父は名騎手の西康幸元調教師、叔父は西弘美調教師、いとこは西謙一騎手という西将太騎手(32)。2011年にデビューし、1月29日に通算1,000勝を達成した。2021年度はすでに117勝を挙げ(2月14日現在)、6年連続100勝超えとコンスタントに勝ち星を重ねています。
(写真:ばんえい十勝)
1,000勝おめでとうございます。これまで思い出に残ったレースはありますか?
どれも思い出に残っているからなぁ......。ふと思い出す、といえばばんえいオークスの2レースかな。父が亡くなったんだな(康幸さんは2020年11月逝去)、って思います。
ナカゼンガキタ(2017年)とアバシリルビー(2020年)ですね。ナカゼンガキタはゴール前の激しい追い比べを制し、康幸調教師に初重賞をプレゼントしました。
そうですね。ナカゼンガキタは素直で一生懸命。お嬢様だよ!その前のばんえい菊花賞は0秒2差の2着で、悔しくて父に聞いたら「追い切るしかない」と言われ、この日(ばんえいオークス)は追い切りました。
アバシリルビーは、父が亡くなって約2週後のレース。父は春から入院していて、11月に亡くなりました。この時は、父に「いいところ見せられたかな」って思っていました。アバシリルビーは障害がいい馬ですね。
2017年ばんえいオークスをナカゼンガキタで勝利。右が西康幸調教師
フクイチで1995年の農林水産大臣賞典(ばんえい記念)を制するなど、名騎手だった康幸調教師に言われたことで、心に残っていることはありますか。
「前でレースしなきゃ勝てねえよ」って。うまくいかなかったら、この言葉を思い出す。それで勝ったレースはいっぱいありすぎます。それがあっての1,000勝だと思います。
西騎手の先行しているイメージは、そういうことだったのですね。では、今の注目馬を教えてください。
アアモンドグンシンです。すっごい頑張り屋さん。どうやって褒めたらいいかわからないくらい、頑張っている。最近は調子いいんじゃないかな。馬に任せっきりです。2月14日のウィナーズカップで3連勝しましたが、ハンデもきつかったから堪えたと思います。頑張ったな、って自分や厩務員さんで声をかけました。
1月の帯広記念で3着となったアアモンドグンシン
3歳はサウスグリンかな。おとなしくて「なでてなでて」ってアピールしているのに、油断して目を離すといなくなっている(どこかに逃げている)。レースに行ったら障害に対して一生懸命。まだ体が小さくてついて行けないところがあるけど、大きくなったら楽しみ。クマモトイケメンも一生懸命な馬だよ。ブチ毛でかわいく見えるけど、しぐさがイケメンなんだよね(笑)。「俺かっこいいだろう」って横目で見てくる。
北央産駒特別を勝ってヤングチャンピオンシップに駒を進めたサウスグリン
レースで気を付けていることはありますか。乗り変わりに強い印象があります。
他の騎手と同じ乗り方ではなく、強めにレースを進めますね。レース展開については、馬任せ。疲れたな、と思ったら息を入れたり。行けるところまで行って休めば出て行くし。調教はレースに行ったら楽かなと思って、強めにやることが多いです。気を付けているのは「楽しく乗る」。もちろん一生懸命に乗っていますよ。思い通りに行かないと悔しいし、それであとで悩むくらいなら、楽しく乗るようにしたいんです。
西騎手は馬が好きで、競馬も好き、という印象があります。今は厩務員も少ないですから、西騎手が感じる楽しさを若い方にも感じてほしいですね。
伝えたいんだけど、乗っている人間にしかわからない楽しさがあるんです。静内農高時代には乗馬もしていましたが、背中に乗るのもばん馬の方がいい。静内に行って乗ることもあるが、景色、迫力が違う。圧迫感、というのかな。
スポーツマンが感じる楽しさですね。ばん馬は乗馬より、そりに乗ってみたいです。
そりに乗る楽しさ覚えたら、もうやめられないよ!
逆に楽しくない、って思うことはあるんですか。その時はどうするんでしょう。
「乗っていて楽しくない」と思うことはあります。その時は、モチベーションを高める。ケン(西謙一騎手)や、阿部(武臣)騎手など、楽しく乗ろうとするタイプの人と話をすると、モチベーションが上がります。あとは音楽を聴く。ノリのいい曲なら何でも。YouTubeでお薦めに出てくるので、誰、ということはなく日本の面白い歌詞の曲などを聴きます。
今は今年デビューする馬の馴致をしている時期かと思います。ばん馬は1から教えますから、若馬の調教は大変でしょう。
ケンとやっているけど、大変だとは思わないんだよな。みんな大変だっていうけど。教えるのが楽しい。ばんえいは、競走馬になるまでを1からずっと見ていられる。「この馬こんなに覚えるのが早いのか!」って。
初重賞(2012年ばんえいダービー)のアサヒリュウセイの子はまだ見ていないんだよね。思い出の馬なので、あいつみたいにきれいな色なのかな、って楽しみにしています。
休みの日の過ごし方を教えて下さい。釣りでしょうか。
秋になれば、鮭を釣りに海に行くけど今はシーズンじゃないから休みです。鮭とばを作るのが楽しいんです。部屋の踊り場に干していると、いいにおいがするからか厩務員さんがやってきて、なくなっていきます(笑)。なじみやすい味がいいと、めんつゆで味付けをするんです。あとはいくらや鍋も作ります。鮭はなげる(捨てる)ところがないからね。食べることも好きだし、楽しく料理しています。
競馬場で売ったらファンが買いますね(笑)。さて、勝利騎手インタビューを見ると、髪型もさまざまですね。
美容室で「かっこよくしてください」と言ったら、切ってくれるんです。一生に一度パンチパーマをしてみたくて、今パンチなんです。
坊主頭に見えますが、パンチなんですね。では、オッズパーク会員の方に一言お願いします。
楽しく乗っている姿を見てほしいです。自分が感じている馬や競馬の楽しさを、同じように感じてもらえればと思います。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
デビュー9年目を迎え、3年連続で年間100勝越え。2月には3歳牝馬重賞・黒ユリ賞をジェイカトレアで制するなど、伸び盛りの西将太騎手を紹介します。
騎乗について、大事にしていることを教えてください。
周りの馬は見ずに、自分の馬が余裕あるところまで行かせる。馬が止まりたかったら止めて、馬のペースにまかせます。
馬が行きたがらないこともありますよね。
それは気合入れます。「しゃきっとすれ!」って。だらだらしないようにする。前向きな緊張感を与えます。
どのようにして、馬の意志を受け取るのでしょう。
耳の動きを見るのと、ちょっとしたハミ受けの感度ですね。自分は声を出す方なので、俺の声聞いてるのかな、って耳を見ます。
静内農業高時代、馬術部だったことがハミ使いにも生きているのでしょうか。
自分では気づいていないけど、そうだと思う。そう思いたいな。時間がなくて乗馬はしていません。パドックで乗っているだけ(笑)。パドックでは、馬をリラックスさせています。ゲートに入るまで、緊張感を持たせないように。だらーんと頭を下げて、落ち着いて静かに歩いてくれたら、と考えています。
最近、追うときのアクションが大きくなったように思います。
自分ではわからない。周りの見る目が変わったんじゃないかな。
馬を追う時に、無意識に体が動いているのでしょうかね。
騎乗が、レースが楽しい。「こんなに(道中)止めてんのに(障害)上がれないのかー!」と思ったら、思わず笑ってしまうこともある。レースに乗るのが好きなんだと思う。
でも、他の人なら山(障害)を上げられるのに上がらない時は、どうしたらいいか、と思う。その時笑いはないよ。自分が乗って上がらないような時は、いつも藤野さん(俊一騎手)に聞く。新人の時から、ずっと騎乗を見ている。自分が持っていないものをいっぱい持っている。技術を少しでももらって、自分のものにできれば、と思っています。
まずは、(年間)100勝を自分の目標として頑張っている。それからは、前の年を抜くことを目標にしています。
西騎手は馬好きという印象がありますが、レースも好きなのですね。レースについてお聞きします。ジェイカトレアで勝った黒ユリ賞については。
調教を頑張った甲斐があった。2週前のレースの時に障害で止まったんです。黒ユリ賞は重量が重いし、道中も障害も、楽に行けるよう頑張ろう、と、そのためには基礎の調教(ズリ引き)を頑張ろう、と。体があるのにもったいないよな、と思っていた。調教はレースと違って、スパルタです(笑)。
黒ユリ賞を制したジェイカトレア(2019年2月10日)
2017年には、ナカゼンガキタでばんえいオークスを勝利しました。
うれしかった。厩舎(所属する父の西康幸厩舎)初だったしね。真面目な馬。一生懸命引っ張ってくれる。普段もおとなしくて、お嬢様タイプ。ついてくる系。
ナカゼンガキタでばんえいオークスを勝利(2017年12月3日)
セイコークインは。
最後のレース(2月で引退)まで面倒見よう(一緒に乗ろう)と思った馬でした。正直で素直。馬場が重いと行かない。軽いとどんどん行っちゃう。かわいかったね。
ばんえい菊花賞(2013年、ゴール前で止まって3着)は悔しかった。何センチだろう、って。どうにかならなかったかな、って思う。
スピードスター賞(軽量の特別戦・2018年2月12日)の優勝はうれしかったね。軽量戦は最高に気持ちいい。楽しい!何も考えなくていいから自分にぴったり。スタートから道中、さーっと走らせて、第2障害手前から直行!
タカラシップの天馬賞(思い切って先行し3着)も、最高のレースだったけどなんとかならなかったかな、と思う。
今は2歳馬の馴致が始まっていますね。
けがしないよう、楽しくやっています。レースと、馬を馴らしている時が一番楽しい。何するかわからない。飛び跳ねたら「馬らしいことしてるな」って思う。「よく笑いながらやってるな」と言われるけど、楽しくて。厩務員も減っているが、俺と仕事したら楽しいと思うんだけどな(笑)。
西騎手を中心に若手騎手は、クリスマスには厩舎内の子どものところにサンタの格好をして行くと聞きます。
節分やクリスマスにやっている。自分が楽しいし、周りも楽しんでくれればいいな、と。ファンも見られるかもしれない。見れたらラッキーと思って。
では、オッズパーク会員の方に一言お願いします。
ばんえいはいつも、自分が楽しんでいる。それを見て、一緒に楽しんでほしい。「将太頑張れよ」って、ファンの声援も聞こえています。馬券買ってるのかな、って思っている(笑)。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
若手騎手の活躍が目立つばんえい競馬で、その中心騎手の一人である西将太騎手(25)。9月14日には2歳牝馬の特別・いちい賞をタキニシサンデーで制し、200勝を達成しました。
通算200勝達成おめでとうございます。タキニシサンデーは、お父さまの西康幸厩舎の馬ですね。
数は気にしていないのですが、197勝くらいで人から教えられた時は、こんなに勝っているんだと思いました。
タキニシサンデーは、一生懸命な馬。超まじめ! ゲートが開いたら、真っすぐ進んで横にぶれない。こんな馬、初めてです。乗りやすい。春の時点では、こんなに活躍するとは思わなかったんです。それが白菊賞といちい賞で2歳牝馬の特別を2勝しました。気持ちで引っ張っている感じなのでおっかないですね。一生懸命すぎて、けがしないか...そこに気をつけます。
ニンジンが大好きで、隠し持っていたら追っかけてくるんです(笑)。襲われかけました。エサを載せる一輪車に脚を乗せてアピールする(笑)。
父も、2歳牝馬の看板馬が出たので喜んでいると思います。
元騎手のお父様に、騎乗方法を聞いたりするのですか? 競馬場育ちですよね。
小6まで青森で、中学からは旭川。夏休みと冬休みは競馬場に行ってました。中学卒業後、すぐにでも競馬場で働きたかったけれど、高校には行けというので、馬のいる静内農業高校に行きました。馬術部でしたが、最近は乗馬もしていませんね。
レースについてはいろいろな人に聞きますが、父には聞かないです(笑)。教えるのがうまくないから。
昔を知るファンは、弘美さん(西弘美調教師、康幸調教師の兄)より父の方が、山(障害)が巧かったというんです。父の勝ったレースを見て勉強しています。
レースビデオはよく見ます。自分がどのように乗ったかはもちろんですが、自分が乗っていた馬をほかの騎手がどのように乗るのか。藤野さん(俊一騎手)や大河原さん(和雄騎手)など、常に上位でいられる人がどうやって乗るのか盗みたい。まだ、自分のフォームは汚い。以前よりは見やすくなったけれど、全然。スムーズに、きれいに乗りたいです。
期待している馬はいますか。
こいつどうにかできないかな、と思っているのがアサヒメイゲツ(牝3)です。障害を降りてからの脚がいい。障害さえうまくいけばチャンスがあると思うんです。
10月5日に、3歳オープンの(オッズパーク杯)秋桜賞を勝ちました。好メンバーが揃う中、ためてひと腰、素晴らしい脚でしたね。自信を持った乗り方に見えました。
そうでしたか? 障害では止まりかけたけれど、ほぼひと腰でした。頑張ったなー。馬に頭が上がらないです。大きくて丈夫な馬ですね。勝ったことで、馬にとっての自信になる。オークスが目標ですが、荷物に耐えられるかどうか。課題はやはり障害です。アサヒメイゲツにとって、敵は自分自身かもな。
最近牝馬の当たりがいい。牝馬は乗りやすいかな。嫌なことをされても、牡馬なら腹立つけど、牝馬なら「女の子だもんなー、優しくしないとだめだなー」と思うんです。
レディーファーストなんですね。お子さんも娘さんですよね。
騎手になってから生まれた2歳の双子の娘を含めて、女の子4人です。うるさいですよ(笑)。部屋には入れずに、外に連れて行きます。アウトドア! 今、騎手の中で釣りがブームなんです。今時期はアキアジ。自分が3本釣った時の写真を見た騎手が、こぞってやり始めました。みんな竿買いだして。キク(菊池一樹騎手)と一緒に行くことが多いかな。ケン(西謙一騎手、弘美調教師の息子)も行きますよ。楽しくてしょうがない! 暗くなるまで海から帰ってきません(笑)。
グルメなんですよね。
今は大盛り、特盛りメニューに凝っています。健仁(赤塚騎手)、心路(渡来騎手)と、回転寿司を安い順から食べていって1人で30皿とかやりました。
減量は大丈夫ですか?
レース前には食べる量を減らしています。釣りもリールを巻いたりして体力使うんですよ。いい運動になっています。
若手騎手は仲がいいんですね。レースへの刺激にはなっていますか?
坊主頭も心路に切ってもらいました(笑)。でも、レースとプライベートは別ですね。騎手それぞれの乗り方があるから、特に意識はしていない。
ケン(10月20日現在リーディング3位)も、いとこだからって特に気にはしないです。全て、人ではなくて馬を意識しています。その馬の持ち味が生かせればいい。山をうまくあがることを意識しています。
キクが重賞を勝った(8月のばんえい大賞典、カイシンゲキ)ことも、うらやましいけど、それはキクがいつもいいレースをしているからまわってくるということで。
昨年の菊花賞(セイコークインで接戦3着)は、「もったいね~」と思いました。どうやったら(1着に)入ったか考えたけれど、考えてもキリがない。でも、忘れたくても忘れられないし...。
勝ち鞍は、今のところ去年(2013年度・64勝)と同じくらいのペースでしょうか。今年の目標は。
勝ち鞍が同じでも、中身が濃いレースであるようにしたい。勝つところで、自分の考えで勝つ。いつも、勝つことばかり考えています。
あ、そういえば、健仁には負けたくない!(笑)。勝ち鞍が似ているんですよね。離したと思ったら追いついてくる(笑)。
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※インタビュー・写真 / 斎藤友香