第35回 歴史を受け継ぐ騎乗 西将太
父は西康幸調教師、伯父は西弘美調教師、西謙一騎手はいとこ。西ファミリー4人目の騎手、西将太騎手です。
子どもの頃から、ソリに乗って遊んでいました。馬が厩舎から出たら、どんなに朝が早くても一緒に家を出ていくんです。ダメ、来るな、って言われても馬に近寄ってた。
小学、中学時代は親戚のいる青森で過ごし、休みの時は競馬場に戻っていました。
--- 馬が好きなんですね。お父様がフクイチで制した農林水産大臣賞典(1995年、現在のばんえい記念)など、レースは見ていましたか?
レースより、馬がメインで見ていました。フクイチは、レースのことより激しい馬だったことを覚えています。
おとなしい馬には癒されるし、にくたらしい!と思った馬にもいい面はある。怒ろうと思っても、かわいそうだと思ったときには怒らないですね。馬が好きな気持ちは、今も変わらないです。
--- そうなんだ~。騎手としては優しすぎると言われませんか?
ハミの使い方は、もっと厳しくてもいい、と言われることがありますね。
--- 高校は北海道だったんですか?
静内農業高校です。
--- ええっ、静内。サラブレッドですか......?
はい、馬を扱う生産科学科で、馬術部でした。友達はサラブレッドの牧場で働いています。やっておけば、自分のためになるかな、って。本当は、中学卒業して競馬場に行きたいと行ったら、高校に行け、と父に反対されたので、「馬のいる高校なら行く!」と言いました。
--- 本当に馬が好きなんですね。サラブレッドとばん馬、かなり違うでしょう。
それまではばん馬を馬として見ていたから、サラブレッドは馬という気がしなかったですね。扱い方も違う。優しくしないとすぐ怪我をするし、ちょっとの動きでハミがかかる。
馬術部は楽しかったですね。リズム良く、馬と走れるのが気持ちいい。ばん馬だと、走りたくても場所がないですよね(笑)。今でも、走りたいなーと思ったときは、近所で馬を飼っている先輩のところに乗りに行きます。ひとりじゃ寂しいからキク(菊池一樹騎手)をつれて(笑)。
--- ばん馬の騎乗に役に立っていることはありますか?
うーん、背中に乗るのと、ソリに乗るのは全く別ですからね。同じなのは、声をかけながら、っていうくらいかな。
--- 思い出に残る馬はいますか?
......3頭、いますね。
小中学生の頃は、山田(勇作)厩舎のトップダンディー。年取ってて、怒ることもあるけど優しさもある馬だった。
小さな頃は、オヤジが乗っていたタカネミノル。子どもだから、顔や形が好きでしたね。
今だと、担当しているヒロノクィンかな。自分に優しく接してくれます。気のせいかもしれないけど(笑)。ガラをかけるとき、ちゃんと首を下げてくれるんですよ。
--- 高校卒業後、競馬場に入りました。存廃論議もありましたが...
そのときは「なんとかなる」って思っていました。今までも苦しくても乗り越えてこれたから。
--- 前向きですね。騎乗はお父様に教えてもらったりするのでしょうか?
騎手試験には3回目の試験で合格しました。
オヤジは、教えるの得意じゃないからなぁ(笑)。レースは見ててくれるんだけど「ここがだめ」というだけで、どうすればいいのか教えてくれない。父が所属していた山田調教師は具体的に教えてくれますね。弘美さんには「迷ったらだめだ」と言われました。ケン(西謙一騎手)は、「何やってるんだ」って(笑)。
競馬場は知っている人ばかりだから、みんな優しく教えてくれます。逆に、見られているわけだから気をつけよう、と思いますね。
騎手とは同期をはじめ、みんな仲がいいですよ。先輩騎手は「オヤジに聞け」と言いますね。
--- 勝負服は、お父様に似ていますね。
父と伯父はデザインが同じ。だからって、ケンと同じデザインにすると、色違いの騎手が多い。それで父と色違いにしました。父は袖が赤です。
ちなみに、4人兄弟の長男です。弟や妹は馬に興味がない。みんなの分、俺がひとりで取ったんじゃないか(笑)。
--- そうかも(笑)。西騎手、パパなんですよね。
高校卒業後に結婚して、3歳の風李(ふわり)と0歳の想果(そよか)、2人の娘がいます。ケンの子ども2人と同級生で、向こうは全部男。仲良く遊んでますよ。
--- かわいい名前! では趣味を教えてください。今は子守かな?
そうですね。海釣りに行きたいんですけどね。代わりに、近くの川釣りに行きますよ。
食べ物巡りやドライブも好き。質より量で、食べ放題に行きます。「行くぞ!」って嫁を強引に連れていきます。いろいろと行くけど、アルシノエ(東1南21)って店が、量もあるし美味しいかな。
たくさん食べた次の日は食事を抜いたり、仕事で動いて減らしたりしますね。減量は苦ではないです。
ドライブは、アテのない旅。方向だけ決めて走りながら、近くに何があるかがわかると、そこに行く(笑)。部屋でじっとしていると退屈なんです。
--- 初騎乗(1月9日トリノヒメ・4着)、初勝利(1月24日オーゴンプリンセス)について教えてください。
初騎乗は緊張しました。勝った時は、調教師の言うとおりに乗ったから。ひとりなら勝てなかったです。
最近は、周りが見えてリラックスしてきました。でも、ビデオを見ていても動きがぎこちない。どうやったらいいんだろう。自分のを見たあとに、オヤジが勝った時のビデオを見ています。フクイチより前ですよ。昭和62年頃ですね。騎手の上体の動きがすごく激しい。今と違います。昔のレース、面白いですよ。
--- そうなんですか! 私も騎手の動きを意識して、重賞DVDを見てみようかな。
平場と重賞じゃ違いますよ。重賞はまだ慎重な気がする。
父は弘美さんとよく比較されましたが、昔を知っているファンは、みんな(父が)上だったって言うんです。山が巧かったって。降りてからも体全体を使って追う。憧れの動きです。だから、父が勝ったレースだけを見るんです。父親と一緒に乗った時期があるケンがうらやましい。お互い乗っていた馬の話ができますからね。
--- パドックやレース中、ファンの声は聞こえますか?
今でも耳に残ってるのは、パドックでファンに「もっと勉強しなきゃダメだな」って言われたこと。勉強しているのに、と悔しかったです。馬の手入れが忙しくない時は、いつも近くまでレースを見に行って勉強しています。
--- 今後の目標を教えてください。
今後は、自分のぎこちない姿を直したい。スムーズな動きをしたいです。
新人の中では、結構万馬券出してると思うんです。人気がないのに勝つのは達成感があります。コーネルジョンコで勝った時、表彰式で「取ったよ~」って声をかけられたのは嬉しかったですね。
--- ファンに、馬の魅力を一言!
馬は、見ていれば癒されます。かわいい馬は、体を自分に寄せてきますよ。たてがみの飾りを見て、きれいだなと思ったり、ばん馬そのものを見て、かっこいい、たくましいって思ったりしてほしい。
パドックでは新人らしからぬ"目力"があり、さすが競馬場育ちだな、と一目置いて見ていました。それでも話してみると、優しい家族や親戚、競馬場の人たちに愛されて育ってきたことが伝わってきます。
私は西康幸さんの現役時代は残念ながら知らないのですが、レースの迫力と普段の優しさのギャップは西弘美さんもお持ちだな、と思いました。
現役の先輩方だけではなく、父やばんえいの歴史を尊敬し、吸収していこうという貪欲さがうれしく、楽しみです。
さすが西康幸騎手の息子だ、とオールドファンに言われるような華麗なレースを早く見たいです。
取材・文・写真/斎藤友香