高知の下村瑠衣騎手は、門別デビューから福山、高知と渡り歩いた苦労人。デビュー6年目、まもなく通算100勝の節目を迎えます。ご自身のこと、さらに現在開催中のレディスヴィクトリーラウンドについてお聞きしました。
現在97勝(2016年12月13日現在)と100勝目前です。
すごく時間が掛かってしまっているけれど、自分でもすごいと思うのが、勝たせてもらった馬全部言えるんですよ。まぁ、そこまで数がいないからっていうのもあるんですけど...。1頭1頭、1レース1レース想い入れを持ってやっているので、馬がケガをしたら泣いちゃうし、一緒に勝てたら本当に嬉しいし。それがいいのか悪いのかわからないですけど、わたしにはそういうふうにしかできないので。
1つ勝つことの重みを実感しているんですね。
そうですね。1つ勝つこと、1つのレースに乗せてもらうこと、簡単なことじゃないですから。わたしは門別でデビューして、なかなか上手くいかなくて、レースもほとんど乗れない時期がありました。あの頃は胸を張って「騎手です」って言えるような仕事ができていなかったんですけど、福山を経て高知に移籍してから、本当に周りの人に恵まれて、毎日楽しい騎手生活をさせてもらっています。
現在レディスヴィクトリーラウンドの真っ最中ですが、女性騎手のレースというのはいかがですか?
他場で乗ることがほとんどないので、本当にいい経験をさせてもらっています。他の女性騎手と会えるのも嬉しいですし。今回初めて(宮下)瞳さんと一緒に乗ったんです! あれだけ勝っている方なのでどんな感じなのか緊張していたんですけど、すごく優しくて、いろいろお話出来て嬉しかったです。
でもレースは、盛岡の最初のレースの時、馬場入りで落馬して放馬、競走除外になってしまったんです。レースに参加できなかったことが本当に悔しかったし、自分はそういう運命なのかもしれないって思いました。今年3月に佐賀競馬場で開催されたレディス&ヤングジョッキーズの第1戦で落馬して、大ケガをしているので...。だから、11月30日の名古屋ラウンド第1戦で3着に入れた時はすごくホッとしましたね。
あの時は5番人気のエアマニングに騎乗して3着という結果でした。
逃げれば勝てるって言われていて、スタートしてから精いっぱい追ったんですけど逃げられなくて...。でも道中手応えがすごく良くて、最後までがんばってくれました。ここまで総合で5位なんですけど、ラストの高知ラウンド第2戦は1着のポイントが倍なので、最後まで諦めずにがんばります!
先ほどお話に出ましたけれど、今年3月、佐賀で落馬した時はかなりの大ケガでしたね。
そうですね。何か所も骨折してしまって...。とにかく痛かったです。すぐに病院に運ばれて入院したんですけど、佐賀競馬場からちょっと遠いところだったんですよ。でも、あの時乗せていただいた山田勇先生が毎日お見舞いに来てくれましたし、福山時代からお世話になっている渡辺博文騎手の奥さんにも面倒をみていただきました。1か月近くいたんですけど、本当にいろいろな方に支えられて、振り返ってみれば楽しい入院生活でした。その後高知に帰って1か月半くらいまた入院したんですけど、その時もたくさんの方がお見舞いに来てくれました。気持ち的にはかなり落ちていたんですけど、みんなが来てくれた時、わたしのキャラ的に落ち込んでいるのは違うなと思って、「大丈夫です!」って元気に振る舞っていたら、本当に大丈夫って思えるようになりました。ケガは本当に辛い経験でしたが、改めてたくさんの人に出会えたことに感謝しましたし、そういう気持ちを忘れていたんじゃないかって、自分を見つめ直すキッカケになりました。
3か月近く休んだわけですけど、復帰してからはいかがですか?
前に頭蓋骨骨折をしているので、ケガからの復帰というのは経験しているんですよ。ただ、ケガから復帰してからは、所属の那俄性哲也先生とも話し合って、今の自分の力で全力で乗れる頭数に絞ることにしたんです。馬を選ぶっていうわけではないんですけど、1頭1頭に全力で向き合いたいなと思っていて。わたしは他の厩舎に営業に行ったりもしていなくて、自厩舎の馬をじっくり調教して育てて行くっていうスタイルが好きなんです。だから手入れとかもしているんですけど、好きだから全然苦にならないし、馬たちのそばにいたいんです。今までは少しでも多くの頭数に騎乗したいっていう気持ちが強かったんですけど、思い切って今のスタイルにして、乗り馬は減ったけどやりがいはありますね。
では、今後の目標をお願いします。
まずは100勝です! 1勝するペースがすごく遅いので、いつになるかわからなですけど、やっぱり早くしたいですね。女性騎手レースなどもあって、すごくいい経験をさせてもらっているので、少しでも上手くなれるようにがんばります!
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※インタビュー / 赤見千尋
この春、デビュー3年目を迎えた高知の下村瑠衣騎手。ここまでの2年間は、門別から福山に移籍したり、福山競馬廃止を経験したりと、まさに激動の騎手人生でした。福山から高知に移籍して約3か月。現在の心境をお聞きしました。
赤見:高知にはもう慣れましたか?
下村:慣れました! コース自体は福山と比べて広いし、内を開けて乗るので乗りやすいです。砂がとにかく深いので、最初のうちは福山から一緒に来た馬たちはいい結果が出せなくて...。なかなか初勝利が挙げられなくて、『このまま高知では1勝もできないかもしれない...』なんて落ち込んだ時もあったんですけど。今は馬たちも慣れてきたみたいで、力を出せるようになりました。たくさん乗せてもらってるし、勝たせてもらっているし、本当に所属の那俄性哲也先生のおかげです。
赤見:那俄性先生とは、福山から一緒に来たんですよね。
下村:そうです。福山に行った時には最初は短期の期間限定騎乗で、会長の徳本慶一先生のところで所属にしてもらったんです。その後に完全移籍が決まって、福山の廃止も決定的になって...。それで、那俄性先生が『一緒に高知に行こう』って言ってくれて所属することになりました。
実は私、門別から短期で福山に来た時、この期間限定騎乗が終わったら騎手を辞めてもいいかなと思っていたんです。デビューしてからなかなか結果が出せなくて、『自分は騎手だ』と胸を張れるような仕事を全然していなかったので。今思うと、門別でももっと頑張れたのかもしれません。自分の努力が足りなかったし、考えが甘かったんです。
赤見:なぜ移籍先を福山にしたんですか?
下村:それはもうLJS(レディースジョッキーズシリーズ)のおかげです。新人だったとはいえ、盛岡ラウンドと荒尾ラウンドで全く成績が出せなくて...。このままじゃダメだと思って、ラストの福山ラウンドでは、徳本先生にお願いして朝の調教を手伝わせていただいたんです。レースでは強い馬に当たって、2レースとも勝たせてもらいました。その中の1頭が那俄性厩舎の馬だったので、そこからのご縁なんです。
期間限定騎乗で福山に行った時、徳本先生が空港まで迎えに来てくれたんですけど、その車の中で廃止決定の記事が載っている新聞を見せていただきました。もう本当に衝撃だったけど、とにかく福山で精一杯頑張ってみようと思いました。
赤見:実際の福山はどうでしたか?
下村:調教にもレースにもたくさん乗せていただいて、色々な経験をさせてもらいました。周りの方々も温かく迎えてくれて、日に日に『もっと乗りたい!もっと乗りたい!』って気持ちが大きくなって。地方競馬の中で、騎手の完全移籍というのはなかなかできないじゃないですか。でも周りの方々が親身になって相談に乗ってくれて、門別とも相談してくれて、期間限定じゃなく福山に移籍できることになったんです。
赤見:廃止が近かったですけど、不安はなかったですか?
下村:不安がなかったと言えば嘘になるけど、私本当に福山が大好きで、みんなと一緒に乗りたいっていう気持ちが強かったですね。廃止の日が近づいてくるのは本当にイヤでした。私は那俄性先生のおかげで高知に移籍できることになったけど、続けられるのに辞めざるを得ない人もいましたから。すごく複雑な気持ちでした。
廃止の日にはたくさんのファンの方が詰めかけてくれて、いっぱい声援もいただきました。応援していただいて、本当に嬉しいです。福山に来た時は、騎手を辞める覚悟をしていたけど、この何か月かの経験で人生観が変わって、少しでも長く騎手を続けたいって思うようになりました。たくさんの人たちのおかげで、こうやって騎手を続けていられるんだと思ってます。
赤見:その後高知に移籍したわけですが、高知の雰囲気はいかがですか?
下村:高知の人たちも本当に優しくて、和気あいあいの雰囲気ですね。私は中学生くらいの時から(別府)真衣ちゃんに憧れていたんですよ。レースを見ながら、カッコいいな~って。LJSで会った時から仲良くしてもらってましたけど、実際に同じ競馬場になってからはさらに優しくしてもらってます。騎手として色々教えてくれるし、一緒に乗っているだけでもすごく勉強になりますね。
赤見:休みの日は何をしてるんですか?
下村:何もしてないです(笑)。今は厩舎に住んでるんですけど、馬にご飯あげたり水を足したりする仕事があるし。ずっと馬と一緒の生活です。どこかに出かけたりもしないですね。実は、厩舎が山の上の方にあって電波が良くないので、テレビも映らないんですよ(笑)。自分の部屋では寝るだけです。でも、すごく仕事が充実しているので、毎日楽しいんですよ。食事は那俄性先生の奥さんが作ってくれて、厩舎で先生や厩務員さんとみんなで食べるんです。もう家族みたいな感じですね。
赤見:今後の目標を教えて下さい。
下村:今すごく意識しているのが、名古屋の木之前葵ちゃん。会ったことはないんですけど、同い年だし、ちょうど私が高知に来た頃にデビューして、バンバン勝っているので。いつも成績をチェックしてます。今までは先輩たちに憧れるだけだったけど、こうやって身近なライバルがいると燃えますね。自分の中で燃えるものというか、闘志というか、そういうのが強いんですよ。周りからは、あんまりそういう風に見えないって言われますけど。
幼稚園の頃からの夢が叶って騎手になれたけど、その後打ちのめされて、いっぱいもがいて...。デビューして丸2年で競馬場を転々としちゃいましたけど、やっと高知に落ち着くことができました。色んな経験をさせてもらったので、これから何があっても怖いものはないです。高知に移籍したタイミングで、勝負服のデザインも新しくしました。青と黒で、大人な感じにしたんです。20歳にもなったし、本当にここからがスタートという気持ちで頑張ります!
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※インタビュー / 赤見千尋 (写真:斎藤修)