デビュー36年の大ベテラン、兒島真二騎手は、一昨年(2015年)名古屋から佐賀に移籍しました。昨年は71勝を挙げ、佐賀リーディング6位に浮上。まだまだ進化する54歳にお話しを伺いました。
名古屋から佐賀へ移籍して丸2年になりますね。
佐賀にはもう慣れましたよ。名古屋とは競馬も全然違うし雰囲気も違いますけど、馬場が一番違いますね。名古屋は内をぴったり回って来るけど、佐賀はかなり内を開けて走りますから、やっぱり走りやすいし事故も少ないですよね。
超先行有利と言われていますけれども、その辺りはいかがですか?
もちろん先行有利ですけれども、それだけではなくて、天候や展開によっては差しも決まりますから、自分の乗る馬のことを一番に考えて、無理やり先行という風には考えていないですね。そこは臨機応変にしています。騎乗に関しては、馬の気持ちを大事に、その馬その馬に合わせられるよう考えています。
兒島騎手は36年目の大ベテランですが、名古屋から佐賀に移籍した経緯というのは?
移籍は一昨年だったんですけど、実はですね、2008年頃に一度騎手を辞めようと思っていたんですよ。あの頃は40代後半に差し掛かっていたし、乗り馬が減ってもうそろそろいいかなって。その時は騎手会長にも、今まで乗せてもらった方々にも「辞めます」って挨拶に行ったんです。もう本当に辞めるつもりで。ただ、調教師とか厩務員とか、別の競馬の道にいこうと思っていたわけではなくて。結局それだとまた朝早く起きなきゃいけないじゃないですか(笑)。競馬の世界を辞めて、一般の、普通の仕事を探そうかなと思っていました。
でも塚田(隆男)先生が「もったいない!」って引き留めてくれて、説得してくれたんですよ。先生の奥さんとうちの嫁さんと4人で夜中まで。それで、「もう少しがんばってみようかな」と思いました。その後にウォータープライドに出会って東海ダービーを勝つ(2013年)わけですから、あの時辞めなくて本当によかったです。
その後2015年に、佐賀に期間限定騎乗に行ったんですよね?
そうです。ちょうど、今度こそ本当に騎手を辞めようと思ってた頃に、佐賀で騎手がケガで少なくて、期間限定騎乗で誰かいかないかって言われて、じゃあ辞める前に行ってみようかなと。違う場所で乗ってみたいっていう気持ちもあったので。だから、期間限定騎乗が終わったら辞めるつもりで佐賀に行ったんです。そうしたら中川(竜馬)先生が、「え?辞めるの?それはもったいない!」って引き留めてくれて。それで佐賀に完全移籍して、今も続けているというわけなんです。
30年以上名古屋にいて、思い切りましたね。
心機一転と思って、思い切っていきました。新しい場所で競馬も新鮮でしたし、楽しいですね。年齢を重ねて新天地に行くのは勇気がいるって言われますけど、でも前向きに考えて、馬に乗ることは好きですし、やると決めたらすぐ行動に移しちゃう性格なので(笑)。こっちでもよくしていただいてますし、厩舎でもよくしてもらっているので、思い切って移籍してよかったです。
去年71勝で佐賀6位でした。この成績アップの要因は?
わからないです(笑)。いい馬に乗せてもらったおかげですね。僕は目の前のレース1つ1つを大事に乗っているだけなので、その積み重ねで年間の勝利数がアップしたことは嬉しいです。こちらに来てから、早い段階で九州ジュニアチャンピオン(2015年ソウダイショウ)を勝つことができましたし、本当に恵まれた環境で仕事させてもらっています。
2015年九州ジュニアチャンピオンをソウダイショウで制した
今年55歳になるんですね。
年齢的なことは全然感じないんです。体も疲れないですし。もともとの体重が軽いので、食べ放題なんですよ(笑)。この年齢までやれるっていうのは、減量がないことも大きいですから、有り難いことですね。
2度騎手を辞める決意をしていますが、現在はいかがですか?
今は辞めるつもりは全然ないんです。今年の夏に騎手候補生が競馬場実習で帰って来るんですけど、中川先生からは「一人前にしてから辞めてくれ」って言われているんで。その子のお父さんが僕と同じ鹿児島の出らしいんですよね。同郷っていうのは親近感もありますし、しっかりと育てたいと思ってます。
来年(2018年)の春デビュー予定の候補生ということですか?
そうです。まずは無事にデビューすることですけど、一人前になるまでにはある程度時間もかかりますし、まだまだ辞められないという気持ちです。2度辞めようと思ったことがありますが、今は続けていて本当によかったです。あの時引き留めてくれた塚田先生と中川先生に感謝してます。
では、今後の目標を教えて下さい。
今年に入って少し調子よかったのに、ここちょっと勝ててないんですよね。やっぱり波があって、ポンポンと勝てる時もあれば何してもダメな時もありますけど。でも一生懸命がんばっていればなんとかなりますから、これからもっと勝ち鞍を増やせるようにがんばります。まだまだ若い者には負けられませんよ。これからも佐賀競馬場をよろしくお願いします。
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:佐賀県競馬組合)
1981年にデビューした兒島真二騎手は、すでにキャリア30年以上。数々の重賞タイトルを獲得しているが、今年はついに東海ダービーを制した。名古屋競馬は若手騎手の活躍が顕著だが、ベテランの存在感は別格だ。
ウォータープライドで東海ダービー制覇(写真:愛知県競馬組合)
浅野:東海ダービーの優勝、おめでとうございます。
兒島:ありがとうございます。ジョッキーとしてダービーを勝つのは念願でした。ダービーに参加する機会もそれほど多くはないわけですし、そのなかで勝てたわけですから、本当にうれしいことですね。
浅野:東海ダービー馬、ウォータープライドは、以前はスタートがいまひとつでした。
兒島:そうですね。笠松のライデンリーダー記念(3着)のときは全然ゲートから出て行かなくて後方からになったんですけれど、あの馬場(雨・不良)でよく差を詰めてきましたね。笠松ではプリンセス特別(3着)でも出負けしたんですけれど、これ、両方とも1番枠だったんですよ。
浅野:でも、名古屋競馬場では連対率100%です(2013年7月現在)。
兒島:東海クイーンカップでも1番枠でしたが、うまくゲートを出て1周目のゴール前で前に出て押し切りましたし、ダービーもスタートがよかったですからね。でも、先日のクイーンカップ(6月25日・笠松)はジンマシンで出走取消。何なんでしょうね。ただ、前走(7月25日・兵庫サマークイーン賞)ではゲートでトモを落としてしまいました。やっぱり、まだスタートに関しては心配なところがありますね。
浅野:それから兒島騎手といえば、2005年、名古屋競馬場で行われたJBCクラシックで、地元のレイナワルツを3着に導いたことが思い出されます。
兒島:あのレースは惜しかったというかなんというか。2周目の3コーナー入口で、ナイキアディライトと内ラチとの間、ちょっと狭くなりそうな感じがあったんですが、そこを突っ切ったのがポイントでしたね。それで4コーナーでは先頭で、うしろをちょっと見たら、2番手までそこそこ差があって。それを見たらもう「行けー!」って、必死に追いましたよ。でも3着。1億円が2千万円になっちゃって(笑)。悔しいなあという気持ちで検量室に引き揚げてきたんですけれど、瀬戸口(悟)先生に「いい夢を見させてもらったよ」と言ってもらってうれしかったことを覚えています。3着でしたが、あれは自分のなかでも最高のレースのひとつです。
浅野:兒島騎手は鹿児島県出身ですが、名古屋に来たのはどうしてですか?
兒島:僕の母が鹿児島の和田牧場の人と知り合いで、それで和田牧場のつてで騎手を探していた水谷文平調教師に紹介されました。それまで馬に乗ったことといえば、子供のころに鹿児島大学の学園祭かな、そこでの引き馬くらい。なのに、中学の卒業式の次の日に、トヨタに就職する人とかと一緒に列車に乗って名古屋に来たんです。競走馬を見たのは名古屋に来てからですね。
浅野:それでよく続きましたね。
兒島:怖かったですよ。何十回も落とされて。別に騎手になりたくて名古屋に来たわけじゃないから、いくらでも逃げ道はあったんですけどね。自分でも何で続いたのか、よくわからないです。
浅野:意地というか、そういう気持ちがあったんでしょうか。
兒島:うーん、そういう思いもあったのかなあ。でも、5年くらい前に引退するつもりだったんですよ。調教師を目指すとかじゃなくて、もう騎手はいいかな、というような感じで。それで、主催者側にも引退しますと言ったんです。
浅野:そうなんですか。
兒島:そうしたら、塚田(隆男)調教師が「まだやめるな」と夜中まで僕を説得してくれて。塚田調教師は僕の騎手時代の兄弟子なんですよ。まあ、それもあって引退するという話は撤回することにしたんです。でもそのおかげで塚田厩舎のウォータープライドとコンビを組めたわけですからね。続けていてよかったと思います。
浅野:5年前といえば2000勝達成前でしたが、すでに勝ち星は2100を超えています。
兒島:今はもう、いつやめようとか、そういうのは全然ないですね。ウォータープライドもいますし、これからまたいい馬にめぐり会いたいですし、それとやっぱり、まだ若い連中には負けたくないですからね。そういう思いで、一所懸命にがんばっていきますよ。
浅野:ちなみに中学までは何かスポーツをされていたんですか?
兒島:鹿児島なんですけれど、小学5年から中学3年までスピードスケートのショートトラックの選手でした。高校生になったら国体に出場する予定だったんですよ。その小回りコースで培った身のこなしが、競馬で役に立っているのかもしれないですね。あと私は、元騎手の宮下瞳さんの中学の先輩です(笑)。
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※インタビュー / 浅野靖典