今年のばんえい菊花賞をミスタカシマで、クインカップをメヂカラで制した工藤篤騎手(48)。12月28日現在1,481勝は現役5位。1500勝を目前に、お話を伺いました。
メヂカラ(2018年11月11日、クインカップ)
レースで心がけていることを教えてください。
まずは、まっすぐ走らせること。そして馬の雰囲気を見る。スタートしてから「いつもより重く感じてそうだな」といった感覚を掴むことだね。レースの流れも、瞬時に判断する。
そのつど臨機応変に対応しているということですね。その感覚はどのようにして磨いてきたのでしょうか。最近の馬場水分を判断するのも難しいと思います。
感覚は、経験で磨いてきた。馬場のタイムも2年前くらいから変わっている。2%でも、前ならスピード競馬だったけれど今ではそうでもない。変化も、ファンにとっては逆におもしろいんじゃないかな。
夜になると馬場がしまって軽くなると聞きます。
日が暮れて気温が下がったら、多少は早くなるかな? でも時間的にクラスが上の馬が走っているというのもあるからね。今は予想紙も少ないから、ファンも予想は難しいよね。
さて、工藤さんといえば馬を大事にしている印象があります。
それは大事にしているね。背中に乗った時の雰囲気で、今日は元気だな、とか。それでもゲート開いたら「あれっ?」ということもあるけどね。パドックで見て、元気いいな、と思う馬はたいていレースでも元気だよ。
では、騎乗馬について教えてください。ミスタカシマはどのような馬でしょうか。牝馬限定戦とばんえいダービーは調教をつけている鈴木恵介騎手に乗り替わりとなりましたが...。
先行できて、障害が上手。馬のペースで行けるという先行馬の強みもある。センスはあるし、いつも全力で走ってくれる真面目な馬だね。
強いから、誰でも乗りたい馬。そりゃもちろん乗りたい。ファンの立場からみると、ずっと同じ人が乗るよりも違う騎手が乗っても面白いんじゃない。
ミスタカシマ(2018年11月4日、ばんえい菊花賞1着)
センゴクエースはいかがですか。
どうしても重量を積むと、障害に難があるからね。でも常に上位には来ている。馬格があって、能力も高い馬です。
クインカップを制したメヂカラは。
体力的に弱いところがあったけれど、夏くらいから、あれ、成長しているな、と感じていた。クインカップは、前哨戦の紅バラ賞も手応えがあったので、末脚を信じていました。これからも楽しみです。
「牝馬の工藤」とも言われていますが...。
特に牡馬だから、牝馬だからとは考えていないですね。
個々の性格、ということでしょうか。末脚勝負の馬が多いですね。
そうだね。ナナノチカラとか、いい馬ばかり乗せてもらえたから。ナナノチカラは体が小さいけれど、根性は男勝りだった。差し馬、嫌いじゃないな(笑)。スーーッ、とする!
好きな脚質は、好位差しが多い。一歩間違うと障害で苦労する。先行するイメージはないでしょ。
アサヒリュウセイも楽しみですね。
一生懸命走っているけど、今はスピードのある若馬と一緒に走るからおじさん(9歳)は辛いな。人間と一緒(笑)。調子は悪くないし、落ち着いたペースだと走れる。
期待している2歳はいますか。
サカノハマナカはね、調教ではタフなんだけど、砂の中に入る(レースに出走する)とまだ......。気持ちも若いから、これから期待している。
センゴクエース(2018年8月12日、ばんえいグランプリ2着)
騎手の数も減って19人ですが...。
今の騎手は、その分乗れるチャンスが多いからうらやましい。俺らが若手のころは40人近くいて、指をくわえて騎乗をみていた。その分技術的に思うところもあるけれど、みんな頑張っているからね。昔は騎手を目指して厩務員になった人がほとんどだった。頭(1着)を獲って、厩務員の喜んでいる顔を見たらこっちも嬉しいね。なんともいえない顔をするんだよな。声出す人もいれば、ニヤッとする人もいる。騎手の魅力は、頑張った分がそのまま賞金というような結果に表れるところだね。
これからばんえい競馬は大きなレースが続きます。帯広に来るオッズパーク会員の方に一言お願いします。
帯広は地方都市にしては活気がある街。いろいろな店があるから食事なども楽しめるよね。これからも一歩一歩頑張っていきますので、ばんえいともども、よろしくお願いいたします。
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※インタビュー / 小久保友香(写真:小久保友香、小久保巌義)
12月8日第8レース、キタノオーロラで通算1000勝を達成した工藤篤騎手(44)です。
1000勝達成おめでとうございます。11月30日の999勝から、待ち遠しかったですよ。
自分は冷静だったけど、周りが「(お祝いの)花が枯れる」って冷やかすんだよね(笑)。キタノオーロラは、馬場も合うし、うまくいったら穫れるかな、と思っていました。1000勝といっても、年数かかっているからね。(デビューから)22年、尾ヶ瀬さん(馨騎手)と同期なんだ。最初は1000勝できると思っていなかった。これからは1勝1勝大事に勝つことだね。地道に、です。
出身は弘前ですね。
家に草ばん馬用の馬がいて、父と祖父が世話していました。騎手になりたいと思ったのは小学校の高学年のころかな。ばんえい競馬のビデオや本を見て、こういう仕事があるんだ、馬が好きだから、なれたらいいな、と思っていた。
親は違う仕事をしてほしかったみたいで高校にも行ったけれど、頭の片隅にはずっと騎手になりたい、というのがあったんだよね。なぜか、ずっと頭から離れなかった。
たまたま、ばんえいの開催がない冬に湯治で近くに来ていた橋本豊調教師に会って、そのうち「来ないか?」って言われて。若いときしかできないし、挑戦してだめなら、また考えよう、と競馬場に行きました。縁なのかな。
橋本厩舎に入ってからのことを教えてください。
3年目で騎手試験に合格しました。橋本厩舎の兄弟子は大河原騎手。厳しかったよ。でも、そのおかげで早く騎手になれた。「追える騎手になれ」って言われたな。
初勝利はコーネルトップ(97年ばんえいグランプリなど重賞8勝)です。市場で破格の1000万がついて、うちの厩舎で育成、テストと関わった。怪物だったね。同世代にはダイヤキャップ(98年帯広記念など重賞5勝)やヨウテイクイン(95、96年ばんえいグランプリなど重賞10勝)と、強い馬が多かったけど、それでも同じ年の馬とは頭一つ大きさが違う。並んでいたら親子みたいだもの。デビューして1カ月、なかなか勝てない時に乗せてもらった。乗ってたら知らんうち1着になってた(笑)。
帯広競馬場にある「ばんえいギャラリー」に昔のポスターが貼られていますが、よく登場していますね。
なんでポスターに使われたかわかんないんだわ(笑)。当時はパーマかけてたんだよ(笑)。2年後に橋本先生が定年になって、三浦孝幸厩舎に移籍しました。三浦先生(2013年に急逝)は面倒見のいい先生だった。若手を大事に育ててくれた。先生のおかげで、馬主さんとか、いろんな人と知り合えた。
コーネルトップのほかに思い出の馬はいますか?
コーネルトップの子で重賞を2つ取った、カネサリュウ(2007年ホクレン賞、イレネー記念)だね。重賞これしかないんだよ。子どもだからって特に意識したことはないけれど、似ているところはあるかな? 言われてみれば、おっとりしているところが似ているかな。
これからの期待馬は。
ニシキエーカンは、先行力があって障害も上手。いいところまで行くんだけど、なかなか勝てないね。岩見沢記念(3着)は悔しかったな。ちょっとゴール前焦ってしまったかな。気ムラなところがある。本気出したら力があるのに。でも、年々良くなってるよ。(管理する)村上慎一調教師は橋本厩舎で1年下の弟弟子になるんだ。同じ釜の飯食べてね。
ここ最近期待しているのは、サカノテツワン。パワーアップしているよ。地味だけど派手に勝つ! 末脚がしっかりしている。上のクラスに行ってもいいレースするしね。
北央産駒特別を勝ったサカノメイホウは末脚が光りましたね。30日のヤングチャンピオンシップが楽しみです。
オープンは初めてだったけれど、降りてからしっかり歩いて、思ったより頑張ったね。出られるのが名誉なレースだから楽しみだね。
好きな脚質はありますか。また、心がけていることは。
レースとしては好位差しが理想。抜け出すのが好き。
心がけていることは、馬優先。馬の調子には波がある。絶好調は続かないから、仕草を見ることを心がけています。生き物だからね、しゃべらないだけで。いい時には目が輝いている。目がとろーんとして、腐った魚のようになっていたらだめ。パドックで背中に乗ったとき「あれ?」ってわかるよ。いい時の感覚は体で覚えているからね。馬は一頭一頭違うから、それぞれの特徴を頭に入れている。馬も減っているから、できるだけ大事にしてあげたい。
最近若手が伸びてきていますが。
若い騎手は、もうちょっと派手さがあってもいいかなと思う。久田守、金山明彦(元騎手、現調教師)は豪快な騎乗だった。今は個性的な騎手が少ない。松田さんのアクションすごいしょ。西将太はぼえてる(追えてる)な。
ファンに一言お願いします。
売り上げが伸びているし、競馬場に来るファンも増えてきた。ピークには戻らないかもしれないけど、いいことだね。ファンに見て欲しいのはゴール前の接戦かな。止まったり、入れ替わったり。1人でも多くの人に、熱い、いいレースを楽しんでほしい。
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※インタビュー・写真 / 斎藤友香