昨年区切りの100勝を達成した、笠松の森島貴之騎手。デビュー年は1勝だったものの、その後努力を重ねて着実にステップアップして来ました。デビュー8年目を迎えた今年、さらなる飛躍を誓います。
2016年は節目の100勝を達成しましたし、過去最多の34勝を挙げました。いい流れですね。
そうですね。とにかく1年ケガなく無事に乗れたことが何よりでした。100勝というのはもちろん嬉しかったですけど、僕の同期は活躍している人が多くて、園田の杉浦(健太騎手)とか、高知の岡村(卓弥騎手)とかは、200勝、300勝しているし、重賞もバンバン勝ってて。そういう同期に比べたらすごくペースがゆっくりだなとは思うんですけど(苦笑)。でも、ちょっとずついろいろな厩舎に乗せてもらえるようになりましたし、本当に周りの方々に感謝しています。トップジョッキーではないのに、騎乗数は多い方なんですよ。そこは自慢です!
地道にコツコツがんばっているからこそだと思いますが、いい流れになった要因はなんだと思いますか?
今までは年間10勝台だったんですけど、一昨年31勝することができて、その勢いで去年も来られたのかなと思います。技術的にはまだまだですけど、それでもデビュー当時から比べたら多少冷静に乗れるようになったのかなと。前はこわごわ乗ってた感じだったのが、経験を重ねて少しは落ち着いて来たとは思います。本当にまだまだですけど。
森島騎手はケガでデビューが3か月遅れましたけれども、その後もケガが何度かあったそうですね。
そうなんです。2年目3年目と毎年のようにケガをしてしまって...。本当にケガが多かったんですけど、ここ2、3年していないんですよ。それも大きいと思いますね。ケガをして休むと体を戻すのも大変ですし、乗り馬を集め直すのも大変ですから。でもそのケガっていうのも馬のせいではなくて、全部自分が悪いんです。調教中の落馬だったり、レース中の落馬だったりなんですけど、入ってはいけない馬群に突っ込んで行って落ちてるんですよね。ケガして痛い目見て、こういう騎乗はダメなんだ、ここまで接近してはダメなんだって覚えました。
先ほど、騎乗数が多いのが自慢だと仰っていましたけれども、どうやって乗り馬を集めているんですか?
それはもうコツコツやるしかないですね。攻め馬でもレースでも営業をたくさんしています。例えば名古屋の開催中に笠松の全休日があるんですよ。たまの休みですから、やっぱり休みたいじゃないですか。そこに1頭だけ名古屋で騎乗ってなると休めなくなる。そういう時、「僕が乗りに行きます!」って積極的に言うようにしてます。あとは他の人たちが乗りたがらないような癖のある馬でも「乗せて下さい」って言いますし。とにかく1頭でも多く乗りたいので。
毎日の調教もかなりの頭数になるのでは?
朝は1時に起きて、1頭目の騎乗は1時半からですね。そこから休みなく乗って、多い時で24、5頭乗っています。笠松は攻め馬すればある程度レースにも乗せてもらえますし、がんばりがいがありますね。
毎日1時から...。そのモチベーションはどこから来るんですか?
騎手として上手くなりたいっていうのもありますし、家族のためっていうのも大きいですね。僕、子供が4人いるんですよ。みんなめちゃくちゃ可愛くて。だから子供たちのためにもがんばらないといけないし、とにかく毎日必死にやっています。
騎乗馬の中でも特に思い入れの強い馬はいますか?
どの馬も大事ですけど、その中でも今はナスノアオバに期待しています。JRAで2勝して重賞も走っている馬なんですけど、今までの僕らならとても乗せてもらえないような、本当にいい馬なんですよ。普段はすごく大人しくて乗りやすいし、体は柔らかくて乗り味も最高で。本当に大好きです! レースでも勝負所をわかっていて、自分からハミを取ってくれるんです。だから僕は余分なことをせずに、馬を信じて乗っています。今A級で走っているんですけど、近い将来オープン特別や重賞に挑戦する予定です。この馬と一緒に、大きいところを狙いたいです。
目標とする騎手はいますか?
上位の方はみんな上手ですけど、その中でも佐藤友則さんはすべてがお手本だと思っています。道中の折り合いも上手いし、掛かる馬に乗っても全然掛からないんですよね。ずぶい馬も動かせるし、ポジション取りも上手い。自分の騎乗馬だけじゃなくて、相手の馬の癖もよくわかってて、すべてを考えて乗っているんですよ。しかも、考えるだけじゃなくてそれを実行に移せる技術もある。本当にすごいと思いますね。
佐藤友則騎手は意外にも去年が初リーディングだったんですよね。
リーディングが獲れて、僕もめちゃくちゃ嬉しかったです。だって、ものすごくお世話になっているんですよ。調整ルームにいる時はいつも友則さんにご飯作ってもらってて。
お料理も相当な腕前なんだそうですね。
そうなんです! 普通の主婦では敵いませんよ(笑)。めちゃくちゃ美味しいんです。それに、大きいところを勝つとご飯に連れてってくれて。僕だけではなく、家族も一緒にご馳走していただいて...。騎手としても人としても尊敬しています。
では、今年の目標を教えて下さい。
今年は友則さんから「50勝しろ」と言われていて、自分でもそこを目標にしたいと思っています。僕は何をするにも他の人よりゆっくりのペースですが、着実に積み上げていきたいです。それと...、東川(公則)騎手がお子さん6人いらっしゃるので、その数も追い越せるようにがんばります(笑)。
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※インタビュー / 赤見千尋 (写真:岐阜県地方競馬組合)
昨年7月のデビューから、ひたむきに頑張る姿が印象的な、笠松の新人・森島貴之騎手。異色の経歴を持つ22歳の、素顔に迫りました。
赤見:まずは騎手を目指すきっかけから教えて下さい。
森島:中学を卒業してから、すぐ鉄工所に勤めたんです。4年間働いたんですが、そこの先輩で競馬が好きな人がいて。僕は三重県生まれで、競馬に関係する施設も近くになかったから、初めは全然興味ありませんでした。
でも先輩が熱心に勧めてくれて、しかも地方競馬教養センターの願書まで取り寄せてくれたんですよ。あまりにしつこかったんで(笑)、「まぁ受けるだけ受けてみるかな...」という気持ちで受験したんです。
その頃には少しずつ競馬に興味も沸いてましたけど、まさか受かると思いませんでした(笑)。本当、たまたま合格出来たんだと思います。
赤見:センターに入るまで、馬に接したことなかったんですか?
森島:なかったんですよ。同期はみんな乗馬とかバリバリやってたんで、最初はすごく辛かったです。馬は大きくて怖いし、みんなみたいに上手に乗れないし...。
辞めたいって気持ちもあったけど、地元から出て来ちゃってるわけじゃないですか。今さら戻れないなと思いました。ここまで来て辞められないって気持ちで、毎日頑張りました。
赤見:無事に卒業して騎手になるわけですが、今度はデビュー前に怪我をしてしまったんですよね?
森島:そうなんです。3月に卒業して、4月の開催からすぐデビュー出来るはずだったんですけど、調教で落馬して膝を骨折してしまいました。入院自体は短かったけど、ギプスは取れないし自宅療養は長いしで、かなり焦りましたね。
赤見:その時はどんな想いで過ごしてたんですか?
森島:とにかく早く乗りたいって思ってました。毎日時間があるじゃないですか。だからよく同期のレースをネットで見ていたんですけど、いっぱい乗ってるやつもいるし、勝ってるやつもいて...。ものすごく焦りました。 やっとギプスが外れても、筋肉が落ちててリハビリしなきゃいけないし。毎日がすごく長く感じました。
赤見:無事7月にデビューを果たした時はどうでした?
森島:すごく嬉しかったですね。やっとスタートラインに立てたと思いました。 でも実際のレースは緊張してしまって...。一周あっという間だし、センターでやってた実習とは全然違いました。デビュー出来て嬉しいけど、難しいなとも思いましたね。
赤見:初勝利は3ヶ月半後でしたが、どんな気持ちでしたか?
森島:時間がかかってしまったけど、勝った時はものすごく嬉しかったです。
【エーシンファステム】という馬なんですけど、実はまだ候補生だった頃、競馬場実習に戻ってきた時に世話していた馬なんですよ。調教はもちろんですけど、身体を洗ったり、馬房を掃除したり。とても愛着のある馬だったんで、余計嬉しかったですね。しかもその後も2つも勝ってくれて...。僕は今全部で5勝(8月14日現在)なんですけど、そのちの3勝も挙げさせてくれてるんです。もう本当に可愛い馬です。
赤見:今の一番の思い出のレースは、【エーシンファステム】ですか?
森島:そうですね。初勝利もそうだし、1番勝たせてもらっているし。あの馬には、とても感謝してます。
あと、【ミスイサリビ】という馬がいるんですけど、今年の1月1日の1レースで勝ったんですよ。その時両親が見に来てて、目の前で初めて勝つことが出来ました。すごく喜んでくれて、母は泣いてたみたいです(照)。親孝行が出来たかなと思いました。
赤見:ご両親はもちろん喜んだでしょうね。騎手になることをしつこく(笑)勧めてくれた先輩はどうですか?
森島:先輩も喜んでくれてます。もう何度も三重から笠松まで応援に来てくれました。「まさか本当になるとは...」って驚いてました。
今はジョッキーになれて本当によかったって思います。難しいことや悔しいこともいっぱいあるけど、鉄工所にいた頃は、ただなんとなく仕事してましたから。今はやりがいがあって、毎日楽しいです。勧めてくれた先輩には、とても感謝してます。
赤見:騎手になって、変わったことってありますか?
森島:自分ではよくわかんないんですけど。先輩に、顔つきが変わったって言われました。前はナヨナヨしてて...。今もナヨナヨしてますけど、前はもっとしてたんですよ。少し、逞しくなれたのかなと思います。
赤見:この先、どんな騎手になりたいですか?
森島:今はとにかく1つ1つ大切に乗って、勝ち星を重ねることです。まだまだですけど、いつか岡部誠騎手のようになりたいです。
よくうちの厩舎の馬に乗ってもらうんですけど、すごく引っかかる馬でもかからないし、ササって追えないような馬でも真っ直ぐ走るんです。岡部さんが乗ると、簡単に乗ってるように見えるんですけど、それがすごい技術なんですよ。 レースのビデオも、意識して見ています。
兄弟子の花本正三騎手からは、たくさんアドバイスをもらってます。具体的には、自分の進路をしっかり取って、真っ直ぐ走らせろとか、もっと周りをちゃんと見ろって言われます。
落ち込むこともあるけど、花本騎手をはじめ周りの人たちが本当によくしてくれて、ご飯を食べに連れてってくれたり、休みの日には遊びに連れてってくれたりするので、すぐ前向きになれるんです。本当にありがたい環境で、みんなに感謝してます。
赤見:センターを卒業する時、外に出たら阪神戦を見に行きたい!と言ってましたが、実現しましたか?
森島:はい!やっと先月行くことが出来ました。吉井友彦騎手と横井将人騎手と一緒に甲子園まで行ったんですけど、もう本当に最高でした。いい気分転換になりましたね。
赤見:それでは、自己PR&笠松PRをお願いします。
森島:僕は、何をやるにしても一々長かったな、と思うんです。みんなより時間がかかるというか。でも、騎手として歩き始めたので、ここから先はしっかりと技術を学んで信頼してもらえるようになりたいです。 今の売りは、がむしゃらなこと。どんなに後ろにいても、最後まで諦めずに追って来ます。
笠松は、日本で唯一パドックがコースの中にあったり、ちょっと変わってる競馬場です。馬との距離が近いし、人馬の息遣いや騎手のステッキの音なんかも聞えて、すごく迫力あると思います。
ぜひ、生でレースを見に来て下さい!!
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※インタビュー / 赤見千尋