デビュー4年目の山本咲希到騎手は、有望な若手ジョッキーを多数抱えるホッカイドウ競馬の成長株。6月のヒダカソウカップではディナスティーアに騎乗し、待望の重賞初勝利を挙げました。現在行われている2018ヤングジョッキーズシリーズでも、トライアルラウンド船橋・門別で75ポイントを獲得して地方・東日本地区のトップに立っています。
今年はこれまで22勝を挙げています(8月23日終了時点)。今シーズンの戦いぶりを振り返っていかがでしょうか。
今年は重賞も勝たせてもらったり、楽しみな2歳馬に乗せてもらったりもしていたなか、年間50勝という目標を掲げていたので、物足りなさはちょっと感じていますね。昨シーズンの末に制裁を受けたぶん、今年度最初のひと開催で騎乗停止になってしまったのも痛かったです。
昨年は32勝と、2年前の8勝から大幅に勝ち数を伸ばしました。
2年目までは「勝ちたい」という気持ちが早まってしまい、早仕掛け、止まる、負ける、乗り替わる......みたいな悪循環があったんですけど、いい意味で開き直りの気持ちを持てたのが好結果につながっているんじゃないかと思います。先生方からもよく「あの頃のお前を乗せるのは大変だったんだぞ!」って冗談っぽく言われるんですけど、見捨てずにいてくれたうちの(松本隆宏)先生や、勝てなかったころも我慢して乗せてくださった先生方には感謝しかないですね。
6月のヒダカソウカップでは、ディナスティーアとのコンビで重賞初制覇を成し遂げましたね。
今年の2月頃にうちの厩舎に来たんですけど、最初に調教で跨ったときから、牝馬とは思えないほど力のある馬だと感じていました。ただ、自分がまだ重賞を勝ったことがなく、「重賞を勝つ馬」の手応えをあまりよく知らなかったので、実際のレースでどうなるかはよく分からなかった部分はありましたね。
レースに跨っていくうちに「重賞にも手が届きそうだ」という感触は持てましたか?
短距離だと、本当に速い牡馬たちにはスピードでは一歩及ばないような感じもしたのですが、何回かレースで乗せてもらっているうちに、牝馬同士なら意外と長いところでもいけそうな手ごたえを感じていました。
ヒダカソウカップのときも、前走で1200の交流重賞を使っていたので、スピード負けすることはないと思っていました。ただ、スタートから出していったら行きたがる心配はあったので、調教師とは好位の内々で溜めていこうと。で、終いだけ出せるところに出していこうという話をして。そうしたら、本当にその通りになってくれました。本当にすべてがうまくいってくれた感じでしたね。勝った実感がわいてきたのは、ゴールして検量所へ帰ってくるときでしたね。「重賞を勝った」というよりも、馬に「ありがとう」という感じです。
重賞初制覇となったヒダカソウカップ
2歳の有力馬にも徐々に乗るようになってきましたね。
昨年ミスターバッハでデビューしてから初めてフレッシュチャレンジを勝たせてもらって、そのあとポンポンと2歳戦で勝つことができたのが自分の中でも大きかったんです。1戦ごとに競馬を覚えさせていって、馬の成長過程を体感できたという意味でも面白かったですし、勉強になりました。イノセントカップではヤマノファイトにクビ差まで迫ってくれましたし、南関東に移籍した後もいい競馬を見せていますからね。
今年の2歳戦線では、ステッペンウルフが有力かと思いますが。
この馬が厩舎に来るという話になったとき、ミスターバッハの馬主さんが「来年はこの馬でがんばれ」と言ってくださったんです。ただ、シーズンオフに馬主さんが亡くなられたので、オーナーのためにも結果を出したいとずっと思っていました。調教の動きからも能力があることは分かっていたのですが、能検で宮崎(光行)さんを落としたり、気の悪さを出すところがあって。でも、基本的には賢い馬なので、馬具で矯正したり、坂路でも馬の後ろに突っ込んでいったりして、おだてるところはおだてて......という感じでだんだんとレースを覚えさせていきました。再検も無事パスして、フレッシュチャレンジでゴールしたときはオーナーさんのことが頭に浮かんで、思わずガッツポーズが出てしまいましたね。
6月のウィナーズチャレンジ2着から栄冠賞へ。結果は3着でしたが、ゴール前の末脚はすばらしかったですね。
2戦目は初めてのナイターでしたが、脚を使えるということが分かったので、栄冠賞では変に出していかず、ミスターバッハのように終いだけしっかりと脚を使っていくようなイメージで臨みました。ところがゲートを少し潜るように出てしまい、脚もどこかにぶつけてしまったのか、思うように出脚がつかなかったので、正直「終わった......」と思いました。でもそんなことも言ってられないし、イチかバチかで内を突こうと思って直線でステッキを入れたら、「お前そんな力あるならもうちょっと出て行けよ!」と思うくらいの末脚を見せてくれて。もう1回夢を見たんですけど、勝った吉原さんの馬(イッキトウセン)とはスムーズに運べたかどうかの差が出てしまいましたね。
レースが終わってから、この馬が持っている力をあらためて感じました。だからこそ、この馬の能力をもってしても栄冠賞を勝てなかったのかと思うと、ふがいなさや情けなさ、無念さといったいろんな感情がこみ上げてきて、涙が出るほど悔しかったですね。ブリーダーズゴールドジュニアカップは5着でしたが、距離が長かった分もあったのかもしれません。まだまだここで終わるような馬じゃないと思っています。
フレッシュチャレンジを制したステッペンウルフ
今年のヤングジョッキーズシリーズでは、門別ラウンドを終わった時点で75ポイント。地方の東日本地区では首位に立っています。
船橋は1戦目で格上の馬に乗せてもらったこともあり、馬の力を信じて乗った結果勝つことができました。あまり経験したことのない左回りで、騎乗するときのバランスに戸惑うこともありましたが、エキストラで2戦乗せてもらったおかげで、だいたいリズムもつかめたんじゃないかと思います。門別も2着、3着でポイントを稼げたのはよかったんですけど、2戦とも勝つつもりで乗っていたので不満は残ります。特に初戦は人気のある馬に乗せてもらったんですけど、どうしても3コーナーからふかしていかなければならない展開でしたからね......。先行勢のなかでは一番いい着順だったので、馬はよくがんばってくれました。
今後の目標について教えてください。
一番近い目標で言えば、次に乗るレースを勝つことですね。平場でも重賞でも、100戦100勝を目指すくらいの気持ちで乗っているつもりです。1度リーディングを取ってみたいですね。桑村さんや服部さんなど、リーディングを取ったことのある方の乗り方はやっぱり「違うな」と思います。機会があれば中央や海外でもどんどん乗りたいですね。今年の開幕前にマレーシアのセランゴール競馬場を視察させてもらったんですけど、大きな刺激を受けました。
では最後に、オッズパーク会員の皆さまへメッセージをお願いします。
これからも精いっぱい頑張りますので、応援よろしくお願いします。
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※インタビュー・写真 / 山下広貴
今年4月にデビューした出水拓人騎手(佐賀・中川竜馬厩舎所属)は同期で2番目に初勝利を挙げ、以降も順調に勝ち星を積み重ねています。動物が大好きというアプローチから騎手という職業を知った彼は、デビューした今も毎日馬房に行って馬と触れ合っているといいます。8月11日のレース中の落馬による骨折で休養中ですが、デビューしてからの4カ月間について振り返っていただきました。
まずは出水騎手ご自身のことを教えていただきたいと思います。ご出身や騎手になろうと思ったきっかけは何でしたか?
出身は神奈川県厚木市です。小学2年生から中学3年生まで野球をやっていたのですが、背が低くてクラスで前から2~3番目でした。動物が大好きで、学校で飼育係をしたり、家では犬、猫、金魚、カブトムシなどいろいろ飼っていました。それを父が見て、僕に合った仕事を調べて、「騎手をやってみないか?」と言ってくれたんです。「騎手って何だろう?」と思って調べていくうちに「なりたい!」と思い、目指しました。
中学卒業と同時に地方競馬教養センターに入学しましたが、どんな思い出がありますか?
毎日怒られっぱなしでした。入学するまで馬に関わってなかったので、僕だけ何もできず分からないことだらけでした。辛いことばかりでしたが、馬が好きなので手入れが楽しかったです。
神奈川県の出身ですが、佐賀競馬所属を選ばれた理由は何ですか?
地元に近い南関東よりもレースに乗せてもらえて、チャンスがあるかなと考えました。実際、1日に9レースも乗せていただけたりと、すごく恵まれた環境です。とにかく数が乗りたかったんです。乗る度に自分の引き出しが増えていって、「この前はこうだったから、今回はこうしよう」ってレース中に考えてできるようになりました。乗ることで勉強になります。
2018年4月7日佐賀第2レース、アラロケでデビュー戦を迎えました。初めての実戦はどうでしたか?
「ハナを取りに行け」という指示でした。教養センターの競走実習で教わった通りにやろうと思って、ゲートを出てから追っ付けてハナを取りに行ったんですが、逃げることができませんでした。アラロケは小柄な馬であんまり外を回したくなかったので、3~4コーナーはなるべく内々を回りましたが、5着でした。ゴールして「これがレースなんだ」って思いました。それまでは画面上からしか見られなかった景色が、自分で見ることができました。パドックでは家族も応援に来ていて、レースでは実況やお客さんの声が聞こえたり、周りに先輩ジョッキーがいたり、とにかく新鮮でしたね。
初勝利は4月22日の佐賀第5レース、ダークガーランド。同期で2番目に初勝利を挙げましたね。
こんなにたくさん乗せてもらっているから、本当は最初に勝たないといけないんですけど、勝てそうで勝てないレースが多くて焦りがありました。初勝利の前のレースでも逃げたんですが、向正面で後ろから他馬が来たのにジーっとしていたので「それではダメだぞ」と怒られました。だからこのレースでは向正面の早い段階で岡村さん(健司騎手)が来たのが見えた瞬間に追っ付けました。そうしたらそのままスーッと後続を離して勝ちました。馬が強かったですね。31戦目での初勝利で結構遅かったので、「やっと勝ったんだ」とホッとしました。
その後も順調に勝ち星を積み重ね、8月17日時点で18勝です。
強い馬に乗せていただいていますし、プラン通りに上手くレースができた時にだけ勝っています。まだまだ腕がないので、勝てるか勝てないかのギリギリのレースで勝ちを逃すことが多いです。上手く乗って勝つっていうレースを増やしていきたいです。
レースではどんなポイントに気を付けて乗っていますか?
一つは馬場です。佐賀競馬場は内側を空けて走りますが、内が重い日もあれば、梅雨は内を通っても大丈夫だったりしました。半馬幅、通る場所が違うだけで勝ち負けが変わります。経験が浅いので自分では明確に判断できないですが、その日の1レースや2レースを見て、勝った人がどこを通り、どこを通れば伸びるかを考えたり、先生に教えてもらっています。ベテランジョッキーは一瞬で見抜きますし、すごい人は「向正面はそんなに重くないけど、直線は重い」とか細かいところまで分かっているんですよね。教養センターでは馬場状態を気にしてレースをしたことがなかったので、勉強することばかりです。
内ラチ沿いを空けて走る競馬場と言えば高知競馬場もそうです。ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)ではトライアルラウンド高知に参戦しましたが、どうでしたか?
佐賀と似ているかなと思ったんですが、仕掛ける場所が違いました。高知は馬場が重たい分、早めに仕掛けても勝てないと感じました。また、普段のレースでは3キロ減で乗っているので、やや速いペースで逃げても勝てることもあるんですが、YJSのように減量がないと「ここから伸びるだろう」と思っても伸びませんでした。いろいろ難しいです。
目標の騎手は誰ですか?
山口勲さんです。初めて見た時は「よく勝たれるな」くらいにしか思っていなかったんですが、僕もレースに乗るようになって少しづつ...と言ってもまだ全然なんですが分かるようになって、どれだけ繊細に乗ってらっしゃるかというのを感じています。馬場状態を細かく読んでいますし、騎乗馬の特徴だけでなく相手の馬の特徴や状態など全部頭に入っての計算されたような騎乗なのですごいと思います。僕もそういう騎乗ができるようにがんばります。
出水騎手は8月11日の第6レースで前を走っていた馬が故障したのに躓き、ご自身も落馬。いまの状態などはいかがですか? 勝負所でかなり勢いがついた状態での落馬だっただけに心配されているファンも多いと思います。
左鎖骨遠位端骨折で8月13日から約3週間の入院予定です。落馬したレースで馬券を買ったり応援してくださっていたみなさんには申し訳ないです。しばらく馬にも会えないので、入院する日の朝に馬を触ってきました。来月のYJS佐賀は乗れるか分からなくて、復帰はリハビリ次第になると思います。デビューして初めてレースで落馬して落ち込みますが、これも経験と捉えます。
しっかりと治していただいて、また佐賀競馬場での騎乗を見られる日を楽しみに待っています! 最後にオッズパークの会員のみなさまへメッセージをお願いします。
いつも応援していただいているおかげで今、佐賀競馬が良くなってきていると思います。僕も復帰をしたら全能力発揮でがんばりますので、応援よろしくお願いします。牛乳を飲んで、怪我を早く治します。
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※インタビュー・写真 / 大恵陽子
昨シーズンまで3年連続で岩手の騎手リーディングに立ち続けている山本聡哉騎手。今年もここまで1位を守り続けており、4年連続リーディングへの期待も高まってきている。ラブバレットと共に各地に遠征したり、あるいは他地区の重賞にスポット参戦したりと、岩手以外でも存在感を増すシーズンになっている。
まずは地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップから。結果から言うと残念でしたね。6着、12着、4着、7着。
ちょっと乗り切れなかったですね。第1ステージも第2ステージも勢いがなかった。
何年か連続で"札幌行き目前"くらいまで行っていたこともあって、どうしても惜しいなと思ってしまいます。
最初の頃は良い馬に当たっていたことで成績も良かったのかもしれません。最近はちょっと運もないかも。でもそういう状況でも上の着順に持ってこないといけないレースなので、流れがあまり良くなくても上に来ないと...でしたね。
地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ盛岡第2戦(12着)
ジャパンジョッキーズカップ(7月16日、盛岡)の方は、もっと聞きづらい成績だった。
個人のポイントで最下位でしたからね(苦笑)。レースの方は地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップと違ってガツガツした感じがなくて、変なプレッシャーがない中で、皆きれいな騎乗をするから、他の騎手の良いところを観察しやすいですね。乗り方に無駄がないですよね。ロスがなくて綺麗。地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップなんかはやっぱり攻めていくから、危ないシーンもあったりするのですが、こっちはやはりトップジョッキー同士の暗黙のルールみたいなものがあって。安心して戦えます。
地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップなんかだとポイントを取るのに相手を出し抜いたり裏をかいたりするシーンもあるものね。
そういうレースに比べると、ですね。そしてJRAの騎手が入ってくるのも違いになると思います。地方競馬の騎手とJRAの騎手は乗り方が違って、進路の取り方とか、ポジション争いで出したり引いたりのタイミングとか強さとか、レースのまとめ方とか。わりと岩手の騎手に近い感じがして自分は違和感なく乗れる。
乗っている騎手としては地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップみたいな個人のポイント争いのレースとジャパンジョッキーズカップみたいなレースと、雰囲気の違いみたいなのはある?
乗っている感じは全然違いますね。
それはチーム戦と個人戦の違い?
それは特にないですよ。チームだからといって作戦をあれこれ決める事はないですし、レースを見てもらえれば分かるように変につついたりとかするようなこともないですし。そこは皆さんトップジョッキーですから、馬の癖とかをある程度言うだけであとはしっかりと乗ってきますし。パドックの整列前の仕草なんかわりと違いますよね。リラックスするタイプなのか気合いを入れるタイプなのかとか。それぞれ違うなと思いながら見ています。
ラブバレット(4月18日大井・東京スプリント)
ラブバレットの話しに行きましょう。ラブバレットの今年のレースを見てきて、ありきたりな言い方だけどがんばっているなと。去年よりもずっと良いレースをしてきているんじゃないかと思うんだけども。
自分もそう思いますね。今年は良いレースをしてくれていると思う。7歳ですから、成長しているとか力を付けているとかそういう部分はそれほど大きくはないのでしょうが、状態は本当に良いなって感じますね。あと、少しテンにゆっくり行かせるような競馬をし始めて、自分としてはそれがしっくりくるな、と。
それは末脚で勝負するような形の競馬?
終い勝負というよりは、いつもより、今までやっていた競馬よりは少し後ろの位置から勝負するような。ある程度前には行くんだけども行かせすぎないっていうか。それで最後に脚を使えるように。
特に前走なんかその狙い通り、ほぼ完璧なレースができたのに勝てなかった...というのが残念で仕方がないです。
JRAの馬たちの層は厚いですよね。克服しなければいけない課題って言うか壁は高いですけど、ラブバレットも凄くがんばってくれているので、何とか克服したいですね。
北海道スプリントカップ(6月7日門別)、ラブバレットは2着
さて今度は騎手リーディングの話へ。今年は、"今年も"か。好調ですね。
好調なんですか?去年と比べてどうなんでしょうか?
最近少しペースが落ちたけど去年並みでは来ているし、ちょっと前までは去年以上だった(※直近の5回盛岡開催終了時点では今年92勝、昨年は96勝)から決して悪くはないと。
週あたり3勝を目標にしているので、そのペースでがんばっていきたいですね。
最近のレースを見ていて思うのは、以前ほど岩手の勝ち星の数にこだわってないというかリーディングにこだわってないというか、そんなふうに見えるんだけど。
そんな事はないですよ。"リーディングを獲る・守る"というのは長い期間でも短い期間でもモチベーションになりますし、そういう目標を置いてないと、なんというか、だらだらと乗ってしまいそうで。敢えてガツガツする、敢えて勝ちにこだわるというのも大事だなと思っていますよ。そんなふうに見えますか?(笑)
やっぱりほら、"村上忍騎手に追いつく、追い越す!リーディング獲る!"って頑張っていた時期があったから、その頃に比べると...かな。
周りからもそういうふうに言われていましたからね。その頃に比べると、今はずっと自然に、自分の気持ちの通りに流れに乗れているんじゃないでしょうか。
6月7日門別、エムティアンでJRA認定ウィナーズチャレンジを勝利
山本聡哉騎手の騎手個人としての当面の目標はあと34勝(※7月30日終了時点)に迫る地方通算1500勝達成だが、師匠である佐藤浩一調教師の騎手としての通算1477勝を超えるのも一つの重要な通過点ではないだろうか。それを超えれば岩手競馬の騎手として歴代10位の勝利数ともなる大きな一里塚だ。もちろんラブバレットとのコンビでのグレードレース優勝にも期待し続けよう。
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※インタビュー・写真 / 横川典視
2016年から2年連続で笠松リーディングを獲得し、笠松の顔となった佐藤友則騎手。各地の重賞にスポット参戦し、8月からは初の南関東での期間限定騎乗に挑戦。JRAでもコンスタントに騎乗して結果を出しています。上を目指してフル回転を続ける原動力とは?
2016年に初の笠松リーディングを獲得し、そこからは不動の1位。もともと技術には定評がありましたが、どうやってこの上昇気流に乗ったんですか?
いやいや、本当に周りに恵まれただけなので。感謝しかないです。実はジョッキーになってからずっと、1年が終わる時に「やり切った」と思えたことがなくて。くすぶっていたんですよね。「このままじゃダメだ」と思いながらも、言葉にも出せなかったし行動にも移せずにいたんです。でも2014年の終わりに、名古屋の角田(輝也)先生が「お前、このままでいいのか?来年リーディング獲れよ」って言ってくれて。「いや~、厳しいですよ」って言いながらも、自分なりに意識改革して、言葉にも行動にも出すようにして。その年(2015年)は3位で結局リーディングは獲れなかったんですけど、初めてリーディングを目指せる位置まで行くことが出来て「今年、頑張ったな」って思えたんです。それと、僕にとっての偏西風が吹いたんですよね。何だかわかりますか?
偏西風??
尾島徹の騎手引退と、調教師になってからのバックアップです。徹が引退した時、「ともくんを10年連続リーディングにする」って言われたんですよ。後輩にそんなことを言わせた自分が情けないなと思いつつ、「絶対にやらなきゃ」って思いました。
尾島調教師はどんな存在ですか?
後輩なので、抜かれた時は悔しかったし、正直嫉妬もあったんです。でも、こいつスゲーなって思ってて。例えば、岡部(誠)さんと3人でご飯に行った時、当たり前のように岡部さんが奢ってくれようとしたんです。僕はその時、「すみません。ご馳走様です」って言ったんですけど、徹は「いや岡部さん、ダメです。僕出します」って言いだして。「いやいやいや」みたいなやり取りになって、徹がそこで「岡部さん!僕、岡部さんに奢ってもらってたら、いつまで経っても岡部さんを抜けないので」って言ったんですよ。その時、上に行く奴ってこういう奴なんだなって思って、後輩ながらグッときました。徹は体が大きくて減量に苦労して騎手を引退したから、本当は未練もあっただろうし、そんな奴に言われたんでね、これはもうやるしかないと思いました。
ご自身でも仰っていましたが、長年くすぶっていた中で一念発起しても、狭い世界ですからなかなか上手くいかないことが多いと思うんです。殻を破ることが出来た秘訣は何ですか?
僕は本気で騎手を辞めようとしたことが2回あるんですよ。どん底も味わっているし、正直怖いものはないんです。辞めようとした2回とも、周りに引っ張り上げてもらっているし、自分が恵まれているということにやっと気づきました。今までは、頑張ってやってダメだった時に、「やっぱりダメだ」みたいに思ってしまったんですけど、何でもっと周りを信じてもっと頼らなかったんだろうって思うんです。本当によくしていただいているので、もっともっと上手くなって恩返ししたいです。
2年連続笠松リーディングを獲りました。次の目標は何ですか?
今は期待してもらって、すごくいい馬にもたくさん乗せていただいているので、とにかく自分のレベルを上げたいです。それで今年は外に出ようかなって。8月から初めて南関東期間限定騎乗に行くし(8月27日~10月26日・大井所属)、笠松開催があっても他地区の重賞に声が掛かればスポット参戦したり、積極的に外で乗ることを意識しています。
JRAでもよく騎乗していますよね。
有難いことに、たくさんチャンスをもらっています。でも活かし切れていないんですよ。南関東やJRAは多頭数の競馬じゃないですか。それにコースもいろいろあって、そういうところでの駆け引きが僕には足りないんです。(吉原)寛人や(赤岡)修次さんを見ているとすごいなと思いますね。僕ももっともっと経験を積んで、あの2人のように地方を代表する騎手になりたいです。笠松の、ではなくて、地方の佐藤友則と言われるような存在になりたいです。
外で騎乗するのは、地元開催があるとなかなか難しいこともあるのでは?
そうなんですけど、寛人も修次さんも言うんです。「地元のリーディングにこだわっていたら上にいけない」って。もちろん獲れたら嬉しいですけど、それに捉われたらこれ以上上には行けないですから。今のままではまだまだ足りないし、周りに頼りっぱなしなんです。技術面もそうですけど、精神的にも「俺に任せろ!」ってドンと構えていられるような自信がまだなくて。外に出てたくさん経験して、もっと成長したいです。
リーディングを獲って満足!という感じではないですね。
全然満足してないです。もちろん獲れたことは嬉しかったですけど、獲ったら獲ったで次もって思うし、もっともっとってなる。それに、ジョッキーレースに呼ばれるようになったんですけど、周りを見ると負けているんですよね。結果も出ていないし。そこでも負けない技術を吸収したいです。
2018地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップは総合8位だった(後列右端)
そのモチベーションはどこから来るんですか?
自分のこともそうですけど、笠松にもっと人を呼びたいという気持ちも強くなったんです。笠松は騎手も少ないし、今は全国で勝ち負けするような強い馬もいない。リーディングになったからこそ、僕がもっとアピールしたいなと思うようになりました。今は夜中の1時半に起きて調教に乗る毎日で、辛いなと思う時もあるけど、「忙しいって幸せだな」って。努力を怠って調子に乗ったら終わってしまうので、今攻めないといけないなと思っています。
リーディングを獲った今だからこそですか。
そうです。どうしてそう思ったかというと、プロレスラーの内藤哲也選手の影響なんです。新日本プロレスはしばらく低迷した時期があったんですけど、今、内藤選手が注目を集めてまた人気がすごくて。でもそんな内藤選手が言うんですよ。「今僕が攻め続けないと、また暗黒期と言われた時のように戻ってしまう。だから僕は攻め続ける」って。僕も競馬界の内藤というくらいの気持ちで、攻め続けていきたいです!
では、オッズパーク会員の皆さんにメッセージをお願いします。
いつも応援ありがとうございます。ファンの方の声を直接聞いて、ファン目線の競馬場にしたいと思っています。僕は今、騎手会の副会長なんですけど、ファンサービスもいろいろ考えているので良かったら参加してください。今、勝率も上がっているので、笠松開催では僕が来ない日はないと思って馬券をたくさん買っていただけたら嬉しいです。皆さんの馬券に貢献できるように頑張ります!
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※インタビュー / 赤見千尋
今年2月にばんえい競馬で5人目となる通算1500勝を達成した鈴木邦哉調教師(64)。ばんえいイベントではPR馬のミルキーとともに各地を訪れ、広報役としても尽力されています。
通算1500勝達成表彰式(左から3人目)
ばんえいの世界に入ったきっかけを教えてください。
出身は、岩手県遠野市です。中学を出てから「馬車追い」という、馬で山を耕す仕事をしていました。2年くらい経ってから、北海道にはばんえい競馬というのがあると聞いて、馬の本場に行くことになったんです。
1978年に騎手デビューして、弟の勝堤と2人で騎手をやっていたけど、弟の方がうまかったからなぁ。俺は1987年、32歳で調教師になったんだ。ずっと兄弟で二人三脚だよ。
思い出に残る馬を教えてください。
たくさんいるよ! 強い弱いにかかわらず、携われるだけの思い出がある。大きくなかったが強かったスズカゲ(1996年北斗賞、北見記念)や、3歳になって強くなったダイフジオーカン(1996年ばんえいオークスなど)もいたし。
私にとってはミサキスーパー(2004、05年チャンピオンカップなど)の印象が強いです。
うん、しいて言えば、小さな体で頑張ってくれたミサキスーパーかな。市場で自分で見つけて、馬主に買ってもらって育ててきた馬。首の長さとか、顔の良さに惚れたんだな。ピンと来るものがあるんだよ。言葉で表せないけど、違うものがある。体重がないからデビューも遅かった。でも能力はあるから、上に行くと思った。
残念ながらばんえい記念は3年連続2着(2004~06年)でした。
スーパーペガサスって怪物がいたからな。レース終わってから勝堤と「ああしたら勝てた」なんて話したけど、全て結果論だから。馬体がなかったから、苦労して育てた。
種牡馬としては1世代しか残せませんでしたが、厩舎に所属していたテンカムソウが種牡馬入りしました。
今年初年度産駒が生まれた。結構いい馬を出していると聞くから、再来年が楽しみ。テンカムソウの子も、いつか自分でやってみたい。
そのほかの馬では。
クシロキンショウは、ウンカイに勝った1997年のイレネー記念の時は899キロ。小さな体だけど、大事に大事に使ってきた。
昨年引退したオイドンは良血で、エリートだったな。大きな夢を見させてもらった。ハンデもきつかったけど、ばんえい競馬が一番苦しい時を支えてくれた。お客さんに知られた馬だから、いいPRにもなったと思う。獲ってみたかったダービー(2011年)も獲らせてもらったし、よく働いてくれた。喘鳴症に長い間苦しんでいて、かわいそうだったな。
これからだと、2歳はトマランサジェットがいいかな。来年、再来年にも期待できそうな馬がいるよ。
ナナカマド賞を制したオイドン。右端が弟の故・鈴木勝堤騎手(2010年10月11日)
今年2月には、1500勝を達成しました。大事にしていることはなんでしょうか。
気を付けているのは馬の体調維持。生き物は十人十色。人に一癖、馬に一癖、ってな。そして、馬を長持ちさせて、定年まで育てたい。今の時代は難しいところもあるけれどな。
1500勝できたのは、2006年にばんえい競馬の存続が決まった時、周りの人たちの協力があったから。存続しなかったらない。寝ないで会議してくれた人など、いろいろな人が一生懸命になってくれたおかげで、開催にこぎつけた。この時の思いを忘れてはいけない。
一番はファンのおかげ。そして厩務員、騎手のおかげだと思っている。これらの努力に報いるため、全国をまわって広報活動させてもらっている。
その姿に頭が下がります。
できる間は、地方に行ってばんえいはこういうのだ、と知ってもらった方がいいと思うから。地方行ったら励みになる。いつ行ってもありがたい。忙しいと思ったことはないよ。
でっかい馬はここだけだから、世界で一つの変わった競馬をなくしたら困る。ばん馬がつぶれる、って言葉はまた聞きたくない。ファン1人1人を大事にしないと。
よく服部義幸調教師ともいうんだ。「10年かかったなオイ!」って。PRを続けてここまで来るのに、10年かかったということ。花は咲いたといかないけれど、根は張ったと思う。年々ファンが増えているのを肌で感じる。
ミルキーは今療養中ということでふれあい動物園におらず、心配です。
ばい菌が体に入って熱が出ていた。だいぶ良くなったよ。ゆっくり休養させます。
さて、趣味などプライベートについて教えてください。
趣味はゴルフ! 忙しくてなかなか行けないから、下手になるな(笑)。食べ物は肉とケーキ! とんかつなら帯広の我逢亭が好きだし、焼き肉のだいじゅ園(帯広・音更)はいい肉を出すよ。ケーキは、羽田空港で売っているのと、柳月(帯広)のフルーツロールが好きなんだ。帯広は食べ物に外れがないと思うよ!なんでもおいしい。
岩手県でチャグチャグ馬コにも参加(2018年6月9日)
これからの目標について教えてください。また、オッズパーク会員の方に一言お願いいたします。
もう一回、オープン馬を触ってみたいな。目の覚めるような馬に出会いたい。できればテンカムソウの子で。
ファンの方には、馬券を買って、応援してもらいたい。みんなのおかげで今がある。全国からだと遠くて大変だけど、足を運んでもらえたら。
魅力は、エキサイティングゾーンで馬と並んで歩けるところ。重量感ある馬の力強さを間近で見られるのはここしかない。川崎競馬場に行った時に、ファンに「ばんえいは配当がいいからおもしろい」って言われたな。
ファンに愛される競馬じゃないと。ファンの協力がないとできない競技なので、後押しを続けていただければと思う。今までの努力をなくすわけにいはいかないんだ。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香