現在笠松リーディング第5位につけている藤原幹生騎手。デビュー16年目となる今年は、さらなる飛躍が期待されます。これまでのこと、そして現在の心境をお聞きしました。
今年はここまで49勝(2016年6月22日現在)を挙げ、デビュー以来最高のペースで勝ち星を重ねていますが、飛躍のきっかけというのは?
今年はいつも以上のペースで勝たせていただいて、本当に有難いです。ただ、自分では飛躍したという風には感じていないですし、1つ1つ目の前の馬たちに対してがんばっているだけです。特にきっかけとかはないですね。
昨年は3カ月間、門別競馬場で期間限定騎乗しました。その辺りの経験も大きかったのでは?
確かにそれはありますね。これまでとまったく違う環境でいろいろ勉強させていただいて、とても刺激になりました。コースも施設も違うし、馬産地北海道なので近くに牧場もたくさんあって。レースのことだけじゃなく、競馬に対する視野が広がったのかなと思います。
あのタイミングで期間限定騎乗した理由というのは?
去年デビュー15年だったんですけど、それまでも漠然とどこかで乗ってみたいなというふうには考えていました。ただ、笠松の現状では人手が足りないので、僕がどこかに行くとなると他の人たちに攻め馬を頼んで行かなければいけないんです。ただでさえみんな忙しいのに、「ちょっと行って来ます」という雰囲気ではなくて。だから、具体的には考えもしなかったですね。でも一昨年に大きなケガをして休まざるを得なくなってしまって。復帰してからも、しばらくして体の中に入れたプレートを除去する手術をしなくちゃいけなかったので、そんなに攻め馬を増やさなかったんです。その延長で期間限定騎乗に行かせてもらいました。
なるほど。調教する人が少ない分、競馬場を空けるというのも難しいですね。
そうなんです。朝は1時45分から1頭目に乗って、だいたい20数頭攻め馬しますね。大変ですけどみんなやっていることだし、攻め馬をしている馬は基本的にレースにも乗せてもらえるのでがんばり甲斐はあります。
2014年のケガは相当大きなものだったそうですが、復帰まで大変だったのでは?
腰椎を5か所やって他にもいろいろ......。しばらく歩けなかったので凹みましたけど、じたばたしても仕方ないのでゆっくり休みました。復帰した当時は前と同じ騎乗ができなくて精神的に堪えましたね。周りの人たちから見たらほんのささいなことなんですけど、自分の体は自分が一番感じるじゃないですか。このままじゃダメだと思ってトレーニングをしたりいろいろ考えて、今はケガする前を上回っていると思っています。
具体的にはどんな部分が上回ったんですか?
う~ん......言葉で説明するのは難しいんですけど。ケガをする前から目指していたフォームがあって、復帰した時はそこから離れたなと感じたんです。その後トレーニングして筋肉を増やして、バランスの取り方も変わって軌道修正できたかなと。やりたかったことに追いついて来た感じです。
乗り方について、目指しているジョッキーはいますか?
みんな上手いので、いいところはどんどん見て覚えようとは思っていますが、「この人みたいになりたい」というのはないです。勝負の世界だし、笠松や名古屋だけじゃなく、地方も中央も世界でも、騎手の中で負けたくないという気持ちは強いです。そのためには、自分なりのフォームを追求していくのが一番だと思っています。
騎乗フォームのお話が出ましたけれども、馬とのコミュニケーションはどうですか?
それは自分の中で納得がいっているんです。自分なりに会話できるようになったなって。でももちろんもっと研究していきたいし、上手くなりたいと思いますけど。
馬とのコミュニケーションが納得できているというのは、すごいことですね。
笠松の環境もあると思いますよ。レース単体で考えるわけじゃなくて、毎日の調教の中で少しずつコミュニケーションを取っていって、その馬がどういう馬なのか、何を考えているのか、今はどういう状態なのかっていうことを感じていくわけです。パッと乗ってわかる馬もいれば、なかなかわからない馬もいますけど、それでも毎日接していれば少しずつ理解できるようになりますよ。だから、朝の調教は大変ですけど、なくてはならない大事な時間だと思っています。
毎朝1時45分から調教しているということですが、それを何年も続けられるモチベーションというのは?
やっぱり、馬の気持ちを理解して思い通りに走らせられると嬉しいですし、それを周りが評価してくれたら嬉しいです。大人しくて素直に走る馬も大好きですけど、クセがあって乗り難しい馬といかに意思疎通するかっていうのも楽しくて。なんだかんだで、乗っている馬たちは期待に応えてくれるんですよね。それが一番の喜びです。
では、今後の目標を教えて下さい。
今まで通りというのが一番の目標です。おごらず、腐らず、今まで通り1頭1頭を大切に乗っていきたいです。
なんだか藤原騎手は悟っているというか、静かな闘志を感じます。昔からそういう考えは変わっていないですか?
いや、昔は腐ってましたよ。「何で評価してくれないんだ!」って思ってましたし。でも今思えば技術がなかったし、当然だったなと思います。30歳くらいまでにいろいろな経験をさせてもらったことで、少しずつ自分自身が見えるようになったのかもしれないですね。特に大きな何かがあったわけじゃないですけど、考え方が大きく変わりました。これからも笠松で一生懸命がんばりますので、ファンのみなさんに見ていていただけたら嬉しいです!
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※インタビュー / 赤見千尋(写真:岐阜県地方競馬組合)
8月26日に通算400勝を達成した藤原幹生騎手。ここにきて成績が一気に上昇し、11月26日現在、笠松リーディング第4位につけています。
浅野:2012年に通算300勝を達成して、その翌年に400勝。勝ち鞍が伸びてきた理由はどのあたりなのでしょう?
藤原:これがその理由っていえるものは特に思い当たらないんですよね。もちろん、いい馬に乗せてもらえていることがその要因ですけれど、なんでいい馬に乗れるようになったのかというと、一言では表せないですね。いろんな部分が少しずつ底上げされてきたから、という感じですかね。
浅野:だんだんといい循環になってきたということでしょうか。
藤原:そうですね。午前1時半頃から始まる調教に遅れないのはもちろんですし。あとはトレーニングをやり始めたことが以前とは違うところですね。
浅野:上半身にかなりの筋肉がついているのは、その効果ですか。
藤原:はい、スポーツクラブで筋トレをしています。胸筋をつけて、上腕三頭筋を鍛えて、あとは大腿、腰あたりの筋肉を意識してつけていますが、もうちょっと欲しいかな。体重はまだまだ余裕があるので大丈夫ですよ。
浅野:それを始めたきっかけはあるのですか?
藤原:30歳になる頃(藤原騎手は1981年4月20日生まれ)に、このままでは終われないかなと思うようになって、何か変えてみようということで筋トレを始めたんです。それが意外と嫌いじゃなかったので続いていますね。あとはもっと肩周りを太くして、背筋をもう少し強めにして、持久力とパワーをつけていきたいです。
浅野:となると、筋トレを始めたのが成績上昇の一因ということになりますね。
藤原:そうですね。やってみてよかったと思います。以前に読んだスポーツ系のマンガにいいことが書いてあったんですよ。『好きなことのためにすることは、努力じゃなくて至福の時間だ』って。
浅野:まさにそのとおりですね。静岡県出身の藤原騎手が、その『好きなこと』に巡り会ったのは、どういういきさつなんでしょうか。
藤原:実家は御前崎の近くですから、競馬はテレビで見ていたくらいです。競馬中継を見るきっかけは、テレビゲーム。ハマっていたのはダビスタとかではない、マイナーなものでしたが(笑)。騎手ってよさそうだな、と思ったのは中学の頃ですね。普通の仕事をしても面白くないなあという考えもありましたし。それで高校1年のときに電話帳をめくって牧場を調べたら、金谷(現在は島田市)にあったので行ってみたんです。そこは希望するタイプの牧場ではなかったんですが、浜松にある育成牧場を紹介してもらいました。それで夏休みに実際に働いてみて、馬の世界でやれそうだなと思ったので高校は中退しました。
浅野:ずいぶんと決断が早かったんですね。
藤原:体も小さかったですし。ただ、JRAの試験には2年連続で落ちてしまいました。でもその育成牧場は、笠松競馬の山下清春調教師の弟さんが経営しているんですよ。そのつてで山下厩舎に入れてもらって修業して、地方競馬の試験に受かることができました。
浅野:回り道をしつつも夢を実現させられたわけですが、2010年まで笠松での順位は10位以下。騎手としての成績はなかなか上がってきませんでした。
藤原:うーん、あんまり成績には興味がないんですよね。結果とかではなくて、自分が納得できるレースができればいいかなという思いのほうが強いかな。でも重賞タイトルが欲しくないと言えばウソになりますし、欲は多少出てきましたね。
浅野:となると、近い将来の目標としては重賞勝利となりますか。
藤原:そこまでの思いはないんですけれど、そのうち......ですかね。騎手としての目標は、自分なりに行けるところまで行きたい、自分のなかで納得できるところまでうまくなれればという感じで、数字とかは特にないです。
浅野:それでも自身の変化が成績に表れてきているように感じます。そういえば、藤原騎手は先日(11月17日)、金沢競馬で騎乗していましたね。それも成績が上昇した効果のひとつではないですか?
藤原:メインの金沢プリンセスカップは、馬主さんから依頼をいただきました。でもそれ以外に乗せていただいた4鞍、ぜんぶ鈴木長次厩舎なんですけれど、調教師さんには会ったこともなかったんですよ。(ビーファイター号引退記念で騎乗した)ビーファイターも含めて、なんで依頼してくださったのか、よくわかりません(笑)。
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※インタビュー / 浅野靖典