第29回 帯広ばんえいの未来請負人 貝羽智生
活躍中の新人騎手。2人目は貝羽智生騎手です。
--- デビューして今日までいかがですか? 高い勝率を残していますね。
合う馬がいて、それに支えられているって感じですね。(初勝利の)ミノルユウセンです。
気をつけていることは、馬優先ですね。馬に怪我させないように。
--- 競馬場に来たきっかけを教えて下さい。名門大友厩舎ですが、名前は知っていましたか?
仕事ガイドに載ってて……最初は、帯広に競馬場があるってことも知らなかったです。
高3の春に帯広単独開催になって、その2カ月後に競馬場へ来ました。
ばんえいのことを知ったのも、高3になってからです。春にちょっと親と見に行ったくらい。
聞いた話によると存続運動が大変だったそうですけど、全然その時は知らなくて……申し訳ないんですけど。
--- 高校を中退されたんですよね。決断してから入るまで何カ月?
2週間くらいですね。
--- ええっ!
高3の春になって、大学受験を迎えて色々考えたんですけど、このまま高校卒業して、大学卒業しても面白くないっていうか。レールを敷かれたような人生になっちゃうかなって思って、6月くらいから休学したんですよね。
休学届を出した次の日くらいに競馬場来て、それから1週間くらいで。
その期間は……濃かった。
--- 求人誌に厩務員募集も載ってるんですね。
休学しようと思った時に、仕事でもしようかなって軽くバイト探しみたいな感じだったんですけど。
1週間くらいで、休学届を今度は退学届にして競馬場で生活(笑)。
--- これだ! みたいなものがあったんでしょうか。
そこまではないですけど、動物がもともと好きだったから。
父が牛の仕事してるから牛は結構触ってました。ポニーもいました。
『厩務員と騎手見習い』って書いてあったんで、騎手もかっこいいなって。それも大きかったと思います。
--- 厩務員になってカルチャーショックはありましたか? びっくりした事とか。
びっくりっていうことはないですね。競馬場入る時に、多分こうだろうな、って考えていたので。
朝は早いって聞いてたし、一人暮らしもいずれしないといけないことだったし。
ただ、朝早く暗いうちから仕事するっていうのが若干……。
--- 馬の仕事はいかがでしたか。
高校生からいきなり仕事を始めたじゃないですか。まったくバイトとかもしたことなくって、いきなり社会人として。
最初は先輩の部屋に住まわしてもらってたんですけど、甘えて、先輩には色々迷惑かけたと……。今思えば、そういうのも楽しかったです。
騎乗は藤本匠さんや、色々な方に教わっています。
--- 帯広出身ということで、ご家族もいつもレースを見に来られていますよね。
はい。多分今もいたと思うんですけど……。
--- ばんえいの世界に入ることについて、反対されませんでしたか。
反対はされなかったです。
高校入るまで親の言ってきた通りにやってきたから、あとは自由にしていいって言われたんで。
--- それがジョッキー貝羽を生んだと!
そうですね。
--- 騎手試験は一発合格。帯広柏葉高校(帯広一の進学校)出身ですが、もともと勉強が好きなのでしょうか。やり始めるとハマるとか。
騎手試験は、今年だけみたいですけど、難しいってイメージはなかったですね。
中学校の時もそうだったんですけど、ハマるっていうより勉強しなきゃいけないって思って。勉強したのはその時だけですね(笑)。
--- 貝羽騎手はテレビや新聞のニュースでも必ず映っているのを目にします。目立つのが好きでしょうか。
小さい頃から目立つことが好きだったから。騎手になるっていうのも、目立ちたいっていうのがあって。
今思ったら、学校を途中でやめたっていうのも、他の人と違う世界を、っていうのがあったと思います。
上昇気流と共に。この時も写真を撮ろうと思った所に貝羽騎手がいました
--- プライベートについて教えてください。今は厩務員作業などが忙しいと思いますが、何をしていますか?
時間ある時は本読むくらいです。あとゲームしたり。
俺が今読んでるのは星新一です。テレビドラマ化された作品を見て、この人の世界観が好きだなって。
---ばんえいサッカー部でも活躍するなどスポーツ万能のようですが、スポーツは何をされていましたか?
小学校の頃から野球やってました。ポジションはサード。
高校ではやるつもりなかったけど、友達がやるっていうから。見学に行ったら入らなきゃいけないのかな、って雰囲気になってそのまま。
--- 帯広出身とのことで、観光に来る人に勧めたい帯広のオススメはありますか?
特にないですね……(笑)。それより、市内の人に来てほしいです。
俺が帯広に住んでても全然競馬場に行かなかったみたいに、まったくばんえい競馬なんて興味ないって人いると思うんで。
俺が思うのは、(騎手や馬が)小学校とか中学校とかに行って、「今日ばんえい競馬の人来たんだよ」って言ってもらったら、親もちょっとは興味沸くかなって。
--- 帯広市民ならではですね! とかち馬文化を支える会でも頑張ります(笑)。女性ファンも増えるといいですね。
若い人、あまり来てないですよね。じーちゃんばーちゃんばかりで……。
ファンはいた方がいいですね。帯広ってことで、地元の人は応援してくれています。
--- 高校時代の貝羽騎手のように悩んでいる高校生や、ばんえいの社会に入りたいと思っている人に一言お願いします。
興味持ったらなんでもすぐやったほうがいい。
これからも俺もどうなるかわかんないですけど、多分誰も予想しなかったことをやるのかな、って思います。
強い意志を感じる目に、もはやプロ騎手としての存在感を感じました。私が聞きたいことを予測して、その先に広がる話題を次々と提供してくれた貝羽騎手。話をしていてとても楽しかったです。
道内で流れていたテレビで「俺のためにばんえい競馬は帯広で残ったのかな」と言っていたのが印象的でした。
新生ばんえいスタートから今日までの短い間に、ばんえい騎手としての資質を一気に吸収したことを思うとどんどん夢が膨らみます。ばんえいがもっと盛り上がって、日本で一番有名な帯広出身の有名人になるのも夢じゃないかも。
これからのばんえいを背負う新人パワーを、ひしひしと感じました。
取材・文・写真/斎藤友香