第2回 パパはばん馬が大好き 西 弘美
2回目のばんえいジョッキーファイルは、今年3月のばんえい記念をトモエパワーで制した西弘美騎手です。昨年、息子である謙一騎手がデビューを果たしました。背が高くて笑顔の優しい西騎手ですが、レースの時は表情ががらりと変わります。
身長? 178センチ。謙一は……175かな。高く見える? 髪立ってるからな(笑)。
この冬に500グラム太ったけど、今はもう大丈夫。調教で体力使ってるから(笑)。
--- 謙一君の騎乗ぶりを見ていかがですか。
う〜ん。どうだろね。最近はやっと見れるようになってきたけどね。ぎこちなさがなくなってきたんじゃないの。
--- ここ最近活躍していますが、さすが厳しいようですね。
フフフ……1年や2年で乗れたら苦労しないもんな。思いっきり乗ってるようだからいいんでない。
ばんえい記念・トモエパワー
--- 西さんの場合、思い出の馬は、ばんえい記念を勝ったフクイチ、イエヤスなどたくさんいると思いますが。
カネミフロンテイア(ばんえいダービー、チャンピオンカップなど重賞7勝)。あの馬に一人前にしてもらったんだよね。今現在も収得賞金の……3歳の時の記録だけどね、抜かれていないわ。うん。
--- 期待の2歳馬はいますか。
ソトガハマモリウチかな。
--- 乗っていて違いを感じますか。草ばん馬で強かったそうで。
うん、まあ今の時期はね。早くから調教されてるし。
ばんえい競馬のルーツともいわれる「ばん馬大会」は西騎手の出身地・岩手県を含む東北地方でも行われています。東北では「馬力大会」といい、そりには乗らず馬の前で引っ張る扱者と、後ろから追いたてる助手の2名で行います。以前私が東北のばん馬大会で、日程に一番詳しい方を紹介してほしいと周りの方に聞くと、「それは弘美だ」と言われました。
--- 西さんはよくばん馬大会に行かれるんですか?
小学校上がる前から丸太引っ張る手伝いしてたし、ほとんどのばん馬大会に行ってたから、近所の子と遊んだことない(笑)。日曜日っていったら、ばん馬行ってた。
いろいろなところでやってるよ。同じ日に2カ所でやってたりさ。
この前も、三沢(青森県)行ってやってきた。舟形(山形県)もポスター送ってもらって、日程表ももらって。そうそう、西根(岩手県八幡平市)のまつりも行ってきた。
扱者と助手は、どっちでもできる。普段は一人で調教とかやってるからさ。前で引っ張って、慣れたらもう馬が引っ張ってくから。声かけるだけで止まるし。
--- ばん馬大会の魅力は?
馬もそうだけどさ、馬好きが集まるからね。なかなか交流の場ってないでしょ。
--- 北海道に来て、違いはありました?
最初こっちに来たときは、とまどってさ。なんでソリに乗って馬が言うこと聞くのって。後ろにいて、言うこと聞くのが不思議だったもの。手綱なんかも、持ち方わからなかったし。
--- すぐにはばんえいの世界に入らなかったんですよね?
最初は弟(西康幸調教師)が入って、それからオレもやるって。最初は大工してた。3年大工やって、あとは好きなことやってみっかなーって。
--- 西さんから見た、ばんえいの魅力はなんでしょう。
やっぱり、おっきな1000キロクラスの馬が、騎手のかけ声で走ったり、止まったりするから、力が入るよね。
好きなところ? 障害だよね、やっぱり。駆け引きとか、間合いっていうの。乗ってるのは先行が多いけど、追い込みの方が好きなんだ。
--- では、ファンに一言。
レースは見てほしいね。レースが終わって興奮状態にある馬の、筋肉の張ったボディビルダーみたいな、あれが一番かっこいいよね。いかにも1着獲って勝ったぞっていう、あれがすごくいいよね。
--- 個人的に不思議に思っていることがあるのですが、鈴木勝堤騎手と生年月日が同じですよね? 全く違うように感じるんですが(笑)。
そんなに違う? (俺は)酒あまり飲まねぇからかな(笑)。
優しい口調でぼそぼそっとしゃべる西騎手。口数は少ないのですが、ばんえいやばん馬大会の話になるととても楽しそうに話してくださいました。心からばん馬が好きなんですね。
大騎手であることを忘れて、すっかり癒されてしまいました。
取材・文・写真/斎藤友香