昨年度、ばんえい記念を含む196勝を挙げて14回目のリーディングに輝いた鈴木恵介騎手が、7月28日第5レースをレイリーキングで勝ち3500勝を達成しました。ばんえい競馬史上3人目、現役3人目で、デビューから26年6カ月での達成は藤本匠騎手の30年8カ月を更新しばんえい競馬史上最短。騎手生活27年目を迎えるトップジョッキーに話を聞きました。
3500勝、重賞も99勝の鈴木騎手ですが、この中でも思い出に残る馬、レースを教えてください。
うーん......、ばんえい記念のニシキダイジンかな。重賞を勝てばいつもうれしいです。オレノココロはテスト(能力検査)からずっと乗っていましたし。いい馬ばかりだった。
ばんえい記念は勝てなかったけどミサイルテンリュウは、障害に先に行って、どこまで逃げられるか、という先行型。それで勝つのは難しく、勉強になりました。それは、降りてからゴールまでが近く、先手を取らなくてはいけない今の帯広の勝ちパターンでもあります。
名馬が多すぎて、私も誰の話にしようか絞れないです。今でこそばんえい記念の第2障害を一腰で上がる馬も増えましたが、私はナリタボブサップ(2010年)を思い出します。
今よりも重い馬場で、ばんえい記念を一腰で上げた時は自分でもびっくりした。
いろいろなタイプの馬がいます。センゴクエースはデビュー時から強かった。オレノココロは、最初は上位10頭に入ると感じてはいたが、あとで成長する馬だと思っていた。
キングフェスタもうるさいところがあったが、休ませながら大事に使っている。大事にしすぎるくらいで、もまれ方が足りないかも。少し体重が減りましたが、今は戻って動きも良くなってきました。今後、メムロボブサップなどの引退が近くなった時に盛り上げる馬がいないと、ファンもおもしろくないので活躍してほしいです。
2024年3月17日、ばんえい記念をメジロゴーリキで制した
恵介騎手に乗せたい、というオーナーも多く、その魅力ってなんなのかな、といつも考えています。
馬のハミざわりは普通の人よりは敏感だと思います。サラブレッドより手とハミまでの距離は何倍も遠いけど、手綱をつかんで伝わるものがある。
ハミと手綱を持つ手は、1馬身ほどの距離があると思います。しかも手綱はピンと張らず、緩んでいますよね。指に伝わるんですか。
指、手のひらに感覚が来る。ゲートを出た瞬間、馬が行きたがるくらいのちょうどいいハミざわりがあるんです。ほかの騎手がハナ行かない馬でも自分は走らせることができる。言ってできるもんじゃない。「鈴木恵介のハミ」って感じ。
ハミざわりは義父の鈴木勝堤元騎手に教わった、という話を以前聞きました。それをずっと大切にしているのですね。敏感なのは、鍛えたからでしょうか。
手綱で叩いただけで勝てるなら、誰も苦労しない。感覚は、何歳くらいかな......リーディング獲って何年もたって......30代半ばにすっごく感じるようになった。平地競馬と同じくらいの感覚で、長い手綱でも同じような感覚で伝わる。
すごいです、横から見てわかるもんですか。
馬がハミに頼ったときは、横で見ていてもわかります。
さて、これからは重賞100勝のメモリアルに期待できる馬たちが控えています。
マルホンリョウユウは、馬場が軽くなったら他の馬が出てくる(有利になる)から、重くなれば期待しています。2歳のときから見たら大人になった。油断はぜっっっったいできなかった。
若い馬など、気性の激しい馬への対処法というのはあるのでしょうか。
勝ちにいくのはもちろんだけど、まず、レースを覚えさせる。レースでは止まって、下がって、まっすぐ、を覚えさせていく。小さい子どもに何かを教える感じ。大事にして、何回か教えてやれば、他の人も乗りやすい。これを覚えたら、レースでも無理がきいて、勝ちにつながる。
ツガルノヒロイモノもあと一歩です。
同世代が強いからね。いいものは持っている。普段触るより、レースの方がまじめ。攻め馬しても「やる気あるのかな?」って。レースに来て、ゲートに入ったらやる気がでる。テストの時からそうだった。最初は目立たなかったけど、いざテストになったら、思ったよりいいじゃない、って。中にはこういう馬いる。
ライジンサンは障害と2障害を降りてからの脚が魅力。今はハンディ(収得賞金で負担重量が重い)もあって休養しているけど、レースを使わないとレースボケにもなる。でもそこは大河原調教師だから、ちゃんと考えているんだろう。
2024年3月16日、イレネー記念を勝ったライジンサン
2歳馬では、マツサンブラックで牝馬オープンのいちい賞を勝ちました。牡馬では、オレノココロの産駒のココロノニダイメの活躍がうれしいです。
マツサンブラックは障害が上手になった。ココロノニダイメはまだ体が小さいので、徐々に育てたい。
ココロノニダイメ
以前、時計を読む話をされていました。
時計も読みます。重賞は特に。この馬で、この荷物(重量)、このタイム(馬場)ならこのくらいでいくんじゃないか、と。全頭まではいきませんが、ライバルもこのくらいのタイムだな、と考えます。
3500勝の表彰式が8月末に行われましたが、けがで一度延期になりました。
脚にできものができて、腫れて膿を抜いたのですが、予後が悪くて、ずっと寝ていました。今はもう大丈夫です。普段は睡眠を大事にしています。質が大事。若い時はいつでも寝られたけどな......。
若い騎手も増えてきました。
騎手もある程度受かっていかないと、バランスが悪くなる。いつかは裏方で、強い馬を作れるような調教師をやってみたい、というのも考えています。
食べ歩きがお好きだそうですね。
ラーメンが好きです。毎日食べてもいいくらい。しょうゆ派です。お薦めは、旭川だと、つるや、大吉ラーメン。ホルモン朝吉という焼き肉屋のラーメンもおいしいです。帯広だとラーメン村、とん平、久平食堂。
自分で作ることもあります。鶏ガラからだしとって。でも最近ちょっと体重をしぼらないと......。そばに変えようかな。
温泉も好きです。登別がいい。帯広は、厩舎の銭湯が新しくなってからは、ここでいいや、と思って行ってないです。サウナもありますし。
最後にオッズパーク会員の方に一言お願いいたします。
本場に来て、エキサイティングゾーンで迫力があるばんえい競馬を見てほしいです。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
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3月になり、ばんえい競馬はビッグレースが続きます。20日は大一番のばんえい記念。9年連続のリーディングジョッキーに向け、独走を続ける鈴木恵介騎手に話を伺いました。
ばんえい記念の初騎乗は2006年、ミサイルテンリュウ(4着)でした。当時29歳、20代でばんえい記念に乗るのは珍しいと話題になりました。
騎手になってばんえい記念に乗るのが夢だった。緊張しなかったけど、パドックから客の数が違うし、レースに乗れたのが嬉しかった。
ミサイルにはたくさんのことを勉強させてもらった。レースだけではなく、1トンに耐えられる調教、というのも経験できた。
ミサイルテンリュウでばんえい記念初騎乗(2006年)
2009年まで4回騎乗し、2着1回、3着2回、4着1回と惜しかったですね。2010年はナリタボブサップでした(3着)。
やっぱり(2障害を)ひと腰で上がったこと。「うわ、上がった!」と思った。俺も初めてだし、ばんえい記念史上でも初めてだったんじゃないか。ゴール前で弱いところはあったけれど、一瞬の爆発力はすごかった。
そして2012年にニシキダイジンで初制覇です。
この年はインフルエンザでカネサブラックなどの有力馬が出られなかった。馬場も軽いし、チャンスだと思って臨んだ。障害を降りてから止まらないで、と思った。やっぱり嬉しかったよ。馬主の仙頭さんが癌で、その年に亡くなった。最後に獲れてよかった。
毎年騎乗して、今まで掲示板を外していないのは素晴らしいです。ばんえい記念で騎乗するにあたり、気をつけていることはなんでしょうか。
まずは障害。一発目で、いいところまで上げないと。だいたい、馬が坂の8分まで進めたらいい方。それより手前で止まると力を消耗する。
そして、降りてからもほぼ止まるから、相手がいればそこからの駆け引きもある。どこで刻むかが問題。いっぱいいっぱいになる手前で止めてやらないと、次の脚の出方が大きく変わるから。
出るのも10人だし、それに出て勝つのも大変。どのレースもそうだけど、特にばんえい記念に対応した能力がないと勝てない。
今年はいよいよ、オレノココロで初挑戦です。
2月26日のチャンピオンカップは、ハンデもあったけど久々ということで、気持ちが前に行き過ぎた。馬もちょっと入れ込んでいた。膝を付くことが多い馬だから、折らないよう障害を上げることを心がけたい。
帯広記念(1月2日)を制したオレノココロ
昨年、初挑戦のホクショウユウキは8番人気で5着でした。ばんえい記念初挑戦の馬は、1トンの辛さを知らない分一発があると聞いたことがあります。
それはない! ばんえい記念に限ってそれはないわ。2歳ならあるよ。今まで軽い荷物だったけど、重賞でいいレースをすることはある。
さて、鈴木騎手は多くの名馬に騎乗しています。3歳のイレネー記念はホクショウムゲンで制し、センゴクエースは今年の春から古馬との対戦になります。
ホクショウムゲンは馬格もあり、最近は大人になってレースを覚えてきた。これから楽しみ。
センゴクエースはオープンでもいいレースをしているし、もう古馬に対応はできる。ばんえい十勝オッズパーク杯から出る予定。
4歳のホクショウディープもすごく調子がいいね。
ばんえい記念とは対極の、軽量戦スピードスター賞でナナノチカラは有終の美を飾りました。
軽量戦は、(2障害)直行なので先に山を上げることしかない。障害がないようなものだから、差し脚のいい馬が向いている。馬なりだと、道中遅くなる馬もいるから気合を入れることがあるけど、ナナはだまっていても速い馬だった。障害手前から追うくらい。スピードが違った。
ナナは繁殖に上がって、初年度はカネサブラックを付ける予定です。オーナーが自分で繁殖として持ちたいということで、以前から義父の鈴木勝堤さん(元騎手)の牧場に預ける話になっていた。牧場は和牛が中心だけど、馬もいます。昨年勝堤さんが亡くなってからは義母を中心に、馬に詳しいスタッフとともに経営しています。ナナノチカラの仔には、また重賞を穫れるような仔を出して、自分が乗れればなお嬉しい。楽しみです。
ナナノチカラ、引退レースとなったスピードスター賞を勝利
昨年、名騎手で義父の鈴木勝堤さんが亡くなりましたが...。
今、レースに関してのほとんどの技術が勝堤さんから教えてもらったこと。時にうるさく言われていたのはハミ加減で、毎日怒られていた。騎手によって力や握力が違うから、最後のハミざわりは自分で覚えないとだめだと言われました。
ばんえい記念には多くのファンが帯広に集まります。見どころを教えてください。
2障害とゴール前の駆け引きですね。それと、最後までゴールする馬を見ていってほしい。
俺らが見ていても、ファンが最後まで応援してくれるあの光景は嬉しい。騎手みんなで最後まで見てるよ(笑)。
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※インタビュー・写真 / 小久保友香
2008年度から5年連続リーディング、ばんえいのトップジョッキー鈴木恵介騎手。今年度(2013年度)も1月13日現在で143勝を挙げトップを独走、重賞でも4勝を挙げ、ばんえい界を牽引する存在となりました。
斎藤:昨年12月には3歳重賞を連勝しました。オークスのナナノチカラと、ダービーのオレノココロ。
鈴木:ナナノチカラの障害を降りてからの脚は、古馬を含めても指折りだね。馬主も厩務員も調教師もみんな、このレースを目標に力を入れていた。狙って獲った、ということがうれしい。
オレノココロは、障害は上手なんだけど、天板で膝が甘くなることがあるから、それさえなければ、と思っていた。調子はよかったし、結果ひと腰で上がった。最初はゴール前で失速するタイプだったけど、辛抱強くなってきた。体も大きいんだよね(ダービーで1106キロ)。もともと背が高かったけど、幅も出てきた。時計がかかるレースの方が向いているかも。
斎藤:3日、天馬賞(松田道明騎手騎乗)で初の4歳シーズン三冠を制したホクショウユウキも、柏林賞とはまなす賞に騎乗しています。
鈴木:松田さんが怪我をしていた時の乗替りだったからね。一昨年の年末ころから体ができてきた。真面目な馬だよ。
斎藤:多くの馬に騎乗されていますが、これからの古馬戦線はどの馬で行くのでしょう。オイドンはいかがですか。
鈴木:誰になるかな。オイドンは、スピードはもちろん、前へ、前へ、という気持ちが強い馬。でも、止めても前へ行こうとする。平地競馬でいう「かかる」状態。それが直れば、息が入る(高重量の)古馬のレースでもいける。夏場は喉の手術をして休んでいたから、これからどこを使うかな。
斎藤:3月にはばんえい記念も控えていますね。2012年には、ニシキダイジンで初めてばんえい記念を制しました。
鈴木:騎手になった時、夢はばんえい記念に出ることだった。ミサイルテンリュウでばんえい記念に乗るようになってからは獲るのが夢。だから、勝った時は騎手人生で一番嬉しかったね。ダイジンの良さは、力はもちろん障害の巧さと先行力。馬主さん(仙頭富萬オーナー)もその年に亡くなったから、獲ることができてよかった。
ニシキダイジンで2012年のばんえい記念を制覇
斎藤:ばんえい記念も獲って、次の目標は。
鈴木:2000勝かな(1月13日現在1650勝)。やってみたいのが1日全勝。1日で最大7つ乗れるから7勝。5勝と2着2回は一度あるんです(2011年7月3日)。
斎藤:それはすごい! 近年の活躍ぶり、自分で変わったと思うところはありますか。また、レースで気をつけていることは。
鈴木:いい馬に乗せてもらっているからです。前よりは、平常心を保って乗れるようになっているかな。勝てるところできっちり勝つ、というように。2着で終わっていたところを、1着に持ってこれるようになった。結果を出したから馬がまわってくる、という流れはあると思う。
レースで考えているのは200mをいかに乗るかなんだけど、1番大事なのは、障害をひと腰で上がること。2番目は、1障害から2障害の手前まで。息の入れ方に注意し、他の馬が楽にならないように駆け引きをしながらレースを進める。レースのビデオはよく見ていて、競馬場にいるうちの8割の馬の能力は頭に入っている。レースの前に大事にしているのは馬の調子がいいか悪いかを把握すること。攻め馬で1回さわればだいたいわかるから。
斎藤:ところで、今年度、騎乗がキャンセルになることが多くて心配です。
鈴木:8年くらい前かな、2歳戦でレース前に馬から落ちて、背骨が2箇所つぶれたんです。最近になって痛みが出てきて、右の肩甲骨の辺りが痛い。騎乗が増えて、きわどいレースも多い有力馬に乗るようになったことが、逆に負担になったのかもしれない。レースではアドレナリンが出て痛みは忘れるけれど、ひどい時は痛み止めを打つときもあります。
斎藤:落ち着くといいですね......。さて、最近若手騎手が伸びていますが、鈴木騎手から見て巧いと思う騎手は誰でしょうか。
鈴木:藤野さんはすごいね。馬の御し方もだし、障害上げるのも巧い。
斎藤:若手はいかがですか?
鈴木:まだまだ、俺を越せるのはいない(笑)。あいつらに抜かれたら引退するわ(笑)。勉強が足りないな。レース見たり...、うまい騎手の乗り方を何回も見たり、自分の乗っている馬が他人でうまくいった時に何回も見たりするとかしなきゃ。
誰か、と言われれば、島津新かな。まだ甘いところがあるけど、冷静だね、あわてない。
斎藤:3月には大レースも控えています。ファンに一言お願いします。
鈴木:テレビで見るのと近くで見るのとでは、馬の大きさの感じ方が全然違う。本場に来て見てほしい。特にばんえい記念。2障害で1トンを引っ張る姿や、障害を降りてからゴール前までの駆け引きも見られるから。近くで迫力を感じてほしいです。
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※インタビュー・写真 / 斎藤友香
11月1日に通算1000 勝を達成したのが鈴木恵介騎手。ここ数年で急ピッチに勝ち星を量産し、今年度もばんえいリーディングトップの座を守る大活躍。ファンからも絶大なる信頼を集めている。
昨年度(09 年4月〜10 年3月)は前人未到の年間200 勝を達成した。
200という数字を意識したのは11月頃ですね。その前の年度が173 勝で終わって、それまでの年間最多勝記録に1つだけ届かなかったんですよ。だから昨年のシーズン当初174 勝が最初の目標でした。それがある程度見えてきたとき、次の目標を200 勝にしたんです。ただ、その数字が近づいてからは冷静さを欠いたというか、ムダに力が入ったレースがいくつかありましたね。
それでも着実に勝ち星を積み重ね、シーズン終了まであと2日に迫った3月28日に大記録達成となった。
いやあ、本当にホッとしましたね。肩の荷が降りたな、そんな感じがありました。改めて振り返ると200 勝って本当に大変ですよ。周囲はまた今年も、という目で見ているようですが、競馬は自分だけの努力で結果が決まるわけではないですし、継続するのは難しいことだと思います。
その年間200 勝を達成したあとに臨んだばんえい記念では、惜しくも3 着という結果。勢いに乗っての初制覇とはならなかった。
あのばんえい記念は、まさに夢を見ましたね。1トンを引っ張っているのにナリタボブサップが第2 障害をひと腰で登りきったときには、乗っている自分がビックリしました。そのあとはなんとかゴールまでもってくれと思いながら追ったんですが、やはり1トンですからね。1回止まってしまったら、もういい脚は使えません。それにあのときは1、2着馬がとなり同士で競り合う形。ボブサップは少し離れたコースでしたから、その分もあったと思います。それにしてもばんえい記念を勝つのは難しい。少しずつ近くには来ているんですが......。
しかし、あのときのレースぶりは観客に強烈な印象を残した。今年こそと期待するファンは多いはずだ。
その通りだと思います。でも今シーズンは砂も入れ替わりましたし、障害の高さも変わりました。だからまた一から挑戦という気持ちで臨むつもりですよ。
鈴木恵介騎手は今年でデビュー13年目だが、ここ5 年間で700 勝以上。一気に急上昇という感がある。
新人のときは、そこそこ乗れたしそこそこ勝てたんですよね。でも減量期間が終わってからは、どちらもサッパリ。それが3 〜4年続きました。イライラしましたし、実は騎手に向いていないんじゃないか、とも思いましたね。でもそんな時期にふと『自分の気持ちが新人のままだな』と思い当たったんです。デビューの頃はいろんな人が気にかけてくれることで、ある程度は回っていきます。そのことに気づいたとき、他力本願の気持ちを忘れて調教や作業を一所懸命することに決めたんです。そうしたら少しずつ騎乗依頼が増えてくれました。でもそこで心がけたのは、すぐに結果を出そうと考えないこと。短気な性格を出さず、普段から冷静に。そして馬を怒らないように。その思いは今も続いています。
ばんえい競馬で多くのファンが注目するのは第2 障害以降だが、本当の勝負どころはその前にあるのかもしれない。
まずパドックで馬に乗るときが最初の勝負。直接またがりますから、そのときの自分の気持ちが馬に簡単に伝わってしまいます。だから馬場入場で人馬の呼吸をチェックするのは重要だと思います。
そして200メートルをどう組み立てるのか、というのが次の勝負。ぼく自身が念頭に置いているのは、第2 障害の下に着くまでに、どれだけ馬に負担をかけずに勝てる位置をキープできるかということ。つまりペース判断ですね。そのためには他馬の能力の把握が重要です。その正確さが結果に結びつく大きな要素なのかもしれません。
わずか200メートルの競馬だが、奥深いのがばんえい競馬の面白さ。新人騎手がいきなり活躍する例が少ないのも、経験がモノを言う競技の特性なのだろう。
それは大いにありますね。ばんえいのレースは馬に息を入れさせることが重要ですが、人も息を入れる必要があります。それが体でなんとなく理解できてきたかな、と思えたのは最近ですよ。本当にどこまでいっても勉強です。結果は良くてもレース内容に納得いかないこともありますし。
しかし競馬ファンのなかで、馬ソリに乗ったことがある人はほとんどいないはず。その ため、観客には競技の奥深さが、なかなか伝わりにくい面がある。
レース中も「叩け!」とか「早く仕掛けろ!」というお客さんの声がよく聞こえるんですよ。何で止まるんだと(笑)。でも、そういうのに惑わされてはダメですね。
ぼくはレースの前に自分の乗る馬を調教するとき、馬が自分の声を聞き分けてくれるようにと思いながらやっています。もしかしたら、馬を動かすには叩くよりも声のほうが重要かも。声をかけたら動いてくれることって、けっこうあるんですよ。
考えることや実行することの多さが、ばんえい競馬の難しさなのかも。となると、普段 から平地競馬以上の努力が必要だ。
ナイターの時期も昼間開催の時期も朝のスタートは同じ2 時。だからナイター期間は寝るのも30 分とか、本当に仮眠です。それだけにシーズンが終わったときは、3月までよく頑張ったなあという達成感でスカッとした気持ちになります。でもその前にばんえい記念があるんですけどね。本当にそれは1年を締めくくる大きな目標です。
最近はパドックで「無理するな!」というような声がかかることがあるらしい。
「ぼくが来たら配当が安いかららしいです。でもそんなことを言われたら、『よおし、勝ってやる』と逆に火がつきますよ」
短気で負けず嫌いというのは、ばんえい競馬においてはマイナス要素。しかし鈴木恵介騎手はそれを制御する術を知っている。となると、彼の天下はしばらく続いていくことになるのかもしれない。
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鈴木恵介(ばんえい)
すずきけいすけ
1976年10月7日生まれ てんびん座 AB型
北海道出身 服部義幸厩舎
初騎乗/ 1998年1月10日
地方通算成績/ 7,995勝1,017勝
重賞勝ち鞍/帯広記念、ホクレン賞、黒ユリ賞、 ポプラ賞、ばんえいダービー、ばんえいグランプ リ、北斗賞2 回、天馬賞、ばんえい菊花賞、クイ ンカップ2回、ヒロインズカップなど18勝
服色/胴白・紫蛇の目ちらし、そで白・桃3本輪
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※成績は2010 年11月18日現在 (オッズパーククラブ Vol.20 (2011年1月~3月)より転載)