自身初の南関東期間限定騎乗を経験し、さらにパワーアップした愛知の岡部誠騎手。今年も名古屋リーディングが決定的な東海の絶対王者に、現在の心境を伺いました。
赤見:先月開催されたオッズパークプレミアムパーティーでは、ファンの方々と一緒にお酒を酌み交わしてましたね。
岡部:僕自身もあんな風にファンの方と一緒に飲むのは初めてだったので、本当に楽しかったですよ。『いつも応援してます』とか、『中央でももっと活躍して下さい』って言っていただきました。なかなか競馬場に来られない方々だということでしたが、ものすごく詳しくてビックリしましたよ。競馬のことを色々お話して、『どの辺から仕掛けて行くのか』とか、『どうやっていいポジションを取るのか』とかね、ファンの方が普段疑問に思っていたことを直接お答えすることが出来て、僕としても嬉しかったし、刺激になりました。やっぱり、自分としては頑張っているつもりでも、ファンの方たちはお金を賭けて競馬を見てますから、自分たちとは違う視点があるじゃないですか。逆にファンの方がどう思ってるのかを聞くことも出来て、すごく勉強になりましたね。
赤見:ヤジ的なことは言われなかったんですか?
岡部:幸いにもなかったです(笑)。いやホントに、すごく応援してもらいましたので、もっともっと頑張ろうって思いましたね。これで僕の成績が上がったり、どこかで大きいレースを勝ったら、『こないだ岡部としゃべったんだよ』って喜んでもらえるんじゃないかなと思って。そういうことが、ファンの皆さんへの恩返しですから。
オッズパークプレミアムパーティーにて。笠松の尾島徹騎手(右)と
赤見:今年は念願の南関東期間限定騎乗に挑戦しましたね。
岡部:もう何年も前からずっと行きたかったんですけど、なかなかね。名古屋はオフシーズンがないから、タイミングが難しくて...。でも、地元の方々が快く送り出してくれたので、今回初めて腰を据えて南関東に挑戦することが出来ました。最初のうちはどうなるかなって不安もあったけど、徐々に自分の騎乗スタイルが出せるようになって、たくさん乗せてもらえるようになったので。南関東のレベルは高いですけど、ある程度やれるなっていう自信もつきました。だから、途中でケガをしてしまった時はショックでしたね。
赤見:南関東騎乗中の9月に骨折して、全治3か月という診断でしたけど、2か月で復帰しましたよね?
岡部:そうなんですよ。医者からは『騎乗は年明けからですよ』って言われてるんですけど(苦笑)。毎日温泉入りに行って、最大限の体のケアをして騎乗してます。もう大丈夫ですよ!!
赤見:驚異的な回復力ですね! 昨年はケガで約4か月間の離脱、そして今年も2か月の離脱がありました。いい流れだっただけに、ケガはショックですよね。
岡部:ショックですねぇ。でもいつまでも落ち込んではいられないので。ケガをしている時にしか見えないものもありますから、前向きに考えるようにしてます。毎日競馬に乗ってると、単調な日々になったりもするじゃないですか。でも、競馬に乗れない時間を経験すると、馬に乗れることが本当にありがたいんです。少し離れたところからレースを見て、違う面が見えたりもするし。
もちろんケガは嫌ですけど、しちゃったらしちゃったで、そこもいい時期だったなって思えるような過ごし方をしようと思ってます。
赤見:南関東への期間限定騎乗を経験して、変わったことってありますか?
岡部:それだけがキッカケってわけじゃないですけど、最近考え方がガラっと変わったんですよ。今まではこだわってないつもりでも、やっぱりリーディングっていうのにこだわってたんだと思うんです。地元の人たちもすごく応援してくれるし、地元を離れて遠征するリスクとかも大きいですから、なかなか長期遠征に踏み出せないでいた。でも実際に期間限定騎乗を経験して、一番強く思ったのは、『もっと上手くなりたい!』ってことだったんです。もっともっと技術を磨いていって、結果リーディングになれるんだったらいいなっていう。どうリーディングを獲るかじゃなく、どう技術を磨いていくかなんですよ。だから今は、もっともっと色んなところで乗ってみたいです。
赤見:早々に予定はあるんですか?
岡部:いやいや、具体的には決まってないです。そういうお話もありますけど、今の地方の現状では、腰を据えて他場に乗りに行くには色々制約もありますから。ただ、もういい年になって来たし、後悔するこよがないようにしたいですね。もちろん、遠征するっていうのは地元があってこそ。地元で努力出来ることもいっぱいありますからね。毎日レースのビデオを見るんですけど、この前のワールドスーパージョッキーズシリーズ、本当にカッコよかったなぁ~。川原さんもJRAの騎手もすごくレベルが高いし、50歳のゲイリー・スティーヴンスがまためちゃくちゃカッコよくて。なんであんな風に乗れるんだろうって、もう何回も何回もビデオ見てます。日本人との骨格の違いとか色々あるのかもしれないけど、手がグッと伸びるんですよね。あんな年なのに、あんなに手が伸びて...。自分ももっともっと上手くなりたいって、すごく思います。
赤見:では、今後の目標を教えて下さい。
岡部:さっきも言ったんですけど、具体的な数字とかは意識してないんです。月並みですけど、1つ1つのレースを精一杯乗って、どんどん腕を磨いていきたい。それで、僕の騎乗が見たくてファンの方が競馬場に足を運ぶっていうくらいの、カッコいい騎乗が出来るようになりたいです。魅せる商売ですから、勝負にもこだわりますけど、カッコよさにもこだわっていきたいです!
ゴールデンジョッキーズシリーズ(園田)にて、川原正一騎手(右)と
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※インタビュー / 赤見千尋
今年も2位以下に70勝以上もの差をつけて、リーディング独走中の、名古屋・岡部誠騎手。
9月15日、名古屋競馬第5レースで、地方通算2000勝を達成!現在の心境をお聞きしました。
赤見:2000勝達成、おめでとうございます!
岡部:ありがとうございます。
赤見:この積み上げた数字、ご自身ではどんな風に感じますか?
岡部:そうですねぇ。最近では年間200とか勝たせてもらっているので、区切りの数字というか、通過点という感じですね。
赤見:今年はすでに172勝(9/18現在)ですし、昨年は怪我もありながら209勝でしたもんね。
岡部:いや~実は年間の勝ち鞍って、きちんと覚えてないんですよ(笑)。
1鞍1鞍、頑張って乗るという意識で。
たくさん乗せていただいて、たくさん勝たせていただいて、周りの方々には本当に感謝してます。
赤見:現在33歳ですが、かなりお若い時からリーディングを獲っていらっしゃいましたよね。
岡部:運もよかったんですけど(照)。馬乗りの勉強はたくさんしました。
今でもそうですけど、何度も何度もレースのビデオを見たり。上手な人のレースを見て、研究しました。
僕がデビューした頃は、名古屋だけでも50人くらい騎手がいましたから。
赤見:特に参考にした方は?
岡部:やっぱり、吉田稔騎手ですね。すごく上手だと思います。
具体的には、レース中に焦るところがないし、周りが見えているんですよ。追う時のフォームもブレないし、カッコいいんです。
騎手は見せる商売ですから、汚いフォームで勝ってもな~と僕は思うんです。綺麗にカッコよく勝ちたいですね。
赤見:その吉田稔騎手を抜いて、2004年に初のリーディングを獲得しました。その時のお気持ちは?
岡部:もちろんずっと、1位獲りたいと思って頑張って来たので、嬉しかったですよ。
ただ、数字の上で勝ち星が上回ればリーディングにはなるけど、技術的に見て、本当に自分が1番なのか...自分がリーディングでいいのかと、考えるようになりましたね。
赤見:これだけ勝っていても?
岡部:稔さんをはじめ、上手い騎手はまだまだいますし、名古屋だけじゃなくて、全国、日本だけじゃなくて、世界を見ても、たくさんの上手いジョッキーがいますから。
もっと上手くなりたい!自信を持ちたい!っていう思いが強いです。
リーディングの2位や3位にいた頃は、「とにかく1位になりたい」と思ってがむしゃらに頑張ってました。
でも、いざ1位になると...続けるのも大変なんだなと感じます。
自分は名古屋の代表というか、顔になるわけじゃないですか。だから、より技術を磨かないといけないなって。
色んな人の期待も大きくなるし、あんまり悩むタイプじゃないんですけど、色々考えるようになりましたね。
名古屋でリーディング獲ってても、いまいちネームヴァリューもないし...。
ダートグレード勝ったり、ジョッキーレースで優勝出来たら、自信に繋がると思うんです。
赤見:今年も来月に、スーパージョッキーズトライアル(SJT)がありますね。
岡部:ジョッキーレースは2位や3位が本当に多くて...(苦笑)。
そこそこ来るんだけど、パンチ力がないんですよね~。
まぁ、まだ優勝するのは早かったということです。そこからまた、勉強も出来ましたし。
ジョッキーレースは、特殊なレース展開になって普段とは違いますから、逆に普段通りに乗れればと思ってます。
SJTや佐々木竹見カップで優勝出来れば、大きなアピールになりますから。
昨年はSJT2戦目の時、怪我で出場出来なかったんですよ。
半月くらい前に、その時の怪我の治療で腕に入れていたプレートをやっと取り除きました。
心身共に身軽になった気がするので、今年も頑張ります!
赤見:それでは、これからの目標を聞かせて下さい。
岡部:今は、地方全体が低迷している時なんで、騎手の1人として競馬を盛り上げたいという気持ちが強いです。
日程とか色んな問題はあると思うけど、全国の騎手たちとファンイベントとか出来たらいいですね。
中央ではファンイベントとかやってるじゃないですか。
個人としては、海外で乗ってみたいです。
1度マカオに遠征したんですけど、今度は誰も乗ったことのないような場所で乗ってみたいですね。
それと、来年くらいは南関東の短期免許に申請してみようかな、とも思うんです。
大井や南関東で、一定期間腰を据えて乗ってみたいですね。
やっぱり、ずっと東海だけで乗っていると他の人たちと比較することも出来ないし、マンネリにもなりますから。
地元を大切にするのはもちろんですが、それだけじゃなく、積極的に刺激を求めて行かないと!!
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※インタビュー / 赤見千尋
激戦の名古屋で、2004年に初のリーディングジョッキーとなり、現在3年連続でトップの座に君臨しているのが、岡部誠騎手。今年もその位置を守るべく、勝ち星を量産して活躍中の32歳は、まさに充実一途で驀進中だ。
岡部騎手は地元の東海地区のみならず、金沢やJRAなどでも騎乗することが多い。
■騎乗依頼をいただいているのはうれしいことですね。ここ最近、リーディングトップが定着したことで、周りの人が認めてくださっているのかなと思います。他地区で騎乗するのは勉強になりますし、名古屋を代表して来ているという意識もありますから、責任というかそういうものも感じます。それに、自分自身の刺激にもなりますからね。1日1鞍でも大きなレースに乗ることによって、少しずつでも大きくなれると思いますし。それが、また新鮮な気持ちで名古屋で乗れることにつながりますから。
ハイペースで勝ち星を積み重ねる岡部騎手は、08年に東海ダービーを制した。
■勝ったヒシウォーシイの馬主さんには、子供のころからお世話になっていたんですよ。自宅(愛知県刈谷市)の近所で、その方はお祭りのときに使うポニーを飼っていまして、小学校の帰りに毎日のように見に行って、よく乗せてもらっていました。その方に馬に携わる仕事をしたいと相談したときに、名古屋競馬の厩舎を紹介していただいたんですよ。その方はしばらくしてから馬主資格を取られまして、その方の持ち馬でダービージョッキー。うれしかったですね。でも、まだまだステップアップしていきたいと思っていますよ。
そのためにも、日々の仕事はキッチリすることを心がけている。
■調教のとき、フォームを崩すと楽に乗れるのですが、そういうことはしないようにしています。ひとつひとつ、調教からしっかりしていないとダメだと思うんですよ。普段やれていないことが、急に実戦でできるわけがないですから。性格的にはそういう頑固なところがありますね。レースでもフェアに乗れないとイラッときますし。
そういった考えで競馬に臨んでいるのは、騎手人生のスタートが理由のひとつかもしれない。
■実は事情があって(苦笑)、教養センターには2年半いました(通常は2年間で卒業)。だから最初に弥富トレセンに入ったときは、みんなあることないこと噂しているわけなんですよ。つまりマイナスからのスタート。これはもう、やるしかないですよね。1位になったら文句はないだろうと思いましたもの。だから他の騎手が3時からなら自分は2時から馬場に出て、他の厩舎も回ったりして人の倍は働いたと思います。それが続けられたのは、その気持ちが原動力でしたね。でもきつかったですよ。先生も厳しい人でしたし、本当に休みが全然なくて。他の騎手は遊びに行っているのに......。でも、それもいま考えると、よかったなと思っています。
そうして培った向上心は、マカオへの海外遠征(07年)へとつながった。
現地ではなじむまでに時間がかかりましたね。レースは荒っぽいし、調教法も違っていて。馬の動かしかたも違うのか、自分が乗ると追い込みしかできない馬が、現地の騎手だと逃げられたり。
また、向こうの競馬は週2日が基本。だから体力が余るというか、動き足りない感じがして、競馬場の周りを走ったりしました。意思疎通も不自由でしたし、このときは日本でやれることを幸せに感じましたね。
3ヶ月のマカオ滞在で変わったのはメンタル面。説明しにくいですが、長い騎手人生のなかで貴重な時間だったと思います。
その年はマカオ遠征がありながらもリーディングジョッキーを獲得。今年もトップとなれば、06年から4年連続となる。
■ただ、いまひとつその重みが自分自身で感じられないんですよ。名古屋でリーディングを4回も獲っているのに、全国的にはあまり知られていないような気もしますし。だから、これからどんどん名前を売っていきたいですね。週末に内田博幸さんや岩田康誠さん、それに安藤勝己さんなどがテレビの向こう側にいるのを見ると、自分は何をしているんだろうと感じることもありますし(笑)。ぼくもJRAで勝たせてもらっていますが、人気薄で一発とかではなく、継続的に結果が残せるように頑張っていかないと。
そういった気持ちは向上心の源。まだまだ尽きることはない。
■今もまだ、もがかなければいけない時期だと思うんですよ。もっと悩んで苦しんだほうが、先々の喜びはさらに大きいでしょうし。個人的には、名古屋で一時代を築きたいという思いと、他地区で腕を磨きたいという思いが両方あるんですよ。ただ、"名古屋でリーディング"というだけで終わりたくないという気持ちではいます。
2000勝まであと少し。その数字を達成すれば、可能性もぐんと広がってくる。 「もっと若手がしゃかりきにならないと、名古屋は面白くならないですね。昔の自分みたいに働く若手なんていないですもん」と笑うのは、今まで自分が歩んできた道に自信があるからこそだろう。
「交流重賞(ダートグレード)を勝っていないことを気にしていないといえばウソになります。でもそういうのにはめぐり合わせもありますから、いざチャンスが来たときに、その馬にふさわしい自分であるように」という想いを胸に、自分磨きを怠ることがない。 スーパージョッキーズトライアルでは07年が3位で08年が2位。佐々木竹見カップでも3度の2位があるという岡部騎手。そこからあと一歩、突き抜けることができたときには、ものすごい勢いで歯車が回り始めていくのだろう。そしてその時は、もう間近となっているのかもしれない。
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岡部 誠(名古屋)
1977年3月3日生まれ 魚座 A型
愛知県出身 荒木市雄厩舎
初騎乗/1994年10月16日
地方通算成績/11,890戦1,770勝
重賞勝ち鞍/全日本アラブクイーンカップ、岐阜金賞、アラブダービー、園田フレンドリーカップ2回、オグリキャップ記念、名古屋記念、東海ダービー、読売レディス杯など24勝
服色/桃、胴白山形一本輪、袖白二本輪
※成績は2009年8月20日現在
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(オッズパーククラブ Vol.15 (2009年10月~12月)より転載)