も上位に付けている
同じ競馬場で戦っている以上、どうしても兄弟が対比・比較されてしまうのだが、騎手の戦いぶりとして"似ている所がありながらも違う部分は明らかに違う"というのは非常に興味深い。
大雑把な言い方かもしれないが、"理論派"の弟に対し"天才型"の兄と表現できるだろうか。ここに収まりきらなかった話の部分も含めての印象なのでうまく伝わらないかもしれないが、自分はそう受け取った。そして、遠くない将来、岩手のリーディングを争うのは山本政聡騎手と山本聡哉騎手の二人ではないか。そんな想いも強くなった。この先の兄弟の戦いはどうなっていくのかも楽しみだ。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
ファンの皆さんは岩手競馬の山本政聡騎手と山本聡哉騎手は、前者が兄、後者が弟の兄弟ジョッキーで、さらに船橋所属の末弟・山本聡紀騎手を含めて"三兄弟ジョッキー"だという事は既にご存じだろう。
山本聡哉騎手は岩手の騎手リーディング・トップの座を確かなものにしつつある。一方の兄・山本政聡騎手も近年はコンスタントにシーズン100勝以上を挙げ、リーディングでも3位を確保している(12月6日現在)。
10月の山本聡哉騎手に続いて、今回は山本政聡騎手にお話をうかがった。
まずは山本政聡騎手自身のことから聞きましょう。リーディング3位に付けていますが、その成績について。
そうですね、もう少し最初の段階で離されずに食いついていけていれば良かったですね。来年はもっと頑張りますよ。
弟の山本聡哉騎手もそうですが、ここ何年か成績が、グッと上がってきているように見えます。そのあたり、何かきっかけのようなものはありましたか?
んー、なんて言うんでしょう。最後まで脚を残しておくようにしているというか...。
乗り方を変えたということ?
乗り方は変わってないと思います。考え方じゃないでしょうか。展開をよく見て、馬と喧嘩をしないようにしてとか。必要な所でひとつひとつ気を付けてあげれば、それで結果も変わってくる。レースの流れの中のポイントポイントで、ですね。
弟・山本聡哉騎手(左)とのワン・ツーも目立ってきた
これ、最後に聞こうと思っていたんですが、山本聡哉騎手とレースぶりが似てきていない? レースぶりというか、流れの乗り方っていうか。最近2人のワン・ツーが多いでしょう? 流れのつかみ方が似てきているんじゃないかと思って。
弟も展開を読んで乗るから、例えば"展開の中で目標にする騎手・馬"の狙いが同じだったりして、一緒のポジションを狙っていることは多いですね。自分が取りたい位置に行こうとすると弟もそこに来ようとしていて、一瞬先に入られて、自分が弾かれてそこを取れなくて"あっ!こいつ!"って思うことも(笑)。自分が行こうとして動くよりも一瞬早く動き出しているんですよ弟は。弟のそういうレース中の判断、"読み"は素早いなと思って見ています。
山本聡哉騎手にも同じことを聞いたけど、兄弟として相手を、どんなふうに意識していますか? 聡哉騎手は"特に意識はしていない。でも騎手としての駆け引きで負けたくない"と言っていました。
自分も、そうですね、特別に意識はしていないかな。ただ、弟の方が力がある馬に乗っていることが多いから、それを負かした時は嬉しいって言うか"やった!"と思いますね(笑)。
絆カップで騎乗したナリタポセイドン(左)でナムラタイタンを破る
少し話を変えて。最近の山本政聡騎手とのコンビで気になる馬のことを聞きたいです。ナリタポセイドンで絆カップを勝ちましたが、あの馬にはどんな印象を持ちましたか。
距離は長い方がいいんじゃないでしょうか。瞬発力タイプというよりはしぶとく長く脚を使うタイプだと感じました。
もう1頭。コミュニティですね。5月のあすなろ賞を勝ってからは勝ち星から遠ざかっていますが(インタビュー後、11月21日に勝利)、その後も山本政聡騎手が手綱を取ってきてどんなふうに感じていますか?
一線級の中で2年間くらいずっと戦ってきて、年齢も6歳の秋ですから、若い頃のように1回走ったから急に変化するということでもないのかなと思っています。戦いながら徐々に良くなってきていると感じていますよ。
コミュニティとのコンビでは重賞7勝を挙げている
さて、岩手競馬の今シーズンもあと少しで、ちょっと気が早いけど来シーズンの目標みたいなものを聞いてみたいと思います。今シーズンはここまで怪我とか騎乗停止とか無くて順調に来ていたから、来シーズンも同じように順調に成績を上げていって欲しいなと思うけれども、どうでしょうか。
怪我しないとかっていうことはそれだけレースでも安定して乗れているっていうことで、だからこそ成績も安定するのだから、やっぱり怪我をしないように心がけたいですね。
今シーズン中の通算900勝、来シーズンの1000勝達成も見えてきました。
900勝まであと17勝(インタビュー時点)なんですよね。このまま来シーズンの1000勝達成まで行ってしまいたいです。それから、櫻田浩樹調教師には凄くバックアップしてもらっていて、他の厩舎から騎乗を頼まれてもどんどん乗れって許してくれるんです。それに自分も応えたいから、自厩舎の馬で良い結果をもっと出していきたいとも思っています。自分の1000勝と櫻田浩樹厩舎の300勝を同時に達成できたらいいですね。
青白のメンコが所属する櫻田浩樹厩舎のトレードマーク
弟の山本聡哉騎手がすでに通算1100勝を超えているのに兄の山本政聡騎手はまだ900勝手前なのか、と見られるかもしれないが、盛岡と水沢の在厩頭数の差を思えば(水沢の方が多く、自厩舎以外の騎乗依頼も受けやすい)、水沢に所属している山本聡哉騎手と盛岡に所属する山本政聡騎手の勝ち星の差を一概に比較できないし、むしろ山本政聡騎手はよく健闘していると言っていい。
実際、昨シーズンは山本聡哉騎手・村上忍騎手と互角に渡りあって一瞬ではあったもののリーディング1位に立った瞬間があったし、今シーズン序盤もしばらくの間は2位を狙う位置につけていた。
昨シーズンは山本聡哉騎手が騎手リーディングを獲得。弟がひと足先に頂点に立ったわけだが、その最大の刺客になるのは兄・山本政聡騎手なのかもしれない。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
今年、デビュー10年目のシーズンを迎えた山本政聡騎手。その節目の年に岩手ダービーダイヤモンドカップをアスペクトで制した。昨シーズン限りで菅原勲騎手が引退し、岩手競馬の騎手は世代交代が進んでいるところ。まだ20代の山本政聡騎手は、その旗手になりうる位置にいる。
岩手ダービー馬との出会いは、偶然ともいえる縁がもたらしたものだったらしい。
これまで冬場は育成牧場に働きに行くことが多かったんですが、その年はたまたま行く予定がなくて、そうしたら櫻田浩三厩舎から手伝いに来てくれと言われたんです。それで、アスペクトとエスプレッソの調教も担当しました。そのときの印象は、エスプレッソは成長途上で、アスペクトは完成度が高いというイメージでした。
2011 年の岩手2歳戦線を牽引した2頭だが、対戦成績は山本騎手の印象どおり、アスペクトのほうが上だった。
ただ、気が弱いところがあるんですよ。慣れている盛岡では強くても、水沢でいまひとつなのは、その影響かもしれませんね。
2歳戦線の締めくくりである金杯で惨敗し、その後に移籍した南関東でも苦戦。しかしアスペクトは見事に立ち直った。
南関東から戻ってきたときは、馬に不安感があるような雰囲気でした。それでもだんだん調子が戻ってきて、ダービー前の追い切りのとき、普段は厩務員さんが調教を つけているんですけれど、その人が「すごい手ごたえで、オレでは乗れない」と言ってきたんです。ベテランのその人がそう言うなら間違いないなと思って、ダービーでは自信をもって乗れました。
晴れてダービージョッキーになった山本騎手。しかし2年前にはダービージョッキーになりそこねた経験がある。
マヨノエンゼルのときは、技術的にもまだまだで成績もいまひとつ。ダービー前のレース(七時雨賞)が、自分でもちょっとミスしたなと思える騎乗だったんですよ。それで本番は乗り替わり。経験と技術が伴わないとダメだと感じました。そういう苦い経験があったからこそ、アスペクトで結果を出すことができたんだと思います。
成績が向上していく騎手の多くは、それにつながる何らかのきっかけを礎にする。山本騎手の場合は、それがマヨノエンゼルでの経験だったのかもしれない。
僕がレースに臨むときに考えることは、馬の気分を損ねないようにしようということですね。馬が気持ちよく走っているときは反応が違うんですよ。先行馬に乗る機会が多いですけれど、いちばんに気をつけるのはそこですね。でも、本当に好きなのは差し、追い込み。後方からだと道中でいろ いろ考えながら乗ることができて、騎手としての面白みが感じられますから。
今シーズンは菅原勲騎手の引退後。次代のエースをめぐる争いは熾烈を極めている。
もちろん、自分たち若手が盛り上げていかないと、という意識はありますね。僕よりも若い騎手が攻める騎乗をしはじめていますし。以前は岩手の騎手は岩手だけで乗るのが普通でしたが、最近は外に出ていることもひとつの要因かもしれません。
山本騎手自身も岩手以外での経験が豊富にある。
初めて遠征した佐賀では、岩手とペース配分がまったく違いましたし、それにインコースから一気に追い上げることがあるというのもビックリしましたね。それで僕も岩手に戻って水沢でインからのまくりを一度だけやってみたことがあります。レース後に先輩騎手から「危ないぞ」と怒られましたけれど(笑)。
岩手には小回りで平坦コースの水沢と、広くて起伏がある盛岡という、違う表情を持つ2つの競馬場がある。
水沢では、本命でもコース適性的に微妙という馬がいる場合、その馬を内に入れないようにして力を出させなくすることができますが、盛岡だとそれは無理。盛岡では力量が下の馬を上位に持ってくるには、展開崩れを待つしかないというところがあります。だから、メンバー的にペースが速くなりそうと思ったときには、直線に賭けるという乗り方をするときもありますよ。でも最下級クラスになると、ほとんどが事前の予想ができないくらいの混戦。それなのに新聞紙上で本命印がたくさんあると、精神的にキツイですね。本命で負けると次のパドックでけっこうヤジられるんですよ。『学校にもう一回行ってこい』とか......。
そういったなかでも成績は確実に上昇。プロの世界の厳しさを乗り越えていくためには、やはり自身の努力が必要だ。
馬に乗ったのは教養センターが初めて。卒業するときも、卒業してからも、これで食っていけるという手ごたえはなかったですね。デビューしてしばらく低迷していましたし、もし所属調教師が引退することになるのなら、同時に僕も引退して牧場に就職しようかなと思ったこともあるくらいです。その頃がちょうど結婚のタイミングで、向こうの親から「騎手はちょっと......」とか言われたこともありますし。でもそこで、あと1年だけ乗らせてくれ、と頼んだんです。その1年間は、前の年に比べて本当にたくさん馬に乗りましたよ。冬は荒尾に行けることになりましたし、牧場でも仕事させていただいて。盛岡に戻っても他の厩舎を手伝わせてもらいました。それでだんだん結果が伴ってきましたが、これまで成績が上がってこなかったのは、努力が全然足りなかったからなんだと痛感しました。
水沢所属でデビューした弟に続き、末弟も船橋所属でデビュー。現役では日本唯一の三兄弟騎手である。
僕は子供の頃からあまりガツガツしているタイプではなくて。2番目(聡哉騎手)は僕がひとつ言う間に10 くらい言ってくるような感じで正反対。3番目(聡紀騎手)は僕と同じタイプという感じです。でも行ったのが南関東ですから厳しいですよね。ウチらが岩手で名前を上げれば、3番目にも貢献できると思いますし、2人でもう少し上位に行ければと思っているんです。
長兄らしく、弟を気遣う発言がいくつか。それでも立場はプロ同士。自分が岩手競馬を引っ張る気持ちで、そして一気に頂点まで到達するほどの飛躍を期待したい。
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山本政聡(岩手)
1985年6月28日生まれ かに座 B型
岩手県出身 大和静治厩舎
初騎乗/2003年4月19日
地方通算成績/4,318戦352勝
重賞勝ち鞍/阿久利黒賞、青藍賞、若駒賞、
南部駒賞、岩手ダービーダイヤモンドカッ
プ、オパールカップ
服色/胴紫・黄一本輪、そで紫黄縦縞
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※2012年8月21日現在
(オッズパーククラブ Vol.27 (2012年10月~12月)より転載)