昨年52勝を挙げ、日本プロスポーツ大賞新人賞とNARグランプリ優秀新人騎手賞を受賞したホッカイドウ競馬のスーパールーキー、阿部龍騎手。周りからも「あいつのセンスはずば抜けている」という声を聞きます。
斎藤:NARグランプリで東京に行きましたね。サイン攻めだったんじゃないですか。
阿部:場違いでした...。ほとんどサインは求められなかったですよ。戸崎さんには、壇上でおめでとう、と言われました。馬主さんに「タキシード着たら」と言われていたのですが、冗談だと思ってスーツで行ったんですが、本気だったみたいで。(52勝できたのは)乗せてもらえたからです。(角川)先生も、乗せないと勉強にならないから、と馬主さんにも言ってくれるんです。
斎藤:騎手になったきっかけを教えてください。出身は、宮城県南三陸町ですね。
阿部:背が小さかったからか、子どものころから父親に「騎手になれ」ってよく言われていましたが、冗談だと思っていたんです。小学校の時に、文集に将来の夢を「騎手」って書いてたそうなんですが、それも全く覚えていないんです。
斎藤:今は背は高いですよね? 何かスポーツはしていましたか。
阿部:中1で138、中2で142、中3で160になったんです。今は169センチで止まっています。減量は大丈夫。普通に食べています。
小学校の時に野球をしていたんですが、大腿骨を折る怪我をしてリハビリを続けていました。それから野球はやめたんです。運動というか、外で遊ぶのは好きでしたね。進路を考える時期になって騎手をすすめられましたが、JRAの試験は終わっていたので、地方もあると聞いて受けました。それまで馬には乗ったことがなかったんです。試験の前に馬に乗りに行ってみたのですが、高くて落ちそうになりました。こんなんでいいのか?と思いましたが、同期の騎手は乗馬の未経験者が多いんです。入学当時は経験者と未経験者は半々くらいでしたが。センターでは先生が、体形の似た外国人騎手の映像を見せてくれました。同じく背が高い、園田に行った鴨宮(祥行騎手)と一緒に見ていました。
斎藤:2010年に教養センターに入り、2011年3月に東日本大震災がありました。
阿部:センターのある場所が原発の影響で避難指示が出て、みんな実家に帰ったのですが、僕は実家と5日間連絡がとれなくて。家族が無事であることは、同期の家族がインターネットで調べていてくれてわかったのですが...。自宅は、家は残っているんですが、津波が浸水してもう住めない状態なんです。家族は秋田に避難しています。正月に帰りましたが、何も変わっていない。家もやっと取り壊しがはじまるそうです。2年も過ぎたのに、なんでかな、と思います。
センターの先生と相談して行き先を北海道に決め、前年の12月には角川厩舎に行くことが決まっていたので、震災後は門別競馬場に行くことにしました。馬場で乗るには許可証がいるんですが、もう調教師が用意していてくれたんです。ちょうど2歳が能検を前に乗り込んでいる時期。競馬場のおとなしい馬ばかりに乗っていたのに、はじめて若馬に乗りました。厩舎作業なども、厩務員さんに教えてもらいながらすすめて、やっと1週間すぎから要領がわかってきた。2週間でしたが勉強になりました。戻って学校で乗ったらすごく楽。その年の8月に再度実習でしたが、流れがわかっていたのでスムーズでした。道営は、騎手がみんなフレンドリーですね。
同期も、一旦実家に戻った後に所属競馬場に行ったんです。それまでは全体的にまとまりがなかったり、怒られてばかりでしたが、良くなりましたね。教官にも「変わったな」と言われました。
斎藤:そして昨年4月25日の開幕日にデビュー、次の日に初勝利でした。
阿部:初騎乗は、次のレースの準備が忙しいこともあって緊張はしなかったんですが、あっという間に終わりました。初勝利は、田中淳司先生に「気楽に乗ってこい」と言われたのがよかったです。ただ、オッズを見たら単勝1.5倍なんです(最終オッズは2.1倍)。(その時は)マジかー、って(笑)
斎藤:8月のリリーCで重賞初騎乗。エーデルワイス賞では2着、JRAでも騎乗しました。
阿部:重賞に乗ることは、前日に前夜版(出走表)を見て知ったんです。装鞍行って、ゼッケン見ると色が違うじゃないですか。名前入ってるし。テンションあがって、ブーツきれいにしてみたり(笑)。緊張はしないですね、むしろ楽しいです。
エーデルワイス賞は、この時は(馬場の)内が重かったので、ゴール前は真ん中に馬が集中していたんです。でも、それまで乗ってみて、内はそこまで重くないと思ったので、開いた内を行きました。
(JRAの)札幌競馬場は、人いっぺーいるわ...って。別世界です。ごつごつして、草原の中走っているみたいでしたね。楽しかった。映像で見ていた場所だし。
斎藤:騎乗で大事にしていることはありますか。
阿部:前の着順よりは上位に、ということは考えていました。大事にしているのは、馬に合わせること。初めて乗る馬は、もちろん今まで乗った人に話を聞いたりはしますが、返し馬で乗ってみないと実際わからない。その感覚と、聞いた話を照らし合わせます。周りには、「考えて乗れ」とよく言われています。
斎藤:勝負服はどのようにして決めましたか。
阿部:厩舎カラーの青とピンクを入れて、兄弟子(桑村騎手)から星をもらって、と、調教師がほとんど決めてくれました。
斎藤:桑村騎手とフォームが似ているように見えますね。桑村騎手は、体形が似ているからだと話していました。
阿部:初めて競馬場に行った時に、(桑村騎手の)真似をしました。実習の時もですね。それから吉田稔さんが門別に来て、かっこいいな、と思ったので真似しました。背格好は違うけれど、きれいな乗り方なので。また、自分のとレースを見比べて、稔さんとここが違うな、とチェックしたり、稔さんならどうの乗るかな、とイメージしたりするんです。形から入るタイプなんです。かっこいいな、と思った人や、レースによって、その場でいいな、と思ったら真似しますね。五十嵐さんや服部さんは逃げがうまいから、この逃げ方がいいな、と思ったら真似するし。
違う競馬場のレースが流れているときは見ますよ。御神本さんは背中がまっすぐだし、乗り方もきれい。戸崎さんが、「自分は人より追えないから馬に気持ちよく走らせる。無駄な力を使わない」と言っていたのを何かで読んで、それも参考にしています。
角川先生はうまいですね。先生が乗ったあとの馬は、乗りやすいんです。一緒に乗って、毎日見ているけど、先生はなかなか真似できないんです。
斎藤:今は2歳の馴致の時期ですね。大変ではないですか。
阿部:2歳は、自分のいいようにカスタマイズできる。大変ではないですよ。おとなしい馬が多いし。暴れる馬は、理由があるからやっているんです。ふざけているなら怒らないといけないし、かんしゃくなら理由を取り除いてやる。今年の角川厩舎の2歳も、期待馬が多いですよ。
斎藤:普段はどのようなことをしていますか? 趣味はなんでしょう。
阿部:ゲームが好きですが、今はまず、車の免許ですね。食べ物は、子どものころからビーフジャーキーが好きなんです。子どもの頃からイカソーメンとか食べてて。
斎藤:渋い!(笑)。では、今年の目標を教えてください。
阿部:怪我をしないこと、感謝の気持ちを忘れないこと、ひとつひとつ全力で乗ること、の3つですね。馬に乗ってからは怪我はしていませんが、子どものころ大けがをしてリハビリの大変さはわかっているんで、まずは怪我に気をつけたいです。
斎藤:具体的な数字とかはないのですね? 重賞制覇とか。
阿部:数字は、後々ついてくると思っています。
斎藤:最後に、ファンに一言お願いします。
阿部:何か面白いこと言った方いいですか。
斎藤:(笑)ノリいいんですね。
阿部:園田の鴨宮と仲がいいので、関西のノリが移ったんです。あいつは「やぁっ!」って切るまねをすると、ちゃんと倒れてくれます(笑)
そうですね...。自分は楽しいのが一番だと思っています。だから、ファンの方にも、競馬場に来て楽しんでほしいです。
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※インタビュー / 斎藤友香 (写真:斎藤友香、小久保巌義)