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ばんえいジョッキーファイル(37) 舘澤直央

第37回 すべては感謝の気持ちから 舘澤直央

 2012年、唯一の新人騎手、身長183センチの舘澤直央(たてさわなおひさ)騎手の紹介です。

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--- デビューして半年ですね。6月25日現在7勝。連対率も25.8%と、なかなかの活躍ですがこれまで、いかがですか。

 全然、基本がしっかりしてないです。未だに緊張はありますね。デビューしたころよりは、少しは周りを見られるようになったかな。

--- 騎手になったきっかけを教えてください。盛岡市出身ですよね。

 家の近くにポニーやアラブがいたんです。馬の世話をする優しいおじいちゃんやおばあちゃんがいて、馬の世話をしたら乗せてくれました。
 いろんな馬つながりの人がいて、馬力大会にも連れていってもらいました。その中に金田調教師の親戚がいたんです。中学卒業したらすぐに競馬場に行きたかったんだけど、親に高校は出ろと言われて。厳しい部活でちゃんとやったら、その後は自由にしていいといわれたので、厳しいといわれる水沢農業の乗馬部に入部しました。高校には一応馬学の授業もあったんです。馬の資料がたくさんありました。

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--- 水沢農業の乗馬部は名門なんですよね。大井の千田洋騎手と同級生だとか。

 団体では東北選手権で優勝もしました。自分はたいしたことなくって。よくて県2位くらいです......。
 千田は体が小さくて、うまかったです。毎年騎手試験を受けていましたね。
 乗馬は障害がメインですが、馬場も総合もやりました。練習は水沢競馬場の横にある馬場を使い、部室も競馬場にあるんです。馬場を使っているのは、メインは水農生ですが一般の人もいて、ばん馬で障害飛んでた人を見たことがありますよ。

--- それは見たい!(笑) サラブレッドの騎手は考えなかったんですか。

 背が大きかったし、大きい馬やポニーの方が身近でした。今は乗馬の経験を生かしてないですね......。
 高校2年の時に、ばんえいの存廃の話が出ました。金田調教師には「資格を取った方がいい」と言われたことと、農業や畜産に興味を持ち、もっと勉強もしたかったから、岩手の農業大学校に進みました。馬と一緒にいたい、というのが一番ですが。牛や馬の人工授精の資格も持っています。夏休み、冬休みは金田厩舎に手伝いに行ってました。

--- そして卒業後に競馬場に来たのですね。最初から騎手を目指していたのでしょうか。

 騎手にはなりたかったですが、競馬場に入ったら、まずは厩務員の仕事をしっかり覚えたいと思いました。もっと勉強した方がいいって。

--- 騎手試験は一発合格でしたね。

 受けられる最初の年から騎手試験を受けさせてもらい、この年は自分1人でした。受かったときは、自分でいいのかな、って思いましたが、やりながら騎手について学んでいきたいです。騎手の先輩のところに、1人で話を聞きに行ったりもしていました。

--- 真面目なんですね。では、勝負服の由来を教えてください。

 小さい時から世話をしていたトモエリージェント(1991年根岸Sなど)の、現役時代の勝負服を参考にしました。オーナーにはお世話になって、乗せてもらったりしていたんです。もとの勝負服は白が多く、調教師に「汚れるから」といわれたのでピンクにしました。トキオパーフェクトも持っているオーナーは、厩舎に(初騎乗の)ワンダーボーイを入れてくれているんです。

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--- トモエリージェントでしたか! 馬の魅力を教えてください。

 どこが、と言われても、身近すぎて。今担当しているのは、ハルカヒメ、スノウパレット、ワンダーボーイ、サンノユウカです。ハルカヒメのリボンが人気みたいですが、馬主さんのお孫さんが持ってきてくれました。「ハルちゃん」と言って、いつも来るんですよ。

--- 新人騎手の話を描いたドラマ「大地のファンファーレ」放映前後に、落そりしてしまいましたね(1月14日8R)。落ちた場所まで戻ってレースをしなくてはいけないのですが、戻らずに失格となりました。

 申し訳なかったです......。そりの上でバランスを崩して、焦ったんですよね。元の場所に戻ってから再騎乗しないといけないことはわかっていましたが、他の人に迷惑がかかるから、とりあえず行った方がいいと思い、戻らずに進みました。足の位置が定まっていなくて、バランスが取れていないんです。気持ちも焦っていますね。
 その後は、(同厩舎の先輩の)浅田さんや他の騎手が、こうした方がいいと教えてくれました。まずは基本をしっかりしたいです。最低限のところから。レース後はビデオを見たり、聞きに行ったり。普段も素振りをしたり、運動の時から、手綱の持ち方を気をつけるようにしています。

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--- そして初勝利は2月13日1R、マサムネワールドでした。

 勝てる馬に乗せてもらったからです。終わってからほっとしました。ありがたいことに、中島調教師が乗せてくれました。新人に声をかけてくれるなんて......。
 前日には、もともとマサムネワールドに乗っていた(船山)蔵人さんに、ビデオを一緒に見ながら、こういうところ気をつけた方がいいよ、と2時間くらい話をしてもらいました。この日の最終レースで、蔵人さんが1着、僕が2着だったんで「邪魔したもんな」と言って。蔵人さんは、普段から声をかけてくれます。ご飯誘ってくれたり、すごくいい人。勝った時もすごく喜んでくれて。一緒にいると、双子とか、兄弟ってよく言われます(笑)。
 金田調教師も「まずは周りに迷惑かけず、やることはちゃんとやっていたら自然と結果はついてくるから」と乗せてくれるし、他の厩舎の騎乗も見ててくれるんです。
 乗せてもらえるだけで、本当にありがたいです。

--- そういわれれば、船山騎手に似ているかもしれませんね。そうそう、新人騎手紹介の時、色紙に「感謝」と書いていましたよね。

 はい、試験に受かったのも、馬や調教師、周りの人のお陰で、自分1人では受からなかったですから。教えてもらって、助けてくれた。応援してくれた人に向けて書きました。そういう気持ちを忘れちゃいけないと思います。いろんな人に支えてもらいました。
 幕も作ってもらったんです。「輓馬一代」というばんえいの曲があるんですが、作詞した人がもともと知り合いで、騎手になったお祝いにくれたんです。

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--- それでは、プライベートの話を。趣味はなんでしょうか。

 趣味ですか? 仕事が忙しくて......車やバイクは好きですが。
 食べることは好きです。甘いのが好きで、パフェが一番好き。早食いや大食いもします。先日、イージーダイナーというカレー屋で早食いしたとき、(渡来)心路にパフェも食ったらおごってやる、といわれた時も完食しました。
 減量はギリギリではないけれど、月曜のレース終わってから......今はナイターですから、火曜、水曜に食べて、その後は全く食べないなど、極端な生活ですね。
 週に1回くらい、しゅんやChai(帯広のフリーペーパー)を見て行ったりします。好きな店はランチョエルパソですね。
 自炊もしますよ。金田先生と食べることもあります。仲がいいのは、同じくらいの年の厩務員や(西)将太、心路かな。みんなで遊びますよ。

--- 食生活がちょっと心配ですが(笑)。今後の目標を聞かせてください。

 体勢や手綱などの基本をしっかりしたいです。馬と相談しながら。気持ちもわかりたいし。ぼう(追う)のも、展開読みきれてないから、他の人の動きを見たり、アドバイスをもらったりして勉強していきたい。ハミのあて方、体の使い方......騎手のみなさんが憧れですね。まずはまっすぐゴールすること、レースを無事終わらせることを心掛けています。
 調教師は、自分の厩舎の先輩の話を聞け、というので、浅田さんから話を聞いています。蔵人さんは、背が高い共通点があるんです。背が高いと、バランスを取りづらいんです。だから重心を低くしろ、と言われます。体が大きくてもそりの大きさは一緒ですから、股も大きく開けないし。手綱が足りなくなるんです。体を使いたいけど、固くて余裕がないんです......。

--- 最後に、ファンに一言お願いします。

 未熟で......申し訳ないですが、少しずつ成長していきたいので、応援してくれるとうれしいです。
 ばん馬は、山登るときのたくましさ、すごいですよね。迫力があります。人馬一体になるところがすごい。少しでもファンが増えてほしいです。
 サインですか? 考えていない......漢字多いし(笑)。

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 真っ直ぐな目で、人馬への感謝の気持ちを語る姿に感動しました。
 貪欲で、とにかく真面目。研究熱心な舘澤騎手なら、金田調教師が言うように、結果がついてくる日もそう遠くはないでしょう。
 いっぱいサインをする日のために、すぐにでもサインを作ってね!


取材・文・写真/斎藤友香

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