昨年、地方通算1000勝を達成した尾島徹騎手。20代前半から笠松の若手筆頭として存在感を示してきました。2009年に初めて笠松リーディングに立つと、5年連続で年間100勝以上という安定感。その騎手人生は順調のように見えるのですが、様々な経験を積んだ今だからこそ味わっている苦悩もあるようです。
秋田:2013年は年間118勝、笠松リーディング2位という成績でした。どんな1年でしたか?
尾島:最後に獲りたい重賞(東海ゴールドカップ)を勝てたので良いこともありましたが、全体的には納得がいかないかったですね。2012年と比べてかなり勝ち鞍も減ってしまったし、笠松リーディングも2位だったし、JRAの遠征も少なかったし...。もう少しやれたんじゃないかと思います。
秋田:そんな中でも11月22日には地方通算1000勝を達成しましたね。
尾島:あまり区切りは気にしないほうなんですが、さすがに1000勝は意識しましたね。ちょうど999勝の時に笠松グランプリだったので、勝って1000勝だってみんなから言われていたんですが、1番人気を飛ばしてしまいました(笑)。
秋田:デビューから13年で1000勝は、早いと思いますか、遅いと思いますか?
尾島:乗せてもらっている馬を考えたら、もう少し早く達成していても良かったと思います。
秋田:1000勝の中で、一番印象に残っている1勝はどのレースですか?
尾島:マルヨフェニックスで勝った大井の黒潮盃(2007年)です。笠松の馬で南関東の馬を負かして1着を獲ったというのがやっぱり嬉しかったです。笠松の馬でもやれるんだということが見せられましたから。
マルヨフェニックスではオッズパークグランプリ2009(園田)も勝利(写真:兵庫県競馬組合)
秋田:2009年からは毎年100勝以上をあげていて堅実な成績を残していますが、ご自身ではどう感じでいますか?
尾島:一時良い時期があって、そこから伸び切れていないような、波が上がっていかないような...。横ばいという感じですかね。マルヨフェニックスの全盛期くらいが一番良かったです。
秋田:やはり尾島騎手にとってマルヨフェニックスの存在は大きいんですね。
尾島:あの馬がいなかったら自分はここまで伸びていなかったかもれません。自分の知名度もあげてもらったし、勝ち方や、他の競馬場の特徴も教えてもらいました。今年のSJT(スーパージョッキーズトライアル)で、園田で1勝できたのも、マルヨフェニックスでの経験があったからだと思います。
秋田:去年8月の段階では笠松リーディングで、3度目のSJTにも参戦しました。総合6位でしたがいかがでしたか?
尾島:3戦目で勝って、次で勝ったら優勝できるかもしれないって聞いていたのでチャンスかなと。でも甘くなかったですね。最終戦の方が人気の馬に乗っていたから、もしかしたらと思ったのですが...。
秋田:ワールドスーパージョッキーズシリーズ(WSJS)には出場したいですか?
尾島:そりゃあ、めっちゃ出たいですよ!! 今、騎手人生の中で一番行ってみたい舞台ですから! そのためにリーディングを獲りたいと思っているくらいです。あれだけ一流の騎手と一緒に乗れるのは一生に一度あるかないかですからね。だから、まずはリーディングになってSJTに行かないと。
秋田:話は変わって、尾島騎手はもうすぐ(3月23日)30歳ですね(笑)。20代はどんな時間でしたか?
尾島:もう30歳ですか...(笑)。あっという間でした。競馬に対しては一生懸命やってきたつもりでしたけど、周りが見たらまだまだ足りないと思われても仕方ないですね。また良い時の成績に戻れるようにならないと。
秋田:若い時と比べて何が変わったと思いますか?
尾島:慌てなくはなりましたね。でもマイナス面を言うと、最近はレースを楽しんでいないんじゃないかと。昔は自分が勝ちたい勝ちたいばっかりで、勝ったらヤッターという感じでしたが、今は良かったってホッとすることの方が多いんです。人気馬を勝たせなくちゃいけない、負けちゃだめだって。だから楽しく乗れていない気がします。
秋田:そんな現状をふまえて、これからどんな30代にしたいですか?
尾島:目の前のことが忙しすぎて漠然としてしまっているんですが...。実は今年JRAの試験に挑戦しようと思っています。そう簡単じゃないことは分かっていますが、勉強していることは自分のためになることですし。そして1000勝達成もしましたから、もっと人に信用されるような騎手になりたいですね。目の前のチャンスをものにして、信頼を勝ち取りだいです。
秋田:では最後に2014年の目標を教えてください。
尾島:リーディング奪還して、SJTで優勝して、WSJSに出ることです!
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※インタビュー / 秋田奈津子
今年度のオッズパークグランプリは2月28日に笠松競馬場で行われる予定。過去5回の同レースでは、笠松所属馬が3勝、2着1回と抜群の成績を残している。そしてそのうちの2勝は尾島徹騎手が挙げたものだ。
まずはその2勝(08年マルヨスポット=福山、09年マルヨフェニックス=園田)を振り返ってもらおう。
最初のときは、福山競馬場そのものが初めて。それで多少の不安はありましたが、競馬場に着いて馬場を見たら笠松以上に小回りで、さらに不安に。でもレースではキングスゾーンとか強い馬が引っ張ってくれたので、うまく流れに乗れました。しかもマルヨスポットは内にササるタイプだったので、コーナーもスムーズに回れたんです。ほかの馬は外に膨らんでいましたから、その点は有利に働きましたね。マルヨフェニックスのときは、勝てるかなという手ごたえがありました。出走メンバーのなかの強い馬を目標にして、最後に差し切れればという思いで乗ったら、そのとおりになりました。
尾島騎手とマルヨフェニックスのコンビは、南関東でも重賞を2勝。まさに全国区での活躍が続いている。その出会いとともに、尾島騎手の成績も急上昇。2009年以降は年間100勝以上を達成している。
デビューしたころは安藤光彰さん(JRAに移籍、引退)が師匠みたいで、いろいろと面倒をみてくださいました。でも自厩舎には兄弟子が2人いたので、レースでは乗る馬が全然いなくって。それでも少しずつ乗り鞍が増えましたが、勝ったら次は乗り替わり。よく腹を立てていましたね。
それでもデビューの年は17勝で、2年目が40勝。素質を実績に変えつつあった2006年に、ひとつの転機をみつけた。
僕の父の関係からつながって、JRAの岩戸孝樹調教師(美浦)を紹介していただいて、研修という形で行けることになったんです。笠松での仕事はもちろん気になりましたが、刺激がほしいという欲求と、興味と好奇心で押し切りました。いやあ、行ってよかったです。重賞勝ち馬にも乗せてもらえましたし、藤沢和雄厩舎でも調教を手伝わせていただきました。もう、馬を見るだけでほれぼれするというか、笠松とは馬のカタチや造りが違って見えましたね。そもそも、歩くスピードから違いました。
その経験は、その後の尾島騎手にどんな影響を与えたのだろうか。
いちばん変わったのは考え方ですかね。その期間、レースに乗ったわけではないですが、JRAでの経験は落ち着いて乗ろうと考えることにつながったように思います。「勝てる馬は構えて乗っても勝てるんだ」と。その意識ができたことで、笠松でも控えて乗れることが多くなりました。それによって、勝てる馬での取りこぼしが少なくなったようにも思います。美浦に行く前は、前へ前へという気持ちでしたし、周りもそういう騎手が多かったですし。
そういった積み重ねが、2009年の笠松リーディングにつながったともいえそうだ。
そのおかげで、JRAに遠征するときに、笠松以外の馬にも乗せてもらえるようになりました。(マルヨフェニックスで)黒潮盃(大井)を勝ったのも大きかったですね。僕みたいな騎手は、何か目立つことをやらないとなかなか覚えてもらえないですから。
しかしなぜか、スーパージョッキーズトライアルでは2回とも苦戦となっている。
普段のレースとあまり変わらないと思うんですけれど......。でも気持ちとしては、ワールドスーパージョッキーズシリーズは本当に出たい舞台。その経験はもちろん、そのあとがきっと大きくなるはずですから。
そのためには今後もリーディングを守る必要がある。尾島騎手が考える笠松競馬場の勝負ポイントはどのあたりなのだろうか。
笠松では地元同士のレースだと、力のある馬なら多少強引に行ってもなんとかなりますが、交流競走になるとペースが速くなるので後ろからでも届きます。でもそれも違いがあって、地元馬が逃げたらペースはゆっくりめ、遠征馬が逃げたら早くなるという特徴があります。まくりを打つなら3コーナー手前にある坂の頂上が勝負ポイント。でも外を回ると不利なので、通る目安は内から3頭目までかな。ですから、先行馬が固まっているとき、それがどうなっていくのかを読むというのも重要です。
小回りコースだけに、コースロスを少なくするのは大きな課題。それが騎手の技量を上げることにもつながるのだろう。
あるとき、インを突いて勝ったら、2着の大先輩にものすごく怒られたんですよ。でも、それで気後れしたり遠慮したりすると、結果は残せませんよね。常に攻めていかないとレースしてもつまらないですし、自分自身も成長できません。今はどこでもレース映像が見られますから、どんなときでも自分が勝ちたいという気持ちが伝わるような競馬をしていきたいと思っています。
デビュー12年目の2012年は、過去最高の勝ち星を挙げている。さて尾島騎手は、なにを今後の目標に据えていくのだろうか。
確固たる目標というよりは、とにかくここで実績を作ることが第一。それが今後につながっていくことになると思います。笠松は先輩たちが勉強熱心というか、そういう気持ちをもっているんですよ。その意味で、笠松には見習えるいい先輩が揃っています。そして安藤勝己さん、光彰さんをはじめとする偉大な先輩と同じ時期に騎乗できたことも、自分自身の財産になっています。笠松はベテランの皆さんが強い競馬場ですけれど、僕自身、ここまで上がったからには成績を落としたくはないですね。2012年のデビュー馬では、カツゲキドラマとのコンビで5連勝を挙げ、川崎のローレル賞でも4着に好走した。「あの馬は野生状態で笠松に来て、馴致から僕が担当したんです。そういう馬で活躍したのは、僕自身はカツゲキドラマが初めてです。馴致育成はその道のプロに任せたほうがいいと思うんですけれど(苦笑)」。さまざまな経験を重ねながらも高いところに理想を置いて、その上で日々を一所懸命に過ごす。今後もさまざまな舞台で、尾島騎手の活躍が見られることだろう。
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取材・文●浅野靖典
尾島 徹(笠松)
おじま とおる
1984年3月23日生まれ おひつじ座 O型
愛知県出身 柴田高志厩舎
初騎乗/2001年4月1日
地方通算成績/5,701戦870勝
重賞勝ち鞍/オッズパークグランプリ(福
山・園田)、OddsParkFanSelection、黒潮盃
(大井)、スパーキングサマーカップ(川崎)、
岐阜金賞(4回)、東海菊花賞(2回)など33勝
服色/黄、青のこぎり歯型、そで青一本輪
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※2012年11月19日現在
(オッズパーククラブ Vol.28 (2013年1月~3月)より転載)
2008年【マルヨスポット】、2009年【マルヨフェニックス】と、『オッズパークグランプリ』を連覇している、笠松の尾島徹騎手。
昨年は通算500勝を達成して、自身初のリーディングにも輝きました!26歳になった今年は、JRAでも初勝利を挙げ、まさに地方競馬を代表するジョッキーです。
今年は残念ながら、【マルヨフェニックス】は回避となってしまいましたが...『オッズパークグランプリ』2連覇のお話をお聞きしました!
赤見:【マルヨフェニックス】の回避は本当に残念です...
尾島:そうですね。僕も楽しみにしていたレースだったので...。でもあれだけ走る馬だし、無理しても仕方ない。順調に調整出来れば、また強い【マルヨフェニックス】をお見せ出来ると思います。
赤見:第1回の水沢は出走していませんでしたが、第2回福山・第3回園田と連覇していますね。 尾島騎手にとって、『オッズパークグランプリ』はどんなレースですか?
尾島:とにかく相性のいいレース!!だと思ってたんですけど...それも去年までなのかな(笑)。
それは冗談として、毎年持ち回りで開催してるから色んな競馬場で乗ることが出来るし、賞金も高いので狙っているレースです!
赤見:確かに、1着賞金1000万円というのは大きいですよね。
まずは初参加となった第2回の福山のお話を聞かせて下さい。
尾島:あのレースで初めて福山競馬場に行ったんですけど...コースを見た瞬間、ビックリしました!なんだこれは?!て。
赤見:かなり特殊なコースですよね。
尾島:はい!
小回りだし砂が深いし...これは相当手強そうだなと。あの時騎乗した【マルヨスポット】は人気薄だったし、これまでの経験から言っても掲示板に載れば御の字かなと思ってたんです。
どう乗ろうとかはきっちり決めてなくて、人馬共に初めてのコースだし、出たなりで行って砂を被りたくないなと考えてました。
赤見:レースでは4番手を進んでいましたね。
尾島:前の3頭がけっこう行ってくれたんで、結果的に砂は被ってしまったけど、展開がはまりました。内にささる馬だから、小回りも全く気になりませんでしたね。
赤見:結果は差し切り勝ち!しかもレコードでした!!
尾島:まさか勝てるとは夢にも思ってなかったので、すごく嬉しかったです!初めての、しかも福山の難しいコースで勝てたことも大きいですね。
赤見:騎手には賞金から5%が入りますが...その賞金は?
尾島:全部飲んじゃいました(笑)。
赤見:さすが尾島騎手(笑)。
続いては、昨年の第3回園田のお話を聞かせて下さい。
尾島:【マルヨフェニックス】にとっては、1400メートルは少し短いんですけど、勝ってくれないかなと思ってました。大井と園田はすごく合うみたいなんですよね。
ただ...あの時はコースどうこう考えてる場合じゃなかったんですよ!返し馬で手綱が抜けてしまって...ホントに死ぬかと思いました(苦笑)。
赤見:そうでした...人馬とも怪我なくてよかったですよね 。
尾島:目指してたレースだったし、勝ち負け出来る自信もあったんで、なんとか放馬しないようにもう必死でした。無事出走出来てよかったですよ。
赤見:レースは6番手からの差し切り勝ちでした!
尾島:【キングスゾーン】と【アルドラゴン】が前にいて、目標にしていて、前が止まらないかな~と思っていたんですけど。まさかあんなにキレイに差してくれるとは...かなり気持ちよかったです。
赤見:ちなみに、その時の賞金は?
尾島:もちろん、パーっと飲んじゃいました(笑)。
赤見:やはり(笑)。
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※インタビュー/赤見千尋