第33回 努力が実るとシンジてる 井上真司
今年も4人の新人ジョッキーが加わりました。久々のジョッキーファイルです。最初は最年長の井上騎手です。
--- 騎手になったきっかけを教えて下さい。
高校卒業後は、地元の弟子屈(てしかが)町で牛の削蹄師をしていました。冬は仕事が少ないのでいろんなアルバイトもしましたが、動物のそばで仕事がしたかった。今井調教師の奥さんと叔父が知り合いで、厩務員の仕事を紹介してもらいました。
それまで、ばんえいについては「帯広だけになった、大変だ」と聞いていたくらい。厩舎経営だけではなく、全体が大変だとは思わなかったです。少しずつばんえいのことがわかっていくにつれ、ジョッキーはかっこいいなと思うようになりました。
2回目の試験で合格しましたが、他の厩舎では先生がいいというまで受けられない人もいる。馬を知らずに競馬場に来た割に早く受かったのは、先生が早め(2年目)に騎手試験を受けさせてくれたからだと思います。
--- 馬を最初に見たとき、どう思いましたか。
でかい! やさしい目で見ているときは、かわいいと思いますね。
でも普段は「怖い」と思っていないと怪我をする。そう教えられています。
--- 今井厩舎はどんな雰囲気ですか。
今井厩舎はアットホームですね。食事も今井先生の家族と一緒に食べています。
僕もご飯作れますよ。実家では(亡くなった)母の代わりに父と弟に食事作っていましたから。簡単に作れるのはオムライスかな。ギョウザをネタから作っていましたよ。
右側は今井調教師と子どもたち
--- すごい! では勝負服について教えて下さい。
現役では誰もいない形ということで格子にしました。黄色にしたかったけど、目立たないし、たくさんいる。目立つのは赤か青だけど「赤はビリがつける」っていわれてるんです。以前、最下位の馬も赤い札をつけて尿検査を受けていたそうで、縁起が悪いから青にしました。
--- 目立ちますし、覚えややすいですね。では初勝利(3月28日・ファイター)について教えて下さい。
うれしいというより、安心した気持ちの方が強かったですね。
(騎乗が多い新人)3人のことは、いいなと思うけど、俺が下手だから声かからないだけだろうし。3人は自厩舎以外の馬も乗っているわけだから。のちのち、追い越せたらと思う。
3月28日 ファイター
--- ほかの3人は新人にしては騎乗が多いですものね。
あちこち挨拶には行ってるんだけどな。ビール持って。これがお金かかる! 酒持っていって、乗せてくれるっていうわけではないけど......いろいろな話を聞けるからいいかな、と思う。
恵介騎手には「自分のブランドを作れ」と言われました。自分をアピールしないと、って。
--- 騎手になってみて、難しいと思うところはどこですか。
第2障害までの駆け引きですね。周りのペースと馬の能力の見極め。調教師には、タイムがわかるようになれと言われます。一流騎手は、障害のハミの扱い方が違う。小さい動きでコントロールするから、ロスが少ないんですよね。
自分のレースは最低2回は見るけれど、自分は大げさな動きだし、当たりも強いと思う。動きっていうのは、見て真似するしかないんだなと思います。
--- では、プライベートについて。好みのタイプを教えてください。
う~ん...... 竹内結子、かな?
--- ......獅童?
言われる言われる(笑)。初めて会った人にも「あの歌舞伎役者に似てるな」って。どうやってもならないと思うけど......そこまでハンサムじゃないのに。森山未来とも言われたけど。
自分というよりは、相談されやすいので、10数組くらいカップル成立させました。話しかけやすいタイプなんだと思いますよ。
--- いい人すぎますね(笑)。趣味はありますか?
中学、高校と野球部でした。運動は好きですが、今は休みの時間は体を休めたいですね。
2年前まではフォークギターをやってました。今は部屋でほこりかぶってますけど。兄がやってるのを見て、覚えたんです。厩舎のジンギスカンパーティーの時に弾いてましたよ。
--- すごい! どういった曲を弾くんですか?
DEEN、WANDS、ゆず、堀内孝雄......
--- 渋いですね。
フォークギターの本を見たら、昔の曲いいなぁって。若者受けしないんですけどね。でも一度焼肉の時に盛り上がって、みんなで大声で歌ってたら「うるさい!」って怒られて......それから弾いていません。
デビュー戦
--- それは残念......。では競馬の話に戻ります。今後の目標を教えて下さい。
キャリアが少ないから、チャンスをものにする。レースで自分をアピールしたいけれど、これがすんごい難しいんですよね。
自分には取り得ないな......と思うことがあります。新人騎手4人のうち、俺だけがフケ顔だし。フケてんなーオレ、って。
--- 年上ではありますが......。ファンに一言お願いします。
俺のファンいるかなぁ。
--- いますよ! 初勝利の時の表彰には、人がたくさん集まって声をかけられていました。
ファンがいるならうれしいこと。気長に応援して下さいとしかいえないな。騎手になったからには、重賞レースに出れるようになりたいと思います。ばんえいも、馬場が変わって、去年とは違うレースが見られると思います。そこを見に来てください。
騎手試験に合格した時、今井厩舎を取材していた知り合いのカメラマンが「真司さん試験受かったの、めちゃくちゃうれしい! すっげーいい人ですよね」と話していたことを覚えています。それから私も井上騎手の「いい人」ぶりに触れ、初勝利の時は競馬場で大喜びしました。
若手騎手とファンとの交流会でも、女の子たちにわかりやすく丁寧にばんえいの良さを説明していました。
新人騎手の中で最年長とはいえ23歳。自分を客観的に見られることや、素直に人に接することができる能力はずばぬけていると感じます。
そのことが、今後の騎手としての力になると信じています。
取材・文・写真/斎藤友香